ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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132:光の断片(ピース)

 ヘイズとナァーザの友情パワー(笑)により、失意のどん底にあったアミッドの精神が割かし回復して幾何かの時間がたった頃。フェルズは新たに試作した眼晶(オクルス)を手に、やや勇み足でアクスと共にダンジョン9階層を進んでいた。

 

「フェルズさん、このまま行くと【ロキ・ファミリア】の方に進んじゃいます。食糧庫(パントリー)経由しましょう」

 

「分かった」

 

 時折襲ってくるモンスターをキャンと言わしつつ、アクスとフェルズは食糧庫(パントリー)の向かい側にある通路を歩いていく。モンスターが多くやってくる食糧庫(パントリー)を抜けたこともあり、ここから異端児(ゼノス)たちが緑肉の掘削作業を行っている南東側までは誰も居ないはずである。

 

 アクスたちがなぜ上層にもかかわらず、地図を片手にダンジョンを練り歩いているのか。それは、この9階層に複数のファミリアが多く集まっているからだ。

 交通整理を行っている【ガネーシャ・ファミリア】は当然として、南西側にあるクノッソスへ続く扉から緑肉を掘り進んでいる【ロキ・ファミリア】。そして、北側の扉から【マグニ・ファミリア】と【モース・ファミリア】がクエストで緑肉への対応を行っている。

 そんな大勢の冒険者が居る中を突っ切ればどうなるか。鎧有りとはいえ、長くオラリオに住んでいることから『パルゥムの実力者はオラリオに少ないはず。……妙だな』という僅かな疑問を抱く恐れがある。そこから万に一つの可能性を引き当て、アクスの生存が連想されるのは避けたい。

 よって、このように他の冒険者にも気をつけながらダンジョンの上層を歩き回っているというわけだ。

 

 そうしてしばらく歩いていると、小さな広間に出てくる。アクスたちが入ってきた通路の他に2本の通路が伸びているが、その内の1本の通路には『×』と書かれた垂れ幕と太めの綱によって通行止めが為されており、その傍らには部外者が入らないよう見張りが立っていた。

 先ほどまで行っていたフェルズとのやり取りから他の冒険者への接触は厳禁──かと思いきや、アクスとフェルズは見張りに近づいていく。

 

「シャクティさん、お疲れ様です」

 

「あぁ、来たか」

 

 2人の接近に気付いたシャクティが片手をあげて迎え入れてくれる。南東側は異端児(ゼノス)たちが作業をしているということで、【ガネーシャ・ファミリア】からシャクティを始めとした異端児(ゼノス)に一定の理解を示してくれている団員が順繰りに見張り役になっていた。

 

「緑肉の掘削状況は?」

 

「掘り始めた当初は"反撃"が酷かった。だが、今はそれが消極的になっている。何故かは分からないがな」

 

 進捗状況を尋ねられたシャクティは、他の場所から掘り進めている団員たちや『同僚に顔を見られるとマズい』という理由から異端児(ゼノス)と連携して掘削作業に当たっていたハシャーナの報告を思い返す。

 

 緑肉は当初、上下左右とまるで迷宮が1つの生物になったかのように冒険者たちを喰らわんと襲い掛かってきた。その度に上級冒険者の膂力や魔剣による対抗策で何とかしてきたものの、掘り進めていく内に反撃の頻度が少なくなっている。

 現在の頻度は『ふと思い出した』といった具合に襲い掛かり、その度に上級冒険者が楽に迎撃して掘削作業に戻るといった流れがすっかり定着している。

 

「全力で掘り進められると副団長(イルタ)が言っていたな。……おっと、つい話し込んでしまったか。おそらく今頃は休憩のはずだ」

 

 そう言って封鎖を一部だけ解いてくれたため、フェルズとアクスは礼を言いながらそこを通り抜けた。このような状況下なので、【ガネーシャ・ファミリア】は大方出ずっぱりなのだろう。

 

 だからであろうか。

 

「シャクティさん、お仕事頑張ってー!」

 

