ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

27 / 135
派閥連合(遠征)的にアクスはついて行かないといけないよなぁとソードオラトリアの新刊見てたら思いました まる(白豚がぁ…)

とりあえず、ここからソードオラトリア1話が始まります


3話:未知との遭遇

 現状、ダンジョンはそれぞれ上層、中層、下層、深層の4つのラインが設けられている。

 もちろん下に行くごとに危険度は増していくが、中層以降はそれぞれ第1の死線(ファースト)第2の死線(セカンド)真の死線(トゥルー)と3つの死線(デッドライン)が定義されている。ギルドはその死線を超える適正レベルを観測しては冒険者に公表し、冒険者も自殺志願者以外はその定義をしっかり守っているわけだ。

 そんなギルドの定めている適正レベルはLV.4。迷宮の最大危険領域と言われている深層の49階層。別名、大荒野(モイトラ)では合戦さながらの戦いが繰り広げられていた。

 

「盾ェ、構えぇっー!!」

 

 1本の草木すらない荒れ果てた広大な大地にフィンの号令が響き渡る。その号令を聞いた【ロキ・ファミリア】の団員たちは即座にあらかじめ決められた場所に身体を捻じ込みながら密集し、自身の身長を優に超える大盾を前に腰を入れて踏ん張る。

 瞬間、耳が痛くなるほどの衝突音と腕がはじけ飛んでしまったかと錯覚するほどの衝撃が冒険者に襲いかかった。盾の合間からは山羊のようにねじれ曲がった2本の大角を生やした醜悪な怪物──フォモールが盾の壁をこじ開けようと暴れるが、安々と突破させるわけにはいかないと踵を地に埋めながら吠えた冒険者たちは団結力を持ってフォモールと一進一退の力比べを行っている。

 

「前衛、密集陣形(たいけい)を崩すな! 後衛組は攻撃を続行! アクスはなるべく前線に近づかないように範囲治癒魔法をしろ、ラウルはその援護!」

 

「分かりました」

 

「うっす」

 

 滑稽な笑みを浮かべた道化師(ロキ・ファミリア)のエンブレムが刻まれた旗を持ったフィンが矢継ぎ早に指示を与える。その指示に従って彼の近くで待機していた射手(アーチャー)が次々とフォモールにダメージを与えていき、少しでも数を減らすために待機させていたアイズたちを盾の壁の向こう側──最前線へと投入する。

 そんな中、フィンの横で待機していたアクスは槍の切っ先を大地に軽く突き刺してから全体重をかける。体重によって槍の柄が見る見るうちに折れ曲がるが、『誓樹のウォールナット』はこの程度ではへし折れることが無いのはアクスもフィンも知っている。

 やがて、アクスは軽くその場で跳躍することで曲げていた柄を開放。その反動で砲弾のように宙を翔けた。

 

「あぁっ! アクス君、待って欲しいっすー!」

 

 気付いた時には前線まで飛んで行っているアクスに、ラウルは手に持った弓や矢筒を放り出しながら必死で追いかける。

 そうして前線のすぐ後ろへと着地したアクスは集団へと近づき過ぎないように近づき、早速詠唱を開始する。今回は1秒でも長く壁を持たせるために体力の回復を優先。それも前衛に連発するのだから傷を癒すことや状態異常といった余計に精神力を用いる効果は省かなければならない。

 詠唱が佳境に入っていくごとに直径15Mの程の魔法円(マジック・サークル)から発せられる緑の光が強まる。その魔法円(マジック・サークル)に気付いた前衛たちは1人でも多く円の中に入るためにさらに密集する度合いを強くした。

 

 誓いをここに。

 我は膝を折った戦士を立ち上がらせる者

 この誓いに基づき、我が行使する。

 ケーリュケイオン

 

 やがて詠唱が終わると共に魔法円(マジック・サークル)の光量が増し、その光が消えたと同時に輪の中にいた者たちは引き続きフォモールをその場に縫い留めた。彼らの顔からはすっかり疲労の色が消えており、唯一暇な口からはアクスへの礼が告げられる。

 そうして1回目の回復は済むが、戦闘はまだ続いている。残りの精神力を考えながら詠唱を取捨選択して魔法を使うという中々慣れない考え方に苦戦しながらも、アクスは前衛へと治癒魔法をかけ続けた。

