ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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原作、ソードオラトリア、エピソードアミッド同日発売って…。
お財布握りしめて待ってな!


137:最終調整

 【ロキ・ファミリア】上層部との会合を終え、またしても幾日か経った。緊張に緊張を重ねたものすごい顔面でやって来たラウルから、いくつかのの届け物と届(・)け(・)神(・)。そして、『作戦は今夜』という情報をもらったア(・)ク(・)ス(・)と(・)【(・)フ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)・(・)フ(・)ァ(・)ミ(・)リ(・)ア(・)】(・)の(・)面(・)々(・)は、未だ朝日も昇っていない時分から出撃準備を行っていた。

 

「降ろすぞー。アルフリッグ、ちゃんとズレてないか見てくれ」

 

「もうちょい右。いや、行き過ぎ。……大丈夫だ」

 

 高い神輿の最上段。周囲に花瓶や絨毯が設置された豪奢な空間にて、ガリバー兄弟とアクスはアルフリッグの指示で貴人が座りそうな赤くて豪華な椅子を運び込んでいた。

 花瓶と花瓶のちょうど真ん中に椅子が丁寧に降ろされ、絨毯にシワがないことを確認した侍女や満たす煤者達(アンドフリームニル)たちがテキパキと固定作業に入っていく。

 敬愛する美の女神が一時的とはいえ腰を下ろす場所なので、鈍色がきつい釘で固定するのはあり得ない。かといってこれ見よがしな固定という不細工極まりない真似など到底許容は出来ない。

 そんな訳で組み木などといったインテリアに見え、なおかつ目につきにくい箇所にさりげなく固定といった緻密な作業をしているわけだが──。

 

「ヘルンさん、この花瓶の固定の仕方教えて欲しいです」

 

「まず、こういった形の木を交互に組み合わせて──」

 

 アクスが侍女頭のヘルンの近くで手元を観察しながら教えを乞う。人の目につきそうな部分やそれに対する心配りなど、治療院でも使えそうな技術だからだろう。少しでも侍女たちの技術をモノにして帰ろうとする意志を感じ取ったのか、彼女は手順が分かるようにゆっくりとした手つきで素直に教えていく。

 

 さて、ここまでクエストを発注されたアクスが戦いの野(フォールクヴァング)で行っているような作業だが、なぜ彼がここにいるのかを語らねばならない。

 

***

 

 三首領の手際の良すぎる確保とロキの迅速な運搬により、アクスはひとまず【ガネーシャ・ファミリア】まで送られることとなった。

 しかしながら、【ガネーシャ・ファミリア】もいつもの守衛業務に加えてクノッソス内の緑肉を除去する作業やその監視。はたまた突発的な事件の調査なども請け負っているため、アクス1人を匿う余裕も彼(・)が(・)生(・)存(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と(・)い(・)う(・)事(・)実(・)を(・)外(・)部(・)に(・)漏(・)ら(・)さ(・)な(・)い(・)確(・)証(・)も一切なかった。

 

 ならば、なぜここに一旦置いたか。理由は簡単。『ユーノをオラリオに迎え入れ、そのまま本命へと運び込むため』だ。

 怪物祭(モンスター・フィリア)を主催している【ガネーシャ・ファミリア】は、当然ながら『モンスターを地上へ運び出すための輸送手段』を確保している。それこそ、シルバーバックやオークといった大型のモンスターも運搬できるほどかなり大型の荷車も保有しているため、オラリオの外で待機しているユーノやレットを住民や冒険者に何の疑いも掛けられることなく本拠(ホーム)へ運び入れることが出来てしまうわけだ。

 

 そんな訳で、全ての事情を知っているシャクティとそのお付きとして『謎のガネーシャマスク(ハシャーナ)』が堂々とユーノとレットを輸送。『善良な商人からの通報があった』としてレットをスケープゴートにダンジョンへと帰し、アクスとユーノは『外部にアクスの生存をほぼ100%知らせない鉄壁の口を持ち』、なおかつ『第2次侵攻まで間違ってもアクスを外に出さないであろう』場所──【フレイヤ・ファミリア】のところまで輸送された。

