ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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ちょっと前からセコセコ作ってたのが完成したので、投稿。



【百騎幻槍】(ひゃっきげんそう)3 とある騎兵のお金稼ぎ

 とある日。休息日に充てていたベルたち一行は、()()()()()を除いて談話室で思い思いの時間を過ごしていた。

 しかし、そんな時。控えめな扉の開閉音と共にヘスティアが何かの書面を持ちながら入ってくる。

 

「うーん、思いつかないなぁ……。でもなぁ……」

 

「神様、どうしたんですか?」

 

「あー、ベル君。いやね、僕の借金なんだけどさ」

 

 曰く、ヘファイストスに頼んで作ってもらったベルのナイフ。総額2億ヴァリスの借金をちまちま返し続けていたのだが、自分の思っている以上に減っているらしい。

 しかもそれがここ最近のこと。そこで何か原因がないか記憶を遡ってみるが、どんなに考えても心当たりがないのだとか。

 

「ボケたんじゃないですか?」

 

「ヘファイストス様が頑張っているヘスティア様にボーナスを出した線とか、どうです?」

 

「タケミカヅチ様の屋台の売り上げに連日勝っているから、屋台でのボーナスの線もありますよ」

 

「サポーター君は置いといて、ボーナスはないかなぁ」

 

 自らの勤務態度を鑑みて、即座に眷属たちの言うボーナスの線を消去するヘスティア。どこまでも駄女神である。

 ただ、そんな中で【ヘスティア・ファミリア】の団長であるベル・クラネルだけは今は不在の末っ子──アクス・フローレンスのことを思い浮かべていた。

 

「アクス君の"レンタル幻影"の代金じゃないですか?」

 

『あー』

 

 ベルの言葉にほぼ全員が思い出したかのように手を叩く。

 彼の言う『レンタル幻影』とは、読んで字の如くアクスの魔法で生み出された幻影を1日レンタルする画期的な商売である。

 

 話の始まりは、戦争遊戯(ウォーゲーム)の少し後。突如としてヘルメスが乗り込んできて、アクスの幻影1人を1日貸し出していくらというレンタル商法を持ちかけてきたのだ。

 ただ、【ヘスティア・ファミリア】は探索系ファミリア。まだダンジョンで連携は取っていないものの、パーティメンバーが1人欠けることに対して首をかしげていたベルに、ヘルメスとリリルカが100人全員がレンタルされた時の試算表を見せながら説くことで7日に4日はダンジョン。残った3日で幻影をレンタルすることが決定する。

 

 ちなみに値段は1体を1日レンタルで500ヴァリス。金の亡者たち(ヘルメスとリリルカ)曰く『下級冒険者1人を1日レンタルで500ヴァリスはあり得ない!』と叫んだものの、幻影の生産者であるアクスが『オラリオの皆が助かるなら安くても構わない』というプリティーでピュアッピュアな言葉にあっけなく撃沈。その間にアスフィに値段の所を書いてもらったのだとか。

 

 なお、この商売。控えめに言って『大成功』であった。

 まず、幻影のスペックをラキアとの戦争で知っている【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】という2大派閥がどこから聞きつけたのか、それぞれ15人ずつをレンタル。それもレンタル幻影が行われる日はずっと15人借りるという『定期レンタル』を約束してくれた。

 さらには話を聞いた【ミアハ・ファミリア】と【タケミカヅチ・ファミリア】が『友神優遇』としてそれぞれ5人ずつ。ギルドに『管理機関優遇(ごますり)』として5人。【ヘルメス・ファミリア】に『共同経営者優遇』として5人と、これだけで幻影の半分がレンタルされている。

 

 そこから一般市民含めた市井に50人の幻影がレンタルされていくのだが、【ヘルメス・ファミリア】が大々的に宣伝したせいで初日のレンタル開始時刻である明朝から長蛇の列。その長さは竈火の館からメインストリートまでの大行列となった。

 そこかしこで怒鳴り声を上げる冒険者も居り、その様子から暴動すら起きかねないとアスフィがお手製の整理券を配りながら意を抑える事態となった。

 

