ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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お休みだと言ったな。あれは嘘だ。

昨日のIFの反響がすごかった(小並感
まぁ、あれは多分冗談ですが。これよりも酷いエンドにはしない…とおもう。(原作と自分の改変力次第っす)


15話:連続クエスト

 早朝。オラリオの数割も満たない人間ぐらいしか起きていない時間帯に都市の門に近づく2人組が居た。それぞれは野菜がたくさん詰まった大きな籠を背負い、片方がペラペラと話をしながらスタスタと歩いている。

 

「ほんとにありがと、アクス」

 

「うい……」

 

 瞼を擦りながら歩いているアクスに話しかけてくるヒューマンの女性。ルノア・ファウストは豊穣の女主人でウェイトレスをしているが、神の恩恵(ファルナ)を刻まれた元冒険者である。

 ただ、元冒険者といってもダンジョンへは行っていない。詳しくは彼女の口から語られていないが、彼女はオラリオから遠く離れた地で生まれ、紆余曲折を経てオラリオに移ってきた。そして、5度目の改宗(コンバージョン)先として【デメテル・ファミリア】を選んだらしい。

 その見返りとしてデメテルの願いは何でも聞くと言っているが、ルノアが1匹狼であった時から全然頼み事をしてくれないことに罪悪感を持ったらしい。

 それは豊穣の女主人に勤め続けてからも健在で、時たまこうして自主的に収穫などを手伝っているのだそうだ。

 

 ただ、その度にお礼と称して大量の農作物をもらって来るので、見返りとなっているかについてはルノアも思うところがあるのか野菜が詰まった籠をちょくちょく見ている。

 

「眠い……。あと、そろそろ切れるから白い粉欲しかった」

 

「ほんとごめん。無理に起こしちゃって。それと、それ小麦粉だよね!?」

 

 最初から手伝いに行っていたルノアと違い、アクスは未だ本調子ではなかった。

 未だ朝日も半分しか顔を覗かせていない微妙な時間。当たり前だが、本来のアクスが起きる時間にしては早すぎる。

 

 その原因は【デメテル・ファミリア】で出た怪我人。それもLV.1冒険者でも解毒しないと碌に歩けないほど悪化する遅効性の毒にあった。

 市壁の外にもダンジョンの同種族と比べると弱いものの、モンスターが居る。冒険者にとっては物の数に入らないだろうが、一般人にとって単純に戦闘能力が強いモンスターも、状態異常で苦しめてくるモンスターも脅威度の違いはあれど等しく命を容易く刈り取ってくる強者となる。

 

 今回はルノアや収穫に出ていた冒険者が居たおかげでモンスターは何とかなったが、それでも農場で働く数人の農民や冒険者が被害を受けた。回復薬(ポーション)といった解毒の準備も無かったため、代表としてルノアがLV.4の脚力を利用して【ディアンケヒト・ファミリア】を訪問。いつものように作業をしていたアミッドが気づいて向かおうとするが、入院中の患者の容体に変化が起きるというアクシデントによって代役としてアクスを叩き起こして農場へと向かわせたのが事の顛末である。

 

 出掛けに飲んだ特性回復薬(ポーション)のおかげで眠気が吹っ飛んだアクスは、到着と同時に治癒魔法を使って解毒。さらには人手が足りなくなったので農作業を少々手伝い、さて帰ろうとしたところで回復薬(ポーション)の効果時間が切れた。

 眠気によって途中で行き倒れないよう、ルノアがこうして話しかけ続けて今に至る。

 

「そういえば、デメテル様。大丈夫かな」

 

「デメテル様? いつも通りだった気がする」

 

「元気が無かった気がするんだよね。目許に化粧もしてたのも気になるし」

 

