ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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メモリア・フレーゼのイベント【創造神らの戯画騒動】の二次創作となります。

キャラが違う。時系列おかしい。などはすみません。

なんか、書きやすかったので書いた。後悔はちょっとしてる


創造神らの戯画騒動

 とある日からオラリオ中に全く新しい読み物が流行った。

 それはこま割りのある絵を主体とし、セリフや擬音語などを補助手段として、出来事や物語を展開する全く新しい伝達手段。今までの英雄物語などの読み物は仰々しい書き出しの分厚い冊子のようなもので、子供が1人で読むには少々手に余る代物であったが、この『漫画』という新たな文化は子供1人でも簡単に読むことが出来た。

 

 まさに子供から大人まで。本日はそんな数多くの者を魅了する漫画の裏で動いていたとあるファミリアについて語ろう。

 

***

 

「アクスゥ! お主は【ヘスティア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】に回復薬(ポーション)の売り込みに行ってこぉい!」

 

「ディアンケヒト様。ついにボケましたか? 忙しいので後にしてください」

 

 キレッキレの主神ディスを炸裂させたアクスだが、彼は絶賛客に向かって回復薬(ポーション)の説明をしている最中だ。

 どこからどう見ても忙しいために無視を決め込むが、当のディアンケヒトは他の団員に接客させるように言うと彼を引っ掴んで治療院の調剤室へと向かった。

 

「いや、ほんと何してるんですか」

 

「ふっふっふ。あんな小銭よりも儂はもっとビッグなビジネスを思いついたわけだ!」

 

 あ、駄目だこの神。目がヴァリスになってる。

 こうなるともはや止められないことは分かっているアクスが黙っていると、調剤室の奥からアミッドが異様に赤い回復薬(ポーション)が入ったケースをいくつか持ってきた。その1つを手に取って見ていると、彼女はその回復薬(ポーション)の中身がかなり薬効が高い物だということを教えてくれる。

 

「結構前に【ゴブニュ・ファミリア】に持って行ったものよりもすごいの?」

 

「それよりも遥かに薬効が高いです。今回はマーメイドの生き血や精力剤にも使われるミノタウロスの生き血も少し入っています」

 

「"せいりょくざい"ってこの前ティオネさんたちが言ってたやつだよね。結局教えてくれなかったけど」

 

 アクスの質問に少々赤らめながらはぐらかしたアミッドは、『とにかく』と話をぶった切って結論を述べる。

 この体力の回復を限界まで突き詰めた特性回復薬(ポーション)──ディアンケヒト命名で『紅い雄牛』と名付けられたこれらを【ヘスティア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の両方に売って来いというのだ。

 

「なんで2つのファミリアだけなの?」

 

「それは"週刊少女オラリオ"と"週刊少年ダンジョン"があるからだ! 偶然にも両ファミリアともお主と縁があるしな。今の時期なら売れる、絶対になぁ!」

 

 この2つの漫画は治療院のエントランスでも時間潰しの名目で欠かさず購入している物だ。アクスもたまに見ては『この構図は人体的にちょっと無理あるんじゃないですか?』といった投書を行い、一部の青少年に悪影響を与えかねない漫画を見ることを禁じようとしてきた団員たちが逆に『嫌な子供に育っちゃったなー』と達観することもしばしば。

 そんな漫画界の最先端とこの回復薬(ポーション)がどういう繋がりがあるだろう。アクスの問いにディアンケヒトはドヤ顔で紅い雄牛の1つを手に取った。

 

「漫画という物はかなり疲弊して書くという。お主らのように連日連夜働くのが当たり前ぐらいにな。それを解消するのがこの回復薬(ポーション)。一度飲めば今までの疲れがこう──ポンッと消えてスッキリ爽快。作業に打ち込めるという寸法よ!」

 

「概ねディアンケヒト様の仰った通りですが、服用は1日3本までという制約を忘れずに言ってくださいね」

 

 アミッドの補足についつい気になったアクスは訊ねる。1日の限界服用数である3本を超え、4本目を口に漬けたらどうなるか──アミッドは極々自然に『死にます』と答えた。

 

「死ぬの!?」

 

