キャラが違う。時系列おかしい。などはすみません。
アイドル。偶像ともいわれるこの者たちは人々を魅了し、ステージという名の戦場で観客に夢と希望を与える戦士である。
そんなアイドルという単語がこの世に生を受けた時を同じくして1組の伝説的なアイドルが誕生した。
グループ名は『エルフ・リンクス』。2人の若いエルフがメインを張る舞台に観客は一瞬のうちに虜となり、彼女たちを夢見た中小ファミリアが続々とアイドルを生み出してはいつしか消えていく。
世はまさにアイドル戦国時代であった。
──とまぁ、長々と語ったわけだが【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院では相も変わらず業務に追われていた。アイドルの誰々などの会話で盛り上がっている団員たちも居るが、全員が忙しく働いている時に人知れず誰かがぽつりと言う。
「あれ、団長は?」
「休暇だったはずよ? 調合室に居ない?」
「居ないぞ。あの人がアクス抜きで完全に出かけるなんて珍しいな」
【ディアンケヒト・ファミリア】の団長であるアミッドは仕事をすることで有名だ。それこそ休暇と言いながらも調合室に篭って色々薬を作ったり、書物を読み漁っては実験を行うと趣味と実益が直結しているかのような徹底っぷり。アクスが一緒の休みの時は流石に外出するが、それ以外はまさに仕事人間と称するに値するほど治療院から出ないのである。
そんな時、倉庫から
「お姉ちゃんならディアンケヒト様と【ロキ・ファミリア】に行くって」
「あ、ディアンケヒト様と一緒か。なら商談とかか」
行き先と同行者がいることに団員たちは妙に納得する。
金稼ぎが趣味のあの神のことだ。またぞろ変な儲け話でも作って作業中のアミッドを連れ出したのだろうと想像して業務に戻る。
ただ、アミッドたちは夜になっても帰って来なかった。
【ガネーシャ・ファミリア】が見回りをしていてもオラリオは些か治安が悪い。特に戦いに有利な権能もないディアンケヒトというお荷物を引き連れたアミッドの心配をし出した団員たちは、誰が迎えに行くか協議し出す。
「ねぇ、そろそろ迎えに行った方が良くない?」
「そうだな。誰か──ってアクス! お前が1番不適任なんだよ!」
団員たちの声も虚しくアクスは一目散に治療院から出ていく。メインストリートを北側に進んでいくと、黄昏の館近くにあった空き地の方向からディアンケヒトの声が聞こえた。
「アミッド、もう1度だぁっ!」
やたらテンションが上がっている状態のディアンケヒトに若干嫌な予感がしたアクスだが、最悪アミッドだけ連れて帰れば良いと思って空き地に足を踏み入れると──。
「きゃぴぴーん☆ ダンジョンに舞い降りた癒しの天使、アミッド・テアサナーレです☆」
『うおぉぉぉぉ!』
あ、これ目撃したら駄目なやつだ。周囲の熱狂的ともいえる神々の反応から、アクスは真っ先にそう思った。
ディアンケヒト、ロキ、ヘルメスという神々もさることながら、笑顔を張り付けたアミッドの演技は正直痛々しかった。
例えるならば1年半ぐらい湯を変えていない情報を先出しした後に民間療法を宣伝されたような衝撃だろうか。無表情で彼女たちを見ていたアクスは、何も言わずにこの場を去ることを選ぶ。
そもそもあの冷静沈着な姉があそこまで変わったことにそこはかとなく恐怖したアクスは、人知れず立ち去って頃合いを見て団員の誰かに言って来てもらえばそれで良いと思ったのだが──。
アミッドたちと目が合った。
「おぉ、アクス! どうだ、アミッドの演技は!」
「おーおー、何も言えなくなるなんてウブいなぁ!」
「ん? アクス君どうしたんだい?」
アクス周辺の時間だけが切り離されたように何の反応も返さない。不思議に思ったディアンケヒトたちは首を傾げるが、アミッドは恐る恐るといった足取りでアクスへ近づく。
「アクス?」
呼びかけても無反応。
「もしもし、アクス君?」
ちょっと優し気に言うも反応はない。
「ほ、ほら。お姉ちゃんですよー」
