ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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一応、AI使って出力された表現を自分なりに改編して使ってることがたまにあるので『AI本文利用』のタグ入れときます。
※フルAIじゃないよ! 信じて【 ◎】b


【【計画を壊すもの】(ラーズグリーズ)】編 命名の章
129:神の一手(ニーズホッグ)


 はてさて。患者のために地獄へ落ち、様々な経験を糧に変な方向へとワープ進化さながらの成長を果たしたアクスは、『ついでに』とブラック上司(フェルズ)の任務であるダンジョンで起こった異常事態の収束に連れていかれた。

 中層や下層域に住むモンスターの数や挙動。そして、問題視していたアンフィス・バエナの再出現が無いことを数日掛けて観察した後、ようやく祈祷の間へとたどり着いたアクスとフェルズは数柱の神と数人の冒険者に出迎えられた。

 

「あの、なんでここに集まってるんですか?」

 

「定例会というやつや。うちらも色々あるからな」

 

 この部屋の主人であるウラノスを筆頭に、ロキ、ヘファイストス、ヘルメス、ディアンケヒト、フレイヤと定例会というには豪華すぎる神々が揃っており、さらにはヘファイストスとディアンケヒト以外の神は派閥の団長を連れてきている。

 

「まぁ、まずはステイタス更新だ。背中を見せろ」

 

 未だ混乱中のアクスに彼の後ろに居たディアンケヒトがステイタス更新をしようと己の指に針を刺し、その光景を他の神々が後ろから観察する。その眼差しはもはやガン見レベルなのだが、この場に居る神々にはアクスのステイタスを見せているために誰もマナー違反ということを指摘しなかった。

 

 しかしながら、錚々たる面子に見られるのは流石のアクスも居心地が悪かった。

 さらには『定例会』に参加する程、自分は実力者ではないという考えたあったのだろう。ついつい、マイナス思考寄りの言葉を紡いでしまう。

 

「定例会ですよね? この場に僕、いらないような」

 

「あなたが無事であることを確認する場でもあるのよ?」

 

「ディアンケヒト。この子、もうちょっとどうにかならん?」

 

「筋金入りじゃからなぁ。そもそもアクスがこんな性格でなければ、早々にアミッドは団長業を休業しとるわ」

 

 相変わらず他者から心配されていることなど全くもって考えていないような言い回しに、全員漏れなく呆れ果てたような表情を浮かべる。

 仮に……億に1つといった割合で、アクスがもう少し他者の考えや好意などに素直になっていれば、『【ディアンケヒト・ファミリア】の末っ子』から『【ディアンケヒト・ファミリア】の団長』へとなっていただろう。そして、アミッドが本格的に後方へと回り、団員たちが狂喜乱舞しながら世話を焼いていただろう。

 

 だが、そうはならなかった。ならなかったから、こんなことになっている。

 つくづく難儀な性格になったものだと気疲れを多分に含んだ息を吐き出していたディアンケヒトだが、ふとステイタス更新の手が止まる。

 その目は、聞かん坊の息子に呆れる目から到底信じられない物を見るかのような物へと変わっていた。

 

「ディアンケヒト、どないしたんや? まさか、トータル100とかいっとったんか?」

 

「……ひゃ……だ」

 

「は?」

 

「トータル400弱。アクス、どこでなにをやっておった?」

 

 そんな疑問を口から出した彼の相貌には、このような数字が並んでいた。

 

【力】 :I 0 → I 17

【耐久】:I 0 → I 26

【器用】;I 0 → H 119

【敏捷】:I 0 → I 81

【魔力】:I 0 → H 163

【魔導】:I → H 【精癒】:I

 

 アクスがランクアップして数日。それなのにとんでもない上昇値を叩き出した彼に周囲がどよめくが、ディアンケヒトがアクスの背中を見せたことで全員が押し黙った。

 ダンジョンという閉鎖空間であっても、安全な場所に匿われている。ディアンケヒトはそう思っていたが、どうやら違うらしい。

 少なくともこ(・)れ(・)だ(・)け(・)の(・)上(・)昇(・)を(・)す(・)る(・)ぐ(・)ら(・)い(・)の(・)修(・)羅(・)場(・)にアクスが身を置いていた。その事実が、ディアンケヒトの口からウラノスを批判する言葉を紡がせる。

