ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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ゴールデンウィークなので、四方山話でも。
本編はちょっと暗いので、こういうの書きたかった。


【小要塞】(デミ・フォートレス) 四方山話

***漫画***

 

 漫画。それはコマ割りのある絵を主体とし、セリフや擬音語などを補助手段として、出来事や物語を展開する全く新しい伝達手段である。

 これ以上は2番煎じとなるため割愛するが、現在のオラリオはその漫画がブームとなっていた。

 【ヘスティア・ファミリア】やオラリオから追放されたアポロンの作品を【ヘルメス・ファミリア】が統括して売り出す『週刊少女オラリオ』と【ロキ・ファミリア】が大勢居る団員をフルに用いて作り出した『週刊少年ダンジョン』。他にも小さな漫画はあるが、基本的には先ほどの2冊が飛ぶ竜を落とす勢いで着実に売り上げを伸ばしていっている。

 

 探索系ファミリアはダンジョン探索しろよ──とは間違っても言ってはいけない。ラウルを筆頭とした漫画作成に使用するステイタスの上り幅がすごい団員たちが居ることに加え、売り上げの増加は後々の遠征費にもなる。みすみす金銭獲得の手を逃す手はないというのが団長であるフィンの考えである。

 なお、ロキの悪ふざけは今に始まったことでもない。なので大方の展開を予想できた三首領は『適当なところで飽きて止めるだろう』と高を括っていた。

 

 すると、そんなホームの空気に充てられたのか。1人のパルゥムが立ち上がる。

 作製人数はそのパルゥム──アクス・フローレンスただ1人。ただ、暇な時間を見つけてはオラリオ中を徘徊して様々な人に取材をし、ホームに居るハイエルフを始めとした様々な人に教えを請い、簡単なラフから作成し……。

 そして今日、全てのページを書き上げることが出来た。

 

「出来たー」

 

 インクで真黒くなった手を真上に上げて喜びを露にするアクス。主神と共同の部屋には糸が縦横無尽に張り巡らされており、様々なページがインクを乾かすために垂れ下がっている。

 手元にある布で手に着いたインクを拭ったアクスは、ギルドから借りた頑丈なケースに乾いたページを1枚1枚丁寧に仕舞い込んでいく。間違ってもインクが他のページに移らないように間に紙を挟み込むほど丁寧に仕舞い込んでいき、あと1枚──何度も書き直してようやく完成した机の上の1枚を急速に乾かそうとケースを閉じてから部屋の窓を開いた。

 

 その時だった。

 

***

 

 耳をつんざく爆音が黄昏の館を振るわせる。『すわ! 闇派閥(イヴィルス)の襲撃か!』とロキたちが慌てたのも束の間、アリシアを筆頭としたエルフたちの週刊少年ダンジョンの廃刊を要求する声が轟いた。

 彼女たちは漏れなく憤怒の炎に身を焦がしており、要求が受け入れられないと分かった瞬間にも館を更地にしそうな勢いを放っている。その光景にロキは初めこそホームがこれ以上破壊されることへの恐怖を覚えたが、レフィーヤが放った魔法が()()()()()に直撃している様子に顔を真っ青にさせながら叫んだ。

 

「レフィーヤ! 自分、どこ狙って撃っとるんや!」

 

「知れたこと! 生原稿を燃やすためにロキの部屋に撃ってるんです!」

 

「あっこにはアクス居るねんで!?」

 

『あっ……』

 

 先ほどまで溶けた鉄のように真っ赤に怒っていたエルフたちの熱がすぅーっと冷めていく。ファミリアの末っ子であり、まかないさんだったり、遠征時の家であったりと様々な呼び方があるアクスだが、極まったステイタスをしていない。

 そんな彼がなんの防御もなしにレフィーヤの魔法を食らえばどうなるか。

 

 そうだね、木っ端微塵だね。

 

「あっ、あばばばば」

 

「ロキは別に構いませんけど、アクスは駄目です! 救助を……」

 

「うちのことはどうでもええんかい!」

 

 混乱状態に陥ったレフィーヤを宥めながら救助部隊を編成するアリシア。なにやら不敬な言葉が聞こえたことにロキは文句を言うものの、それを聞く者は誰も居なかった。

 そうしてアクスを救助しようとエルフたちが動き出す直前、魔法によって半壊した部屋の壁からアクスが飛び出してくる。右手にトランクを持ち、左手には焼け焦げた紙を持った彼は、地面に降りると同時に──。

 

「う”あ”ぁ”ぁああー!」

 

 それはもう激しく泣き喚いた。これには無事だったことに安堵していたエルフたちも困惑する。

 しかし、いつまでも泣きわめかせるわけにはいかないために代表者のアリシアが彼に近づいていき、屈んで話を聞く体勢に入った。

 

