これが書きたくてこの作品を書いたような気がする。
聖女の聖水煮込み ~神父の信念も添えて~
そこかしこから木槌の叩く音が聞こえる。周囲を見れば様々な建築系のファミリアに入った眷属たちが木材や鉄板片手に動き回っていた。
ここは『天然温泉・ケヒトの湯』。様々な効能を持つ湯で人々をもてなす公衆浴場の建設現場である。
店名にケヒトという名もある通り、ここは【ディアンケヒト・ファミリア】が所有する施設で建築現場にも【ディアンケヒト・ファミリア】の団員が観葉植物を植えたりと雑用をこなしているのだが、彼らの中に団長であるアミッドとファミリア内で末っ子の立ち位置に居るアクス、それと主神であり監督責任者のディアンケヒトの姿はなかった。
そう、彼らは今──。
「カ〇オと昆〇のラブゲーム~♪」
「アクス、その歌を止めなさい。よく分かりませんが、非常に気分が悪いので即刻止めなさい」
「ガハハ、アミッド。極東には似たような物語があるというではないか。確か、はまぐり……なんだったか」
天然温泉・ケヒトの湯の最上層。周囲に蒸気が濛々と立ち上るなんとも暑っ苦しい空間の中心に備え付けられた大きな窪みにたっぷり入れられた湯の中にアミッドが漬かっていた。その周囲には『ヘルメス様から習ったー』と言いながらおかしな歌を歌いながら湯をかき混ぜるアクスと高笑いするディアンケヒトの姿があり、特に主神がなんだか分からないが非常に嫌なことを話そうとする気配にアミッドは『強制送還がお望みですか?』とやや強めに威圧する。
「むぐっ……。しかし、アミッドよ。やはりお主は素晴らしい! 後はこの湯を配管を通して浴場に通せば……、グワッハッハッハ」
「でも、お姉ちゃん。あの水がバーッて出る魔法も使えば治癒効率がすごいのになんでそれをお湯にしないの?」
「バーって……。あれは私の精神力が保たないから」
アクスの疑問にアミッドは窪みの大きさを再度図りながら答える。
アミッドの2つ目の魔法であるティアードヴェールは、彼女の周辺に聖水で満ちた『泉』を作る陣地形成の魔法である。その泉に触れた者は体力どころか精神力も回復させ、さらにその水を体内に取り込めば強力な毒素や異物を除去できるという優れものだ。
ただ、いくら精神力を回復させるといっても魔法を連発できるほどではない。無くなった湯を補充するだけでも尋常ではない量を要求されるため、せめて小出しにしないと
聖女が聖水を温めた湯の中で溺死……なんて恥以外何者でもない。ただでさえ憤死するほど恥ずかしいのに、これ以上の上塗りは避けたい。そう思っていると、いつの間にか姿を消していたディアンケヒトが大量の
「つまり、これの問題じゃな? 小出しで構わん、やれい」
拒否した瞬間に拒否材料を潰されるという稀有な事例を前にアミッドはただただ目の前の青い薬品を煽るしかなかった。
***
そうして【ディアンケヒト・ファミリア】や建築に参加したファミリアを対象とした試験を実施した後、ケヒトの湯は正式オープンとなる。オラリオ初の天然温泉という触れ込みで次々と客が入っては大変満足という表情で帰っていく。
そんな温泉の男湯スペースにて、先日【アポロン・ファミリア】との
「本当にいいお風呂だったねー」
「あぁ、生き返ったぜ。まさか、マッサージもついて来るなんてよ」
「そうだね。肩がいつもより動く気がする」
「お気に召していただいて幸いです」
