ちまちま書いてて遅くなりました。申し訳ありません。
朝というには未だ太陽が昇っていない時間帯。
「ホグェッ……!」
「うぅ……ん。あ、ごめんアクス」
今の状態を端的に言い表すとするならば、『決まり手:鯖折り』だろうか。薄紅色の髪をした女性──ヘイズ・ベルベットが寝ぼけた状態でアクスの腰に両腕を回し、そのまま強く圧迫。彼を強制的に2度寝させることに成功する。
しかし、彼女もこのままアクスを眠らせるわけにはいかないため、彼の頬を往復ビンタすることで無理矢理意識を戻す。
「ほーら、起きなさーい」
「へぶっ。ホベェ」
気の抜ける声と肉を叩く嫌な音が部屋中に満ちる。自分で寝かしつけておいて『起きろ』とはダブスタも甚だしいが、弟が姉に逆らえないのでどうしようもない。
やがて、頬を晴らしながらようやく起きた彼にヘイズは今度こそ優しく抱きしめた。
「おはよう、アクス」
「おはよう、お姉ちゃん」
傍目から見れば微笑ましい姉弟のやり取り。だが、彼女たちには血の繋がりは一切ない。
しかし、それがどうしたというのか。数年前──大抗争の時期に天涯孤独の身となった彼を哀れんだ美の女神が拾った時から既に
少々血生臭いが夕方ごろに頼みに行ったら文句を言いながらも快く教えてくれる
たまにこちらに尋常じゃない作業を振って来るものの、色々お菓子を分けてくれる侍女たち。
いつも目の下に隈を作りながらも『よく休めるから』とアクス争奪戦を行う時だけ元気なヘイズ含め
そしてかなりの頻度で脱走するものの、直前に『今から外に行きたい気分ー』とこちらをチラチラ見てくる主神に、地雷を踏めば命はないがそれ以外は割と寛容な幹部たち。
皆それぞれ癖が強すぎるきらいはあるものの、アクスは現状に満足していた。
「じゃあ着替えるから出て行ってね」
「面倒くさいからもう自分の部屋で寝たい」
「駄目よ。アクスは
今一度、姉と弟の関係について侍女頭をしているヘルンやヘイズの部下である
【フレイヤ・ファミリア】でのアクスの立場は少々複雑で、女神の寵愛を受け取るべく日々研鑽する
さらに言えばフレイヤの身の回りの世話や外出時の護衛をする従僕もこなし、ファミリアの運営などを行う文官のような立場でもある。
羅列すれば様々なことが出来て格好良さげに思えるが、本当のところは体の良い『便利屋』だ。それでも、ある意味では何の業務につかせても一定の成果を得られる稀有な存在である。
そんな彼の主な働き先は裏方。特に日々の業務がルナティックな
そんな働きによってフレイヤは『本当、便利ね』というお言葉を頂戴しており、その時に『
なお、女神から賜ったその役職を羨ましがった
話を戻そう。『栄光のファミリアクロス』という
「ロナお姉ちゃん、イルデお姉ちゃん、おはようございます」
「おはよう。今日は野菜の皮むきから入って。それが終わったらレシピの通りに調合して……ついでにスープストックも用意しておいてくれると助かるかな」
「はーい」
長身の女性エルフ──イルデに指示を出されたアクスはさっそくジャガイモやニンジンといった野菜の皮むきを行っていく。
アクスが【フレイヤ・ファミリア】に入って数年。下ごしらえの手裁きは今すぐ飲食店に行っても1線級に活躍できるほどの手際で、瞬く間に本日使用する分の野菜の皮を全て向き終えた彼は続けてスパイスやハーブといった薬草が入った棚へと近づく。横に貼られてあるハーバリストが制作したレシピの通りに薬草を吟味し、すり潰し、混ぜ合わせる。
後は舌触りを良くするために振るいにかけることで、滋養強壮や消化促進といった身体によい効能をもたらすスパイスミックスが完成した。
「おー、ベストタイミング。じゃあ、これもらっていくねー」
そんなことをしていると、そのスパイスミックスが入った瓶を取り上げたヘイズが『えいやー』と気の抜ける掛け声と共に猪肉へと塗していく。朝に肉を焼くのかと問うが、どうやらこれは夕方の仕込みらしい。
『ちょうど安くなっていたのよね~』とヘイズに教えてもらったものの、それでもここ最近の夕飯に猪の肉がよく出るのは気のせいだろうか。中々怖くて聞けなかったアクスであったが、ふと時計を見て次の予定が近づいていることを知る。