「はは、私はそんなやわじゃ……。おい! ちょっと待て!」

 

 思い出したかのように振り返ったアクスが、ち(・)ょ(・)っ(・)と(・)声(・)の(・)ト(・)ー(・)ン(・)を(・)上(・)げ(・)な(・)が(・)ら(・)シャクティにエールを送る。

 地上でも言われ慣れているからか、その行いに彼女がほっこりしたのも束の間。突如として力が漲るといったアビリティ強化の兆しに目を剥いた。

 またしても何かをやらかしたと断じたシャクティは、強化された俊敏性をもってアクスを確保。『どういうことだ』と尋問するため、話がややこしくなる前にフェルズが割って入る。

 

 その後、まるまるウマウマと事情を端的に話し、『もうちょっとどうにかならないか』や『【疾走する問題児】(ランニング・トラブル)の方がよかった』などと散々な言葉を投げかけられたことで、しわくちゃ名探偵のごとく落ち込んだアクスは封鎖されていた通路の先にある人工的な扉の前にたどり着く。

 ところどころに緑肉がこびり付いている異様な通路が口を空けている真正面で、大勢の異端児(ゼノス)と一緒にガネーシャが被っている仮面と同じものを装着した大男が何やら話し合っていた。

 

「ムぅ……。どうイウことでシょう?」

 

「結果的に全員助かッタ。それデ終ワりデスよね?」

 

「さぁ、どうなんだろうな?」

 

 レッドとフィアが首を傾げながら問いかけるものの、大男は仮面越しでもわかるぐらい上機嫌に尋ね返す。周囲にも彼と似たような反応を示したり、『うわ、怖っえぇ』と明らかな反応を示す者たちが居る。

 そのため、『裏がある』と断じた異端児(ゼノス)たちが再び思考の海に見を投じだした。

 

「ハシャーナさん、何してるんですか?」

 

「んお? お前たちか。いやな、地上の話を聞きたいっつーからさ。冒険者式の小話をな」

 

 そう言ってハシャーナは再び同じ話をしだす。

 

 概要から言えば、それはとある冒険者パーティがダンジョンから逃げ帰る話であった。

 壁役かつリーダーをしていた冒険者が異常事態で死亡してしまい、即座に遺体を担いで撤退したところまでは良かったのだが、壁役が居ないことで1回あたりの戦闘時間が増加。それに付随して疲労の蓄積が無視できなくなり、泣く泣く相手の顔も分からないほど薄暗い広間で仮眠を含めた長めの休息を行うことにした。

 ただ、全員が眠りこけるわけにはいかない。よって、広間の四方の角に1人ずつ座り、はじめに決めた1人以外は仮眠を取り、残った1人は頃合いを見て順番に次の人のところまで行って肩を叩いて起こす。どっちから来たかを伝えてから仮眠を取り、起きた2人目は頃合いを見て3人目を起こす──といった具合に準繰りで仮眠をとるといった方法で休むことにした。

 

 その結果、十全に休むことが出来て物語はおしまい……のはずなのだが。

 

「意味が分かるとってやつですね」

 

「お、アクス。知ってるのか?」

 

「団員のお兄ちゃんに聞きました」

 

 冒険者には所謂『鉄板』と呼ばれるネタがある。今回、ハシャーナが異端児(ゼノス)たちに話したのはまさしくそんなお約束の話で、アクスとしては面白みはなかった。

 しかしながら、地上の話や娯楽に飢えている異端児(ゼノス)にとっては刺さったらしい。分からない者たちで集まってあーでもない、こーでもないと相談していたが、アクスの『実際にやってみたら?』という提案に全員が乗り気となる。

 

「えーっと、四方ニ1人ずつ……。デ、レットからフィアの方ヘ歩いテクレれ」

 

「はイ、フィア」

 

「それじャア私はユーノノ方に……」

 

 レット、フィア、ユーノといった具合に壁伝いに歩いていく。そして、4人目のトロルが元々レットの居た角にたどり着いた途端、『ボエッ!?』という彼の鳴き声と共に今まで悩んでいたことが氷解する。

