ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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136:作戦会議(ブリーフィング)

 さて、ラウルの手からアキの手へ、そこからロキの手にアクスが渡っていく最中。フィンから前提条件として、エニュオが行おうとしている『天の扉』についての大まかな説明がなされた。

 

「オラリオとその周辺が……」

 

「どうにかできないんですか? ……その、発動を遅らせるとか」

 

「第1次侵攻ぐらい前やったら、精霊の分身(デミ・スピリット)含めた祭壇の破壊とかで時間稼ぎ出来たと思うんやけどな。もう無理や」

 

 オラリオやその周辺を吹き飛ばすという大魔法の情報を前にアリシアは認識が甘い質問をするものの、全知を基にウラノスとタイムリミットを算出したロキは冷徹に『NO』を突き返す。

 彼女の言うとおり、もはや一刻の猶予もない。発動されれば逃げ場はなく、事(・)が(・)為(・)さ(・)れ(・)た(・)後は古代に逆戻り。いくら『学区』というもう1人のLV7(レオン)を有する最後の希望があろうとも、オラリオの冒険者という『役者』を欠いた状態であの教育機関に人類の行く末を託すのは力不足甚だしい。

 

 そんな状況を前に三首領とアクス以外が感情を押し殺したようなうめき声を上げる。しかしながら、団長であるフィンが彼/彼女たちをここへ呼んだのは現状を憂うためではない、勝(・)つ(・)た(・)め(・)だ。

 

「だからこそ、僕たちは"神"に勝つ。そのための作戦を伝達する……とは言っても、結局精霊の分身(デミ・スピリット)を倒す以外にないんだけどね」

 

「後、あの赤毛の怪物の対策もせんとなぁ」

 

「やれやれ、ベートの言葉を借りるわけではないが。遠征準備の方がまだマシだぞ」

 

 明らかに三首領が無理をして空気を軽くしようとしているが、今はその心遣いが心地よかった。そのためか少しばかり暗い気分から脱することが出来たラウルたちの顔を見て、フィンは『質問は後で纏めて受け付けるよ』と前置きを話してから長い説明を始めた。

 

 目標は敵の祭壇であり、『炉心』でもある6体の精霊の分身(デミ・スピリット)。それら全てを撃破するのが勝利条件である。

 そのため、戦力は【ロキ・ファミリア】の精鋭部隊を5等分にし、それを骨子に他派閥からの団員が合流することで1つの大部隊を形成し、それぞれの祭壇に向けて進軍する流れだ。

 だからこそ2軍の中核を担うラウルやアキ。元【ヴィーザル・ファミリア】団長のベート。そして、リヴェリア不在時の妖精部隊(フェアリーフォース)を任せられているアリシアといった、少なくとも大規模な指揮が出来るこのメンバーが呼ばれたわけだ。

 

「何度も言うけど、本当はアイズたちを呼びたかったんだけどね。そこはアクスの都合かな」

 

「団長、終わったら全力で【戦場の聖女】(デア・セイント)に謝り倒すべきですよ」

 

「……続けるよ」

 

 予(・)想(・)可(・)能(・)、(・)回(・)避(・)不(・)可(・)能(・)な(・)今(・)後(・)の(・)こ(・)と(・)に頭を痛めつつ、フィンはアキの言葉を黙殺しながら続きを話す。

 先ほど言った『5つの部隊』が本格的な精霊の分身(デミ・スピリット)の討伐および祭壇の破壊を担当するわけだが、これらの部隊とは別に1部隊。別(・)件(・)でクノッソスを走り回ることになる。

 

 その別件とは──『人質の救助』である。

 

「救助……っすか?」

 

「うーん。さっき"質問はまとめて"って言ったけど、今言わないと混乱すると思うから説明させてもらうよ。元々のきっかけは……そうだな。アクスからだったかな」

 

「本当にどこでそんな情報拾ってくるんすか、この子」

 

「"医者が世間知らずだと思う方が、よほど不自然だと思う"ってディアンケヒト様とミアハ様が言ってました!」

 