「アクス、神の使用する精力剤の材料であるミノタウロスの生き血や諸々の滋養強壮に富んだ素材を使ってるのですよ? 原液では強すぎて希釈した物を詰めているのですが、それでも一般人が服用できるのは1本がギリギリ。冒険者はレベルで異なりますが、3本以上は自己責任になりますね」

 

「これ、中毒性とかないよね?」

 

「一応、原液で試しているので大丈夫かと」

 

 逆に原液を試したのになぜこうも平然なのか。人体の不思議を垣間見たアクスであったが、アミッドから渡された試供品の瓶を腰のホルスターに数本ほど入れてから治療院を出ていく。

 1本が2万ヴァリス。1ケースで18万ヴァリスと高級品だが、内容が内容だけにアクスは馬鹿らしく思いながらも漫画の名前が所々で聞こえるメインストリートを歩いて【ヘスティア・ファミリア】のホームである『竈火の館』へ向かう。

 

「ごめんくださーい」

 

「はーい」

 

 なにやら胡散臭い男の声が聞こえる。

 この館に住む男は団長であるベル・クラネルと鍛冶師のヴェルフ・クロッゾの2人だ。どちらも軽薄の『け』の字もないほどの芯を持った冒険者だということはアクスもよく知っている。──となれば誰だろうか。僅かながら警戒する彼の前で扉が開かれた。

 

「おや、なんだ。アクス君じゃないか。どうしたんだい?」

 

「ヘルメス様、他所のホームでなにしてるんですか。本日は【ヘスティア・ファミリア】に用があってきました」

 

「あぁ、炉炉炉(ロロロ)聖火先生に用かな? それともミコリン先生? どっちへのファンレターも俺を通してくれないと困るぜ」

 

 おかしい。【ヘスティア・ファミリア】は探索系ファミリアだったはずだ。間違ってもそういった制作系ではない。

 そもそも名前が圧倒的に変なので、アクスはベルはどうしたのか尋ねると『ベル君にか』とヘルメスは快く中へと入れてくれた。──他所のホームなのに。

 

「おーい、アシスタントのベルくーん。君にお客様だぞー」

 

 ヘルメスがそう言いながらアクスを1室に通すと──そこは地獄だった。インクの臭いが鼻につき、部屋中に通った紐には乾かしている最中の紙が垂れ下がっている。そんな異様な光景の奥の方ではサポータのリリルカ・アーデとヴェルフがベルと一緒に死んだ魚のようなどす黒い眼でアクスの方を見ていた。

 

「あ……あぁ……、アクス君。ア”グスく”ぅ"ぅん!」

 

「あぁ、後光が見える……」

 

「神父様ぁ! 私たちを御救いくださいぃ!」

 

 何やら常軌を逸した歓迎のされ方に首を捻る。今までいろいろ治癒したりしてきたわけだが、ここまで歓迎される覚えがないことに事情を聞くと、やはりヘルメスが悪かった。

 週刊連載。読んで字のごとく1週間に1回刊行するスタイルだが、それを行うためのマンパワーが【ヘスティア・ファミリア】にはないそうだ。

 そのせいで深刻なアシスタント不足に陥っているのだが、ヘルメスはあろうことか増員せずにアシスタントの労働時間を増やしていた。

 そこまでで済めばまだ良かったが、さらには自分のファミリアの団員や交友関係のある【タケミカヅチ・ファミリア】や【ミアハ・ファミリア】からも作家を集めることで無理やり作品数を増やすという暴挙に出る。その影響で週刊少女オラリオ内の作家によるアシスタント争奪戦が勃発。スーパーアシスタントことアスフィが過労死3歩手前で自前の回復薬(ポーション)を飲みながら踏ん張っていた。

 

「いやー、アスフィが居てくれて助かったよ。ハッハッハ」

 

「ヘルメス様、そう言ってますが現場の空気を知らなきゃいけないのはあなたなのでは?」

 

「ハァーッハッハッハ……ハ?」

 

 なにかのスイッチが入ったようにユラリと揺れるアクスの身体。そこはかとなく感じた『送還』の香りに、ヘルメスは久方ぶりに本気の本気でビビり散らしている。

 そんなヘルメスの前にある机をアクスは思いっきり叩いた。

 