 

 ──そう、そこには誰も居なかったのだ。

 

「エ、じゃア……」

 

「そういうこった。"移動したことで誰も角に居なくなった。はてさて、誰がこの集団に加わったのか"」

 

「僕だったら何も言わずに次の人まで歩いていきますけどね」

 

「俺もそうするけど、これは小話だからなぁ」

 

 小話は『なんだかわからないオチ』がお約束だ。そのため、アクスの言っていることは野暮天以外何物でもない。

 ただ、自分が同じ立場に立っても絶対アクスと同じような真似をするだろうとハシャーナが後頭部を掻いていると、ふたたび通路の方から人影が現れた。

 

「お前たち、なにをしてるんだ?」

 

「あ、団長。見張りはどうしたんです?」

 

「イルタが休憩がてら来たからな、押し付けてきた。こっちに来ないよう厳命してるから、心配しなくても良い」

 

 さらっと仕事を押し付けて休みに来たことをカミングアウトしたシャクティは、『まさか、モンスターとこうして話をするなんてな』とボヤきつつもハシャーナの横に座り込む。その言葉に彼も同じ意見なのか、『違いない』と笑う。

 無論だが、2人は別に異端児(ゼノス)に絆されたわけではない。その証拠にアクスと違って手(・)元(・)に(・)武(・)器(・)を(・)置(・)い(・)て(・)お(・)り(・)、談笑しながらも頭の片隅には『迎撃』の2文字がチラついていた。

 

 それでも、彼らはまるで友人と接するかのように談笑を続ける。

 それは何故か。簡単だ、星の数ほど生まれては消えていく『モンスター』ではなく『ちょっと怖い隣人』という認識が出来たからである。

 それこそ、ドードーやカカポのような存在(アクス・フローレンス)が遠慮や警戒といったことをすることなく接するというおかげもあるだろうが、自分たちよりも長くこの集団で生活していた子がいるのに警戒し続けるのはお互いのためにならないと察したのだろう。異端児(ゼノス)たちが緑肉の除去にやって来て数日経った今では、ハシャーナは共闘や雑談をする程に、シャクティは雑談をするほどに異端児(ゼノス)たちと打ち解けていた。

 

 ただ、それは彼/彼女らが特別順応が早いだけ。特にハシャーナは『蘇生されたことを悟らせないように』というフィンからの厳命で、なし崩し的にこの場所で緑肉の掘削作業に従事しながら寝泊まりするという缶詰め状態になっているだけである。

 

 それでも、こうして冒険者と異端児(ゼノス)。異なる存在が談笑するという願っても実現できなかったことに対し、フェルズは空っぽの胸の奥から込み上げてくる物があったとか何とか。

 

「よし、休憩は終わりだ。緑肉の掘削に戻ってくれ」

 

「【象神の杖】(アンクーシャ)、君も協力してくれないか? 試したいことがある」

 

 とにもかくにも、時間がない。早く精霊の分身(デミ・スピリット)のところまで道を開通しないといけないため、心苦しかったが作業を急がせるシャクティ。そこにフェルズが声をかけた。

 そのまま試作品の眼晶(オクルス)を異端児(ゼノス)たちやハシャーナに手渡していき、最後にシャクティに手渡すと彼女は訝し気に眼晶(オクルス)を眺める。

 

「これは、【勇者】(ブレイバー)が言っていた魔道具(マジックアイテム)か?」

 

「それに近いが、試作品だ。つい先ほど、アクスのスキルについて説明しただろう。一定の共感が発動条件なら、渡した眼晶(オクルス)から彼の声が聞こえたら……。面白いと思わないか?」

 

 スキルに面白いもへったくれもないが、たしかに興(・)味(・)は(・)あ(・)る(・)。

 それに、もう少しすれば総力戦を仕掛ける手はずになっている。派閥に関係なくアビリティを強化出来るのであれば、使わない手はないだろう。

 