 どうやらアクスが起きてきたらしい。彼を抱き上げながら『ママの気持ちっ!』と喜びを表現するロキはともかく、アクスの情報通は神々の言っているような『ご都合主義』の類ではない。要するに、『医者という存在は、意外と世間やその裏側に詳しくなる仕事』なのである。

 

 怪我人──もっとざっくばらんに言えば『救いを求める者』は色々話す。

 何をしたのか。誰と一緒だったのか。何を見たのか。何を食べたのか。何を恐れているのか。

 そして、『救いを求める者』は単体でもなければ、冒険者や商人。旅人など職種や立場も様々だ。

 例えば、職種や立場。性別年齢までも異なる人々が同じ腹痛で治療院にやって来たとする。個別で聞けばたしかに類似性はないが、その中で合致する情報──これも仮にだが、近場の集合住宅で同じ井戸を使っていたとしよう。

 複数の患者が居たら、複数の証言。それらを束ね合わせれば、本人たちが知らない全体像が見えてくる。

 そんな要領でアクスは情報や情報にもならない断片を無自覚で収集し、それを時折思い出しては情報を上手く使えるパルゥム仮面(フィン・ディムナ)にシュート。その結果が超★エキサイティンしただけとなる。

 

 さて、話は逸れたが『人質』の件である。な(・)ん(・)や(・)か(・)ん(・)や(・)あ(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)で(・)発(・)覚(・)し(・)た(・)『【デメテル・ファミリア】の眷属が人質にされている』という事実に、今度はアリシアが反応した。

 

「アリシア、君が責任を感じる必要はない。あの時はこちらも危なかった。"それでも"と言うなら、責任は僕にある」

 

「……はい」

 

 第1次侵攻の折、アリシアはエルフィから『壁の中に誰か居る』という報告を受けていた。しかし、あまりにも荒唐無稽のことに加えて時間がなかったために碌に調べることもなくその場を去ってしまっている。

 もし──。もしも──。仮に──。と仮定の話をするのは簡単だが、今重要なのは次(・)は(・)ど(・)う(・)す(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)か(・)だ。

 そのための計画をフィンは話し出す。

 

「エルフィには後で聞き取りをするけど、ラウルとアリシアは部隊を率いて【デメテル・ファミリア】の救助を行ってもらう。これは人命救助はもちろんだけど、エニュオ側に"人質"を使った外道な行いをやらせないためだ」

 

 フィンの激に2人は黙って頷く。特に潔癖なエルフであるアリシアは『話をまともに聞こうとしなかった結果、犠牲を増やしたかもしれない』という自責の念から目つきが鋭くなっていた。

 明らかに気負い過ぎている。このまま行けばアリシアや仲間の身を滅ぼしかねないため、リヴェリアはなんとかして律せようと口を開くと、既に新(・)た(・)に(・)出(・)来(・)た(・)有(・)翼(・)の(・)友(・)人(・)が彼女に声をかけていた。

 

「アリシアさン」

 

「レイ?」

 

「こう考えまショう。"第1次侵攻(あのとき)"救っテイたら、私たちガ全滅シテイた……ト」

 

「あぁ、間違いなく緑肉の餌食になっていた。だからこそ、今だ。アリシア、頼むぞ」

 

 これ幸いとリヴェリアが追従することで、アリシアはうっすら笑みを作りながらはっきりと返事をする。その光景に彼女の空回り気味な気負いも幾分か和らいだことを察したフィンは、アリシアの近くに居た有翼の異端児(ゼノス)──レイに声をかけた。

 

「レイ。そういう訳だから、君は僕たちの指示に従ってもらうよ。それについてはフェルズと話してある」

 

「アノ、他ノ皆ハ?」

 

「僕がさっき"5つの部隊"って言ったのを覚えているかい? 残り1体の精霊の分身(デミ・スピリット)は、異端児(ゼノス)たちが対応してくれるらしい」

 

 少し前、レイの状況を報告がてらフェルズと長時間に渡る話し合いの末にフィンは彼らから協力を取り付けていた。強大な敵を前に少しでも戦力を確保したかったこともあり、彼は『君は当事者ではないが、君の仲間たちに感謝を』と告げると頭を下げる。

