ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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133:槍だった物と新たな槍

 緑肉の掘削がてら、スキルの実験がうまくいったアクス。そのままハシャーナたちと愉快なクノッソスキャンプ──『くのキャン△』するかと思いきや、再びウラノスたちに招集された。

 

「すまんなぁ、アクス。また呼び出して」

 

「お姉ちゃんに会いたい」

 

「今回はお前にも関係あることだ。付き合ってもらうぞ」

 

「お姉ちゃんに会いたい」

 

「ディアンケヒト。この子、大丈夫?」

 

 毎度おなじみ祈祷の間にて、今回の参加者であるウラノス、ロキ、ヘファイストス、ガネーシャ、ゴブニュ。そしてディアンケヒトがアクスを取り囲みながら彼が招集された理由を話すーーが、アクスはすっかり『お姉ちゃんに会いたいBOT』になっていた。

 

 ただ、それは仕方のないこと。決して短くない時間、アクスはダンジョンで過ごしていた。如何にゼノスたちがついていたり、本人が『大丈夫』とは言っても、ダンジョンは何が起こるか分からない。そんな死(・)が(・)歩(・)い(・)て(・)数(・)М(・)ほ(・)ど(・)の(・)お(・)隣(・)さ(・)ん(・)並(・)に(・)近(・)所(・)な(・)場(・)所(・)で子供1人が長時間滞在するのは、精神衛生的に良くないのは分かりきった話だ。

 それに、アクスを度々呼び出す場所にも問題があったりする。

 ここは祈祷の間。仮にアクスが神々の制止を振り切って階段を駆け上がれば、そこはもう地上。そのまま慣れ親しんだ道をひた走れば、家族が待つ治療院まで帰れるのだ。

 

 だが、アクスはそんなことは行わない。

 なぜか……決まっている。『治療院が襲撃されるのを恐れている』からだ。

 アクスはおバカだが、愚かではない。エニュオがどういった手段でオラリオを滅ぼすのかは未知数であり、それが何時なのかも定かではないことはよく分かっている。

 

 加えて、自(・)分(・)が(・)生(・)き(・)て(・)る(・)と(・)知(・)ら(・)れ(・)る(・)デ(・)メ(・)リ(・)ッ(・)ト(・)もよく理解しているつもりだ。

 本当は姉(アミッド)に会いたい。家族(だんいん)に会いたい。

 それでも、アクスは持ち前の『鋼の意思』で自制する。しかしながら、度重なるダンジョン生活や深層行きという精神的な疲労によって、強固だった意思は弱(・)音(・)を(・)吐(・)き(・)出(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)ぐ(・)ら(・)い(・)に(・)さび付いてしまったのは、仕方のないことと言えよう。

 

「お姉ちゃんに会いたい」

 

「アクス、もう少しの辛抱だ。この戦いが終われば、すぐに"二大祭"だ。当日は流石に無理じゃが、少し前の日取りならアミッドと一緒に出掛けると良い」

 

「……わーい」

 

 どうやらアクスの精神が首の皮1枚繋がったらしい。ようやく定型文以外のことを話したアクスを見て、子供と大人の狭間というかなり難しい年頃の人間にひどいことをしていると神々は改めて自覚。それぞれが熱くなった目元を片手で隠し出した。

 

「ひ、ひとまずアクスへの要件から済ませよか」

 

「そうじゃな」

 

 鼻声のロキが声を掛けると、同じく片手で目元を隠していたゴブニュが持ってきた荷物から小型のボウガンを取り出す。それを慣れた手つきでアクスの籠手に取りつけると、今度は金色の大きな鏃が付いたワイヤー付きのボルトを手渡した。

 

「とある依頼で作った武器の試作品だ。打ち出すボルトはこれだ」

 

「これ、ブリューナクですか?」

 

「ヘファイストスからもらった。それに、これは武器ではない。魔法を遠隔起動させる媒体と言った方が正しいな」

 