「そろそろフレイヤ様を起こす時間だから」
「いくらフレイヤ様の寝姿が麗しくても襲ったら、"これ"よ?」
「はいはい、ヘイズお姉ちゃん一筋ですよー」
万に一つもありはしないことで握り拳を作りながら揶揄ってくるヘイズにちょっとした意趣返しを行ったアクスは、フレイヤを起こす前準備として奥の部屋に行って作業をする。
フレイヤはとても気分屋である。
しかし、フレイヤの
「そういえば、昨日は暑かったかな」
おそらくはヘイズが抱き着いてきたことによる暑さだと思うが、それでも直感というものは侮り難い。アクスは念のためにと昨晩作っておいた水出しの紅茶を始めとした様々な紅茶とレモンなどのオプションを乗せたカートを押しながら部屋から出ていく。
すると、先ほどと同じ場所で突っ立っているヘイズが居たため、アクスは眉間にしわを寄せた。
「お姉ちゃん、仕事しなよ」
「ひ、ひひひ一筋ってなに!?」
朝は特に時間が無いためにアクスは珍しく怒ったが、周囲も周囲でなんだか姦しい。たかが
「僕の瞳にはお姉ちゃんしか映らない。アイズオンユー、そういうこと」
「……っ! ……っっ!」
(また変な神様から学習してきたわね)
(なんだろう、すっごくダサい)
やや冷たい視線を送っていた
正直、言っていることはまるっきり分からなかったが厨房付近から色々聞こえるので再起動は成ったらしいとアクスは内心喜びながらフレイヤの私室へと向かう。
「オッタルの小父さん、フレイヤ様は起きてらっしゃいますか?」
「あぁ、少し前にヘルンは行ったところだ。そろそろ終わる。それと小父さんは止めろ」
「でも、神様曰く三十路じゃん。ヘグニお兄ちゃんとヘディン様は見た目若いし」
歳のことを言われてぐぅの音も出ないオッタルを他所に、アクスは部屋の扉をノックする。
「フレイヤ様、お着換えの方はよろしいでしょうか?」
「えぇ、もう済んだわ。隣の小父さんにもそう伝えてくれる?」
嗤っている最中に喋った時特有のやや上擦った声で入室が許可される。隣を見るといつもの仏頂面をさらに険しくしたようなオッタルがちょっと居た堪れない雰囲気を醸し出しているが、気を取り直した彼は大人しく扉を開けてくれる。
中は上品かつ豪奢な寝室だが、そんなものは中心に居る美の象徴によって瞬く間に意識の外へ追いやられてしまう。そんな彼女は扉の音に振り替えると、アクスはカートから手を放してその場で膝を折った。
「おはようございます。フレイヤ様」
「おはよう、アクス。私には"お母さん"って言ってくれないの?」
「フレイヤ様はフレイヤ様なので」
「ヘルンやヘイズにはお姉ちゃん。オッタルには小父さん。アルフリッグたちにはお兄ちゃんと言ってるのに?」
蜂蜜のように甘い声色で投げかけてくる質問に、ヘディン仕込みの優雅な挨拶の体勢のままアクスは固まってしまう。この姿を見たら彼は『愚
困り果てた末にアクスは結局、『本日の紅茶は如何しましょう』となかったことにするのが関の山であった。
「……冷たい物を頂戴。ミルクと蜂蜜沢山で」
「畏まりました」
期待する答えを引き出せなかったことに剝れるフレイヤ。そのあまりにも麗しいと同時に愛らしい姿にヘルンとオッタルが心臓辺りを抑えるが、紅茶を準備することに神経を集中させているアクスは気付かない。
主の飲み物に心を砕いて準備するという
「あら、私の不満を無視するなんて悪い
「
「ごめんなさいか、お母さんか、ママか。好きなのを選ばせてあげるわ」
「ごめんなさい」
提案したのは自分ではあったが、母親呼びではなく謝罪言葉を口にするアクスにさらに機嫌が悪くなるフレイヤ。
結局、アイスティーを飲み干した彼女は退出を命じ、彼らもそれに従って出ていくが──。
「あ、フレイヤ様」
「あら、まだなにかあるのかしら?」
オッタルとヘルンが退出する最中、アクスは再びフレイヤに近づいた。未だ不機嫌な彼女はその感情を表に出しながら用を問いかけると、アクスがつま先立ちで背伸びをし始める。
