ハンマーでカンカンしながらトラックで資材と人員運ぶの楽しかった!
男子会や女子会。挙句の果てには『リヴェリア様を敬い、崇め、奉る会(非公認)』などと【ロキ・ファミリア】には様々な会が発足している。
しかしながら、ファミリアは共同生活。ゆえに『他に別の集会が無いこと』や『騒ぎ過ぎないこと』や『体調不良があろうとも、必ず朝食に出ること』などとかなりのルールが設けられていた。
今日はそんな数々のルールを順守することを申請書に明記し、なんとかパジャマパーティに洒落込んだ数人の団員とその監視者について話していこう。
***
「それでは、今夜は甘々でふわふわな女子会で盛り上がろうと思いまーす」
『乾杯ー』
控えめにグラスが打ち鳴らされる音の後、あちらこちらで酒を呷る音が聞こえては酒精の熱を口から逃がすために小さな吐息が漏れていく。
初めは穏やかな立ち回りといったところだろうか。他の団員たちが寝静まっているため、少しでも煩くなれば『
「アクスー、お代わりー。飲み口がすっきりなものでー」
「あ、アクス君。こっちもー」
「アクス君、私には甘い奴ください」
シャロンの言葉に呼応するかの如く、数人が空になったグラスを掲げながら隅で誰かの服を畳んでいたアクスに声を掛けると、彼は『あい』と返事をしながら酒の準備に入った。
はじめに、アクスは女子たちが持ち寄ってきた酒の中から1本の酒瓶を取り出す。そのまま中身をゆっくりと砕かれた氷が入ったグラスへと注ぎ入れ、小さなスプーンで上下に揺らすように混ぜていく。
そうして氷が適度に溶けた頃。仕上げに薄く切った柑橘の実を浮かべ、そこにミントの葉を叩いてから添えたアクスは、手早くもう1杯を作ってからシャロンと同じ注文をしたシフォンへそれらのグラスを差し出した。
「あー、なんだろ。頭がすっごいスッキリする」
「実家のような安心感……というか、故郷が一瞬見えたぁ」
立ち上る香りは爽やかだが、時折顔を覗かせる柑橘の鋭さ。口に含んで飲み下せば、喉を通ったあたりですっと消える余韻。まさしく『これ
「では、次はリーネお姉ちゃんので」
そう言ったアクスが次に取り出したのは、淡い琥珀色の酒とほのかに赤い果実酒だった。
ハチミツを主原料とした酒──ミードと呼ばれる醸造酒をグラスの半分ほど入れ、そこに果実酒を少しばかり入れる。
そうして中途半端に混ざった液体に対し、彼は手に持ったスプーンで繊細にかき混ぜていく。スプーンがグラスの中で揺れる度に琥珀色と薄い赤が渦を作りながら混ざり合い、やがて黄昏時のような色となった頃合いでグラスから引き上げた。
仕上げにサクランボを浮かべたことで、ひときわ目を引くビジュアルとなったアクス特製のカクテル。それを受け取ったリーネが1口飲み込むと、艶やかな吐息が口から吐き出される。
「美味しい……。それに甘さがちょっとだけ残って次が欲しくなっちゃう」
「気に入ってくれたようで良かった。エルフィお姉ちゃんは水でしょ?」
「おー、気が利く弟でお姉ちゃんは嬉しいよ」
アクスが水が入ったグラスを差し出すと、エルフィは嬉しそうに水をガバ飲み。どこに『甘々でふわふわ要素』が詰まっているのかと疑問に思ったアクス。しかしながら、武士の情けということで黙っておくことにした。
さて、ここまで読んだ諸兄はこう思ったであろう。
『なんで女子会にアクスが参加してるの?』、『もしかしてアクスは女の子。
後者はガバガバアナグラムのように全くもって見当違いなので安心して欲しい。だが、前者については語らねばなるまい。
宴会や納会など、なんでも良い。酒が入る集会は終わってからが地獄である。
頭痛を我慢しながら転がっている酒瓶や脱ぎ散らかした衣類。極々たまに発生する吐しゃ物の片付けもしなければならない。
それに、『朝食は全員参加しなければならない』という鉄の掟が【ロキ・ファミリア】にはある。そのため、次の日の朝には叩き起こししてもらうか、食堂まで連れて行ってもらう必要が出てくる。
ったりする。
さらに、メインとなる酒に他の酒や材料を組み合わせたアルコール飲料であるカクテルの作り方に詳しい。これは明らかに
他にも色々利点はあるが、早い話『アクスを出席させた方が色々楽が出来る』のだ。
