ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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これにて毎日投稿は終了となります。1週間弱のお付き合い、ありがとうございました。

チマチマと書いては投稿になるかと思いますが、次は何時投稿は分かりません。
あくまで隔週の作品の息抜きなので。


8話:怪物祭

 怪物祭(モンスター・フィリア)。年に一回開かれる【ガネーシャ・ファミリア】主催の催しだ。

 東のメインストリートに存在する闘技場を一日使用し、ダンジョンから連れてきたモンスターの調教を行うことからダンジョンに縁もゆかりもない一般人がモンスターを見る絶好の機会となっている。そのことからオラリオ内外の一般人が殺到し、それが原因で大なり小なり怪我人が出るのだが──。

 

「はい。治療完了いたしました」

 

「ありがたい」

 

「転んで擦り傷ですか。回復薬(ポーション)を使用させていただきます」

 

「あぁ、頼む」

 

 とある宿屋に開設された臨時治療院には決して少なくない患者が長蛇の列を作っている。ほとんどはぶつかったり、転んだりといった軽い怪我であったが、中には喧嘩や暴力沙汰に巻き込まれたなどで酷い怪我や急病などで運び込まれるケースもあり、その度にアクスたちが必死で治療を行っていた。

 

 オラリオで1番有名なLV.2こと【戦場の聖女(デア・セイント)】と将来有望ランキング上位の【小神父(リトル・プリースト)】のコンビは中々にファンが多く、多くの男性や一部の女性がアミッドに集中。男性女性問わずやや拗れた趣味を持つ者がアクスへと集中するが、『治療中にそういった粉かけとかふざけてんの?』と言った具合でけんもほろろに断られてはまた粉を掛けられて……といった具合に少々治療行為が滞っていた。

 

 そんな臨時治療院を開始して数時間。治療した患者の数は両手の数を数倍ぐらいにした数を上回った段階できゅ~という可愛い悲鳴が部屋中に響く。

 

「団長。アクス君と休憩に行って来てください。後のことは我々で行いますから」

 

「ですが……」

 

「今のアクス君を街中に放り出す方が危険かと。下手すると2年ぐらい前みたいに帰って来ずに別の臨時治療院で保護されて、せっかく決めた編成に穴が開きますよ」

 

 まるっきり信用されていない発言に落ち込むアクスそっちのけで2年前の『迷子』を例に出しながら団員たちはアミッドを説得する。

 たしかに夜なべ作業をして編成したリストに穴が開くのは避けたい。そう思ったアミッドはこの場を団員たちに託すと、はぐれないようにアクスの手を握りながら街中へと繰り出した。

 

「早く食べれてお土産になりそうな物……ジャガ丸君にしましょうか」

 

「うん」

 

 パルゥムの歩幅に合わせつつも休憩時間は有限なため、やや早歩きでアミッドとアクスは油の香ばしい匂いがする1つの屋台の前に立つ。

 

「ジャガ丸君の塩味を1つ。後は持ち帰りでソース味と塩味を5つずつお願いします。アクスは?」

 

「小豆クリーム味1つ」

 

「あいよ」

 

 注文に応じたヒューマンの男性は持ち帰り用の紙箱にヒョイヒョイと茶褐色の楕円形の塊──ジャガ丸君を入れていく。合計10個。大人の男性であれば5人の腹は満たされるだろうそれをアミッドに手渡した男性は、紙ナプキンにアツアツのジャガ丸君を2つ入れ始める。

 そろそろ代金を……とアミッドが財布に手を付けるが、その前にアクスが屋台の横に回って数百ヴァリスを差し出していた。

 

「お、偉いな。【小神父】(リトル・プリースト)

 

「一応、稼いでるから!」

 

 大人であれば『ジャガ丸君十数個で何を……』と嘲笑の対象となるが、他者に奢るというのは子供にとってどんな英雄譚も霞む大偉業である。むふーと胸を張りながら言うアクスに男性は笑顔で『良い弟さんだね』と言いながらアミッドにジャガ丸君を2つ渡すが、それらを受け取った彼女の頬は少々赤い。

 

「まだまだ手がかかる子です」

 

「手厳しいねぇ。……っと、いけね。そろそろ仕事しねぇとカミさんにどやされる」

 

 話過ぎたことに慌てた男性が急いで追加のジャガ丸君を揚げだしたため、アミッドたちは屋台から少し離れたところでジャガ丸君を食べ始める。

 塩の利いた小さな肉の塊がアミッドの疲れた身体に染み渡り、やや空腹だった腹を満たしていく。そんな彼女がしばらく人通りを見ながら食べていると、下の方から視線を感じる。見るとアクスがアミッドの食べているジャガ丸君をロックオンしていた。