 デメテルは眷属と一緒に農作業をする神だ。

 ゆえにいつも化粧は身だしなみ程度。なのに同性から見ても綺麗と思ってしまうほどの反則的な美貌に、自分も含めて眷属たちは羨ましがっていた物だ。

 しかし、今日会ったデメテルには一時期女を捨てているような生活をしていた自分でさえも気づくぐらいに盛っていた。目のラインに合わせてくっきりと……あの化粧位置から恐らく涙関係かとルノアは推理すると、アクスはパチパチと拍手をした。

 

「探偵みたい」

 

「昔、色々あったからね。対象を調べて、観察して……って今は良いか。とにかく、デメテル様は泣いていたってことは分かるかな」

 

「取っておいたお菓子を誰かに食べられたとか?」

 

「アクスじゃあるまいし、そのぐらいで……泣きそうね」

 

 温和かつ神格者でもある彼女の性格から十分にあり得そうだと思うルノア。想像するとなんだか笑えてくるが、流石に神がそんな小さなことで泣くかと問われると根拠が薄い。

 そんなことを語っていると、アクスが人差し指立てながら新しい推理を披露する。

 

「ファミリアの人でも辞めたとか?」

 

「あー、それかも。デメテル様の所って冒険者にとっては刺激が無いし、別の所に行ったとかかなぁ」

 

 先程のよりはあり得そうな推理にルノアは農場の方を見る。

 【デメテル・ファミリア】は無くなるとオラリオの食糧事情が壊滅するほど重要なファミリアだが、その構成員には『戦闘員』といえる者は居ない。今回のようにモンスターが襲来するケースも稀なので、神の恩恵(ファルナ)を与えられた者もレベルも上がらない。

 

 そうなると冒険したいと思うのは人の性だろう。もしかしたら1年の修業期間を設けて改宗(コンバージョン)したのかもしれないが、自らの眷属を大切にしている神にとってどういった事情でも自分の下から去られるのは辛いだろう。

 

「ルノアさんも【デメテル・ファミリア】なんでしょ? どうしてあっちで働かなかったの?」

 

「私がそんな牧歌的に見える? ……まぁ、色々あったの。血の匂いが染みついた人の行くところじゃないし」

 

 ルノア・ファウスト。【黒拳】の異名を持つ元賞金稼ぎの彼女はデメテルの誘いを断った経歴を持つ。

 理由は簡単。黒拳の由来である血を浴び過ぎて赤黒くなった手であの女神が丹精を込めて作った美味しい作物を汚したくなかったからだ。

 ただ、豊穣の女主人のウェイトレスを(半ば強制的に)していく内にその考えは薄まりつつあった。

 しかし、完全に消えたわけではない。自分の手を見てぼんやりと考えこむルノアの視界の横に真っ赤なトマトが映った。

 

「え?」

 

「美味しいよ」

 

 日の光に反射した宝石のように真っ赤なトマト。ずっしりとした重みを感じながら齧り付けば甘い果汁が口の中に流れ込んでくる。

 いつしか()()()()()()()も瑞々しかったトマトの果汁に洗い流され、お腹に食べ物が入ったことから彼女は一息ついてから隣で歩いているアクスの頭をわしわしと撫でた。

 

「ありがとね」

 

「僕で拭くのやめてよ」

 

「あ、バレた?」

 

 『トマト野郎ー』とふざけながら走り出したルノアはふと思う。今も怒って追いかけてくる少年が少年ではない想定(IF)を。

 

 顔は──お世辞にもイケメンとは言い辛い。中寄りのちょっと上ぐらい。

 あの【ディアンケヒト・ファミリア】に長年勤めているおかげか、気配りがかなり上手。

 豊穣の女主人でたまに手伝っているぐらいの料理上手。むしろ、手伝い始める前から既にポンコツエルフやあざとヒューマンより遥かにまともな料理を作れていたほどだ。

 ただ、年齢に関してルノアは同僚の美少年の尻が好きな変態とは違うため、やや想像で上方修正する。

 

 仮に──仮にだ。アクスがもう少し大人で、種族がヒューマンであったならば……。

 そして、自身の人生の転換期である【疾風】というギルドのブラックリストに登録された冒険者を仕留める前の状態で出会っていたならば……。

 