 そんな思いから『少し待っていてくれ』とシャクティが元来た道を戻っていく。そして、そんなに時間をかけずに戻ってきた彼女は錫杖を手にしながら気合を露わにする。

 

「お、団長。本気ですね」

 

「ハシャッち。あの姉ちゃん、18階層で鞭使ってたぞ?」

 

「あの時はテイムしようとしていたからだ。私も冒険者になって長いからな、拳も使えば剣も使うぞ?」

 

 流石にラウルほど器用ではないにしても、長年冒険者をやっていれば武器の1つや2つは十全に扱える。そのことを説明するとリドは小さく『冒険者ヤベぇ』と率直な感想を漏らすが、どうやら聞こえたらしい。『お互い様だろ、異端児(ゼノス)』と彼女は軽くあしらった。

 

 こうしてシャクティを加えたハシャーナと異端児(ゼノス)たちは、フェルズから試作品の子機側を受け取ってからクノッソス内部へと再び侵入する。たしかに緑肉の迎撃が少なくなっているが、完(・)全(・)に(・)無(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)と(・)は(・)言(・)え(・)な(・)い(・)ために戦闘力が高い者たちを外周に配した輪形陣で既に掘削した箇所を駆け抜けていく。

 

 そうしていると、次第に緑肉しかない空間にたどり着いた。ここからしばらくは肉体労働だと全員が気合を入れる中、リドは子機とは別の眼晶(オクルス)でフェルズに合図を送る。

 

「フェルズ、はじめてくれ」

 

「分かった、アクス。これを」

 

「どうすれば良いんです?」

 

「応援すれば良い。【猛者】や【象神の杖】(アンクーシャ)にやったようにすれば大丈夫だ」

 

 なにやら不安になるやり取りが子機から聞こえてくるが、シャクティたちは気にせず緑肉を削り取っていく。

 

 そしたらーー。

 

「いょっしゃあ! みんな、テンション上げていこうぜぇ!!」

 

『ぶふぅ!?』

 

 もはやキャラ変どころじゃないパリピぶりに、全員漏れなく地面にずっこける。ここで緑肉からの反撃が来たら間違いなく数人は犠牲になっていただろう。冷や汗を流しながらも、身体から湧き上がってくる高揚感などを認識したハシャーナは、その場でがっくりと肩を落とした。

 

「……成功してるのがなんともしまらねぇな」

 

「まったくだ。とりあえず、後で元凶をシバいておくことにするさ」

 

 とりあえず、アクスに悪い影響を与えた張本人(イブリ・アチャー)に後で制裁を加えようと心に刻んだシャクティは、改めて自身の手を見やる。手の平だけではなく彼女の全身が緑色の光で覆われており、さらにはは(・)っ(・)き(・)り(・)と(・)アビリティの上昇を自覚することが出来た。

 ア(・)ビ(・)リ(・)テ(・)ィ(・)を(・)上(・)げ(・)る(・)ス(・)キ(・)ル(・)や(・)魔(・)法(・)を(・)受(・)け(・)る(・)の(・)は(・)初(・)め(・)て(・)で(・)は(・)な(・)い(・)彼女は、『微増』や『少々』といった強化ではここまで自覚することは出来ないと察する。少なくともアビリティ評価が1段階──100以上は上がっているだろうと推測したシャクティは、眼晶(オクルス)で成功したことや作業に入ることを伝えてから隣で驚いているハシャーナに声をかけた。

 

「本当にこれはすごいな」

 

「そうだな。……だが、同時に危ない。団長もそう思ってるんだろ?」

 

 ハシャーナはしたり顔で返すが、シャクティは黙って頷くだけであった。

 この力はたしかに強力である。だが、これも死者の蘇生と同じで強力だからこそ大(・)っ(・)ぴ(・)ら(・)に(・)使(・)う(・)の(・)は(・)リ(・)ス(・)ク(・)しかない。

 それでも、アクスのことだ。『オラリオのため』とあれば、当たり前のように乱発するのだろう。

 どこまで行っても厄介事を持ち込んで来る心優しいちびっ子に、シャクティは苦労を滲ませたため息をつく。すると、その様子を見かねたハシャーナがヘファイストス経由で返してもらった魔斧──『雷雷丸(かみなりいかづちまる)』を担いでニヤリを笑いかけた。

