ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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ちょっと暴力的というか、R元服スレスレなお話です


131:後追い

 メインストリートに沿った好立地に加え、白い外壁に大きな窓や磨かれた真鍮の取っ手といったなんとも調和がとれた1件のカフェ。中へ入ってもその調和は健在で、深い色合いの木材と白磁の食器、壁際に飾られた花々が品良く出迎えてくれ、身なりの良い商人や冒険者が談笑しながら香り高い茶と菓子を楽しんでいる高級サロンのような雰囲気を醸し出していた。

 

 ──のだが。

 

「……ねえ。大丈夫?」

 

「……」

 

「駄目みたいですね~。あ、店員さーん。ここからここまでくださ~い」

 

 店の一番奥。大きな柱と壁に挟まれた、店内でもっとも人の視線が届きにくい角席だけ空気が死んでいた。

 俯いた状態で固まるアミッドに見かねたナァーザが珍しく声をかけたものの、彼女からの返事はない。ヘイズはヘイズで今のアミッドに何を言っても答えないだろうと雰囲気的に察したのか、店員を呼んで好き放題注文し出していた。

 

 しかし、本当に大変なのは店員である。

 周辺の空気が鉛に変じたと錯覚するほどに重苦しい雰囲気を放つ聖女(アミッド)。居た堪れない表情を浮かべる犬人(ナァーザ)。そんな空気など知ったことかと振舞う危険人物(ヘイズ)。

 3人のうち2人は超有名人なので込み入った話なのは理解できたが、彼女たちの関連性が一向に見えない。それに、何と言っても一向に喋ることも表情を変えることもないアミッドが不気味で仕方なかった。

 

 噛みつつも注文を復唱した店員が足早に去ってしまい、それに釣られて近くで座っていた客もそれとなく席を移動し始める。数分もしない内に周囲がすっかり人気が無くなってしまったが、ヘイズは特に悪びれもせずに『これで話せますね~』と本題を切り出した。

 

「それで、お姉様? バカ弟子……アクスは本当に死んだの?」

 

 ──コクリ。

 

「そっか、死んじゃったのね。あの子」

 

 ──コクリ。

 

 黙りつつも上下に振る首の動きに、ヘイズとナァーザは『やっぱり』と深い息をつく。

 アクスの行方不明は既にオラリオには知れ渡っていたが、その中でも情報収集を欠かさない勤勉な冒険者の中では『死亡説』がまことしやかに流れていた。

 

 それもそうだろう。毎日毎日飽きもせず、『エッホ、エッホ。患者を救わなきゃ』と往診に繰り出している小動物が、いきなり消えるのはいくらなんでも不自然すぎる。『飽きた』という子供特有の癇癪も、『アクスに限ってそれはない』というのがオラリオ全体の認識である。

 だからこそ、彼女たちも真偽を確かめるために遠目で様子を窺ったり、借金の返済や物資の買い出しといった用事で実際に治療院に入ったりと確認してみたが、その噂は本当のようだと推(・)測(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 ただ、それでも推測に留まらない。

 もしかすると、生きてはいるが重体、反応しない半死人(しょくぶつにんげん)などなど。推測(いいわけ)は数えきれないほど出てくるが、噂を聞くたびにヘイズやナァーザは気が気ではなかった。

 

 しかし、これで『最悪の事態』だとはっきりした。

 アクスは死んだ。もはや出会うことも、気を使われることも、作業を手伝ってくれることもない。その事実が深く胸に突き刺さるが、それでも彼女たちは目の前の聖女よりも冒(・)険(・)者(・)ら(・)し(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

「冒険者って言うのはそういうものだからねぇ。あーあ、こんなことなら無理矢理にでも改宗(コンバージョン)させとけば良かった」

 

「そうね。あの子、たまに"お姉ちゃん"って言って来るのよね。隙を見て引き込むことが出来てたら、今頃──」

 

『は?』

 

 口々にアクスを『過ぎたこと』のように語り出したものの、ナァーザの言葉にヘイズ。そして、今まで不動を貫いていたアミッドまでも焦点が定まり切っていない瞳でナァーザを見やる。

 

 ヘイズは良い。常日頃からアクスへ改宗(コンバージョン)を誘っており、その油断ならなさはアミッドも知るところ。むしろ、同好の士でさえあるために聞き流すことが出来た。

