ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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今、抱えてる作品の1つのモチベががが
なので、こっちに逃げてきました。(2日の投稿はお休みします)


14話:パシリ

 リリルカ・アーデの件から1日が過ぎた。相も変わらず治療院は平常運転──とはいかなかった。

 治療院の奥まった場所にある治療室では、アミッドをはじめとした腕利きの治療師(ヒーラー)たちがとある狼人(ウェアウルフ)の治療を行っていた。

 

「団長! 上半身の傷口、消毒完了しました!」

 

「ギプスを施します。暴れないように足と腕を数人がかりで抑えてください。足は鎖を巻き込む形で完全に固定を!」

 

 上半身に所狭しと刻まれた生傷にアルコールを塗布が完了すると、アミッドの指示で中層で産出されたアダマンタイト製の鎖を装備した男性陣が狼人(ウェアウルフ)の四肢を数人がかりで拘束する。砕けた足を抑え込まれたことで呻き声を上げながら抵抗する狼人(ウェアウルフ)であったが、痛みを伴っているにもかかわらず自制しているのか圧倒的にレベル差があるのに拘束は完了する。

 

「アクス、魔法を!時間は30秒!」

 

治療せよ(アスクラピア)

 

 拘束した鎖ごとギプスを施したアミッドの指示でアクスは自動治癒魔法(オート・ヒール)を行う。30秒と僅かな時間だが、全身の生傷は立ちどころに治っていく。

 予め固定していたおかげか緩やかにではあったが、立ち上がることが出来た狼人(ウェアウルフ)──ベートは、足を引き摺りながらも団員たちの介助をうっとおし気に押しのけるという相変わらずのぶっきらぼうな態度でアミッドが告げた番号のベッドまで行ってしまった。

 

「後は夕方に治療を行ってから経過観察ですね。皆さんは業務へ復帰してください。アクスは黄昏の館へ緊急の往診をお願いします」

 

「分かりました」

 

 詳細は伏せられたが、ベートの話ではアイテムを満足に持たないまま強行軍でダンジョンに潜ったらしい。

 また、レフィーヤとアイズも同様に傷を負っているとのことで、緊急の往診を指示されたアクスは様々な医薬品をリュックに詰め込んでから治療院を出ていく。

 ベートが片足が砕けた状態にも拘わらずに自力でやってきたのが朝早くだったため、ダンジョンに向かう冒険者の間を縫いながらも黄昏の館へ着いたアクスはアイズたちの様子を聞きながら門番をしていたクルスの案内で館の中へと入っていく。

 

 やがてロキが居るという部屋の前までたどり着いたアクスたちであったが、壁に隠れた状態のレフィーヤを見つけたクルスが声をかけた。

 

「レフィーヤ、何やってんだ。……すまんが、見なかったことにして良いか?」

 

「あ、クルスさん。なんですか、いきなり。私は今回の罰則でメイド服を着たアイズさんを観察するのに……」

 

「鏡で見てみろ」

 

 クルスがそう言って鏡を指差す。指に釣られたレフィーヤが鏡を見ると、そこには目尻や口元をだらしなく緩めている彼女の人にお見せ出来ない表情があった。慌てて取り繕うがもう遅く、早々に無視したクルスがロキにアクスの来訪を告げる。

 すると、何故かメイド服を着て奉仕活動をしていたアイズからアクスへと向き直ったロキが軽く手を挙げて彼を出迎えた。またぞろロキの思い付きだろうと思ったアクスは治療院に転がり込んできたベートの調子をロキに聞かれたため、現在の経過を報告する。

 

「ベート様は足を引き摺りながらも自力でベッドに行けるまでは回復しました。あとは団長が夕方に治癒魔法をかける予定ですので、明日からは経過観察となります」

 

「なんや、ぱっと治したらんかったんかいな」

 

「変にくっつくことを恐れて2度に分けて治療する手法を取りました」

 

 治癒魔法は怪我の治癒を促進する効果があるだけで時間を逆行させるものではない。なので、破片が変なところにくっついて余計に症状が悪くなることも極々だがあり得る。

 その為に1度固めてから回復を賭けるという手段を取ったが、それでも事故は起こるもの。確実性を取ればアミッドの魔法を用いて『何度も壊しながら作り直す』という荒業しかないが、それは想像を絶する痛みということなのですべて手を尽くした後の最終手段である。