牛乳を飲むベルとその専属鍛冶師であるヴェルフ・クロッゾの隣では床に散らばったタオルなどを回収するアクスが居た。彼の主な仕事は散らかったスペースの掃除と希望者へのマッサージ。後は『ボイラー室の点検』のみで割と暇なのでこうして会話に混ざっているわけだが、何やら言い辛そうにヴェルフが口を開いた。
「でもよ。あの牛乳販売所はどうかと思うぜ?」
「それはうちの団員と許可した主神へどうぞ。あと、ちゃんとデメテル様への出演料は支払っていると主神が仰っていました」
「出演って言ってもなぁ……」
そう言って彼は先ほど牛乳を購入した販売所にデカデカと描かれたデメテルの絵を見やる。豊穣の女神らしくデカデカと描かれたその姿絵の上には『私のファミリアで作りました』という謳い文句が出ており、鼻の下を伸ばした集団がこぞって牛乳を求めている。
スペースの2階部分では巨大な瓶を片手に民衆の神であるガネーシャが一気飲みを披露しながら『デメテルー! 美味いぞー!』と叫んでおり、広告も合わさって神への冒涜になりかねなさそうな現状にヴェルフは額に手を当てる。
「ただ、最終確認をしに来たお姉ちゃんたちがこれを見て毛虫を見たような目で男の人たちを見てました」
「答え出てんじゃねぇか」
明らかに答え合わせな現場に居合わせていることにヴェルフはツッコむ。
なお、数人の団員とディアンケヒトの尊い犠牲のもとにこの看板は死守されることになったのだが、何がどうなって売り上げが上がっているのかアクスにはよく分からなかった。大人の世界はどうやら複雑怪奇らしい。
***
「えー、【ミアハ・ファミリア】に喧嘩売ったの?」
「売ってません。ディアンケヒト様が一方的にミアハ様たちを誹って……それで……」
「そろそろアスフィさんから
中々過激なことを言っているアクスに注意はしたかったが、自分も自分でこのような恥辱を味わっているのでむしろ『良い案ね』と同意しそうになる心をアミッドは必死で押さえつける。
ただ、自分は有体に言えば風呂に入ってのんびりしているだけなのにアクスはその周囲を掃除したり、入浴中の自分を世話したりとしてくれている現状になんだか申し訳なく思い始めた彼女はアクスに手招きをした。
「アクス、一緒に入りません?」
「えー、僕はお姉ちゃんみたいに煮汁で回復しないよ?」
「喧嘩売ってるの?」
別に好きで入っているわけでもないのにここまで言われるとは思わなかったアミッドがLV.2冒険者の腕力で床を叩きながら脅すと、アクスは素直に作務衣のまま入ってくる。ただ、彼はパルゥムなので溺れないようにアミッドが抱っこするような形で湯に浸からせると、アクスの口からは『ほわぁ~』という弛緩した声が漏れ出した。
「気持ちいい?」
「ここに住みたい。温かくてなんかディアンケヒト様なんかどうでもよくなってきた気がする」
どうやらすっかりティアードヴェールに浄化されたようだ。元々そんなに無かった彼の主神に対する尊敬がさらに下落したことに苦笑しつつも、アミッドはアクスの頭に顎を乗せて目を閉じる。
「温かい……」
手の内にあるアクスの鼓動と温もりに、いつしかアミッドの意識は過去に飛ぶ。
***
路地裏の小さくも活気があった料理屋が見るも無残な廃屋に変わったあの日。パルゥムの男女に覆いかぶさられる形で生き残っていたアクスは、何時そのか細い息が途切れるかも分からないような状態であった。
裂傷、熱傷、そして元はカラスの羽根のような綺麗な黒髪がくすんだ白髪になるほどのストレス。1桁の子供が到底味わってはいけない苦行を前にアクスの目はすっかり生きる気力を失くしていた。
そんな彼を救ったのはアミッドだ。今と同じように抱きしめて冷たくなった体を温めたりといった献身的な治療や