 しかしながら、ナァーザは全くもっての不意打ちだった。

 どこでそんなに接点が出来たのだろうか。借金の徴収に行かせ過ぎたのが問題なのか。おのれ、エリスイス──と脳裏に過った以(・)前(・)の(・)悪(・)夢(・)が駆け巡ったことにより、アミッドは傷心気味ながらもジェラシーを抱く。

 

 それでも、見られた方(ナァーザ)としては、今の状況は御免被りたかった。

 片や自分よりはるかに格上。片やダ(・)ン(・)ジ(・)ョ(・)ン(・)に(・)潜(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)ゆえ、アビリティとしては少し上。そんなやつらに睨まれれば、少しばかり恐怖心が芽生えるというもの。

 なればこそ、弁明に力が入る。やたらと『聞き間違い』であることを強調したからか、それとも途中でやって来た店員が怯えたからか。理由ははっきりせずともヘイズがニコニコ顔でパンケーキを頬張り、アミッドが両手でカップを包み込んだまま再び俯く。

 

 再び状況が戻ったことに安堵を覚えたナァーザは、ようやくアミッドに言葉を投げかけることが出来た。

 

「酷い言い方なのは自覚してるけど、せいぜい団員が1人死んだだけでしょ? 根暗がさらに根暗になったら世話もないわよ」

 

「そうですよ。特別優秀なのは分かりますけど、"冒険者だから仕方がない"。暗黒期に居たお姉様なら承知していると思ってたんですけどねぇ?」

 

 ナァーザとヘイズは7年前。秩序が崩壊し、血が血を洗う史上最悪の抗争があった時代を経験している。そのため、『冒険者はいつしか死ぬ』というある種の諦めのような耐性がついてしまっていた。

 ただ、アミッドもその時代を経験している。いくらアクスが優秀で可愛い末っ子であろうとも、このように暗くなってしまうほど腑(・)抜(・)け(・)て(・)い(・)る(・)とは考えづらかった。

 

 だからこそ何があったと、彼女たちは聞く。すると、少しばかり唇を噛み締めたアミッドは、小さく何かを呟いた。

 

「その……、……を……しまいました」

 

「は?」

 

「アクスを……いました」

 

「お姉様、もうちょっと大きく」

 

「好きに……なってしまい……ました」

 

 何度も聞き返したヘイズとナァーザの目が点になる。目の前の聖女は何を言ったのか、もしかしなくとも『アクスを好きになってしまった』というトチ狂ったことでも言ったのだろうか。

 そもそも、目の前に居るのは本当にアミッド・テアサナーレなのか。頬を高揚させ、少しだけ恥じらう明らかに『恋する年頃の乙女』になっている少女に、ナァーザはおそるおそる確認をとる。

 

「人形女。もしかしなくても、それは家族としてじゃなくて異性として?」

 

 ──コクリ。

 

「お姉様……いや、【戦場の聖女】(デア・セイント)? 好きってことは、愛してるってことですか?」

 

 ──コクリ。

 

 またしても2回の頷き。それだけでこれほどまでに落ち込んでいる理由が分かった2人は、改めて深いため息をつく。

 甘い物もあることなので、本当ならばここでいくつかの質問と言う名の弄りを行いながら恋バナ──女子会に洒落込みたい。ただ、現状をよく理解していたナァーザたちはその欲望をぐっと抑え込んだ。

 

「それなら仕方ないですねぇ。はぁ……、なるべくしてなったというべきか。とりあえず、ご愁傷様?」

 

「そもそも、アクスがあんたのことをどう思っているのかにもよるけどね」

 

「家族として好きと言われました……。自分よりもふさわしい人が居るとも……」

 

 内心、『振られてるんじゃね?』と思ったナァーザ。しかしながら、アクスの性格的に決して嫌いだからそう言っているのではないことは分かった。

 おそらく、恋や愛についてをよく知らないのだろう。なにせアクスは思春期にも入っているか分からない子供。これから話し合ってそれを深めて行こう──としていた矢先にこ(・)れ(・)である。