 突然のことに慌てたレイだったが、仲間のことを褒められてうれしいのだろう。朗らかな笑みと共に了承すると、フィンは再び話し出した。

 

「念のために確認させてほしい。君の能力は飛行。後は声の反響で隠し部屋の類を見つける能力で合っているかな?」

 

「はイ。合ってイマす」

 

 事前にフェルズから聞いていたレイの能力について尋ねると、彼女は頷きながら肯定する。流石にこの場ではできないが、ハーピィらしく『声』に秀でた彼女はその反響で僅かな隙間さえあれば中の様子が出来るようだ。

 まさに今(・)回(・)の(・)役(・)割(・)に(・)う(・)っ(・)て(・)つ(・)け(・)な人材ということで、フィンはレイに『ロキの手伝い』と『救出部隊への支援』を頼む。前者はあまりピンとこなかった彼女だが、どのみちリドたちの下へ帰れなければ自分だけが蚊帳の外に居るのも収まりが悪い。喜んで了承した。

 

「ありがとう。……これで、大まかな概要は以上だ。なにか、質問はあるかい? なければこのまま各自への注意事項を言いたいんだけど」

 

 周囲の反応を見ながらフィンが問いかけると、遠慮がちにアリシアが挙手をする。そして、『リヴェリア様の前で魔法に対する無知を晒すようで申し訳ない』と前置きを言うと、彼女は精霊の分身(デミ・スピリット)がやろうとしている天の扉の詠唱を妨害する方法について質問した。

 

 魔導士の行う詠唱は魔法を投射する発射台であるため、魔法が完成するまでに詠唱を潰せば改めて魔力を練り上げながら1から詠唱しなければならない。

 ゆえに1(・)体(・)に(・)注(・)力(・)し(・)て(・)詠(・)唱(・)を(・)潰(・)し(・)て(・)い(・)け(・)ば(・)良(・)い(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)。アリシアはそんな疑問を投げかけた。

 

 対してリヴェリアの顔は優れなかった。

 決してアリシアの不勉強を嘆いているわけでも、的外れな意見という訳でもない。彼女の意見は魔導士として100点満点だし、知識を深く収集したがゆえの献策なのだろう。

 ただ、今回のケースは例(・)外(・)中(・)の(・)例(・)外(・)ということでその手は使えない。どう説明しようかと思案していると、エルフでもないアクスがアリシアに声をかけていた。

 

「アリシアさん、"至高に至った氷の杖"って知ってます?」

 

「天の大敵に立ち向かう至高の杖になった深窓の氷姫のお話ですよね? それがなにか?」

 

「その人の魔法。詠唱を継承してたから、人よりも魔法に精通してる精霊なら出来るんじゃないかなって」

 

 アクスの言っていることは、『継承詠唱』と呼ばれる技法であった。

 この技は長く、それでいて緻密な魔力操作が必要な魔法を1人でなんとかするのではなく、複(・)数(・)人(・)が(・)詠(・)唱(・)を(・)引(・)き(・)継(・)ぐ(・)ことによってリスクを分散するために編み出されたもので、一見すると良いこと尽くしのように見えるが同時に欠点が多い技でもあった。

 神の恩恵(ファルナ)で発現した魔法は本人の素質によるものということで対象外なので、必然的に対象となるのはエルフが先天性に使える魔法のみ。そして、術者同士の力量がほぼ同じで息を合わせねば、たちまち魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こしてしまうという実現がほぼほぼ不可能に近く、同時に使い勝手が非常に悪い。

 そんなわけで使い手はおとぎ話の住人に限定される。ゆえにエルフ──ましてやハイ・エルフでもおいそれと真似できない半ば伝説の詠唱法となっている。

 

「そういうわけだ。ロキ、そのことについて確認は取れたか?」

 

「……まぁ、悪い話やから喜びたくないけどな。詠唱は引き継がれる」

 