「あなたに分かりますか? 絶対に数時間で終わらないような調合リストの山を見た時の絶望感が!」

 

「あ、アクス君。落ち着こう?」

 

「明らかに仕事が追い付いていないのに、"グワッハッハ、アミッド! この回復薬(ポーション)も追加だったわ"と悪びれもせずに仕事を増やしてきたディアンケヒト様を見る団長の殺意の籠った瞳が!」

 

「アクス君、怖いから。うん、落ち着こう?」

 

「お姉ちゃんの残業を減らすために明日の予定を全て纏めたのに。お姉ちゃんの残業を減らすためにみんなで必死こいて時間割を決めて朝に発表したのに。残業を減らすためにお姉ちゃんを助けたのに! なんで……なんで仕事が増えてるんですかぁ!」

 

 机をバンバン叩きつつも労働環境の訴えを起こすアクスにヘルメスは『ディアンケヒトのところマジヤベー』と自分のことを棚に上げた解答をする。

 その後、ヘルメスに『NO残業』を叩きつけた彼は、とりあえずアスフィには『死の3歩手前まで蘇生できる人が作った』という触れ込みで試供品の紅い雄牛を飲ませる。

 

「染み渡るぅ! 私の特性回復薬(ポーション)よりもすごいですよこれぇ! 五臓六腑に染み渡るぅ、まだ起きてられる! 起きて作業できるぅ! アハハハハハ」

 

「アクス君、あの回復薬(ポーション)って何かおかしなものはいってない?」

 

「入ってないと言ってました。団長も確認済みです」

 

 エナジードリンクのちゃんぽん駄目、絶対というお約束はこの世界にはない。

 魔道具も使わずに翼を授かったような手捌きで原稿を仕上げていくアスフィの様子に、全員がアクスへ殺到する。

 買っては飲み、買っては飲み。もはや試飲所に群がる子供のような有様であったが、全員の目に再び怪しい光が灯る。再び高速で漫画を描き続けていく神々と冒険者を前に、アクスは『ダンジョン行けよ』と真顔で呟いた。

 

 このまま長居するとヘルメスが『パルゥムって手先が器用だったよね』みたいなことを言い出してきそうだったため、アクスは早々に部屋を出ていく。

 

「では、僕はこれで」

 

「あぁ、助かったよ。今後は定期的に数ケース頼む!」

 

「アクス君、置いてかないで……。助けて……」

 

 何やら後ろで幽鬼が呟いているが聞こえない。

 ここはすでに死の世界。振り向けば今度は自分が死者の仲間入りとなる場所だ。

 ぶっちゃけ、時間をかけ過ぎて既に日が暮れ始めている。それにこれ以上居るのは精神衛生上良くないため、アクスはさっさとおさらばすることにした。

 

 なお、アクスが帰ったと分かった瞬間にヘルメスは『NO残業? うちに定時はないよ』とクソ野郎すれすれの発言をかましたのだとか。

 

***

 

 別の日。再びアクスは紅い雄牛を詰め込んで黄昏の館へ向かった。なにやら門番をしていたクルスがやつれていたのが気になったが、中へと入ったアクスはデジャヴに襲われた。

 館中にはムワリとしたインクの臭いがこびり付き、館という広いスぺ巣に縦横無尽に広がる紐──原稿──紐──原稿。竈火の館と同じような惨状に早々に帰りたくなったが、アクスの中にあるプロ意識が足を前へと進ませる。

 その後、フラフラ気味の団員に治癒魔法を掛けながらもロキが執筆作業をしている部屋に入るが──。

 

「ちゃうちゃうちゃうちゃうぅ! こんなんちゃうわぁ、大根役者共ォ!」

 

 凄まじい叫びが聞こえてくる。目の前では漫画に出てくるような衣装でアイズとレフィーヤがポーズを取っており、ラウルが彼女たちを前後左右どころか本棚に登って上からと様々な角度からスケッチをしている。

 週刊少女オラリオとはまた違った気迫に、アクスはつい『遠征いけよ』と再び真顔で呟く。

 

「ん? おぉ、アクスやないか! 今日はどうしたんや? もしかして、ファンレターか?」

 