「アクス、どうしたのですか?」

 

「原稿が1枚、燃えちゃった……」

 

「あなたっ! 漫画を描いてたのですか!」

 

 『原稿』というワードにアリシアは瞬間湯沸かし器のように怒り出す。そして、アクスの持つトランクをひったくると、中身を改めだした。

 どうせロキにそそのかされ、低俗な作品を書いているのであろう。そんな考えと共に嫌がるアクスを合流してきたシンシアに託したアリシアがトランクの中にあるページを1枚1枚確認し──息を呑んだ。

 

「これ、オラリオの地図……ですか? それにこれは……葉のスケッチ?」

 

「アリシアさん、こちらは冒険者になるための申請手順が書かれてます」

 

「こっちは上層のモンスターの名前やスケッチが。あ、ドロップアイテムとギルドの適正買取価格まで!」

 

 他のエルフたちの手にもアクスが書いたであろう漫画の原稿が渡るが、そのどれもが彼/彼女たちが思うような低俗で破廉恥な内容ではない。逆に『少しでも冒険者やオラリオに来た人の助けになるように』という真摯な思いが感じ取れた。

 

「これ、エルフの紹介文? ……すごい、文化が詳しく書いてる。やられると嫌なこととか丁寧」

 

「うわ、上層に生える薬草のスケッチ。最適な処理方法まで書いてるぞ」

 

 他にもオラリオに住む神や人種の特徴や風習などのページや初心者にお勧めな採集物やより高く買い取ってくれる処理方法まで事細かに書かれていることに、エルフたちは驚愕する。

 

 それもこれもアクスが自分の足でオラリオを歩いて『取材』した結果である。ギルドのローズやエイナといった職員に手続きやダンジョン上層の話を聞き、アミッドやナァーザたちから高く買い取ってくれる上層の植物や調剤する前に助かる処理方法や保管方法を聞き、様々な──中にはギルドの仲介でオッタルにまで話を聞くといった並々ならぬ努力でこの漫画は出来ていた。

 

「アリシアさん、これも……燃やすんですか?」

 

「流石にこれを漫画と断罪するのはちょっと……」

 

 初めこそ低俗な文化は焼却処分と息巻いていたエルフたちだったが、アクスの書いた内容に躊躇する。これを燃やせば自分たちも野蛮人の仲間入りなのではないか。そんな声が聞こえてきそうな視線に、アリシアはかなり動揺した様子で『例外です!』と叫んだ。

 

 ただ、ここでシンシアに持ち上げられていたアクスがとんでもないことを言い出した。

 

「アリシアお姉ちゃん。それ、ギルドで初心者冒険者用に配布する漫画の原稿だから燃やさないで」

 

「……は?」

 

「だから、ギルド内に置いて好きに読んで情報収集できるようにロイマンさんから頼まれたの」

 

「えっ、なんでそのような話になってるんですか?」

 

 もはや話が大きすぎてガタガタと震えだすアリシアに、アクスは経緯を話す。

 なんてことはない。途中まで出来たこの漫画を誰かに見せたいという欲が爆発し、フィンに見せただけだ。

 始めこそ、『君もラウルたちみたいになっちゃったかぁ』と笑いながら書き上げられたページを読んでいくフィンだが、次第に読み込む速度が増していく。そして最後まで読み終えた彼はリヴェリアにも読ませ、リヴェリアも読んだ端から無言でガレスへ渡し、最終的に三首領全員の目に入った。

 

 その結果が『ギルドへ行こう』ということで、あれよあれよという内にロイマンの目に入ることとなる。

 オラリオに来る旅人のガイドブックにも、冒険者候補がまず身に着けておかなければならない知識が詰まった本にもなり、挙句の果てには『知らなかった』では済まされない種族間同士のトラブルの抑止力にもなる一石三鳥という豊富な内容。正に良いこと尽くめな漫画に、ロイマンは安らいだような笑みを浮かべながらアクスと正式に契約。その契約金は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という破格の内容だった。

 

「皆! 丁寧にケースに仕舞って!」

 

 話を聞いたアリシアの行動は迅速だった。

 もはや漫画ではなく、『重要書類』と認識した彼女はページを1枚1枚丁寧に纏めてからケースに入れる。無論、間に羊皮紙を挟み込むことで万が一にもインクが滲んで駄目にならないように注意した。

 【ロキ・ファミリア】にとって遠征は必須事項だが、何事にもイレギュラーが発生する。ダンジョンで不可解な動きが確認されている以上、『人数不足や指揮官不在で遠征が不可能』という最悪を回避する保険は喉から手が出るほど欲しい。そう判断したアリシアがどっと疲れたように深い息を吐いてからケースをアクスに返すが、それでも不満げな表情を浮かべるアクス。