 

 そのことを話すとその場で話を聞いていたロキをはじめとした面々がどん引いていた。

 

「ま、まぁベートは良ぇわ。とりあえずアイズたんとレフィーヤたんの診察頼むわ」

 

「分かりました。でしたら、リーネ様に身体全体を見てもらうという形を取らせていただきます」

 

 時間的に言えばこのままアクスが診断して傷の有無を確認した方が面倒が無くて済む。治療行為に及ぶだけなのになぜそんなに七面倒くさいことを考えねばならないのかとそう思うが、後ろに居るアイズ大好きエルフことレフィーヤの存在もあるので子供ながらにアクスは空気を呼んだ。

 

 だが、ここにアクス以上に空気の読めない存在が居た。

 

「なんや、アクスのことやからこのまま診察すると思ってこの部屋に居ったんやけど」

 

「リーネ様を呼ぶ時間ももったいないですし、僕が診ても良かったんですがね」

 

 アクスが静かに後ろを指差すと、そこには既に魔法の詠唱に入ろうとするレフィーヤの姿があった。隣でクルスが止めていたおかげで何とかなっているが、ここで『医療行為に何言ってるんですか』と笑うと忽ち高速詠唱が行使されるだろう。

 

「レフィーヤ、治療中のアクスがそない変なことをする余裕あるわけないやろ。それよりもこう……アクスを男として意識したレフィーヤたんがなぁ──」

 

「というわけで、リーネ様呼んできます」

 

「待て、アクス! 俺をこんな所に置いていくな!」

 

 嫌な予感がしたアクスが傍を離れ、それを追いかけるクルスという名の安全装置。既に詠唱という撃鉄は降ろされかけており、後は──引き金を引くのみであった。

 

***

 

「うぅ……、痛いですぅ……。気持ち悪いですぅ……」

 

精神疲弊(マインドダウン)寸前で帰って来たのに魔法を行使するからですよ。傷の方は自動治癒魔法(オート・ヒール)でなんとかなるので、治してしまいましょう」

 

 黄昏の館の一画が少々焼け焦げた後、痛む頭を押さえたレフィーヤがアクスに治療されていた。症状はリヴェリアからの拳骨を除けば精神力が完全に枯渇する直前特有の倦怠感と頭痛、吐き気諸々とそのまま休んでいれば何とかなるので、『お大事にー』とリュックを背負い直していると傍に居たアイズが声をかけてきた。

 

「そういえば、詰め合わせありがとう。助かった」

 

「話に出ていた24階層とかで使用したんですか?」

 

「うん、レフィーヤが別の人に使って一命をとりとめたみたい」

 

 聞けば回復薬(ポーション)の詰め合わせはアイズを追いかける際にレフィーヤが持って行ったらしく、24階層で詠唱中に身を挺してレフィーヤを庇った壁役の女性に精神力回復薬(マジック・ポーション)を除いて全て使用したのだとか。

 そこまで話されてようやくアクスはベートが治療院に来る前──深夜にアスフィたちがエリリーという筋肉質な女性を運びこんできたことを思い出した。

 背中から何かに刺し貫かれたからか、内臓がかなり酷い有様ではあったものの投薬による気付けとアミッドの治癒魔法で今は峠を越えている。今頃は退院してアスフィたちが【ヘルメス・ファミリア】のホームへ連れて帰っているはずだ。

 

 しかし、それがアイズたちの言う別の人かは分からないため、言及を伏せたアクスは『良かったですね』と言いながらレフィーヤの症状をメモに書きこむ。この分だと精神力回復薬(マジック・ポーション)に頼らずとも、時間経過で普通に治るだろうことを記載する。

 

 ただ、問題はレフィーヤの次──アイズだ。

 

「表面上は大丈夫ですが、無意識に庇ってる立ち方ですね」

 

「どこも痛くないよ?」

 

 見た目はたしかに傷1つ無い綺麗な身体。服の下も目立った傷が無いことはリーネから報告済みだ。

 しかし、無理やり動かしたりと色々無茶をしたのだろう。立ち方が少々傷を庇っている風に思えた。アクスの見立てに対してアイズは痛む箇所が無いことを伝えるが、痛みというのは既にその部位が危険なことを表す信号である。

 本来は痛む前に治療をした方が肉体的に優しい行為であることを伝えると、体力の回復を兼ねた治癒魔法を行使する。

 