「ロキ様こんにちは。今日は回復薬(ポーション)の売り込みに来ました。それと、手紙はたまに出してますよ?」

 

「お、どんなん出したんや? やっぱアクスもお年頃やねんなー」

 

 そう言ってたくさんの便せんが入った箱を掻き回すロキ。作者としては感想をもらうのが嬉しいのだろう。

 しかし──。

 

「主に"この姿勢は人間には無理"って出しました」

 

「感想やないんかい!」

 

「いや、だって……」

 

 そう言ってアクスは本棚にずらりと並べてある週刊少年ダンジョンを記憶を頼りにいくつか開き、アイズとレフィーヤを呼ぶ。『こういうポーズ取って』とお願いすると、2人は渋々ながら了承してポーズを取り出すのだが……。

 

「うっ……ぐぅっ……。これ以上無理です!」

 

「このままじゃ足が折れる……かも」

 

「あ、もう大丈夫です。これが気になったので投かんした次第です。あとは……」

 

 そう言ってまたもや何冊かパラパラめくったアクスは、とある1ページをロキに見せる。そこには主人公のロキ助の手の指が()()生えていた。

 これには流石のロキも平謝りをする。

 

「あー、これは完全に誤植や。堪忍な。やけど、漫画は雰囲気で読めば良ぇねん! そんな粗を探すもんちゃうやろ! こう……"このお姉さん見てドキドキするー"とか、"際どい姿に目が離せない"とかあるやろー!?」

 

「女の人の裸は診察とかで見慣れてるので別に……。むしろ、"どんな体勢でぶつかったらこんな状態になるのかな"って感じの方に興味が惹かれます」

 

 アクス・フローレンス。思春期の真っ只中を医療と聖女たちに費やしながら爆走している医療キチである。

 日常的に腕や胴体がぐちゃぐちゃになった患部を見たり、医療行為ということで色々見えた状態で治療を行うような子供が漫画のお色気シーンに過剰な反応など出来るはずもなく……。

 

 それを察したロキはアクスの肩をポンと叩いて漫画は楽しく読むものだと教え込むが、アクスは何のことだか分からない表情を浮かべる。途端に場が白け出したため、ロキは唐突に話題を変えた。

 

「それはそうと回復薬(ポーション)やろ? 見せてみ」

 

「こちら、新商品の紅い雄牛です。参考までにこれを飲んだアスフィ様は即座に回復。原稿をバリバリ書いてました」

 

「平気で週刊少女オラリオにも売ったこと言うなぁ。この死の商人は」

 

「僕たちが売るのはただの回復薬(ポーション)なので。そこに漫画は関係ありません……とディアンケヒト様が仰っておりました」

 

 アクスはただの運び屋である。客が求めれば即座に回復薬(ポーション)を渡す末端構成員に過ぎないため、何を言われても特に気にすることなく紅い雄牛の入ったケースを積み上げていく。

 その後、試供品を飲んだラウルがさらに覚醒したことで持ってきたすべての回復薬(ポーション)が完売。ホクホク顔で出ていくアクスの後ろ姿をロキは見つめていた。

 

「エロに走られへんキャラを……か。──ふひひ、あんがとさん。アクス」

 

 神なのに天啓を得たらしいロキは口元を大きく歪ませた。

 

***

 

 そうして次の漫画の発売日。治療院の中ではいつものように営業が行われてるのだが、その日はちょっと様子が違った。

 

「なぁ、今週の見た?」

 

「あぁ、【戦場の聖女】(デア・セイント)だろ? 実にけしからんよな」

 

 主に男性陣の視線がアミッドへ集中する。その視線を不思議に思いながらもいつものように接客をしていたアミッドたちの耳に、買い出しから戻ってきた男性団員が扉を開ける騒々しい音が聞こえてきた。

 

「団長、大変だ!」

 

「アミッドさん、【ロキ・ファミリア】が……週刊少年ダンジョンがやりやがった!」

 

「なんですか、騒々しいですよ」

 

 激しく扉を開いたことを注意するアミッドだが、団員たちは有無を言わさず週刊少年ダンジョンのとある1ページを広げた。一応ロキが原作をしている『a LOVEる(アラブる)』の1ページらしいが、そこにはどこからどう見てもアミッドのとても人にお見せ出来ない姿が描かれていた。どこから差し込んでいるかも分からない光に都合よく隠された部分も存在する絵にしばらくアミッドは固まるが、羞恥で顔を赤くすると共に団員たちの表情も怒りで赤く染まる。