 そこからはロ(・)キ(・)か(・)ら(・)預(・)け(・)ら(・)れ(・)た(・)手(・)紙(・)を一瞥したフレイヤは、アクスがここに居ることを黙っているよう団員たちに通達。これで内部から外部に情報が漏れることが完全に無くなったということで、アクスは第2次侵攻が開始されるまでこのまま悠々自適なニート生活が待って──いなかった。

『フレイヤ様のご好意で置かせてもらった以上、自堕落に過ごすのは許さん』という鬼畜(ヘディン)により、アクスは本当に色々なことをやらされた。

 

 まずは洗礼である。なぜかガリバー兄弟と共闘しながら、これまたなぜかオッタルが相手という冒険者の常識がどこかに欠如したかのような組み合わせだったが、『善戦した上で傷1つつけられなかった』という都市最強を相手にしたにしては上々な結果となった……のだが、ここで1つ事件が起こった。

 戦闘も終盤に差し掛かろうとした頃。オッタルがガレスのようにユーノの突進を真正面から受け止め、そのまま彼らを放り投げたのだ。ユーノもろとも見事な放物線を描いて吹っ飛んでいき、その飛行経路の先にあったのが──よりにもよって宴を行う大広間。それに気づいたドヴァリンが『あっ』と叫ぶも、何もかもが遅かった。

 窓をぶち破る破砕音。室内の物体がぐちゃぐちゃになっているであろう轟音。そして、仕込みをしていた満たす煤者達(アンドフリームニル)の悲鳴。そんな叫喚の中、アクスとユーノは扉を開ける手間さえ省いた華麗なるダイナミックエントリーを果たしたわけである。

 

 幸か不幸か。いや、幸運なことにランクアップしたことやスキルでアビリティが増加していたことで無傷だったが、すぐさま不(・)幸(・)がやってくる。騒ぎを聞いて飛んできたヘイズとヘルンによるW説教が始まったのだ。

 いつの間にかオッタルまで交えてのガチ説経には、流石に『僕ら、悪くなくない?』と異議を申し立てたかったアクスだが、怒っている相手に反発しても碌なことにならないのは決して長く生きていないアクスの人生で唯一骨身に染みた経験である。

 なので、同じ気持ちなのだろう。大人しく膝を折りつつも『俺は悪くねぇ!』を連呼しているかのようにアクスとヘイズたちを交互に見るユーノを視線だけで宥めると、アクスはひたすら嵐が収まるのを待っていたとか。

 

***

 

 そんなこんなしていたら、時刻は夜。つまりは『宴(いくさ)』の時間である。

 オッタルが不器用な手で修繕(よけいなことを)したことで少しばかり風通しがよくなった大広間では、強靭な勇士(エインヘリヤル)たちが豪勢な食事を片っ端から食らって明日への活力に変えていくが、その中にアクスの姿はなかった。

 一応は『お客様』の彼。一体どこにいるかと思えば、厨房にて労働に従事していた。

 

 『おいおい、【フレイヤ・ファミリア】はお客様に労働させるのか』と思った諸兄は待って欲しい。これは、ヘディンから課せられた『訓練』なのだ。

 英勇詩篇(ミレシアン)はそれぞれの幻影を半自動(セミ・オート)で動かせるが、完全制御(フル・コントロール)で動かすことができる便利な魔法だ。されど、自動で動かすには推敲して命令を出さねば幻影はまともに動かず、完全制御するのであれば知恵熱に耐えながら正確に操作せねば棒立ちの木偶の坊になってしまうという使(・)い(・)方(・)を(・)熟(・)知(・)し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)系(・)の(・)魔(・)法(・)である。

 今は少しでも戦力を拡充したい時期──というわけで、アクスは宴に参加することなく満たす煤者達(アンドフリームニル)や侍女たちのお手伝いに駆り出されたわけだ。

 

 酒に使う蜂蜜が足りないと言われれば下ごしらえをしながら幻影を倉庫まで行かせ、到着したと同時に位置を交換。『ついでに』と頼まれたスパイスの袋と蜂蜜を両手に再び厨房へ戻って近場の満たす煤者達(アンドフリームニル)に渡す。