 

「なーに、そこらの零細ファミリアと違ってアクスは【ディアンケヒト・ファミリア】だ。それに、そこでも厳しい場合は"1年ほど"俺がファミリアを空ければ済む話さ」

 

「そうだな。その時は頼む」

 

 本来は土の下で冷たくなっていたはずの仲間の力強い言葉に元気が出て来たシャクティは、すでに掘削を始めている異端児(ゼノス)を見ながら『始めるか』と近くの緑肉に錫杖を叩きつけ始めた。

 

***

 

 アクスたちが緑肉の対処に追われているちょうど同時刻。フィンはと(・)あ(・)る(・)人(・)物(・)から、エニュオが為そうとしているオラリオを崩壊させる手札の1枚。その全容を掴もうとしていた。

 

「ベル・クラネル。まずは初遠征とその成功におめでとうと言わせてほしい。それと、リリルカ・アーデ。ティオネたちから聞いたけど、ランクアップしたんだって? 同胞として喜ばしいことこの上ないよ。おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとう……ございます」

 

 執務室に入るや否やフィンから投げかけられた賞賛の言葉もそうだが、いきなり黄昏の館に連れて来られた2人は困惑していた。

 少し前、ベルはバベルの治療施設から退院する条件としてアミッドから半ば脅される形で言い渡された『毎日の来院』──とは別にア(・)ミ(・)ッ(・)ド(・)か(・)ら(・)き(・)つ(・)く(・)言(・)い(・)含(・)め(・)ら(・)れ(・)た(・)頻(・)繁(・)な(・)出(・)歩(・)き(・)をリリルカに咎められていた。そこで、ニーズホッグについて調査を行っていたアイズたちと出会い、ティオナが見せたニーズホッグの壁画の写しを一目見て『精霊の六円環』という言葉と呟く。

 

 本来(げんさく)であれば、そこでベルから詳細を聞いてから彼らとは別れるはずだった。しかしながら、自他ともに『バカ』と認めているティオナがベルをホームに連れて行き、フィンに話をするように提案してきたのだ。

 他派閥をむやみやたらにホームへ入れることを忌避したティオネがキレたものの、バカと言いながらも物事の裏を持ち前の直観力で看破した彼女は『あたしたちが知りたいこと以外のことをフィンが探してるかもしれない』と告げたことで、アイズたちの先導でベルとリリルカは黄昏の館を訪れて今に至る。

 

「さっそくで悪いけど、"精霊の六円環"についてもう少し聞いても良いかい?」

 

「はい。お祖父ちゃんが見せてくれた御伽噺で読んだものなのですが……」

 

 『御伽噺』という言葉に、すぐ近くで聞いていたリヴェリアはピクリと眉を顰める。

 オラリオは世界の中心と言われる大都市なので、マイナーな書物でも手に入りやすい。それが出回ってないとなると、民間伝承や王族だけに伝わる秘事のようなドがつくほどのマイナーか、御(・)伽(・)噺(・)を(・)騙(・)っ(・)た(・)偽(・)の(・)記(・)録(・)。後者を予感した彼女が少しばかり不愉快に思っていると、リヴェリアの対面で黙って聞いていたガレスの視線が『落ち着け』と窘める。

 

 そんな僅かなやり取りをしている間にも、ベルの話を続く。曰く、ニーズホッグの話にはそれを倒す英雄は現れないらしい。

 

「英雄が現れない? では、どうやってニーズホッグが倒されたんだい?」

 

「精霊です。神様から使わされた6人の大精霊が、命と引き換えにニーズホッグを滅ぼしました」

 

 精霊は精霊でも大(・)精(・)霊(・)。その言葉にフィンは双眸を限界まで見開いた。

 ノームやウンディーネのような下位の精霊は数多く居るが、その上の存在である中位からその数が極端に少なくなり、中位精霊のさらに上位の存在である大精霊ともなれば、もはや伝説や御伽噺の住人となってくる。

