ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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今日は寒く、1日中こたつむりになっていたので投稿
リアルのお酒は20歳になってから

また、アミッドが軽くキャラ崩壊していますが、ご容赦ください


19話:酒は飲んでも飲まれるな

 パルゥム2人でなんとか【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)である廃教会までベルを運び込んだアクスたち。リリルカが『待っていてください』と地下へ繋がる階段を降りて行ってしばらくすると、扉が勢いよく開く音とヘスティアが飛び出してきた。

 

「あぁ、神父君! ベル君は! ベル君は無事なのかい!?」

 

「いえ、その……」

 

「なんだい? もしかして、入院かい? それとも今夜が山なのかい!?」

 

 言いにくそうにするアクスの胸ぐらを掴みながらガクガクと揺するヘスティア。徐々に顔が青白くなりながらも彼は必死に下を指差すが、すっかり舞い上がっている彼女は一向に気付かない。

 そんな一方的なやり取りをしていると、リリルカが階段を上がってくる。なぜか頭に大きなたん瘤をこさえてはいるが、彼女はヘスティアに揺すられているアクスと()()()()()()を見るや否や悲鳴混じりの大声を上げた。

 

「ヘスティア様、踏んでます!」

 

「へっ?」

 

「ベル様を! 踏んでます!」

 

「うえぇぇぇ!? べ、ベルくぅぅん! だ、誰がこんなことを!」

 

 慌ててその場を飛び退いたヘスティアがベルを抱き起こしながらおいおいと泣き喚く。しかし、先程のやり取りがあった後なのに面の皮が厚すぎやしないだろうか。

 思わず『あんただよ』と突っ込みそうになったが、アクスは既のところで飲み込むとヘスティアに事情を説明するために本拠(ホーム)の中へとお邪魔した。

 

「君が救ってくれるのは2回目かな。いや、サポーター君を合わせると3回目か。本当にありがとう」

 

「いえ。ですが、ヘスティア様にお願いしたい……というか、おそらくですが眷属であるベル様に施すのをお忘れになっていることがあります」

 

「なんだい? 君は神ではないのだろう?」

 

 神の了見に首を突っ込んできたのかとヘスティアは怪訝な顔をするが、アクスはアミッドの背中を例にディアンケヒトから教えてもらったステイタスのロックについて教える。

 エルフなどの長命種や『海上学術機関特区』の出身者のような頭の良い人間には神々の使う言語である神聖文字(ヒエログリフ)が読めてしまう。そのため、具体的にどうするかは教えてくれなかったが、冒険者はステイタスを主神に隠してもらうのが常識なのだ。

 

「うえぇ!? じゃあ、ベル君のは……」

 

「アビリティの部分だけですが、読まれましたね。【ロキ・ファミリア】にはハイエルフの方が居ますので。後、アイズ様もちょっと読めるみたいです」

 

「あー、アビリティまでかぁってここでもヴァレン何某か……」

 

 『ぐぬぬ』と悔しそうな顔のヘスティアだが、正直言ってこのままではマズイとアクスは正直に告げる。

 なにせ、オラリオには神が闊歩しているのだ。誰が神聖文字(ヒエログリフ)を読めるなんていちいち確認できるはずもない。

 特に今回のように気絶中。オラリオ内では公衆浴場など不可抗力で見えてしまった場合、『見られる方が悪い』とされることも往々にしてある。そんな場面で読み取った部分に希少な魔法やスキルを刻まれていたとすると、待っているのは神々の玩具だ。

 

 大手ファミリア所属という盾が無ければ唯一の眷属を奪い取られてファミリアが消滅……というのも何らおかしくはない末路だ。大手ファミリアでも障害にならないと突っかかってくる怪しいファミリアもあるにはあるが、それを丁寧に教えるほどアクスは【ヘスティア・ファミリア】には入れ込んでいない。

 

「うっ、そうだったのかい」

 

「ヘスティア様、そんなことも知らなかったんですか?」

 

「五月蠅いなぁ。僕だって初めてファミリアを作ったから分からなかったんだよぉ……」

 

 リリルカの呆れたような言葉にヘスティアは噛みつきながらも自信なさげにアクスを見る。【ヘスティア・ファミリア】は新興ファミリアだが、周囲にとっては『だからなんだ』である。余計なトラブルでそういったファミリアが減るのは神にとっても冒険者にとっても不幸でしかない。

 とりあえず、神友にステイタスをロックして他人に見られることが出来なくする方法を教えてもらえるように頼みこむことから始めるようアクスはアドバイスを送った。

 

「なるほど。じゃあ、明日にでもヘファイストスに聞いてくるよ」

 

「ただ、ステイタスをロックしても気を抜かないでくださいね。開錠薬(ステイタス・シーフ)という物もありますから」

 

「なんだい、それは」

 