 その最中で共有していた幻影の視界に『修繕が終わった訓練用の武器の本数が書類と異なる』というメモを仏頂面のヘルンが見せてきたため、幻影に計算した内容を書き写させながら別の幻影に武器が納められた倉庫まで行かせてから視界を共有。実際に収められた武器の本数を数えてからヘルンに筆談で教え、烈火のごとく怒った彼女を見送りながら計算を続ける。

 

 当然ながら何度も知恵熱が出掛けたが、その都度氷魔法が使える強靭な勇士(エインヘリヤル)に冷やしてもらったり、回復薬(ポーション)や万能薬(エリクサー)が使われたりとアフターケアは万全であった。

 なお、先のアフターケアにヘイズが居ないのは……、『うちの子で確定じゃないですか?』と大広間で叫んだ途端に雷撃の音が聞こえたことで察していただきたい。

 

***

 

 そういった経緯で朝昼は上位の存在との洗礼。夕方から深夜にかけて裏方の手伝いという『【フレイヤ・ファミリア】からのクエスト業務+α』という地獄を幾日か耐え抜いた彼は、もはや【(・)フ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)・(・)フ(・)ァ(・)ミ(・)リ(・)ア(・)】(・)の(・)裏(・)方(・)に(・)は(・)欠(・)か(・)せ(・)な(・)い(・)存(・)在(・)となっていた。

 

 それもそうだろう。今までアクスがクエストを受注してくれたことで『人手が増えて楽になった』ことはあれど、作業内容だけはどうしようもなかった。

 ただ、今回は違う。9人分の幻影によってさらに人手が増え、そこから『実際に見てくる』、『ものを倉庫から持って来る』といった地味に重労働であったり面倒な仕事を肩代わりしてくれるおまけつきである。

 

 その効力は強靭な勇士(エインヘリヤル)たちが思う以上に大きかった。

 今まで改善の『か』の字も得られなかった業務内容が一気に楽になり、それぞれ与えられた作業に全力投球できる。そんな部下たちを取りまとめるヘイズやヘルンも、部(・)下(・)の(・)管(・)理(・)の(・)片(・)手(・)間(・)に(・)自(・)分(・)の(・)タ(・)ス(・)ク(・)を(・)消(・)化(・)し(・)て(・)緊(・)急(・)事(・)態(・)の(・)対(・)応(・)というハード過ぎるスケジュールから部下の管理とアクスが居ることで若干優しくなった自身のタスクに力を注ぐことが出来た。

 

 事実として、この数日において満たす煤者達(アンドフリームニル)や侍女たちの労働時間は目に見えて減少している。残念ながらタイマーカードなどはないために『では、実際に何時間ぐらい削減できた?』とは算出は出来ないが、いつもならば日付を超えても明日の朝食の仕込みなどが終わらず四苦八苦する満たす煤者達(アンドフリームニル)。目の下にクマを作りながら期日ギリギリの書類にあった記入間違いをイライラしながら訂正する侍女たちというのがデフォルトだったのが──。

 何ということでしょう。仕(・)込(・)み(・)ど(・)こ(・)ろ(・)か(・)明(・)日(・)の(・)宴(・)で(・)1(・)番(・)減(・)り(・)そ(・)う(・)な(・)食(・)材(・)を(・)あ(・)ら(・)か(・)じ(・)め(・)搬(・)入(・)さ(・)れ(・)、期(・)日(・)に(・)か(・)な(・)り(・)余(・)裕(・)を(・)も(・)っ(・)て(・)用(・)意(・)で(・)き(・)た(・)資(・)料(・)が(・)き(・)ち(・)ん(・)と(・)梱(・)包(・)さ(・)れ(・)た(・)状(・)態(・)で(・)整(・)理(・)さ(・)れ(・)た(・)それぞれの仕事場がそこにあるではありませんか。

 そのうえ、ようやく日(・)付(・)を(・)超(・)え(・)た(・)時(・)分(・)。一般の満たす煤者達(アンドフリームニル)や侍女たちは当然として、1番遅く寝ているはずのヘイズやヘルンが夢の世界に旅立っていることを鑑みれば、アクスの魔法がどの程度彼女たちに良い影響を及ぼしたか計り知れよう。