 全知(かみがみ)のお墨付きもあり、6体の精霊の分身(デミ・スピリット)を撃破しなければならないことが確定する。悪い話ほどよく当たるというやつだ。

 ただ、元々その懸念もフィンの頭にあり、その上で部隊を編成したので変更はない。そのことを伝えてから改めて質問を募ったが、誰も挙手や発言をしなかったために彼は次の話題を話し出す。

 

「ここからは各自への注意となる。まずはベートとアキだけど、"レフィーヤとの分断"には気をつけてくれ」

 

「分断?」

 

「例の赤いやつか?」

 

「いや、それはアイズに対処してもらう。ただ、エニュオにはあれ以外で仮面姿の仲間が居るらしい。僕も報告でしか聞いてないんだけど、どうやらそれがフィルヴィス・シャリアとレフィーヤに執心していたみたいなんだ」

 

 レフィーヤは現在、詳細を聞ける状態ではない。なので少し前に聞いた報告にはなってしまうが、謎の仮面の存在がレ(・)フ(・)ィ(・)ー(・)ヤ(・)た(・)ち(・)を(・)敢(・)え(・)て(・)見(・)逃(・)す(・)という怪しい動きをしていたのだとか。

 見逃す要因としては色々考えられるものの、そのどれもが決定打に欠ける。なんとも喉に小骨が刺さったような『違和感』が拭いきれず、さらにはアクスと行ったやり取りで浮上した『1つの疑惑』も重なるため、フィンは警告として彼らに伝える。

 

「レフィーヤの気力次第だが、復帰したらベートとアキの隊に任せることになる。何もなければそれはそれで良いんだけど、クノッソスの全体を僕たちはまだ知らない。咄嗟の判断になるとは思うけど、何かあった場合は精霊の分身(デミ・スピリット)の排除を最優先で動いてくれ」

 

「レフィーヤを狙ってくるという確証は?」

 

「確証はない……が、僕の予想が正しければ。おそらくは狙ってくる」

 

 確証に対して自信なさげに答えるフィン。それでも『何かを掴んでいる』かのようにアクスを呼んだ。

 唐突に呼ばれたことで多少困惑するアクスだったが、すぐさまポテポテとフィンに近づいてから指示されたとおりに鎧の機能を行使。瞬時にフ(・)ィ(・)ン(・)と(・)似(・)た(・)騎(・)士(・)に変じたことで、ベートですらも目を丸くした。

 

「なるほど。ベル・クラネルの話を聞いて疑問に思っていたが、本当はアクスだったのか」

 

「団長はその仮面の人物が誰かの変装……いや、変身と?」

 

「断言はできない。ただ、今までのことを仮定すれば"その方が自然"だ」

 

 敵であるレフィーヤとフィルヴィスへ対して行ったおかしな行動。そして、エニュオはディオニュソスという半ば正解であろう予想が立てられている。

 そんなディオニュソスの側付きとして行動を共にしていたフィルヴィス。極めつけに変身という技術。1つ1つのパズルのピースが『不審』という絵を描くが、それでも確証を得ない。

 なので、この場で結論づけることを保留にしたフィンは、もう1つの懸念を話そうとラウルへと向き直った。

 

「次にラウル。アリシアも聞いて欲しい。予備隊は【デメテル・ファミリア】の救助の他、どこかの本隊が壊滅的な被害にあった時の予備が主任務だ。ここまでは良いね?」

 

『はい』

 

「ただ、"例外"もあることは認識して欲しい。これも先ほどのように確証はない話で申し訳ないけど、精霊の分身(デミ・スピリット)の他に"もう1体"いるかもしれない」

 

 そう言ってフィンは用意していた写本を見せる。精霊の6円環を意味する6人の大精霊を指で次々と抑えつつ、『精霊の分身(デミ・スピリット)は早急に討伐するとして……』と作戦が順調に進むことを仮定とした話をし、そのまま中央に居るニーズホッグを指で押さえた。

 

「この乙女たちが精霊の分身(デミ・スピリット)だった以上、この中央も何かしらの術式を行う装置に違いない。それが発覚した瞬間、君たちにはそれの対処を行って欲しい」

 