「温かい」

 

「高レベル冒険者の老いは緩やかと聞きますが、肉体の構造は一般人と変わらないんですからね。とりあえず、手足のマッサージでもしときましょうか?」

 

 まだまだ若いアイズには気休めレベルかもしれないが、とりあえずとしてアクスはマッサージによる施術を提案する。

 治療院では服薬から魔法まで様々な治療方法が日夜訓練されており、患者によって適宜手を変え品を変えて施術している。その中には極東で脈々と受け継がれているお灸や鍼、マッサージなども存在し、お年寄りから身体にちょっとガタが来始めたた冒険者まで数多くの患者がそれを受けては身体の調子も元に戻していた。

 

 しかし、肉体的な接触なので同意は取らなければならない。さらにエルフが来た場合に関しては厳重かつ数枚にも及ぶ同意書が必要となる。

 その理由は……、『マッサージ』という言葉を聞いてアクスを睨み付けているレフィーヤを見れば一目瞭然だろう。

 

「ムァッサァジィ? アイズさんにぃ!?」

 

 アイズが好きで好きでたまらないレフィーヤにとってアクスの提案は火の中に油樽を放り込むぐらいの提案だった。エルフ特有の面倒臭さを前面に押し出した巻き舌で彼を威嚇するが、それに待ったをかけたのはアイズである。

 

「気休めでも回復できるなら試して」

 

「承知しました」

 

「ちょっ、アイズさん!」

 

「レフィーヤ。これは私の問題だから」

 

 『私の問題』という言葉が頭に降り注いだレフィーヤが何も言えずに固まる中、湯を用意したアクスが施術を開始する。

 

 まずはふくらはぎ。座った状態で片足を胡坐をかくようにし、湯に浸した温かい布を被せてから真横から見たふくらはぎの部分のちょうど真ん中に親指を突っ込んで揺する。筋肉がガチガチに凝ると緊張状態から戻らずに固まってしまうことがあるので、まずはよく動かす部分を刺激して元に戻すことが大事なのだ。

 

「お湯に良い香りのする液体を入れているので、じんわり温めながら進めていきましょうか」

 

「気持ちいい」

 

 ふくらはぎの内側や外側と揉んで行ったら、次は足裏だ。タケミカヅチとは別の極東の神曰く、足の裏は人間の体調がよく分かる部位らしい。ツボと呼ばれるものを押せばどの部分が疲労しているのかがよく分かるのだとか。

 ただ、アクスはそれら全てを把握していない。なので、足を湯で温めた後にアイズに足の指を曲げさせ、1番深く凹んだ部分を両手の親指で広げるように揉み解してやる。

 

「痛かったら言ってください」

 

「痛いけど……気持ちいい? 変な感じ」

 

「では、このまま続けていきます」

 

 両足のケアが終わった後、アクスはレフィーヤの許可を取ってから彼女のベッドにアイズを寝かせる。腕の付け根──肩甲骨と呼ばれる部分の筋肉を揉み解し、両方のコメカミ部分を指圧して目の疲労を取っていく。

 その度にアイズの物とは思えない緩みきった声がレフィーヤの耳に届く。初めて聞いた吐息交じりの艶やかな声に彼女の妄想が天元突破したのは、彼女の名誉のために黙っておこう。

 

 やがて、全てを合わせて30分ぐらいの施術が終わる。ベッドから一気に起き上がったアイズは、いつもの剣を構えるような態勢を取って幾度か腕を高速で動かす。

 アクスの目には2~3ほどしか見えなかったが、レフィーヤの目には少なくとも10回以上動かしていたらしい。

 

「いつもより振りやすい。足も軽い」

 

「お気に召してもらったようでなによりです。僕の技術はまだまだなので、本当に揉み解しがしたいのであればご自身で極東ファミリアの施術院を探すか、治療院までどうぞ。予約を取っていただければ案内出来ます」

 

 マッサージは1人当たりの拘束時間が長く、治療院では完全予約制をとっている。たまに近所の爺ちゃん婆ちゃんが茶飲み感覚で予約を入れるため、タイミングが悪ければ予定と合わないことも十分にあり得る。

 その場合はギルドに行けばそういった専門的にやってくれる安心安全なファミリアを紹介してくれるので、そこら辺は変に身構えなくても良いことを伝えていると、なにやらレフィーヤが手を挙げてくる。

