ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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楽しみにしてくださっている方がいらっしゃるので、頑張ってみました。
おそらく続きはかなり先になるかと。 ご容赦を


【女神の小姓】(バナジウム) 砂漠編 1/?

 とある日。ギルドから【フレイヤ・ファミリア】に1通の手紙が届けられる。見るからに高級そうな封筒だが、問題はそこではない。封筒の裏を覗いたアクスは、蜜蝋に押されたシーリングスタンプを見て即座にバベルへと向かった。

 

「フレイヤ様、お届け物です」

 

「あら、誰からかしら」

 

「アラム……。いえ、アリィ様からです」

 

 宛先を言った途端、フレイヤがオッタルを介さず()()()()()手紙を受け取る。シャルザード王国というカイオス砂漠にある国の紋章が入ったシーリングスタンプをペーパーナイフも使わずに剥がし、中の手紙を見やる。

 先ほどまでの退屈そうな表情から一変。楽しそうな微笑を浮かべる彼女に側で控えていたオッタルは何も言うまいと必死に口を噤んでいると、フレイヤはアクスの方に手紙を見せながら問いかけてきた。

 

「アクス、またあの砂漠に行きたいわね」

 

「熱いの嫌なので、今度はお姉ちゃんと留守番したいです」

 

 覚えば散々な経験──特にLV.3にランクアップという得難い経験をしたあの砂漠だが、アクスとしては燕尾服に似た黒い服装で歩き回っていたのであの暑さが嫌だった。そのために早々に留守番をしたいと願い出ると、フレイヤは年頃の女の子みたいに頬を膨らませて明らかに不機嫌そうな顔つきとなり、『お母さんと一緒に旅行は嫌なのね』とへそを曲げてしまう。

 

「小父さんとお兄ちゃんたちで行けば良いでしょう。前の時のように」

 

「嫌。オッタルたちは物陰で見て来るだけでつまらないもの」

 

 相変わらずのわがままっぷりだが、団長であるオッタルは『むぅ……』と唸るばかり。いい加減団長としてズバッと注意して欲しいものだが、副団長ならまだしも団長では役に立たないとある種の諦めの境地に居たアクスは南東の方角へと目をやった。

 

***

 

 時は数年前。ダンジョンで殺し合いという常軌を逸した行動をとったことを命からがら戻ってきた強靭な勇士(エインヘリヤル)に報告されたフレイヤの指示で、オッタルたち──もとい()()()()()()強靭な勇士(エインヘリヤル)を迎えにヘイズたち満たす煤者達(アンドフリームニル)が出動。その後、階層主であるバロールの目玉に向けて投石するなどなんやかんやがあってアクスが偉業マシマシのランクアップしたところまで遡る。

 

「アクス、伴侶(オーズ)を探しに行くわ」

 

「御意」

 

 フレイヤの都合全開の指示に、()()()()割かし素直なアクスは『いやっピ』と言えずに自分やフレイヤの旅行用の装備を整え始める。

 【ロキ・ファミリア】と抗争1歩手前にまで発展しかけた以前の大惨事の反省として、フレイヤが外出する際にはアクスの同伴が必要となった。

 彼の役割は『目印』。かいつまんで言うと、彼が居るところの付近を捜索すればフレイヤが簡単に見つかるという寸法である。

 フレイヤ自身もアクスと出かけるのを楽しんでいる節があるため、()()()()()()()は別として幹部たちが利用しない手はなかった。

 

 そんな具合に旅行の準備を済ませたアクスと共にフレイヤはギルドへ赴くと、そのままギルド長であるロイマンを脅迫……もとい説得してオラリオを出る。道行く人々が勧める方角をBGMに、未だ不安そうにオラリオの方角を見るアクスの手を握りながらフレイヤは南東を目指す。

 

 道中で出会ったギルドの白豚(ロイマン)の2Pカラーのような商人。『ボフマン・ファズール』との()()でアルテアの技術がふんだんに取り込まれた砂原を疾走する船である『デザート・シップ』に乗ったフレイヤは、束の間の休息に甘んじていた。

 