「7体目……っすか?」

 

「せやで、ラウル。"神"は人間やないからな。常軌を逸した執念から来る奥の手も考えとく必要があるんや」

 

『うちらも誰かさんの言葉で気付いたんやけどなー』と寄って来たアクスをヒョイと抱き上げ、そのまま近くの椅子に座り込むロキ。本当に色んなことに首を突っ込んでいるパルゥムに呆れたいところであったが、ラウルはそ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)はすっかり考えられなくなってしまっていた。

 ラウルもLV4ということで、闇派閥(イヴィルス)との戦いの他に数々の冒険は経験している。その中で階層主と相対し、戦闘の最中で指揮を引き継いだりといったことも何度も行っている──が、今(・)回(・)の(・)相(・)手(・)は(・)別(・)枠(・)だった。

 

 事前情報もなし。どのような攻撃をしてくるかも不明。そもそも、『居るかも分からない』。そんな相手を想像していると、自身が震えていることに気付いた。

 

「ラウル……」

 

「あ、アキ。ご、ごめんっす。自分だけ」

 

 心配そうに見つめてくるアキに、ラウルは精一杯の強がりで返す。

 精霊の分身(デミ・スピリット)という絶(・)対(・)に(・)存(・)在(・)す(・)る(・)強(・)敵(・)を前に彼女は怖気づくこともしていないのに、どうして自分はこんなに情けないのだろうか。そんな思いから奮起しようとするが、59階層やクノッソスで出会った精霊の分身(デミ・スピリット)たちの強さを思い出してしまう。

 

 すると、フィンが長剣を手にしながら彼の前に立った。

 

「団長、すみません」

 

「良いんだ。正直なところ、僕も怖いんだから。だけど、精霊の分身(デミ・スピリット)を放置したら地獄が始まる。それだけは覚えていて欲しい」

 

「っ……。はいっす!」

 

 彼らだって優秀な冒険者。ゆえに失敗した時の惨状など容易に推測できるだろう。現にラウルもその光景を想像したのか、先ほどまでの怯えは完全に消えていた。

 

 これならば、『託せる』。そう考えたフィンは、改めて長剣をラウルへと差し出す。紅の柄を握って鞘から引き抜けば、炎を凝縮したような真っ赤な刀身が顔を覗かせていた。

 刀身から漏れ出てくる魔力から『魔剣』であることは分かった。しかし、その他は飾りっけがまったくない武骨な長剣無骨だからか、な(・)に(・)か(・)足(・)り(・)な(・)い(・)といった考えがラウルの脳裏に過る。

 

 すると、今まで黙っていたアリシアが途端に慌てだした。

 

「く、クロッゾの魔剣!? 団長!」

 

「だ、団長!?」

 

 一方はエルフの森を焼くという大罪を犯した武装を作戦に用いるという愚行を批判するように。一方は希少性も込みでお値段が想像つかないレベルの武器をポンと渡してきたことに理解が追いつかずに叫ぶ。

 しかしながら、それらの回答は既に三首領の頭の中に入っている。ゆえに同(・)じ(・)エ(・)ル(・)フ(・)種(・)で(・)あ(・)る(・)リ(・)ヴ(・)ェ(・)リ(・)ア(・)か(・)ら(・)ア(・)リ(・)シ(・)ア(・)へ(・)理由が告げられた。

 

「クロッゾの魔剣を忌避していることは百も承知だ。ただ、今回に限って言えば私もフィンと同じ意見だ」

 

「そ、それは……」

 

「そうだな……。仮に先ほど言った7発目が実際に存在しているとしよう。そして、我々が精霊の分身(デミ・スピリット)を倒せなかったとする。人質の救出を行っているであろうお前たちで対処することは可能か?」

 

 リヴェリアの質問にアリシアは即座に答えることが出来なかった。

 敵の戦力は未知数なので詳細に測れないが、ホワイトパレスに出現する階層主である『ウダイオス』であれば【ロキ・ファミリア】の2軍を数十人規模で投入すればな(・)ん(・)と(・)か(・)戦(・)い(・)に(・)な(・)る(・)。