 

「あ、あの! アクス君! わ、私にも……その……」

 

「あ、申し訳ありません。レフィーヤ様はエルフなので、同意書が軽く5枚ぐらい必要なのですが……」

 

「ど、どうしてですか! 偏見ですか!? エルフ差別ですか!」

 

 レフィーヤが不満たらたらに叫ぶが、アクスは思わず『それだよ』と言いそうになった口をグッと閉じる。誰か褒めて欲しい。

 ただでさえエルフは強い奴と一緒になれればオールオッケーなアマゾネスとは違う意味で面倒臭い。遠征の際にリヴェリアがアクスにある程度の接触は別に構わないという訓示を授けたが、それでも何かあれば即座に訴えを起こす可能性を加味すると、【ディアンケヒト・ファミリア】に所属する全エルフの団員が主導でこさえた契約書をもってしても足りない。

 とりあえず、往診用のリュックの隅でクシャクシャになっていたエルフの始祖と暮らしていた森やそこに生える聖樹。後は両親と自分自身に誓って触られたことを深く追求しないという誓約書を書かせたアクスは、レフィーヤをベッドに寝かせる。

 

「アイズさぁん……うへへへぇ」

 

「それでは、始めます」

 

「手袋もするの?」

 

 すっかり危ない方向へ突っ走るレフィーヤを極力見ないようにしながらアクスは手袋をつける。かなりの念の入れようにアイズは不思議に思うが、これはとある酒場の──アクスにエルフが手を握るためには云々という化石のような考え方を教え込んだエルフが同僚の看病用に考えた完全防護策らしい。

 【ディアンケヒト・ファミリア】に所属する全エルフの団員もこれには目が鱗。『そいつ、どんだけ他人を触りたくないんだ』と拗らせ具合に心配しつつも、マニュアルを作ったのをアクスは忘れていない。

 

 そんなこんなでアイズと同じメニューを執り行う。下半身はふくらはぎや足の裏、上半身は肩甲骨や眼の周り。それらに加えてレフィーヤは魔導士なため、頭の疲労を取るために後頭部の骨と筋肉の境目を親指で指圧してやる。

 

「もう、動けまひぇ……ん」

 

 締めて40分。すっかり夢心地のレフィーヤが夢の世界へと落ちて行ったため、アクスはアイズと一緒に部屋の外へ出ようとすると、リヴェリアが部屋を覗いていた。何やら変な声が気になったらしく覗いてしまったらしいが、『それで良いのかハイエルフ』と言わなかった自分を誰か(以下略)

 

「ふむ、中々良さそうじゃないか。私も 「あ、すみません。リヴェリア様はやりたくないです。怖いんで」」

 

 彼女が言いきる前に拒否を示したアクス。当然ながら理由を聞きながら、『私がそんなに怖いのか!』と先日のことを再び言って来るのだが、彼としては『その通りです』としか言えなかった。

 

 どこの世界に全エルフの羨望を集める王族の身体を触って癒したい人間が居るだろうか。仮に居たとしたらどれぐらいの誓約書──いや、ハイエルフたちを集めた委任状を何十枚も用意しないといけないレベルでようやく検討できるレベルだ。残念ながら当然のことと言える。

 

「リヴェリア、()()逃げられてる。……ふふっ」

 

「アイズ、いい加減しつこいぞ。しかし、私も身体を長年酷使して来たからな。なんとか出来ないかアミッドたちと協力出来ないか?」

 

「持ち帰って検討させていただきます」

 

 逃げの一手で用いるように教えられた言葉を使って黄昏の館を出たアクスは、治療院に帰って早々エルフの団員を捕まえる。『エルフを相手にしたマッサージについて』と言われた団員は誓約書に不備があって怒られたのだと推測し、男女関係なくエルフの団員たちを集めたが──。

 

「リヴェリア様がマッサージ受けたいって」

 

「アクス、俺たちに死ねというのか?」

 

「とりあえず、持ち帰って検討って言って逃げてきた!」

 

「だからってこっちに投げるなよ! 変なこと言ったのはこの口か?」

 

「あ、良いな。私もやる~」

 

 そう言って腹いせなのかアクスの口をムニムニする団員たちはともかく、ハイエルフからのオーダーなので真面目に取り組まないとならない。

 