 

 ── ケーリュケイオン

 

 ── ケーリュケイオン

 

 ………………

 

 そろそろ精神力が尽きてきた。視界が多少歪む中でポーチの中にある精神力回復薬(マジック・ポーション)を口に含んでいると、戦況が一気に悪い方へと転がり始める。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「陣形が崩されたぞ!」

 

 怪物の大きな角に巻き上げられ、大盾を持った冒険者たちが例外なく宙を舞う。密集陣形の中に穴がぽっかりと開き、フォモールたちはこぞって穴に押し寄せてきていた。

 このままだと後ろで長文詠唱を行っている魔導士部隊に甚大な被害出かねない。防衛線構築の時間を稼ぐためにフィンは最前線で暴れている狼人(ウェアウルフ)に向けて声を張り上げる。

 

「ベート、穴を埋めろ! アクスは崩れたところから順番に回復しろ!」

 

 フィンの指示に【ロキ・ファミリア】の中で1番足が速い【凶狼】(ヴァナルガンド)ベート・ローガは舌打ちと共に防衛に戻り、アクスは今の詠唱を中断して崩れた防衛線へと急ぐ。穴を塞ぐように指示されたベートが奮戦しているおかげで一旦は何とかなっているが、彼がこちらに来る前に数匹のフォモールが防衛線の中への侵入を許してしまっている。

 敵の集団に大打撃を与える後衛や、モンスターが回り込まないように排除する砲撃手は前衛と比べると総じて防御力が低い。そのためフォモールからの攻撃が当たらないように全力で回避に努めているが、1人のエルフが回避し損ねて倒れ込む姿がアクスの目に映った。

 

「レフィーヤ様!」

 

 その後のアクスの動きは早かった。すぐさま槍の切っ先を地面に埋め、先程のように反動を用いて高速移動を敢行する。グングンとレフィーヤとの距離が近くなっていき、やがて彼女のすぐ横まで移動出来たタイミングで腕を横に出し、レフィーヤを掠め取るように回収する。

 無事に着地出来たアクスが後ろを振り向くといつの間に戻ってきたのかアイズがレフィーヤを攻撃しようとしたフォモールに接敵しており、アクスの目で追いきれないほど素早い斬撃がフォモールを灰へと変えていく。

 

 もしかしなくても出過ぎたことをしたかもしれない。エルフは肌の接触を極端に嫌う種族なので、救援に来ることが分かっててあのまま居たかもしれない。

 集団戦の常識が分からずに迷走してしまったアクスは、未だにこちらに視線を向けて来るレフィーヤの顔を見るのが怖くなってきた。

 睨んでるのか、それとも怒っているのか、はたまた感謝しているのか。それすらも確認するのが恐ろしいため、アクスはすぐさま彼女を下ろすと再び槍の反動を使って倒れた冒険者たちのところまで戻って行った。

 

「アクス君が戻って来たっすよ!」

 

「集まれー! ラウル、アクスを肩車してやれ!」

 

「はいっす!」

 

 ガレスが動けなくなっていた負傷者を担ぎながらアクスの元へと駆け寄ると、その太い腕でアクスを抱き上げてラウルの首に座らせる。そうすることで一気にアクスの姿が見えやすくなり、倒れていた冒険者は次々と彼の元へと駆け寄ってくる。

 やがて、密集陣形のようにぎゅうぎゅう詰めになった頃合いでアクスは詠唱を始めた。

 

 死と再生の象徴よ、我が声に耳を傾けたまえ。癒しを求める者よ、我が声に集まりたまえ。

 我が癒し、万物(なんじ)を救う。万物(なんじ)は助け、我を救う。

 誓いをここに。

 我は傷ついた者を癒す者。我は膝を折った戦士を立ち上がらせる者。

 この誓いに基づき、我が行使する。

 ケーリュケイオン

 

 体力の回復と傷の治療。2つの効果を付与させた魔法が行使される。緑色の温かな光が収まると倒れていた冒険者たちの身体中に刻まれた痛々しい傷の大半が埋まり、立てなかった者が元気に立ち上がり出した。

 

「治ったらすぐに戻れ! これより先は1匹も入れるでない!」

 

