メモリア・フレーゼのイベント【真夏の恋の冒険譚】の二次創作となります。
キャラが違う。時系列おかしい。などはすみません。
──夏。それは開放的になる季節。
──夏。それは出会いの季節。
広い海を前に水着という開放的な衣装を纏った若い男女が情熱的に出会い、そして──。
「
「お姉ちゃん。僕、この本をダイダロス通り辺りに持って行きたくなった。なんでか知らないけど」
治療院のエントランスの片隅でそう報告するのはおなじみアミッドとアクスの2人組。一方が言っていることは時系列的に言ってはならない気がするが、まぁイベントなのでどうか許して欲しい。
『団長と呼びなさい』といういつものやり取りを聞くのは、ギルドの制服を纏ったエイナ・チュールというハーフエルフの女性とミィシャ・フロットというヒューマンの女性。彼女たちはとある本を持って来店したのだが、その本は最初に開いた者に
ここまで言えばわかるかもしれないが、このように無駄に高性能で無駄に洗練されたアイテムは総じて神の仕業が多い。神々が言うには『暇を持て余した神々の遊び』らしいが、はた迷惑もあったものだ。
「団長、世界って広いね」
「そうね」
他の種族と比べて貞操観念や諸々がお堅い存在があそこまで大っぴらに同性を口説くというアブノーマルさ。まさに『才能の無駄遣い』というべき性能にアクスは自分が持っていた件の呪いの書の表紙を撫でる。
真夏の浜辺で彼氏としたい6つのイチャイチャ
なんともおバカなタイトルだが、実際に困っている人間が居るのであれば仕方がない。
こうして2人の
***
そんなわけでサンサンと照りつく太陽、白い砂浜、青い海──でお馴染みの港町。メレンのビーチにやってきたわけだが。
「……そういうわけだったんだね。いきなりエイナさんと君から
「ですです。とりあえず、事情は馬車で言った通りなのでご協力お願いします」
【ディアンケヒト・ファミリア】の制服で砂浜に座りながら今回の協力者であるベルに今回の事情を話すアクス。
あの後、本の表紙に書いてある6つのイチャイチャを実践するためにアクスに白羽の矢が立ったが、エイナはこれを拒否。曰く、『こんな小さな子相手にそんなこと出来ない』らしいのだが、あまりにも強い拒否だったために彼の心にちょっと傷が出来たのは内緒である。
ただ、
「でも、ファミリアに何も言わなくても良かったの?」
「あ、大丈夫です。書置き残しておいたんで。念のためにアクス君にも1筆書いてもらいました」
「ばっちしです」
やたら自信満々のベルとアクスにエイナは余計なお世話だったと改めて感謝を伝える。
ただ、この2人。女性の機微やどう思われているのかについてはポンのコツであった。
やたら具体的なことを書きつつも必死に誤魔化そうとして最後に『怪しくないです』と明らかに怪しい文面の書置きを残すベルに、『とある女性患者の
それらを見たベルの主神であるヘスティアとサポーターのリリルカ・アーデが激怒しながらベルの書置きに書かれていた場所であるメレンに馬車でやってきている最中なのだが、彼らは知らなかった。
そんな彼らはようやくエイナとミィシャのお喋りが終わったため、アミッドの号令で集合する。
「それでは、
「ワーワーパチパチー」
「なんでミイシャさん、そんなにうれしそうなんですか」
やたらテンションの高いミイシャに若干不安を覚えたベルだが、アミッドの指示に従ってまずは『彼氏と波打ち際で追いかけっこ』を行うことになった。
「やたらハードル高くないですか!?」
「以下、本の内容を読み上げます。団長、本を」
「あ、アクス君がすっかり治療モードになってる」
ミイシャの呟きを他所に、途端に真面目な顔をしたアクスとアミッドは本を音読し出す。
波打ち際で水しぶきを上げて追ってくるカレ。アタシはちょっとイジワルして逃げ出すの。
《おーい、待ってくれよ~》
《ダメダメ、捕まえてみて~》
《あはは》
《うふふ》
《あはは》
《うふふ》
《そら、捕まえた》
《あーんもう、走るの速い~》
『……以上です』
まるで診察した内容を読み上げるかのごとく淡々とした朗読。ご丁寧に男性、女性とパートに別れて朗読するという親切対応にベルたちは頬をひきつらせる。
ただ、流石に始めから飛ばし過ぎではないかとも思ったエイナが物申すと、アクスは本の目次を見せながら『他にご希望があればどうぞ』と言う。
そこにはナンパされたいだの、ジュースを一緒に飲んでイチャイチャトークだの、挙句の果てにはベッドで一緒に寝るといったハーフエルフの彼女には刺激が強い物ばかりで、それを見たエイナは達観したような眼差しで『それでお願いしまーす』と言う。すっかり諦めたようだ。
