ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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さてさて、そろそろ1月が終わりになりますが皆様いかがお過ごしでしょうか。

1月は休職をしていたため、些か指が滑ったこともあってやや更新頻度は早かったですが2月からは復職するので更新頻度がガクンと減ります。

楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いします。


12話:兎の捕まえ方

 アクスが新たな魔法を発現させて数日が経った。その間のアクスはというと、朝には接客をし、昼からは往診や調合の補佐や入院患者の治療といった治療院内の業務をこなし、夜には見廻りの後に研修とかなり忙しく働いていた。

 

 しかし、そんな業務を続けていると、次第に慣れてくるのが人間の悲しい所。現にアクスには慣れによって2つのことが以前よりも出来るようになった。

 

 1つ目は魔法の取捨選択である。今まで患者が1人でも範囲治癒魔法で治療を行っていたため、効率が悪くてあまり連発は出来なかった。しかし、2つ目の魔法を手にしたによって様々な選択肢が増えた。

 特に覚えたての自動治癒魔法(オート・ヒール)は暇をしている入院患者や道端で転んで怪我をした一般人などの体力のある患者に対してはかなり便利で、骨が折れたぐらいの治療なら自動治癒魔法(オート・ヒール)をかけてやれば治療が完了するという破格の性能を持っているため、アクスは往診時に遭遇したなどの突発的な治療はこの魔法1本で対処している。

 

 ただ、病気がちであったり出血多量などで弱っている患者に対しては治癒魔法の方が色々出来るので便利なのもまた事実。状態異常や体力の回復も追加するとなれば、自動治癒魔法(オート・ヒール)では賄えないので治癒魔法に頼らざるを得ない。

 

 つまるところ、手札が増えた分だけアクスは治療内容の取捨選択する機会が圧倒的に増えた。その対策として夜中に開かれる講習会に『本日のアクス』という彼が本日行った治療内容を説明してもらって全員で評価を言い合う枠を抑えているのだが、これも今のところは上手く行っている。

 今日も【デメテル・ファミリア】が運営している巨大農場で鍬を自分の足に突き立てて大量出血した一般人に品質があまり高くない回復薬(ポーション)をかけて患部を塞いでから自動治癒魔法(オート・ヒール)で完全に治療するという報告に対し、アミッドたちからかなり好評を得ていた。

 

 2つ目は並行詠唱だ。あの地獄の特訓の果てに目が慣れたのか、LV.1の組手感覚ならば成功率8割ぐらいで魔法を行使することが出来た。

 そんな並行詠唱初心者からそろそろ抜け出せそうなアクスだが、ここで慢心してしまった。

 子供ゆえの虚栄心で『もう出来る』とサボろうとするが、それを良しと思わなかったアミッドたちは彼を教育するために修羅となった。

 

 まず、今のアクスの熟練度ではアミッド含めた2級冒険者たちの本気の攻撃を前に並行詠唱がまともに出来ないことを理解()からせる。そして、アクスよりも早くに並行詠唱に着手したおかげで熟練度が段違いの団員たちに『えー、アクス君おっくれてるー』と馬鹿にする。

 この2つだけでも十分だったのだが、念には念をというアミッドの指示であの手この手とアクスの鼻をベキベキに粉砕したのだ。

 

「ヴぁ"あ”ぁあ! お姉ちゃんごめ"んなざい"ぃ!」

 

「私たちが不手際をすると、大切な命が消えるかもしれないことを自覚して。だから、ちゃんと訓練してね」

 

「す"る”ぅ」

 

「ねぇ、アクス君の泣き顔を見てるとちょっとキュンときたんだけど。新しい扉開いたかも……」

 

「開けるな、閉じろ。そして永遠に封印しておけ」

 

 なお、その際に涙声でアミッドに抱き着きながら泣いている彼に加虐心が疼いたとんでもない団員が居たりするのだが、愛が暴走した結果なので大目に見て欲しい。

 