「中に居るのはあいつだけだ! 押し出せー!」

 

 復活した端から大盾を手にした前衛。それぞれ気炎を発しながらそれぞれの肩をぶつけあい、1つの塊となってフォモールへと突撃していく。そのまま押し出す形で防衛線をぴったりと閉じることでようやく防衛線内の平穏が取り戻された。

 

「なんとかなったっすね」

 

「そうですね」

 

「アクスっ! ラウルも何をやっている! まだ呪文の詠唱には時間がかかる、次の回復にかかれ!」

 

 フィンの言う通り、まだ戦闘が終わったわけではない。加速度的に増していく怪我人たちを前に、アクスはラウルを伴って次の現場へと急いだ。

 

***

 

 数時間後、フォモールを一掃した【ロキ・ファミリア】は50階層で拠点を構築していた。深層で2つ目の安全階層であるここは乱立する樹木の間に清流が流れており、それぞれがこぞって水分を補給していく……のだが。

 

「ボボボボボ……」

 

「キャァァ! アクス君! アクス君しっかり!」

 

「誰っすか! アクス君を連れて来たの!」

 

 清流に顔を突っ込んだ状態で微動だにしないアクスをアキが抱き起す。あの後、前衛のみならず後衛も回復させたためにアクスの精神力が底を突きかけていた。精神疲弊(マインドダウン)でヘロヘロのアクスに水分補給させようと誰かがここまで運んできたは良いが、気絶中の奴に水を飲ませようとする馬鹿にラウルは怒る。

 幸い水を大量に飲んでいなかったが、ひとまずアクスは絶対安静というフィンの厳命で雑魚寝用のテントの中へと転がされた。

 

「お腹減った」

 

 そんな彼がしばらくして、キュ~という可愛らしい音と共に覚醒する。起き上がると周囲を見渡すが、誰も居ないので視線を上に上げて黄昏ていた。

 

「そっか、これが"しらないてんじょう"!」

 

 昔、ヘルメスから教えてもらった言葉の意味を理解したとばかりに手を叩くアクス。もちろんだが、このテントは遠征中にずっと使われているのでどちらかといえば『知っている天井』なので彼の言う事は全くの見当はずれだが、それを指摘する者は誰も居なかった。

 

 そんなアホの子っぷりを人知れず披露したアクスだが、隣の炊事場の方で姦しい声が聞こえたので行ってみることにした。神が見たらまるで『家政婦』と言いそうになるぐらいさりげなく炊事場の様子を確認すると、ヒリュテ姉妹とアイズとレフィーヤが何やら料理をしていた。

 確か遠征中は大鍋に汁物を作って皆で食事をしていたはずだが、ここからは別なのだろうか。遠征の流れが分からないアクスは片付けのことを想像して面倒くさげな表情を浮かべていると、彼の視線に気づいたアイズが振り返って来る。

 

「あ、起きた。ほーら、ご飯だよー。こっち来ーい。……あ、来た」

 

「別派閥ながら心配になる子ね」

 

 ティオナが自らこしらえた料理を片手に手招きしていると、徐々に近づいてきたアクスが皿を手に取って食べ始める。その横ではティオネがまるで餌付けされた小動物を見ているかのような反応を示すが、彼は12歳の男の子である。

 腹が減ったらそのぐらいはする──多分! アミッドも『知らない人から食べ物をもらってはいけない』と言っただけで、『知ってる人から』の食べ物は食べても良いはずだ──多分!! 

 

「美味しいですか?」

 

「独創的な味。お腹には溜まります」

 

「つまり、味は二の次ってわけね」

 

 お世辞を言えば独創的。悪口を言えば少々大雑把。食べれる味で腹に溜まる分だけ御の字だとアクスはアミッドや【ディアンケヒト・ファミリア】の団員であるラバナさんの作るご飯が恋しくなりながらも咀嚼する。

 結局、全員が話すのに夢中で出来た物に手を付けなかったせいで全部平らげる羽目になったアクスだが、ふとアイズの横を見るとレフィーヤが何かを言いたそうに彼の方をチラチラと見ているのが目に入った。

 

 その瞬間、彼は直感する。彼女はエルフらしいエルフなのだと。

 

『良いですか、アクス。女の子には優しくしないと駄目ですよ』

 