なお、女子会といった女の園に飛び込ませるのは倫理観的に疑問が持たれるが、そこら辺のムサイ男冒険者と比べるのも烏滸がましいお子ちゃまに何ができるというのか。むしろ、
加えて、【ロキ・ファミリア】全体は食事の提供や住処の掃除。一部の冒険者は洗濯までもしてもらっている。衣食住を握られている相手というのはもはや『実家のおかん』なため、最近ではレフィーヤまでもアクスを部屋に入れては生まれ故郷の話をしてあげている始末である。
つまるところ、アクスに対して 惚れた腫れたといったことは今のところはない。それを残念がる主神は居るものの、三首領的には風紀の乱れが無いようで一安心しているのだとか。
そんな具合に『バーテンダー』兼『片づけ要員』兼『お話係』兼『癒し枠』という【フレイヤ・ファミリア】も黙って肩を叩くほど様々な役割を兼用していたアクスを余所に、ガールズトークが展開されていく。
「シャロンって口煩いお姉ちゃん感あるよねー」
「口煩くて悪かったわね。私だって多少……ちょっと……気にしてたりするんだから」
「でも、前衛なのに全体見れててすごいですよ。ヒーラーとしてはすっごい助かってます。ねー」
「うん! シャロンお姉ちゃんいっつも抱えて走ってくれるから好きー」
「う”っ」
唐突な好意がシャロンの喉を詰まらせる。
しかし、話の流れ的に家族愛としての『好き』であろうことは分かりきっている……が、とてつもなく心臓に悪い発言であるのは変わりない。
未だ鼓動が収まらないが、これはおそらく不整脈の類であろう。明日にでも【ディアンケヒト・ファミリア】に行かなければならないと己の予定を立てたシャロンは、照れ隠しに自らの肩を叩く。
「でもねぇ、こんなことしてるからかなぁ。色々気にして肩が凝っちゃうのよね」
(それはギャグで言っているのか?)
(それは別の意味で凝っているのでは?)
唐突だが、シャロン、エルフィ、シフォン、リーネ、ココといったこの場に居る参加者たちの戦闘力。主に胸部装甲についてだが、シャロンが1位で2位がリーネである。その後ろに言わば『普通』が並んでいるため、普通組のエルフィとシフォンが親でも殺されたような憎しみ籠った視線をシャロンの豊かな胸部へと注ぐ。
女子会とは、男子たちが夢見るようなキャッキャウフフな展開は稀。それこそ、絵巻物だけの展開なのがざらである。
度重なる男子会や女子会に出席していた経験から、慣れたものとばかりにアクスは『またやってる』と呟きながら気になった床の汚れをそれとなく吹いていると、獣人の女の子──ココが絡んできた。
「アクスはどんな胸が好みなの?」
「んー、服着てくれる人ー」
「あら~、手厳しい~。じゃあ、着させて~」
ちなみに現在の彼女は真っ裸である。曰く、『
それを見たラウルが絹を引き裂くようなシャウトを発したことで事態が露見。アキたちによってココが捕獲され、その際にアキと『逆だね』と笑い合ったのは記憶に新しい事件である。
「そういえば、【アストレア・ファミリア】のお姉ちゃんに1人。朝は服着てない人が居るって昔、ライラお姉ちゃんが言ってた」
「やっぱり服なんて邪魔なんだよ~。つまり、私は決しておかしくないってことだね」
『いや、それはおかしい』
オラリオはいつから特殊性癖の坩堝になったのだろうか。【アストレア・ファミリア】なので故人だろうが、まさかの2人目の登場にシャロン達が度肝を抜く。そんな最中、アクスは黙々と先ほど畳んでいたココの服を開いていき、下着から順番に彼女に着せていく。
アクスの様子には一切の照れはなく、ココも当然とばかりに受け入れている。彼らの姿にシャロンたちは酒を飲みながら、ふと感想を漏らした。
「なんか……、親の介護に見えるんだけど」
「アクス君もアクス君でおかしいですよね」
「あんなことされたら死ぬしかないわね、私」
エルフであるシフォンが遠い目をするが、
ただ、アクスの対応も『思春期』がするような対応ではないことは確か。この時間でも執務室あたりで団長と今後のことを話しあっているであろう
「そういえば、リーネって進展あったの?」
「ちょっ、エルフィ!」
「え、なに?