「どうですかな、フレイヤ様。デザート・シップの乗り心地は」

 

「えぇ、"中々"楽しませてもらっているわ」

 

 おべっかばかり使うボフマンへの意趣返しに多少嘘を織り交ぜた返答をするフレイヤ。しかし、それを真に受けたのか調子の良い言葉を並べる彼に彼女の神経は若干逆立つ。

 ただ、ボフマンは酒場を訪れたフレイヤを見るや否や、即座に損得勘定を出して彼女と交渉。そして後に沸いてくるリターンを天秤にかけ、()()()()()()()()()()()()()()()彼女と同行することにした商人である。

 フレイヤの素性を知るや否や、『下手な王侯貴族よりも、力のあるファミリアの手を揉め』という格言に即座に従うぐらいに堅実で有能な商人であることは間違いない。()()()()()フレイヤも目を掛けていた。

 

「あ、あの……。ところでお連れの方は大丈夫なのでしょうか?」

 

「大丈夫よ。このぐらい、あの子にとってはいつものことだから」

 

「で、ですがこのデザート・シップは30人以上の奴隷が絶えず魔力を……」

 

「だから近くであなたの奴隷を待機させている。そういう契約だったはずよ」

 

 現在、このデザート・シップの動力である『魔力』はたった1人の小姓(ペイジ)──アクスによって賄われている。そこら辺の魔力持ちである一般人に比べて【フレイヤ・ファミリア】という特殊な環境で育った冒険者は正真正銘の『規格外』なため、当の本人は船底で魔力充填用の水晶玉に()()を当てながらその辺に居た監視役の人間と暢気にお喋りしていたりする。

 

 しかし、そんな平穏な船旅に陰りが見える。

 

「ふふっ、フレイヤ様。私も少なくない旅費を捻出している身。ですので、貴方様の旅の目的が果たされた暁には、少しばかりの"報酬"をいただきたいのですが」

 

 薄皮1枚しかない理性の裏に隠されたボフマンの下心にフレイヤは辟易しつつ、ため息交じりで『はいはい』と空返事をする。

 

 彼女の目的は『退屈を殺す』こと。そして自身の伴侶(オーズ)を見つけることだ。

 今まで何度もそういった目的で放浪してきたが、1つ目はまだしも2つ目は一向に見つかっていない。そんな約束をするだけ無駄なのだ。

 しかし、そんな事情があるとは露知らず。ボフマンは好色な視線をフレイヤに向けたその時──デザート・シップが急加速した。

 

「ボブォッ!? なっ! いきなり増速!? 誰が指示を出したのですぞぉ!」

 

「あの子の独断よ。それに……いやな"音"がするわ」

 

 船べりに激突したボフマンが鼻血を出しながら近くの見張りに文句を言っていると、船の斜め後方から巨大なぜん虫が姿を現した。このカイオス砂漠に潜むモンスターの1匹である『サンドワーム』の出現にボフマンを含めたデザート・シップの乗員は慌てふためくが、それは一時的なこと。グングンと速度を増していくデザート・シップによって徐々に落ち着きを取り戻していった。

 

「この船、こんなに速くなかったような……」

 

「だから言ったでしょう。あの子がいるんだからって。いえ……、あの子"たち"ね」

 

 砂が口の中に入るのもいとわずに口をあんぐりと開けたボフマンの横に立ったフレイヤは、伝令に船を止めるよう指示する。はじめこそサンドワームが向かってくるという理由から断っていたが、フレイヤの前ではその理由は()()()()()。埒が明かないので船倉に向かってフレイヤが止めるよう言葉を発すると、しばらくしない内にデザート・シップが止まり──後方から追いかけていたサンドワームの首が一瞬の内に断たれた。

 

「なっ!?」

 

「もう追いつかれちゃったみたいね」

 

 サンドワームから噴出する赤黒い血にまたもや騒然となる船内。しかし、かの女神はサンドワームのさらに奥に居る()()()()に目を向ける。

 4人のパルゥム。2人の妖精。そして2人の獣人。【フレイヤ・ファミリア】における最高戦力の姿に主神である彼女は目を細め、ボフマンに先を急ぐように促した。

 