 また、レンタル期限外である夜も『治安維持』のために【ガネーシャ・ファミリア】から全ツッパ(100人)の要請が来ている。

 そんなこんなで話題が話題を呼び、50人の枠がもはや順番待ちで埋め尽くされている状況ゆえに収入もかなりの物。その額はリリルカが加入した直後のベルたちの稼ぎの倍。いや、夜や『ギルドからの感謝の証を込めた税金の減額』も含めれば4倍ぐらいになる

 

 そこら辺を加味すれば、借金が謎に減っているのも頷けるのではないか。そうベルがいうのだが……。

 

「ベル様、おそらくレンタル幻影は関係ないと思います。未払い防止と未払い者への警告のためにレンタル費用はギルドの窓口で支払ってもらう決まりです。それを魔石交換のついでにリリが手ずから回収していますので、あの子は1ヴァリスも触っていないはずですよ」

 

「なら、どうして借金が減ってんだ?」

 

「それが分かれば苦労しませんよ。……いえ、まさかうちの末っ子が盗みを?」

 

「あり得ません! たしかに私たちがダンジョンへ赴いている時、アクス殿はお留守番ですが……」

 

「じゃあ、ダンジョンで稼げないからどこかでアルバイトとか?」

 

「ベ、ベル君。怖いこと言わないでおくれよ、無理矢理冒険者に誘った挙句にダンジョンで稼げないからアルバイトって……」

 

 ちなみにレンタル幻影の売り上げは【ヘスティア・ファミリア】が7割所有しており、アクスが『売り上げが欲しい』と乞えばヘスティアは速攻で全てを渡す腹積もりだった。

 それが仮に食い扶持を稼ぐためにアルバイトに勤しんでいるのなら……。ヘスティアは申し訳なさに押しつぶされた挙句、間違いなく送還されてしまうだろう。

 

 ただ、どう考えても解消できないモヤモヤがピークに達した時。ヘスティアは思いがけない行動を宣言した。

 

「び、尾行しよう!」

 

「うぇ!? そんな、アクス君に悪いですよ!」

 

「いいえ、あの子の管理不行き届きはリリたちの責任です! 私も尾行します!」

 

「リリすけならともかく、ちびっこ1人の食費なんてあってないようなもん……っつぁ!」

 

 目をぐるぐる回しながらおかしなことを言う主神に心底申し訳なさそうな団長。まるで言う事を聞かない子供を叱るような勢いのサポーターに、余計なことを言って脛を蹴られる鍛冶師。

 ……そして、『尾行』と聞いて人知れず自室で『隠密』になる準備をする剣士。

 

 そんな凸凹パーティが末っ子を尾行するために動き出した。

 

***

 

 次の日。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「アクス殿。おにぎりは厨房のテーブルに置いておいたので、お昼に食べてくださいね」

 

「はーい」

 

 いつものように出かける前にアクスと話していたベルたちの間を『遅刻するよぉ~』とやや棒読みにヘスティアが通り過ぎていく。

 しかし、そういった光景は【ヘスティア・ファミリア】に入って日が浅いアクスでも複数回見たほど茶飯事だったため、特に疑問に持つことなく彼らを見送る。

 

 しかし、竈火の館から出た一行は初めに出ていたヘスティアを合流した途端、館が見える路地で息を潜めながら待機。ベルは申し訳ない表情をしていたが、他の面々は興味津々かつ真剣そのものな面持ちでアクスが出て来るのを今か今かと待っていた。

 

「良いのかなぁ、こんなことして」

 

「末っ子が1人で何をしてるのかを見届けるだけだ。別にやましいことはしてないだろ」

 

「ベル殿、ヴェルフ殿。静かに! 尾行は少しの油断が命取りですよ!」

 

「いや、お前の気の入りようが怖ぇよ」

 

 お喋りをするベルとヴェルフに命が一括するが、ヴェルフは彼女がいつもダンジョンに潜っている際の服装からいつの間にか黒を基調とした服装に代わっていることについて指摘するが、命は首を傾けながら口を開く。

 

「尾行は"忍"にとって必須スキルです。まさか、学んだことがこんなことで活かされるとは……。流石の御慧眼です、タケミカヅチ様」

 

「いや、タケの奴もそこまで考えてないと思うよ」

 