しかし、いざ追いかけっこをしようにもベルとエイナの演技は大根だった。今度は声を大きくして見るように頼むと大衆演劇が始まり、真夏の太陽のキラキラ感も恋する2人のキャッキャウフフ感も全く出ていない状態に早くもベルは挫折する。
「うぅ、やっぱり僕じゃ荷が重いような……」
そう言いながらベルが何気なくアクスの方を見る。すると、その視線に気づいたアクスはため息を1つ突いて拒否を示した。
「なんでしょうか、クラネル様。そんな目で見ても変わりませんよ? そもそも僕はエイナ様に断られた身なので」
「うっ、ごめんなさい。あ、だったらテアサナーレ氏とお手本を見せてください」
「私とアクスがですか? 良いでしょう」
「承知しました」
やや棘のある言い方にエイナは落ち込むが、ここで起死回生の一手を閃く。
アクスとアミッドに実演してもらえばいいのではないか。そう提案すると、少々考えたアミッドは了承して上着を脱いだアクスと共に本を読み込みながら内容を頭に入れていく。
完璧にシミュレートするために仕方がないことだが、身体を寄せ合って1つの本を真剣に読む2人にミィシャだけは『あれ、もうイチャイチャしてない?』と思うのであった。
そうして完全に読み込んだ2人は早速実演を行う。
「あははー、待てー」
「うふふ、それー」
「やったなー」
「やぁーん、こわぁーい」
セリフだけは完璧だった──セリフだけは。
真夏の白い砂浜を無表情の2人が全力で疾走し、時折アミッドが後ろ足で蹴ったことで生じる水飛沫をアクスがステップで避ける。声も淡々としたもので、傍から見てどこかのファミリアの訓練を思わせるような光景がベルたちの目に映った。
そして、ようやくアミッドの手にタッチしたアクスが『捕まえたー』と抑揚のない声を言うと、2人は特に何事もなく戻ってくる。
「いかがでしょう。参考になりましたか?」
『なるかぁ!』
3人の思いが1つとなる。どこの世界に全力ダッシュで戦闘訓練さながらの動きをしながら真夏の追いかけっこに興じる存在が居るのだろうか。
しかし、そう言われても2人はきょとんとしながら『本の通りにやっただけですが』と反論する。たしかにそうだが、たしかにそうなのだが──圧倒的に人選が間違っていたことを悟った3人はガクリと膝を折った。
そうして、他の冒険者に二次被害を出しながらもなんとか最初の
「"彼氏としたい"と銘打っておきながらナンパされたいって不誠実ではありませんか?」
「アクス君、大人には色々あるんだよ。ただ、こう……キツいよね」
真顔で本の作者に右ストレートを繰り出すアクスの肩をミィシャが軽く叩きながら大人の世界を教育する。その一方でアミッドが相変わらず淡々とした口調で本の内容を伝えようとするが、ベルたちはどうにも要領を得ない様子でお互いを見ていた。
「ですから、"ちゃらちゃら"した感じで声をかけた後、沢山褒めて最後は"わいるど"な魅力で"めろめろ"にしてください」
「何を言ってるか全然わかりません!」
「安心してください。私もです」
「安心できるところがありません!」
駄々をこねるように大声を出すベルに、アミッドはふぅとため息をつきながらアクスを手招きする。そうしてやってきたアクスに何かを伝えると、彼はちょっと離れたところまで走って行った。
「では、僭越ながら実演させてもらいます」
そう言うとアミッドはわざとゆっくり歩いていると、正面から歩いてきたアクスが途端にアミッドを『おい』と呼び止めた。
「なにか?」
「てめぇ、良いツラァしてんじゃねぇか。どうだ、雑魚。俺とツガイにならねぇか?」
『待て待て待て待てー!』
淡々とした口調でも隠しきれない危ない発言に慌てて周囲が止める。キョトンとする2人に詰め寄ったエイナたちは口々に参考にした人を問うと、アクスは平然と『ベート様ですが、なにか?』と答えた。
たしかに
その後はなにか甘ったるい雰囲気を感じたミィシャがキャイキャイ騒いでいたが、アミッドとアクスは未だ納得が出来なさそうな表情で
「では、次に1本のストローでジュースを飲みながらのイチャイチャトークですね。ここに座ってラブラブトークをお願いします」
「あの、イチャイチャとかラブラブとかよく分からないのですが」
アミッドの言葉にベルが挙手する。ただ、アミッドも本に書いてある通りのことを言っているだけに過ぎないのでよく分からないというと、アクスがミィシャが持っていたジュースにストローを1本差しながら答えてきた。