神々の前で恥ずかしかったが、思い切って手を広げながら微笑みかけた。その慈愛の女神のごとき笑顔にはディアンケヒトたちも大興奮。口々に『売れる』という中でアクスの反応を期待するような眼差しを向ける。
ここでアミッドの心境も語ろう。
彼女にも色々な事情があってこの辛い茶番に耐えながら特訓を受けてきたわけだが、それでも思い描いた情景の中で応援してくれるイマジナリーミアハとイマジナリーアクスのおかげで耐えられた。
さらに言えば彼女は年頃の乙女。『全然似合ってない』と口では言いながらも髪の毛の細さ程度には憧れや自惚れも自覚していたりする。
だが──。
「団長閣下。早めの帰宅を推奨します」
「──ッカフゥ!」
『アミッドォォォ!』
THE・他人の振り。それも『団長閣下』という畏まり過ぎる呼び方に、アミッドは肺の中の空気が全て抜けたような声を出しながらその場で膝をつく。突然の大ダメージを受けた彼女をディアンケヒトたちが叫びながら彼女に駆け寄るが、アクスは踵を返しながらこう言った。
「団員の皆様も待っているので、お早めにお願いします。アミッド・テアサナーレ団長閣下」
「ゴフゥッ!」
「ば、バカな! あのお姉ちゃん大好きっ子なアクス君があぁも冷めた視線を……っ!」
「あかんっ! アミッドが過呼吸起こしとる! 早よ医者呼ばな!」
「医者ぁあ!」
「自分や、ディアンケヒトォ!!」
後ろでコントが繰り広げられているが、振り返ると面倒臭くなるのでアクスはさっさとホームへ帰って行った。心配されながらもアミッドたちの行方を聞いてくる団員たちに、彼は『知らない』と告げるとさっさと部屋へ戻っていく。
明日になればまたいつものアミッドに戻る。そう信じていたのだが、次の日の朝礼にてディアンケヒトからアミッドとなぜかアクスに1か月ほどの長期休暇を取得させることを宣言した。
実質トップと治癒魔法持ちの便利な軽騎兵が居なくなるわけだが、【ディアンケヒト・ファミリア】は才ある者たちにおんぶに抱っこな組織ではない。即座に編成を見直してから通常業務をこなしていく。
それを見ていたアクスは内心、『なんで?』を連呼しながらも久方ぶりの休みを謳歌──する前にディアンケヒトと昨日から幽鬼のように生気がないアミッドに連れられて黄昏の館へと向かった。
「おー、アミッドたんにアクス。待っとったでー」
「ロキ様、本日はどのようなご用向きでしょうか?」
ロキとヘルメス。昨日と同じ面子が立っていることに嫌な予感がひしひしと感じるアクスであったが、何やらアミッドの『せんぞくぷろでゅうさぁ』という役職を付けると命名される。
これはアミッドの心身をケアをする役職のようで、主に精神的に疲れている彼女を癒すのが目的なのだそうだ。
しかし、正直言えば帰って本読みながら
そう思ったアクスだが、横でアミッドが『お姉ちゃんを見捨てないで』と恥も外観も捨てて縋ってきた。
昨日のキャピキャピした別人のような姿とは一変。少々頼み方がおかしいが、いつもの様子にお姉ちゃん大好きっ子なアクスは折れた。それはもうポッキリと折れた。
こうして2日の特訓という名の茶番の末、アミッドはアイドルサイボーグとして。アクスは気が利く弟系マスコットとして改造されていった。
***
そして、数日後。ヘスティアファミリアがアイドル事務所を立ち上げて往々に宣伝をしていたところに被さる形でロキたちは新規アイドルユニット『
「レフィーヤは、私とユニット組むのは嫌?」
「そんなことはありません! むしろウェルカムでばっちこいというか……。嬉しすぎるに決まってます!」
「お前はエルフ・リンクスを……。私を捨てて剣姫を選ぶんだな」
「い、今のは違うんです! 言葉のあやというか……。私はフィルヴィスさんが!」
目の前で展開される痴話喧嘩。まるで往診先の八百屋さんの浮気がバレたような展開をロキがご褒美でくれたケーキを食べながら見ていたアクス。心なしかフォークの速度がやや早い。
すると、レフィーヤの言葉に反応したアイズがショックを受け、それを宥めようとしてフィルヴィスが傷つくという悪循環に嵌っていく。アクスのフォークがさらに加速した。