 

「えっと、まだ他にあるの?」

 

「最後の1ページ……半分燃えちゃった」

 

「あっ……」

 

 十中八九、先ほどの魔法だろう。何度もモデルを頼みながら特に気合を入れたらしく、その悲しそうな表情にエルフたちの胸にデッドリー・ホーネットの持つ毒針クラスにデカい針が突き刺さった。

 しかし、そんなに残念がるなんて一体何を書いたのだろう。そう思ってアクスに焼け焦げたページを見せてもらったエルフたちは絶句する。

 

「リヴェリア……様?」

 

「しかも、ロキとは比べ物にならないくらい上手い」

 

「でも、顔の半分が……」

 

 紙に描かれていたのは1人のハイエルフ。それもロキの書いている淫猥な物よりも緻密に書かれており、神々しさまで漂ってくるまさしく力作であった。

 しかし、その渾身の力作の半分が焼失してしまっている。そしてその原因となったエルフの少女は……。

 

「責任を取って自害します」

 

「レフィィヤァァァ!」

 

「いかん、レフィーヤを止めろ!」

 

「アリシアさん、お願いがあります。私を焼いた灰は、アルヴ山脈にまいてください」

 

「早まらないで!」

 

 その後、ナイフ片手に暴れていたレフィーヤをなんとか踏み止まったものの、なんだか漫画について云々いうのがバカらしくなったとか、ならなかったとか。

 ただ、結局は座り続けて作業をした無理が祟り、全作家がぎっくり腰となったことでこのトンチキなブームは幕を閉じた──のだが。

 

「うぅ、恥ずかしいです」

 

「耐えなさい、レフィーヤ! これもアクスとリヴェリア様への贖罪のため!」

 

「リヴェリア様、"食材"ってアリシアお姉ちゃんたちは食べ物じゃないよ?」

 

「"しょくざい違い"だな。後で教えてやろう。……贖罪と言われても、私としては有難迷惑なのだがなぁ」

 

 広い部屋の一室ではレフィーヤとアリシアが中々に扇情的な格好でアクスに給仕をしていた。

 今回の騒動で焼失した1枚だが、どんなに願っても失った物は返ってこないのは世の理。ならばとアクスはリヴェリアに再び頼み込み、必死の思いで書き直しているのだ。

 2人の給仕に関しては『迷惑をかけた』ということでのお詫びなのだが、服装については虎の威を借るなんとやらで元気になったロキからの注文である。

 

 ただ、お子ちゃまのアクスにはその衣装の良さは分からなかったようだ。

 

「寒そうだし、ひらひらしてて集中できない。……風邪、ひかないようにね」

 

『ガーンッ!』

 

 明らかにドン引いた様子で応急修理された自分の部屋へ戻っていくアクスに、レフィーヤとアリシアは膝から崩れ落ちる。

 意識されても困るのだが、全く意識されていないのはそれはそれで寂しい。そんなエルフたちの面倒くさい思考にモデルから解放されたリヴェリアは呆れたような息を漏らすのであった。

 

 

 

***ファミリア・レクリエーション***

 【ロキ・ファミリア】で遠征が終わると行われる宴会。ただ、騒がしいことを好むロキにとってこの宴会は眷属たちとコミュニケーションを取りながら自分も楽しめるという一石二鳥なイベントなため、複数行われることが往々にしてある。

 今回は、遠征の成功を祝して『第6回目』の宴会。いつもの如く豊穣の女主人で開かれた宴会には、ロキ、ベート、アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤといった候補を加えた幹部たち。それと何故か紛れ込んできたディオニュソスとフィルヴィス。そして──。

 

「アクスゥ、食べとるかぁ!」

 

「お腹いっぱい」

 

「早いなぁ!? しかも、また飯にソースぶっかけたやつかいな!?」

 

 やや膨らんだお腹をさすりながらケプリと可愛らしいゲップを放つアクス。

 しかし、その食事量は少なかった。パルゥムの子供ということでフィンの少年時代を聞いたものの、数十年の昔の食事量のことを覚えているわけがない。

 ただ、身長だけは少なくともアクスよりはあったと断言しているために食事量の改善がひっそりと行われたものの、今の今まで実を結んでいない。

 

 さらにはアクスの食生活が何というか……。先ほどのようなご飯にサラリとしたソースをかけた物や魚の皮をこんがりと炙ってからご飯の上に乗せて余った汁物をかけるといった具合に、俗に言う『主婦が家事の合間に摘まむような料理と言えない代物』を好んで食べる傾向にある。ファミリアのお財布に優しいのはその通りだが、せっかくの酒場でそれはあんまりではなかろうか。