「とにかくイチャイチャとした空気を出せばいいのではないでしょうか。もし、イチャイチャに必要ならば協力しますし、イチャイチャ出来ると判断したら適宜助言もします」
「そうですね。アクスの言った通り、こういったラブラブ要素を入れればよりラブラブになれると判断した場合は助言いたします。結局はお2人がラブラブにならねば意味が無いので、ラブラブになれるように誠心誠意頑張ってください」
「イチャイチャとラブラブをここまで無反応で言える人たち、初めて見た」
「この2人は色々有名だから……」
その『色々』は良い意味なのか、悪い意味なのか。ベルはそれ以上は口にせずにエイナとジュースを飲みながら語らおうとするが、案の定上手くはいかなかった。
やはり再びアクスを伴った実演指導を入れるべきかと考えたアミッドだが、今までのお手本が全て不評だったために今回は趣向を変えてベルに直接指導することとなった──が。
「ねぇ、アクス君。エイナも、怒ってる?」
「怒ってませんが?」
「そんなわけないじゃない。彼は私の担当冒険者であって、関係ないから」
「エイナはともかく、アクス君は木を殴るのを止めてくれないかなぁ。ほら、弟君の顔から血の気が引いてるから」
「解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり──」
「落ち着いて!」
気を整え──拝み──祈り──突く。目の覚めるような所作の正拳突きを幾度となく木に打ち付けるが、他意はない。
ミィシャがアクスに何か言ってるが、これは豊穣の女主人に居る給仕の女性から聞いた……と思う正式な鍛錬。……多分。
姉が人に取られそうになるのを必死に押さえつけているとか、何を言っているんだろうか。子供でもあるまいし絶対にない。この詠唱みたいなのも掛け声だ、そうやると集中できるって【ロキ・ファミリア】のエルフが言ってた。
あの兎は後で殴ってから治す。
その後、当の本人ことレフィーヤがアイズと一緒に合流。タイミング良く起こった発作と共に事情を話して解呪に協力してもらうことになった。
「アクス、怒ってますか?」
「怒ってない。お姉ちゃん取られたからモヤモヤしただけ」
「大丈夫ですよ。私も出来る限り。アクスと一緒に居ますから」
「うん」
題目にあった『カッコいい男の子から私だけが選ばれたい』という状況を無理やり作り出しているのを見つつ、アミッドはアクスを宥める。子供ゆえのヤキモチなのだろうが、そこまで懐いてくれているのがちょっとうれしくなった彼女はアクスの頭を撫でた。
「あのー、そっちでイチャイチャされるとこっちが困るというか……」
「なにを言っているのですか? 弟との語らいをしているだけです」
「そうです、姉を語らってるだけです」
「えぇ……」
何を言ってるのだろうか、この2人は。もしかしてわざとなのか。
そんなツッコみを力強く入れたかったミィシャだが、今でも大根役者と全てのセリフが反転した態度を取っている役者というカオス空間である。このまま色々物申すといよいよもって収拾がつかなくなることをギルド職員としての勘が告げていたため、彼女は放置することに決めた。
そうしていると、またしても乱入者が登場する。
「ヘスティア様、リリルカ様も。書置きは残しておいたはずですが?」
「神父様、不安を煽るような書き方は止めていただけませんか?」
「状況説明を書いたぐらいなんですが……。いけませんか?」
「たまに神父様って天然になりますよね。ベル様みたいにならないように気を付けてください」
遠くの方でやいのやいの言っている【ヘスティア・ファミリア】の主神を一旦見ないようにしながら、アクスはここに来た理由を書置きしてあることを伝える。しかし、流石にあの書置きはないと腹を立てるリリルカに彼は本気で分かっていないように首を傾げるのであった。
こうしていつの間にか大所帯になった面々で再度、解呪に向けて話し合う。ヘスティアとリリルカが発作のことを知って『ベル様とイチャイチャされてしまう』、『羨ましい』とは言っているものの、今まで被害にあったのはアクスが見たタイミングだとミィシャとレフィーヤのみである。
つまるところ女性。特にビーチに来てからの発作は相方のベルが近くに居た状態でもレフィーヤにロックオンしていたため、その法則に則ると今度は別の女性を口説くことになるかもしれないことを伝えたら全員が一様に青くなる。
「し、神父君。変なことを言うのはやめてくれないかい?」
