ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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135:セットアップ

 さて、アクスが上級冒険者の上澄みとされるLV6の可愛がりを受けている2日ばかり過ぎた頃。【ディアンケヒト・ファミリア】はというと、治療院ではなく倉庫代わりにしている豪邸(ホーム)にて来るべき第2次侵攻の準備を着々と行っていた。

 

「薬品類の在庫確認、終わりました。やはり、高等回復薬(ハイ・ポーション)と高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)がかなり少なくなってます」

 

「増産作業を行っている薬師(ハーバリスト)から、液体を入れる瓶が足りないと報告が上がってます!」

 

「商会から新しいラベルが届きました!」

 

「瓶は市場に出てる物をかき集めて! ただし、頑丈な物をお願い! 手が空いてる治療師(ヒーラー)はラベル貼りを手伝って! 等級をちゃんと確認してね!」

 

「回復薬(ポーション)のホルスターと運搬箱の発注だけど、もう終わってる!?」

 

 今月に入って何度目かも分からない臨時休業。そのこともあってか全員は慌ただしくも慣れた調子で走り回り、誰かが叫ぶたびに情報が更新されていく。

 そんな戦場の真っただ中にいるかのような喧噪を聞きつつ、来客用として一応備え付けられた応接室では神2柱と冒険者3人が話し合いを行っていた。

 

「随分マシになったみたいだね、よかったよ」

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

 第2次進攻には当然ながらアミッドの力も必要不可欠なため、少(・)し(・)ば(・)か(・)り(・)調(・)子(・)が(・)戻(・)っ(・)た(・)彼女の反応にフィンは軽く安堵する。

 ただ、現在の【ディアンケヒト・ファミリア】は多忙を極めている。『限界のその先』はまだ先なものの、修羅場の真っ最中に居るのは間違いない。そのこともあってか、彼女は急かすように本題を尋ねた。

 

「それで、今回はどのようなご用件で? 準備に関しては抜かりなく行っておりますが」

 

「君を含めて、第2次侵攻に参加する人数を聞いておきたい。すでに団員たちには聞いているんだろう?」

 

「……はい」

 

 フィンの問いに、アミッドは長い沈黙の果てに小さく肯定する。実を言うと、最終決戦とも言うべき第2次侵攻という名の大部隊を前に彼女は団員たちに覚悟を問いかけていた。

 

 ──そう。『覚悟』だ。これはフィンやアクスの持っている『勇気』とは似て非なるものである。

『勇気』は、前に進むことで状況が打開できる可能性がある。しかしながら、アミッドが問うたのは『礎となる覚悟』。もっと具体的に言えば、『死ぬ覚悟』だ。

【ディアンケヒト・ファミリア】の主な構成員は治療師(ヒーラー)や薬師(ハーバリスト)。すなわち、後方支援が主な役割の冒険者である。そんな彼/彼女たちが戦場に立つ以上は危険が伴うのは至極当然のことだし、仮に前衛が全て死亡すれば後に残るのは碌な抵抗もできない後衛(じぶん)たちである。

 

 だからこそ、ヘイズとナァーザの助けを借りることで窮地を脱することが出来たアミッドは、なぁなぁで済ますことなくハッキリと『死ぬリスクが高いこと』と『団長である自分も死ぬ可能性が高いこと』を告げ、その上で第2次侵攻に参加する者を募った。

 その結果が30人。ただ、5人ほどLV1という最低限の自衛も出来ない団員たちも居たので、最終的には25人のLV2以上の治療師(ヒーラー)が集まった。

 

「そんなにかい。君たちの勇気に感謝と敬意を」

 

「皆様が矢面に立つのであれば、それを癒す存在が必要でしょう、私たちは自身の出来得る限りのことはやらせていただくだけです」

 

「ハァ……、あやつら含めてこう言って聞かんのだ」

 

 まったく誰に似た……。いや、この場合は誰(・)か(・)さ(・)ん(・)と(・)似(・)て(・)い(・)る(・)と言うべきか。

 それでも『止めろ』とディアンケヒトが言わないのは、祈祷の間で他の神々と行っていたやり取りがあったからこそであろう。鋼どころか超硬金属(アダマンタイト)のように強固な意思で参加を希望する団員たちの顔を思い浮かべながら、彼は深いため息をついた。

 

「ひとまず、これで編成させてもらうよ」

 

「よろしくお願いします。ところで、なぜリーネさんがここへ?」

 