女子は甘い物と恋の話に食いつきやすいのは自然の摂理である。エルフィにより、リーネがベートを想っていることを暴露された彼女は顔を真っ赤背にさせながらシフォンたちからの『ベートの悪口』を受け止めていた。
ぶっちゃけ、ベートは外面だけが良いチンピラだ。他者を雑魚と罵り、酒が入った時なんかはどこにそんなレパートリーが入っているのか、罵倒が止まらない難儀な性格をしている。
そのため、リーネがベートを好きという言葉にシャロンたちは『趣味が悪い』や『嘘でしょ?』といった具合に正気を疑うような言葉を投げかけるが……。
「アキさんたちからもそう言われましたし、難しい恋だと思います。だけど、私はベートさんを助けたいんです」
「おー、すごい覚悟」
「でも、"あれ"だからなぁ……」
それでもベートの悪評から鑑みた下馬評は覆り辛い。
ただ、これ以上
「アクスはベートをどう思う?」
「ベートさんは良い感じの棒を差し入れてくれたから好きー」
「あれ、遊ばれてただけだと思うわよ」
アクスに言われて思い出すのは少し前のこと。庭先で寝っ転がっていたアクスに、ベートが急に近くの棒を投げつけたことがあった。
初めこそ苛めの類かと思いきや、投げつけられた棒は
投げて──持って来て──また投げる。
それを行うこと数回。流石に飽きてきたのか、ベートはどこかへ行ってしまったものの、アクスは遊び足らずにその場で棒をぶんぶん降ってひたすら遊んでいたとかなんとか。
他にも一時期、アクスが揺れる尻尾に興味を持った時もベートの尻尾によく飛び掛かっていた。そう思えばなんだかおかしくなったシャロンがクスリと笑っていると、リーネたちの方が盛り上がっていることに気付く。
「胸元バーンてグイってすれば、あんなオオカミイチコロでしょ?」
「意味が分かりません!」
「胸っていえば、アリシアさんもエルフらしからぬ物をお持ちなのよねー!」
「種族で差ってあるの?」
「あるある! きっとある!」
まるで場末の酒場で管を巻いているオッサン臭くなってきた空気を遠巻きに見つめながら、シャロンは一応静かにするよう注意しながらアクスを撫でる。彼のふわふわとした髪質に感嘆しながら何度も撫でていると、その様子が目に入ったエルフィがアクスに向かって『差ってあるの?』と聞いてきた。
明らかに酔っているし、子供に聞いても仕方ないだろう。それに『嫌がらせ』と捉えられても仕方がない質問なため、シャロンが口出ししようとすると……。
「"魔力の活性化と胸の大きさは比例する"って研究が学区の図書館にあったよ」
「
「バーダイン……だったっけ。そんな名前だった」
「でも、おかしくない? それならレフィーヤはバインバインになってると思うんだけど」
バカ魔力……ゲフン。【魔力】がズバ抜けているレフィーヤでも、胸の大きさはアリシアに遠く及ばない。
おそらく、理論が破綻したのか。それともアクスが勘違いしたのか。どちらにせよ、『人の夢と書いて儚い』といった展開に、エルフィがさめざめと泣きながらシャロンとリーネを睨む。
「恨めしいよぉ、欲しいよぉ。そんな大きなのがあれば、私もきっとモテるのにぃ!」
「冒険者にモテても仕方ないわよ? そもそも、エルフィは気になる相手は居るの?」
「んー、異性ではいないかなぁ。同性ならレフィーヤ?」
「それ、色恋の話じゃないでしょ。……まぁ、私もレフィーヤが気になってるけど」
同じ魔導士として、はたまた同じエルフとして、色々あるのだろう。エルフィとシフォンの2人による愚痴は止まらない。
やれ、オラリオで
やれ、向上心があり過ぎるのにきっちり成果をあげている。
やれ、それだけ強さを持っているのに謙虚に接してくれる。
やれ、そこが応援したいし、好きぃ!