 どこの世界に眷属を尾行するという目的で隠れ潜む技を教え込む主神が居るのだろうか。多分だが、タケミカヅチにバレたら叱られることが火を見るより明らかなので、ヘスティアは命にそれとなく今回のことは黙っておくように伝えていると、ずっと館を監視していたリリルカが『動きました!』と告げる。

 

「リリすけがダンジョンで買ったバックパック担いでんな」

 

「あれ、値段に対して微妙なんですよね。買い出しでしょうか?」

 

「昨日の帰りに結構買い込んだから、買い出しではないと思うよ」

 

 バックパックを背負いながらメインストリートに沿って中心部に移動するアクスを追いかけつつ、彼が出掛けた理由について考察する一行。

 しかし、いくら話しても結果は出て来ず、もはやアクスを見守るというよりもストーキングのような負のオーラが漂っているのだが……。

 ここで一行は、アクスが予想以上に様々な店に入ったりして人に話しかけてはメモのような物を取っていくことに気付いた。

 

「なにか……話をしてるね」

 

「それに、なにを書いてるんでしょう」

 

「聞いてきましょう。リリは八百屋さんとかから聞いてきます」

 

 ギルドといった管理組織を始め、豊穣の女主人といった有名な料理店から八百屋といった個人商店。さらにはアクスが世話になっていたおばちゃんが元締めをしているじゃが丸君の屋台まで。まるで方向性が見えない無軌道さやメモの内容が気になったリリルカたちは、一旦アクスの監視をヴェルフに任せて聞き込みを始めることにした。

 

 そして数十分後。それぞれから聞き込みが終わったベルたちが戻ってくると、言い出しっぺのリリルカから情報共有が始まる。

 

「八百屋さんや魚屋さんのお話では、"レンタル幻影の満足度"を聞きに行ってたようです」

 

「あ、エイナさんもそう言ってた」

 

「ミア殿もそうおっしゃってました」

 

「おばちゃんもそう言ってたね。商魂逞し過ぎやしないかい!?」

 

 まさかの顧客満足度調査。このまま行けば冒険者としてではなく、人材派遣事業として大成しそうなパルゥムにヘスティアは驚愕の声をあげる。

 幸いアクスはその辺に転がっている木の棒を選ぶのに夢中で耳に入っておらず、同時に彼が動き出す気配のないことからリリルカたちは具体的な聞き込み内容を共有していく。

 

「分かりきっていたことですが、下級冒険者程度の能力なので荷運び無双みたいですね。後、計算は出来るみたいで筆記用具を使えば店番は可能だから助かる──と」

 

「エイナさんの話だと、人海戦術で資料整理とか資料の運搬とかしてくれるのがすごい助かってるって。ついでにレンタルできる日を7日に3日から、4日に増やして欲しいって言われたんだけど」

 

「ミア殿も同じようなことを言っておりました。厨房に入れても給仕に据えてもかなりの成果を叩き出していたみたいです」

 

「おばちゃんも言ってたよ。しまいには"近くの個人商店連名で良いから特典枠に入れて欲しい"なんてさ。本当、ベル君とは別の方向でとんでもないよ」

 

 幻影の特性上、アビリティといった性能は下がるが()()()()()はその範疇にない。つまるところ、料理や計算といった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に割り振ってあげれば幻影は無類の強さを誇るのだ。

 まさかダンジョンではなく地上で役に立つ魔法が存在するとは思っても見なかったヘスティアがげんなりしていると、先ほどから木の棒を集めていたアクスがおもむろに1本を手に取った。

 

「ちょうど良い感じの木の棒だね」

 

「ちょうど良いな。俺でも欲しくなる一品だ」

 

 やたらと『ちょうど良い』と連呼するベルとヴェルフにヘスティアたちは何とも言えない表情をしながら木の棒に対して『ただの木の棒じゃない(です)か』と吐き捨てるが、それが男たち──否、()()()()()の魂に火をつけた。

 

「ヘスティア様、流石にそれは駄目ですよ。あれは英雄たちの持つ"聖剣"に匹敵する物なんですから」

 

「け、剣?」

 

「それにあれはどんなマスタースミスでも作れない至高の名剣なんだ。あ、ちなみに複数所持は独占禁止法違反でタコ殴りの餌食になるから気をつけろよ」

 