 参加者の名前を共有したアミッドは、なぜかこの場に居るリーネを見つめる。その視線に彼女は自信なさげに目を伏せたものの、横に居たフィンは朗らかに笑いながら『手伝えることがないかなってね』とリーネの使い道を提示した。

 

 彼女は治癒魔法──それも不治の呪詛(カース)を癒せるまでに成長した治療師(ヒーラー)である。

 それに【ディアンケヒト・ファミリア】で世話になっていた時期もあるため、通常業務を含めて今のような修羅場でも邪魔をすることなく手伝うことが出来るのではないかと思って連れてきたらしい。

 

「たしかに、リーネさんが居れば大いに助かりますけど……」

 

「なにか不安かい?」

 

「いえ、不安はありません。特にティオネさんたちのような実力者を守るバトルクロスの新調も大詰めですから、人手はいくらでも欲しいです。ただ、地上のみでリーネさんを運用するのはかなりもったいないと思いまして」

 

 そう言って少しばかり考えたアミッドは、何かを思いついたのか『失礼します』と言って席を立つ。なにやら不可解な動きにフィンたちどころか主神であるディアンケヒトも心配そうに待っていたのも束の間、彼女は大勢の団員たちを連れて戻ってきた。

 

「アミッド!? なにを……」

 

「団長、いきなり呼び出してどうしたんですか?」

 

 詳しい話を聞かされていないのか、双方とも訳も分からずに対面するという混沌(カオス)な展開になってきたが、ここでアミッドがリーネたちに指令を伝える。

 

 それは、ダンジョンへ行くこと。言われてすぐには事情が理解出来なかったが、扉の外から聞こえてくる喧騒にだんだんとんでもないことを言われたと認識し出した団員たちがどういうことかと抗議し出す。

 

「私たちが作業の邪魔と?」

 

「団長、流石にそれは承服しかねます」

 

「やっぱり、アクス君のことをまだ引き摺って……」

 

「んんっ! 最後のは聞かなかったことにします。別に邪魔だからというわけではないです。ただ、私はあなたたちを死なせたくはありません」

 

 咳払いをしながらも語り掛けた言葉に、全員が押し黙る。『死ぬ覚悟』、『オラリオの礎となる覚悟』は問うたが、アミッドは進(・)ん(・)で(・)死(・)な(・)せ(・)る(・)つ(・)も(・)り(・)も(・)死(・)ぬ(・)つ(・)も(・)り(・)も(・)な(・)い(・)。

 つまりは、『抵抗できるぐらいの力を身に着けて欲しい』ということだ。それにはダンジョンに関して【ディアンケヒト・ファミリア】の面々よりも知識や経験があるリーネを先導に、何度かダンジョンを往復してもらって地力をつけてもらうのが1番の近道である。

 

 たしかに治療師(ヒーラー)の地力を上げることが出来れば、より質の良い回復支援や長時間の運用が可能となる。そう判断したフィンはア(・)ミ(・)ッ(・)ド(・)の(・)意(・)見(・)を(・)さ(・)ら(・)に(・)練(・)り(・)上(・)げ(・)た(・)案(・)と共に賛同した。

 

「それは良いね。リーネ、そろそろ君にもサポーターを取りまとめる長をやって欲しいと思ってたんだ。その練習がてら、やってみると良い。それと、"クレアたち"も護衛として連れて行ってほしい」

 

「え、えぇ……。ぶ、部隊なんて……」

 

「大丈夫です。後ろの25人は全員、並行詠唱が使える上級冒険者なので。あ、皆さん。出来ればリヴィラの街で往診をしてから帰ってきてください。あの子が居ないと知らない人たちが催促をしているので」

 

「了解っす。じゃあ、よろしく頼むわ。"リーネ隊長"」

 

 あれよあれよという内にダンジョンへ往診に向かうように決まってしまう。未だ事態を把握することが出来ずに『ふぇぇ』と鳴き声を上げるリーネに『頼んだよ』とエールを送ったフィンは、これ幸いとセクハラをキメるロキの首根っこを掴みながら引き摺って治療院から出て行った。

 

 その後、冒険者の間でまことしやかに『ダンジョンで治療師(ヒーラー)の集団が怪我人を求めて彷徨っていた』という噂がクノッソスの1件が片付くまで流れていたとか何とか。

 

***

 