等々。
吐き出したいことを全て吐き出したのか、エルフィたちはすっかり自信を喪失したように押し黙ってしまう。そんな2人を見かねたのか、アクスは少しだけ黙った後に短い詠唱をしてからキアンへと姿を変える。
いきなりのことに全員が目を丸くしながらキアンを見るが、本人はどうやら今までのやり取りが分かっているらしい。エルフィとシフォンに向けて優し気に微笑んだ。
「こんな女の園に俺を呼ぶのはさておいてだな。とりあえず、君たちに向かって"頑張っている"とか"もっと頑張れ"は逆効果だと思うから、これだけは言っておこう。君たちはまだ、諦めてはいないんだろ?」
愚痴の返答は様々だが、『もっと頑張れるはず』や『すでに頑張っているから自分を甘やかしなよ』といった言葉は、聞かされる相手の適正によって反応が分かれる。特にオラリオ最大派閥である【ロキ・ファミリア】の面々は、大小様々だが『そんなファミリアに入っている』という自負が少なからずある。
もしかしたら、逆効果になるかもしれない。だからこそ、キアンは挑発を選んだ。
これはキアンの忘れたくても忘れられない過去。とある騎士団が大きくなり始めた際、フィアナや彼女と同じ頃に入った幹部たちよりも腕は劣るが、それでも1つの戦線を支えられるようになるまで成長した者たちに指導した時に学んだ時の応用だ。
隔絶した腕の差はあろうとも、彼女たちと同じ『前』を見ているのであれば最終的にたどり着くのは同じ場所。ならば、自分のペースで道を踏み外すことなく進み続けることが1番の近道である。
実際に根性論や同情といったありきたりな言葉とは違って、相手を挑発するような発破にエルフィとシフォンのみならず眠っていたはずのココまでもキアンの次の言葉を待っていた。
「だが、頑張り過ぎるのは良くない。矛盾しているように思われるかもしれないが、"1人で頑張る"のと"皆で頑張る"のとではかなり違ってくる。君たちの願いは、君たち1人1人が容易に達成出来ると思うのかい?」
「……出来ないです」
「なら、人に頼れ。レフィーヤちゃんのようにな。それこそが強くなる1番の近道だ。逆に助けを求められたら、手を貸してやれ。もちろん、アクスの坊も俺も力を貸す。家族だからね」
レフィーヤはエルフ特融の傲慢さや気難しさがない珍しいエルフだ。だからこそ、他者を尊敬するし、他者の技術をリスペクトしながら自身に取り入れようと頑張っている。
おそらく、それが彼女があそこまで高みに登った要因の1つなのだろうとキアンは説明する。
しかし、実際にやるとそれはとてつもなく困難な道である。キアンもそれが分かっているからこそ、『自分のペース』という言葉を彼女たちに投げかけていた。
いつの間にか相談会というか、進路について親に相談している子供のような心境になってしまったエルフィたち。それほどまでにキアンの父性がとんでもなかった。
その証拠にそこかしこから『パパ』だの『キアン様』だのと言ってくるため、それを聞いたキアンが内心『やっべ★』とようやくやり過ぎたことを後悔し出す。
ただでさえロキから『うちのハーレムやで!』とたまに癇癪を起され、フィンからは『僕が目を向けれていないのはその通りだけど、派閥が割れかねないことは止めて欲しいな』とやんわり注意されたのが数日前。ここで問題を起こすと、さらに事態がややこしくなると即座に判断したキアンは
(坊、交代だ)
(まだまだ時間あるけど?)
(大人の世界にゃ色々あるんだよ)
幾度も魔法を使用したことで習熟度が上がったのか、魔法の効果時間とアクスへの意思疎通を獲得したことを良いことに、キアンは誤魔化しながらもアクスを表面へと押し出してくる。アクスへ戻ったことで漂う雰囲気が明らかに変わったため、それを感じ取ったエルフィたちは『おかえりー』と言ってくれてはいるが、それは表面上の物。心の中では少しばかり残念に思っていたとかなんとか。
彼女たちも全員、『お年頃』である。どんなことでも受け入れてくれて、頑張っている姿をちゃんと見てくれて、時には喝を入れてくれ、最後にためになるアドバイスをしてくれる精神的に成熟した(魔法で子供と入れ替わった)大人の威力は想像を絶する『パパみ』なのだ。
そんなこんなで危ない場面はあったものの、明日も探索やフィンから任された雑用などと目白押しである。そのため、自己管理が出来る一部の冒険者たちは部屋を後にし、自己管理が出来ないダメダメな冒険者はその場に転がされることとなった。
アクスも酒瓶の片付けやごみの掃除。後は
「お疲れさん」
「後片づけは私がしよう。もう遅いからな」
てきぱきとリヴェリアがアクスの手にしたゴミや掃除用具を持ち、ロキが彼を抱える。そのまま廊下を歩いていると、僅かな振動が心地よかったのかアクスが眠りこけてしまう。
そんな無防備で可愛らしい姿に、2人はいつの間にか顔がほころばせる。