 

 ただ、それは数(・)十(・)人(・)も(・)味(・)方(・)が(・)居(・)れ(・)ば(・)の(・)話(・)だ。ラウルやアリシアの部隊は【デメテル・ファミリア】の救出も任務なので助け出すごとに足は鈍っていき、タイミングを計りながら数人を護衛に地上へ送らなければならない。そうなると数十人から十(・)数(・)人(・)。そこからさらに数(・)人(・)と階層主クラスの敵とやり合えるような状況ではなくなってしまう可能性もある。

 

 それでも、相手はそんな都合などお構いなしで動いて来る。仮に『7発目』が起動すれば、精霊の分身(デミ・スピリット)をすべて倒してもオラリオが終わってしまう。

 だからこそ、クロッゾの魔剣という最大級の火力が必要となって来るのだ。

 

「そうですね。分かりました」

 

「分かってくれて良かったよ。無理してヴェルフ・クロッゾに用意させた甲斐があった」

 

 25歳というエルフでは小娘に数えられる年齢だが、フィンから説明された確かな理由と敬愛するリヴェリアの覚悟。それらを無視して激情に身を任せるほどアリシアは未熟ではない。

 使えるものは何でも使う という気概が透けて見える彼女にフィンは密かに胸を撫で下ろしていると、今度はアキが挙手をしてきた。

 

「あの、団長。アクス君の役割、私たち聞いてませんが?」

 

「あぁ、そうだね。せっかくだから、実演込みで説明しようか。アクス、英勇詩篇(ミレシアン)だ」

 

「あい」

 

 手を挙げながら詠唱し、その場に歩兵の幻影を生み出していく。騎馬の幻影しか知らなかったフィンと訓練中に使っていたので知っていたリヴェリアたちと彼の間で少しだけオ(・)ハ(・)ナ(・)シ(・)はあったものの、なんとか全員の横に幻影を付き添わせたフィンはアクスへ色々指示を出していく。

 

「まずはリヴェリアの部隊が壊滅的な被害を受けたとしよう。アクス」

 

「はい」

 

 『被害を受けた想定』を告げたフィンに、アクスは即座にリヴェリアの近くに居た幻影と位置を交換。そのまま、彼女の身体に触れてから自動治癒魔法(オート・ヒール)を行使した。

 その効果が表れる前にフィンから『今度はラウルだ』と次に被害を受けた者の名を呼ぶ。すかさずラウルの側に居る幻影と位置を交換し、自動治癒魔法(オート・ヒール)を使う。

 そうしてアキ、ベート、ガレス。再びリヴェリアとそれぞれの側に居た幻影と位置を交換しながら自動治癒魔法(オート・ヒール)を使っていき、改めてフィンの側に居る幻影とアクスが入れ替わる。

 

 ここまで来るとアクスの役割が見えてくる。

 そう、アクスの行うべきことは『全部隊への回復支援』だ。治(・)療(・)師(・)の(・)回(・)復(・)が(・)あ(・)っ(・)て(・)も(・)尚(・)、(・)被(・)害(・)が(・)出(・)続(・)け(・)て(・)い(・)る(・)部(・)隊(・)へ英勇詩篇(ミレシアン)の能力を用いて急行。アミッド並に強力となった彼の治癒能力のごり押しによって部隊を立て直し、他の危険に陥った部隊の下へと再び移動といった具合に繰り返す。

 

 それに加えて幻影を治療院にも置いてもらうことで、回復薬(ポーション)といった医薬品の運搬役も担ってもらう。明らかにオーバーワークだが、『この役割をアクスと同程度の精度で出来る者は居ないのだ』。

 英勇詩篇(ミレシアン)の転移染みた移動を用いれば、如何にクノッソス内に敵を配置していてもそ(・)の(・)敵(・)自(・)体(・)を(・)無(・)視(・)で(・)き(・)る(・)。そのことから道中でアクスを狙い撃ちされる可能性は低くなり、輸送に関しても補充した物資を損失無く運ぶことが出来る。