 楽に比べれば苦の比率が多かったそんな毎日。今日も今日とてアクスは治療院で働いていた。

 本日は腰痛に苦しむ地妖精(ノーム)のおじいさんと豊穣の女の主人からの頼みで塗り薬と『奴』の毒餌を作っていたところ、男性の団員が入ってきた。

 

「おー、アクスか。さっき、【【九魔姫】(ナイン・ヘル)】が北に歩いてったぞ。これで全員ダンジョンから出て来たんじゃないか?」

 

「じゃあ、明日にでも往診行きます」

 

「そうしとけ、お得意様とはいえ他派閥だからな。世話になってようが無かろうが、何かしてもらったら適当に贈り物でも買って渡すのが大人だぜ」

 

 そう言って男性は回復薬(ポーション)の材料をヒョイヒョイと持って席に座ると調合を始めた。アクスも調合に戻るが、頭の中では明日持って行く手土産のことがグルグル回っており、その答えが分からぬまま調合を終えた彼が向かった所は敬愛すべき姉──は仕事中なので除外。とりあえず、団員たちが休憩に使うスペースへ向かうのであった。

 

「ねぇ、ラバナさん。贈り物って何買えば良いの?」

 

「え、アクス君。贈り物ってもしかして……もしかするの!?」

 

「相手は誰なの! 街の子?」

 

「まさか団長とか!」

 

 女を3人で姦しいとはよく言ったものだ。贈り物という単語だけで早合点したラバナたちは騒ぎ出すが、すぐにお世話になった人への手土産の類と聞いて一気にテンションがダンジョンの下層レベルで落ち込む。

 だが、目の前の末っ子の悩みには答えねばならない。詳しく事情を聞くと、どうやら相手は1人ではなく【ロキ・ファミリア】という団体さんなので、さらにテンションが深層ぐらいまで沈んだ3人は回復薬(ポーション)詰め合わせという自社製品を提案する。

 

「ぽ、回復薬(ポーション)は冒険者なら使うから」

 

「そ、そうねー。オマケで高等回復薬(ハイ・ポーション)高等精神力回復薬(ハイ・マジックポーション)が1本ずつ入ってるから喜ばれると思うなー」

 

「団長に言えば割り引いてくれるかもしれないわよー」

 

 念願の答えを聞けたアクスが『あじゅじゅしたー』と早口で出ていくと、ラバナたちは揃ってため息をつく。

 期待していた異性のプレゼント選びかと思いきや、まさかファミリアへの手土産。選ぶ気力が一気に削がれてしまった彼女たちの心境は、『せっかくの期待を返して欲しい』一色であった。

 

***

 

 翌日、依頼にあった品物や他の配達を一手に引き受けたアクスは、早朝からオラリオの各地を回っていた。

 市壁の外側にある【デメテル・ファミリア】が運営している巨大農場には常備薬として一般人用の傷薬や冒険者用の回復薬(ポーション)を納品してから患者の経過観察を行い、豊穣の女主人では『奴』用の毒餌を配達。『出くわしたら怖い』という理由で設置する。

 そのままメインストリートから路地を曲がって地妖精(ノーム)のおじいさんが経営している質屋に塗り薬を配達し、【アポロン・ファミリア】の本拠(ホーム)にダフネ宛で強めの胃薬とカサンドラ宛で弱めの睡眠薬。【フレイヤ・ファミリア】には先日持っていけなかった手荒れや保湿などに効果がある軟膏と【猛者】用にアミッドが調合した胃薬と鎮静剤を配達した。

 

「そこのお嬢さん。ジャガ丸君はどうだ? 冒険前には腹ごしらえが肝要。空腹でそなたの美しい身体が損なわれるのは忍びない……どうだ?」

 

「い、いただきますぅ!」

 

「普通の営業ですね。あとヘスティア様の所より美味しいです」

 

「分かるか!? いやぁー、結構苦労したんだぞ。……ってそうじゃなかった。売り方について命がうるさくてなぁ。俺としては普通に売ってるだけなんだがな」

 

 タケミカヅチが店番をしている屋台でジャガ丸君休憩を挟んでから【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に赴き、ウォーシャドウに深手を負わせられた冒険者の経過観察と治療を終える。