『フローレンスさん、エルフは手を繋ぐなどの接触は嫌います。まずは誰も居ない夜の森で──』

 

『アクス、女には優しくした方が良いぜ。その方がお近づきに……いや、団長冗談ですって。冗dガァァァァ!』

 

 アミッドや往診していた酒場のエルフ。後は音無く近づいたアミッドの制裁を受けた勇者(おろかもの)からもたらされた知識が彼の頭を駆け巡ったアクスは、全力で極東出身の神から教わった謝罪スタイル『ドゲザ』をその場でし出す。

 その場が一気に騒然とするが、肉体の接触を嫌うエルフは治療院の診察や往診すら断る頑固さだ。現に酒場のエルフの女性は『必要ないです』と薬をもって自分で治療する始末だ。レフィーヤも同じような観念で今まで育ってきただとすると、彼女を助けた行動もいけないことだったかもしれないとアクスは先ほどのことを思い返す。

 

 不可抗力とはいえレフィーヤに接触、かなり乱暴に回収、その場で謝らずに逃走。神の言い方を真似れば『スリーアウト』といったところだろうか。どうやっても良い繕うのは不可能と、アクスは慌てふためくレフィーヤの前で全力の謝罪を始めた。

 

「レフィーヤさん、ごめんなさい」

 

「だから何をそんなに謝ってるんですかぁ!」

 

「そーそー、理由も言わずにはちょっと分からないかなー」

 

「水浴びとか着替えを覗いたり……はしないわよね。アクスだし」

 

「うん。アクスの気配は分かりやすい」

 

 理由なく地面に頭を付けるアクスに理由が分からずそれぞれが推測するが、どれも推測の域を出ない。ティオネの言う通り、アクスはそのようなことをするようなパルゥムではないことはここまでの遠征や常日頃の往診から分かっているし、何か会話で不快な思いをしたかと言われればその逆で面白い話を結構聞くことが出来た。

 

 何も問題はないのに謝られるのはちょっと居心地が悪いと思っていたレフィーヤだったが、今の状況がもしかしなくても非常にまずいということだけは分かった。

 

 パルゥムという種族的にも年齢的にも小さい男の子。しかも、フィンがやっとの思いで連れ出すことに成功した他派閥の冒険者を土下座させている1級冒険者が混ざった集団。どう弁明しても恐喝や虐めの犯行現場に見えかねない状況だ。

 

「お前たち、こんな所に……何をしている?」

 

 まずい。まずい。まずい。何度も同じ単語を脳内で連呼するレフィーヤだが、ここで1番聞きたくない存在の声に肩を震わせる。

 後ろを振り向けば冷徹な視線でこちらを見据えるリヴェリアの姿。1番起こって欲しくなかった最悪状況に立たされたレフィーヤであったが、背中を見せている相手がアクスだと分かったリヴェリアがため息をつきながら彼の前でしゃがみこんだ。

 

「おそらく勘違いをしているのだろうな。アクス、何をそんなに謝っている。怒らないから話してみろ」

 

「レフィーヤさんを片手で抱えました。エルフは接触を嫌うって忘れてました」

 

「え、あー。あぁー!」

 

 ようやく原因を言ってくれたおかげでレフィーヤは状況を理解する。フォモールを前に転んでしまった時、アクスが彼方からすっ飛んできながら自分を抱えて退避させてくれたことを言っているのだ。

 ただ、もしそれで謝罪をしているのならば逆にどれだけ自分は器量の狭いエルフと思われているのだと彼女は憤慨する。しかし、彼女が怒る前にリヴェリアは口を開いた。

 

「アクス。お前はここでも治療院でも私や他のエルフを治療したはずだが?」

 

「一応、その度に許可は取ってました」

 

「そんなことをしていたのか? 融通が利かないというか……。では、質問を変えよう。あの状況で助けられて、肌に触れられたと怒るエルフが居ると思うか?」

 

「居るんじゃないですか?」

 

 明らかに分かっていない表情を浮かべるアクス。先ほどの治療の件もそうだが、変なところで律儀なやつだと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたリヴェリアは、例を出しながら説明しようとレフィーヤたちを見やる。

 

「お前たち。もし、そういったエルフが居たらどうする?」

 