そんな現状に当時はLV.1で物理的な治療や補佐しか出来なかった彼女は自分の力不足を大いに悔やんだ。
ただ、そんな時。当時の団長の見立てではもって数日と言われて詳しさに顔を歪ませていた時に──ディアンケヒトから最後の手段だと
冒険者はそれこそダンジョンでモンスターと戦っても平気なぐらい一般人よりも強い存在だ。もしかするとそれで──否、確実に好転する。天界では名のある医神の見立てでさっそくアクスに確認を取ろうとするが、彼はまったくもって反応しなかった。
刻一刻と命の灯火が消えていくのを感じ、もう駄目かと思った──その時だった。
小さく唇が4回動いた。
……〇……〇……〇……〇……
それを『生きたい』と判断したディアンケヒトが即座に
──ただ、それは本当に『生きたい』だったのだろうか。
***
「──ちゃん……お姉ちゃん」
「え、なんですか? アクス」
「そろそろお湯を補充して欲しいって」
アクスに呼ばれたアミッドは慌ててティアードヴェールを行使する。4方向に小さな筒状の
「アクス。今、幸せですか?」
「どうしたの?」
突然のことに驚くアクスにアミッドは何も言わない。言えば余計なことまで喋ってしまうことが分かり切っているからだ。
既にティアードヴェールの水は湯となってちょうど良い温度になっているにも関わらずアミッドの身体は冷たかった。まるで氷が浮かぶ風呂に入れられているかのように身体と口を強張らせ、続きを逡巡する。
もし、アクスが現状をただ生かされたという理由のみで生きているとしたら──。それを知るのが怖い。『あの時は"死にたい"といったつもりだった』と彼の口から語られるのがなによりも怖い。
唇を噛み締める彼女にアクスは小さく呟いた。
「幸せだよ。皆が居て、お姉ちゃんが居る。それに……、目標もあるんだ」
「っ……!」
冷めきったアミッドの身体に熱が行き渡る。『幸せ』、『目標』という生きるのに重要な要素がアクスの──生きることを諦めたようなあの時の子供の口から語られたことにアミッドの目から小さな水滴が垂れる。
──良かった。この子を助けて。手を差し伸べて本当に良かった。
『お姉ちゃん?』というアクスの言葉にも耳を貸さず、アミッドはひたすら彼を強く抱きしめる。
しかし、そうすると『目標』とは何だろうかという疑問が浮上する。やはり、冒険者として大成することなのだろうか、それともお金持ちになって両親と同じように料理屋を営むことだろうか。
「アクス、あなたの目標って 「団長! ディアンケヒト様がヤられました! 賊の集団がもうすぐそちらにやってきます!」」
「団長とアクス君のほほえま展開を潰すなぞ許すまじ! 今すぐそちらに増援を送ります!」
考えても仕方が無いのでそれに着いて問いかけていると、突如として浴場の管制室に繋がる伝声管から声が聞こえてきた。やや拗れたような発言も聞こえた気がするが、非常事態ゆえにアミッドがどうするべきか悩んでいるといつの間にか湯から上がっていたアクスが近くのモップを拾い、このボイラー室へ唯一繋がっている通路へ向けて歩き出す。
やけに手馴れたモップ捌きを披露しながらペタペタと歩いていくアクスであったが、『あ、そうだ』とその歩みを止める。
「僕の目標は、お姉ちゃんと一緒に……って時間無いからいくね」
「あっ、ちょ……」
そう言い残して去っていくアクス。最初は唐突に言われたことで呆然と言葉を咀嚼していたアミッドだが、ようやく飲み込むと顔を真っ赤にさせながら湯に沈む。
(私と一緒に? えっ、つまり私を? えっ、えぇっ!?)