 そう説明しつつ、ゴブニュはワイヤーをボウガンに固定してからボルトを装填。そのまま『治癒魔法を』とアクスへ指示を出した。

 言われるがままに治癒魔法を行使すると、金色の穂先ーーブリューナクの先端に備え付けられた宝玉に魔法が吸い込まれていく。その光景に意図を察したアクスがボウガンを放つと、ボルトが壁に突き刺さった瞬間に緑色の魔法円(マジック・サークル)がボルトを中心に浮かび上がった。

 

「祈手(アンブラハンズ)とでも名付けようか。そこのボタンを押せば、ワイヤーが巻き取られる。貴重な1本だから、失くすなよ」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、次は私ね」

 

 ギャリギャリと高速でワイヤーが巻き取られる音が響く中、今度はヘファイストスが1本の槍を差し出してくる。

 深紅に染まった穂先と柄。なんの変哲もなさそうな槍に見えるが、審美眼などといった眼力が一切ないアクスであっても生半可な代物でないことが分かった。

 しばらく槍を持ち上げながら呆けていると、ヘファイストスは英勇詩篇(ミレシアン)を使うよう指示する。ただ、既にダンジョンの各所で移動用として幻影を放っていることを伝えると、ロキが『そろそろ第2次侵攻が始まるから、深く潜る必要はないわ』と太鼓判を押してくれたためにアクスはすぐさま幻影を生み出した。

 

「幻影にその槍を軽く刺してみて」

 

「はい」

 

 ヘファイストスに言われたとおり、アクスは幻影に槍を軽く刺す。すると、まるで霧が霧散するかのように幻影が消えてしまった。

 人間でいえば、薄皮1枚ほどの深さしか刺していない。いくら幻影とは言えど、英勇詩篇(ミレシアン)で生み出した物は階層主との戦闘やモンスターの壁を突き破ることも可能なほど頑丈である。

 槍が原因というところぐらいは推測できるものの、それがいったいどういった原理で霧散したのか。ちんぷんかんぷんなアクスが槍をぶんぶん振っていると、ヘファイストスがニコリと笑った。

 

「成功ね。超硬金属(アダマンタイト)に大量のオブシディアン・ソルジャーの体石を混ぜて、私が打ったの。名付けるなら、朱天槍(ゲイ・ジャルグ)ってところかしら」

 

「ヘファイストス。本気か?」

 

「オラリオ(ここ)には思い入れがあるし、これから返せない程の借りが出来ると思うから……ね」

 

 魔法の威力を減衰させる効果を持つオブシディアン・ソルジャーの体石。製作者であるヘファイストスがわざわざ『大量』というからには、それこそ膨大な──幻影と同じLV3程度の魔法ならば無効化は出来るぐらいの量を混ぜ込んだと踏んで良いだろう。

 しかし、まだ渡す物があるらしい。後ろに置いていたバックパックからいそいそと折りたたまれた布を取り出したヘファイストスは、近くに居たガネーシャの手を借りながらそれを広げる。

 

「お、フィンが前に頼んどった奴やな」

 

「これは検証用の試作品。これより廉価版になっちゃうけど、椿たちが必死で量産している最中よ」

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】の団旗を見せつつ、ヘファイストスは本拠(ホーム)の方を見やる。

 第2次侵攻の目標は少なくとも精霊の分身(デミ・スピリット)ということを見越し、フィンはあらかじめサラマンダーウールやウンディーネクロスといった『精霊の護符』を用いた防具や装備が必要と各方面に根回ししていた。

 現在、【ガネーシャ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】の尽力で、(ギルドの金を使って)精霊の護符を買い集めており、着々と準備を行っている。

 

 その準備の中で対精霊の分身(デミ・スピリット)──特に脅威とされる超長文詠唱の魔法の対策(メタ)として扱われるのが、この団旗のような『精霊旗』である。

 以前起こったゼノス騒動にて、アクスがブリューナクに括り付けられた団旗が魔剣から放たれた雷撃を絡めとって消失させた現象を基に、椿たちは『精霊の護符』で各属性魔法の減衰率を改めて調査。ど(・)こ(・)ま(・)で(・)護(・)符(・)を(・)減(・)ら(・)せ(・)ば(・)特(・)定(・)の(・)属(・)性(・)魔(・)法(・)が(・)消(・)失(・)で(・)き(・)る(・)か(・)を検証し、それぞれの属性に特化した精霊旗を量産する目途をつけた。