 こうしてアクスはようやく最終目的地である黄昏の館へとたどり着く。広場の木陰に備えられたベンチで膝を抱えながら何やら落ち込んでいるアイズを不思議に思いつつも、ようやく帰ってきたフィンと対面した彼はリュックから回復薬(ポーション)の詰め合わせを渡す。

 アミッドが格安で売ってくれたために2つ分の詰め合わせを渡すと、フィンは『情報が早いね』と感心する。

 

「なにかあったんですか?」

 

「あれ、1つはアイズにじゃないのかい? さっき、ギルドにアイズのLV.6の申請を出して来たんだよ。貼りだされるまでもう少しかかると思ってたんだけど、もう貼られてたのかなと思ってね。違うのかい?」

 

「初耳です。あ、じゃあお祝いの品を……。え、でも」

 

 都市最強と言われるオッタルと1レベル差。まさしく第1級の上澄みと称される位置にアイズは立ったらしい。

 一応、団員たちの情操教育によりアクスは『そういった場合は祝いの品を送る』と記憶している。──が、既にフィンに2つも詰め合わせを渡している。

 手を右往左往させながら『あうあう』と碌な思考が出来ずに困っていると、フィンは笑いながら1つは祝いの品としてアイズに渡してくれることを確約してくれた。

 

「話は変わるけど、肝心な時に居なくてすまなかった。あと、ガレスから聞いたけどエルフの団員も失礼したね」

 

「いえ、大変勉強になりました」

 

 アクスはたまにおバカになるが、愚かではない。こういった場所では()()()()()は極力言わないのがお約束である。

 例え失言しても子供だからと笑って許してくれそうだが、それはそれとしてアクスたちは和やかに雑談へと移行する。本人の口から説明が聞きたいというフィンからの熱い要望で、アクスは再び自動治癒魔法(オート・ヒール)について分かったことを説明する。

 そうして話を聞くうちに目を輝かせながら実演を所望され、ナイフで軽く切った指を突き出してきたフィンに魔法を行使した。

 

「すごいな。無理しない範囲は30秒という話だったね。どのぐらいの傷が治るんだい?」

 

「1番深かった傷はLV.1の冒険者──装備からして新米ですね。外傷はウォーシャドウの指刃による脇腹の深い裂傷。出血がひどかったので自動治癒魔法(オート・ヒール)1回で傷を塞ぎ、体力増強として回復薬(ポーション)を1本服用させて応急処置を行いました。その後は僕の護衛込みですが、休憩を挟みながら自分の足で脱出できるぐらいまで回復。そこのファミリアの団長の要望で本日、治癒魔法による本格的な治療を施しました」

 

 具体的な治療行為の説明にフィンは目を閉じて聞き入っている。子供でありながらアクスの経過報告は分かりやすいこともあるが、なによりその回復能力がとても素晴らしいように思えたからだ。

 

 LV.1冒険者はピンからキリまで存在するが、総じて死亡率が高い。原因は多々あるが、大抵の原因は冒険をし過ぎた末に負ったダメージを回復しきれずに力尽きてしまうことである。

 サポーターが居ればまだましだが、それすら居ないソロの場合は念入りな事前準備が最低条件となるため、連日の探索による疲れでそれを怠った日がその冒険者の最期だった──なんてことは往々にある。

 事情を聞くにその冒険者も脇腹の裂傷を負い、自力で脱出できないぐらい体力を著しく消耗していたのだろう。そんな状態で息を吹き返し、あまつさえ戦えずとも自分の足で脱出できるまで回復させた功績は余りにも大きい。

 

 今はレベルの関係でこの程度かもしれない。だが、レフィーヤのようにレベルを上げる過程で魔力を伸ばしていけば、もしかすると本当に即死さえ免れることが出来ればやや時間をかけてでも死の淵から救い出せる。そんな夢物語のような存在になるかもしれない。フィンは自分の鼓動がやけに高鳴ったように感じた。

 