 

「週刊少年ダンジョン……許せねぇ」

 

「今日は休業だ、休業!」

 

「しかもこれ、a LOVEる(アラブる)でしょ? 主人公があのロキ助よ? これはNTRだわ……許されざるわよ!」

 

「解釈違いの手紙をあの糸目の顔面に叩きつけてやるわ!」

 

「治療院閉めろ! 戦争遊戯(ウォーゲーム)すら辞さねぇぞ、こっちは!」

 

 一気に騒々しくなる治療院。客も全て返された中で誰かがふと『アクスは?』と尋ねる。

 

 居ない。先ほどまではアミッドと一緒に召喚少年ダンジョンを見ていたはずだが、調合室や談話室などを覗いても彼の姿が見つからない。

 最後に彼の部屋を探すが、そこにはアクスの装備が全て無くなっていた。

 

 彼は──。

 

「ミャーの短剣を貸して欲しい? ……アクス、その意味を分かっているの?」

 

「分かってるから頼んでる。僕は……俺は神にケジメを付けさせに行く」

 

 とある酒場のウエイトレスは自らの目の前に立ったパルゥムの宿している目にしばらく考える素振りをすると、ふぅとため息をついて離れの自室にあった異様に反り上がったナイフを鞘ごと渡してきた。

 

「何かあったらここに来なさい。あんたなら母ちゃんも諸手を上げるわよ。……ミャーもだけど」

 

「ありがとうございます」

 

 礼を言ってから出て行ったパルゥム──アクスは、そのままメインストリートに沿って黄昏の館へ向かう。館へ近づくにつれて怒号が聞こえ、度々魔法らしい爆発音も聞こえてくるが──。

 

関係ない

 

***

 

 時を同じくし、ハイエルフであるリヴェリアのあられもない姿を掲載したことでアリシアとレフィーヤを旗頭にエルフの集団が黄昏の館を襲撃していた。頼みの綱であった生原稿も灰塵に帰し、むしろ火に油を注ぐ状況になったことにロキは思いの丈を叫ぶ。

 

「焚書っ! 焚書っ! 焼殺っ! 焼殺ぅっ!」

 

「エルフにとっての地雷を踏んでもーたらしいな。くっ! エロ漫画じゃ聖女は汚れてなんぼやろ! 解釈ちg」

 

今、なんつった?

 

 そんな時、エルフたちとは違う声と共に感じた鋭い殺気にアリシアは思わずロキを押し倒した。ロキが事態を把握しようとするのも束の間。先ほどまで彼女たちが居たところから何かが高速で飛来し、館の壁の一部に着弾する。

 まるで大砲の砲弾でもあたったかのような轟音が響く中、1人のパルゥムが呆然と立ちすくむレフィーヤたちを追い越していく。

 

「アクス……君?」

 

「あ、アクス! 一体全体どういうこっちゃ、なんで自分がキレとるんや!」

 

 姿を現したアクスにその場でへたり込みながら怒るロキ。いつもおバカなことをしているアクスだが、今回のことは流石になぁなぁでは済まされない。しかるべき措置を取るため、一応だが目的を問い詰めようと叫ぶ。

 ただ、アクスは何も反応しない。不思議に思ったロキが首を傾げていると、唐突に腰に佩いたナイフを引き抜いた彼が襲い掛かってきた。

 

聖女は汚れてなんぼだと言ったか! 下郎がぁ!