必至にフレイヤの耳に口を近づけようとする姿に先ほどの不機嫌が多少マシになったのか、彼女はクスリと笑いながら『なぁに?』とまるで子供に問いかけるような口調で屈む。
「おはよう、
「っ!」
「それでは、フレイヤ様。後ほど、食事をヘルン様に運んでもらいますので」
ぱっと距離を離したアクスが100点満点の礼をしながら部屋を辞する。
そうして彼女が微動だにせずに数十分。ヘルンの手で食事が運び込まれたと同時に動きだしたフレイヤは、テーブルのセッティングを行っていたヘルンを呼んだ。
「どうなされましたか?」
「あの子、ズルいわよね」
「そうですね。最近はフレイヤ様に言い寄って来る神々の言葉を使い、よく私共の心をかき乱してきます」
少々トゲのある言い方をするヘルン。どうやらフレイヤが事あるごとにアクスを連れて出歩いた弊害らしい。
たしかにそこら辺の神から言われたフレーズだとフレイヤは思い出すが、
「あの子、将来は女泣かせになるわよ。女神の勘だけど」
「大丈夫です、その前にヘイズ辺りが確保するでしょう」
女神の勘は必定と同義なのではないか。ヘイズが確保するのは大丈夫の範疇に入るのだろうか。そんな意見が1柱と1人の間で交差する中、当の本人は次の仕事場にて絶賛仕事中であった。
***
ところ変わって
老若男女問わず様々な部分から血を出して倒れており、それらを
「アクスー、次はあっちお願いねー。もちろん、{妨害あり}だから」
「うへーい」
含みのある制限を付けたヘイズにアクスは嫌そうな顔で返事をするものの、覚悟を決めて彼女が指差した方向に走る。道中には未だ戦っている
「うおぉぉ!」
「なんのっ!」
まるっきり大人と子供。ゆえに勝負は火を見るよりも明らかだと思われたが、アクスは上段から振り下ろされた長剣をひらりと躱した後に剣を握っていた手をかなり強めに叩く。
ポキリと小気味良い音と共にヒューマンが絶叫しながら長剣を取り落とし、その長剣を今度はアクスが装備。小柄なので遠心力を用いた斬撃により、ヒューマンの太ももをスッパリと切り裂いた。
「ぎゃぁっ!」
「あとで治療に来ます」
倒れたヒューマンの横に剣を放り投げたアクスは先を急ぐが、さらに行く手を阻む
治療行為はその性質上、非常に妨害を受けやすい。それに純粋な戦闘職ではない
なので
「ふふっ、頑張れ。頑張れ」
「相変わらず無茶苦茶ですねぇ。……あ、槍折れた」
「次はハンマーを奪いましたね。うわぁ、数人吹き飛ばした」
次々と『あっちの方が強そう』とばかりに武器を奪っては倒し、奪っては倒しとまるで
彼のスキルである『
相手の力が弱まったところに強い力を打ち込み、相手が武器を取り落としたところで武器を奪う。そのまま奪った武器で戦うわけだが、ここで彼の2つ目のスキルである『
その効果は武器の習熟度の早熟。ステイタスは上がらないが、数年がかりで培った様々な武器の経験は全てアクスの中で息づいている。
今の彼はそこら辺で拾った少年心を擽るちょっと良い感じの枝でさえも、中層序盤のモンスターを屠るのに十分な聖剣となり得るのだ。
気が付けば道行く
彼がヘイズの下まで戻った後にはすっかり治療が終わり、再び戦闘を再開する
「グッボーイ、グッボーイ。よくやったわよ、アクス」
「あのー、ヘイズ様。アクスに槍を折られたんですが……あ、はい。すみません」
奪われた挙句に武器を破壊される未熟者の意見を一睨みで黙らせたヘイズはペットのような褒め方をするが、そんな彼女の後ろから4人のパルゥムとボアズの大男が姿を現す。
「ヘイズ、そろそろアクスを貸してくれ」
「今日こそこの脳筋を倒す」
「そのためにアクスがいる」
「ガリバー5兄弟の力を見せつけてやるんだ」
言い分はともかく、これも『日課』なのでヘイズはアクスを下ろすと
日課ということでこの時ばかりは戦闘を停止した
「おォォ!」
階層主のハウルのような叫びと共にウダイオスのドロップアイテムで作られた大剣を振り下ろすオッタル。しかし、その
ドヴァリンの槌とグレールの大剣がオッタルの大剣の軌道を逸らし、その隙にベーリングの斧がオッタルの首を狙うが最小限の動きで躱されてしまう。