 

 人間は即物的な生き物である。そんな脳を焼かれた──とは厳密には違うものの、成果を見せられたうえで数日とはいえ『十分な睡眠』や『ゆったりと落ち着ける時間』という飴(・)をもらったとなれば……。どうなるかは赤子でも分かる。

 

***

 

 そして、話は再び第2次侵攻開始当日の早朝まで戻ってくる。

 

「ヘルン様、この子を専属契約しましょう。もう、他の派閥に渡さないですよ」

 

「落ち着きなさい。冒険者を専属契約すればいくらかかるか分からないんですよ。今、フレイヤ様が神ディアンケヒトと契約の見直しをしています。良い方向に転がるのを待ちましょう」

 

 興奮冷めやらぬ侍女が手を動かしながらも自分の欲望を曝け出す。しかしながら、ヘルンは持ち前の自制心でもって彼女の欲望に冷や水をぶっかけた。

 別にヘルンは己の領分を侵害されたことで怒っているわけではない。むしろ、彼女も先ほどの侍女たちと同様に『人手を増やすことで業務が早く回るのであれば、それに越したことはない派』ではあるものの、同時に過度に期待する危険性も理解している。

 

 現在、【ハイノービス】に半ば無理矢理ついて来る形でやって来たディアンケヒトとフレイヤが、『アクスに対する今後のクエスト報酬や業務内容をどうするか』といった話し合いをしている。やってきた当初は『第2次侵攻へ向けた最後の話し合い』と言ってきていたものの、フレイヤがアクスについて話し合うことを伝えると訂正もせずについて行ったためにそ(・)う(・)い(・)う(・)建(・)前(・)で(・)や(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)のは明白だ。

 今も話は続いているものの、な(・)ん(・)や(・)か(・)ん(・)や(・)あ(・)っ(・)て(・)女(・)神(・)と(・)色(・)々(・)共(・)有(・)し(・)て(・)い(・)る(・)ヘルンは『吹っ掛けられそうね』と呟いていると、その呟きがアクスにも聞こえたようで──。

 

「僕、前の契約とお金で良いよ?」

 

「駄目よ。あなたはランクアップしたの。分かる?」

 

 アクスがとんでもないことを言いだした。

 相も変わらず物の価値を分かっていないパルゥムに、ヘルンは他派閥ながらも注意を促す。ファミリアの財政を引き受ける裏方として、本音を言えば副官2人に掴まれている師匠と名乗る同僚(ヘイズ)のように『よっしゃ、言質取った!』と言いたいが、【フレイヤ・ファミリア】は都市最強派閥がゆえのプライドがある。

 今までは『お前のようなLV2が居るか』という疑惑は持たれていたものの、それでもアクスに色々任せっきりにしていたということで報酬に関してはなぁなぁで済ませてきた。

 されど、LV3となった今ではそんなことは許されない。『【フレイヤ・ファミリア】は物の価値が分からない』や『価値を分かった上で安く買い叩こうとする』と煙(・)が(・)あ(・)れ(・)ば(・)火(・)を(・)つ(・)け(・)に(・)来(・)る(・)輩(・)もこのオラリオにはごまんといるため、『自身の自衛』のために交渉を行っている側面もあったりする。

 

 それでも、アクスには少々難しかったらしい。

 

「ベーリングさん、安かったら嬉しいんじゃないの?」

 

「そりゃ買い手にとっては嬉しいよ。だけど、自分で作った物が安く買い叩かれるのはいい気分がしないな」

 

「あと、職人に正当な報酬を渡さない奴とかな」

 

「あの親方とかな」

 

 なにやら苦い思い出があったようで、万感の思いが籠った恨み辛みを噴出させるガリバー兄弟。しかし、それでも一向に納得できずにいたアクスだったが、これ以上疑問を持っても周囲に迷惑がかかるだろうと自制することにした。

 