 現にこちらを睨んで来るミアに目線だけで否定したロキは、『いざとなったらディアンケヒトあたりに頼もう』と神特有の楽観視でアクスの現状に対して後回しにすると、元々のトリックスターな面持ちへと変貌する。

 

「今日はな、パーティ用のゲームを用意してきたんや」

 

「ゲーム?」

 

「その名も"(しん)・王様ゲーム"! みんなで笑えて羽目を外せる、超エキサイティング! なゲームやでぇ!」

 

 おかしい、いやな予感しかしてこない。声に出さずとも、その場に居たアクス以外の全員が心の内で毒づく。

 そもそも『王様ゲーム』も神が下界に持ち込んだ遊戯なので、それの改良版と言われても安心できる要素がどこにもないのだ。

 会話の最後にいちいち『ニヤリ』と言いながら嗤うロキとディオニュソスの反応からしても、ろくでもない。ただ、すっかりその気になったロキの術中から逃れる術もない。

 

 彼/彼女たちはそのままゲームへの参加を余儀なくされた……のだが。

 

「う”お”えぇぇ!」

 

「か、身体の震えがっ……」

 

「ふ、ふふふ。何という恥さらし。やはり私は穢れているっ!」

 

「燃え尽きました……」

 

 続々と築かれる死体の山。死んではいないが、須らく再起不能な冒険者たちに未だ役割を担っていないベートやアイズが戦々恐々としていた。

 しかし、王様と神の役割しか担っていないロキとディオニュソスは、知ったことかとばかりにゲームを再開する。もはや神々の玩具になるのは必定。改めて気合を入れて臨む冒険者たちに、さらなる試練が襲い掛かる。

 

「ふむ、王は神と違って選択肢が多いからな。ここは王道で……モノマネだ。人数は1番と2番と3番、それと5番と6番の5人。あとは神に委ねよう」

 

「う”あぁー! 3番あたしだぁー! もうやだぁー!」

 

「2番は私……」

 

「5番は私ですー! 2回連続ぅ!?」

 

「くっそ、6番っ!」

 

 続々と演者(ひがいしゃ)が名乗りを上げて来るが、1番が未だ名乗りを上げない。じれったくなったロキが全員のカードを見せてもらうために立ち上がると、いつの間にか椅子に立ち上がっていたアクスが1番のカードを掲げる。どうやら背が小さくて見えなかったようだ。

 

「おー、アクスか。全員が【ロキ・ファミリア】……なら、身内ネタやな」

 

 そのまま反論を聞かない振りでやり過ごしたロキは、次々と配役を決めていく。

 レフィーヤはガレスで、アイズはフィン。ティオナはベートで、ベートがレフィーヤ。そしてアクスがリヴェリアである。見るからにカオスな組み合わせだが、ここでアクスが『団長が良い』難色を示した。

 

「団長なら物真似上手いもん」

 

「アクスゥ、ならフィンにさせるわけにはいかんなぁ。自分はリヴェリアや」

 

「分かったー。ちょっと準備してくるー」

 

 言うが早いか、そのまま店の奥に行ってしまうアクス。彼の性格からして逃げないのは分かっていたため、何かしら考えがあるのだろうとロキは彼抜きで物真似の開始を宣言した。

 

 ──ただ、まぁ。結果は火を見るよりも明らかというわけで……。

 

「俺様は気に入った女にはちょっかい出さなきゃ気がすまねぇ性格なんだよぉ」

 

「ふぇ~、ベートさんは犬畜生ですぅ~」

 

「キミタチニーユウキヲトオウー」

 

「わ、儂、ガレス愛に満ちとるから」

 

 混沌と書いてカオス。邪神あたりが見たら抱腹絶倒しながら陶酔しそうな混沌具合にロキとディオニュソスは大爆笑する。

 だが、いつまで経ってもアクスが来ない。それでもロキは特に不思議に思わず『大かもなー』とゲラゲラ笑いながら酒を景気良く呷っていると、()()()()()()()()()()()が聞こえてきた。

 

「楽しそうだな、ロキ。出かける前にあまり羽目を外し過ぎるなと言っておいたはずだが?」

 

「げぇっ、リヴェリアぁ!? 自分、行かんって言うとった……あれ?」

 

 度重なる宴会に辟易したということで不参加だったハイエルフ。その声に驚くロキは声の下方向に首を向けるが、そこには誰も居ない。空耳かと思ったが、全員が目を丸くしているので聞き間違いの類ではないことを悟った彼女に、リヴェリアと思わしき声が再び聞こえて来る。

 

「まったく、酒が頭まで回ったか? 下だ、下」

 