「間違いなくこいつがきっかけになるな。うん」

 

「なんか言った?」

 

「アクスはそのままで居てって話だよ。ほら、拭いたげるから」

 

 人の夢と書いて儚い。そんな妄想を浮かべていたルノアだが、ふと『未成熟な尻こそ至高ニャ』と自信満々に言っていた犯罪者予備軍と同レベルのことを思い浮かべたと反省する。

 

 ただ、酒に酔った神が言っていた。人の夢は終わらねぇと。

 言ったのが神なので説得力はなかったが、『出会いかぁ』と年頃の男女にありがちなことを思い浮かべていると、市壁の上で何かが光るのを見つける。

 それに気づいたルノアがよくよく目を凝らすと、いつも酒場で同僚から弁当をもらっている白髪の冒険者が誰かと戦っているのが見えた。

 

「なにあれ。喧嘩?」

 

「こんな朝っぱらに喧嘩なんて……。んー、訓練じゃないですか?」

 

 片やLV.4の視力で。片やパルゥムの突出した視力で確認した2人であったが、『冒険者同士の問題に首は突っ込まない』というルノアの言葉で疑問もそこそこにオラリオへ入っていく。

 そのままメインストリートに沿って進み、豊穣の女主人の前で2人は別れた。従業員の宿舎がある離れに向かって歩いていくルノアを見送ったアクスはそのまま治療院へと帰り、開店準備をしていたアミッドたちに診察結果とモンスターの種類を報告する。

 

「あの農場付近にモンスターが……。分かりました、ギルドへの報告と農場への治療薬の配布という形で対策を進めていきましょう」

 

「解毒薬の在庫、確認してきます」

 

「一般人用のは無かったはずだ。待ってろ、希釈してくる」

 

「今からギルドに行ってきます。アクス、モンスターの種類だけでも教えてくれ」

 

 【デメテル・ファミリア】の重要性を正しく認識していた団員たちの行動は早かった。次々とアクスが持ってきた野菜を手に取りながら自分に課した作業に従事していく。

 アクスも実際に治療をした治療師(ヒーラー)ということで男性団員についていく形でギルドへ赴き、農場付近で遅効性の毒を与えるモンスターが出現したことを報告した。

 

「あの農場か、分かった。報告すまない」

 

「こっちは常備薬を配布しておくことが決まった。ギルドの方はモンスターの調査に注力して欲しい。レーメル、頼んだぜ」

 

「代金は?」

 

「既に"別の形"でもらってる。いつもの主神様には内緒でな」

 

 レーメルと呼ばれた犬人(シアンスロープ)のギルド職員は【ディアンケヒト・ファミリア】がたまに使う手口に苦笑する。

 治療院では基本的に現金を一括で払ってもらう方式だ。しかし、特に仲の良い冒険者には団長権限で閉店したり、都合よく店の裏で『うぇるか~む』と神々に習った怪しい商人ごっこをしているアクスから仲良し価格やツケでの購入といった例外も実施している。

 これらは全て治療院の運営を任されているアミッドが決めたことで、当然ながらディアンケヒトには内緒である。

 

 そして、今回の代金はアクスがもらってきた野菜。調理しなければならないものは除くが、トマトなどの片手で食べられるものは団員たちが食べてしまっている──つまり、()()()してもらっているのだ。

 

「分かった、ギルドは早急に冒険者依頼(クエスト)を……いや、それだと時間がかかり過ぎるな。とにかく、早急に戦闘が出来るファミリアを向かわせるようにする」

 

「頼んだ」

 

 そう言って団員はアクスを連れてギルドの外へ出る。もうそろそろ日が完全に出てくる時間帯なので、早く戻って開店準備をしなければと路地を使ってショートカットを図る彼らの先で誰かが倒れていた。

『こんな忙しい時に』とボヤきながらも団員は周囲を探りながら診断を開始しようとするが、特徴的な尖った耳を見るや否や手を引っ込めた。『しかもエルフかよ』と少々面倒くさそうに言いつつも外見から怪我の有無を調べていると、アクスがエルフの手を指で突きながら反応を見ていた。