 

「ウラノス。貴様、アクスをどこに連れて行った」

 

「……深層だ。訳あってアクス・フローレンスにとある冒険者の救助を手伝ってもらっていた。事後承諾の形になった、すまない」

 

 隠し通せないと察したのか、それとも隠す気はないのか。ウラノスは素直に頭を下げる。

 しかし、さらっと『深層』という地獄にアクスを突き落としたという彼の説明にディアンケヒトが唇を強く噛み締めるが、アクスが『自分が志願した』と伝えてきた。

 

「ディアンケヒト様、ウラノス様は悪くないよ。僕が自分で選んだから」

 

「……覚悟の上だったのか?」

 

「うん」

 

 もしかしたら、アクスが深層に行かずとも良かったかもしれない。外部に応援を頼むなど、他に手立てがあったかもしれない。

 しかしながら、アクスは『全知』でもなければ『時間を司る神』でもない。限られた時間で悩んだ末に出したのが同行だった。それだけだ。

 

 尋ね返すディアンケヒトの目をしっかりと見るアクス。進むべき道を既に定めたような──齢(・)1(・)2(・)歳(・)に(・)は(・)早(・)す(・)ぎ(・)る(・)眼差しを前に、ディアンケヒトは何かを言おうとした口を即座に閉じる。

 10年早い。まだ子供。いつからそんな覚悟を持った。様々な言葉で叱るのは簡単だが、アクスの目が──『前』を見据えた勇気を旗頭とした一族(パルゥム)の目が──ディアンケヒトの口を不可視の針と糸で縫い留める。

 

「あんなに小さかったのにな」

 

「パルゥムに背の話は禁句ってフィンさんが言ってたよ」

 

「アクス、ちょっと空気を読んで欲しいな」

 

「【勇者】(ブレイバー)、アミッドではないのだがな。今からアクスに接近禁止命令を出しても良いか?」

 

「あくまでも雑談の範疇だから許してくれないかな?」

 

 悠久の時を生きる神々だからこそ、『子供が成長する時間』というものはかけがえのないほどに尊い時間である。それを噛み締めようとしていたところに、当の本人が水を差した。

 しかも、流れ弾が自分のところに飛んできた。そのため、ロキの横で突っ立っていたフィン目掛けてディアンケヒトがものすごい形相で睨んで来るものの、それを極力見ないようにしながら彼は自身の無実を主張する。

 

 しかし、接近禁止云々は流石に冗談だとしても、アクスはすぐさま他者の真似をしたがる子供である。なので、教え込む内容は今一度考えるように苦言を呈したディアンケヒトは、『これぐらいにしておこう』と咳払いをすることで無理矢理空気を変えた。

 

「他にもスキルが1つ生えた」

 

「あら、たしか今って【勇者】(ブレイバー)の5個が最高記録よね? 新記録になるのかしら?」

 

「ファイたん、それはないわ。"あれ"はスキルやなくて呪いっちゅーんや」

 

「そうね、魂が汚れるほどに神由来の物を浴びたことで変質した呪い……というべきね」

 

 ヘファイストスの意見にロキとフレイヤが揃ってアクスに発現した『あれ』──【死神の祝福】(ペイルライダー)について忌避感を露わにする。

 

 たしかに【死神の祝福】(ペイルライダー)はスキルとして発現しているためにスキルの保有数に数えられるのだが、スキルには発現者のアビリティの強化や魔法の強化といった『良いスキル』もあれば、病がスキルとして発現するような『悪いスキル』もある。

 この悪いスキルのひねくれているところは、いかに発現者の能力が下げられようが、『スキル』であるために治(・)療(・)が(・)出(・)来(・)な(・)い(・)ところである。そのため、妥協案としてアイテムを使ってス(・)キ(・)ル(・)で(・)弱(・)体(・)化(・)す(・)る(・)割(・)合(・)を(・)緩(・)和(・)す(・)る(・)ぐらいしか打つ手がないのだ。