「意味が分からないんですが!?」

 

 ジェンダー論を語るわけではないが、片や処女神。もう片方は最近までギリギリの生活をしていたパルゥムの少女が男の子の夢など知る由が無かった。

 しかし、極東でタケミカヅチたちと共に暮らしていた命だけは『桜花殿もやってましたね』と頷くことでベルたちがまるで仲間を見つけたように彼女を見つめていたが……。

 

「アクス殿だと木の棒にじゃれついてる子犬にしか見えないのはなぜでしょうか」

 

『ぶふっ……!』

 

 おそらく全員の目には同じ光景が見えているのだろう。須らく噴出したベルたちだが、鼻歌交じりにメインストリートを北に歩き出すアクスを引き続き追っていく。

 そんな彼らはやがて、オラリオ最大手の一画。【ロキ・ファミリア】のホームである黄昏の館の中へと入っていった。

 

「なーんでロキの所に来てるんだろうね」

 

「ここにも幻影を貸し出してますからね。調査じゃないんですか?」

 

「しっ、出てきました」

 

 アクスが黄昏の館に入って数十分。黄昏の館を不満たらたらな様子で監視するヘスティアに、リリルカは庭先で雑草をわちゃわちゃと抜き取ってはどこかへ持って行く幻影たちを見ながら大方の予想がついたと欠伸をしながら事の成り行きを見守っていた。

 すると、館の方の扉が開かれ、フィンと一緒にアクスが出てくる。何かしらの紙の受け渡しがされた後に門まで見送られたアクスは、門番をしていたラウルとアナキティ(アキ)に手を振りながら去っていった。

 

「よし、とりあえず聞こうか」

 

「うぇっ!? 【ロキ・ファミリア】ですよ!」

 

 十中八九、ここに来た目的は顧客満足度の調査。それでも、毒を食らわば皿までという勢いでヘスティアは門を閉じようとしたフィンに突撃する。ラウルが彼女を止めようとするが、その前にフィンが後ろからやって来ていた【ヘスティア・ファミリア】の面々を見ながらラウルたちの動きを制した。

 

「やぁ、ベル・クラネル。神ヘスティアも。どうしたんだい? アクスならついさっき出て行ったよ」

 

「すみません、フィンさん。実は……」

 

 カクカクシカジカと拙いながらも事情を話すと、流石は大派閥のトップと言うだけあってすぐさま状況を理解した彼は『幻影以外でアクスにアルバイトはしてもらってないよ』と否定する。

 

「"幻影の満足度調査"って言ってたよ。まぁ、概ね満足って答えたけどね」

 

「あれ、団長。"素晴らしい"って言ってませんでした?」

 

「せめてあと2日……。いや、【ヘスティア・ファミリア】も探索系だから1日ぐらい貸してくれたらなって思ってさ。後、団員たちからちょっと苦情が出てたからね。そこはちょっとマイナスさせてもらった」

 

 どうやらここでもレンタル日数に関する不満が出ているようだが、苦情とは中々危ない発言である。気になったリリルカが興味本位で総評について尋ねると、フィンは興奮した様子で自身の考えた『幻影タクティクス』を披露した。

 

 彼はまず、借りた15人を8人と7人に分けた。

 8人の方はさらに4人と4人で分けた上でダンジョンに赴くパーティに着いて行かせ、残った7人で遠征や詳しくは話せない問題の対応ですっかりご無沙汰だった黄昏の館の清掃を含めた整備を頼んだらしい。

 

「あの子たち、昨日は屋根の修理とかしてたのよね。そっちでもやってるの?」

 

「しかも、全員で肩車して高所作業してたっす。雑技団とかにでも入ってたんすか?」

 

「あー、あの子色々やっててね」

 

 以前のアクスとの雑談で聞いた覚えのある能力に、ヘスティアは目を明後日の方向に向けながら取り繕う。

 たしかあの時は、家の雨漏りは酷いが屋根の修理は建築系ファミリアの料金が高いために見様見真似で修理方法を会得したとか言っていた。

 そして組体操染みたパフォーマンスについては、じゃが丸君の売れ行きが少なくなってきた際にちょうど良くメイルストラからやって来た某美の女神の眷属に実地講習という形で教えてもらったのだとか。