 そんなこんなで地上側が第2次侵攻に備えて準備を進める一方。アクスはというと。

 

「祝福はなく、見返りもない。ただひとえに──約束の地(ティル・ナ・ノーグ)のため」

 

「足先にも注意を向けろ。そうだ、その感覚を忘れるな」

 

 槍と杖で打ち合いながらも並行詠唱を行うアクスに、リヴェリアは笑みを強くする。

 

 高位の魔導士の必須技能である並行詠唱だが、実のところ『ステップ』がいくつか存在している。

 1つ目は『移動』。これはゆっくりとした移動から始まり、小走り、疾走。そして、先だって第2次侵攻に志願した【ディアンケヒト・ファミリア】所属の精鋭たちのように『全力疾走』中の並行詠唱でもって第1ステップは完了する。

 この段階で逃げながら詠唱できるため、魔導士としては中の上といったところだろう。だが、オラリオで1~2位を争う程の魔導士(リヴェリア・リヨス・アールヴ)から言わせると、半(・)端(・)者(・)であった。

 

 第2ステップから、この『移動』を戦闘行動に繋げることが主題となってくる。

 移動は当然ながら、そこに防御や回避。攻撃といった『戦闘において必ずやらなければならない動作』を繋げていき、そこからさらにステップが上がって防御を行ってから魔法での反撃。回避をしながら移動し、近接武器を用いた攻撃──と様々な組み合わせをすることが出来れば、晴れて並行詠唱は修めたと言ってもいい。

 

 さて、講釈はこのぐらいにしよう。

 我らが話を聞かないことで有名な困ったちゃんことアクス・フローレンスはどうなのか。詠唱を行いつつも、リヴェリアからの杖を既のところで躱す。それを何度も続け、さらには覚えたての『攻撃』も挟み込んでくるため、レフィーヤを指導する時のように接していたリヴェリアだが内心は感心していた。

 

(しかし、独学とはいえ既に回避は出来ているとは。攻撃も初めてにしては慣れているように思える)

 

 初めての動きというのはどことなくぎこちないものである。されど、アクスの動きは明らかに慣(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 これにはリヴェリアたちが知り得ない理由が存在する。

 その理由とは、ランクアップしてから格上たち(リドやグロス)に訓練をつけてもらっていたり、ベルや【ヘスティア・ファミリア】の救助のために深層という『危険度に目を瞑れば極上の経験を得られる場所』へ向かうといった、な(・)し(・)崩(・)し(・)的(・)に(・)強(・)く(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)到(・)底(・)生(・)き(・)残(・)る(・)こ(・)と(・)は(・)出(・)来(・)な(・)い(・)状(・)況(・)下(・)に(・)放(・)り(・)込(・)ま(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)結(・)果(・)がアビリティや戦闘技術としてアクスの身に宿ったからである。

 高速で走るユーノの背中に揺られつつ、攻撃を喰らえば即座に戦闘不能になるモンスターの群れを最低限の動きで避ける動体視力に、ただでさえ小さい魔石を槍の穂先で穿つ集中力。そのどれもがこの訓練に活かされていた。

 

(いや、並行詠唱だけではないな。ガレスの言うように、明らかに"勝ちに来ている")

 

 英勇詩篇(ミレシアン)が内包された祈手(アンブラハンズ)を避けたリヴェリアだが、鏃代わりのブリューナクが地面に刺さったと同時に幻影に取り囲まれる。そんな『ガチ』な戦術に、彼女は昨日稽古をつけていたガレスの言葉を思い出していた。

 

 ──リヴェリア。あやつ……。アクスは儂たちに勝つつもりじゃぞ。

 

 何度も言うが、これは訓練。それも相手は明らかな格上(LV6)だ。

 それでもアクスは──最弱の種族(パルゥム)は──そんな弱音(りゆう)で止まる存在ではなかった。

 真っ当な打ち合いであればガレスに負け、詠唱速度を始めとした魔法関連はリヴェリアに負け、なにもかもが同じパルゥムであるフィンに負ける。

 

 そんな相手とどう立ち向かうか──『逃げる』しかない。そのままの意味ではなく、弱者ゆえに手を模索し、弱者ゆえに同じ土俵に立たないという意味での逃げだ。

『兵は詭道なり』という言葉もある通り、戦いとは騙し合いの連続だ。『まさかそんな』と相手が思えばおのずと呼吸が乱れ、それが巡り巡って格上を刈り取る刃となる。

 