 エルフは面倒臭い。特に王族が絡むと厄介度が跳ね上がる。何かあれば即座に燃やされ、凍らされ、感電させられた後に英雄橋の下にドボンという末路を誰がやりたがるだろうか。

 結局、何も良い考えが浮かばない。万に1つあるとすれば、治外法権の場所で秘密裏に施術するという無茶以外は考えられないという結果となった。

 

***

 

 そんなことがあった翌日。アクスはベートが使っているベッドまで経過観察に来ていた。彼の足には昨日の夕方にアミッドが治癒魔法をかけたからかギプスはなく、触れても痛まないことから後1日ぐらいすれば退院は出来る運びだ。

 しかし、それでも彼は仏頂面で壊れたらしい靴の残骸を見ながら舌打ちを1つ。そんな態度の悪い患者を見かねたアミッドが分かりやすいよう大きくため息をついた。

 

「ベート様、そんなにむくれられてもウチでは靴まで直せませんよ」

 

「うるせえ、わかってるっての! それと俺をこのチビ扱いすんじゃねぇ」

 

 そう言ってアクスの頭をゴツゴツ叩くベートにアミッドはさらに呆れる。『昔のアクスの方がお利巧さんでしたよ』と小馬鹿にするような捨て台詞を吐いて退出していく彼女の後姿を睨み付けていたベートだが、ふと何かを思いついたらしく経過観察の結果を書いていたアクスに声をかけた。

 

「おい、チビ。俺の装備の修理を椿に依頼して来い」

 

「明日にでもご自分でどうぞ」

 

「チッ。あの女と同じこと言いやがって。良いか? 明日よりも今日行った方が修理が1日早くなる。分かるだろ?」

 

 そんなことはないと言えない空気。ちょっと品性が残念な冒険者に絡まれたような感じだが、よくよく考えれば回復薬(ポーション)の類をバベルにある支店に届けないといけないので、どのみち【ヘファイストス・ファミリア】の人間には会わないといけない。

 ここは許容の精神を持って依頼してきてやろう。そんな子供心で承諾すると、ベートは『分かりゃ良いんだよ』ともはやミスリルの板となっている靴の残骸と一緒に50ヴァリスを放り投げてきた。

 

「駄賃だ。さっさと行ってこい」

 

 この冒険者、セコ過ぎではなかろうか。しかし、(自分では)人間が出来ていると思っているアクスは何も言わずに往診の準備を始めた。

 その胸には『後でチクってやろう』という子供ながらの小さな復讐心に燃えていたりする。

 

 そのままヘ【ヘファイストス・ファミリア】のホームに直行──も嫌なので、バベルの支店に配達を済ませていると主神であるヘファイストスと出会う。出会うなり再び椿が『暇が出来たから試作品を色々作りたい』とポーション(アクス)を欲しがっているという話となるが、あの後1日を寝て過ごしたことを話すと苦笑いしながら追い込み時期かつ1日のクエストにしてもらえるらしい。

 

「それはそうと、武器なんだけどね。もう椿が作っちゃってたのよ」

 

「椿さんのって高かったはずじゃ?」

 

「えぇ、格安で【重傑(エルガルム)】に卸しているのが最低値だから……4500万はするわね。赤字よ赤字」

 

 椿が言うには『創作意欲が爆発した』らしい。それはそれで結構なのだが、ヘファイストスが告げた値段は子供であるアクスの感性でも申し訳なさすぎると思えるぐらいであった。

 思わず受け取りを拒否しようとするが、既に椿が『これをアクスに渡す』と吹聴しているらしい。周囲の鍛冶師も団長である彼女の鍛冶の腕を嫌というほど分かっているため、椿を差し置いて武器を打つという真似が出来ないのだとか。

 

 そこから報酬を変えると話にも発展するが、試練をこなした者への祝福という名のご褒美は代々続く神々と下界の人間における契約の1つ。いくら3日間拘束しただけのクエストでも、神々の方から祝福する内容を変えるのはタブー扱いされているのだとか。

 

「あなたも変な神に目を付けられて変な物をもらわないようにね、祝福なんて大層なことを言っても、大抵は下界の子供にとって呪いを押し付けるのと同義なんだから。まぁ、そういった目に見えない祝福なんて物は神の力を解放ぐらいしなきゃ出来ないし、その時は周囲の神が全力で止めるけどね」

 

「はーい」

 

「本当に分かってるのかしら」

 