 

 さて、そうなると今回の【死神の祝福】(ペイルライダー)はどっちになるのか。様々な良い面もあるが、そんなメリットは神々にとって宝ともいえる子供の寿命を奪い取る所業だけでも一気にデメリット側に振り切れ、『呪い判定』となるのは当然のことだった。

 

「ウラノス。【死神の祝福】(ペイルライダー)は蘇生魔法と同じく、秘匿事項にしておいて欲しい」

 

「あぁ、アクスのスキルは"5つ"とする。これで構わないな」

 

 ディアンケヒトも同じ意見だったからか、公式の上でアクスのスキル総保持数はフィンと同数と処理される。これで『保持数の調整』という若干面倒くさい談合を行った神々が、ようやくどんなスキルが生えて来たのか興味を持ちだした。

 

「んで、どんなスキル生えたん?」

 

「ちょいと待て。名前は【光の御子】(フィン・マック・ア・ルーイン)、長い名だな。効果は……、一定以上の叫喚時に戦意の高揚と味方の魔法やアビリティを高強化。逆境や乱戦時には、さらに強化されるとあるな」

 

「フィン、自分の名前ついとるけど?」

 

「ロキも知っているだろ? 僕たちの言葉でフィンは"光"って意味だから、そっち方面かな。それとマック・ア・ルーインは2代目フィアナが王から賜った名だよ」

 

 フィンが即座にフィアナ騎士団の伝説から欲しい情報をピックアップして説明する一方、フレイヤについてきたオッタルはスキルの効果について興味を持ちだす。

 どのような発動条件なのか。どのように強化されるのか。なまじ、治癒魔法に付随する強化という『蜜』を知ってしまった彼がアクスに聞くと、あまり実感がわかないのか『オッタルさん頑張れー』と適当に声援を送った。

 

「むぅ……っ!」

 

「強化されたで良いのかな? それにしても、【猛者】が強化なんてそれなんて無理ゲ?」

 

「ヘルメス、うちのオッタルを化け物みたいに言わないでくれる? それで、オッタル。どういった感じかしら?」

 

 言わんとすることは分かるが、不躾すぎる物言いをするヘルメスに睨みつけつつ、フレイヤは強化の具合を緑色の光に全身が包み込まれたオッタルに尋ねる。

 その結果、強化の度合いは治癒魔法に付随した強化よりも秀でているらしく、戦意の高揚についても女(・)神(・)の(・)護(・)衛(・)を(・)ほ(・)っ(・)ぽ(・)り(・)出(・)し(・)て(・)今すぐ本拠(ホーム)鍛錬がしたいほどに高まっていることを告げた。

 

「完全に【ロキ・ファミリア】(うちら)向きやなぁ」

 

「ロキ、しばらくアクスから距離を離して欲しい」

 

「待ってぇな! フィン、謝るんや! 何がどう悪いんか知らんけど、謝るんや!」

 

「えぇ……」

 

 純正な治療師(ヒーラー)になると予想していたのに、どこでどう間違ったのか指揮官兼治療師(ヒーラー)のような存在が出来てしまった。それもこれも【ロキ・ファミリア】って奴が諸悪の根源だ──と、ディアンケヒトが今後の付き合い方を見直そうとし、それに対してロキは慌てたようにフィンへ謝罪を指示する。

 

「ひとまず、アクス。あなたは深層で何をしていたの?」

 

「おぉ、そうだ。誰を救助しておった?」

 

 しかしながら、そんな茶(・)番(・)には付き合っていられないとヘファイストスがアクスに対してどんなことをしていたのかを尋ねる。

 ディアンケヒトも救助対象について聞くと、彼は『治療院に来るかもしれないので』と救助対象の説明を始めた。

 