「おー、よしよし。リヴェリア、うちもママの気持ちが分かったわ」
「それは良かった。これからも頼むぞ、
いつもママ呼びされていたことにちょっとばかり仕返ししたかったのだろうが、ロキには効かなかった。
『こんな可愛ぇ子のママなら本望や』とアクスを自室へと連れて行くロキに、リヴェリアは勝てる気がしないと肩を竦ませながら手に持った道具を仕舞うために暗い廊下をゆっくりと歩いて行った。
***
こうして、とある女子会は幕を下ろした。
下ろしたのだが、ちょっとした後日談があったりする。
それは、とある日の食堂で起こった。
「レフィーヤ! 魔力が高くなるとおっぱい大きくなるって、学区で研究されてたって本当!?」
「ぶふぅ!」
ど真ん中ストレートを放つティオネにレフィーヤは啜っていた紅茶を噴出。自分の旧友のでっち上げた偽りの研究であることを説明することで、何とかことを修めることに成功した。
なお、その際に噂の出所であるアクスも召喚されたものの、『アキお姉ちゃんとはぐれた時、レオン先生に案内してもらった図書館に置いてた』と白状し、もはや瞬間湯沸かし器になった彼女が『バーダイ”ン”ン!』と件の旧友の名前を叫んだとか何とか。
こうして、『魔力の高さ = 胸の大きさ理論』というトンチキな研究に対する誤解は解けた……かに見えた。
話が再び日の目を見たのは、ここから数か月後。
苦手な肉類を摂取した弊害なのか、彼女の胸部がなんというか……かなり育った。そのたわわに実った果実を見つつ、同室のエルフィが話をぶり返してきたのである。
「レフィーヤ、やっぱり魔力とそれの大きさって……」
「エルフィ、言わないでください」
エルフィの言わんことは分かる。ただ、レフィーヤとしてはあんなトンチキな理論が真実だとは断じて認めなかった。
改めて彼女は呪詛の如くバーダインに向けた罵詈雑言を心に浮かべつつ、
「レフィーヤ。そんなの持ってたっけ?」
「前、破れた物をアクス君が縫い直してくれました」
「……なぜに?」
エルフはどちらかというと潔癖な種族である。それがどうして下着を縫わせ、それを着る羽目になるのか。
しかし、逆に聞きたいのはレフィーヤの方だった。少し前に胸部の増量によって尊い犠牲となったキャミソールを捨てようとした際、どこからともなく『もったいないお化けが出る』と言いながら姿を現したアクスにキャミソールを奪い取られ、数十分もしない内に悪どそうな含み笑いと共にリメイクされて戻って来たのだ。
しかも、縫い直しただけではない。ビリビリに破れた胸元が似たような色の布地を継ぎ足して形を整えられており、裂けた布地をリボンとして転生させることでより可愛らしい物へと昇華された一品になっていた。
「思えば、すっごいアクス君に助けられてる気がする」
「たしかにねぇ」
筋肉が落ちたことを相談すれば、肉のどこが苦手かを聞かれた上で豊穣の女主人などへ行っては、エルフでも美味しく食べれる肉料理を振舞ってくれた。
防御と移動しか専念出来なかった自分の横で、フィン相手に『イグニスファウストでも問題ない』という覚悟を伴った並行詠唱の見本を見せてくれた。
『無茶な真似は止めろ』と師でさえも止めるよう諭してきたところをアクスだけは『無茶して』、『でも死なないで』と背中を押してくれた。
当の本人は館の業務の一環のように言っていたが、明確な理由がないのがちょっとだけモニョっていた。
「レフィーヤのことが好きとか?」
「うーん、どうなんだろ。……ふふっ、久しぶりにエルフィとそんな話した」
「私はいつでも歓迎だよ~」
コミカライズ版ソード・オラトリアの巻末漫画参照です。
アクス
滋味にレフィーヤよりも冒険者として先輩。(むふー!)
その実態は、館の番人と化した座敷童。飲み会の時に飲み物を作ってくれ、膝に乗せると温かく、寝坊する前に起こしに来てくれ、起きなかったら食堂まで引き摺って行くよ!
後、古着をたまにリメイクしてくれるよ!
また、レフィーヤに行ったのは純粋な善意である。尽くす喜び! 尽くす喜び!
キアン
パパみがすごい。某騎士団時代は無自覚に泣かせてきたことだろう。
なお、館内で何度も何度もキアンになったことで習熟度が上がったのか、キアンになれる時間が増加。さらには眠っていた状態だったアクスが外の状況を見れるようになった。
そんなこともあり、キアン→アクス→キアンと戦闘中の切り替えもスムーズになった。
ちなみに、第2次侵攻ではラキア産の戦馬を借りて複数の戦線を渡り歩きながら戦闘と人質救出をやってのけ、最後はニーズホッグが生み出したモンスターに突貫。ベルが攻撃を加える道をこじ開けたことでランクアップの半分ほどの偉業を稼いだとか。
バーダイン
胸の大きさ = 魔力理論とかいうトンチキな論を提唱しようとした変態。
レオン先生
バルドル・クラスのLV7。迷子になったアクスを見て、『あー、あの店の子か』となった模様。