 すると、後ろの扉からリヴェリアが入ってくる。なんでも知り合いと偶然出会い、その知り合いを本拠(ホーム)に招待していろいろ情報交換をしていたらしい。

 

「さっきまで話声が聞こえていたが、誰かと話していたのではないのか?」

 

「あぁ、改めてアクスに魔法について教えてもらってね」

 

「肝心のアクスが見当たらないが?」

 

 周囲を見渡すが影も形もない存在にリヴェリアはフィンに問いかけると、代わりにガレスがついさっき自分の後ろへ隠れたアクスを引っ張り出してくる。まるで子猫が親に運ばれているような様に少々吹き出しかけた彼女であったが、アクスがしきりにリヴェリアと目を合わせないことが気になった。

 

 照れではない。僅かに見えた瞳に映っていたのは恐怖。何もした覚えがない彼女は思い切ってアクスに尋ねることにした。

 

「どうした? そんなに目を背けて」

 

「あー、リヴェリア。エルフの娘っ子たちの"あれ"じゃて……」

 

 これも代わりにガレスが答える。『あれ』だけで大方の事情を察したリヴェリアは、『あれか』と呟きながら手で顔を覆う。

 

 先日の苛烈な訓練の様子は当然リヴェリアの耳に入っていたが、最初こそ『私もレフィーヤによくしているぞ』と言っていた。

 ただ、アクスは【ロキ・ファミリア】ではなく【ディアンケヒト・ファミリア】。大雑把に分類すると制作系ファミリアであることから、例え魔法の性能を試す傍らで訓練をしたという約定があっても『打てば響くからついやり過ぎちゃった(テヘペロ)』という言い訳は通るわけがない。

 いくら往診で顔を合わせたり、魔法について教えたりと色々世話を焼いたが、少々身内感覚で判断しすぎだとロキに言われたばかりだ。──ママと言ったのは許さんが。

 

「本当にすまない、アクス。あの者たちにはきちんと説明し、しっかりと罰を与えた。だから……」

 

「リヴェリア様。怖い」

 

────────────

 

【リヴェリアさーん。魔法について教えてー】

──仕方ない。見てやろう。

 

【リヴェリアさーん。勉強教えてー】

──良いだろう。私は厳しいぞ? 

 

──ここは大事な部分だ。しっかり聞くように。

【頑張る!】

 

【リヴェリアさーん】

 

【リヴェリアさーん】

 

────────────

 

 いつもの口調なのに様付けに頭をハンマーで殴られた衝撃を受けたリヴァリアの頭には、今までの記憶が浮かんでは消えていく。

 やがて、全てを絶望したかのように膝から崩れ落ちた彼女は、頻りに『アクスが……』と連呼する。

 なお、アクスの言葉は厳密に言えば『リヴェリア様。(話しかけるとエルフの目が)怖い』と変換されるのだが、恐らくそれを言っても結果は変わらなかっただろう。

 

「アクス、もう許してあげてくれないかい?」

 

「僕としては実りはあったので、許す許さないも……。ただ、これからはちょっとリヴェリア様と距離を置いた方がエルフの人たちを刺激しないかなって」

 

 アクスによる無自覚な2撃目が彼女を襲う。しばらく動けそうにないほど打ちひしがれたリヴェリアを憐憫の目で見ていたフィンだが、部屋をノックされる音で我に返った。

 

「フィン、ちょっと話が。……リヴェリア、どうしたの?」

 

「なぁに、ちょっとアクスに拒絶されただけだわい」

 

「あぁ、リヴェリアも()()()()()んだね。フフッ」

 

 やや口角を上げながらリヴェリアを見るアイズ。その視線と再び少年に逃げられたことを笑った仕返しだということに彼女は気付くも、少々ショックから立ち直れなくなっていたリヴェリアは、アイズを『昔のお前よりもはるかにマシな存在だぞ』という思いを込めながら睨み付けた。

 

「アイズ、リヴェリアにも話を聞いて欲しいのならもう少し待ってもらえないかい?」

 

「うん。その間にアクスを借りて良い?」

 