 

 そんな()()について詳しく聞くことはしなかったフィンだが、『ただね』という前置きと共に不満点を言い出した。

 

「これは僕たちが悪いんだけどね、幻影だから具体的な指示を逐一しないと予想外のことをするんだよ」

 

「ぐ、具体的には?」

 

「"館内の清掃をしろ"って指示を出して放置してたら、団員の入浴中にもかかわらず掃除しようと風呂場に突撃した」

 

「えっと、ちなみに性別は?」

 

「女性だね」

 

 ヘスティアたちは背中に氷柱を入れられたような悪寒を感じた。

 【ロキ・ファミリア】に所属する女性の多さは有名である。そこに突っ込んだとあれば、確かに顰蹙を買いかねない。

 しかし、傍で話を聞いていたアキは『私たちなら別にあの子ぐらいの歳が入って来ても問題ないんだけどね』とさらに厄介事の匂いがプンプンすることを言いながら肩を竦めた。

 

「入浴してた種族がね……、エルフ」

 

「ひぇっ」

 

「しかもリヴェリア付きだからね。彼女は気にしてないっていうけど、その周辺の説得に苦労したよ」

 

「すいませんでしたぁ!」

 

 冷たい微笑を浮かべたフィンに、ベルは土下座する勢いで謝罪する。潔癖と言えるエルフとその王族であり、全エルフから無条件に崇め奉られる存在の入浴の場に突撃。いくら金を積んでも許されそうにない悪夢のコンボに、長年オラリオに住むリリルカやエルフと結構因縁のあるヴェルフは口から魂のようなものを出しながら燃え尽きた灰のように白くなってしまう。

 

 ただ、そんな不祥事についてフィンは逆に謝罪し返してきた。

 

「いや、幻影たちは命令を忠実に守っただけだ。アクスも幻影も悪くない」

 

「"誰かが入浴していたら掃除を止める"って命令は誰も出してなかったっすもんね」

 

「なんなら、5人ぐらい幻影を吹き飛ばした余波で風呂場を半壊させたレフィーヤたちの方が怒られてたし……」

 

『まぁ、なんとか残った幻影たちと協力して応急修理したけどね』とフィンやラウルたちは笑いながら風呂場の方向を見る。

 しかし、さらっと幻影5人を犠牲にした事実を話されたヘスティアたちはどんな表情をすれば良いのかよくわからず、ひとまず許してもらえたことを感謝しながら笑っておくことにした。

 そんな具合に内心では『【ロキ・ファミリア】おっかねー』と戦々恐々としていると、反応に気付いたフィンが空気を変えようともう片方の『ダンジョンに着いていった幻影たち』の話をしてくれる。

 

「もう片方のダンジョンに着いて行った方もすごくてね、詳しくは実際に着いて行ってもらっていたラウルとアキに話してもらおうかな」

 

「えっ、自分たちっすか? サポーター兼冒険者として優秀ってことしか……」

 

「遊撃も壁役もこなせる万能選手。それにラウルみたいに不意打ちを食らいかけた冒険者を身を挺して助ける性能と考えると、破格過ぎますね」

 

「ちょっ、アキ! それ秘密って言ったっすよ!」

 

 さらっと内緒の話を暴露されたことでラウルが慌てるが、幻影に対するアキの総評は続く。

 LV1の中で中の上といったステイタスで、武器によってモンスターから後衛を守る壁役にも武器を持って敵を倒すアタッカーにもなり、さらにはサポーターになるという万能な存在らしい。

 惜しむらくは弓を握らせても真っすぐではなく()()()()()()()()()ぐらいノーコンなのだが、ティオネから借りたフィルカという投げナイフは中々の命中精度を誇っていたことから、アクスが弓の技術を備えれば連鎖的に幻影が使えるのではないかとアキは推測している。

 

 そして、極めつけは先ほどのラウルの話だ。

 壁際に立っていたこともあってモンスターの出現に対応が遅れた彼を、幻影が自分が消えることを承知に庇ったのだ。

 中層付近でラウルを殺せる強さのモンスターはほぼ居ないが、ダンジョンは例外の連続もざらにある。それを踏まえると、幻影が気付いた時に限るが1人につき1回の攻撃を無効化するような行動は助かるどころの話ではない。