 

「ひぃっ!」

 

「凍る空、天上の蒼雨──!」

 

 怯えるロキを守るために咄嗟に魔法を詠唱させるが、詠唱しきる前に切り込まれてしまう。いよいよもってアリシアたちの前に凶刃が振るわれるその直前。

 

「うちの主神に手を出さないでもらえるかな」

 

 アクスとは別のパルゥムが持った槍の穂先がナイフの刃を防ぐ。そのまま火花を瞬かせながら数合打ち合ったアクスが距離を離すと、件のパルゥム──フィンが槍を回しながら温和な笑みで彼に話しかけてくる。

 

「君はそんなに乱暴じゃなかったはずだ。良ければ理由を話してくれるかい?」

 

「フィンさんは今週号を見ましたか?」

 

「あぁ、リヴェリアが固まっていたからね。半分ぐらいまで読ませてもらったよ、アリシアたちが怒るのも無理はないよ。だけど、君がここまで怒る理由が無い」

 

 ひたすら『モチーフになりたくない』と逃げまわっていたフィンではあるが、週刊少年ダンジョンには毎週目を通していた。そんな中で本日発売された内容は流石に擁護出来ないとアリシアたちが本当にホームを壊す前に止めようと準備していたところ、まさかのアクスが襲来である。

 

 リヴェリアが汚されたと憤慨するエルフに釣られて。いや、目の前の少年はそれだけであれほど怒らない。何か事情がある。そう思いながらも油断なく槍を構えていたフィンにアクスは続きを話し出す。

 

「最後のページに新キャラが描かれてたんですよ。誰だと思います?」

 

「君がそこまで怒る相手……。まさかっ!」

 

 慌ててロキを見るフィン。しかし、その隙に一気に距離を詰めたアクスが彼の首に突き刺そうとナイフを繰り出す。

 だが、ナイフの接近に気付いたフィンは腕を盾にしてナイフを防ぐと、力一杯蹴ることでアクスを無理やり引き剥がした。

 圧倒的強者であるフィンの蹴りがモロに入ったのだ。動けるわけがない。周囲がそんなことを思っていると、か細く詠唱の声が聞こえた。フィンがそれに気づいて行動に移すも既に緑色の魔法円(マジック・サークル)が光り、さらには『治療せよ(アスクラピア)』という声が聞こえる。

 

「やっぱり、治療師(ヒーラー)は厄介だね」

 

 そうフィンが独り言ちると、煙の中からすっかり元気なアクスが飛び出してくる。手には先ほど投げた槍が握られており、上からフィンを叩きつけた。しかし、既に槍の柄を上に掲げることで防いだフィンは、片手で腰の短剣をアクスに投擲するが、既に振り下ろした柄のしなりを利用して逃げたアクスには当たらない。

 

「まいったね。どうやら全面的にこちらが悪いらしい」

 

「神ロキにしかるべき制裁を加えます。俺はどうなっても構わない、そのつもりでここに来ました」

 

 再び静が場を支配する。フィンが何とか示談に持ち込もうと【ロキ・ファミリア】が前面に悪いと告げるが、雰囲気どころか1人称すら変わったアクスはそれでも敵意を納めない。頻りにロキを制裁する言葉を吐く彼に、今まで怒っていたエルフやその場に駆けつけたヘスティアたちも固唾を飲んで彼らが相対している様子を見ていた。

 

 だが、どうしても我慢できずにベルが叫ぶ。

 

「アクス君! どうして、なんでこんなことを!」

 

「ベルさん。逆に聞くが、神ヘスティアが汚されたらお前は同じことが言えますか?」

 

「っ!」

 

「同意を得ることもなく漫画に描かれ、民衆に勘違いされる。今のアミッド・テアサナーレは何時まちがいが起きても不思議じゃない状況だ! これは漫画だから? 関係ない、いくら小細工を張り巡らせても今を生きる人間を題材にすれば間違いが起こるのは必定! あんたたち神はそれに責任を持てるのか? 不変のあんたたちは1人の女性にそこまで責任を持てないだろう!」

 

『同じ目に合ってるリヴェリア様にも言えることだぞ』と吠えるアクスに、もはや全員が何も言えなかった。冒険者の全体を見ると救いようのないものはチラホラといる。そして、その中には本当に後先考えない者も居ることはアミッドや【ディアンケヒト・ファミリア】の団員たちに守られながらもアクスは知っていた。

 

 それが漫画を都合のいいように解釈するバカが現れたら? 徒党を組める組織力があったら? 計画が上手く行ってしまったら? 