 

「レフィーヤさーん。……応答なしです」

 

「レフィーヤって……。うわ、マジで【千の妖精】(サウザンド・エルフ)じゃねぇか! なんだ? 襲撃か?」

 

 行き倒れの正体に驚いた団員が理由を考え出す。

 天下の【ロキ・ファミリア】の構成員。しかも、【九魔姫】(ナイン・ヘル)の愛弟子である彼女を襲撃する相手はこう見えて多い。

 

 まずは敵対寄りの関係である【フレイヤ・ファミリア】。単純な戦力の低下という名目を添えれば鉄板ともいえる。

 次にオラリオのエルフ。特に王族であるリヴェリアに師事しているため、過激派にとっては羨ましいことこの上ないのだろう。八つ当たりという線を考えるとあり得ない話ではない。

 最後はアルテナ。魔法大国と呼ばれるここは魔法使いが強い権力を持つ国家で、依然、『リヴェリアこそ最強の魔導士』といった具合でオラリオのエルフがかの国と衝突したことがあった。可能性はないとは言えないが、ここはオラリオなので実現性が低いのが現状だ。

 

 そんなことを悶々と考えていた団員だが、そうしている間にもテキパキと診断するアクス。そんな彼らの耳にか細い声が聞こえてきた。

 

「アイズさん……アイズさん……どうして……」

 

 心なしか煤けたように真っ白な状態。うわ言を延々と呟く。虚ろな目。ここまで判断材料が揃った団員は確信した。

 

 あ、こいつメンタルが限界に来ただけだな──と。

 

「アクス、【千の妖精】(サウザンド・エルフ)を送ってやれ。こんなところで放置するのもあれだしな」

 

「あい!」

 

 そう言うとアクスは早速、先日のようにレフィーヤを背負って常備している包帯で固定する。それを見た団員が『うわぁ……』と心の声を漏らすが、アクスはそのままレフィーヤを連れて行ってしまった。

 しかも進行先はメインストリート。たしかにここから黄昏の館へはメインストリートに沿っていけば1番早く、確実に到着するが──人の心は無いのだろうか。

 

「おっと、いけね。早く帰らねぇと」

 

 だが、団員はレフィーヤのことを一切気に掛けない。冒険者は何事も自己責任が鉄則だからだ。

 むしろ、あのまま放置していかないだけ、はじめに出会ったのが【ディアンケヒト・ファミリア】なだけ感謝して欲しいまである。

 そんなことを考えつつも本日行う予定の業務を思い出しながら団員は治療院へと走って行った。

 

***

 

「落ち着け、レフィーヤ。いくらアクスが回復するといっても限度があるぞ」

 

 黄昏の館の執務室ではペチンペチンと何かを叩く音と『治療せよ(アスクラピア)』がひたすら聞こえる。その音の出所にリヴェリアは呆れながらもいい加減止めようとレフィーヤの腕を掴むと、彼女は涙ながらにひたすら『辱められた』と泣き出した。

 

「アクスー、あの運び方は何とかならんかったんか?」

 

「パルゥムとエルフの身長差を考えてくださいよ。ためしにフィンさんとティオネさんで想像してみてください」

 

「アクス、なんでそこでティオネを例に出したんだい? 怒らないから言ってごらん?」

 

 たしかにそのぐらいの身長差があると運び辛いだろうとリヴェリアは納得する半面、背負った状態でそのまま頂かれる未来しか見えない組み合わせにフィンが抗議する。ただ、今はそんな事はどうでも良い。重要な事じゃない。

 問題は目の前でさめざめと泣いているレフィーヤだ。

 

「だがな、レフィーヤ。路地で放心状態のまま放置されておれ、そのまま連れ去られかねんぞ?」

 

「そうだな。ただでさえエルフは見目が良い者が多い。アクスたちが見つけなければ、下手をすると歓楽街にでも売られかねなかったんだぞ?」

 