 幻影が消えて持って帰る荷物が増えるというデメリットはあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()というのはそれだけでも500ヴァリス──否、その数十倍の値段でも価値があるのだ。

 

「僕としても正直、もうちょっと値上げしてくれても良いんだけどね」

 

「そこはアクス君が……」

 

「"オラリオの皆が助かるなら安くても構わない"と言ってたので、リリたちでは値上げは無理です!」

 

 再び賃借人が逆に値上げしてくる状況になってしまったため、リリルカはアクスの意向で値上げが無理ということを伝える。オラリオの繁栄を願う彼の意向に心を打たれたのか、フィンどころかラウルもアキも『守護らなきゃ』といった空気を出し始めた。

 このまま行けば、『せめて』とお布施という名目で金を渡されかねない。そこから芋づる式に【ロキ・ファミリア】とおかしな繋がりが出来、ベルがアイズにより一層靡いてしまうことを危惧したヘスティアは全員を連れてさっさと黄昏の館から離れてしまう。

 

「ヘスティア様! せっかく【ロキ・ファミリア】と繋が──」

 

「ベル君とヴァレン某君が今以上の接点を持っちゃうぞ……」

 

「下手に大規模派閥と繋がりを作るのは良くないですね!」

 

 あっさりと手の平を返すリリルカにもはや何も言えなくなったヴェルフたち。フィンたちと話をしている間にアクスもどこかへ行っており、幻影の売り上げ以外にどうやって大量の金を稼いでいるのか分からずじまいとなったことで、ベルたちの間に1日を無駄にしたような徒労感が流れた。

 

「帰ろっか」

 

「そうですね」

 

「僕たち、1日何してたんだろ」

 

「ベル、空しくなるから止めろ」

 

「これも修行です」

 

 1人思考が違う忍者は居たものの、1日を無駄に過ごした心情のベルたちはぞろぞろホームへ戻っていく。そんな時、横を幻影に荷物持ちをさせながら右往左往して走っていくアスフィと出会った。

 

「あれ、【万能者】(ペルセウス)君じゃないか。その節は世話になったね」

 

「いえいえ。ところで神ヘスティア。ヘルメス様を見かけませんでしたか?」

 

「見かけてないけど? 僕たちもアクス君を探してるんだけど、見ていないかい?」

 

【百騎幻槍】(ひゃっきげんそう)ですか? 今の時間ならバイトの時間……」

 

 その瞬間、アスフィはヘスティアたちがすごい表情をしていることに気付くと共に、主神(ヘルメス)のいい加減な性格から『とあること』に考えが巡ってしまう。おそるおそるヘスティアに彼女の眷属であるアクスのバイトについてヘルメスから話を聞いていないかと問うと、『そんな話聞いたことない』と言ったために彼女は膝から崩れ落ちた。

 

「なんで主神同士で話しないんですかぁ~、バカァ~!」

 

「君も苦労してるんだねぇ」

 

「すみません、取り乱しました。ご案内します」

 

 どうやらストレスでちょっとおかしくなっていたようだ。

 幻影にわちゃわちゃと介護されながら立ち上がるアスフィに憐憫の視線を送りながらも、彼女の案内で連れられてきたのは1件の酒場。それもそこら辺の如何にもゴロツキのような冒険者が大声で笑い合う場末の物とは違い、外見から高級オーラが漂っている『場違い感』から本当にアクスがこんな場所に出入りしているのかとベルは不安になったが……。

 

「あっ、ふーん」

 

【万能者】(ペルセウス)様、そちらの主神を殴り倒しても?」

 

「私も()()あるので、それらも含めて送還しない程度なら……と」

 

 何かを察したヘスティアに、同じく合点が言ったような表情でアスフィと何やら危険な匂いのする会話をするリリルカ。そして、一足先に扉からそっと中の様子を伺った命の方から凄まじい負のオーラを感じたベルとヴェルフが縮こまっていた。

 

 やがて、全ての取り決めや段取りといった話し合いが終わったのだろう。『開けろ、【ガネーシャ・ファミリア】だ!』といったスキャンダラスな突入……ではなく、あくまでもコソっと店内に入るヘスティアたちとその最後尾で身を丸めながら大人しく着いていく男たち。