「えっと、怒ります」

 

「ボコボコにするわね」

 

「モンスターの中に放り投げるかなー。せっかく助けたけど、仕方ないよねー」

 

「次は無視する。その後はいくら助けを求められても、それがその人の選択だから無視する」

 

 中々にヘビーだが、それが答えだ。ダンジョンというものは予測がつかない。そこで肌が触れられただの、自分の力の一端が嫌いだから出したくないだのといった『甘え』は必ず身を亡ぼす毒となる。

 ゆえにそうやって謝罪するのはレフィーヤに対しての侮辱だということを説明したリヴェリアは、まるで子供に謝らせるようにアクスをレフィーヤの前へと差し出した。

 

「助けてくれてありがとうございます」

 

「助かって良かったです」

 

 雨降って地固まるといったところだろうか。何やらレフィーヤの顔が赤い気がしたリヴェリアだが、フィンが呼んでいることを思い出して全員を彼の元まで誘導する。

 

「ところでアクス。そのエルフは肌の接触を嫌う知った理由を聞いて良いか?」

 

「エルフの人が言ってました。"婚姻の約束を結び、妖精の森で誓いを立てるその時まで手すら繋いではいけない"って」

 

「安心しろ。それは貞操と潔癖をはき違えてる頭でっかちの言葉だ」

 

「あー、良かった。酒場のウエイトレスをしてる人なんですが、大真面目で言ってきたから本当なんだと思ってました」

 

「選択する職業を間違えてるにもほどがあるだろう!?」

 

***

 

「皆も既に分かっているとは思うが、今回の遠征でそれほど回復系の物資は使っていない。それもこれも全てこのアクス……【小神父】(リトル・プリースト)のおかげだ」

 

『うおぉー!』

 

 主に物資の運搬や管理をしていた冒険者や前衛を張っていたの冒険者、そして負傷者の対応に四苦八苦していた治療師(ヒーラー)からの称賛の声が上がる。

 いうまでもなくこれはアクスの成果だ。戦闘中に負傷したタイミングで高等回復薬(ハイ・ポーション)以上の効果がある治癒魔法が行使されることのありがたさ。範囲治癒魔法による戦闘終了後における怪我人の治療にかかる時間の短縮化。そしてなにより、治癒魔法によって回復薬(ポーション)をこの階層まで全体の8割という十分な量を温存できたこと。

 少々、治療の際の態度が淡々としすぎている点や治療を拒んだ際の反応が苛烈な点は置いておくとして──。この分だと予定だった59階層の突破は確実であることからフィンの演説にも熱が入っていく。

 

 そんな彼らの今後の方針として、一旦【ディアンケヒト・ファミリア】から受けた冒険者依頼(クエスト)をこなしてから次の階層へのアタックを実施することにした。ここまでの成果で既にアクスの有用性が示されたからだろうか、あのベートすらも冒険者依頼(クエスト)における反対意見は出てこないことにフィンは多少驚きつつも、時間をあまりかけたくないのでそのまま少数精鋭での冒険者依頼(クエスト)を開始する。

 当然、そのパーティの中にはアクスは入っておらず、リヴェリアや他の団員と留守番することになった。

 

 留守番中はリヴェリアから次の階層からの重要事項の勉強や、【道化の侍者】(ロコライト)リーネ・アルシェなどの治療師(ヒーラー)兼サポータたちと治療する際の連携の確認といったことを行いながら冒険者依頼(クエスト)に出発したパーティを待っていたが、突然の地響きにリヴェリアの防衛指示が下される。

 

「前衛は均等に別れろ。どこから来るか分からないぞ! 射手(アーチャー)は射撃準備! 魔導士は固まって詠唱の準備に入れ!」

 

 指示を聞いた前衛が大盾を用いていつでも密集陣形が組めるように等間隔で備え、その後ろを弓をもった射手(アーチャー)、それらの中心で魔導士が待機。【ロキ・ファミリア】の中で1番対応性の高い布陣を整えたリヴェリアがLV.6という人間離れした感覚で震源を探っていると、猫人(キャットピープル)のアキをはじめとした亜人(デミ・ヒューマン)の冒険者が口々にフィンたちが降りて行った西端の壁にぽっかり空いた大穴を指差しながらリヴェリアに報告する。