 

「……ちょっとだけですよ」

 

「うん!」

 

 意図を察したアミッドが中腰になると手に持った食べ掛けのジャガ丸君をアクスの口元へ近づけると、彼は小さく口を開けてジャガ丸君をパクリ。『美味しい』としばらく頬をもごもごさせるアクスの口元をアミッドがハンカチで拭ってあげると、今度はアクスの手にあるジャガ丸君が彼女の口元へ近づいた。

 

「こっちも」

 

「はいはい」

 

 微笑を浮かべながらアミッドはアクスの手に持ったジャガ丸君に齧りつく。クリームはさほど甘くなく、熱されたことでねっとりとした小豆の甘味が疲れた脳に癒しを与える。

 

「はー、尊い」

 

「てぇてぇ……」

 

「おぉ、アクスきゅんと【戦場の聖女】(デア・セイント)ではないか! ぜひともあの子たちの間に挟ま……な、なにをする! やめろぉぉ!」

 

 ただ、そんな無自覚天然なことをしていると嫌でも人目につく。一部過激派が人知れず神々の集団に『粛清(ギルティ)』されるが、彼らは周囲から向けられた視線に気付くことはなかった。

 だが、視線に気づくことはなくとも声をかけてきた場合は例外である。

 

「なー、アイズた~ん。あの子らみたいにもう1口。もう1口で良ぇから食べさせ合いっこ……ってアクスとアミッドかいな」

 

「あ、ロキ様だ」

 

「神ロキ。ご無沙汰しております」

 

 同じくジャガ丸君片手にロキとアイズが近づいてくる。2人に気付いたアミッドたちは頭を下げると、ロキは『えーからえーから』と手をヒラヒラさせながらもアクスの背中に背負った槍を見てニヤリと笑う。

 

「アクスは武装しとるんか。感心、感心」

 

「あの、意味が分からないのですが」

 

「アミッドも用心しとき。この祭り……"何か"あるで」

 

 天界きっての悪戯者(トリックスター)。そんなロキにしか分からない『勘』を告げられたアミッドは息を呑んだ。

 神ゆえに朧気な内容ではあるものの、その『何か』が起これば一般人は混乱の渦に叩き込まれるし、今の状態のまま怪我人が増えれば臨時治療院だけでは保たないとアミッドも治療師(ヒーラー)としての『勘』が告げている。

 

「その"何か"にアクスは必要でしょうか?」

 

「うちはそういった権能持ってへんからなぁ、そこは分からん。いるかも分からんし、いらへんかもしれん。せやけど、なにかあるっちゅーなら1番被害を被るのは後衛(しみん)やなくて、前衛(ぼうけんしゃ)やで」

 

 普段は糸目のロキが目を見広げながら嗤う。その目には何が見えているのかは神ではないアミッドでは知ることすら不可能だが、究極の選択を強いられていることだけは分かった。

 目を伏せること数秒。様々な要因を計算に入れた末にアミッドはアクスをロキに託す。彼もアミッドの指示を聞くと、何の疑いもなくロキの隣に立っていたアイズの側にちょこんと移動するとロキは『えぇんか?』と彼に確認をとる。

 

治療師(ヒーラー)としての勘はお姉ちゃんのほうが上手だから」

 

「まぁ、うちとしては何も無ければそれで良ぇけどな。んじゃ、何か起こるまでは闘技場で見物でもしよか」

 

『さーいえっさー。おーいえー』

 

「さては自分ら、仲良ぇな?」

 

 自分が教えたとはいえ、アイズとここまでタイミングぴったりで返事をしてくるとは思わなかったロキはツッコみを入れつつもアイズたちを伴って闘技場へと向かう。しばらく歩いていると闘技場の方向から歓声が上がり始めたため、近道で会場に向かおうと幾度も路地を曲がるロキたちの視界に走り回る【ガネーシャ・ファミリア】の団員が映った。

 

「なんや、物々しいな」

 

「街中であれだけ武装するなんて珍しいですね」

 

 街の憲兵を担っている【ガネーシャ・ファミリア】は俊敏アビリティが高い冒険者でも対応できるように基本的に軽装である。しかし、まるでこれからダンジョンに潜るかのような重装備かつ、隊伍を組んで広場から散っていく彼らにロキとアクスは首を傾げた。

 

「すみません、なにかあったんですか?」

 

「あ、アイズ・ヴァレンシュタイン!? ……いえ、失礼しました」

 