 だからこそ、アクスはあの手この手でリヴェリアに立ち向かう。

 幸運なことにこれは訓練である。死なないだけでもお釣りが来るし、なおかつ試してみて効率や反撃のリスクが高いやり方は修正してもらえる。

 つくづく至れり尽くせりな環境に感謝しながら、アクスは次の手を打った。

 

「両手を叩く……使いにくそうな魔法だな」

 

 英勇詩篇(ミレシアン)の全容が分かっていないことを良いことに、朱天槍(ゲイ・ジャルグ)を放り投げたアクスは昨日までのようにわ(・)ざ(・)と(・)両手のひらを打ち合わせて大きな音を立てる。パァンという小気味良い音に紛れて『フォルティア』と呟くことで位置を入れ替えた彼は、そのままリヴェリアに跳び蹴りを見舞う──が。

 

「あっ!」

 

「作戦は良い。だが、その癖を何とかした方が良いな。視線だけで意図を察する奴もいるぞ」

 

 咄嗟に杖を離したリヴェリア。そのまま自身の腰に向かって放たれたアクスの足を両手で捌くと共に掴み、流れるような動きで彼を投げ飛ばした。

 一流の魔導士は自衛の手段も一流である。得難い経験を積んだアクスは、その自衛手段を掻い潜るためにさらなる一手を模索し、即座に実施した。

 

「同じ手を……なにっ!?」

 

 同じように柏手に紛れた起動鍵(スペルキー)でリヴェリアの死角に潜り込んだアクス。しかし、同じことの繰り返しと彼が視線を向けた方向に身構えたものの、向かってきたのは真黒い幻影。予想と反したことに少々驚きながらも、彼女は危なげなく襲い掛かって来た幻影を対処する。

 

 しかし、それが致命的な隙となった。

 

「ぐっ……!」

 

「やった!」

 

 一瞬だが、腰のあたりに痛みが走る。その咆哮に目を向ければ、アクスが彼女の腰あたりから握り拳を離している姿が映った。

 先ほど指摘した視線を逆(・)に(・)利用したフェイント。手を変え品を変えというには少しばかり対応が早すぎるため、リヴェリアは『頭の回転の速さも油断ならないな』と称賛すると構えを解く。

 そのまま上を向けば、ちょうどいい太陽の位置。次(・)の(・)予(・)定(・)の(・)た(・)め(・)に(・)移(・)動(・)し(・)よ(・)う(・)と、彼女は持って来た大きめのバックパックの中身をぶちまけると、流れるようにアクスを確保する。

 

「さて……」

 

「【ロキ・ファミリア】はいつの間に人攫いに転職したんですか?」

 

「全てフィンが悪い」

 

 文句を言ってくるアクスに対して1言のみ反論しつつ、リヴェリアは碌に抵抗しない彼をバックパックに詰め込む。そして、レットやユーノに『迎えが来るまでここで外を堪能していろ』と言ってからさっさとオラリオへと戻ってしまった。

 その間、3分未満という驚異の撤収速度に異端児(ゼノス)たちは口をポカンと開けていたが、『とりあエズ、ゆっクリしましょウ』とレットはリヴェリアが置いて行った食料に手を付ける。対してユーノはその場で寝転びだし、大きな欠伸をしだした。

 

 今日もオラリオ周辺は平和である。

 

***

 

「皆、忙しい中良く集まってくれた」

 

【ロキ・ファミリア】のホームである黄昏の館。その地下のさらに奥まった所という密談にもってこいな1室にて、フィンは集まってくれた面々に声をかけた。

 しかし、そんな朗らかな彼の雰囲気が気に食わないらしく、ベートはフィンやその両隣に居るリヴェリアとガレスを睨みつけた。

 

「フィン、良いから率直に話せ。俺たちは時間がねぇ。違うか?」

 

「団長、自分もベートさんの意見に賛成っす」

 

「それに、こんな所に呼び出して……。皆が一緒では駄目なのですか?」

 

 ベートの言葉に同じくこの場に集められたラウルやアリシアが同意する。

【ロキ・ファミリア】は朝食を共にするという不文律が存在するぐらいには派閥内の風通しが良い。以前の異端児(ゼノス)に関しても、全団員を招集したうえで各々の裁量に任せるという懐の深さも持ち合わせている。

 