 ちなみに彼も【フレイヤ・ファミリア】の錚々たる面子の姿を見ており、先ほどまでの無礼にも程がある振る舞いを思い出して顔面蒼白で暑いのに冷や汗が止まらない状況に陥っているのだが、彼の処遇は正に『神のみぞ知る』である。

 

***

 

 サンドワームの襲撃という一般人にとって心臓によくないトラブルに見舞われたものの、フレイヤとアクスは『リオードの町』へと到着した。

 ペラペラと町の成り立ちやら歴史といった概要を話すボフマンを余所に周囲に視線を彷徨わせ、()()()()()()()が見えた途端にフレイヤはアクスを呼び寄せてから指を指して少女のように笑う。

 

「何か面白い物でもありましたかな? フレイヤ様」

 

「いいえ、それよりも活気があるわね」

 

 珍しい物を見つけてはあっちへフラフラ、こっちへフラフラするアクスの姿を笑いながら目で追っていたフレイヤは、雑多ともいえる市場(バザール)の全体を非常に楽しんでいた。

 オラリオよりも不規則に並ぶ露店には多種多様な売り物が所狭しと並べられ、オラリオよりも多くの市民や商人が自分の利を最大限にするために戦っている。そんなとてつもなく野性味溢れる熱気に彼女は満足したような吐息を漏らす。

 

「オアシスも見事な物ね。まさに商人の町といったところかしら。見ていて飽きないわ」

 

「流石はフレイヤ様。このリオードは自他ともに認める商人の町にございます」

 

 もはや手の指紋が無くなるかと心配になるぐらい揉み手をしているボフマン曰く、この町は『イスラファン』という商業国の国境付近にありながらもオアシスの恩恵で物流の要衝の地になるぐらいまで発展したらしい。

 それこそデザート・シップの登場から間もない時点でその利権を嗅ぎ取り、専用の『港』を整備するぐらいには資金力も先見の明を見る眼力もあるのだろう。それらの力を駆使すれば、ここまで発展したのも頷けるというものだ。

 

 ただ──。

 

「フレイヤ様、少々"ヒリついてます"。あまりオッタル様から離れては……」

 

「分かっているわ」

 

 盛況な様子の市場(バザール)から発せられる熱気とは違う。どこかピリピリした空気を感じ取ったアクスの忠言をフレイヤは耳を傾けながら周囲を観察する。

 すると、()()()()()()()()()()()()()()()が遠くからやってきた。

 

「奴隷……。随分数が多いようだけど、この街の治安は大丈夫なの?」

 

 薄汚れたボロを纏い、手枷に鉄球といった()()()()()()()()()()を付けた奴隷たち。1人2人ならいざ知らず、列を為す程の奴隷に流石のフレイヤもこの地域の治安が不安になって来る。

 しかし、その問いについてもボフマンは持っており、どうやらここから少し離れた『シャルザード』と『ワルサ』という国が戦争状態であるとか。

 

「ボフマン様。カイオス砂漠に存在する国は全て"王国"なのでは?」

 

「おや、従者の方はよく勉強されておりますな。いかにも、全て主神の居ない王国……でした」

 

「でした?」

 

 不穏な言葉にアクスは聞き返すと、どうやらこの戦争の引き金はワルサがとある傭兵系のファミリアを雇ったことらしい。どのファミリアなのかは定かではないが、そのファミリアは強大で瞬く間にシャルザードの王都は陥落、村々は蹂躙されてそこに人さらいが横行した──というのが今のカイオス砂漠の状況のようだ。

 

「ご、ご安心を! ワルサは現在、逃げ延びた王子を擁するシャルザードに手一杯の様子。安全は保障いたしますぞ!」

 

「バカね」

 

 安全だと豪語するボフマンに被せるようにフレイヤがワルサのことをバカにする。唐突の暴言にボフマンが慌てるものの、彼女は我関せずとアクスに説明を指示した。

 

 主神の居ない国がファミリアを雇い入れると、神次第では()()()()()()