 横を向けば、ヘイズもまた目元を抑えながら『あ、私でもちょっとキツい』と悲痛そうな声で呟く。しかし、同時に懐から1つの小瓶を取り出しながらアミッドの名を呼んだ。

 

「お姉様。【フレイヤ・ファミリア】式で良ければ、その心の傷を埋める手段がありますよ?」

 

「【フレイヤ・ファミリア】式?」

 

 嫌な予感しかしない。いつものアミッドであれば、声を大にしながら拒否していたであろう。

 されど、度重なるブラック労働に加えて愛するものの死亡ですっかり心が摩耗しきっていたアミッドは、ついつい悪魔(ヘイズ)に方法を尋ねてしまう。

 

「簡単なことですよ、"死ねばいいんです"」

 

「【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)、あなた何を言っているのか分かってるの?」

 

「分かってますよ~。だから、【フレイヤ・ファミリア】式って言ってるじゃないですか」

 

 勢いよく席から立ち上がったナァーザを落ち着かせつつ、ヘイズは至極当然のように自身の──【フレイヤ・ファミリア】の狂気を曝け出す。

 

 【フレイヤ・ファミリア】の眷属たちは、彼女に絶対の忠誠や尊崇。愛といった様々なものを捧げている狂信者たちだ。

 その忠誠心は、もしも彼女の白魚すらも裸足で逃げだすほど美しい肌に傷がつこうものなら自らを大罪人と罵った挙句、同じ場所に同(・)等(・)以(・)上(・)の傷を作って自分たちを罰する程である。

 

 仮にそれが……、送(・)還(・)さ(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)際(・)は(・)ど(・)う(・)な(・)る(・)か(・)。決まっている、『後を追う』のだ。

 

「愛する人が天界に帰るのに、供回りが居ないんじゃ寂しいでしょ? だから、死ぬの。ただ、死ぬんじゃなくて、ついていくのが正解ね」

 

「は、はぁ……。まぁ、それは良いんだけどさ。それ、なに?」

 

 すっかり狂気に染まった瞳に気圧されたナァーザが話題を変えるために小瓶を指差すと、ヘイズはこれまた当然とばかりに『毒薬ですよ?』と答えた。

 

 曰く、【フレイヤ・ファミリア】の薬師(ハーバリスト)が毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の激毒をベースに、中層から深層までの厄介な毒を持つモンスターのドロップアイテムを独自のブレンドで調合した特別製らしい。その効能は嫌がらせ目的で飲ませたオッタルが、その場で蹲ってしばらく動けないほどなのだとか。

 それほどまでに強い毒を自身の派閥の団長になぜ飲ませたかはさておくとして……。そんな毒薬を服用すれば、如何にアミッドであろうとも激毒に蝕まれる。

 そして、ヘイズも処置をする気など毛頭ない。つまりは──『死』だ。

 

「どうします? 愛する人を追うか、愛する人が居なくなったこのオラリオで必死に生き足掻くか」

 

「私……は」

 

「"アミッド"、何をバカなっ……!」

 

「【医神の忠犬】(ミーヤル・ハウンド)、大人しくしてなさい。私は【戦場の聖女】(デア・セイント)と話をしているんですから」

 

 パンケーキを切り分けていたナイフをナァーザの首筋に宛がいながら脅すヘイズ。なにも言えなくなってしまった彼女に『良い子ですね~』と思っても無いことを言いつつ、視線をアミッドへ移した。

 

 本(・)当(・)に(・)ら(・)し(・)く(・)な(・)い(・)。目の前に居るのが【戦場の聖女】(デア・セイント)──オラリオ最高のヒーラーと称される冒険者であるならば、自身の提案など一笑に付すであろう。

 しかし、た(・)だ(・)の(・)ア(・)ミ(・)ッ(・)ド(・)であるのなら……。そんな思考を巡らせていたヘイズの手にアミッドの手が重なる。

 

「飲み……ます」

 

「ちょっ……」

 

「そうですかぁ。じゃあ、死んだらあなたの服を剥いてから広場に晒しますね~。"オラリオよりも愛する人を選びました"って吹聴するために」

 

『は?』

 

 思いがけない『後出し条件』に、流石のアミッドも陰鬱な表情から一変。顔面をリンゴのように朱色に染めながら自らの身体を描き抱く。ナァーザも同性ゆえに信じられないとヘイズに食って掛かるものの、彼女はまるで話が通じない相手と話しているかの如く肩を竦めながら持論を展開する。