「救助対象はベル・クラネル。および【ヘスティア・ファミリア】、【タケミカヅチ・ファミリア】、【ミアハ・ファミリア】で構成された派閥連合です。あ、これヘスティア様とヴェルフさんに内緒でお願いします。鎧(これ)で正体隠してたんで」

 

 鎧の変装機能を使いつつ、アクスは時系列に沿った説明へと切り替える。

 幻影だけで下層へ赴き、アンフィス・バエナに襲われていた【ヘスティア・ファミリア】を始めとした派閥連合を助けた後、モンスターの集団に追い詰められたところをそれとなく救出。その間に異端児(ゼノス)たちと共に下層へ降り、本格的に派閥連合と合流してから【フレイヤ・ファミリア】と報連相を交わしながら37階層の白宮殿(ホワイトパレス)まで進み、ベル・クラネルともう1人の遭難者を救助。そのまま応急処置を施しながら上へ上がる際、他の冒険者が安全階層にて屯していたために一足先に戻ってきた──と説明すると、それぞれが口々に語り出した。

 

「神ウラノス、アンフィス・バエナはまだインターバル中では?」

 

「異常事態だ、【万能者】(ペルセウス)」

 

「だから、魔力がこんなに上がってたのね」

 

「ディアンケヒト、眷属の救助っていくらだったかしら?」

 

「今回、儂は指示をしておらんから管轄外じゃ。アクスに尋ねろ」

 

 アクスの報告に軒並み騒がしくなる。それだけ彼の行った『冒険』が過酷で、なおかつ実りがあったものだという証左なのだが、依然としてディアンケヒトの表情は渋い。

 それほどまでにアクスのことを心配している反面、言ってもまともに聞かないことを憂いているかのような、何とも言えない表情。哀れさえ思えるほどに葛藤するディアンケヒトに神々は声を掛けるのすらも憚った。

 

「神ディアンケヒト、次の話題に入ろう」

 

「そうじゃな。すまなかった」

 

 兵は神速を貴ぶ……とはちょっと違うが、いつまでも感傷的になって時間を浪費するわけにはいかないとフィンが仕切り出す。

 彼から報告された内容は大まかに分けて2つ。1つは【フレイヤ・ファミリア】が今回の騒動のみという条件で、協力体制を敷いたこと。もう1つはクノッソスを埋め尽くした緑肉の除去が順調であることである。

 

「フレイヤ様、どういう風の吹き回しだい?」

 

「そうねぇ……。あなたの薄っぺらい誘い文句よりも私の琴線に触れたからかしら? それに、共闘するだけで仲良しこよしで進軍しないわよ? 自分の子供たち最優先って【勇者】(ブレイバー)とは話をつけてあるし」

 

 そう言いながらオッタル──に持ち上げられている最中のアクスに目を向けるフレイヤ。その様子だけでも先(・)ほ(・)ど(・)の(・)話(・)だ(・)け(・)で(・)は(・)な(・)い(・)理(・)由(・)も(・)あ(・)る(・)ことは薄々ながら感じたヘルメスだったが、後が怖いので話題を変える。

 

「そ、そうだ。【勇者】(ブレイバー)、デメテルは予定通り、貯蔵庫に入ったよ!」

 

「エニュオに気取られた気配は?」

 

「無いかと。うちの副団長が近くから、私が望遠のマジックアイテムで確認しましたが、襲撃されたりといったことはありませんでした」

 

 アスフィや副団長であるファルガーの能力は疑いようがないし、彼女たちは暗黒期に闇派閥(イヴィルス)と敵対している。例(・)の(・)1(・)件(・)で(・)信用はまだ早いものの、信頼は出来ると踏んだフィンは作戦が順調そうなことに小さく頷く。

 

(つくづく、事前に神デメテルに確認を取れて良かった。疑心暗鬼で余計な時間を食われるところだった)

 

 デメテルがオラリオから消えた今、こちらもだが相手も安易に団員たちを殺すなどといった干渉もできない。この段階でデメテルに造反の疑いがあると分かった場合、おそらくもっと場が混乱していたことだろう。

 