 それはそうだろう。神の眷属となれば常人以上の力を出せるし、何より死ににくくなる。兵士なんぞ敵を打ち倒す力を欲するのは当たり前のことだし、それを加味した『生き残りたい』という気持ちは人一倍強いのが普通だ。

 そんなところに傭兵系ファミリアがやってきて眷属の力を目にしたら……待っているのは眷属希望者の数々だ。そうして軍部がその神の手に落ち、事態に気付いた上層部が慌てて契約を切ろうとも『あ、じゃあこの国もらうね』と膨れ上がった眷属でクーデターを起こせば──あっという間に国家系ファミリアの誕生である。

 

「以上のことから、神次第で乗っ取られる。……とヘディン様が仰ってました」

 

「100点満点。ヘディンも鼻が高いでしょうね」

 

 満足のいく回答だったのか、フレイヤは上機嫌にアクスを撫でながら奴隷の列を見やる。

 これでは伴侶(オーズ)探しの気分ではない。この方角は失敗だったかと思ったが、一陣の風が彼女の──否、()()()()()命運を分けた。

 

「フレイヤ様?」

 

「気が変わったわ。ボフマン、奴隷市場に案内してちょうだい」

 

 風によって捲られたフードを再び被り直したフレイヤは、アクスの手を取りながらしきりに揉み手をするボフマンの後についていく。

 

 ちなみに近くの建物で一部始終を見ていたヘディンはフレイヤたちの唇の動きから大体のことを把握したようで、『主の疑問を即決で答えるなぞ初歩の初歩だ』と厳しいコメントを残し、ヘグニから『素直じゃない』とツッコまれたとか。

 無論、()()()()()()()()()()()()のは言うまでもない。

 

***

 

 リオードの町の中央。巨大なオアシスの南西部にある奴隷市場は景観のギャップで風邪を引きそうなシチュエーションであった。

 右を向けば見る人の心を癒す美しいオアシス。しかし、左を向けばすっかり諦めの境地に居る奴隷たち。

 おそらくこの場所を奴隷市場にした人間は相当ひねくれているのだろう。趣味の悪さにアクスが辟易していると、奴隷市場についてから始まったボフマンとこの奴隷市場を仕切るロッゾの醜い争いが終わったのか、奴隷が1列に並びだした。

 

 器量の良い女性はまだしも、その他はかなり痛めつけられたのか傷口が痛々しく残っている。この炎天下や衛生状態だと禄に働くことが出来ずに死んでしまうかもしれない。そう思ったアクスが思わず1歩前に出たところ、不意にフレイヤに抱き上げられた。

 

「アクス、まだ奴隷は商人の物なの。無暗に治癒魔法は許されないわ」

 

「ごめんなさい」

 

「良いのよ、あなたの優しさは私も気に入ってるもの。……でも、酷い色ね」

 

 血色もそうだが、フレイヤが言っているのは『魂』の色だった。

 誇りも矜持もなく、尊厳も踏みにじられた絶望の色。ここで『助けて』と言ってくれれば、さしものフレイヤも手を差し伸べるのもやぶさかではない程に空気が淀んでいる。

 品定めをするように奴隷を見ていくフレイヤだが、1人見ていくごとに明らかに失望の色が深くなっていく。そんな彼女の表情にボフマンもどうしていいかオロオロしていると──。

 

「見つけた」

 

 フレイヤの目の前には先ほど大通りを歩かされていた1人の少女が居た。

 褐色の肌にぼさぼさの黒髪。薄紫の瞳をした整った顔立ちの少女。彼女もフレイヤの影が止まったことに気付いて上を向くと、美の神特有の雰囲気に一瞬呑み込まれつつもフレイヤの問いにしっかりと答えたのだ。

 その反応からさらに笑みを強くしたフレイヤは、抱き上げていたアクスをそっと地面に下ろして治癒魔法の準備を指示した。

 

「フレイヤ様、よろしいのですか?」

 

「良いのよ。買うものが決まったから」

 

「おぉっ、左様ですか!」

 