そこにアルフリッグが槍を突き込むが、既に大剣から手を離したオッタルの拳が彼の顔面に突き刺さった。
これで1人脱落──かと思いきや、吹き飛ばされた先に居た
「ケーリュケイオン」
「よし、もう1度だ。今度はアクスも交えていくぞ!」
『おう!』
先ほどのダメージがすっかり無くなったアルフリッグの声に同調したベーリングたちが再び連携を再開する。ただ、先ほどと違うのは『アクスの存在』だ。
「アクス! 回復!」
「アクス、使えっ!」
息を整えるためにひと固まりになった瞬間に回復を挟み込み、たまに武器を渡されたアクスがオッタルに挑みかかる。言葉にすれば貢献度は低いような気がするが、使い手が変わると戦いのリズムが変わるためにオッタルは中々戦い辛そうにしていた。
回復とかく乱が何度も行われ、戦闘開始から優に十数分が経過しようとした頃。
「アクス!」
「はい!」
ドヴァリンから槌を託されたアクスが重量をものともせず担いでオッタルに突撃する。その蛮行にオッタルは真正面から大剣を構えて迎撃しようとするが、アクスの後ろからグレールとベーリングとアルフリッグが飛び出しながら自身の武器を威力が乗り切る前の大剣とぶつけることでなんとか相殺した。
大剣の振り下ろしを無効化した今こそ勝機とさらに速度を上げたアクスが
「オ、オォォォッ!」
ただ、こんな連携でやられるほど『オラリオ最強』は安くはない。雄叫びを上げたオッタルの全身の筋肉が隆起し、振りかぶった状態まで戻った大剣を
そのインチキ具合に『はぁっ!?』という驚きの声を上げるのも束の間。ステイタスの暴力を乗せた1撃によってヘルンからもらった短剣でオッタルの足元を切りつけようとしたアクスごとアルフリッグたちは彼方に吹き飛ばされてしまう。
「はーい、その辺りにしてくださーい」
「ふむ、やはりアクスが居ると厄介さが跳ね上がるな」
戦闘の終了を宣言するヘイズに重ねる形でオッタルが思わず感想を漏らす。当然だが、その心にもない言葉によってアルフリッグたちの怒髪天を突いた。
「なんだと、コラ」
「俺たちだと厄介じゃない言い方じゃないか」
「ぶち殺すぞ、ボアズ」
「いや、今から殺るか」
人の心はないのだろうか。いや、女神に奉ずるための武をひたすら磨きあげている求道者を相手に人の心を理解しろというのは無理な話だろう。回復を終え、すっかり殺しあう準備を整えたアルフリッグたちはオッタルと共に
おそらくは近づけば即座に粉微塵になる
「じゃあ、業務を続けますかね~。あ、ヘルン。もうアクス連れてって良いわよ」
「はい。行きますよ、アクス。結構色々山積みなんです」
「うぇ~」
再び洗礼を続ける
端的に言うと、ヘルンたち侍女が行っている書類関係がパンクしているらしい。ヘルンの小脇に抱えられつつ、アクスは遠くの方から聞こえる轟音をひたすら聞こえない振りをしていた。……あぁ、壁の修繕費が。
***
書類1枚。書類の束。書類の山。かなりの書類の中に侍女たちが死んだ魚の目で埋もれていた。
【フレイヤ・ファミリア】程の大所帯になると1日過ごすだけでもかなりの金が飛んでいく。それらを徹底的に管理し、運営し、間接的にファミリアを支える存在というのがヘルン率いる侍女たちの隠れた仕事なのだが、ぶっちゃけると
しかし、
周り回って主神であるフレイヤの悪評にも繋がるため、日夜こうしてヘルンたちが頑張っているが──。
「ヘルン様、こちらの決済お願いします」
「壁の修理費ですか……。うっ、また高くなってますね」
そろそろ建築系のファミリアに壁の修理を頼もうと、以前頼んだ時の帳面と現在価格を比べた予算案を見たヘルンは苦虫を噛み締める。建築系として結構名が売れているファミリアなので仕方ないものの、もう少しなんとかなったら嬉しいのだが、こういう時に限ってそのファミリアでの
しかし、今も続く轟音から見るに壁が限界を超えるのは近い。崩れたみすぼらしい外壁など美の女神の居城としてはふさわしくないため、どうするべきかと悩むヘルンに計算済の書類を量産していたアクスが手を挙げた。