まさかアクスがそこまで精神的に育ってるとは思わなかったアミッドは、先ほどまでのことを思い出してより赤面するのであった。
***
意図せずにディアンケヒトを降したベルたち一行はこの湯の出所を探るべくボイラー室を目指す。数々の苦難と犠牲となった仲間たちのためにも必ずや秘密を暴かなければならない-とベル──の隣に居るナァーザが気合十分に言うが、安定の巻き込まれスキルを発動させた成り行きで参加したベルだけは乾いた笑いが止まらなかった。
「っ! 止まって!」
すると、突然ナァーザが叫ぶ。彼女の声にベルは正面を見ると、モップを持ったアクスが立っていた。作務衣に身を包んだ彼はどこからどう見てもディアンケヒトの我儘に付き合わされた従業員そのものだが、その身に帯びた敵意にベルは生唾を飲み込む。
「お客様の浴場は下ですが? もしかして、営業妨害目的ですか?」
「アクス、退きなさい。さもなくば……」
手に持った弓の照準をアクスに向けるナァーザ。明らかに脅しの類だが、彼はまるで『矢を飛ばせるの?』とばかりに嘲笑する。
「馬鹿にしてっ……!」
苛立ったナァーザが番えた矢を作務衣の裾に向けて放つ。LV.2冒険者には足止めすらならないが、攻撃の意思を示せばあの優しい子のことだから泣きながら引いてくれるだろう。争いを好まない彼女はそう思っていた。
ただ、違った。
放たれた矢に『合わせる』ようにアクスは足を動かした。金属で出来た鏃が彼の太ももを貫き、『グッ』というくぐもった悲鳴を上げたアクスは即座に矢柄を追って矢を引き抜いた。
「あなた、何してるの!」
これに驚いたのが何を隠そうナァーザだった。脅すつもりが攻撃になってしまったことに顔面を青くさせた彼女。しかし、突如としてアクスの身体に緻密な文字が刻まれた
「
「"戦闘の前に再生魔法はかけておけ"だそうです。しかし、これで営業妨害は確定ですね」
「ま、待って! アクス君!」
モップを構えるアクスにようやく再起動を果たしたベルが身体を大の字にして交渉の構えを取る。ベルたちも湯の秘密を知りたいだけで争う気はさらさらなかった。
ただ、ベルが前に出た瞬間。全てが穏便になるという夢物語は終わりを告げる。
「おや、ベル様。まさかあなたも湯の秘密を探りに来たと? …………兎は燃やし尽くさねばならないというあの方の愚痴も間違いではなさそうですね」
「え”っ? あの、アクス……さん?」
「ひとまず、あの方に代わってウィーシェの森でさようならでもしておきますか」
「あ、あれ。おかしいな。後ろにレフィーヤさんが見えるや」
自身の情景に浮かぶ聖女の入浴を覗こうというのだ。湯の秘密を探る? 湯の正体が彼女の残り湯だと知らない? 関係ない。確かめようと行動したことが間違いなのだ。
神の言葉では『好奇心は猫をも殺す』だったか。なるほど、違いない。ならば、好奇心の名の下に叩きのめそう。
既にここは
目の前の
そう結論付けた彼の双瞳には憤怒の炎が宿っていた。
「恥を知れ、ベル・クラネルっ! 幾人もの乙女の肌を幾度となく無断で見続けた不浄の手先! 貴様の下卑た眼差し、その他もろもろを我らが御旗の下に届かせはしない!」
「うえぇぇ!?」
主に数巻先の
──瞬間。メキリという硬い物がへし折れる音と重い物がぶつかってきた衝撃にベルは思わず目を細めた。横を見ると彼の胸辺りまで跳躍したアクスが手に持ったモップをベルの腕目掛けて横薙ぎした後だった。
あのまま話し込んでいたら首に深刻なダメージを負っていただろうことに冷や汗が止まらなかったベルを他所に、着地したアクスはすっかり折れてしまったモップを横へ放り投げた。
「流石、LV.2……いや、もうLV.3ですか。モップの方が折れてしまいました」
「アクス君、何で……」
「言ったでしょう? この先には大事な存在があるんです。僕にとっても団員にとってもね」
「だからそれって……っ!」