「下って……、アクスゥ!?」

 

 そう。リヴェリアだと思っていた声の主は、何を隠そうアクスだったのだ。

 どこからどう聞いてもリヴェリア。具体的に言えば、雰囲気づくりのために持っているであろうモップでエクスなカリバーをぶっ放したりしてきそうな声質に全員が驚愕した。

 

「ロキ、なにを言っている? 私はリヴェリアだぞ」

 

「ちょーっと、演技止めてもらってえぇか? アクスやんな?」

 

「そだよー」

 

 ロキの要請に態度や声を180度変えるアクス。その急激な変わりように彼女は安堵すると共に『大道芸でもやっていけるんちゃうんか』といった考えが浮かぶ。

 しかし、そんなことを考えていたロキを余所に再びリヴェリアとなったアクスは本格的に他の演者たちと交流し始めた。

 

「レフィーヤ、先日言っておいた学術書の読み込みはどうした。次の指導は明後日だぞ?」

 

「あ、あばばばば。わ、忘れてましたぁ!」

 

「ん? なぜガレスが慌てている? 私はレフィーヤに言ってるんだ。それにベート、お前はもう少し女人の扱い方を心得た方が良い。これだからアイズから距離を……」

 

「るっせぇんだよ、ババァ!」

 

「だからお前はレフィーヤだろ。はぁ、訓練の妨げになるほどの野次馬根性といい、お前には大樹の心が理解出来ていないと見える。次の指導の項目を変えなければならないな」

 

「うぅ、本当にリヴェリア様に注意されてるみたいで心が痛い」

 

 ここにリヴェリアが居たら言いそうな言葉を次々と投げかけられ、ただでさえボロボロの演技をしていた演者たちが次々と素に戻っていく。

 唯一無事なのは特に指摘されなかったティオナと『勇気を問おうBОT』になり果てていたアイズだけ。レベルの違いにロキの笑いは面白い物を見た爆笑から、若干引き攣った笑いへと変わってしまっていた。

 

「な、なぁアクス。ちょっと演技止めて質問しても良ぇか?」

 

「なに?」

 

「自分、フィンの真似が得意いうとったけど……。どんな感じなんや?」

 

 ロキの率直な質問に、何故かティオネが肩を震わせる。先ほどまでフィンもどき──否、『それよりも格段に劣る何か』を見せつけられたことで若干フラストレーションを募らせていたのだ。

 これでもし……。仮にも……。下手な演技をしてしまったら……。英雄橋あたりで『ちょっと早い水遊び』の開幕である。

 

 ただ、そんなプレッシャーもなんのその。アクスはすぐさまロキに向かって朗らかな笑みを向けた。

 

「ロキ。言っている意味は分からないけど、今の僕は君のお眼鏡に叶ったかい?」

 

「え、なにそれ怖」

 

「随分ご挨拶だな。それにティオネ、拳なんか握り締めてどうしたんだい? 店に迷惑が掛かるから今すぐ止めるんだ」

 

「だんちょ──いや、声に幼さが残ってる。団長は中年のっ! 可憐な美少年の裏に隠された渋みのあるお声が魅力的なのっ!!」

 

「ティオネー、自分が変なこと言ってるの分かってる?」

 

 一瞬だけ騙されかけたものの、いつもの団長愛が炸裂するティオネ。その錯乱ぶりはティオナがガチツッコみする程であった。

 他にも『勇気を問おうBОT』(アイズ)に対して、『僕の真似かい、アイズ?』と声をかけたことによって一切似ていない物真似芸人の後ろから本物が姿を現したように固まってしまう。

 

「き、キキキミタ……チ……に。がくりっ」

 

「あ、アイズさぁーん!」

 

 自分のお粗末な物真似に絶望してオーバーヒートを起こしたのか、意識が飛んだらしいアイズとそれを解放するレフィーヤ。まさかここまでクォリティが高い物真似とは思わなかったロキは、さらには『今すぐ帰りたい。陰キャの私にはこの祭りの空気は辛い、死にたい』と悲壮感漂う呟きをしたアクスに対して何かの琴線に触れたのか、血反吐を吐きながらぶっ倒れたフィルヴィスを見て『このままでは死人が出かねん』と言いながら一旦お題のクリアを宣言する。

 

 その後、アイズとべートがとある作家と編集という内容で何かに取り憑かれたような迫真の演技をかまし、次の手番。やはりと言うべきか、王様がロキとなる。

 

「そろそろえぇ時間やし、これで最後にしよか。ディオニュソスもそれで良えか?」

 

「あぁ、異論はない。それにしても変わったね、ロキ。君がオールをしないなんて」

 

「うちのアクスたんがおねむやねん。はっちゃけられんわ」

 