「ん"んっ! 一時の羞恥で人生を棒に振る可能性が消せたんだ。彼への対応が違うと僕は思うね」

 

 確かに言いたいことは分かる。言いたいことは。

 ただ、1度ならず2度までも同じこと。しかも、今度はメインストリートという人目が付きすぎる所をあのような醜態を晒しながら疾走されるとは思わなかったのだ。

 あれをされるぐらいならば台車に寝かされているのが10倍マシ──とは思いつつも、危ない所を助けてくれたことは事実なので先ほどのことも踏まえて彼女は謝罪した。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いえ。ですが、そろそろ怒るところでした」

 

「そういえば、治療中に邪魔されて怒るんは日常茶飯事やけど、アクスっていつもどんな風に怒るんや?」

 

 ロキからの率直な疑問。それに対してアクスは中々答えを出せずにいた。

 治療を邪魔された時のアクスはそれはもう烈火のごとく怒るし、姉の悪口を言われた時も烈火を通り越して業火のごとき怒りを見せるが、強火と超強火の怒り方だけで中火とか弱火の怒り方をてんで知らなかった。

 

 そうなると出来ることは自分の身近で怒る人を真似るしかない。主に【ディアンケヒト・ファミリア】の面々をリストアップしていき、その中で直近で怒ったアミッドをチョイス。彼女はよくどういった注意の仕方をするだろうか──。

 

 たしか──そうだ。

 

「めっ……とか?」

 

 控えめに言ったつもりが全員が黙っていたせいで部屋内に聞こえる。

 もしかすると間違った怒り方かもしれない。そう思った矢先にレフィーヤが少し心臓を辺りを手で抑えた後、アクスの肩へ向かって手を置いてきた。

 不整脈だろうか。

 

「リヴェリア様! この子、欲しいです!」

 

「落ち着け、レフィーヤ。アクスは物ではないぞ」

 

「純朴な子供を取り入れた新たな【ロキ・ファミリア】っ! うおぉ! これは滾るでぇ!」

 

「ロキも落ち着け。お主も【ディアンケヒト・ファミリア】とは事を起こせないと言っておったではないか!」

 

 ある意味似た者同士の2人が吠え、それぞれは理詰めで制圧される。その光景に頭を痛めたフィンが引き出しに閉まってあった薬を飲み込む。

 そんな茶番染みたことをしていると、部屋にラウルが入ってきた。

 

「失礼します。神ヘファイストスが……ってアクス君が居たんすね。申し訳ありません」

 

「いや、今の彼は往診中じゃないよ。それより神が自らとは珍しいね」

 

「あぁ、多分次の遠征のことやな。こっちが契約書を作っとる間に上級鍛冶師(ハイスミス)の良ぇ子選んどいてって言っといたんや」

 

 そう言いながらロキが執務室の机の引き出しから数枚の羊皮紙を出す。それらには遠征に同行する契約内容が掛かれており、後は参加する団員の名前と両ファミリアの団長や主神の名前を書けば契約書として成立する状態であった。

 そうなると、アクスもそろそろお暇した方が良いとレフィーヤと一緒に席を立つ。そのまま外に出ようとすると、フィンに呼び止められた。

 

「いや、アクスだけ残って欲しい。神ヘファイストスの話が遠征のことならだけどね」

 

「また同行の話ですか? 今度はお姉ちゃんも許さないと思いますが」

 

「いや、()()()のことを頼みたいんだ」

 

「あら、【ロキ・ファミリア】もアクスに用? なら、まずは私のところの冒険者依頼(クエスト)を優先して欲しいわね」

 

 フィンとの話にヘファイストスも入って来る。彼女はカバンから数枚の羊皮紙を取り出し、全てテーブルの上に置く。それらは【ヘファイストス・ファミリア】が納品する予定の武具であったり、参加予定の上級鍛冶師(ハイスミス)の名前だったりと様々だが、彼女は1番上にあった冒険者依頼(クエスト)の羊皮紙をアクスに手渡した。