『大事な存在』という分かり辛い言葉について問い正そうにもアクスの攻撃は止まない。LV.2の俊敏性で一気に近づくと太古から人間に備わった武器である拳をベルの左胸へと打ち込んだ。
「ゴフッ!」
さしものLV.3でも人体の急所の1つを不意に突かれれば、いかに相手が格下のパルゥムでも咳き込んでしまう。その隙に再度高く跳躍したアクスは、ベルの髪を鷲掴みにして膝を上げるとともに思いっきり振り下ろす。『プァッ』という声を上げながら後ずさったベルの鼻からは血がとめどなく流れ始めた。
「ア"ク"ス君、話を"聞いて"」
「皆様がここから離れてくれたら聞きます」
流石のベルもこれ以上の問答は不可能とアクスの拳に合わせていく。両者の格闘術の腕前は互角──いや、ナイフを用いた二刀流で戦うベルの方が僅かに上だ。
しかし、狭い通路でパルゥムという小さな種族と戦うには少々技術不足だった。
「アツ”ッ!」
「そんなに大振りで蹴るから配管に当たるんですよ」
距離を放そうと蹴りを見舞うが、アクスが躱すことでその先にあった配管をぶち抜くベル。熱い湯が足にかかって悶絶したところをアクスの拳が肩口に決まる。一瞬腕が動かなくなった感覚に見舞われながらもベルは腕を振り回すが、狭い通路で思うように攻撃が出来ずにいると、今度は向こう脛を強く小突かれる。足に力が入らなくなり、思わず膝をつくベルの左右の肩口に向けてアクスは全力の拳を突き立てた。
LVが1つ違うだけでも戦力に圧倒的な差が生じるのは冒険者の常識だが、知識や経験というものは人それぞれだ。パルゥム特有の身体の動かし方や、常に大きな存在と戦う上で編み出された戦闘術。そして、相手の隙をつく方法。いくら短期間でLV.3に至ったとしても、冒険者となって数か月のベルには対処が難しいものばかりであった。
ただ、それでもLV.3というのはLV.2と比べて圧倒的な戦闘能力を保有している。先ほどの渾身の1撃もあまり聞いた様子もなく殴り合いが再開する。1発1発が重く、真正面から受けたアクスの腕からボキリという異音が発した。
ダランとした腕部を見たベルが青ざめながら『もうやめよう』と言って来るが、まるでそれがどうしたと言わんばかりにアクスは謳う。
「
超短文詠唱。たった1節の魔法を唱えたアクスの折れたばかりの腕部には緻密な文字が刻まれた
「最初から食らうつもりで覚悟を決めてます。フィンさんが良い例ですが、覚悟の決まったパルゥムは非常に厄介だそうですよ」
そして、また接近戦が続く。ダメージを負う傍から回復されるという恐怖にベルが恐怖するが、そんなアクスの戦い方に苦戦するのは何も前衛のベルだけではない。
「くっ。狙いが……」
インファイト同士の攻防ということで狙いが全然付けられない状況にナァーザが歯噛みする。下手をするとベルに当ててしまうという恐怖と戦いながらも彼女は頻りに弓を動かしつつも手をこまねいていた。
そんな攻防の果てに早くも決着がつく。壁を蹴って一気にベルの後頭部まで肉薄したアクスは、身体全体を使って彼の首に組み着いたのだ。
『捕まえたぁ』と吐息交じりの声を漏らすアクスにそこはかとない恐怖を覚えたのも束の間。ベルの首が万力のごとく締めあげられる。
「ぐぅ! う、ううぅ!」
「そろそろうちの団員の皆さんがこちらに来ます。このまま絞め落して連れて行かせていただきます」
酸素不足に明暗する視界に思考の鈍り。後数十秒もすれば完全に意識が断ち切られる瀬戸際にて、ベルは一瞬だけ『あれ、なんで僕こうまでして戦ってるんだっけ』という本末転倒な疑問を持ちながらも、自らの身に宿った必殺の一撃を加えるために締め上げることに夢中なアクスの頭部を鷲づかむ。
「ファ……イアァ……ボルトォ!」
「うぼっ!」
反則レベルの超短文詠唱による魔法。稲妻のような爆炎を零距離から食らったアクスはのけぞったところで再度魔法を行使。今度は胴体にモロに食らったことで壁に激突し、そのまま動かなくなった。