 アミッドはリヴェリアと違ってLV.2だ。実際にそうなった場合、アクスはきっと後悔する。そして、再び失った大事な人に今度こそ壊れてしまうだろう。

 

 ゆえに防ぐ──信奉する存在(アミッド)のために。

 

 ゆえに戦う──死の淵から拾い上げてくれた聖女(アミッド)のために。

 

 ゆえにこの事態を収拾するために神を討つ──愛情をもって育ててくれた(アミッド)のために。

 

 その後のことなんて知らない。ただ偏に──愛する者(アミッド)のために。

 

「やれやれ、狂信者を相手にしているみたいだ」

 

「狂信者で構わない。俺の師匠も女神に夢中だから、似た者同士ですよ」

 

「アミッドが悲しむよ」

 

「俺はあの人に生かされ、あの人に育てられた。受けた愛情は俺の愛情で返すのみ。これが俺の愛情だっただけ」

 

「覚悟を決めたパルゥムが厄介なことを自分が実感するとはね。分かった……よっ!」

 

 こうして長いお喋りを経て、再び2人のパルゥムはぶつかる。

 槍を振り回しては叩きつけ、突き刺しては引き戻す。単純な動作ながらも技量は圧倒的にフィンの方が上だ。拮抗するのも一瞬のことでアクスの持った槍が早々に手から弾き落されるが、むしろ好機だとアクスはさらに前進する。

 

「拳っ!?」

 

「強い武器を持ってるから、咄嗟に手放せないんだ!」

 

 堅く握りこまれた拳がフィンの顔面を捉える。とあるウエイトレスの教えに従って『捻り』を加えたその鉄拳はたしかに彼の顔面に命中した──が。

 

 天下の【ロキ・ファミリア】の団長がこの程度で倒れるはずが無かった。

 

「あぁ、良いね。すごく良い。さっきのはラウルの教えだね。この拳は誰だろうか……。いや、さっきのナイフもか。それに切られた部分にも毒が塗られている。良い師に出会えたようで何よりだ」

 

 拳の隙間から覗くフィンの目。心底戦いを楽しむかのように。期待していた物が順調に実りつつあることを喜ぶかのように。その目は嗤っていた。

 アクスが必死で攻撃したはずなのに涼し気な態度を崩さないフィンに、その場に居た全員は僅かながら恐怖を抱く。

 LV.6という最強に近い能力を有する存在──まさしく化け物ではないか。そんな思いがじわじわと場を侵食していくが、アクスだけはひたすら攻撃を続けていく。

 拳が砕けようが回復して殴る。足が折れようが回復して蹴る。損傷と修復を幾度も続けるが、やがて限界が来た。

 

「精神力も限界みたいだね。薬の類もなさそうだけど、もう少し……いや、LV.2としては十分過ぎるほどだ」

 

 カウンター気味の1撃によって館の残骸まで吹き飛んだアクス。もはや魔法も使えないだろうと後のことを考え始めたフィンだが、煙の向こうから聞こえてくる詠唱に思わず振り返った。どうやらまだ精神力が残っていたらしい。

 回復して襲い掛かってくると踏んだフィンは槍を捨てて拳を握る。リーチは短くなるが、懐に入られれば戦い辛くなることを考えるとこれが最適と言えた。

 

 だが、彼の目的は()()ではなかった。

 

「走りながら!? レフィーヤか、アリシアかな」

 

 煙から出てきたアクスは血を流しながらも並行詠唱でフィンに近づく。攻撃魔法があれば別だが、アクスの魔法は治癒魔法と自動治癒魔法(オート・ヒール)のみだ。何かを隠している素振りも無かったため、この行動の意図が読めなかったフィンは気を焦りと腕の激痛で思わず甘い攻撃をしてしまう。

 

「しまっ……」

 

 ギリギリで避けたアクスが詠唱をしながらフィンに組み付く。一介の治癒魔法では絶対に使わないような魔力が渦を巻き、それに反応したアリシアはフィンたちからロキを逃がそうと退避を始めた。

 ここでようやくアクスが何をしようとしているのか()()()で分かったヤマト・命は叫ぶ。

 

魔力暴発(イグニス・ファトゥス)! 自爆する気です!」

 

 魔法に込める魔力などの調整を誤って暴走。後に爆発するという現象をあろうことか攻撃に転用しようとしていた。

 どんなに殴っても一向に離れないアクスに、フィンは諦めて守りを固める。

 