 

「治療院が開いてすぐに行ったんだけど、黄昏の館に【千の妖精】(サウザンド・エルフ)を運んでそのままって聞いたからついでにね。既にディアンケヒトには許可をもらってるから、安心して」

 

 おそらく、大手ファミリアである【ヘファイストス・ファミリア】に借りを作れると考えたディアンケヒトがアミッドを押しのけて許可を取ったのだろう。後々アミッドや団員たちが顔をヒクつかせながら主神に詰め寄っている姿が容易に想像できたアクスだが、主神に対しての尊敬云々は最低限しか持っていない彼は一旦冒険者依頼(クエスト)の内容に目をやった。

 

 内容については先日同様に椿の回復。ただ、昨日バベルで会った時に約束された通り期日は1日だ。

 ありがたいことに備考にも『他の団員の回復』という事項も存在しない。椿を回復し続ければいいだけの簡単な作業であると分かったアクスは胸を撫で下ろす。

 

 ──その依頼だけで済めばの話だが。

 

「ちょい待ちぃ、ファイたん。うちもアクスに用があるってフィンが言うたやん」

 

「あら、一応私はディアンケヒトから許可をもらったの。その分だけ、私の融通は利かせて然るべきでしょ? それに、これは後で詳しく言うけど本来発生しなかった冒険者依頼(クエスト)よ?」

 

「うっ、そうなんか。なら、しゃあないかぁ」

 

 冒険者依頼(クエスト)のブッキング。いつもならば適当に日付を振り分けてしまえばそれまでだが、今回に至っては両方共遠征前が期日だ。

 最終的な判断はディアンケヒトとアミッド次第になるが、遠征の日数があとどれぐらいかは【ロキ・ファミリア】次第となる。

 

 まぁ、ここまでは大人の話。子供であるアクスにはあまり理解できない内容であった。

 大人顔負けの思考力も社会人の得意技であるカラ元気もアクスは持っていない。神々の言葉を借りるならば、『しょーがねーだろ、子供なんだから』という奴だ。

 もはや睡眠欲が勝ってしまったアクスは、いつの間にかその場──ロキの身体に身を寄せて眠っていた。

 

「ほ、ほわぁぁ! ファミリアじゃ雑に扱われてきたからか、これは破壊力ヤバいでぇ……。ママァ、えぇやろ? この子欲しいんやけど」

 

「ロキ、お前まで言うと冗談に聞こえないぞ」

 

「とりあえず、アミッドとディアンケヒトも呼んだ方が良いかもしれないわね」

 

「あ、行って来るっす」

 

 ひとまずは両方の言い分を言ってから【ディアンケヒト・ファミリア】に判断を委ねるという形となる。その間もアクスは寝たままとなったが、保護者ということで無理やり時間を作ったアミッドとディアンケヒトがラウルに連れて来られる形で黄昏の館へとやってきた。

 

「すまんなぁ、こっちに呼び出してもて。なんせ大所帯になってもたさかい」

 

「そうじゃぞ、ロキ! せっかく金勘定をしておった所に水を差しおって!」

 

「いや、自分は余暇を謳歌しとるやん!」

 

「では、早速遠征の日取りから伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 さりげなく寝ているアクスの頭を膝に乗せたアミッドはフィンに遠征予定日について尋ねる。今後どう動くかは【ロキ・ファミリア】前提となるために必要になるため、今ここで全員に共有してしまおうというのだ。

 

「遠征は今日を入れて7日後。今回は【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師(ハイスミス)を連れて潜る予定だ。だから、【ディアンケヒト・ファミリア】には回復薬(ポーション)の用意を進めてもらうと同時に、アクスを数日間借り受けたい」

 

「遠征に連れて行ったと思えば……。今度は借り受けたいと?」

 