 無遠慮にアイズは近くで走り回っていたエイナに話しかける。いきなり1級冒険者に話しかけられたということで彼女は驚きはしたものの、すぐに平静を取り戻して【ガネーシャ・ファミリア】で捕獲していたモンスターが脱走したという旨とアイズに討伐の協力を要請してきた。

 

「んじゃあ、アイズはモンスターの討伐。アクスはギルドの職員と怪我人の対応。これでどないや?」

 

「分かった。行ってくる」

 

 言うが早いかアイズはその場から消える。高レベル冒険者の身体能力は既に人間やめていると思いつつも、アクスは近くを走っていたギルド職員に怪我人を一か所に纏めるように頼みこんだ。

 

***

 

「治療完了です。他に怪我人の方は?」

 

「はい、ご協力感謝します」

 

 一般市民、冒険者問わず一頻り範囲治癒魔法を行使したアクスはホルスターに詰めた精神力回復薬(マジック・ポーション)を飲みながらエイナに話しかける。途中、ティオネたちも事情を聞いて動いてくれたのが功を奏したのか特に後遺症が残るような重体者は居なかった。

 だが、それは今のところである。【ガネーシャ・ファミリア】の話だと逃げたモンスターは9匹。今まで8匹の発見と討伐完了が報告されているため、残りはたった1匹──なのだが。

 

「ダイダロス通りですか?」

 

「あぁ。そういうわけで迂闊にお前をあそこに行かせるわけにはいかない」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】の団長である【象神の杖】(アンクーシャ)シャクティ・ヴァルマが残ったモンスターがシルバーバックというモンスターで、現在はダイダロス通りという区画で発見報告があったことを説明してくれる。

 

 ただ、彼女は先手を打つかの如く申し訳なさそうにアクスにそこへの医療活動を却下した。

 一度迷い込んだら最後、二度と出てこられないとまで言われているこの区画は貧民層であるゆえにLV.2冒険者と言えどまだ子供のアクスと共に走り回るのは得策ではない。たしかに納得は出来る話だが、それだと無駄に被害が増えるのではないかとアクスが心配していると、唐突に魔法が暴発したかのような爆発音が轟いた。

 

「なんだ! 魔導士の不手際か!?」

 

「いえ、モンスターです!」

 

 爆発の原因を探るシャクティに近くの冒険者が原因と思われる場所を指差す。現在の場所からかなり遠い場所で蛇のような長大なモンスターがのたうっていた。

 

「シャクティ様、あれも捕まえたのでしょうか?」

 

「いや、知らない! なんだあれは」

 

 団長であるシャクティは当然ながらこの怪物祭(モンスター・フィリア)で捕獲する予定のモンスターの予定を数人と協議しながら組み、実際に頑丈な檻に捕らえていることを確認している。だが、あのような長大なモンスターは捕獲を指示したことも無ければ見たこともない。

 大体、あのような長大なモンスターを入れる檻すらもないと言いたかったが、まるで首筋に氷をくっつけられたかのような悪寒に口をつぐんだ。アクスも似たような感覚を味わっており、2人がそのまま棒立ちになっているとロキがアクスの名を呼んだ。

 

「アクス、あれはヤバいわ。アイズたちの支援に向かってくれんか?」

 

「承知しました」

 

 特に込み入った理由も聞かないまま、アクスは近場の家の屋根に登る。ギルド職員によってある程度の混乱は静まってはいるものの、やや人通りが多い路地を走るのは時間がかかるだけだと判断した彼は屋根から屋根に飛び移る形で現場まで急行すると、既に戦闘が始まっていた。

 ティオネやティオナが前衛として動き回りながらダメージを与えることで敵を固定し、その少し後ろでレフィーヤが詠唱している冒険者の基本陣形(セオリー)に安堵したのも束の間。突如としてレフィーヤの足元から女性の腕ほどある太さの触手が彼女の無防備な横っ腹を打ち据えるのが見えた。

 

 反動で宙に浮いたレフィーヤの身体が家の残骸に打ち付けられ、ピクリとも動かない様子にアクスは足に力を込める。既に彼女は戦える状態ではなく、相手は手心すら持っていないモンスターだ。次に奴がやろうとしていることなど分かりきっている。

 先端の蕾のような形状が割れて中から極彩色の花びらが咲いた時、アクスは咄嗟に手に持った槍を気合を入れた声と共に投げた。

 

「当あぁたれえぇ!」

 

 LV.2の腕力を持って投げられた槍は一直線にレフィーヤに近づいていくモンスターの横っ面に突き刺さる。文字通りの横やりにモンスターが首をもたげたのも束の間。風を引き連れてやってきたアイズのレイピアがモンスターの首を吹き飛ばした。