 彼らの背中が何だか物悲しいが、それはそれとして店内もかなり豪華なつくりであった。

 

 しかし、問題はそんな店内の作りではない。彼女たちの目にまず飛び込んできたのは、豪奢なソファに腰掛けながら女性に囲まれている武神の姿だった。

 

「はあぁ……そうですよね。私のことはタケミカヅチ様が1番分かってくれますもの。……この店で1番高い純米酒を!」

 

「わ、私はタケミカヅチ様に1番高い吟醸酒を!」

 

「負けるもんですかぁ! オラリオで1番高い大吟醸を!」

 

「お、お前たち! そんなに高い酒を……」

 

『いえ、私たちのお礼です!』

 

 先ほどまで同担拒否の勢いがどこへやら。一糸乱れぬ説得にタケミカヅチは押し切られて酒を飲んでは笑みを浮かべている。そんな彼の姿を周囲の女性たちも陶酔しきったようなトロンとした表情で見ていた。

 

 そして、別のテーブル。そこではタケミカヅチほどではないにしても複数の女性たちに囲まれながら食事を詰め込む小動物の姿があった。

 

「むっ……むっ……」

 

「アクス君。私、最近悩んでることがあるの」

 

「むっ……。僕に聞けることがあったら聞きますよ」

 

「ありがとー。あ、店員さん! この子に有機野菜の高級野菜スティックをお願い!」

 

 タケミカヅチと比べるといささか距離が近い──というよりは、小動物にエサを与えながら相談に乗ってもらっているような立ち位置だろうか。

 片や完全にホスト。片やアニマルセラピーと言っても過言ではない距離感に、ポカンとする男性陣とは対照的に女性陣の動きは迅速だった。

 

「タケミカヅチ様。お時間、よろしくて?」

 

「ん? あぁ、かまわな……。命?」

 

「あら、命とはいったいどちら様のことでしょうか。それよりも、何をなさっておられるのでしょう? うふふ」

 

 お嬢様然とした口調で近づいてきた命に面食らうタケミカヅチ。しかし、彼女の目は一切笑っておらず、その怒気に充てられたタケミカヅチは蛇に睨まれた蛙のように動きを封じられてしまう。

 それでも『アルバイト』や『お前たちに美味い物を』と下心が無いことをアピールするが、恋する乙女にそんなことは関係ない。

 

「タケミカヅチ様の不埒者ー!」

 

「ぐほぉぁあ!」

 

 第2級冒険者が束になっても叶わない程に身体能力が極まっているタケミカヅチだが、身体が動かなければ意味がない。かくして天然ジゴロの武神は1年で戻ってくる予定の元眷属兼家族に制裁された。

 

 そして、もう片方の方は……。

 

「アクスく~ん、何をしてるのかな?」

 

「ご飯食べてます。美味しいです」

 

「いや、そうじゃなくてね?」

 

 話が分かっていないのか、それともここがどういう場所なのかも分かっていないのか。おそらくは後者であろう頓珍漢な答えにヘスティアは毒気を抜かれる。

 ただ、リリルカだけは『ここはアクスの教育に悪い場所』と厳しく叱りつけるものの、『1人でホームの庭に座ってご飯食べてたら、ヘルメス様に"食事は賑やかな場所が良いから"って連れて来られた』と説明され、何も言えなくなってしまう。

 

 たしかにヘスティアはバイト。ベルたちがダンジョン探索をしている中、レンタル幻影の日は必然的に1人になってしまう。1人の孤独を十分すぎるほど味わっているリリルカは、『それでも』とは到底言えなかった。

 

 ただ──。

 

「ヘルメス様ですね」

 

「ヘルメスだね」

 

 この状況を生み出した怨敵は分かった。

 とりあえずは店の者に事情を話して顔面に蹴り跡が残ったタケミカヅチと未だ小さいお口でポリポリと野菜スティックを食べているアクスを店の外に出していると、店の軒先に1人の男神がボコボコ状態かつ逆さに吊るされていた。

 

「や、やぁ……。ヘスティア」

 

「ヘルメス、君の仕業だったのかい?」

 