「ロキ、そんな持ち方しちゃ駄目」

 

 むにゃむにゃ状態のアクスを印籠の如く掲げるロキに、見かねたアイズが彼を抱っこする。その際に一瞬だけベートがすごい顔をし、アクスと少しだけ似たような風貌の人物(ベル・クラネル)を連想したのか絶対兎償却ガールの片りんを見せたレフィーヤにフィルヴィスが怯えるといったことはあったものの、そんなアットホームな空気で宴会を終わらせないのが神々である。

 

「レフィーヤの意見にあやかって、やりにくい酷い命令しよかー」

 

「う”あぁぁ! 墓穴掘りましたぁ!」

 

 自分が言ったことを踏襲されたことに叫び声を上げるレフィーヤを余所に、ロキは『1番がこの場に居る異性に愛を囁くんや』とかなり酷い命令を出した。

 これには全員から非難囂々であったが、既に賽は投げ込まれている。もはや変えようがないと諦めたそれぞれが自身の番号を見ては自分が1番ではないという事実にホッとし、同時に被害者に同情していると……。

 

 またしてもアクスが手を上げた。

 

「アクスかぁ。愛を囁くって出来るんか?」

 

「アリシアお姉ちゃんとかシフォンお姉ちゃんから借りた本に書いてた!」

 

 この場に居ない人間に飛び火したが、とりあえずは大丈夫らしい。

 しかし、ここで神──ディオニュソスの新たなオーダーが火を噴いた。

 

 『それぞれ別の愛の言葉を囁くこと』。10代前半に何をトンチキなことを言っているのかと問い詰めたかったが、その前にアクスはロキに近づいた。

 

「ん? アクス、話聞いとったか?」

 

「ロキ様も"女神"様だもん」

 

 神は神でも『女神』と来たものだ。仕出かすことが仕出かすことなので、ファミリアの中ではぞんざいな扱われ方をされているロキにとってアクスの言ったことはかなり嬉しかったようだが、彼はさらに言葉を浴びせかける。

 

「"お母さん"、大好き!」

 

「ふむ、親子愛か。神と子供という典型的だが、愛は愛だ。素晴らしい」

 

 評論家気取りのディオニュソスを尻目にまずは1柱目への愛の囁きが済んだ。時間も時間なのでとんとん拍子に行こう──とした時、ロキはおもむろにアクスを抱え上げると『うちの子にするー!』と言い出す。

 眷属と主神なのだから『既に子供になっている』が、どうやら天に持って帰る気満々らしい。

 

 そんな感じで『持って帰る』やら、『まだ子供』やらとわいのわいの騒いでいると、我慢の限界に達したベートがロキ目掛けて拳骨を落とす。

 すると、目に正気の光を取り戻した彼女は『危なかった』と深い息を突いた。

 

「あかんで、これは。油断すると意識持ってかれるわ」

 

「呪いの類かよ」

 

 散々な言いようだが、そんなどこぞの呪いの類のように言われた本人はどこ吹く風な様子でティオナに話しかけた。

 天真爛漫が服を着て歩いているようなアマゾネスにアクスが何を言うのかと全員が興味津々に成り行きを見守るが、出てきたのは『お姉ちゃん大好き』とありきたりな物。それでもロキに対しては『親子としての愛』で、ティオナに関しては『姉弟に対しての愛』とディユオニソスはOKを出す。

 

「しかし、アクス・フローレンス。これで君は"母"と"姉"の選択肢が潰れた。安直な選択肢に逃げることは出来ないぞ」

 

「フィルヴィスさん、ディオニュソス様は何を言ってるんですか?」

 

「以前にディオニュソス様が仰っていた実況と解説……だと思うが……。すまない、分からない」

 

 神々の持つ独特な感覚についていけないレフィーヤとフィルヴィスがディオニュソスの発言について考察を放棄する一方、アクスは次なる対象としてティオネを選ぶ──が。

 

 彼女は唐突に演技指導をし始めた。

 

「ティオネ、好きだよ」

 

「んー、違うわね。もうちょっと渋みを持たせて」

 

「ティオネ……」

 

「もう1オクターブ低くならない? いや、やりなさい。団長の声を完コピするまで許さないわよ」

 

「無理だよぉ」

 

 声変わりがまだ済んでいないショタボイスにフィンのような爽やかイケメンボイスはかなり無理がある。それでも一向に諦めないティオネをティオナが無理矢理抑え、ディオニュソスからは『言わされている愛も中々……』というなんとも言えないコメントをもらった。

 その際にディオニュソスは若干顔を引き攣らせていたのだが、多分気のせいだろう。

 

 そんなこんなで後3人。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()せいなのかは分からないが、アクスは次なる目標としてアイズを選択する。