 商品が売れることを予期したロッゾが満面の笑みを浮かべながらおべっかを垂れ流すが、フレイヤの性格を知っているアクスの背中は嫌な汗でじっとりと濡れていた。

 極東には『蛙の子は蛙』という諺がある。何が言いたいかと言うと、強靭な勇士(エインヘリヤル)は日常的にとんでもないことをやらかすのだが、こういう時のフレイヤも似たり寄ったりなことをやらかすのが通例である。

 

 そしてなによりアクスの治癒魔法はヘイズと同じ魔法円(マジック・サークル)の中に居る存在を癒す『範囲型』。それが意味することとはつまり──。

 

「全部いただくわ」

 

 そういうことだ。

 

 当然ながら奴隷全てを購入という未曽有のことにしばしフリーズしていたロッゾたちだが、ようやく正気を取り戻したのかしきりに『そんなことが出来るわけない』と言わんばかりに口から言い訳染みた言葉を垂れ流す。

 

 しかし、彼の口から吐き出される言葉はまさしく()()()()()のだ。

 迷宮都市オラリオの最大派閥である【フレイヤ・ファミリア】の主神が『すべて購入する』と言えば、それはまさしく神の啓示。王国で言うところの勅命に他ならない。

 すなわち、この場においてフレイヤへ口答えをしてしまったロッゾは、本来ならば厳罰をもってして罪を償わなければならない。ただ、ここはオラリオのホームでもなければ彼は【フレイヤ・ファミリア】の団員ではない。そのためにフレイヤは再び問うた。

 

「すべて、もらっていくわね?」

 

「っ! ……ははぁ!」

 

 もはや言葉は無粋。ロッゾは即座に平伏し、他の奴隷商人もそれに倣う。こうして、奴隷市場の奴隷は全てフレイヤの手に渡ったのだ。

 

「あら、アクス。何をしているの? はやくこの子たちを癒してあげて」

 

「あ、はい」

 

 ただ、そんな()()()()()について脳内の算盤を弾く者が居た──アクスだ。フレイヤに改めて治癒魔法を乞われたので、彼は詠唱しながら【フレイヤ・ファミリア】の財政状況を考え直す。

 

 ──食い尽くせぬ食料。大釜を満たす蜜酒。それらを振るまいし黄金よ。我に戦士を戦場に戻す手助けをさせたまえ。

 ──来るべき戦いに備え、朝に死に、夕に蘇る戦士たちよ。多くの名を持つ女神の呼び声に奮い立て。

 

(そういえば、アルフリッグお兄ちゃんたちって装備新調してたっけ)

 

 ──煤けた者の食事を手にする者よ。朝に負った傷を早急に戻したまえ。

 

(ヘディン様たち、知り合いに冒険者依頼(クエスト)頼まれたって言ってたけど……。報酬はどうなるんだろ)

 

 ──甘い蜜酒を飲み干す者よ。明日殺し合う活力を取り戻せ。

 

(小父さんは……。ヘルンお姉ちゃんとかギルドに適当なの見繕ってもらおう)

 

 ──束の間の安息を求める者よ。いかなる不調も女神の前では芥と知れ。

 

(副団長……。駄目だ、絶対行こうとしない)

 

 ──我こそは黄金の守護者。肉と酒を食らいし戦士たちよ。洛陽は遠く、朝日は昇っている。

 ──(くる)え、(くる)え、(くる)え。殺し合いを告げる光のもと、果てなき争乱をここに。

 ──ケーリュケイオン。

 

 詠唱が終わると共に黄金の魔法円(マジック・サークル)が顕現する。あっという間に眩い光が魔法円(マジック・サークル)内を満たし、次の瞬間には範囲内に居た者の傷や血色が健康そのものとなった。

 

「治癒魔法……しかも範囲型だと……」

 

「【フレイヤ・ファミリア】であのような治癒魔法の使い手……。まさか、【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)!?」

 

「残念だけど人違いよ。それよりもボフマン、"私の子"の戒めを解いて。それと運ぶ準備をなさい」

 

 凄まじい歓声の中でも良く通るフレイヤの指示。しかし、手枷などの拘束はどうとでもなるがいかにファズール商会がデザート・シップすら持つ豪商の類でも数百人にも及ぶ数の奴隷を収容するには場所が足りない。