「ヘルンお姉ちゃん。そのファミリアだったら深層の石材とかオブシディアンソルジャーの外殻を研究したいってこの前言ってたよ。
「いくらぐらい安くなるかしら?」
「んー、交渉次第だけど……。小父さんに頑張ってもらえばそれなりに集まるだろうし、4割安くするように頑張るよ」
「アクス、行ってきなさい。せめて3割引きはもぎ取ってくること」
いくら厳しい内容の
そう考えたヘルンの行動は早く、即座にアクスを件の建築系ファミリアに派遣。そこで深層産の石材とオブシディアンソルジャーのドロップアイテムを採集してくるという
「小父さん、これー」
「……分かった。フレイヤ様に許可をもらって 「もうもらっています、行ってきてください」」
有無を言わさずヘルンからそう言い渡されたオッタルは、いつもの荷物を持って出ていく。
心なしか背中が寂しそうだが、これで目下の懸念事項はすべて解消された。予想以上の成果にヘルンはご褒美として飴玉を進呈。アクスが喜ぶ姿を見て、『この子、LV.3なんですよね』と見た目とレベルのギャップに毎度ながら動揺を禁じえなかった。
なお、こういった交渉は他の【フレイヤ・ファミリア】の団員ならば十中八九門前払いされるが、アクスだけは別だ。『連絡役』として長年ギルドやその他の商業系ファミリアと積極的に関わっている彼だからこそ、『話が分かる唯一の【フレイヤ・ファミリア】』ということで評価されている。
さらにはオッタルの圧倒的武力によって成功は担保されていることを背景に、アクスもかなり強気に交渉に出れたりする。今回もそんな複数の要素が重なり、【フレイヤ・ファミリア】の財政をかなり助けることとなった。
……飴玉1個で。
***
そして夜中。湯浴みを済ませたアクスは本日もとある1室で酒を注いでは簡単なつまみと一緒に目の前の団員に出しては話を聞く簡単なお仕事をしていた。
「アグズゥゥ! わだしだって"頑張って"る"ん
「そうだね、頑張ってるね。えらいえらい」
「アクス。俺、
「ステイタスの伸びが怪しいとかですかね? なら、一旦裏方とかに移りますか?」
「頼めるか?」
冒険者の言葉にアクスは首を縦に振り、名前とアクスの視点で向いていそうな裏方作業の推薦を紙に認めて渡す。
後はこれをフレイヤに渡せば本人を呼んでステイタスと推薦から鑑みた最適な裏方作業をフレイヤ直々に勧められ、後は(一応)オッタルの承認を持って移動は完了する仕組みだ。
ヘイズもそうだが、
女神の寵愛を受けようと他者を蹴落とす関係に疲れた者や今回のように自身の力に限界を感じた者が裏方に回り、久方ぶりに血が騒いだ者や裏方作業で自身を見つめ直した者が
安易に所属を変える行為を『脆弱』と唾棄する輩も昔は居たが、いくら好きな環境でもいつまでも似たようなことをすると疲れてしまうというアクスの説明にフレイヤが納得してルールとして定めたことで考えを180度変えた。
ただ、それを提案した言い出しっぺであることから、アクスは愚痴や1人で抱え込む団員に酒を飲ませて少しでもファミリアの環境を良くする『お世話係』に任ぜられたりする。
ちなみに──。
「アクス、トマトが入ってるぞ。変えろ」
『変えろ!』
「ふ、ふふふ。漆黒の帳によって我が力を鎮めるために」
「ヘグニ、いい加減その口調は止めろ。愚
「あ、僕にもアルヴの浄水ちょうだい」
何故か幹部まで入り浸っているのだが、それは些細なことだろう。時折、どこかの女主人で見た店員のような存在も混ざっているように見えるのも気のせいだろう。
【フレイヤ・ファミリア】はちょっとしたことが機密扱いなので、迂闊に詮索すると命取りになる。この数年間でアクスが学んだことだ。
***
こうして
ここからめくるめく淫靡なことが行われるかと思いきや──。
「はい、では高速詠唱の特訓ね。10セット」
「死としゃいせ……。死と再生のしょうちゃう……。しほ……」
「本当、早口言葉が苦手ね」
意外っ! それは特訓であった。
相変わらず噛みっ噛みな様子で詠唱が覚束ないアクスにどうするべきかとヘイズは考える。
魔法と言えばヘディンだが、今の状態だと数分もしない内に黒焦げになりながら部屋を叩き出されるのがオチ。