 そんなファミリアの首領たちが、まるで見せたくないものを見せるかのように遠征でもろくに使わない物資を押し込んでおく倉庫の更に奥という存在すらも知らない部屋に呼び出すのはどう考えても不自然だった。

 

 それに、密談を行うにしてもメ(・)ン(・)バ(・)ー(・)が(・)足(・)り(・)な(・)い(・)。ラウルがそれを指摘すると、フィンは『条件に合致しないから』と中央に鎮座しているバックパックを見やる。

 

「条件?」

 

「それは、もしかして【ディアンケヒト・ファミリア】関連……ですか?」

 

「アキ、どういうことっすか?」

 

「あぁ、ごめんね。たぶんベートも気づいてるけど、このバックパックから薬草の匂いがするの。それに、ここに居ない幹部や幹部候補に一貫性があるはずよ」

 

 アキからのヒントに少しばかり思考を巡らせるラウル。この場に居ないのは、ヒリュテ姉妹にアイズ。後はレフィーヤといった幹部候補である。

 家族感が強い【ロキ・ファミリア】でも、上に立つ者の振る舞いには一等厳しい。『幹部の自覚が足りない』と常々アイズに言っていたフィンたちがあ(・)え(・)て(・)そんな仲間外れを作るか。答えは否である。

 

「もしかして、【戦場の聖女】(デア・セイント)関係っすか? ……な、なーんて。ははは……」

 

「うん、それであってるよ。アキのヒントからよく分かったね」

 

 まさかの大当たり(ジャック・ポット)である。全く根拠のないデタラメを言った自覚から彼は口を空けながら呆けていたが、フィンは無視して人選の理由を話し出す。

 今回の主な選定条件は、アキやラウルの言ったように『アミッドと繋がりがない幹部や幹部候補』である──というのも、リヴェリアが持って来た積(・)み(・)荷(・)。それは絶対に隠さねばならない存在なのだ。

 

「なら、俺たちにも秘密にすりゃいいじゃねぇか。なんだって集めた」

 

「それは、彼……"ミスター・積み荷"の存在が結構規格外だからね。周知しておかないと混乱が起きるぐらいにはね。本当はティオネあたりにも居て欲しかったけど、アミッドにバレるからね」

 

「……あっ、分かっちゃったっす」

 

『ミスター・積み荷』と形容するフィンに、ラウルは何かを察したらしい。ズンズンとバックパックに近づくと、固く結ばれた紐をてきぱきと外して中を改めると、『やっぱり』と1人のパルゥムを抱え上げた。

 借りてきた猫のようにじっとしながら周囲を見渡した子供──アクスは見知った面々の顔を見てペコリと一礼する。

 

「あ……ア……」

 

「アリシア、叫ぶな。バレる」

 

「アキも抑えてくれ。ここに居る者だけの秘密だ」

 

 まさかの人物に大きく叫びそうになるアキとアリシアをフィンたちが何とか抑えたものの、あまりにも驚きの方が強いのか『どこぞのZな戦士』のように単音しか発せない人間になってしまった2人。その様子から話が進まない雰囲気を察したのか、ベートが横から口を出してきた。

 

「俺たちに内緒で隠してたってわけか。だが、まぁ……フィンやババァ共が考えてそうなのは分かるぜ。雑魚じゃねぇ上にやたらしぶとくて、放置すると都合の悪いことばかり起こされる。俺が闇派閥(イヴィルス)なら、真っ先に狙う存在だ」

 

「そうだね、概ねその通りだよ」

 

 ラウルやアリシアに身体を持ち上げられながらシェイクされるアクスを尻目に、フィンはベートの推測を肯定する。ただ、本当はそ(・)う(・)し(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)た(・)矢(・)先(・)に(・)失(・)踪(・)し(・)、(・)な(・)ん(・)や(・)か(・)ん(・)や(・)あ(・)っ(・)た(・)末(・)に(・)予(・)想(・)外(・)の(・)収(・)穫(・)を(・)引(・)っ(・)提(・)げ(・)て(・)自(・)力(・)で(・)帰(・)っ(・)て(・)来(・)た(・)というのが正しいが、本当のことを言うと話がややこしくなるために黙っておくことにした。

 

 すると、先ほどまで訳知り顔で推測をかましてきたベートが訝しみながらフィンへと疑問を投げかける。

 

「だが、解せねぇ。なんで今更になって俺たちにこいつのことを話したんだ? ラウルたちなら万に一つもねぇだろうが、無駄に情報が洩れる危険を冒すのはどうなんだ?」

 