 

 ならばどうするか──決まっている。

 

「なら……、そうねぇ。アクスー」

 

「なんでしょうー」

 

 治癒魔法の効果ですっかり元気になった老若男女からもみくちゃにされていたアクスがフレイヤの呼び声にやってくる。まるで小型犬が走り寄ってくるようなその姿に『これはヘイズじゃなくてもヤられるわね』と半ば諦めたような独白をしつつも、周囲の建物を指差しながら『どの家が良い?』と問うた。

 

 そう、この女神。奴隷のみならず、家までも大人買いならぬ『神買い』をしようというのだ。特に高い建物から『自由か!』という嘆きの言葉が聞こえたのは気のせいだろう。気のせいに違いない。……多分気のせいではないのだろうが、アクスは聞かなかったことにした。

 

 しかし、かと言ってフレイヤをその辺の宿やボフマンの屋敷に泊まらせるというのはそれはそれでナンセンスだ。それにこの大砂漠を舞台にした戦争が決して()()()()()()()()()とは思っていなかったアクスは、明確な意思で忠言を行った。

 

「フレイヤ様。正直、この砂漠の情勢が安定していない以上は防備が必要となります」

 

「オッタルたちが居るのに?」

 

「御身のことは小父さんたちにお任せしますが、財産……奴隷の人たちまでは保証できません」

 

 フレイヤ本人は良い。どうせオッタルたちが付かず離れずで護衛して道行く障害を可哀想なぐらい打ちのめすことだろう。

 そして奴隷たちも現在はフレイヤの所有物──財産ということで庇護下に置かれる。ただ、それは()()()()()()()()()()()()()()有効だ。

 例えばフレイヤが一時的にこの地を離れた時。そして、この地に外部からの攻撃の手が加えられた時。奴隷たちに抗う術はない。

 

 そう思ったからこそ──思って()()()()からこそアクスは()()()()()()最善を紡ごうと上役の判断を仰ぐ許可を取ろうと提案する。

 

「少々お待ちください。ヘディン様に防衛に最適な家を決めていただきます」

 

「……10分。それとあなたから話をしなさい。私からは何も言わないわ」

 

「御意」

 

 明確な制限時間が決められたアクスは、そのまま近くの高い建物を上り始める。その屋根にはいかにも勇猛そうな数人の強靭な勇士(エインヘリヤル)が一様に手で顔を覆うといういかにも気苦労マシマシの行動をしているのだが、早急に事を進めなければならないので思い切って声をかける。

 

「ヘディン様、拠点防衛に優れた家を見繕ってください」

 

「理由は?」

 

「フレイヤ様の財産である奴隷を守るため」

 

「なぜそんなことをする必要がある」

 

「砂漠の情勢的に2国だけが争うのはあり得ないからです」

 

 現在は逃亡した王子を探すためにシャルザードの領地を探しているワルサ軍だが、雇われのファミリアが大人しくしているはずがない。ただでさえ傭兵系ファミリアなどといったアングラ系はその地の混沌など悪寄りの思想が強い傾向があると以前ヘディンがアクスに教えていたことから、彼は『何かにつけてこの町を攻めて来ること』を懸念材料として提示する。

 

「それは私も予測している。だが、あの奴隷たちを購入したことで財政破綻はしないまでもかなりひっ迫した財政状況なのは確かだ。たかが数日のみの関係となる奴隷にそこまでする義理立てはないだろう」

 

「"既に彼らはフレイヤ様の物"です。フレイヤ様の財産を路傍に並べさせるおつもりですか?」

 

「……、まずまずだ。ヘグニ、奴隷の数を正確に数えろ。場所を選定する」

 

「分かった」

 

 アクスの啖呵にヘディンはふっと笑う。彼の言う『まずまず』とはかなり賞賛されていることを知っているヘグニは、アクスの頭を撫でながら『よく出来たね』と奴隷の数を数え始める。

 やがて奴隷の正確な数が分かると、ヘディンは眼鏡を上げながら周囲を観察し──大オアシスの中央の島に建っている荘厳な宮殿を指差した。

 