***
「……クス! ア……! アクス!」
「ん、お姉ちゃん?」
聞き馴染みのある声にアクスの朧げだった意識が覚醒する。上を向けば心配そうにアクスを見つめるアミッドと満天の星空。戦った場所がボイラー室近くの通路だったので環境が変わったことに彼が驚いていると、混乱していることに察したアミッドが状況を説明してくれる。
どうやらあの後、やはり湯の正体がバレたらしい。終いには『飲んでしまった』というベルの言葉が引き金となってアミッドの羞恥は限界突破。しかも、ちょうどティアードヴェールを行使していたタイミングのことだから魔力の調整を誤って建築物もろとも爆発するような特大の暴発をカマしたらしい。
どうやら具体的に説明しすぎたようで、恥辱を思い出したらしいアミッドがさめざめと泣きながら吐き捨てるように後悔を口にする。
「うぅ、もうお嫁にいけません」
「大丈夫だよ。僕が一緒に居るから」
『────っ!』
その場に居た全員の息の呑む声が聞こえる。全員が固まった様子にアクスは不思議そうに周囲を見渡していると、すっかり顔面を真っ赤にしたアミッドが呂律も回らないほど畳みかけてきた。
なお、アクスとベルが戦っていた場所がボイラー室から近かったこともあって声が丸聞こえ。それにより、彼女の乙女回路は倍率ドンのさらに倍といった具合に煮えたぎっていたりする。
「しょ、しょれはちゅまり……」
「ん? ずっと治療院に居るんでしょ? 一緒に頑張ろうよ」
「え?」
「え?」
「アクスよ。先ほどの言葉はアミッドを嫁として娶るという話ではないのか?」
──言いやがったこの爺。
その場に居た全員が神ゆえにノンデリカシーな発言をしたディアンケヒトを目だけで非難する。アミッドも主神を睨みつけるが、対してアクスはきょとんとしていた。
「お嫁さん? もう家族なのに何言ってるの? ディアンケヒト様、耄碌した?」
容赦ない主神ディスをすると、アクスはようやく自分の考えが周囲とずれていることに気付く。
彼曰く、アミッドが【ディアンケヒト・ファミリア】から出て行かない限りはこれからも一緒。ついでにディアンケヒトも金を稼ぐことが出来てハッピー。おーいえー。なのだそうだ。
「アクス。夫婦の関係についてはどこまで知ってる?」
「お父さんとお母さんみたいに仲良く暮らすんでしょ? ファミリアとどう違うの? ミアハ様」
ミアハからの質問で全員が理解した。この子供、恋愛感情から結婚の意味、その後のことまで全くと言って良いほど理解していないのだ。まさか【ディアンケヒト・ファミリア】の忙しい日々がここで牙をむくとは思っていなかったアミッドは額に手を寄せる。が……ひとまずは何も分かっていない弟を強く抱きしめた。
別に自分の気持ちを弄んだ報復ではない──多分。
なお、
おちゃらけたOVAの中にてぇてぇ要素を加えようと思ってたはずなのに、ちょっと重くてバトル要素を詰め込んでしまったけど、ままえあろ
ティアードヴェール
ソード・オラトリア15巻で登場。泉を生成する陣地形成魔法。残り湯だけじゃなくてこの魔法も使ってたから新陳代謝とか色々高まって効能出たんじゃないか疑惑。
絶対生かすウーマン怖い。マジ怖い
牛乳販売所
金にがめつくて思考がリアル寄りの神様ならば絶対やる。なお、かなりの出演料を払ったらしい。
バースト・オイル
空気に触れると爆発する液状の爆薬。アスフィーさーん、圧力鍋とパチンコ玉なーい?
オートヒール
超短文の自動治癒魔法
詠唱:治療せよ(アスクラピア)
ヘイズと同じく骨折や火傷などの自動治癒が可能だが、超短文詠唱のために魔導があっても広範囲での付与は出来ない。
精神力がある分だけ被弾覚悟の肉弾戦は出来るが、ヒーラーにそこまで求めるのは間違いだと思う。
元ネタは古代ギリシャの病院
ヘスティア・ファミリアの団長が子供に暴力を振るった件について
アミッドの残り湯という情報を隠すという条件で『…なにも!!!な゛かった…!!!!』された。