 

 そして、その力も強大という他無い。中位精霊は暴力的なまでに神秘と幻想を内包した『奇跡の担い手』であることに対し、大精霊は神々の力を最も色濃く受けついた『神の分身そのもの』だ。

 アルゴノウトのようにただの凡人を英雄に変えたり、クロッゾの一族のように何代にもわたって強力な加護を与えたりと、神々が降臨する前の人類や英雄を手助けする導き手であり、武器であり、共にモンスターと戦う仲間。それが大精霊である。

 

 藪をつついて蛇を出すどころの話では片づけられない事態にフィンの口内から湿り気が失われていく。それでも、彼の手札には『話をこれ以上聞かずにお帰り願う』というカードは残されていなかった。

 

「どうやって滅ぼしたか、知っている限りで教えてくれるかい?」

 

「御伽噺では強力な結界で竜を封じて、"詩"を紡いだと。今だから分かるんですが、おそらくこの"詩"というものは魔法の詠唱だと思います」

 

 ベルの言葉にリヴェリアは黙って頷く。

 優に12節以上の文言を言祝ぐことで行使が可能なエルフが用いる先天系の魔法は、様々な伝記や記録から『詩』と描写されることが多い。彼の祖父が見せたとされる御伽噺がどの時代の物かは見当はつかないが、そう簡単に表現方法というものは変わらないだろう。

 

 だが、人の範疇では決して収まらない存在である大精霊が6人掛かりで詠唱することで行使される大魔法。魔法に精通したハイ・エルフであるリヴェリアであっても、その威力を安易に想像することは出来なかった。

 

「なるほど。では、この絵は邪竜への生贄の類ではないと?」

 

「はい、中央がフィンさんの言う通りの邪竜ニーズホッグ。そして、それを囲むのが大秘術を発動させるために円環の詩を紡いでいる太古の大精霊だと思います」

 

 思わぬ答えに、フィンは少しの間だけ押し黙った。

 これまでの状況や経験。そして物的証拠といった『点』が見る見るうちに繋がっていき、先ほどからベルに説明してもらった結論に辿り着いてしまう。

 状況をさらに細かく咀嚼することで別の可能性を模索するが、間違いであってほしいと願うほどに正しい証拠ばかりが増えていく。

 

「あの、フィンさん。どうしましたか?」

 

「ん? あぁ、すまないね。御伽噺を集めて時代背景を含めて調べるのが僕の数少ない趣味だけど、こんな話は聞いたことなくてね。いくつかの考察が覆ったことにちょっと考え込んでしまったよ」

 

 嘘である。『よくもそんな出まかせを言えたものだ』と自虐しながら話を切り上げようとしたフィンは、外で待っているラウルとアキに声をかける。

 正直に言えば、人工の英雄でしかなかった自分を解き放ってくれたこの少年が次の進攻に加わってくれれば心強い。ただ、【ロキ・ファミリア】やその同盟先とは一切関係がない発足したばかりの派閥かつ、イヴィルスと全く関係なさそうなベルに過去の清算の手伝いをさせる申し訳なさが、助力を頼む『勇気』を一気に枯らしていく。

 

 そんな時だった。何かを思い出したベルが、未だ思考中のフィンに声をかけた。

 

「あ、そうだ。フィンさん」

 

「ん、なにかな?」

 

「深層で助けていただいて、ありがとうございました」

 

 ビシリと綺麗にお辞儀をするベルであったが、心当たりも無ければ話が見えないためにフィンは首を傾げながら説明を求める。その反応にベルも首を傾げるが、マルマルウシウシと深層で遭難していたところをフィンによく似た鎧姿のパルゥムに助けてもらったことを話し、さらにリリルカも自分たちを案内してくれたフィアナという名前の変わったパルゥムの話を続けて話す。

 

「フィアナといえば、フィンが祈っておる対象ではなかったか?」

 