 そんな悪い予想(げんさく)に身震いしていたフィンだったが、ふとこ(・)の(・)面(・)子(・)を(・)相(・)手(・)に(・)情(・)報(・)を(・)収(・)集(・)し(・)た(・)い(・)と(・)い(・)う(・)欲(・)が出てきた。

 

「アクス。それと、【万能者】(ペルセウス)たちも。ちょっと見て欲しい物があるんだ」

 

 そう言ってフィンは懐からレフィーヤが見たという壁画の写本を取り出す。ファミリア以外に見せることを禁じたのは紛れもなく彼なのだが、ここに居るのはエニュオをはじめとした一連の事情をよく知る者ばかりである。

 オッタルに限っては……。無暗に情報を話さないだろうという謎の説得力に満ちているため、例外で良いだろう。

 

「【勇者】(ブレイバー)。これは?」

 

「うちの団員がクノッソスで見つけた壁画だ。実を言うと、相手がこれから何をしてくるのかが分からなくてね。最後の手がかりがこれなんだ」

 

「俺にそれを解読しろと?」

 

 興味深げにのぞき込むアスフィに対し、オッタルはいかにも不満そうにフィンを睨む。彼の武人ぶりから全く役に立たないだろうが、『それでも猪の手も借りたい』ぐらいに状況は切羽詰まっている。

 なので、『オラリオが滅ぼされるかもしれないんだ』と少し前にベートが報告してきた【白髪鬼】(ヴェンデッタ)オリヴァス・アクトの言葉を流用した。

 

「オラリオの一部か全体かは分からないけど、神フレイヤも巻き込まれる可能性があると思うよ?」

 

「……分かった。付き合おう」

 

『女神の危機』でようやく重い腰を上げたオッタル。しかしながら、やはりオッタルと言うべきか。数秒悩んだ末に『分からん』と匙を投げだしてしまう。

 アスフィも逐一、『この周りの人は女性?』や『生贄……。もしくはそれに準ずる存在ですかね?』と疑問を持ちながらフィンと議論を重ねていく。フィンも中央の竜と思わしき絵は『ニーズホッグ』と呼ばれていたことを明かすが、残念ながらとある海洋国家出身のアスフィでもそのおとぎ話は知らなかった。

 

「すみません、力になれず」

 

「いや、構わないよ。僕たちも分からなくて、地精霊(ノーム)の大図書館にも人をやってるところだから……ってアクス。どうしたんだい?」

 

 冒険者たちがあーでもない、こーでもないと言っていたら、もしかしたらヘファイストス辺りが話に紛れ込んでくるかもしれないと期待していたが、どうやらそう上手くは行かないようだ。

 すると、今まで黙っていたアクスがフィンの服の裾を引いてくる。何か言いたいことがあるのかと尋ねてみると、彼はむーむー唸りつつもなんとか言葉を紡ぐ。

 

「うまく言語化に出来ない……です」

 

「良いよ、ゆっくり言ってごらん」

 

 アクスは今まで様々なことについて気付いてきた実績がある。なので、割かし期待感を持っていたのだが……。

 

「"オラリオが滅ぶことって出来ます?"」

 

「ん?」

 

「いえ、ですから……。さっきフィンさんが言ってたじゃないですか、"オラリオが滅ぶかもしれない"って。それってありえるのかなって」

 

 壁画とは全く関係ないことについて尋ねてくるアクスに、フィンは内心『子供には難しかったかぁ』と後悔する。

 されど、ここで話を切り上げるのも彼に対して失礼である。そのため、フィンは続きを促した。

 そうして続きを話すことを許可されたアクスがたどたどしく自身の考えを述べると、その着眼点について次第にフィンは目を見開くこととなる。

 

 アクスの考えは、『いかにして滅(・)ぶ(・)と定義するのか』だった。

 大前提の話となるが、オラリオは神が降臨する遥か前の時代。モンスターが湧き出す大穴に蓋をする形で建造された都市である。ゆえにその蓋の役割を果たすバベルが壊された場合、昔と同じく未曽有の危機に直面すると言われている。