 他派閥の子供ながらも心配してしまうような反応に額に手をやるヘファイストス。そんなところが彼女がファミリア内で『主神様』と慕われる所以なのだろうが、それを指摘できるヘスティアは現在ジャガ丸君の屋台でバイトしている。

 そう言ったわけで思わぬところで椿ブランドの武器がもらえるようになったアクスだが、ベートの靴の件を思い出してヘファイストスに伝える。

 最初こそ『あれを壊したの!?』と驚かれたが、証拠であるミスリルの板を渡すと頭を抱えつつも了承。その姿にアクスが試供品の回復薬(ポーション)を渡すと、ヘファイストスは礼を言いながら別の支店の視察へと行ってしまった。

 

 ヘファイストスに依頼したので、少なくともそこらの団員よりは確実に椿に話が通るだろう。そう判断したアクスがバベルから出ていくと、ギルドから出てきたアイズに呼び止められた。

 

「アイズ様、昨日ぶりです」

 

「うん、昨日ぶり。今日はアミッドに頼みたいことがあるから、着いて行って良い?」

 

 何やら要件があるということでアクスの後ろについていくアイズ。妙な取り合わせで周囲から浮いているが、彼らは気にせずにベートがお使いの駄賃で50ヴァリスしか出さなかったことを言いながら治療院へ直帰する。

 

「アミッド」

 

「アイズ様、いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお求めでしょうか?」

 

「膝枕を教えて欲しい」

 

 空気が凍った。【九魔姫】(ナイン・ヘル)かその弟子が魔法でも放ったのだろう極寒の空気に晒されたアミッドはいつもの鉄面皮のまま固まっている。

 

「あの、回復薬(ポーション)などの隠語でしょうか? 生憎、当治療院ではそういった物は……」

 

「人の頭を膝に置く、あの膝枕を教えて欲しい」

 

 追撃の2発目。ここまで来るとやや騒がしいエントランスでも彼女たちの言葉が聞こえてくる存在も出てくる。声量は低いがそれでも聞き取れる内容が分かってしまったアミッドは、口早に休憩を告げるとアイズ──ついでにアクスを引っ張って私室へと引っ込んでしまった。

 

「アイズさん、店内であのようなことを言わないでください」

 

「ごめんなさい」

 

「はぁ……。それで、膝枕についてですか? 一体何でまた……」

 

 どうせ連れてきたアクスのせいだろう。そう早合点したアミッドが彼の頬を引っ張りながら事情を聞くと、どうやら詳しくは言えないが償いのために膝枕をしたい。それも明日なので早急に──という話にアミッドはアクスの頬から手を離した。

 

「分かりました。私もあまり詳しくはありませんが、お教えしましょう」

 

「よろしくお願いします」

 

 そうして特訓が始まる。アクスという都合の良い木偶人形が居るおかげで早々に膝枕をする側のイメージがついたアイズは、ひたすら反復練習をすることで相手の心が安らげるように心を砕いた。

 

「アイズさん、その体勢ではこちらの膝の負担が高くなります。高レベルのあなたには関係ないかもしれませんが、仮に足が痺れて膝を崩したとあれば相手が不快になるかと」

 

「はい、先生。頭を撫でたいときはどうすれば?」

 

「優しく、決して起こさないようにしてください。それだけで不快になる方も居ますので。あ、アクスには撫でないでください」

 

 アミッドの指導は厳しく、的確だった。メキメキと膝枕の経験値を上げていくアイズの膝に頭を乗せながら、アクスはもはや何度目かも分からない『なにしてるんだろ』という誰に対しても刺さりそうな文句を思い浮かべながら本を読んでいた。

 

 やがて、1時間に及ぶ特訓の果てにアイズはいつもの調子で治療院から出ていく。彼女は満足したようだが、アミッドの方は誤解を解くのにかなり難儀したことは秘密である。

 

 ***

 

「あ、ベートぉ! ちょっと酒買うてきてくれへん? ほら、50ヴァリス」

 

「ベート、ちょっとギルドにお使いに行って来てくれないかい? 50ヴァリスで」

 

「あ、ベート。【ゴブニュ・ファミリア】に2代目大双刃(ウルガ)の研ぎの状況聞いて来てもらっていい? はい、50ヴァリス」

 

「あんのクソチビがぁぁ!」

 