 そこには見たこともない巨大な芋虫が次々と這い出して来ており、奴らは一心不乱に【ロキ・ファミリア】のキャンプへとなだれ込んできた。

 

「どうやらあまり知能が無いらしいな。間隔を広げて進行してくる方向に密集陣形!」

 

 一定の方向から来る芋虫を冷静に分析したリヴェリアは最低限の前衛を残し、他を全てその芋虫へと対処させる。安全階層でも絶対は有り得ない。そう思っての行動だったが、その判断は間違いだったとすぐに思い知らされた。

 

「ぎゃああああ!」

 

「なんだ!? 盾が溶けて……」

 

「馬鹿っ! さっさと捨てろ! 腕まで持っていかれてぇのか!」

 

 前衛から絶叫が響く。リヴェリアがその方向に視線を向けると、芋虫から吐き出された液体が掛かった冒険者の皮膚や盾が白煙を上げているのだ。

 腐食液。白煙を上げた盾の面積が無くなっていくことからすぐさま液体の正体を推測したリヴェリアだが、これ以上前衛を下げさせると本格的な撤退が不可能となる。

 魔導士たちは詠唱にまだまだ時間がかかるため、残された手は──。

 

「負傷した前衛は交代! 弓を持っている者は、数を減らせ!」

 

 深層でも耐えうる装備を溶かす未知の敵。もはやモンスターの横入りを心配出来るほどの余裕が無くなったリヴェリアは負傷した前衛を後退させ、他の箇所の警戒に当たっていた前衛をすべて投入する。矢を番えた射手(アーチャー)たちにも芋虫の数を減らすように指示すると、五月雨に打ち込まれた矢が何匹かの芋虫の表皮を貫き、そこから噴き出した体液に触れると……溶けた。

 

「嘘っ……」

 

「いや、でもダメージは与えてる! 何匹か落ちていくぞ!」

 

 白煙に塗れて姿を消した矢を信じられないという目で見た女性の肩を掴みながら男性が岩肌から転落する芋虫を指差す。決してダメージを与えられないわけではないと伝えたかった彼であったが、近くで魔法が炸裂したような音と共に舞い上がってくる飛沫に絶句した。

 今度は至る所から絶叫が聞こえる。地面へと叩きつけられた芋虫の体液がこの高さまで上がってきて冒険者たちに襲い掛かったのだ。

 

「畜生っ! 足がぁ」

 

「何も見えない……。なにがどうなってるの!」

 

「熱い! 口が熱い!」

 

 肌が焼けただれさせながら絶叫を上げる者も居れば、運悪く目の付近に当たって一瞬にして暗闇の世界へと迷い込んだ者も居る。

 拠点は瞬く間に混乱の渦に叩き込まれたが、そこに小さな影が動き回る──アクスだ。

 彼は特に目や口などの重要器官を抑えている冒険者にそれぞれ水を湿らせた布を宛がいながら、同じく治療に当たっていたリーネに声をかける

 

「リーネ様! 目とか鼻に液体が付着した人をあの大鍋の中の水を使って洗顔させてください!」

 

「え、でもあれってもう色々入って……「良いから早くしろ! 仲間の目と口が溶かされたいのか!」ひぃっ!」

 

 スープを拵えるため、既に具材が浮かんでいることをリーネが疑問の声を上げる。すると、いきなり彼は豹変して暴言すれすれの言葉を吐いた。

 その声が聞こえた全員が『完全に治療状態に入った』ことを察し、リーネ含めた治療師(ヒーラー)は次々とアクスの指示に従って負傷した冒険者たちの目や口を下ごしらえ中のスープで洗浄させる。

 

 このパルゥム。【ディアンケヒト・ファミリア】の団長であるアミッドを姉と慕っているからか、彼女の性格の一部をすっかり受け継いでいた。大人しく治療させるなら淡々とした言葉遣いだけで問題はないが、少しでも患者が口答えや治療の拒否をすると態度が一変するのだ。