 直後、黄昏の館の前では大規模な爆発が起こった。

 

***

 

 フィンとアクスが1対1でぶつかった戦いは後に『漫画の乱』と呼称されることとなった。LV.2とLV.6がぶつかったという未曽有の事態にギルドが【ガネーシャ・ファミリア】と共に対処に向かおうとするが、その前にフィンの口から全面的に悪いのは【ロキ・ファミリア】だと宣言される。

 また、漫画を忌むべき存在と考えるエルフたちやその弾圧から己が作品を守ろうとする漫画家たちも、『さすがにナマモノで作品を作るのは駄目だよね』と一気に沈静化。『自分よりも怒っている他人を見たら冷めた』というやつだ。

 

 こうして主神であるロキの行き過ぎた悪ふざけが今回の発端ということで、諸々のことは【ロキ・ファミリア】の胸先三寸に納めるのと同時に週刊少年ダンジョンと週刊少女オラリオは廃刊。そして、【ディアンケヒト・ファミリア】へは勝手に漫画へ出演させたアミッドへの謝罪と賠償金が支払われた。

 なお、少々賠償金の額が多いのは双方だけの秘密である。

 

 そんな事件を経て我らが【ディアンケヒト・ファミリア】の末っ子はというと、包帯でぐるぐる巻きにされた状態で治療院のベッドに寝かされていた。

 

自動治癒魔法(オート・ヒール)も治癒魔法も禁止します。良いですか?」

 

「ふがふが」

 

「今回のアクスの行いには私もかなり怒っています。退院したら覚悟しておくように。良いですか?」

 

「ふがふが」

 

 横に座っていたアミッドは心底お冠な様子でアクスをしかりつけると、彼は言葉にならない声で返事をする。どうやら話は通じているようだ。

 そうして3~5つぐらいの小言の後、アミッドは周囲に誰も居ないことを確認してからアクスの腹に顔を伏せてから小声で話しかけた。

 

「バカ。バーカ。バ~カ。格好つけて1人で飛び出すなんて……。本当、バカな子なんだから」

 

 いつものアミッドでは信じられないほど幼く、単調な罵倒が紡がれる。それを黙って聞いていたアクスであったが、それを良いことに彼女は言葉を続けた。

 

「アクスは私に愛情をもらってばかりって言ってたみたいだけど、私もあなたから一杯もらってるの。それが全部済むまで、あなたは生きないと駄目なんだから」

 

 どうやらフィンがアミッドに色々吹き込んだようだ。今思えば恥ずかしいことばかり言っていた気がするとアクスの身体が徐々に熱くなるが、最後に彼女は小さく『それでも、ありがとう』と呟くと足早に病室から出ていく。

 そんなアミッドの頬も小さく朱で染まっていた。




このLV.2。何時も格上と戦って負けてるな。

アミッド
 オリジナルゆえに現れた被害者。原作(創造神らの戯画騒動)にてロキが聖女云々言ってたため、『じゃあ、アミッドもだな』ということで急遽登場。
 いつもは凛としている女の人が特定の人を前で年相応か幼くなる展開って、良いよね。

フィン
 自分の想定以上に育っていたのでヤバかった。

紅い雄牛
 精力剤にもなるミノの生き血や色々混ぜ込んだ体力回復第1の薬品。(オリジナル)
 原液を薄めてやっと使える類で、飲み過ぎると心臓バクバクで翼を授かって天へ上る。

NO残業
 それはいわゆる泡沫の夢である。私も欲しい。

とあるウエイトレス
 どこの【〇拳】と【〇猫】なんだ…。

アクス君、愛重すぎない?
 まぁ、師匠がヘイズだし
 アミッドが消えたら?コードギアスのソシャゲに出てた狂犬ちゃんになるんじゃね?知らんけど

戦闘について
 気づかぬうちに2級冒険者たちによる史上最強の弟子計画が始まってる気がするけど、本筋には関係ないからいっか!やりたかったからやった!
 槍:基本フィン
 ナイフ:【〇猫】
 拳:【〇拳】
 武器の取捨選択:ラウル
 回復を用いた戦闘:ヘイズ
 魔力暴発による自爆:命
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