 そんなことをしていると、【フレイヤ・ファミリア】の居住区画である銀の館からホクホク顔のディアンケヒトと少しだけ元気のないフレイヤがやってきた。

 まさに正反対な反応をしている2柱。特に背中が煤けんばかりに憔悴している主神の姿に【フレイヤ・ファミリア】は一斉に戦闘態勢を取る。

 

「あなたたち、落ち着きなさい。ちょっと……いや、かなり取られただけだから。いえ、アクスの能力を考えれば今までがおかしかっただけだから、良いんだけどね?」

 

「そんなに言うなら素直に甘えろ。儂はアクスの言葉を尊重し、暗黒期に活躍したオッタルのことも含めて多少勉強しようとしたであろう。それをお主が"私はフレイヤよ? "って言うもんだから、本気を出したまでだぞ」

 

 ぐぅの音も出ない正論に俯くフレイヤ。威厳が一切見えない彼女の姿にどこからともなく舌打ちが聞こえた気がするが、周囲は特に問題はないということで作業に戻っていく。

 そんな中、アクスとその辺で草を食んでいたユーノは侍女たちに確保される形でフレイヤとディアンケヒトの前までやって来ていた。

 

「おぉ、ユーノ! すっかり逞しくなりおって! また働きたいという意思の表れだな!?」

 

「すっごい嫌そうにしてるわよ? ……どうしたの、アクス」

 

「前の値段で良いですよ? ディアンケヒト様は説得するんで」

 

「ディアンケヒト、すっごく頭が痛いんだけど。風邪かしら?」

 

「こやつはそういうものだと分かっとるだろうに。話半分で聞き流せ」

 

 道端で倒れた死骸を見るかのように嫌そうな表情をするユーノ。そして、本当に話を聞かないパルゥムを前にこめかみを抑えるフレイヤとより一層混沌みが増す。

 しかし、文字通り『(アクス関連で)場数を踏んでいる』ディアンケヒトにとっては慣れたもの。フレイヤに助言を与えてから、アクスに分かりやすく。それでいてファミリアへの風評被害や団長であるアミッドへ向けられる悪意を混ぜ込んだ説明をする。

 

「分かったか? この契約はうちへの信頼であり、悪意から身を守る盾でもある。だからこそ、この値段より値を下げるようなことはするなよ?」

 

「はーい」

 

 相変わらず分かったような分かっていないような返事をするが、ディアンケヒトの耳では分かっていると断じたようだ。すっかり大人しくなったアクスに直前のステイタス更新をするべく、フレイヤに適当な小屋を頼むと彼女は訓練用の武器が納められた倉庫を指し示す。

 

「"例のスキル"が気になるわ」

 

「そうだな。フレイヤ、お主も一緒に確認を頼む」

 

 すっかり過保護になってしまったディアンケヒトだが、それだけアクスの行動が読めないのだ。

 またぞろ変な神からアルカナムでも受け、【死神の祝福(ペイルライダー)】だけではなく他のスキルも変質してはたまったものではない。そう判断した彼は、アクスとフレイヤを引き攣れながら倉庫に入るとステイタス更新の準備に入った。

 

「オッタルたちにしごかれたにしては、上り幅が少ないわね」

 

「こんなもんじゃろ。むしろ、そっちでどれだけ魔法で酷使した?」

 

「あーあー、聞こえないわー。それに【ロキ・ファミリア】でも使ってたみたいだし、私たちだけのせいじゃないわよ」

 

 一部だけ高過ぎるアビリティに心当たりしか見つからない様子のディンケヒト。しかしながら、文句の1つすら取り合おうとしないフレイヤに呆れつつ、アクスの背に刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)をもう1度確認する。

 

【力】 :I 17 → I 20

【耐久】:I 26 → I 44

【器用】;H 119 → H 125

【敏捷】:I 81 → I 98

【魔力】:H 163 → G 231

【魔導】:H  【精癒】:I → H

 

 60台という異例の伸びを見せている【魔力】以外、まずまずの上り幅。少なくとも深層に行った直後のような出鱈目な上り幅ではないことにほっとしたディアンケヒトは、アクスのステイタスの下に書かれたスキルを見ながらフレイヤに声を掛ける。

 

「特に変わっとらんな。フレイヤ、どうだ?」

 