「はっ、はは。何のこと……。ハイ、ソノトオリデス」

 

 神威すら解放しそうな勢いのヘスティアに、とうとうヘルメスはゲロった。

 なんでもタケミカヅチによって予想以上に売れ行きが好調で、さらなる一手を模索していたところを1人で寂しそうにしていたアクスに出会ったらしい。はじめこそ『ヘスティアも酷いことをするな』と憐れみ半分で彼に賑やかに食事が出来る場所を提供したのだが、気付けばアクスの他人優先で人にやさしく出来る言動に指名が付き、かなり高額の料理が注文され、いつしかタケミカヅチと並んでナンバー2の地位にまで行ったのだとか。

 

 無論、そこで発生するのがお賃金だ。場所を提供している手前、変に報酬を与えればヘスティアに感づかれると思ったヘルメスはアクスに『困っていること』を聞き出し、ヘファイストスファミリアへの借金の件を聞き出す。

 そこへアクスによって儲けた額の数割を送り込んだのが、ヘスティアにバレた感じである。

 

「駄目だぜ、ヘスティア。この子も眷属で正真正銘の子供なんだ。頼んで眷属になってもらった手前、ちゃんと見てあげないと」

 

「そうだね。悪かったよ」

 

「でも、歓楽街の真似事で働かせていた事実は消えませんよね?」

 

 論点ずらしで有耶無耶にしようとしていた奸計をあっさり看破されたヘルメスは呻くが、もう遅い。

 かくして、神々の伝令役は完膚なきまでボコボコにされた後に半日ぐらいその場に放置された。

 

 なお、アクスの1人ぼっち問題だが、半月もしない内にとある極東のエロ狐(サンジョウノ・春姫)が眷属に入ったことで解消するものの、『春姫君(様)も春姫君(様)で、この子の教育にすこぶる悪いのでは?』と思ったりするヘスティアとリリルカであった。




元ネタは某星の戦士のアニメに出てたわにゃわにゃを売る回。

幻影
 (100人召喚しても)大丈ー夫!
 基本スペックが『アクスより低いステイタス』なため、経験や技術や知識はその類ではない。俗に言う『屋根修理も数人での高所作業も計算も、ダンジョンでは評価されない項目ですからね』案件。
 これで某影分身みたいに幻影の記憶や経験が反映されたらそれこそチートですが、無いっす!

 ちなみに各レンタル場所での業務と評価は以下の通り
  ロキ・ファミリア:ダンジョンに潜る団員のサポーターや黄昏の館の修繕など。1日増やして! 

  フレイヤ・ファミリア:回復作業の手伝いから宴会の手伝いなど。オッタルが何かやりたそうに見ているが、その度にヘイズがものすごく嫌な顔をしている。
  4日どころか毎日来て欲しいとも思っている。

  ヘルメス・ファミリア:アスフィの補佐と睡眠時を狙いすませたようにやって来るヘルメスの捕縛とお仕置き。幻影が来てから彼女の安眠時間が4時間に増えた。
  せめてもう1日増やして欲しい。

  ミアハ・ファミリア:ダフネたちのサポーターや商品陳列など。持って帰れる分が増えたため、商品の増産が上手く言っている模様。1日増やして欲しい。

  タケミカヅチ・ファミリア:桜花たちのサポーター。壁役が増えたことで千草などが動きやすくなった。頼り過ぎると堕落するから現状で良い。

  ヘファイストス・ファミリア:店番からヘファイストスの業務の補佐。椿の試し切り相手など。ここが1番幻影の損耗率が高いのは秘密。毎日来てくれても良いぞ!

  ガネーシャ・ファミリア:巡回や捕り物の支援など。組織的に動いてくれるので助かるとのこと。

  ギルド:資料の運搬や選定などだが、1人分だけ重要書類の運搬役などのためにロイマンが確保している。税金の見直しも検討していたりする。

ホストっぽいなにか
 今は亡きダンジョンクロニクルのタケミカヅチエピソードから抜粋。

極東のエロ狐
 救出時、イシュタル・ファミリアのホームの入り口でファランクスを組んで戦闘娼婦(バーベラ)たちを迎撃。途中でフリュネを始末したオッタルに見つかり、口直しとして『来い』される展開を妄想してました。
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