「アクス君、助けてくださいー!」
そうしているとレフィーヤの助けを呼ぶ声が聞こえてくる。だが、往診に行ったファミリアの女神曰く、『仲の良い女性の間に男性が挟まると殺される』らしい。正直嫌だが、
「フィルヴィス様」
「なんだ、アクス。何を言われようとも裏切られたのは事実。私はそれを許しては置けるほど器量の良いエルフではない」
たまにレフィーヤとお茶会をしているところを通りがかっているからか、アクスはフィルヴィスとは顔見知りだ。ややツンケンした物言いで腹を立てていることを示す彼女に、アクスは『仕方ないですよ』と話し出す。
「レフィーヤ様はアイズ様大好きなんで、こうなったらアイズ様を取るかと」
「アクス君!?」
まさかの裏切りにレフィーヤは叫ぶ。それを聞いたフィルヴィスは彼女のことを『優柔不断なラノベ主人公』と罵るが、そこでアクスによる待ったがかかる。
「フィルヴィス様。釣った魚にエサを与えずに次の魚を取りに行き、それを何度も何度も繰り返しては釣った魚に知らぬ存ぜぬを決め込むのよりマシかと」
「それが最悪じゃないか!?」
「神様が"ワンサマー体質"って言ってました」
「私が言うのもなんだが、お前はもう少し神々の言うことに疑問を持った方が良いぞ。……だが、確かに最底辺もマシだな。言い直そう、"お前たちが俺の翼系主人公"め!」
そう言って去っていくフィルヴィス。後に残されたレフィーヤはしばらく放心するが、唐突にアクスの頭を叩き始めた。
明らかに八つ当たり行為だが、こうなった彼女に『ここで魔法とかホーム壊滅ですよ』や『事実じゃないですか』と理路整然と話すと火に油なのはよく知っているので甘んじて受ける。出来るプロデューサーは違うのだ。
結局、嫌と言えない雰囲気となったので
「お2人共、まるで私の位置が分かってるみたいに踊れてますよね?」
歌って踊れるとよく言うが、実はとんでもない労力を要する行動だったりする。グループでのダンスは相手の立ち位置や自分の位置を確認しなければならないし、そこに歌が加わると難易度が跳ね上がる。さらに身体を酷使しているため、事故らないよう体裁きも重要視することも踏まえるとマルチタスクの素養を持っていないと難しい。
「私は"ばっくだんさぁ"だったからある程度は分かってるし、アクスが居たから」
「私もディアンケヒト様たちから一通り……。それと、アクスが居たので」
まるで初めから彼女と踊りを合わせていたかのように動くアイズたちに理由を聞くと、何故か2人共アクスの存在を重要視していた。
レフィーヤの訳が分からないといった反応を見た2人は、ちょうど人肌程度の湯に砂糖と塩を溶かしていたアクスに近づくと何やら話し込み始めた。
最初こそ『疲れるから嫌だ』という姉弟のようなやり取りを微笑ましく思っていたレフィーヤだが、アクスが突然『アイドルになったお姉ちゃん嫌い』という言葉のナイフを繰り出してきたことに驚愕する。
「ちょっ、アクス君何を言ってるんですか!?」
「だって、本当のことだもん。怖いもん!」
胸を押さえながらバタンと倒れたアミッドを抱きかかえながら叱るレフィーヤ。しかし、アクスは目尻に涙を浮かべながら聞く耳を持たなかった。とりあえず謝罪させようとする彼女にアミッドはゆっくりと起き上がりつつ、アクスの方が正しいと事情を話し出す。
イメチェンという言葉がある。イメージチェンジの略だが、今まで地味だった子が何かをきっかけに溌溂な恰好や性格になったり、その逆だったりという行動だ。
大人であればそういったことは多少驚かれるものの、『あー、雰囲気変えたんだ』程度で受け止めることが出来るが、幼い子供にはその変化を受け止めるには重すぎた。
いつもは物静かで淡々とした口調で色々言って来るものの、ちゃんと愛情をもって接してくれていた姉。それが一度スイッチが入るともはや別人のような変貌をしてしまう。
その変わり様にアクスは恐怖する。それはもう思わず真顔で他人の振り──否、本当に姿形が一緒なだけの別人を連想させるほどに恐怖した。