 

「アイズ様!」

 

「レフィーヤを早く」

 

 そう言い残して前線へ合流するアイズの指示に従ってアクスはレフィーヤへと駆け寄る。既に傍にはエイナが救助活動をしているのだが、非戦闘員が戦闘真っ只中に居るのは危ないとアクスは救助を引き継ぐ。

 

「このままだとカモですね」

 

 今すぐ魔法を使用したいが、前衛が抜かれて魔法を詠唱中だった後衛にまで攻撃が届いたことを危険視したアクスは魔法による治療をせずに物理的な治療へと切り替える。

 

「レフィーヤ様。失礼します」

 

「うっ……あがッ……あぁあ!」

 

 まずはわき腹の辺りを触診。軽く触っただけでも彼女は張り裂けんばかりに悲鳴を上げるが、アクスは淡々と診察を続けていく。

 吐血していることから内臓にもダメージが入っていることは明白。打ち据えられた部分は布地が破れ、元々は綺麗な肌だったのが痛々しげな色へとすっかり変わってしまっていることから内出血は確定。ならば──。

 

「レフィーヤ様。これを飲んでください」

 

 腰のホルダーから高等回復薬(ハイ・ポーション)を取り出したアクスはレフィーヤの頭を抱き起こし、口元に瓶を寄せて飲むように勧める。

 これで嚥下能力が落ちていた場合、今度はリヴェリアや他のエルフの前でも土下座しなければならない方法で無理やり飲ませるしかなかったが、レフィーヤは幾分か零しながらもなんとか飲んでくれる。

 

 次に普通に回復薬(ポーション)を脇腹にかけ、内出血の症状を幾分か抑えた後に回復薬(ポーション)を染み込ませたガーゼを患部に当ててから包帯をきつく巻くことでこれ以上の腫れを抑える。本音を言うと回復薬(ポーション)があるので血抜きをしてからこの処置を行いたかったが、この場でやるにはリスクが高いし不衛生。さらに女性的にもそういった傷が出来るかもしれない処置は毛嫌いされやすいという経験則でやめた。

 

 ただ、この場で処置できるのはここまでだ。ひとまずここから近い治療院でちゃんとした治療を施さねばならないと思案していたアクスの耳にレフィーヤのか細い声が聞こえる。

 

「ア……クス……く……」

 

「喋らないでください。この場を離れますって何やってんだ!」

 

 この騒ぎを聞きつけて【ガネーシャ・ファミリア】が駆けつけてくる。アイズたちがやや劣勢だが、数の暴力で押し切ればなんとかなると判断したアクスがレフィーヤを担ごうとすると、自発的に立ち上がってあろうことかモンスターと戦っている場に戻ろうとする彼女に思わず声が出た。

 明らかにフラフラで無理をしている状況ゆえに『自分の怪我を考えろ』といった具合にやや暴力的な言葉をぶつけるが、一向に彼女は折れない。

 

「アクス君、私は神ロキと契りを交わしたこのオラリオで最も強く、誇り高い偉大な眷属の一員です。大切な仲間(ファミリア)を置いて逃げ出すわけにはいかないんです!」

 

 思いの丈を叫びながら彼女は戦場へ舞い戻る。

 治療されても尚ふらつく足元を今一度強く踏みしめ、治療されても未だに鈍痛が止まない脇腹に活を入れる。痛みで涙が零れるが、彼女は今の自分では到底追いつくことも敵わない憧憬を見据え、歯を食いしばりながら再び歩を進めた。

 

「本当に話を聞かない人ですね。ですが、これが終わったらちゃんと治療は受けてもらいますからね」

 

 牛歩のごとく歩いていると、すぐ近くでアクスの声が聞こえる。斜め下を見ればいつのまか槍を回収していたアクスがレフィーヤの片手を自らの肩に乗せ、杖代わりとして彼女を先導していた。

 まるで聞かん坊の患者の要望をちょっとだけ聞くかの如く──実際にそうなのだが、窘めるような口調で折衷案を言ってくるアクスの優しさを察したレフィーヤは小さく笑いながら『分かってまーす』と冗談交じりで歩を進める。

 

「ウィーシェの名のもとに願う」

 

 やがて、射程圏内に入ったレフィーヤが詠唱を始め、その前でアクスが立ちはだかる。その魔力に反応したらしいモンスターが醜悪な花弁をレフィーヤに向けるが、その尽くがレフィーヤたちに到達する前にアイズ、ティオネ、ティオナに阻まれる。