 

「死んだら肉体のその後なんて関係ないですよね? それに、事実じゃないですか」

 

「それは……」

 

「だとしても、やりすぎって言ってるの!」

 

「それ、ダンジョンでも同じこと言えます?」

 

 真面目な表情をしながら呟いたヘイズの言葉に、ナァーザは続きを言えなくなる。

 ダンジョンで力尽きた冒険者の末路など、複(・)数(・)の(・)腹(・)に(・)納(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)か1(・)匹(・)の(・)腹(・)に(・)収(・)ま(・)る(・)か(・)の違いだけ。そこに尊厳も名誉もなく、ただただ無惨に咀嚼されて飲み下されるのみ。

 だとしても、ここはダンジョンではなく地上。その辺の考慮は入れなければならないというナァーザの文句を聞き流したヘイズは、未だ顔を赤らめながら明らかに迷っている素振りのアミッドの目の前に人差し指を突き出した。

 

「一応聞くけど、恥ずかしいですか?」

 

「は、はい」

 

 当たり前だ。誰が好き好んで死んだ後の遺体を弄ばれたがるのか。

 そんな思いを全身から発しながらおずおずと頷くアミッドに、ヘイズは少しばかり微笑む。

 

「なら、死んじゃ駄目です。死んだ後、どう思われるのか心配する"未練"がある内は死んじゃ駄目。それに、すぐにそっちに行ったらあの子に怒られるんじゃないですか?」

 

 その言葉にアミッドはハッと正気に戻る。今まで鉛色だった風景が一瞬で色彩を帯び、耳に水が入った時のようにくぐもっていた周囲の音が鮮明に聞こえだす。

 

 未練──そう、未練だ。

 アミッドは【ディアンケヒト・ファミリア】の団長である。それが一時の勘定で死を選び、そのまま派閥の名誉失墜を招くなど論外だ。

 それに、まだ彼女にはやるべきことがある。それを達成しない内は死んでも死にきれないし、このまま死ねばヘイズの言う通り、アクスに怒られかねない。

 

「ふふ、第一声は"コラー"ですかね?」

 

「いやいや、"死んじゃヤダー"よ。あのバカ弟子は。……どう? 死ねなくなりました?」

 

「えぇ、お陰様で」

 

 クスクスと笑い合う2人。そんな彼女たちについていけないナァーザは首を傾げていると、アミッドはナァーザに向けてお礼を言う。

 きっかけを作ったのはヘイズだが、寄り添ってくれたのはナァーザである。毒を渡された時も早まらないように声をかけてくれたのは彼女だったため、誠心誠意の礼を尽くすアミッドにナァーザはに槍をそこ意地が悪そうな笑みを作る。

 

「あの人形女が頭を下げた。……ふふ、次からこれで」

 

「お姉様、友達は選んだ方が良いんじゃないですかね」

 

『友達じゃない(ありません)』

 

 全く同じタイミングでの否定に、友達疑惑を深めたヘイズはおもむろに毒薬が入った瓶を紅茶に向かって傾ける。アミッドとナァーザが『あっ』と言う間に透明で粘性の高い液体が1滴ほどカップの中へ入り、そのままTスプーンでかき混ぜたヘイズが2人の制止も聞かずに紅茶を啜って満面の笑みを作った。

 

「ん~、やっぱり最高ですねぇ。"このシロップ"」

 

「シロ……ップ?」

 

「毒薬じゃないの?」

 

「いやいや、毒薬常備するなんてどこの危ない人ですか。常識的に考えてくださいよ」

 

『じょーしきてきにー』とお茶らけて言うヘイズにちょっとだけイラッとしたアミッドたち。それでも我慢しながら改めて瓶の中身を問うと、どうやら脳への急速な糖分補給を目的とした激甘シロップだったようだ。

 

「【猛者】がしばらく動けなかったって言ってたけど、あれは何なの?」

 

「そりゃ、こんな甘いの一気飲みしたらそうなりますよ」

 