 例を挙げると中階層で不注意で火傷を負った冒険者が治療を拒否した際は『火傷舐めんな! 下手すると腕が使い物にならなくなるぞ!』と脅し、さらに例を挙げると下層で多少の傷を負ったベートが『ツバ付けときゃ治る』と言って中々治療をさせなかった際は『なんで治療させてくれないんですか!』と槍を突きつけながら叫ぶなどなど。上げて行けばキリはないが、そんなことが何度も起こった。

 なお、その怒りようにベートが素直に治療を受け始めたのも地味にフィンがこの遠征に彼を連れてきて良かったと好印象を持っていたりする。

 

 そんなアミッドが乗り移ったかのようなアクスの対応により、重要器官に腐食液が掛かった冒険者たちはすっかり落ち着きを取り戻す。流石に目を負傷した冒険者は戦線に復帰させることは叶わないが、口元を濯いだ冒険者たちはポーションを飲み込んでから再び武器を取る。

 そうなると後は肌にかかった者たちの治療だ。アクスはリヴェリアに1言、2言伝えてから芋虫を押し留めている前衛まで近づき、手頃な冒険者の首に強制肩車を敢行する。

 

「わ、なんだ……ってアクス! なにやってんだ!」

 

「このまま治癒魔法をかけます。目や口に液体が掛からないよう気を付けながらその場に居てください」

 

「おうっ! 聞いたな、お前ら! 目や口をしっかり守れ! それ以外はアクスが何とかするってよ!」

 

 すっかり態度が元に戻ったアクスは魔法の準備に入る。目的は体力の回復と傷の治療。毒とか麻痺は無いので2節の文言を用いた詠唱を開始する。

 飛沫がそこら中に散らばって前衛にいたアクスの腕や太ももにかかるが、アクスは迷いなく魔法を発動させる。腐食液によって所々重度のやけどを負った状態になっていた冒険者の肌が緑の光に照らされたことで元に戻っていく。

 傷が治ったことに歓喜した前衛が再び圧力を強めるが、後続から放たれていた矢の本数が明らかに減っていることにアクスは気づいた。一旦前線から槍の反動による高速移動で戻ってきた彼は、指揮を執って居たリヴェリアに矢が前線に届いて来ないことを報告する。

 

「リヴェリア様、矢が届いていませんが」

 

「あぁ、矢が尽き掛けている。フィンを待つつもりだったが……、アクスたちの治療が間に合っている内に撤退する他ないか」

 

 矢が尽き、目や口の洗浄に使っている水が目減りしていく現状にリヴェリアは撤退を視野に入れる。フィンたちには悪いが、ここでキャンプが崩壊して全滅となるとどのみちフィンたちもここから帰ることが出来ない。

 ならば、戦える前衛や盾がまだある内にここを脱し、上層の安全階層で再度拠点を構築して迎えのパーティを出した方が生き残る可能性は高い。小を斬り捨て大を活かすために撤退を宣言しようとすると、突風がリヴェリアの肌を撫でた。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

「るぉらあぁぁ!」

 

 風を引き連れたアイズとベートが芋虫をなぎ倒しながら徐々に近づいてくる。帰還が間に合ったことに安堵したリヴェリアは第1級冒険者の集団が戻ってきたことで士気が上がったこの状況を見逃すわけにはいかないと体制の立て直しを図った。

 魔導士を詠唱の準備に入らせ、残る全てで防御する。当然出血は避けられないが、こちらにはアクスが居る。足元を見ると既に緑の輪が灯っており、それを見た彼女は内心で『手が早いな』と感心する。

 

「アクス、やれ!」

 

 リヴェリアの合図で反抗の光が瞬く。光が収まるとすっかり元気になった屈強な戦士たちがこぞって芋虫を抑え込み、魔導士が引き続き詠唱を続ける。後は魔導士の魔法による一斉攻撃で片が付くだろうとリヴェリアも詠唱に参加しようとすると、芋虫を蹴り潰しながらベートがやってきた。

 

「おい、リヴェリア(ババァ)! こいつ借りるぞ!」

 

「分かった」

 

「チリョ──────!」

 

 言うが早いかベートはアクスの首根っこを引っ掴み、またもや芋虫を潰しながら戻っていく。徐々に遠ざかって行くアクスが何かを言っているが、それを聞きとれる者は誰も居なかった。

 あのベートがアクスを欲したということはパーティの誰かが負傷したのかもしれない。決着は間近だが、未だ全体を把握できていないことに歯噛みしつつもリヴェリアは魔導士に混ざって詠唱を始めた。