ハッキリ言おう──アクスはアイドルになったアミッドが大嫌いだった。
「ほんっとーにうちのロキがすみません」
「いえ、ディアンケヒト様の強行を止められなかった私の責任でもあります」
あわや姉弟の関係が崩壊するような事態だったことにレフィーヤが謝罪するが、ディアンケヒトも一緒になってアイドルグループを立ち上げたということでひとまず事情は収束する。
そこで話が元に戻ってきた。なぜアクスがダンスに関係するのかとレフィーヤが問うと、アミッドはアクスを抱きしめながら囁いた。
「最後の1回。後は頼まないから。お姉ちゃんのお願い」
「……分かった。我慢する」
「ありがとう」
そう言ってアクスは別室へと入っていく。今度はすんなり話を聞いてくれるアクスに不思議に思っていると、アミッドは少々恥ずかしそうに『弟の操縦方法は心得ているつもりです』と答えた。
おそらくあれが姉としての最終手段なのだろう。そう思ったレフィーヤの心が若干ポカポカしたのは内緒である。
そんなことを話していると、別室の扉が開く。何を準備していたのかと気になったレフィーヤの目に映ったのは──小さいエルフの子供だった。
なにやら『にぃずほっぐ』というプリントが施されたどこで売ってるのか分からないTシャツやダサいジャージに着替えてはいるが、今の自分を子供サイズに小さくしたような出で立ちの存在に首を傾げた。
「あれ、アクス君は?」
「あれがアクスです。……ほら、カツラと付け耳をつけてもらってます」
エルフの子供を呼び寄せたアミッドがアクスだとネタバラシ。彼女曰く、最初はダンスの数合わせで覚えさせていたらしいが、またしてもロキが『なんかちゃうなぁ』とこぼした末にヘルメスがアクスを口八丁で騙し、ディアンケヒトはご褒美としてケヒトの湯で限定販売していたジャガ丸君豪華キャビア味を与えた末にこうなったらしい。
「だって、お姉ちゃんが困るって言ってたし。後、キャビア味美味しかった」
「アクス君、ちょっとは神様たちを疑うことを覚えよ? 明らかにヘルメス様とか怪しいじゃない」
「すみません。この子、神々の言葉を覚えてくるぐらい素直なんです」
そう言いつつも実際に通しでやってみると完璧だった。これが男性が無理をして甲高くやっているのならギャグとして見れたが、声変わりする前の高い声で自分の本名を言われたせいでちょっとイケないことを想像してしまうほど『らしさ』が出ていた。
「アクス君、ちょっとその状態でお姉ちゃんって言ってみて?」
「レフィーヤさん、ちょっとそこでお話ししましょう。えぇ、すぐ済みますので」
「や、やだなぁー。アミッドさんは。アハッ、アハハハ」
一切目が笑っていない笑みを浮かべたアミッドに諭されつつ、レフィーヤたちは来る本番やたまにやってくるロキたちのゲリラライブという名の思い付きに対応していく。
特にゲリラライブは全員動けない程の疲労に襲われるが、そこはアクスが頑張った。
「はぁー、美味しい」
「美味しい……」
「アクス、いつもながら美味しいです」
活力を生み出すには何と言っても食事が1番。特に激しい動きのライブをした後は固形物が受け付けない可能性があるため、某ファミリアで培った疲労回復効果のあるハーブや調理法で拵えたスープでもって彼女たちを癒す。
食事の後は各自風呂に入らせる。着替えは各自の物を【ロキ・ファミリア】の女性団員に用意してもらい、アクスは質の良い睡眠のためにリラックス効果のあるハーブティーを準備。無論、夜更かしなどさせるつもりは毛頭ない。
「はわぁ、なんだか眠たくなっちゃいました」
「Zzz」
「いっ! アクス、もうちょっと太腿の方を……あ”ぁ"あ"ぁ」
アイドルにとってライブ後に怖いのは次の日の筋肉痛。特に足回りは集中してマッサージを行う。綿棒のような棒を力を込めて転がすことで血流を正しくし、極東の神から学んだ指圧によるコリの抑制。レフィーヤには某酒場のエルフから学んだ手袋による接触対策も万全である。
後は顔に蒸しタオルを当て、【ディアンケヒト・ファミリア】製の保湿クリームを塗ってあげれば完了だ。