『試しにどーぞ』と差し出された小瓶。ティースプーン1杯分の液体をおそるおそる口に含んだアミッドとナァーザは、その甘さに目を見開く。

 メープルシロップや凝縮したような甘さだが、砂糖のようなとんがった甘さでは決してない。どこか自然的な甘さに『紅茶に最適ですね』という感想を漏らすと、ヘイズはますます笑みを強くした。

 なんでも、中層に住む蜂型モンスターの巣のドロップアイテムや水晶飴(クリスタルドロップ)などといったダンジョン産の甘味料を集めてに出した物らしく、徹夜明けの気分転換に最高らしい。

 

「結構貴重なのに一気飲みしちゃうんですよね、あの人。でも、あの時のオッタル様。すっごい無様にのた打ち回ってすっきりしましたけどね」

 

「耐異常ってそういうの効かないんだ」

 

「毒みたいな異常じゃなくて味覚ですからね」

 

 思わぬところで発展アビリティの盲点を見つけた幸運を喜ぶべきか。それとも、ティースプーン1杯であれほど甘かったシロップを一気飲みしたオッタルの体調──主に血糖値スパイク的な意味の心配をするべきか。

 おそらく前者も後者も間違いだと判断したアミッドは、瀬戸際だった自身の気持ちを無理矢理整理してくれた2人に今一度礼を言う。ヘイズたちも元の調子には少々足りないが、危なっかしい状態から脱したと判断したのか──。

 

「アクスなんて神用語でいうアルティメットレア(UR)よ? これだから根暗聖女は」

 

「好きになったら即豊穣。冒険者なら当たり前ですよ?」

 

「意味が分かりません!」

 

 中々にハイレベルな弄りを開始し出した。

 その後は、『アクスのどこが好きになった』やら、『あー、分かるー』やらと比較的和気藹々としていたが、唐突にナァーザが話を蒸し返す。

 

「でも、あの子死んじゃったんでしょ? あんたを慰める気はないけど、次とかあるの?」

 

「【医神の忠犬】(ミーヤル・ハウンド)~、あのバカ弟子の代わりとかそう簡単に見つかるわけがないじゃないですか~。それはそうと、お姉様はどういった人が好みなんです? あの子みたいに小っちゃい子ですか?」

 

 内心『空気読めよ』と非難しつつも、ヘイズは空気を変えるためにアミッドへ好みを尋ねる。すると、『小っちゃい子』という変態スレスレワードに少々難色を示した彼女だったが、素直に答えだした。

 

 ただ──。

 

「そうですね。まずは私の願いに共感してくれる人が好ましいです。手伝ってくれたら非常に助かるのですが、無理強いするつもりはありません。ですが、最低限私の理想や願いに共感してくれたり、尊重してくれる殿方が理想ですね」

 

(アクスだ……)

 

「後は……精進を怠らない人ですね。私と同じ医療を志す殿方ならりそうですが、美術や商業といった別の分野でも構いません。出来るなら、共に切磋琢磨して行ける方が理想です」

 

(バカ弟子ね……)

 

「最後に、優しい方。聖女と言われようが、私も1人の人間です。なので、今のこの状態みたいな弱った時はそっと手を貸してくれたり、寄り添ってくれると申し分ないです」

 

(この聖女、バカ弟子(アクス)の話しかしてない!)

 

 あれだけ言ったにも拘らず、未だ引き摺っていることに2人は愕然とする。いくらアクスが死亡して間もないとはいえ、意識の切り替えは冒険者の必須スキルだ。

『すぐさま諦めろ』というのは流石に酷な話ではあるが、それでも忘れようという気概は見せて欲しい。そんな思いを胸に、2人はコソコソと話し出した。

 

『【医神の忠犬】(ミーヤル・ハウンド)。この聖女様、おひとり様街道まっしぐらなのでは?』

 

『女性冒険者の未婚率なんてお察しでしょ。でも、このまま行けば行かず後家ね。うへへ、ざまーみろ』

 

 怪しげな笑いをするナァーザに『性格悪いですねぇ』と毒づきながらも、聖女が行き遅れようがヘイズ的にはノーダメである。ゆえに、彼女は適度に話を合わせつつも優雅なティータイムを心行くまで楽しむことへ意識を向けた。

 

***

 

 一方その頃。死亡したと思われていたパルゥムの子供はと言うと──。

 