「アクスを? 珍しい組み合わせだけど、どうしたんだい?」

 

 余り接点がない組み合わせに珍しいとフィンが言うと、アイズは小さく『兎の捕まえ方を勉強したい』と摩訶不思議なことを言って来たためにリヴェリア以外の全員が首を傾げた。

 

***

 

「──そういうわけだから、レフィーヤにも協力して欲しい」

 

「むしろ協力させてください!」

 

「このケーキ美味s……痛い痛い痛い!」

 

 アイズの横に座っていたレフィーヤが満面の笑みで答えるのも束の間。明らかに興味なさげにレフィーヤが置いてくれたケーキをパクついていたアクスの額に彼女が指を当てて高速連打。

 女性の身だしなみなのか、少々爪がとがっていたのでものすごく痛い。そして顔がものすごく怖い。ついついトラウマが蘇りそうになったが、レフィーヤのスパルタを()()()()の波動に親近感を持ったおかげで何とか踏みとどまることが出来た。

 

「まったく……。ところで、兎の捕まえ方ですがそれは狩りの話ですか?」

 

「違うよ?」

 

「アイズさん、それって中層とかに居るアルミラージじゃないの?」

 

「違うよ?」

 

「では、冒険者でしょうか?」

 

「そうだね」

 

「総合すると見た目が兎のような冒険者になるけど、それって本当に人間?」

 

「うん、ちゃんとヒューマン」

 

 まるで5段階の回答例を元に存在を言い当てるかのごとく、1問1答形式で事情を聞いていくアクスとレフィーヤ。2人の献身的な介護により、なんとか『謝罪しようにも逃げてしまう兎のような見た目の冒険者を捕まえたい』という当初の相談を引き出すことに成功する。──何故か2人共、やや疲労困憊気味なのはお察しだ。

 

「でも、アイズさんから逃げるなんて失礼な冒険者ですね」

 

「でも、レフィーヤさん。第1級冒険者が急に話しかけてきたら怖いと思うよ?」

 

「1級って例えばフィンとか?」

 

 既にアイズの為すこと全て肯定する機械となっているレフィーヤがアクスをジロリと睨む。しかし、その視線に気づかないままアクスはしばらく考え込むと、咄嗟に思い浮かんだ人物を順番に言っていく。

 

「えーっと。オッタルさん、アレンさん、ヘディンさん、ヘグニさん、アルフリッグさんたちかな。ヘイズ師匠は……2級だっけ」

 

「【フレイヤ・ファミリア】ばっかり」

 

「配達に行ったばかりだし」

 

 アイズが小声で物申してくるが、最後に配達に行ったのが【フレイヤ・ファミリア】なので記憶に残っていただけで他意は無い。そのことを弁解していると、目の前のレフィーヤが頻りに黙りつつも顔を青ざめさせたりと挙動不審なのが見て取れた。

『女の子には色々あるんだろう』と下手な藪を突こうとせず、アクスはどうやったら逃げられたのかを問いかける。

 

「ちなみにアイズさん、何をして逃げられたの? 流石にモンスターを横取りされて威圧とかはしてないと思うけど」

 

「そんなことはしてない。ただ、ダンジョンで倒れてたから膝枕をしてあげてただけ。後はこうして撫でてただけ」

 

「アイズさん、撫でないで」

 

「……ちょっと違う。あの子はもうちょっとモフモフしてた」

 

「ヤダこの人、話聞いてない」

 

「ちょっ! アクス君、何羨ま──ハッ!」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは美少女である。整った顔立ちとスタイルは道行く男女の視線を釘付けにするのに十分な威力を誇っている。そんな彼女の膝枕。あまつさえナデナデなど、いくらヴァリスを積んでも安すぎるぐらいにご褒美だと思っているレフィーヤは目の前で似たようなされているアクスと件の冒険者への怒りで瞬間湯沸かし器のように怒り出すが──。

 

 ここで先ほどのアクスの発言である別の1級冒険者を少々加えることで、まるで雷系統の魔法を打ち込まれたような電流がレフィーヤの脳内を影巡り、とある妄想を生み出した。

 