次点でレミリヤなどの魔法を使う
ヘグニ──は、おそらく特訓そっちのけでアクスとの会話に夢中になるので論外。
ともすれば、自分が根気よく教えるしかなかった。下心は──ノーコメントとする。
「舌が回らないのよねー。……ちゅーする?」
「しなーい」
密かに会話の中に紛れこませた自身の願望を切り捨てられたヘイズは舌打ちする一方、アクスはアクスで高速詠唱の成果が出ないことに焦っていた。
練習を始めて数か月は経っているので中々伸びない自分の技量に焦っている。いくら【フレイヤ・ファミリア】に入って数年とはいえ、フレイヤから
仮にそれをヘイズの前で言ったらキレられ、フレイヤの前で言ったらガチめに説教され、オッタルの前で言ったら『力を見せろ』とボコられ……。
もっと簡潔に言えば幹部含めた古参の
つまるところ『不可能』である。
そんなこんなで結局は今日も高速詠唱は習得できなかったアクスをヘイズはベッドに引きずり込む。抱きしめると心地の良い体温が触れ合っている場所から彼女の全身を温め、ふわふわした感触と干し草のような香ばしい香りが眠気を誘う。
「お休みアクス」
「お休みお姉ちゃん」
そうしてベッドに入ってものの数十秒で眠りに落ちるという万年0点小学生も真っ青な眠り芸を見せた彼女の横でアクスも眠りにつくのだった。
アクス・フローレンス(フレイヤ・ファミリアの姿)
二つ名は
黒を基調とした燕尾服のような恰好をしている子供。
外部では〇〇様など物腰柔らかいが、家の中ではお兄ちゃんとお姉ちゃん呼びする。
なお、ヘディンには厳しくしつけられたために様呼び。アレンにお兄ちゃんと言ったら『止めろ』と言われたため、妥協案でふくだんちょー。
魔法はケーリュケイオン1つのみ。死者蘇生に関してはディアンケヒトと同じ思想でフレイヤが意図的に隠している。
スキルは作中にもあった2つに加えて憧憬のやつが1つ。
【魔力】アビリティに高補正
【耐久】アビリティに高補正
憧憬の強さにより効果上昇
対象:ヘイズ・ベルベット
なお、このスキルを見た時のヘイズは奇声を上げながら本音と建前が逆になるという珍現象が発動した。
【器用】アビリティに極補正
武器強奪成功率に極補正
知識は武器になることを教えてくれたファミリアのお姉さんの記憶が形になったスキル。武器を奪い取るだけという単純な効果だが、長い修練を経た今では極々たまにヘグニの持つ武器ですらも奪い取れるほどに成長した。
なお、その直後にぶっ倒れたもよう。
【器用】アビリティに極補正
武器の熟練度が早熟する
とある騎士の残滓。長い長い修練によってヘディンやヘグニのような一癖ある専用武器以外は1.5流ぐらいは使える。
ただ、元々の筋力はクソ雑魚ナメクジなのでオッタルから『振ってみろ』と大剣を渡された際に潰れた苦い経験がある。
オラリオ鎖鎌大会というトンチキな祭りでうっかりフレイヤがバラしたため、以降は武器の習熟度に対する大会からは出禁扱いとなった可哀想なスキル。
???:おじさんが最初に居た騎士団はね。下半身を地面に埋めてハシバミの枝と盾を持って攻撃を仕掛けてくる9人の騎士達を相手にしなきゃ入れなかったんだよ。時には相手の武器も奪わないとやってられなくてね。あれはきつかった。
それぞれの一言
フレイヤ:便利な子。だけど、あれは将来女泣かせになるわ。絶対。
オッタル:強くなれ。後、叔父さんは止めろ。
アレン:兄と呼ぶな。※面倒だからと基本、逃走中。
ヘディン:使い物になるパルゥム。エルフの伝承が知りたければ尋ねて来い。
ヘグニ:冒険譚や伝説などを目をキラキラさせながら聞いてくれる。良い子。
ガリバー兄弟:は? あいつは弟だが? ガリバー5兄弟なのだが?
ヘルン:大抵飴玉1個で色々解決してくれる便利な子。手が足りないから専属として譲って欲しい。
ヘイズ:に が さ な い。
ミア:たまーにシルが手伝いとして呼んで来るんだけどねぇ…。給料全然もらわずに居なくなるんだよ。
アーニャ:帰りにくいニャ。※逃げ出したことを契機に裏方への異動といった改善がされたため