「クックックッ」
既に夢の世界へ旅立った乙女たちの前でアクスは一仕事終えた悪役のような笑みを浮かべた。
そんな衣食住が充実したサポートが行われつつ1週間が過ぎると、彼女たちはふと思う。
「私、この活動が終わったら生活できるか分かりません」
「私も。アミッド、アクス借りて良い?」
「駄目です。あの子は……【ディアンケヒト・ファミリア】の団員なので」
「アミッドさん、咄嗟に言葉を変えましたよね?」
ホスピタリティは時に相手の生活能力を奪う妖刀の類である。その切れ味に3人の生活能力は真っ二つに切り裂かれたのだった。
***
そんなこんなで本番ライブの日まであと数週間。すっかりアイドルの生活に慣れたそれぞれだが、既にアイドル経験があったレフィーヤとアイズとは別になぜアミッドが招集に応じたのか理由が分からなかった。
「たしかに私が"あいどるさいぼーぐ"になった経緯をお話ししてませんでしたね」
「いえ、もうその設定は良いので。聞かせてもらえないですか?」
すっかりスイッチ1つでアイドルに大変身なサイボーグキャラが定着したアミッドにレフィーヤがマジトーンで理由を聞くと、アミッドはアクスが周囲に居ないことを確認しながらディアンケヒトと黄昏の館へ赴いた時のことを話し出した。
──────────-
「いくら
「そうかー。アミッドちゃんが引き受けてくれないのなら、その分レフィーヤちゃんとアイズちゃんに働いてもらうしかないね」
「っ! 脅す気ですか?」
「嫌だなー、人聞きの悪い。ただ、君が居ないと予定が狂うからね、"キュピピン☆"とか"きゃるるん☆"よりも恥ずかしいことをやってもらって帳尻を合わせてもらうだけさ」
「そういうことだ! ……あぁ、ならアクスにも協力してしてもらうとするか。あやつも中々注目を集めやすいk 「やります」」
「ん? 聞こえなかったで、アミッドたぁん?」
「や、や……らせて……く、下さい」
『その言葉を待っていた(んや)!』
──────────-
「あの子を守るためなら私はアイドルになると……そう決めました」
「うわぁ……」
端的に言って酷い。酷過ぎる。
それに結局ダンスの数合わせとしてアクスにダンスを覚えさせているので、仮にレフィーヤ自身が断ったら彼を代役にねじ込む気満々だった下心が透けて見える。
まるで借金をカタに身売りした挙句に共倒れする話を見ているかのような気分になったレフィーヤが黙っていると、アミッドが彼女にアクスへはこのことを伝えないように念押ししてきた。
「別に伝えたら良いじゃないですか。アクス君だったら怒ってくれそうですよ?」
「いえ、あの子は……やり過ぎてしまいそうで」
「それって、漫画のこと?」
アイズの言葉にアミッドは頷く。
普段は小型犬のごとく姉の後ろをついて来る可愛らしいアクスだが、理不尽や姉へ危害を加えたりと諸々の理由で中層に住むヘルハウンドすら生易しい存在へ昇華する。その存在へ至る閾値は高いものの、一度でもそれを上振れば神ですら平気で喧嘩を売り、ノータイムで格上冒険者に攻撃を加えるようなことすらありえる。
さらにロキには『前科』がある。アミッドが脅されたと分かった瞬間、高笑いをしながら銭勘定をしていた己の主神を含めた神々の首をちょん切り、そのまま槍に刺した団〇3兄弟を『褒めて』と見せに来ても何ら不思議ではない。
オラリオの今後のため、アミッドはさらに念を入れた。
***
そんな時を同じくし、ヘスティアファミリアのホームである竈火の館。今は新規ダンジョンアイドル『イル・ミリオーネ』の事務所となっているここでも、ちょうどアクスの話がされていた。
「くっ、まさかここまでアクスのお世話能力が高いとはっ……。あのハイペースだと早々に潰れると思っていたのに!」
「料理に医療に薬品関係。まさに神父様の集大成ですものね。至れり尽くせりな聖女様たちが羨ましい限りです」
両手で頭を抱えながら狼狽えるフィン改め、プロデューサーF。その横ではパルゥムの癖に何故か馬耳を付けたリリルカ・アーデが、人を使って調べさせた