 だからこそ、7年前の大抗争において【暴食】と呼ばれる【ゼウス・ファミリア】の冒険者がバベルの破壊に向かい、オッタルとの死闘の末に敗れた。

 

 そう考えると『バベルの崩壊 = オラリオの破滅』となるが、果(・)た(・)し(・)て(・)そ(・)う(・)な(・)の(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)。

 

「ウラノス様、バベルが破壊された時に祈祷で大穴に結界を張ることは可能ですか?」

 

「そうなると話すこともままならなくなると思うが、可能だな。ただ、中層以降のモンスターや階層主と呼ばれる存在は完全には封じ込められん」

 

「なら、階層主や厄介なモンスターを冒険者が駆逐した場合は?」

 

「なんとか出来よう」

 

 質問の応酬に、初めこそフィンは何を確認しているのか分からなかったものの、次第に理解が追い付いて来る。

 

 そう、『バベルの崩壊 = オラリオの破滅』の図式は成り立たないのだ。

 

 バベルが崩壊しても、この街には大勢の冒険者が居る。恐れをなして逃げ出す者も居るだろうが、主神が送還されてしまえば死にやすい一般人に戻ってしまうため、戦う以外に道はない。

 

 先ほど、上層のならばウラノスの結界で対処が可能と断言され、アクスがそ(・)れ(・)以(・)外(・)を(・)冒(・)険(・)者(・)が(・)討(・)伐(・)し(・)た(・)場(・)合(・)のことを提示した。それらを加味すると、冒険者が中層以降のモンスターを討伐など物理的に封じ込め、ウラノスが結界でモンスターを外に逃がさないように封じ込めている間に建築系ファミリアの主神や眷属たちが急ピッチで蓋を作れば、対処は可能ではないだろうか。

 もちろん、崩壊した際の混乱や諸々で犠牲は出る。それでも、『破滅』というには聊か表現が誇大過ぎる。

 

(言ったのは闇派閥(イヴィルス)の構成員。誇張していったかもしれないけど……)

 

 闇派閥(イヴィルス)の妄想する絵空事と一笑に付すのは簡単だが、オリヴァスは闇派閥(イヴィルス)の主要幹部の1人で27階層の悪夢を引き起こした存在。なにより、親(・)指(・)が(・)少(・)し(・)ば(・)か(・)り(・)疼(・)い(・)て(・)い(・)る(・)。

 長年連れ添った親指を信用したフィンは、アクスに『自分が考える最悪のシナリオは何か』を問うた。

 

 フィン自身も難しい質問をしているのは分かっている。アクスが首を傾げれば、先ほどのように『難しい質問だったね、ごめんよ』と優しく慰めることも視野に入れていた。

 ただ──、『洞察』と『考察』という勇者の教えと『憶測だけで物を言ってはいけない』という医神の教えを正しく理解していたアクスは、フィンの予想の斜め上の答えを出した。

 

「大穴でモンスターを食い止められる戦力……。上級冒険者の全滅が最悪だと思います。出来るかどうかは置いておくとして、"出来てしまったら"中層以降のモンスターを止める手立てがありません」

 

『出来るわけがない』と言うのがフィンが最初に感じた反応だった。ただ、続けてアクスが言った『出来てしまったら』という言葉に、彼は初めて盤上を挟んだ先に居るエニュオの顔を拝めた気がした。

 卵のように起伏の無い顔だったが、こちらの様子を窺うような仕草。おそらくは『これ』も計画に入っているのだろう。未だに疼き続けている親指が良い証拠だ。

 

 ただ、な(・)に(・)が(・)ど(・)う(・)や(・)っ(・)て(・)上(・)級(・)冒(・)険(・)者(・)を(・)根(・)絶(・)や(・)し(・)に(・)出(・)来(・)る(・)の(・)か(・)といった『手段』は未だ明確にはなっていない。

 そもそも、上級冒険者といってもLV2からLV7とピンからキリまで居る。特にLV5以上の第1級冒険者は耐久力が乏しいパルゥムのフィンであっても生死の境を彷徨っては現世に戻ってくるぐらいには死ににくく、ドワーフのガレスに至っては全身を貫かれても平気なほどに頑丈である。

 オッタルなんか、何をどうすれば殺せるのだろうか。フィンの脳裏に一瞬、数十年前に味わった『福音(ゴスペル)パンチ』が過ぎったが、彼女はもう天に還っている。流石に還ってるよね? 