────────────

 

 ダンジョン内で力及ばず倒れてしまったレフィーヤ。このままではモンスターに嬲り殺しにされてしまう瀬戸際だが、そこに1人の冒険者が現れる。

 そのまま、何を思ったのかその影は座り込むと自らの膝にレフィーヤを乗せてその場でひたすら待った。

 

「うー……ん……」

 

「大丈夫か?」

 

 そして、ようやく意識が戻ったレフィーヤにその影は彼女の視界に顔を晒す。その声はぶっきらぼうだが、所々に優しさが見え隠れしていたため、夢見がちな少女である彼女は名前を聞こうとしっかり彼を見ると──。

 

 それは【猛者】オッタルその人であった。

 

────────────

 

「いや"ぁ"ぁぁあ!!」

 

「レフィーヤ?」

 

「やっぱり治療院に連れて行った方が良さそ……痛い」

 

「なんてもの想像させるんですか! おバカ! 唐変木! アクス君!」

 

 半狂乱になったレフィーヤが罵倒しながらアクスの頭を叩く。

 いきなりぶっ叩かれたことにアクスは不満を言うが、徹頭徹尾アクスが悪いと勝手に想像していた自分自身を棚に上げたレフィーヤは不貞腐れる。

 そんな中、話を仕切り直そうとアイズがションボリした様子で話し出した。

 

「じゃあ、どうしよう」

 

「無視しちゃえば良いんですよ、そんな失礼な人なんか!」

 

「アイズさん、その人の特徴って兎みたいな感じ以外になにかない?」

 

 唐竹割のようにスパンと切り捨てたレフィーヤとは別に、アクスは他に特徴がないかを聞く。『兎のような』とはいうが、かなり主観的な情報なのでいまいち特定が捗らない。

 否、約1名ほど該当する人物が思い当たる。当たって欲しくはないが仮に本人だった場合、再びダンジョンで無理をして倒れたということになるため、彼を説教をしなければならないからだ。

 

「うーん。髪が白くて、身長は私と同じぐらいかな……あ、目が赤かった」

 

「なんだか、アクス君が言ってたみたいにアルミラージが化けたような人ですね」

 

「本当にそんな感じ。どう?」

 

 アイズが縋るような瞳で見てくる。

 困った──説教確定だ。もしかしたら別人かもしれないが、アクスの中でベル・クラネルだという検索結果が中々消えないでいた。

 

「ベル・クラネル。ギルドでエイナ・チュールって人に聞けば分かるかもしれません」

 

「ベル・クラネル……」

 

 言い聞かせるように名前を口にするアイズ。何か因縁でもあるのだろうかとベルの方を心配するアクスだったが、とりあえずは名前を伝えたのでそのままお暇するために席を立つと、またしてもアイズが引き留めてきた。

 聞けば『膝枕について教えて欲しい』そうで、それを聞いたレフィーヤと一緒にアクスは真顔で正気を疑うような声を上げた。

 

***

 

「これが膝枕……リヴェリアが言うのも分かる。中々良い」

 

「アイズさん、おも……痛いっ!」

 

「アクス君、女性に重いは失礼です! それにアイズさんは林檎3つ分ぐらいの軽さなんです!」

 

 それはちょっと無理があるのではなかろうか。ただ、レフィーヤが鬼気迫る表情でアクスの方を見ているため、彼はそれ以上言及するのをやめた。

 アクスは現在、アイズを膝枕している。『実際にやられてみてどう思うか確認したい』と彼女は言っていたが、アイズよりも体の小さいアクスにとっては何かの拷問のようでしかなかった。

 さらに言えば怖い。主に横から注がれるレフィーヤの射殺さんばかりの視線と『アイズサン』しか言わない姿がたまらなく怖かった。

 

「レフィーヤさん、代わって。多分だけど、女の人にやってもらった方がベルさんの気持ちになれて良いかと思う」

 

「分かった。じゃあ、レフィーヤ。お願いできる?」

 