 

「えっと、アイズお姉ちゃん。僕のこと好き?」

 

「え、うん。好きだよ?」

 

 両者疑問形ということで、何とも言えない空気が流れる。

 実はというとアイズとアクスはあまり接点らしい接点がない。片やダンジョン突撃ガール。片や遠征以外は基本的にホームの雑務を行っている主夫。暇とタイミングがあればアイズはもちろんアクスを構うのだが、基本的には思春期真っ盛りの姉とそこら辺をわきまえている弟の距離感であった。

 

 ただ、その『距離感』も神々にとっては大好物らしい。合格をもらったアクスはレフィーヤたちに近づき、あどけない瞳で彼女たちを見上げた。

 

「ふっ、【小要塞】(デミ・フォートレス)。我々はエルフだ。薄っぺらい言葉など反感を──」

 

「フィルヴィスさん、貴女は美しいエルフだ」

 

「ひょっ!?」

 

 いきなり手口を180度変えてきたことに素っ頓狂な声を出すフィルヴィス。ただ、彼女は次の瞬間には目尻を吊り上げながら『私は穢れている』とお決まりの発言をする。

 そこまではいつもの──フィルヴィス・シャリアであれば当たり前の()()()()であった。

 

 しかし、アクスは()()()()()()()()

 

「っ! 放せ! 私は穢れてるんだ!」

 

「放しません。それにそんな目をしてる貴女が、汚れてるわけない」

 

 エルフ特融の──否、『それよりも酷い癇癪』を前にアクスは一向に手を離さない。そのまま、まるで逃がさないように強く手を握りしめた彼は、フィルヴィスの目をじっと見ながら諭すように口を開く。

 

「僕の目を見てください。僕の目には何が写っていますか?」

 

「なにをっ……」

 

「僕にはちゃんと痛みも優しさも知ってる目を持った、強い心を持った綺麗なエルフが見えます。フィルヴィスさんは見えませんか?」

 

 如何にも純朴な一点の曇りもないアクスの眼の中に映る自身の顔。『自分の過去』を肯定してくれたような錯覚を覚えたフィルヴィスは、今まで振り払おうとしていた手の動きを止める。

 やがて、完全のアクスに手を繋がれるがままになった彼女は、自らの主神の名を呼んだ。

 

「ど、どうしたんだい?」

 

改宗(コンバージョン)の許可をください。【ロキ・ファミリア】に行きます」

 

「フィルヴィィス!? ちょっ、待つんだ!」

 

「ヴァアァ! フィルヴィスさんがぁ! アクス君に取られたぁ!?」

 

 控えめにいって修羅場である。コンバージョン待ったなしな状況にディオニュソスが尋常ではないほど慌てふためく裏で彼女と良い友人関係を築き上げていたレフィーヤが叫ぶ。

 当事者同士ではない神々が見れば良い酒の肴なのだが、ロキもバリバリ当事者側。慌てて『レクリエーション』という言い訳でフィルヴィスを思いとどまらせた。

 

 しかし、その間にもアクスはレフィーヤの方に近づいていた。

 

「レフィーヤお姉ちゃん」

 

「ぐすっ。なんですか、アクス君。今度は私ですか? フィルヴィスさんはああなってしまいましたが、私はそうはいきませんよ?」

 

 中々とげのある言い方をするピンク色の悪魔、もといレフィーヤ。少しでもアクスが失言をかますものならミノタウロスも杖1本でノした細腕から折檻が飛び出してもおかしくはないほどの臨戦状態であった。

 

 それでも、アクスは『前』へと進んだ。

 

「流れるような美しい山吹色の髪をした麗しいお方。今のままでも十分綺麗なのに、アイズ・ヴァレンシュタイン氏と自身を比べる愚かなお方。私は貴女を愛しています」

 

「ひぇっ」

 

「光があって物が輝きますが、貴女は違う。貴女が居ることで周囲が引っ張られる。そんな(フィン)に僕は魅了された」

 

 歯に浮くような甘いセリフ。傍に居たティオネが『劇場で見たことあるわね』とツッコみを入れるが、レフィーヤの耳には入って来なかった。耳の先まで真っ赤にさせた彼女は必死に何かを言おうとしているが、口をパクパク開閉させるのみで言葉にすらなっていない。

 そんなレフィーヤの姿に、今度は少々残念そうに微笑を湛えるアクス。そこには齢10代前半の幼さは一切なく、むしろレフィーヤよりも年上の貫録のようなものを感じた。

 

「だけど、残念。今夜は人が多い。"誰も居ない森の中で永遠の愛を誓うのは無理だ"」

 

『えっ?』

 