 

「本当に申し訳ない。"契約"もあるのに重荷を背負わせる自覚はあるが、これがあるのとないのとでは戦況が大きく変わるんだ」

 

 転ばぬ先の杖。いや、『転んだ後の手厚いサポート』というべきだろうか。

 危機に陥れば、すぐさま救援に駆け付けてくれる。

 それだけではない。今後不足するであろう物資の運搬まで引き受けてくれるのだ。そして、できることなら考えずに済ませたい話ではあるが──たとえ命を落としたとしても、『神々との契約』によって蘇生が約束されている。

 

 とりあえず、『そんな人材を最前線に行かせるな』と内なるフィンが叫んでいるのだが、『じゃあ、アクスを安全かつ決して逃げ出せない環境をこの瞬間で作れるかい?』と問いかけると、内なる存在がそれ以上文句を言うことはなかった。本当に手が付けられない困った(アクス)ちゃんである。

 

「だけど、すぐに君は運用しない。"然るべき場所"で"僕の号令まで"待機してもらう。もっとも、まだ決めかねていることが色々あるから変更になる可能性はあるけどね」

 

 味方にとっては便利な存在であるアクスだが、敵にとっては邪魔者以外何物でもない。すぐさま対策されることを念頭に、アクスは所定の場所でフィンの号令が出るまで待機を命じられた。

 その指示に少しばかり不満そうな表情を作ったものの、戦略においてはフィンの方が何百倍も上。ゆえに静かに頷く。

 その様子に『まぁ、あの面子なら大丈夫か』と歓(・)楽(・)街(・)あ(・)た(・)り(・)の(・)方(・)向(・)を見ていると、リヴェリアが怪訝そうな顔で尋ねて来た。

 

「フィン、契約とはなんだ? まだ何か隠してるのか?」

 

「んん”! 団旗とか諸々を対価に色々やってもらうだけさ。さて、色々言ったけど質問はないかい? ……ないね。それじゃあ、解散にしよう」

 

『はい』

 

 失言に気付かれたことで若干慌てながら出したフィンの号令により、ラウルたちは返事をしてから部屋を出ていく。その中で唯一返事をしなかったベートは、フィンに『ツケは払っとけよ』と最近何かと言われ慣れていることを言いながらぶっきらぼうに部屋から出ていった。

 まさに耳が痛いと言ったばかりに鉛色の吐息を吐き出すフィン。しかしながら、やるべきことは目白押しなのでさっさと次の行動に移した。

 

「リヴェリア」

 

「あぁ」

 

 リヴェリアの名を読んだフィンがバックパックの口を大きく広げると、リヴェリアはロキと手遊びをしていたアクスを抱える。

 

「ガレス」

 

「おうさ」

 

 抱えたアクスをバックパックに収めながらガレスの名を呼ぶと、彼はすかさずバックパックの口を閉じた。

 こうして再び『ミスター積み荷』となったアクスをロキが背負うと、フィンから貰ったいくつかの手紙を携えて部屋から出ていく。

 

「大人しかったが、フィンが次の予定を話したのか?」

 

「話してないよ? ガレスじゃないのかい?」

 

「話す暇などないじゃろ」

 

『…………』

 

 そう、この3人。またしても報連相をしていなかったのである。

 天下の【ロキ・ファミリア】がなんたることか。【フレイヤ・ファミリア】じゃねぇんだぞ。などといった批判は尤もだが、待ってほしい。

 今は どこまで準備をすれば万全か全く分からない状態な大炎上案件。そんな中でマトモな報告や指示など出来るはずがないというもの。

 

 それでも、指示を出したどこぞの人使いが荒いパルゥム(フィン・ディムナ)は批判されてしかるべきである。そう断じたリヴェリアたちは彼に絶対零度な視線を浴びせかけたが、特に聞いた様子がないので話題を変えることにした。

 

「アクス、黙ってカバンに入れられおったな」

 

「普通、聞くとかするよね」

 

「不安だ、あのこの将来が果てしなく不安だ」

 

「分かる」

 