 

 そのための試金石がこの団旗である。廉(・)価(・)版(・)とは違い、これはブリューナクに括り付けてあった『全属性の耐性』をもった旗である。

 流石にこれから精霊旗を量産しようという時分なので、某機動戦士ばりに高コスト高性能ではないものの、それでもリヴェリアの氷と炎。ついでにフレイヤの気まぐれで数分だけ呼び寄せることが出来たヘディンの雷魔法を半ば消失せしめた性能を持っていたりする。

 

「ちょ、ちょっと待て。さっきのボウガンと槍と旗で……」

 

「ディアンケヒト、安心せい」

 

「そうよ、安心なさい。……って、どうしたのアクス」

 

 ただ、そうなると当然のことながらお値段もかなりの物となってくる。深層や別の地域に行かねばならない程の超貴重な素材に加えて神々が手ずから作ったオーダーメイド品が数点など、目が飛び出るどころか天に召されるほどの金額なこと請け合いだ。

 いったい総額いくらなのか。ディアンケヒトが戦々恐々といった具合で暗算を行っていたが、『とある理由』からお金の心配などしなくて良いことを伝えようとした矢先のこと、アクスがヘファイストスに槍を返しながら申し訳なさそうに口を開いた。

 

「いらない……です」

 

「ん?」

 

「お金ないから……。いらないです」

 

「んん”ん”ん”!」

 

 まさかの『押し売りお断り』である。

 しかしながら、アクスはお金の関係で武器を断ることは今まで何度かあった。なので、ヘファイストスは決して女神が出してはいけないような声を出しつつも、珍しくどうしたら良いのか狼狽えるゴブニュの肩を軽く叩きながらアクスへ近づいていく。

 

「アクス、これは契約の品よ」

 

「契約?」

 

「覚えてない? "第2次侵攻で犠牲になった人を生き返らせる"って」

 

 膝立ちになり、アクスと目線を合わせたヘファイストスが優しく語り掛ける。

 

 ──そう。ヘファイストスはクエストの報酬としてこの槍を贈ると言っているのだ。

 そのために高い深層産素材を買い集め、ゴ(・)ブ(・)ニ(・)ュ(・)と(・)同(・)じ(・)く(・)神の力(アルカナム)を使わないギリギリの権能で作り、こうしてアクスへ託している。

 いうなれば、邪神の企む野望を打ち砕くために善神が用意した精一杯の支援。しかし、その本音は犠牲になるだろう眷属たちを自らの命でもって蘇生させる治療師(ヒーラー)へ送る精一杯かつ全(・)く(・)も(・)っ(・)て(・)足(・)り(・)な(・)い(・)感謝の現れであった。

 

「なら、もらいます」

 

「これでも足りないぐらいだけど、これ以上は流石にディアンケヒトの精神がもたないだろうしね」

 

 同じことがあったからか、以前と比べて素直に受け取るアクス。せっかく作った品物が無駄にならなかったことに、ヘファイストスがゴブニュと一緒にホッとしたのも束の間。アクスへの要件が済んだということで、壁画の写本を取り出したロキがフィンから聞いたエニュオが行おうとしているオラリオ崩壊の手順を説明し始めた。

 

 写本に書かれていた絵は、『精霊の六円環』。精霊の中で特に力のある大精霊6体が集まって詠唱することで、邪竜を消滅せしめた場面である。

 これがどうしてどの御伽噺や伝説にもなかったのか。端的に言えば、『観測者が須らく余波で消し飛んだ』からだ。

 伝える物が居なければ、いくら壮大な伝説でも冒険譚でも世に出ない。そのため、おぼろげな説明や解釈によって捻じ曲げられ、最終的にはニーズホッグの正体まで分からなくなってしまっていた。

 

「フィンの言うとったことはこれで仕舞いや。ファイたん、さっきので合っとるか?」

 

「えぇ、合ってるわ。それにしても、よく調べたわね」

 