 

 その一方でベートに引っ張られたアクスは森林地帯で降ろされる。

 

「チビ雑魚、負傷した馬鹿ゾネス共を見てやれ」

 

「わ、ベート。アクス連れて来たの!?」

 

「うっせーな。万能薬(エリクサー)がもったいねぇだろ」

 

 ぶっきらぼうに答えながらベートはアイズに混ざって芋虫を駆逐し始める。そんな状況でいきなり放り出されたアクスはというと──。

 

「ティオネ様、ラウル様。治癒しますね」

 

「えぇ、お願い」

 

「その様付け、やめてくれないっすかね?」

 

 肌を露出させてはいるが、もはや全身やけど塗れの酷い状態のティオネと負傷したラウルに魔法を行使する。レベルが高いティオネがここまでのダメージを負っているとなるとアクスの魔法1回では到底回復させることはできないが、数発連発すると彼女の肌はすっかり治癒されていた。

 

「うへ、うへへへ。待ってますぅ」

 

 そんなティオネはというと、回復中にフィンが無茶な行動をして敵を倒していた彼女を注意して『後で待っていろ』と説教の予約をしたところ、何かのスイッチが入ったらしい。しきりに体をくねらせていた。

 ただ、それは後でフィン自体がどうにかする話。ティオナが警戒から戻ってきたので治療を行いたいが、残念ながら今の状況で1発でも魔法を行使すれば再びお荷物確定となる。

 個人で所有していた精神力回復薬(マジック・ポーション)は既にフォモール戦で使い切ってしまっため、どうしようかと悩んだアクスはアミッドから渡された高等回復薬(ハイ・ポーション)の存在を思い出した。

 

「あの、もう魔法使えないんでどうぞ」

 

「結構使ったみたいだからねー。仕方ないよ……って、あれ? この高等回復薬(ハイ・ポーション)変な匂いしない? なんか鉄臭いような」

 

「火傷の痕が匂ってるだけじゃないですか?」

 

 受け取った高等回復薬(ハイ・ポーション)を早速患部にかけたティオナだったが、直後に鼻に纏わりつく違和感に眉を顰める。ただ、ラウルの言う通りのこともあるため、彼女は『気のせいかなぁ』と言いながら戦線へと復帰していった。

 やはり、第1級冒険者が揃うと火力が違う。瞬く間に後方を荒らしまくったことで芋虫の動きが緩慢になる。芋虫の動きが変わったことにリヴェリアは笑みを浮かべながら周囲の魔導士たちに合図を送り、その合図で魔導士たちは一斉に魔法を解放する。

 大地に突き刺さっていく魔法に芋虫たちの尽くが破裂し、その体液も別の魔法によって消し飛ばされる。こうして【ロキ・ファミリア】と新種のモンスターとのファーストコンタクトは終わりを告げた。




ラバナさん
 クノッソス第2次侵攻時に登場。自在に動く幻影を20人分出せる魔法が使えるお姉さん。(使い方考えればこの人もすごいこと出来るよね)

まずは誰も居ない夜の森で--
 貞操観念が化石レベルのいつもやり過ぎてしまうポンコツなお方。

変な匂いがしたようなポーション
 作った人の出汁(体の内部に流れてる赤い物)でも利いてるんじゃないですかね

蘇生効果の詠唱について
 コメントでも書かれておりましたので、ここでも解説
 以下は設定のため、実例を1つしか体験していないキャラたちは知り得ない情報
  ・生きている対象には不発
  ・アミッドの治療と同じく、骨や体の一部が損失している死体には無効
   (例:ナァザ × 片腕がグチャグチャになったけど復元できる状態のベル 〇)
  ・悪用例は以下の通り 多分他にも色々悪いことは思い浮かぶ人がいるとは思いますが、一例だけ
    ※闇バイトで冒険者を集め、実行後に殺害。→魔法で記憶を消す
    ※仲間が捕まり、ステイタスから所属ファミリアが知られかねない状況で殺害 → ファミリアについての証拠や記憶を隠滅する
    ※上記のケースの追加措置として再度殺害し、そのまま放置("一般人"に仕立て上げる)
    
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。