「いえ、可能性としては十分あり得るかと。往診に向かったファミリアの女神様が仰ってましたよ。"男の人は男の人同士で、女の子は──" 「ストォーップ! 言わなくて良い! そもそも誰だい、こんな言葉を子供に教えたの!」 」
ヘスティアは慌ててアクスを止める。ずいぶん捻じれ狂って壊れた幻想を抱いている女神も居たものだと不満を漏らしていると、アミッドが次なるお題を読み上げた。
恋人と同じベッドで一晩過ごす。その言葉にアクス以外の全員が息を呑んだ。
「だ、ダメだー!」
即座にヘスティアのNOが叩きつけられる。眷属であるベルが何とか彼女を宥めようとするが、リリルカやレフィーヤも参戦することで収拾がつかなくなる。子供の駄々のように一緒に寝ることを認めようとしないヘスティアたちであったが、ここでアクスが特大の爆弾を落とす。
「団長。僕、昔団長と一緒に寝てましたよね」
『え”っ』
まさかの一緒に寝た発言に周囲のほとんどは白い目でアミッドを見る。口々に『君は本当に聖女なのかい?』や『アミッドさん……まさか……』と言われ、顔を真っ赤にした彼女はアクスに拳骨しながら『添い寝しただけ』と説明してハッとする。
同じベッドで一晩過ごす。つまり、一晩何もせずに過ごせば良いのだ。後は
そうなると、一緒のベッドで横になって羊でも数えていればすぐに終わる単純な作業に早変わりだ。
「処女神と言われておきながら僕は汚れてるんだ……」
「リリは汚れております。うわぁぁ!」
「リヴェリア様。レフィーヤは汚れていました」
「エイナァ。この子眩しいよぉ。混じりっけなしの白だよぉ」
「ちょっと夢見てた自分が嫌っ……!」
「聖女失格です。消えたい。お酒飲んで忘れたい……」
成熟してるがゆえに汚れた乙女たち。彼女たちを前にアクスはベルとアイズの顔を見ながら『間違ったことを言ってませんよね?』と聞くが、彼と同じピュアな2人は一斉に首を縦に振るのみであった。
そんな尊い犠牲を出すが、とりあえず宿を取らねば話にならないので移動を始める。
途中、寒くなってきたので寒そうなエイナにアクスは自分の上着を黙ってかけてやると、周囲から色々物申される羽目になった。
「タケミカヅチ様とミアハ様が寒がっている人にはこうしないといけないって」
「よりにもよってその2神かぁ~」
「弟君、あれがイケメンだよ! 顔は普通だけど、行動がイケメンなんだよ!」
「聖女様、このまま育つと神父様がものすごい天然無自覚な朴念仁になる気がします。ベル様は手遅れですが、あの子はまだ猶予があります。即刻矯正してください」
「優しい子に育ってくれたようでむしろ安心してますが?」
オラリオ内でも女性人気が高い男神の教えを受け、それを無自覚に実行とあればもう無敵であった。その調子でやいのやいの言いながらも大所帯で宿を取って夜が過ぎていく。
***
「……お姉ちゃん、なんで僕は馬車に居るの?」
「全て終わった後だからです。少々寝すぎ……いえ、働きすぎですね」
「お姉ちゃんが言っても説得力ないよ?」
ガタゴトと揺れる場所に揺られたアクスが目を覚ます。隣で座っていたアミッドに状況を聞くと、どうやらアクスが寝ている間に全て終わったらしい。
寝坊の原因はおそらくメレンに来るまでにかなり遅くまで働いていたことだろうが、ここまで協力したのだから最後まで見届けたかったのは彼の細やかな未練であった。
ただ、それでも1つだけ気になったことがある。
「お姉ちゃん、"一晩を過ごす"って解呪出来たの?」
「出来たのだからここに居るんです。それと、このことは即刻忘れなさい」
「? 分かったー」
やたら強めに注意されたが、解呪されたのなら別に良いとアクスは晴れ渡った空を見る。
彼は知らない。本当に
嘘みたいだろ。こんな馬鹿げた本がどっかの呪詛塗れの血液とか武器よりも強いんだぜ…。
なんで君たち恥ずかしがってない!姉弟の恥ずかしがってるイチャイチャが見たかったの!
姉「治療ですので」
弟「治療なので」
最後、端折ったね?
キスシーンを邪魔する奴らを取り押さえようとしてワンパンKOされるしか混ざるネタが無かった。
最後の怨霊相手にアクスが『この分野に疎いですが、彼氏が居るのにナンパがしたいとか矛盾していませんか?』みたいに大学教授並みの理詰めしたかったけど、正論パンチは怨霊が可哀想だから止めた。
所々に走るイケ魂行為
大体、往診に行った先で教えてくる神様が悪い。
なお、パルゥムなので肩面積が足りず、結局エイナは風邪をひくことになる。