「せやろ? 流石はフィンやでーっと言いたいところなんやけどな。どチビん所の子がちぃっと教えてくれたんや」

 

 この場に集まった神の中で唯一、仔細を把握していたヘファイストスは片手で小さく丸を作る。しかし、その胸中には疑問符で溢れていた。

 ニーズホッグの話は、近場に居た目撃者は全て消え失せているために存在しない。そのためヘファイストスは、フィンたちが少しでも取っ掛かりを掴めばすぐさま情報を開示する用意はしてあった。

 しかし、蓋を開ければ話が伝わっていない理由どころか邪竜を討伐した手段さえも発覚している。特別な力を持った人間の手記などを偶然見つけたのか、それとも自(・)分(・)と(・)同(・)じ(・)目(・)撃(・)神(・)が(・)口(・)を(・)割(・)っ(・)た(・)か(・)。

 どちらにせよ、『下界の災厄は子供たちが乗り越えるべき』ということで黙秘していたが、ここまで正確に答えられてしまえば『間違っている』という意地悪は出来ない。そうしてしまうと、そこら辺の協力的ではない神々と同じだからだ。

 

 一方で、いけ好かないドチビ(ヘスティア)の眷属経由とはいえ貴重なピースの裏取りができたロキは、その糸からさらなる情報を手繰り寄せるべくウラノスへいくつかの質問を行った。

 

「ウラノス、うちも全能でうっすら分かっとるけど一応や。伝説の類でもある古代の大精霊を6体。それらが詠唱して発動する魔法は"扉"以外見当つくか?」

 

「いや、それ以外で見当はつかない。先の話ではっきりした。エニュオがやろうとしているのは"天の扉"。祭壇に配した精霊を媒介に神が送還される際に起こる光の柱を召喚する術式だ」

 

 正確に言えば威力がそれに匹敵するだけで、召喚される光の柱は正真正銘の神の力(アルカナム)ではない。

 ただ、この場に居るのは学者でも何でもない。問題は神の力(アルカナム)に似た力の塊が、今も尚オラリオの地下で発動の準備に入っていることだ。

 

「つまりは、手下不足でエニュオたちは"動けない"……ではなくて」

 

「"動かない"。かつ、このままフィンらが攻め込まなかったら勝ち確の耐久戦や」

 

 いかに希少すぎる大精霊を集めるというベリーが前に数個では足りない程ハードな前提条件があったとしても、明らかにこちら側が不利な状況にロキは『反則もんやな』と天井を仰いだ。

 全知ゆえにその破壊力の高さはおぼろげながら掴んでいるが、あえてウラノスに聞く。すると、『オラリオを含めた周辺がごっそり消え去る』という予(・)想(・)通(・)り(・)の(・)解(・)答(・)が返ってくる。

 

「発動すれば、冒険者ごとオラリオという蓋が外れる。人類全滅寸前までいった古代に逆戻りっちゅーわけや」

 

「流石の神々でも、天の扉には抗えないだろう。そうなればオラリオ以外で対処するしかない」

 

「そうなると、詰みでは?」

 

 ロキ、ウラノスと話を繋げていくが、唐突にアクスが割って入る。いきなり子供が訳知り顔で会話に混ざってきたことにギョッとした神々だったが、最近はそんなことのオンパレードだったことを思い出したロキが続きを促すと、彼は根拠をつらつらと述べだした。

 

 神の血(イコル)によって契約した者たちだが、特(・)別(・)な(・)領(・)土(・)を(・)持(・)つ(・)学(・)区(・)を(・)除(・)い(・)て(・)オラリオとそれ以外では大いに差がある。

 ラキア王国が良い例だ。ダンジョンがないために碌な鍛錬や試練がこなせない彼らは、大半がLV1。最強と称される将軍でさえもLV3が関の山である。

 そんな彼らにオラリオが崩壊した後に現れるモンスターの大群を何とかできるとは思えない。良(・)く(・)て(・)その国の都周辺だけで手一杯。悪くて国の滅亡。

 子供が言うにはシビア過ぎる現実に、ディアンケヒトたちは入(・)れ(・)知(・)恵(・)を(・)し(・)た(・)よ(・)う(・)な(・)存(・)在(・)を(・)有(・)す(・)る(・)主(・)神(・)を一斉に見た。