 

「フィン、どないしたんや? 風邪か?」

 

「いや、苦手な相手を思い出しただけだよ。……ハハッ、やっぱり若い子の考えは良いな」

 

 危うく壁画(ニーズホッグ)だけに集中するところだった。相手は神であるため、人類では考えつかないような手段──切り札の1つや2つあることが普通だと考えておかねばならない。

 つくづく、フィンの意識外から絶妙に入れ知恵をしてくれる小型犬だが、残念ながら『ニーズホッグ』もアクスの懸念していた『冒険者を殺戮する手法』も分からず仕舞い。されども、戦(・)略(・)的(・)な(・)敗(・)北(・)の(・)内(・)容(・)が大きく更新されたことはとてつもなく大きかった。

 

「【勇者】(ブレイバー)、本当に変わったわね。ロキ」

 

「うちの団長様やからな。けど、やらんで~」

 

「あら、うちのオッタルもすごいのよ? ……たまに予備の武器を全部壊すけど」

 

「流石にそれは注意しぃな」

 

 フィンの精神的な変化について満足げな表情で頷くロキ。それに張り合うようにフレイヤも自身の派閥の団長を褒めようとするが、具体的にどうすごいのかも言えなかった。

 それどころか、つい先日のやり取りを思い出した彼女の視線が祈祷の間の天井の方向を向いていたとか何とか。

 

 なにはともあれ、これにて定例会は終了。後はそれぞれ祈祷の間から出て行くのかと思いきや、ヘルメスが勢いよく挙手をする。

 

「じゃあ、アクス君の任命式を始めるとしようか!」

 

「よっしゃぁ! やるでぇ!」

 

「腕が鳴るわね」

 

「無難に……ね」

 

「良いか、絶対に変な名前を付けるでないぞ!」

 

 どうやら、本格的な宴はこれからのようだ。




ネタバレ:【【計画を壊すもの】(ラーズグリーズ)】か、名前が増えたな。アクス
ディアンケヒト、ハンドラー・ウォルター概念。あると思います。

ここで命名式をした理由については次回だが、ざっくりいうと『適当に決めて面白がれないほど、ロキたちにとってクリティカルな成果を引っ張ってきている』ため。
しっかり評価されるべき人物なのに、何も知らない奴が好き勝手に処遇決めたらムカつくあれです。

アクス
 深層行きにて、上昇幅が400弱。加えてスキルも1つ生えたなんか変なの。
 『患者』という集中できるものが無くなり、ちょっと精神的に不安定気味。
 上昇幅についてはLV4になったレフィーヤが2週間ちょっとで上昇したアビリティ(1000ちょっと)を参考にしました。

【光の御子】(フィン・マック・ア・ルーイン)
 一定以上の叫喚時に戦意の高揚および味方の魔法とアビリティを高強化。
 逆境や乱戦時に、さらに強化補正。
 対象もアクス次第なので、早い話『がんばえー』したら強化される。
 元ネタはディアンケヒトのひ孫であるクー・フーリンの異名とナイツ・オブ・フィアナのコーマック王が2代目フィアナに授けた名前。
 自害しそう? 蘇生のために寿命使うんだから自害みたいなものでしょ。

ニーズホッグ
 本来はファミリアのみの秘匿とされていたが、どこかのお散歩大好きパルゥムのせいで原作ブレイクを起こした。エニュオさんは泣いて良い。
 加えて、ちょっとの違和感も見逃さない嗅覚や生まれと育ちがオラリオであるがゆえの考察により、『切り札』がちょっとだけ露見した。やっぱり、エニュオさんは泣いて良い。
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