 余談だが件のお使いのことが【ロキ・ファミリア】に広がり、ことあるごとにベートに頼みごとをして50ヴァリスを握らせる遊びがベートが退院して来た時から流行り出した。

 そのことにベートが吠えるが、勘違いしないで欲しい。お使いのお駄賃はたしかに頂いたが、『口止め料』はそこに含まれていない。

 

 ここはオラリオ。ダンジョンの外でも油断ならない都市である。どこかの酒場で数人の従業員が遠い目をしながら借金の残高を数えてはため息をついているが、多分関係はない。

 

 ──ほんとだよ。




治癒魔法
 時間を逆行させるわけではないので、間違った部分に定着する可能性もあるんじゃないかと思って作ったオリジナル設定。
 ジャガ丸君後のベル君。よくちゃんと腕治ったよね。聖女怖い。

エリリー
 両手に盾を持った筋肉質な体質を悩む乙女。原作ではレフィーヤの詠唱完了直前に襲い掛かってきた触手に貫かれて死亡するが、アクスがアイズの祝いの品として贈ったポーション詰め合わせをレフィーヤが持ってきたために生存。
 他メンバーは…助けられる余地がねぇっす。

マッサージ
 特段いやらしい意味はない。
 冒険者はレベルが上がるごとに全盛期が伸びるというのは原作設定。だが、老いや衰え以外の日常生活でも身体の節々は痛むのが普通なので、オリジナル設定として盛り込んだ。
 それすらなかったら高レベル冒険者って本当に神になると思うの。

エルフ
 多分、医者からするとくっそ面倒臭い種族。特にリヴェリア様の健康診断とか、次の日に『転校』しちゃっても不思議ではないと思う。
 なお、本人は普通に受け答えすればフレンドリーに接してくれるのが始末に置けない。

パシリ
 50ヴァリス寄越してやったんだからありがたく思え → あのクソチビがぁ!

武器について
 椿:やってしまった☆
 ソード・オラトリアに出てくる精霊旗のフラグとして、ディアンケヒト・ファミリアのエンブレムが刻まれた旗がくっついた槍にする予定。この旗の下に集まれば回復できるといった目印みたいな使い方が理想。
 イメージとして某英霊ゲーのジャンヌ・ダルクの旗。(バスタールーラー?うちのアクスは技巧派ですが?)

膝枕の特訓
 ドラマCD曰く、アミッドも初めてながら教えてたらしいが、ここではアクスの存在によってベテランになってます。
 ドラマCD持ってないから分からぬん。


**供養設定 曇らせ注意報**
後書きの後書き:
 リアルでかなり落ち込んだからか、この作品のバッドエンドが夢に出て来たので供養(多分、後で使う物も含めて)
  ①何かしらのイベント(タナトス関連?)で死者蘇生について色んなものが変更
   メリット:蘇生対象の記憶やレベルは引き継ぎ(本当の死者蘇生)
   デメリット:アクスの全てがダンまち世界から消える(治癒魔法なので、範囲蘇生。コスパ的には良い)
          ・死亡
          ・肉体の消滅(物理的に消える)
          ・魂の消滅(フレイヤ様には魂が粉々に砕け散るのが見える)
          ・アクスにまつわる記憶の消滅(全世界の神、人間例外なく消える。生き返ったら徐々に薄れていく感じ)
  詠唱(考え中):
   我が経験を焼る(くべる)。我が命を焼る(くべる)。我が培いし全ての記憶を焼る(くべる)。
   我が捧げる全てを以て、彼らの歩みを取り戻し給え。
   主よ、この身を委ねます。

  トリガー:
   詠唱完了後に主神(ディアンケヒト)が認めた場合、行使。

  ②現最新刊でアミッドたちの生死が不明なため、アミッドを含めた数人が死亡時は上記を使用。

  ③蘇生後に笑顔で消えていくアクスの姿を見るが、すぐに消えてしまう。薄れゆく記憶の中で『私たちを生かすためにあなたを救ったわけじゃない』とアミッドが叫んだ瞬間、全記憶が消去。涙の意味も忘れてしまい、呆然とする。

  ④治療院に飾られた写真に謎の人物がいるけど、誰だっけ?で終わり

全方位に強火で曇らせるけど、すぐに忘れるから。後を引き摺らないから。ヒーラーだからちゃんと傷は治療しないとね。
だから、大丈夫!…こうならないと良いなぁ
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