「ベートの言う通り、初めは黙っておくつもりだった。だけど、事情が変わってね」

 

「事情っすか? もしかして、何か作戦に変更が?」

 

 既に準備が始まっている以上、作戦が変更となると一大事である。せめて変更点が小さいことを祈るラウルに、『後で話すけど、【ロキ・ファミリア】(うち)は変わらないよ』とフィンは笑いかける。

 そして、おもむろにアリシアからアクスを譲ってもらった彼はアクスを地面に下ろすと、『アクスがランクアップした』とカミングアウト。再び周囲が叫びそうな予兆を一睨みで制すると、【死神の祝福(ペイルライダー)】のことだけは話さずに魔法とスキルの概要を語り出す。

 

 ただ、常軌を逸した無法(【ペイルライダー】)の情報が無くとも、位置が交換できる幻影魔法に応援という曖昧な条件で仲間の強化ができるスキル。英勇詩篇(ミレシアン)を行使して実演するアクスや相変わらずの壊れ魔法とアクスを見つつもどこか遠くを見ているフィン以(・)外(・)。それこそベートまでも、まるで信じられないものを目の当たりにしたかのように固まっていた。

 

「あれ、リヴェリア。ガレスも。君たちも魔法については初見かい?」

 

「いや、発動条件は手を叩くはずではないのか?」

 

「儂との訓練の時も手を叩いてから位置を交換しとったぞ」

 

 自分との認識がズレていることに、実際の訓練を見ていないフィンは首を傾げる。すると、ラウルの主導で部屋の中にある物を使ってどこまでの物の移動が可能か検証していたアクスが、さらっと『嘘ですよ?』と告げた。

 

「う……そ?」

 

「はい。起動鍵(スペルキー)は対策されやすいって昔にリヴェリアさんとアリシアさんに教えられてたので」

 

「え、レフィーヤに話したつもりだったのに」

 

 ハキハキと話す事情に、『そういえば』と2人は過去を思い返す。

 

 昔、彼がLV2となって治癒魔法が発現した際にリヴェリアとアリシアが魔法に関する指南を未だ【ロキ・ファミリア】に入って間もなかったレフィーヤのついでにしてやったことがある。

 だが、それは起動鍵(スペルキー)を持っているレフィーヤに向けた内容。それも講義と講義の合間に説明した、いわゆる『箸休め』的な立ち位置であった。

 それを律儀に覚え──あまつさえその『知識』でもって格上(じぶん)に一太刀を入れた。知識を武器に変えるという冒険者が常に意識しなければならない教訓を見事に実施してみせたアクスに、リヴェリアの中の教(・)育(・)マ(・)マ(・)を目覚めさせることとなった。

 

「すまーん、レイたんの案内に夢中になってたわー……って何しとるん?」

 

「ロキ。すまないが、この子をうちに入れてくれないか? 私が面倒を見る」

 

 神の気まぐれでハーピィの異端児(ゼノス)であるレイにホームを案内するという『建前』をこなしたロキが部屋に入ってくる。しかし、彼女の来室を待ちわびたかのようにアクスを確保したリヴェリアが期待に胸が一杯といった様子でフィンのようなことを言ってくるため、思わず『またかいな』と呟いた。

 

 決して勘違いして欲しくないが、【ロキ・ファミリア】は決して人(・)材(・)不(・)足(・)だったり昨今話題になっているような新卒ではお祈りしたくせに、他の会社で着実にキャリアを積んでレベルが高い人材になった瞬間に刈り取ってくるような無法者ではない。ないのだが、パルゥムという括りからかなり外れた感性や自ら定めた憧憬を目指すために足掻く姿。そうした上でようやく芽が出てきた伸び代。その他諸々を引っくるめた存在だからこそ。

 言うなれば、『アクス・フローレンスだからこそ欲しい』のだ。

 

「リヴェリア、えぇ加減にしぃ。アミッドが許さんで」

 

「分かってる、冗談だ。……多分な」

 

「約1名、多分やなさそうなのがおるんやけど。戻ってきぃ!」

 

 絶賛、次の遠征でレンタルする人材について独りごちているフィンにロキは珍しく物理的なツッコミを入れる。殴られた衝撃によってようやく正気を取り戻したのか、彼はため息交じりで『エニュオが居なければ、こういう相談をしたかったんだけどね』と内情を吐露した。