 アミッドが癖で撫でていた手が止まる。その目の奥には明らかに敵を見定めたような意思が籠っており、その視線は目の前のパルゥムに向けられていた。

 だが、フィンはその怒りにも似た感情を真正面から受け止め、誠心誠意の嘆願を行う。

 

「君が怒るのは無理もない。だが、頼む。今回はアクスも君も【ディアンケヒト・ファミリア】の治療師(ヒーラー)たちも居ない。だから、遠征前に回復薬(ポーション)をなるべく消費したくないんだ」

 

 【ロキ・ファミリア】は遠征前によく訓練を行っている。ダンジョンに潜る者も居るが、大抵は物資管理の仕事の合間にガレスなどの強者に挑むのが通例だ。

 1分、1秒。それよりも早く身体を回復させ、少しでもステイタスを上げたい彼らは必然的に回復薬(ポーション)を飲む。そうして傷を負っては回復薬(ポーション)を飲み、体力が尽きても回復薬(ポーション)を飲んでまた訓練を再開する。

 

 そんなことをしていると遠征で使用出来る回復薬(ポーション)が少なくなるのは確実。そして、消費量を抑えるために訓練を禁止することも愚の骨頂。ゆえに、アクスによる回復で回復薬(ポーション)の備蓄をして遠征に臨む。それがアクスやアミッドといった治療師(ヒーラー)を確保できなかったフィンの計画であった。

 

「分かりました、遠征に同行させないのであれば問題ありません。ですが、まずは【ヘファイストス・ファミリア】の冒険者依頼(クエスト)を優先させていただきます」

 

「それは構わない。元々はこちらの不手際らしいしね」

 

「不手際というか、【凶狼】(ヴァナルガンド)の武装だけどね。予め、アクスを数日借りてて良かったわ。あれが無ければ全然間に合わなかったもの」

 

 曰く、アクスのおかげで大幅に伸びた工期はベートの第二等級特殊武器(スペリオルズ)『フロスヴィルト』の新造で失われるらしい。つまるところ、この1日は【ロキ・ファミリア】が負うべきペナルティでもある。フィンはヘファイストスの言う事を甘んじて受けるしかなかった。

 

「そういえば、ベート様が装備の修理依頼をお使いに行かせたと本人が申しておりました。50ヴァリスで」

 

「そうね。アクスが何故か修理とか残骸になった装備の切れ端を持ってきたわね。まぁ、動けないから仕方がないけど、椿もちょっと不機嫌だったわよ」

 

「ぶはっ! 50ヴァリスって……。ほんまに子供の駄賃やん!」

 

「分かった、冒険者依頼(クエスト)の報酬も上乗せしておくよ。……後でちょっと懲らしめないとね」

 

 こうして『ことあるごとに50ヴァリスでベートを使う原因』が共有され、アクスの7日間における長期の連続冒険者依頼(クエスト)が彼が夢の中に居る間に幕を開けようとしていた。




ルノアの妄想(IF)
 当初、ルノアヒロインを考えていた残滓。(他にもリヴェリアヒロインのハイエルフの許嫁とかあったので、暇になったら垂れ流そうと画策中)
 主人公はダンジョンに潜る珍しいタイプのデメテル・ファミリアの農夫(LV.4、身長190C、体重130キロのゴリマッチョ巨漢※ずんだどんをもう少しマイルドにしたやつ)
 最初こそ、人口迷宮にルノアと突っ込ませて【デメテル様泣かせる奴は許さねぇ】と叫びながら走り回り、闇派閥の人間ごとボッコンボッコンと破壊。途中、不意打ちでヴァレッタ・グレーデを掴んでゾーリン掛けしようかと思ったが、筋肉ダルマネタをライザ二次でやっているので断念。

デメテル様、元気ない
 ヒント:【笑え】の後。

めっ!
 アミッドがアクスを窘める時によく使う。それでも反抗すると折檻される。

寝ている間にクエストが受注される恐怖
 仕方ないだろ!おねむの時間なんだ!
 なお、後でお姉ちゃんからの『お願い』に屈する模様。
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