 その瞬間、全員の顔から目玉が飛び出る。

 このパルゥムは何を言っているのだろうか。先ほどまで他人ですらキュンキュンする愛のささやきをしていたはずなのに、どこをどう間違えたら『森の中』というワードが出て来るのだろうか。

 そこはかとなく変な情報を誰かに植え付けられたと推測したレフィーヤは、頬を引き攣らせながらアクスへと問いかける。

 

「アクス君、ちょっと聞いて良いかな? さっきのはすっごく緊張したし、顔が熱くなったんだけど。何かを参考にしたの?」

 

「うーん、メイルストラから来た劇団の劇とか。シフォンお姉ちゃんの本とか」

 

「さっきの誰も居ない森の中で永遠の愛ってどこから情報?」

 

「リュ……あっちのエルフのお姉ちゃん!」

 

 そう言って指差したのが豊穣の女主人で働く1人のエルフ。彼女も指を刺されたことに気付いたのか、『ご注文でしょうか?』と近づいてきたので、ロキはズバリと要点を訪ねた。

 

「あぁ、そろそろお会計したいんやけどな。その前に姉ちゃんの恋愛観について教えてくれへん?」

 

「は?」

 

「いやいや、そう身構えんでも良ぇで。さっき、愛ってなんやって哲学的なこと話しててな。良かったら、自分の愛を囁かれたら嬉しい状況っての教えてくれへんかなって」

 

 即座に嘘をつくロキに全員が『こいつ……』とげんなりした視線を向けるが、すっかり騙された酒場のウェイトレス──リュー・リオンは顎に手を置いて少しばかり考えた後にこう呟いた。

 

 男女が結ぶ純情とは、誰も居ない夜の森で、永遠の愛を月に誓うものだ──と。

 

 そして続けざまにこう言った。

 

 婚姻の約束を結び、エルフの森で誓いを立てるその時まで肉体への接触は禁止。手すら繋いでは成らない──と。

 

「あ、うん。分かったわ。ありがとさん」

 

「支払い、ここに置いとくわね」

 

「はい、たしかに。ありがとうございました」

 

 もはや何も言えなくなった全員がそのまま豊穣の女主人を後にし、特に何も言うことなく解散する。

 次の日、『(しん)・王様ゲーム』の顛末を聞いた三首領が『アクス(あの子)、いつか刺されるぞ』と頭を抱えたのは秘密である。




エルフへの辺りが強い? エルフは面倒くさい種族なので。

漫画
 アクスのは漫画というより、漫画という手法を取った情報誌。
 商人も地図を手に入れられてヨシッ。冒険者になる人も手続き方法や注意事項を知れてヨシッ。右も左も分からない人は情報収集の手間が省けて当然ヨシッ。
 そりゃロイマンも、諸手を挙げて賛成しますわ。

リヴェリアのページ
 何度もモデルを頼んで、本人に何度か確認を取ってもらい、挙句の果てにはオッタルに取材に行く片手間で某美の女神のエルフの眷属に何度か駄目だしを食らってようやく書き上げた1品。
 なんでロキのところがフレイヤのところに居るんだって? ダンメモ時空みたいなもんだから良いんです。

アリシアとレフィーヤの姿
 アマゾネス専門店で買った衣装。エルフは絶対着ない。

ご飯にソースや魚の炙った物を入れた食べ物
 ウスターソースにご飯は鉄板だと思う。後、鮭の皮はご馳走だと思うの。
 齢12のパルゥムがそれをやってるのを見たら? ネグレクトやな。

(しん)・王様ゲームの被害
 ドラマCD【ファミリア・レクリエーション】を聞こう。
 ※時系列的にレナが登場する前なのに、レナに愛を囁くベート(編集)が聞けるぞ!

アクスの声真似
 三首領と距離が近かったからこそ成せる芸当。話した言動もリヴェリアの独り言を勝手にラーニングした結果である。
 なお、得意度は、フィン>リヴェリア>ガレスの順番である。ガレスは酒をうっかり飲みかねないため、ガレス本人から真似を固く禁じられている。
 ちなみにフィンの物真似は(愛ゆえに)ティオネとヴァレッタには看破される。

囁いた愛の数々
 ほとんど女団員から借りた本の受け売り。末弟がお姉ちゃんの本を借りたり、ビーズみたいなお姉ちゃんの趣味に合わせて少女趣味に走ることってあるよね。
 余談だが、酒カスが止めなければ某口が裂けた女の如く、フィルヴィスが『これでもぉ?』と本性を現したとか、現さなかったとか。

リュー
 アストレア・ファミリア時代にアクスへ恋愛観のことを言わなければ助かっていた。
 天国のアリーゼたちも爆笑しているだろう。
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