 2節、3節と詠唱が続き、魔法名が紡がれても尚、謳うのを止めないレフィーヤ。山吹色から翡翠色に変わっていた魔法円(マジック・サークル)が眩い光を放ち始めるが、彼女の詠唱や戦いの音に混じって何かが割れる音を知覚したアクスは槍を手に身構えた。

 

 突如として地面を突き破ってくる3本の触手。その矛先は全てアクスの後ろのレフィーヤに向いており、詠唱に集中している彼女にそれらが直撃すれば今度こそ命はないだろう。

 

「んなろっ!」

 

 咄嗟に槍を手放したアクスの右手が1本目の触手を握って止め、2本目を足で力強く踏みつけることで固定し、3本目の進行先に左手を置いて先端を握りこむことで食い止めた。彼の眼前には3つの六花を模した魔法円(マジック・サークル)が現れ、その登場を合図にアイズたちは後方へ下がる。

 

 冷え込むような寒さを感じたアクスは固定した3本の触手により一層力を込めていると──。

 

「ウィン・フィンブルヴェトル」

 

 オラリオ最強の魔導士(リヴェリア)が持つ絶対零度の氷結魔法がレフィーヤの魔法によって召喚される。純白の光彩に囚われたモンスターの時間が止まり、辺りはすっかり静かになる……のも束の間。ティオネたちによる回し蹴りやロキがパチ……永遠に借りた剣を持ったアイズの剣戟によってモンスターの氷像を砕く音が辺りに響く。

 

 そして、本当に何もかもが終わったことを確認したアクスは全員を集めて治癒魔法を行使する。ボロボロになった服は治せないが、そこから覗く地肌の傷が全て塞がるのを手をワキワキさせながら見届けたロキは、真面目な顔で手を叩いてから注目を集めた。

 

「アクス、あんがとさん。テイオネとティオナは一応地下の方見といてんか? まだ何か居そうな気がするわ」

 

「そうね。流石にあんな大きなのは居ないと思うけど、小さいのが居ても面倒だものね」

 

「アイズはうちと残ったモンスターの討伐。たしか、シルバーバックって言うとったよな」

 

「うん、かなり危険だから早く倒さないと」

 

「んで、レフィーヤは……。もう搬送準備中やな」

 

「は、はいぃ……」

 

 ロキやアイズたちの視線の先にはレフィーヤを小さな背中に背負い、その上で落とさないよう包帯でしっかりと固定するアクスの姿。

 遠征ではたしかに肌を触れ合っても問題はないとは言ったが、これは流石に度を越しているのではないだろうか。今のなんとも情けない姿を客観視したレフィーヤは頬を少々赤くさせるが、すっかり許可を取っているものだと認識していたアクスは準備が完了するや否や彼女を連行する。

 

「なんだか、変なの」

 

「うわー、めっちゃ見られとるやん」

 

「アクスもアミッドと同じ感性なんだよねー」

 

「もしあんな姿を団長に見られたらと思うと……恐ろしすぎるわ」

 

 小さな子供に背負われるエルフの少女という話題性抜群の姿に神々をはじめとした民衆が興味津々な様子で彼らを見物しては口々に感想を言い合う。情けない姿を衆目に晒し続けるという恥辱に耐えきれず、『降ろしてくださいー!』といった彼女の悲痛な悲鳴が街路を駆けていく。

 そんな惨い仕打ちに、ロキたちはせめてもと合掌をしてからそれぞれ指示された場所へと急ぐのであった。

 

 なお、アミッドの居る臨時治療院へと運び込んだアクスだが、すっかり茹蛸状態のレフィーヤの姿を見たアミッドや団員たちによって『もっとマシな運び方は無かったのか』と怒られる。

 ただ、横抱きにするのもバランスが悪ければ肩に患者の腹を置く俵担ぎも負荷がかかるといった検証の果てに『アクスに至ってはこの運び方は致し方なし』となった。

 そんな検証を見ていた団員たちは、『アクスの前で動けないような怪我を負わない』という不文律をコソコソ協議していたらしい。

 

 こうして、アクスとしてはかなり忙しい怪物祭(モンスター・フィリア)は幕を閉じた。




ベルルート
 アミッドがついて行かなかった場合発生。
 案の定、道に迷ってヘスティアに保護される形でベルと共に行動。シルバーバックを足止めしようとするが、LV.2のヒーラー込みとかヌルゲー不可避ということでガリバー兄弟に『怪我人が居る』と嘘をつかれて時間稼ぎさせられる。
 なんか医療関係ねーなと思ったため、レフィーヤ治療という名目でソード・オラトリアルートへ
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