 

「いやいやいや、さすがのフィンたんもそこまではやってへんて」

 

「いや、前科があるでしょ。ありまくりでしょ」

 

「ロキ様の言ってることは本当ですよ、教えてくれたのは、学区のレオン先生とバルドル様です」

 

 思いがけない人物の名前に、全員が『そっちかぁ』と呟く。

 レオン・ヴァーデンベルク。現在、先にもあった特別な領土──絶賛お空の上を飛んでいる『学区』という教育機関にあるクラスの1つ。バルドルクラスの教師(だんちょう)を務めるもう1人の最強(LV7)である。

 

 以前、学区がメレンに寄港した際に『ダンジョンにおける治療師(ヒーラー)の立ち位置と注意点』という講演の講師として招かれたアミッドと共に連れて来られたアクスだが、流石に子供を教壇の横で待たせるのは憚られたのか、レオンと彼の主神であるバルドルに預けられたことがあった。

 

 その時はまだ闇派閥(イヴィルス)もオラリオ付近でブイブイ言わせており、彼らの言う『オラリオを破壊する』という破滅願望ありありの思想が裏で流行り出していた頃である。

 そのため、『オラリオが破壊されたらどうなるだろう』という物騒なネタで2人と1柱はディスカッションしており、それをアクスが覚えていたのだ。

 

 レオン曰く、オラリオが破壊された場合の再建は不可能らしい。『難しい』や『厳しいが出来る』などではなく、ただただ不(・)可(・)能(・)。その理由は様々だが、あえて理由をいうのであれば『神材不足』と『人類の増えすぎ』が挙げられる。

 

「神材? 冒険者が足りんことか?」

 

「それもありますが、オラリオが破壊されると言うことはウラノス様も送還されますよね? ウラノス様のように創設神になれる神様っていますか?」

 

 アクスの疑問に誰もが答えられなかった。

 それもそのはず。祈祷によってダンジョンからモンスターを出さないようにするのは、よほどの位が高い神ぐらいしか出来ない芸当である。

 例を挙げるならば、追放されたゼウスやヘラ。あるいはオーディンといったところだろうか。どれもこれもろくでもない神たちであるため、『君臨すれども統治せず』を貫いたウラノスの後釜に据えるには俗(・)過(・)ぎ(・)る(・)。

 そういった意味での『神材不足』である。アクスの挙げた神々の名前にかなり嫌な顔をしたロキやガネーシャは、頷きながらも彼が続けて説明し出した『人類の増えすぎ』に耳を傾けた。

 

「続けて、人類の増え過ぎですが……。僕含めて人類ってバカですよ?」

 

「おバカのパルゥム代表が何言ってるの?」

 

「自分が居なくなった後のこと全く考えん阿呆が何を言っておる」

 

「もう少し自分大切にしぃ」

 

「普段は寛容なガネーシャだが、そろそろ本気で怒るゾウ」

 

 総スカンである。

 大人であれば、『ははは、こやつらめ』とピキりながらも右から左に流せたものの、大抵のことはまともに取り合ってしまうお子ちゃまには厳しかったようだ。なにやら涙声で呻きながら言い淀むアクスにそれぞれがついつい胸の内に秘めたことをひけらかし過ぎたと後悔していると、1柱だけ静観していたウラノスが続きを促した。

 

「して、アクスよ。人類が増えすぎたとはなんだ?」

 

「あ゛い、グスッ。オラリオが破壊されたとなると、かつてのコーマック王国のように誰かが旗頭となって連合を結成。足並み揃えて大穴の攻略に望まなければならないです」

 

「そうやな。やけど、昔とは違って人類の強さも上がっとる。結構上手くいくんやないか?」

 