「良いんですかっ!」

 

 機嫌が一気に良くなるレフィーヤ。そのまま本当に幸せそうな顔を浮かべながらアイズの頭を自らの膝へ乗せ、その重みを堪能するかのように口から笑い声を零していた。

 ただ、アクスの目にはまるでロキがレフィーヤに乗り移ってアイズを膝枕しているかのように見えた。指摘しようか迷っていると、寝転んでいたアイズが上体を起こしてくる。

 

「ちょっと分かった気がする。そういえば、アクスは膝枕されたことある?」

 

「昔だけど、お姉ちゃんとかファミリアの人達にしてもらったかな」

 

「そう……。アミッドと違って私の膝枕がどうなのか、確認して欲しい」

 

 本当に何を言っているのだろうか、この人は。膝枕でオラリオ最強でも目指す気なのだろうか。

 そんな馬鹿げた話を思い浮かべていると、当然なようにレフィーヤのインターセプトが入った。なにか色々語られたが、要約すれば『アイズさんに膝枕してもらうなんて羨ましい。私がやるからそれで満足しろ』らしい。正座をしながら膝をポンポン叩くレフィーヤの表情からはとても優し気な雰囲気を感じなかった。

 それに、満足も何も既にケーキを食べさせてもらってアクスは大変満足している。ぶっちゃけると、もうそろそろ帰って昼寝して夜中に備えたい気持ちで一杯だった。

 

 ただ、アイズがLV.6になったお祝いに少しでも願いを叶えてあげようというという気持ちもあったためし、レフィーヤの許可も取ったのでアクスは自らの頭をレフィーヤの膝に乗せる。

 

「どう? アミッドと比べて」

 

 一心にアクスの方を見て感想を強請るアイズ。心地良いかと言われればちょっと良くない態勢で寝転んだため、骨の硬い感触が邪魔をして非常に寝辛い。

 ただ、これを正直に話すと酷いことになるぐらいは子供ながらにアクスも感じていた。

 

 なにか有耶無耶に出来ることはないだろうか。そう考えたアクスの頭の中に神の啓示──というか、神が言っていた言葉が思い浮かんだ。

 

『アクス、先手を奪うのだ。そうしたらなんだかんだ言ってナァーザも許してくれてな──ってナァーザ!? なに、少々回復薬(ポーション)の宣伝をな。それより、そのように怒ってはせっかくの綺麗な顔が台無し……腕が、腕がモゲるぅ!』

 

 これだ。ナァーザに腕が引きちぎられそうになりながらも、今日まで送還されていない医神の偉大な言葉だ。そうと決まればすぐに実行に移す。

 

「レフィーヤさんの髪は綺麗だね。風に流れる山吹色が景色によく映えてるよ」

 

「ふぇ!?」

 

「蒼い目も澄みきっていながらも深い湖のようだ。とても神秘的で吸い込まれそうだ」

 

 出るわ出るわ。歯に浮くようなセリフが次々と。

 ちなみにこれはミアハと回復薬(ポーション)配りをしていた時に聞いた語録から引用しているため、お子ちゃまかつ語彙力が『すごく……すごいですレベル』な彼が1から10まで考えたわけではないのはよく分かる。

 ただ、目の前のエルフには効いたようだ。

 

「私にはアイズさんが居まして~。うふふ、アクス君ったら年上をからかうんじゃありませんよぉ~。もう、困っちゃいますよ~えへへ~」

 

 顔をだらしなく弛緩させたレフィーヤがすっかり夢心地になっている。この分なら脱出して有耶無耶に出来るだろうと考えたアクスは身体を起こそうとするが──。

 

「んで、レフィーヤたんの膝枕はどないやったん?」

 

「あ、ちょっと位置取り間違えたから骨が硬くて寝づ 「ふんっ!!」ら”っ」

 

 ひょっこりと横から出てきたロキについつい正直に感想を言った瞬間。アクスの脳天にレフィーヤの頭突きが突き刺さった。

 いくら力のアビリティが伸びにくい魔導士のエルフでもLV.3という格上の攻撃を食らったアクスは無惨にレフィーヤの膝から大地へ転がり落ちる。それを見届けた彼女は『おバカ』とやや軽めに罵ると、大股で館へと戻って行った。