「昔の偉人の名前を付ける親だったんだろう。……どうした、フィン?」

 

「あ、あぁ。ちょっと混乱してたみたいだ。無事でよかったよ」

 

 もちろんだが、ここ最近のフィンは深層に行く暇などない。そして、鎧姿のパルゥムをついこの間見たばかりだ。

 さらには彼(・)はベルを救出しに深層へ向かったと自らが公言していた。そこから導き出される答えに、フィンは平静を装いながらも『あいつ(アクス)かぁ!』と少しばかりキレてしまったのは内緒である。

 

 しかし、アクスへ向けた怒りと共に彼の言っていたことをフィンがふと思い出す。

 

 オラリオの崩壊に上級冒険者の全滅。ロキやウラノスに確認を取らねばならないが、ニーズホッグを消滅させた大秘術をもってすれば間違いなくこの2つの事項は達成可能であろう。

 だが、神がーー暗黒期に呼応しなかった邪神が1(・)発(・)だ(・)け(・)に(・)賭(・)け(・)る(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)。その疑問にフィンの親指が否を告げたものの、彼の頭もまた、二の矢の存在を予感した。

 

 ならばそれの対策が必要となる。

 ただ、残念なことに相手の規模や攻撃手段といった情報は一切分からない。それでも、決(・)し(・)て(・)無(・)駄(・)に(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)備(・)え(・)はある。

 

「ベル・クラネル。はしたない話だけど、さっそく助けた報酬をもらえないかな?」

 

「あ、はい。でも、治療費とかでお金の方が……」

 

「はい。申し訳ありませんが、【ロキ・ファミリア】の皆さんにとって小銭程度しか出せません」

 

 申し訳なさそうにするベルとリリルカ。しかしながら、金銭が欲しいわけではない。

 チラリとラウルを見ると、その視線に気づいた彼は姿勢を正す。具体的な作戦は決めきれていないものの、ラウルには重要な役割を与えることは決定事項だ。

 

(よくよく考えたら、アクスもそれが分かって? いや、絶対成り行きだな)

 

 もしかしたら、自分(フィン)が利用することを見越して……。そこまで想像したが、あの小動物はそこまで考えて悪だくみをするようなキャラではない。十中八九、『あ、やっちゃった』という感じだろう。

 なればこそ、有効活用させてもらう。そう決心したフィンは、二の矢に対する備えのための第1歩を踏み出した。

 

「ヴェルフ・クロッゾに面会させてほしい。僕が直に会って、交渉したい」




原作よりも質の高いピースのおかげで、なんとか対策が打ててます。
なお、それでも死ぬときは死ぬのがダンまちなので。

試作品
 都合の良い骨(フェルズ)が作り出した新しい品物。親機と子機があり、親機の声が子機全てに届く仕様となっている。(逆は不可能)
 第2次侵攻にてフィンから全体への連絡に使うだろうという『建前』で作られたが、じつのところアクスのスキルにティンと来ただけ。
 ちなみに材料だが、ベル救出の際に多く取って来た下層や深層の素材であるために量産が可能。

アクス
 知らない内にバッファーにもなったちびっ子。
 ただ、それが要因で危ない身になった事実に気づいていない。

シャクティ、ハシャーナ
 近所のお姉さんとお兄さん(蘇生)
 アクスが危ういということに気付いた流石の年の功ズ

冒険者小話
 意味が分かると怖い話の『スクエア』が元ネタ。
 広間とかあるし、こういった話はありそうなので。

フィン
 知らないところで手柄を立てていた。いったい、何クスの仕業なんだ。
 しかし、これは好機と『決して腐らない布石』を打った。
 問題はヴェルフだが、『(アクスのおかげで)ベルの応急処置をしたのがフィンになっており』、『手っ取り早い報酬としてではなく、あえて交渉の場を持ちかけて来た』。彼の性格なら、この2つでおおむね好意的に見られるんじゃないかなと。
 アリシアさんは、ちょっと黙っといてもろて。

 つまり、どういうことだってばよ? エニュオが泣きを見るってことだけ。
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