 ロキの言うことはもっともだった。

 眷属になりたてでも、その気になればゴブリンやコボルト程度ならば倒せる。そのまま徒党を組んで地道に頑張れば、ゆくゆくは大穴に到達することも不可能ではない。

 それが数国で行われるのであれば、決して不可能ではない。神々も同じ意見なのか、それぞれが首を縦に振る。

 

 しかし、神々は『人間の持つ欲望の強さ』を分かっていなかった。否、そ(・)れ(・)こ(・)そ(・)が(・)人(・)類(・)の(・)可(・)愛(・)い(・)と(・)こ(・)ろ(・)と肯定的に思っていたのかもしれない。

 先ほどのやり取りで少しばかり話が通じていないことを薄々感じたアクスは、ゼノスを取り巻く環境に憂いていたことから唯一話が通じやすそうなウラノスの方を振り返る。

 

「ウラノス様、オラリオって中立ですよね?」

 

「そうだな。どこの国にも属しておらん。だからこそ、世界は均衡を保っておる」

 

「ウラノス、どういうこと?」

 

「あー、そういうことか。ファイたん、人類にもアレスの阿呆と同じでオラリオの利権が欲しい奴がおるっちゅーこっちゃ。オラリオが特別っての忘れとったわ」

 

 今のオラリオは、世界の中心と呼ばれるほどの大都市である。日夜、屈強な冒険者がダンジョンに赴いては己を昇華させるために戦闘を行い、地上のモンスターよりも大きくて高純度な魔石を持って帰ってくる。

 それを専門の加工職人が魔石製品にし、それを他国に輸出することでオラリオの財源になる。

 

 つまり、王族や上級国民にとってオラリオは『極上の練兵施設にもなる金のなる木』ということだ。

 そんなところが滅びたとあっちゃ、特にラキア王国(アレス)は即座に全軍へ『全速前進だ☆』と通達し、マリウスあたりにどつかれてもおかしくはない。

 それに、ラキア王国でなくともオラリオを手中に収めたい国はゴロゴロ居る。それこそ、『うちらズッ友だから、お手々繋いで一緒に大穴を塞いで、その後は仲良く統治しようね!』と国同士で同盟を作っても、情勢や諸々の関係で『楽しかったぜぇぇ!! お前との友情ごっこォ!!』と醜悪な裏切りをする場合も想像に難くない。

 

 早い話。

 モンスターの相手をしながら。

 権謀術数によって、昨日の味方が今日の敵のように相手をコロコロ変えながら。

 大陸にあるほぼすべての国が参加者の天下一武道会を行い。

 1番つええやつが世界の覇者だ。王族(おら)たち、スッゲーワクワクすっぞ! 

 ーーである。

 

「王族とかは歓喜するでしょうね」

 

「逆に現場の人間ががが。タスクが……納期が……」

 

「いかん! アクス、これが終わったら休暇だ! いいな!? よし、この話は終わり! 終わりじゃ!」

 

「そうね、そろそろ解散かしら」

 

 困るのは現場の人間。そのことに心的外傷が抉れたのか、アクスがブルブル震えたためにディアンケヒトは無理やり話を終わらせようとする。

 まぁ、そんなどブラックな職場を司る主神はどうでもいい。最近、やたらとギルドに行っているために周囲の視線が気になりだしたヘファイストスはお開きにしようと提案する。

 

 しかし、その提案はディアンケヒトによって遮られた。どうやらアクスの潜伏先や予定が少々変わるようだ。

 

「アクス。お前には足りないものがある。分かるか?」

 

「情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ。そしてなによりも、速度?」

 

「……ロキ、次の遠征で使う薬品系の値段だがな」

 

「いや、他の神やって! アクスが変なこと覚える原因がなんでもうちのせいにせんといて!」

 

 前科があり過ぎるためにロキを睨みつけたディアンケヒト。必死で抗議する彼女を尻目に、このまま漫才してもらちが明かないとあっさり答えを言う。

 

 アクスに足りない物。それは『実戦経験』である。

 無論、最近では前線指揮官だの突撃前衛だのと様々な経験をしている彼だが、本職は治療師(ヒーラー)。ゆえに平時であれば実戦経験は決して必須ではない。

 ただ、これから行われるのは『オラリオの存亡を懸けた総力戦』だ。なので、総(・)力(・)戦(・)が(・)終(・)わ(・)っ(・)た(・)後(・)が(・)本(・)番(・)なアクスには『生き残れる地力』をつけねばならない。