連日連夜のゲリラライブで少なからず疲労が蓄積し、パフォーマンスが落ちて民衆ががっかりするというのがプロデューサーFの見立てである。だが、蓋を開ければ筋肉痛すらなく溌溂とした
「神ディアンケヒトの一手が無ければ僕が
「
「今は鮫ガールじゃないのかい? ほら、槍とか持った。あと、昔はヤンチャしてたけど今は紳士な
「意味が分かりません!」
よく分からないことを宣うプロデューサーFとヘスティアに一々ツッコむリリルカ。そんなことをしていると、イル・ミリオーネに電撃移籍してきたフィルヴィスが苛立たし気に口を開いた。
「それよりも次は媒体戦術だろう。気を付けることはあるのか?」
「ん? あぁ、ただ1つ。アーデ君、アクスに化けるのは絶対に止めてくれ」
「え、逆に神父様に化けた方が相手も混乱するのでは? それに、第1級冒険者よりも欺きやすいですよ?」
リリルカの言っていることは全くもってその通りだ。アクスの知名度はオラリオでは第1級冒険者にも引けを取らない。さらには
戦略としては全くもって正しい。ただ──予想される報復を除けばの話だが。
「それをした場合、ここは襲撃されてファミリアは半壊するよ。それにヘスティアファミリアの交友関係も彼は知っているし、オラリオ中が敵になる可能性が高い」
「あぁ! 漫画の……!」
ヘスティアの言葉を聞いてハッとしたリリルカ。それを見たフィンが今一度アクスに化けて情報操作は厳禁だと伝えると、彼女は素直に首を縦に振った。
「あ、それはともかく【
「鬼! 悪魔! 【
その後、ないことないこと吹聴したということでリリルカは本物から追い回され、イル・ミリオーネの裏でフィンが糸を引いていることをロキに看破されて放たれたティオネからフィンが逃げ回る生活が続き、ようやく新年ライブ当日になった──が。
──アクス・フローレンスはライブから出禁とさせてもらう。
出禁となった。
原因は神ミアハがアミッドを応援していた際に用いた応援歌にある。
L、O、V、E! ラブリーアミッド!
言いたいことがあるんだよ!
やっぱりアミッド、可愛いよ!
好き好き大好き、やっぱ好き!
やっと見つけたお姫様! 俺が生まれてきた理由!
それはお前と出会うため! 俺と一緒に人生歩もう!
世界で1番愛してる! ア・イ・シ・テ・ルー!
なんとも神々の着想がふんだんにねじ込まれた応援歌だが、『俺と一緒に人生歩もう』の部分でアクスはキレた。『轢き殺すぞ、コラ』と叫びながらミアハをぶちのめし、さらに追撃を仕掛けようとしたところで【ガネーシャ・ファミリア】の団長であるシャクティによって首根っこを掴まれて確保される。
なお、ミアハも【ディアンケヒト・ファミリア】が事前に呼んでいたナァーザによって無事に……後々無事にならなそうだが確保された後に青の薬舗へと連行された。
その後の取り調べでは『不変の神様が人間に軽々しく人生歩もうとか、マジ舐めてると思いました。応援歌だから良い? ふざけてますよね』と素直に供述。その言葉と狂気に流石のガネーシャも『あ、うん。そうだな』と珍しくマジトーンで返し、出禁というファンにとっては厳しい罰に受けたわけである。
そんなこんなで主にミアハの血とアイドルたちが日夜流した汗。そして、無理なキャラ変を強いられたせいで少しの間弟から避けられた姉の涙で彩られた騒々しい年越しライブは幕を閉じた。
そりゃ(神々に振り回される人間が不幸になるから)そうよね。というお話
アクス、塩対応過ぎない?
子供がいきなり180度雰囲気変えた身内を見たらこうなると思うの
ワンサマー体質
打鉄弐式はかっこよかった…
お前たちが俺の翼系主人公
映画では清算されてるからっ!
にぃずほっぐTシャツ
某神「ははは、イベントだからって色々バラすのは止めたまえ。いや、マジでやめろ?」
ウマでぴょい
信じられるか?実際のイベントでもウマとか言ってたんだぜ?
某フレイヤ・ファミリア幹部の談
アクスにうちの馬鹿猫が憑依しやがった。真似するなら俺たちだろ。
『それな』