「変わってないように見えるわね。それにしても、ディアンケヒト。アクス、酷い魂よ? 本当にどうかならないの?」

 

「魂の修復など、それこそ死の神の領域じゃろうて。……して、アクスよ。【勇者】(ブレイバー)から作戦は聞いておると思うが、ここ数日で色々状況が変わった。改めて、説明するぞ」

 

 そう言ってディアンケヒトは懐から数枚の紙を取り出し、説明を始めた。基本的な作戦に大きな違いはない。ただ、細かい点について把握しておくべき箇所がいくつかあった。

 

 まずは『エニュオを確保する役割』である。

 これはアクスにとって初耳の話だったが、エニュオを確保するのはなにも『裁くため』という日和った考えではない。ハシャーナの殺害から始まったこれまでの事件の全容を解き明かし、背後に別の協力者や計画が存在しないかを改めて確かめるためでもあった。

 闇派閥(イヴィルス)が壊滅したと目されてから数年。堪(・)え(・)性(・)が(・)皆(・)無(・)な(・)神(・)がここまで我慢し、入念に準備し、ようやく日の目を見た計画である。緑肉によって闇派閥(イヴィルス)を諸共消した今、もはや協力者は居ないだろうが『別の計画があるのではないか』というのが天界で他の神相手に化かし合いをしていたロキの見解である。

 

 もっとも、あちらも神だ。こちらの都合が良いように捕まってくれることなど万に一つもない。

 それに、捕縛に注力し過ぎて隙を晒してしまう方が遥かに危ない。仮に逃亡を許してしまえば再び暗躍され、今度は数十年──フィンたちというゴールデンメンバーが居なくなった時期を見計らって復讐される可能性が高い。

 そのため、当初はロキだけでエニュオと接触。動向を見計らって捕縛か殺害をする計画であったが、そこに本神の強い要望でディアンケヒトも参加することとなった。

 

「ディアンケヒト様、危ないよ?」

 

「危険は百も承知だ。ただ……、儂自身としてもエニュオとはケリをつけたい」

 

 そう言って、ディアンケヒトは治療院の方角を見やった。彼の言う『ケリ』とは、要するに腹いせである。

 エニュオのアクス抹殺計画を利用してやろう。そんな、やられたらやり返すどころか、ついでに相手の度肝まで抜いてやろうという、悪趣味な──いや、実に神らしい発想だった。

 アクスを行方不明に仕立て上げ、敵が勝利を確信したところで本人を再登場させる。計画が破綻したと知ったエニュオがどんな顔をするのか、それを想像すれば多少の溜飲も下がるというもの。少なくとも、そんな計画を練り上げたロキと後で話を聞いて同調したディアンケヒトはそう思っていた。

 ただし、敵を動揺させるための仕掛けは、かなりの騒動にまで発展していた。

 具体的には治療院の空気。オラリオ内の雰囲気。すっかり未亡人の雰囲気が板についているアミッド。エトセトラ──エトセトラ。

 肝心の相手に与える効果より、こちら側が被った被害の方が大きいのではないか。そんな疑念を余裕で抱かせる程度にアクスが居なくなった穴は大きかった。

 これも神と人間の認識の差というやつだろう。ただ、零れた水は盆には戻って来ず、零れたミルクはいくら泣いても戻ってこない。

 

 だからこその『腹いせ』だ。第2次侵攻が終わったあとに行われるであろう『大謝罪大会』の犠牲者が全員思っているであろう恨み辛みを多分に含んだ八つ当たりという方が適切だろうか。

 『エニュオとかいう邪神、可哀想』や『エニュオまったく関係ねぇじゃねぇか』と思うだろうが、人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンという言葉もある。闇派閥(イヴィルス)やエニュオが素直に壊滅していれば。もしくは改心して大人しくしておいてくれれば、今頃アクスはオラリオやダンジョンを駆け回りながらL(・)V(・)3(・)に(・)向(・)け(・)て(・)頑張っていたはずなのだ。

 つまるところ、『邪神(おまえ)たちの頑張り過ぎだ!』という考えに帰結する。

 