 

「そういえば、そうっすね」

 

「こんなことがなかったら、物資を求めてオラリオ中を駆け巡ってたはずね」

 

「今より遥かにマシなことやってたのは確かだな」

 

 フィンの言うことにラウルやアキ。ベートまでもが同調する。

 彼/彼女らの言っている通り、元々予定していた遠征計画を逆算すればそろそろ他派閥への交渉に乗り出す頃合いだ。見返りが金銭であれば値下げ交渉や資金調達をしなければならず、深層の素材調達であれば編成も考えなければならない。

 併せて物資を調達する必要も出てくるので、オラリオ中の商会をハシゴする必要も出てくる。

 

 ぶっちゃけ、フィンたちも当初の計画を根底から崩されたことで、こ(・)ん(・)な(・)現(・)実(・)逃(・)避(・)を(・)し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)ほ(・)ど(・)『オコ』であった。

 

「ただ、考え方を変えればこれも階層主との戦いに相違はない。これを乗り越えた時、僕たちも──」

 

「あのー、団長。アクス君が寝ちゃうので、そろそろ……」

 

 見ればラウルの背中でスヤァ……と目を閉じているアクスの姿。

 けれども仕方ないだろう、先ほどまでリヴェリアと訓練をしていたのだ。疲れた子供がすぐ眠ってしまうのは、自然の摂理というやつだ。

 それでも空気がぶち壊されたことも事実。ラウルから急かされたフィンは、『そうだね』と若干テンションを落としつつ、本題である第2次侵攻における部隊構成を話し出した。




次回。本作戦は──人手が──足りない。(どこかの翼のおふくろさん感)

ファミリアの様子
 第2次侵攻に備えて、てんやわんや。これでもまだ限界ではないらしい。
 調剤や箱詰めをする傍らでアミッド含め、製作系のスキルやアビリティがある者はバトルクロス(ダンメモの新衣装ガチャ的なあれ)を作ってるらしい。

リーネ/クレアたち
 アクスが居たことで蘇生されたり、生き残った人たち。フェードアウトするのは惜しいので、ちょくちょく役割を持ってもらっている。
 今回は護衛や集団の隊長として。第2次侵攻ではおそらく救出部隊に割り当てられる。

25人の志願者
 アクスのコソ錬に引き摺られる形で全員、全力疾走しながらの並行詠唱が可能。リーネを隊長としたダンジョンアタックにより、コミカライズや原作よりは強化される。
 それでも、相手は階層主以上だからね。是非もないよね。

対リヴェリア
 魔法縛りでやってみたら、結構白熱したらしい。
 ちなみに昨日のガレスは、アクスがホームランダービーを回避したことでテンションが上がってしまい、割と本気でアクスを殴ってダウンさせた模様。万能薬(エリクサー)って便利!

幻影と位置を交換する際の柏手
 おそらく夢の中で『身長と尻のデカい女が好み』とかいうゴリラにでも出会ったのだろう。知らんけど。
 ただ、2度目は通用しないが割とありなのではなかろうか。
 「どんな女が好みだ?」
 「お姉ちゃん!」
 「なんて澄んだ目をしてやがるッ!」

アクス生存を知った人たち
 いけに…知ってる人が多い分、助かるからね!
 人身御…部隊運用には仕方ないことだからね!

アクス
 仕方ないだろ、アクスなんだから!
 難しいことばっかり話されたら飽きるし、身体動かした後で眠いんだ!
 ただ、アミッドやディアンケヒトの教えが行き届いているのか、ちゃんと聞くべきところはちゃんと聞いていたりする。

後書きの後書き
 結婚式のあれを投稿してから、メッセージとかアクス殺害大好き編集長(同僚)がたまーに『ヘイズとアクスのR元服はよ』とか送って来るけど、需要は無かろうとは思う。
 あったら勉強してRー18枠作って書くかなぁ。まぁ、需要無かったらそれを理由にしよう。うん。
 うちのはおねしょただったり、しょたおねだったりするし。

 あ、ちなみに今週の月曜日はちゃんと祝日は休みなので、短いですが小神父の小話(熱中症からアミッド看病回に変更)投稿します。やったぜ。

ぶっちゃけR元服(今の所は小姓アクスのみ)需要あるかい?

  • あるからはよ(R元服)書け
  • 無いからはよ(NotR元服)書け
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