 

「本当なら、メレンにでも監禁したいが……。平然と戻ってきそうじゃからなぁ」

 

 本来ならば、アクスは第2次侵攻に向かわせるべきではないのは分かっている。ディアンケヒトも内心、今からでもアミッドに全てを打ち明けた後に【神秘】マシマシの麻痺薬やら麻酔やらを彼女に作ってもらい、それをアクスに投与。そのまま超硬金属(アダマンタイト)製の鎖で雁字搦めにしてメレンのギルドあたりに監禁するのが良いとは思っている。

 

 ただ、このパルゥムのことだから平然と戻ってくるだろう。ここまで来ると呪いの人形のように思われるかもしれないが、LV3ともなれば多少の無茶は出来てしまうのだ。

 

「とりあえず、"修行回"っちゅーやつや。クノッソスの1番外側は緑肉の影響少ないって言うし、明日の早朝にそこ通って、この地図の印のところに集合な。ディアンケヒトに言われたからって言うのもあるけど、うちも出来る限りアクスに色々返したいからな。教師役は奮発させてもらうわ」

 

「ユーノも連れてって良いですか?」

 

「むしろ、アクスは騎兵みたいなもんやし、必須やろ。あと、お目付け役に1人ぐらいなら連れて来て良いで」

 

 オラリオで売られているよりも精巧な周辺地図──間違いなく【ロキ・ファミリア】の戦略物資の類をポンと渡してきたロキが、オラリオから少し離れた平原に書かれた丸を指差す。

 正直なところ、ロキの言う事の半分も理解できなかったアクス。それでも、『オラリオ』、『ファミリア(かぞく)』、そして『大事な姉(アミッド)』のために、今一度己を鍛え直すことを心に誓った。




次回 修行回。3年後、オラリオで!

アクス
 姉様に会いたい!(某ツガイ風)
 そりゃ、成り行きとはいえ死んでもおかしくないところに放り込まれて、すぐそこに地上があれば帰りたいよ。

祈手(アンブラハンズ)
 愛です。愛ですよ、アクス。というのは冗談で。
 リリルカがゴブニュに製作を依頼した武器の試作品を再利用した物。『遠くから治癒魔法を飛ばせる触媒』として、ヘファイストスからブリューナクを譲ってもらった。
 お値段は気にしない方が良い。

朱天槍(ゲイ・ジャルグ)
 元ネタはディルムッド・オディナの持つ魔法を打ち消す短槍。元ネタ的にゴブニュ製にしても良かったが、どちらもゴブニュだとおさまりが悪いのでヘファイストスに。
 オブシディアン・ソルジャーの体石を大量に突っ込み、ヘファイストスが手ずから打ったことで魔法を切り裂けるような代物に至った名槍。おまけで付いてきた精霊旗のプロトタイプを併用することで、魔法対策装備となる。
 余談だが、黄色の槍も登場予定。
 材料?傷が治らない武器ってだんまちにもあるではないか。聖女の残り湯浸した布で舞いとけば浄化されるやろ。

アクス、強化し過ぎじゃない?
 こんぐらいしなきゃこのポメラニアン、ボロ雑巾になっちゃうでしょ!
 それに、神的に言ったら『この子が生き残らないと大量の冒険者が死ぬ』から。そら必死よ。

レオン先生/バルドル様
 アミッドが講師をしている間、面倒を見てくれた人と神。
 「うちは託児所ではないのだが?」とか言いつつも、最終的には「英雄、集めないとなぁ」とノリノリで話し合っていたとか。

オラリオが無くなったら
 徹頭徹尾、作者の妄想。
 でも、ありえそうじゃないです? 大乱闘スマッシュ人類(モンスターも居るよ!)とか目も当てられん。

訓練相手
 そろそろ戦闘回を……なっ!!
 フィンではないが、近しい存在とだけ。
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