「そんなやつらに譲歩などするわけがなかろう。悪党はボコって、どついて、この際だから洗いざらい吐かせて、足しになりそうなのは全てもぎ取る! つまり、儂らの総取りでフィニッシュじゃ!」

 

「ディアンケヒト様、どうしたんだろ」

 

「ストレスたまってるのよ。ヘイズから聞いたけど、治療院が酷いみたいだし」

 

「僕が居なくなったぐらいでそんなにタスク遅延しないと思うけどなぁ……」

 

「ディアンケヒト、はやく続きを話しなさい? 時間ないんでしょ」

 

 何処かのミジンコのような搾取術を長々と語るディアンケヒトに、相変わらず自分の価値も分からないパルゥム。後者はもはや見慣れたアクスの悪癖ゆえに彼を無視することにしたフレイヤは、ディアンケヒトに残りの要件を伝えるよう急かす。

 

「続きと言っても、後は開始のタイミングを【勇者】(ブレイバー)から儂に代えたぐらいだぞ。ほれ、アクス」

 

 アクスがディアンケヒトから紙束を渡される。長々と理由や結論まで紆余曲折あった残骸が書き殴られていたため、『清書してほしい』と文句を言いながらも読み進めると、追加された項目の中に『どうしても許容できない内容』を見つけた。

 

「ディアンケヒト様、これ言わないといけないの?」

 

「スキルがあるじゃろ。テキトーにやっておけば良い」

 

「あら、【勇者】(ブレイバー)も意外と意地が悪いわね」

 

 何事かと横から覗いたフレイヤの双眸に、オ(・)ラ(・)リ(・)オ(・)全(・)体(・)を(・)鼓(・)舞(・)し(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)という文字が見える。他には『熱い言葉たのむでぇ』といった注釈もあるため、おそらくはアクスが断ることを見越し、この土壇場で加えたのだろう。

 しかしながら、それを言われた方はたまったものではない。いくらグランド・デイなどで演舞を行ったアクスでも、数百は間違いなくいるオラリオ全体を鼓舞など『社長含めた全社員の中で主張を行う』ようなものだ。

 

「なら、練習すればいいじゃない」

 

 すると、そんな彼にフレイヤが微笑を称えながら提案してくる。ここは【フレイヤ・ファミリア】の本拠(フォールクヴァング)なので、フレイヤが一声かければ練習し放題。それに知恵者(ヘディン)も居るため、推敲もお手の物だろう。

 

「そうしてもらえ。では、儂は帰る」

 

 そう言って倉庫からディアンケヒトが保管庫から出ていくと、扉の横に立っていたオッタルに『邪魔をしたな』と挨拶を交わし、ちょうど『冒険者依頼(クエスト)と冒険者依頼(クエスト)のインターバルを何日にするかの交渉』をしに突撃してきたヘイズを護衛に戦いの野(フォールクヴァング)を去っていった。

 

「じゃあ、練習ね。神が泣いて喜ぶ言葉の数々を教えてあげるわ」

 

 何がそんなに楽しいのだろうか。やたらウキウキといった感じで歩いていくフレイヤに、アクスは横に居たオッタル共々首を傾げていた。

 

***

 

 こうして、各派閥で決戦に向けた準備を着々を行っていた頃。と(・)あ(・)る(・)酒(・)場(・)でもひと騒動起こっていた。

 

「それじゃあなにかい? この忙しい時に、事前連絡もなしに、休ませてほしいってのかい?」

 

「うん、ミアお母さん」

 

 漂ってくる尋常ではない怒気。店の窓がカタカタと振動させるほどの圧に、ホールの掃除をしていたクロエとアーニャは『殺されるニャァー!』と騒いでいた。

 しかし、ウェイトレスの姿ではなく【黒拳】としての衣装を身に纏ったルノアは自身の母──ミア・グランドの目をしっかり見ながら今日の夜中から明日一杯の休みを頼み込む。

 

 ルノアにとって、【デメテル・ファミリア】はオラリオに居る間の腰掛けのつもりだ(・)っ(・)た(・)。

 もちろん、今は違う。デメテルという親身に接してくれた主神に、なし崩し的にだが特段厳しくも温かい豊穣の女主人という『家』。そして、そこで出来た自分みたいな仲間(バカ)たち。