「フェルズさん、それなにー?」

 

「次の戦いに向けて、眼晶(オクルス)をちょっと弄ろうしていてね。多少時間がある今の内に、色々やっておこうと作ってるんだ」

 

 オラリオとダンジョンの狭間にあるフェルズの地下工房にて、アクスは手の平サイズの球体をいじくりまわしているフェルズに声をかけた。

 フェルズが作っているのは、今まで大活躍をしていた眼晶(オクルス)。そのマイナーチェンジ版である。

 以前までの眼晶(オクルス)は基本的に1対1の物だったが、今回はおそらく総力戦。逐一フィンが眼晶(オクルス)を持ち帰る余裕すらないだろうと、『親』の声を複数個用意する予定の『子』全てに届くような構想をフェルズは練っていた。

 さらに、これならばアクスの新しく発現したスキルを十全に使えるのではないか。そんな考えから、フェルズは急ピッチで試作品を組み上げていく。

 幸運なことにベルを救助しに行った際に拾ってきた大量のドロップアイテムがある。緑肉の発掘を頼む傍らで運び込むよう頼んだことは非常に申し訳なく思いつつも、フェルズは爪や皮や何かの破片といった物を観察しては、加工を施した上で眼晶(オクルス)に取り付けていく。

 

 しかし、そんな骨(・)の姿に、何もしていないアクスは段々暇になっていく。なので、さっそく工房を見学することにしたアクスは魔道具(マジックアイテム)が大量に納められている棚へと視線を移す。

 何に使うか分からない物体から朧げに使い方が想像できる防具。あとは生産ラインが整っているのか、同じような造形の瓶に納められた液体まで様々な魔道具(マジックアイテム)があり、アクスの好奇心が大いに刺激された。

 

「あれ、フェルズさん。これなんです?」

 

 すると、何かを見つけたアクスがフェルズに声をかける。作業中ゆえに手が離せなかったのだろう。頭だけそっちを剥くと、そこには2つの半球を組み合わせた物にマイナスドライバーが挟まった謎の物体があった。

 

「あぁ、私の昔の主神が面白半分に作ってた何かのレプリカだよ。私も詳しくは知らない」

 

「ほへー」

 

 相変わらず神々の知識は人知の埒外にある。そんなことを思いつつ、アクスはマイナスドライバーをくいくい動かしながら遊び、ひたすら時間を潰していた。

 某巨人が蔓延る世界だったり某ゴブリンをスレイする世界が交わったりするオラリオも大概だが、1番無法なのは実のところ神々なのかもしれない。




アミッドの精神力が少しだけ回復した。

アクス
 エッホ、エッホ。患者を救わなきゃ。とオラリオをよく走っているため、最近居なくなった噂が持ち切り。
 ちなみに、この子も精神的に結構ギリギリ

アミッド
 煮詰め過ぎた砂糖水状態の精神力。
 余談だが、もう少し煮詰め過ぎてたら後追いも視野に入ってたとかなんとか。

毒薬(シロップ)
 とある漫画で戦争にて亡くなったキャラの後を追おうと、ヒロインが昇汞液(写真の現像に使う水銀化合物)を服毒しようとしたのが元ネタ
 パルゥムの身体よりも小さい遺品だけが帰ってきたことと、ブルーピリ●ドのオマージュ含めてやりたかったネタ。

アルティメットレア(UR)
 他人を気遣えて、女性特攻の邪神2柱から英才教育を受けたやつ? 【スパダリ】って言うんだよ。

2つの半球を組み合わせた物にマイナスドライバーが挟まった謎の物体
 カチンッ BGM:全てを創造する者
 またの名をオラリオを崩壊する爆弾(レプリカ)
 これ、モノホンをニーズホッグとかデミ・スピリットに投げつけたら1匹ぐらい倒せないかな

あとがきのあとがき
 最近、エンプーサー成分(承認欲求)が高まり出したので、AI君にこの作品の批評をしてもらったんですがね。
 その中に『アミッド・フローレンス』ってのが出力されましてね。
 見た瞬間、『アミッド・フローレンスでございますー!』とオラリオを走り回るアミッドさんを幻視しました。先生、僕は病気でしょうか。
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