「あれならばこの街全員……は難しいが、奴隷たちであれば収容は出来るだろう。それにオアシスが堀の代わりとなる。魔導士や射手を用意すれば籠城は出来るだろう」

 

「ふ、ふふふ。問題は対価。我等の蓄えは消失する。ヘルンたち怖ぁい……」

 

『じゃ、面倒は全部頼んだぞ。猪』

 

 たしかに多くの奴隷を収容できる広さと防衛の観点から最適な場所ではある。その分お値段が鰻登りとなることで会計役の2人の女傑が頭を悩ませるだろうが、そこら辺は下級団員も巻き込んで何とかするほかないだろう。

 ただ、一向に協力してくれない幹部たち。オッタルはそろそろ怒っても良いだろうかと自身に問いかけていると──。

 

「小父さん、ごめんね」

 

「お前が気にすることはない。それより、おそらく奴隷に食事を振舞うおつもりだろう。満たす煤者達(アンドフリームニル)流を見せてやれ」

 

「あい」

 

 超個人主義の【フレイヤ・ファミリア】の中の一服の清涼剤。その恩恵はオッタルも受けており、幾分か怒気が薄れた彼はアクスに免じて相変わらず勝手なことをいう幹部たちへの制裁を後回しにしたのはここだけの秘密である。

 

***

 

 時を同じくしてオラリオの戦いの野(フォールクヴァング)では──。

 

「あんの筋肉達磨はぁっ! 私もついていくって言ったのにぃぃ!」

 

「ヘイズ、あなたは仕事があるから仕方がないじゃない」

 

「アクスゥ! 戻ってきてェ! お姉ちゃんを癒してぇ!」

 

「はぁ……」

 

 アクスがフレイヤについていったということで自分も追いかけると宣言したにもかかわらず、準備している間に置いて行かれたヘイズがヘルンに愚痴っていたとか、なんとか。




お母さんについていくポメポメしたナマモノがカイオス砂漠にエントリー。なお、
アクスの登場で主にラシャプ・ファミリアが酷い目にあいます。

アクス
 当時はもう少しで10歳になる頃(時系列が分からないため、オリジナル)。
 LV.2に至った理由は件のダンジョン内殺し合い事件にてサポーターとしてヘイズに連れて行かれ、バロールの光線をなんとか防ごうと全力投石したら運よく目玉に当たって魔力暴発を起こした偉業なのかよく分からない功績でランクアップ。
 元ネタは神話のバロールの最期から。本当はそれが原因で撃破させたかったが、LV.1が勝てるわけがないのでしばらく行動不能にしただけ(それだけでもすごいが)

ケーリュケイオン
 フレイヤ・ファミリア版に詠唱を変更。ほとんど神話のフレイヤ系統の内容だが、最後だけはヘイズの治癒魔法から引用。
 なお、詠唱文を見た時のヘイズは(以下略)
 ちなみにWIKIで調べていると『ヘイズルーン』というエインヘリャルのために蜜酒を造り出す山羊の記述があり、淫らな獣という記述もあった。…肉食獣なのは間違いじゃなかったんや!

フレイヤ
 ポメッとした可愛くて成長を期待している眷属と一緒に旅行出来てご満悦。

オッタル
 アクスの顔に免じて幹部への制裁を止める。これによってリオードの町の平和は保たれた。

ヘディン
 報告は素早く、自分で考え、わざと出した反対案にも的確に答えてくるアクスの成長にちょっとだけ満足。特に幹部連中は超個人主義なので、なおさらアクスの対応が眩しい。

ヘイズ
 カムバァァァック!
 なお、置いて行かれた理由はオッタル曰く『準備が長い』。どこまでもフレイヤ至上主義の武人である。

ボフマン
 後々、小さなオッタルになる豚。デザート・シップの魔力を1人で賄ったアクスが無名なことから裏で必死に調べている。


【挿絵表示】

目線が怪しい?
キノセイキノセイ ヘイズさんは瀟洒で素敵なヒーラーですヨー。ホントダヨー。
(なんか手が増えてる心霊写真風ですが、これがマトモだった。AIムツカシイヨ)
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