 数えだしたらキリがないほどの『良い思い出』を与えてくれたきっかけが、【デメテル・ファミリア】だ。しかし、その主神が──賞金稼ぎという危ない仕事をしていると知っていても温かく接してくれた善神が──最(・)後(・)の(・)仕(・)事(・)を(・)す(・)る(・)前(・)のように悲しんでいるのだ。

 

 買い出しの途中で出会ったヘルメスから託された金属製の筒をぎゅっと握る。

 血で塗れてどす黒くなった拳。ファミリアの皆が丹精込めて作り上げた野菜を持つのも躊躇してしまうほど汚れきった拳だが、主(・)神(・)や(・)団(・)員(・)た(・)ち(・)を(・)傷(・)つ(・)け(・)た(・)や(・)つ(・)ら(・)を(・)殴(・)り(・)倒(・)す(・)こ(・)と(・)は(・)出(・)来(・)る(・)。

 

「本当にお願い! デメテル様が泣いてるの!」

 

「いつ、あたしが"駄目"って言ったんだい」

 

 改めてミアへ強く懇願すると、彼女は戸棚からルノアと同じ金属の筒を見せてくる。

 どうやら一杯くわされたらしい。それに気づいたルノアが『酷いよー』と言いながら豊穣の女主人から出て行こうとするが……。

 

「あぁ、"もう1人の欠勤者"に言っときな。無断欠勤のツケは払ってもらうって」

 

 そう言われて店内を見ると、いつもは居るエルフが居ない。そこから色々と察したルノアは、飛び火を恐れたのか妙にぎくしゃくした返答をしながら駈けて行った。

 

 そうして、【黒拳】がエントリーを表明した数十分後。フィンの号令と共に第2次侵攻が開始さ(じごくのかまがひらか)れた。




次回、いよいよ刻剣神聖譚(ソード・オラトリア)開始。
それと同時にアミッドの救済も開始。長かった…。

アクス
 フィンやロキから『放っておくと碌なことにならないから』と絶対逃げられないし、バレない託児所にシュートされた子。
 作戦開始までだらけられると思ったが、どこかのホワイトエルフのせいで訓練漬けに。
 ただ、訓練の成果として全幻影をある程度制御でき、なおかつ自分も動けるように。(某機動戦士でいうと、ファンネル飛ばしながら自分もある程度の戦闘機動が出来る。某インフィニットなストラトスでいうと、BT兵器動かしながら移動狙撃出来るオルコット嬢ぐらい)

フレイヤ・ファミリア
 ガリバー兄弟『え、うちの身内では?』
 ヘイズ他裏方「え、うちの労働力では?」
 ヘディン「粗削りだが、まぁまぁ。よし、もう1段ギアを上げるか」
 その他もろもろ『なんか、他派閥なのによく働くよな。あいつ』

ディアンケヒト、前線入り決定
 ほら、医者ってたまに前線行くやん? メスとか投げるやん?
 こっちのディアンケヒト様、結構キレてそうだと思って。

ルノア、参戦
 【デメテル・ファミリア】なのに、本作で豊穣の女主人組として地上に居たのがちょっとどうかと思ったので。
 実は、このために色々彼女と接点持たせてたのは内緒。

R元服について
 そんなこんなで、豊穣作戦(R元服作品)一旦目途たちました。初手でランキング入りしたり、評価いただけてこちらとしては満足に終わって良かったです。
 あと、久しぶりに昔やった3足の草鞋気分を味わえました。編集長(同僚)には後でなんかおごってもらいます。
 じゃ、うちは次の外伝(おそらく【ヘスティア・ファミリア】のアクス)の準備に入るから、失礼する。多分12月かなぁ。

後書きの後書き
 感想で某エースの翼のようだという反応があったので
 Cope《覚えておいてくれ、11だ》
 aks《特売の時間!》
 Cope?《そうや! 11時のタイムセールスは絶対逃したらあかん! イモ引くんやないでぇ!》
 こうですか、分かりません。
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