 あまりにも大人しく誘拐されたパルゥムの将来が心配になった三首領であった。




あと1話で第2次侵攻編スタートです。長かった。

アミッドに謝り倒すべき
 最近、何に謝れば良いのだろうか。と疑問に思っている。
 アミッドや治療院を守るためだし、コラテラルダメージではないかと。
 ただ、人の感情的に言ったらそれはそうと納得せざるを得ない。

アクス
 ミスター積み荷。大統領ではない。
 なんか色々してたら勝手に気付いてくれただけ……と思っている。
 知ってる人だとカバンに詰められるほど大人しいが、知らない人だと基本近づかないので安心して欲しい。

至高に至った氷の杖
 ウィストリアで主人公を自分の派閥に引き入れることが出来なかった可哀想な至高の杖。あれは氷の分身に詠唱させてるが、似たようなものだと思って……。

アクスのお仕事
 危ない隊の幻影と後退して回復支援。
 物資が無くなりかけていれば補給支援。
 打撃力が足りなければ戦闘支援。
 補給が無くなれば補給作業。
 どこぞのエースなコンバットじゃねぇんだぞ! な仕事量。
 ちなみに、1対多のオクルスを使った強化支援も後々出てくる。

然るべき場所
 地上かつ絶対外部に情報が漏れないところなんて、1つしかないと思うの。

えっほ、えっほ。皆を救わなきゃ。

【挿絵表示】

ぶっちゃけR元服(今の所は小姓アクスのみ)需要あるかい?

  • あるからはよ(R元服)書け
  • 無いからはよ(NotR元服)書け
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ダンジョンのモンスター。なんかだんだん食えそうに見えてきた。ダンジョンの飯。ああダンジョンの飯。▼ちなみにダンジョン飯要素はない。▼メモリア・フレーゼ、このファンなどソシャゲのコラボネタもあり


総合評価:22971/評価:8.78/連載:424話/更新日時:2026年10月17日(土) 23:03 小説情報

皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている(作者:マタタビネガー)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

皆の前で盛大に死んで傷になりたいが病なし&憧憬スキル有りのアルフィア♂というクソ強スペックのせいで全然死なない転生者▼4月5日  日間ランキング1位ありがとうございます▼総UA600万突破ありがとうございます   ▼


総合評価:54986/評価:9.24/連載:204話/更新日時:2025年10月13日(月) 00:49 小説情報

冒険します。冒険者なので。(作者:POTROT)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ギルド「冒険すんな! でもランクアップはして♡」▼主人公「冒険者なんで冒険します。ガンガン死地に突っ込んでランクアップします」▼色々な人達「キレそう」


総合評価:26439/評価:8.53/連載:68話/更新日時:2026年09月30日(水) 11:56 小説情報

聖火の精霊が英雄達を手助けするのは間違いだろうか(作者:フェイト・)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

神々の怠慢で死んだ青年が邪神様の手助けによってダンまちの世界に転生し、2度目の人生を歩む物語▼ーーー彼は全知全能の『神』ではない。▼ーーー彼は『英雄』ではない。▼ーーー彼は『勇者』でもない。▼ーーー彼は古代より英雄達の手助けをしてきた『精霊』なのだ。▼ハーメルンで多くの作品を読んでいるうちに書きたくなって書いてみました。▼


総合評価:5154/評価:8.3/連載:53話/更新日時:2026年10月07日(水) 16:54 小説情報

白海染まれ(作者:ねをんゆう)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ある日、平穏なダンジョン街に現れた黒髪黒眼の不思議な少女。▼そんな彼女は妙な縁からロキ・ファミリアのお世話になることに。▼しかし優しく穏やかで美しい彼女は、団員達が掘っても掘っても張り切れない程の数多の事情を抱えており……▼「わたし、男ですよ……?」▼「「「「「!?」」」」」▼知れば知るほど深みにハマる、踏めば爆裂地雷原。▼どうやったって踏むのなら、いっそ自…


総合評価:6528/評価:8.58/連載:162話/更新日時:2023年08月29日(火) 00:00 小説情報


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