 

 その一部始終を見ていたロキはただ1言──。

 

「アホやなぁ」

 

 そう言って持ってきていたお高そうな酒瓶を持って座り直した。

 

「んで、なんであぁなったん? アクスのことやから、レフィーヤたん狙いっちゅーんはないと思うけど」

 

「僕、レフィーヤさんを倒そうとは思ってないよ?」

 

「あー、ピュアっ子はこれやから……。ほれ、さっさと話すんや」

 

 手をヒラヒラさせながらさっさと事情を話すよう促してきたロキに、アクスとアイズは今までのことを話す。

 最初こそ『ほうほう』と真面目に聞いていたロキであったが、次第に表情を崩し、心底何を考えているのか分からないような顔でアイズを見て、最後にはアクスへ同情の視線を投げかけた。

 

「真似しとるのがあいつらなのは一旦置いとこ。それよりもうちのアイズたんがすまんなぁ。この子、ずっとダンジョン続きやからそういったことには疎いからなぁ」

 

「じゃ、僕は帰ります」

 

「今度、アミッドにも膝枕について教えてもらいに行く」

 

 自動治癒魔法(オート・ヒール)で回復したアクスは空模様を見ながら帰ることを告げると、『ふんす』と鼻を鳴らしたアイズがまさかの来訪予定を伝えてくる。何がそこまで彼女の膝枕熱を燃やさせているのかはなはだ疑問であったが、ロキも『アイズの好きにし~』と手綱を放棄する。

 

「せや、償いたいっちゅーはなしやけどな。まだ名前聞ぃとらんわ。誰なん? その幸せ者の冒険者」

 

「多分ですが、ベル・クラネルですね」

 

「聞かん名前やなぁ。あー、エイナたんがまだ居ったらなぁ」

 

 見送りついでにロキがアクスに尋ねてくる。まだ確証ではないが、身体的特徴的に9分9厘はベルだろうと伝えるが、残念なことに【ヘスティア・ファミリア】は最近出来たばかりの彼1人が団員の零細ファミリアである。なので、彼女が聞いたことが無いのは無理もない話であった。

 

 少なくともファミリアも知りたそうにしていたので、アクスは出て行きがてら先日のことを伝える。

 

「あ、主神はヘスティア様ですよ。ヘファイストス様に会わされました」

 

「あんのどチビの所かいなぁ!」

 

 何やら神々の方でも因縁があるらしい。ファミリアの名前を聞いたロキのかいなぁー。かいなぁー。かいなぁー。といった木霊が黄昏の館の外まで響いた。




素人の膝枕なんて硬くて寝れたもんじゃないっすよ。ハハハ(ジュッ

オートヒール
 もはやすっかり便利となった魔法。
 SやSSとか言う化け物を除けば、LV.1程度の耐久アビリティならば応急処置として無双できる。ただ、体力の回復は出来ないのでポーションといった補助が必要。

並行詠唱
 年上に分からされ、数名の性癖がねじれ狂うという多大な犠牲を経たが、上層では使える程度まで進化。
 リヴェリア様(が絡むとエルフが)こわい。


 黒い奴。豊穣の女主人の地下にボスが居るとかなんとか。(クロニクル調べ)

女が3人寄れば姦しい
 Q:アクス・フローレンス氏をどう思いますか?
 A:ガッカリだよ!

リヴェリア様
 アイズと違って勉強熱心で懐いてくれる子供に拒絶されたせいでしばらく動けなかった。

膝枕
 レフィーヤ:甘いささやきが無ければ何も問題なかった。むしろ年下の友達としか見られていない。
 アイズ:膝枕は奥が深い。
 アクス:早く帰りたい。エルフは線が細いから骨が後頭部をゴリッとして寝辛い。60点。

甘い囁き
 全部、タカミカヅチとミアハが悪い。以上
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