 聞き馴染みのない名前にヘスティアが首を傾げていると、アクスの横に立っていたリリルカが手を上げながら説明し出す。

 端的に言えばロックしたステイタスを見る道具。材料に神の血(イコル)が使われており、使用用途的に言えばステイタスの覗きと同義なので地上では禁制品として扱われている。

 

「なら、心配いらないじゃないか」

 

()()()()です。本拠(ホーム)やダンジョン内で使われたら【ガネーシャ・ファミリア】でも迂闊に捜査が出来ません」

 

 例えば精神力枯渇(マインドゼロ)や大怪我などで気絶した状態。リリルカ程度では数人でかかってしまえば無力化出来るため、そういったことを踏まえて眷属は増やすことをアクスはお勧めする。

 ただ、何度も言うが【ヘスティア・ファミリア】は零細の新興ファミリア。いくら集めようとしてもたかが知れているため、神友のファミリアに声をかけてファミリア合同で探索する手はずを整えるのも主神がやるべきことだと説明した。

 

「なんだか、神父様に主神代理を頼んだ方が上手く行きそうですね」

 

「往診先で様々な神や冒険者の方からお話を聞きますからね。それらを統合しただけです。さっきの開錠薬(ステイタス・シーフ)の話も、ヘルメス様とアスフィ様から"口を割らない犯罪者の身元を洗うのには最適"ってお聞きしましたし」

 

「なにやってるんだよ、ヘルメス……。まぁ、言いたいことは分かったよ」

 

 子供に後ろ暗いことを教える神やその眷属に引いたヘスティアであったが、ベルの個人情報であるステイタスを守る手段すらも持ち合わせていなかった彼女にとってはこれらの情報だけでも十分ありがたかった。それこそリリルカの言っている通り、ファミリア運営について片手間で良いから聞きたいと思っているほどにヘスティアの心は揺らいでいたりする。

 

「つかぬことを聞くんだけど、君は往診もしてくれてるんだろ? 色々教えてくれるついでに、うちにも来てくれないかな……なんて」

 

「構いませんよ。ただ、団長か団員の合議制なので後者は時間がかかりますが」

 

 アミッドの判断の場合は問題がないと分かると一瞬で済むが、団員全体で決める際は後ろ暗い過去の冒険者が居ないかの調査から入るので時間がかかる。

 だが、【ヘスティア・ファミリア】は作ったばかりなのでアミッドに言えば問題ないだろう。そう結論付けたアクスにヘスティアが他に気にするところはないかと聞いてくるので、彼は部屋全体を見回して一言付け加えた。

 

「今後眷属を増やすおつもりですよね? ならば、ステイタスを更新する場にはロウソクがあると便利です」

 

「それはなぜだい?」

 

「ステイタスを写した紙を燃やすためです。いくら同じファミリアでも他人に自分のステイタスを見せたくない人も居るんですよ」

 

 ステイタスはある意味自分の全てだ。人の口に戸は立てられぬといった具合にどこから情報が洩れるか分からないと危惧する冒険者は、ステイタスが更新された時に主神から渡された紙をすぐに燃やす。

 アクスの所属している【ディアンケヒト・ファミリア】や往診先の【ロキ・ファミリア】でもその取り組みが為されており、ある意味では大手のスタンダートともとれる方式である。

 

 ただ、アクスの場合はお姉ちゃん権限でこれまでのステイタスを記した紙は全て回収。アミッドの部屋にある鍵付きの引き出しの中に厳重に仕舞われているが、愛ゆえに些細なことだろう。

 

「なるほどねぇ。他には何かないのかい?」

 

「そこはヘファイストス様へどうぞ。制作系ファミリアですが、遠征にも付いて行けるほどの実力者が数多く在籍していますので」

 

 アクスは神ではないため、ファミリアのイロハなど分からない。ただ、あのパルゥムの英雄が日頃頭痛薬と胃薬を常飲しているところを見るに、団長は激務なのだろうということは分かったがヘスティアの手前言い出すことが出来なかった。

 

「そうだね。分かったよ、とにかく今日は……今日()か。ありがとう! このお礼はいずれ、精神的に返すよ」

 

「そこは神様なんですからちゃんと金銭でお支払いしてくださいよ」

 

「無い袖は振れないのだよ、サポーター君!」

 

「威張らないでください!」

 

 ベルが寝ている傍で姦しく騒ぐ神とパルゥムに色々言いたくなったが、そろそろ夕方から夜になる頃合なのでアクスはお暇することにした。

 

 ……金銭と言われて何か思い出しそうな気がするが、忘れるということはどうでも良いということだとあのうさん臭い神(ヘルメス)様が言っていたので多分気のせいだろう。

 

 そう思いつつ、アクスは廃教会を出てメインストリートに沿って治療院へと戻ってくる。

 

「ただいまー」

 

「あれ、アクス。18階層に行ってたんじゃないのか?」

 

「イレギュラーがあってフィンさんからお暇貰ったー」

 

 すぐに戻ってきたアクスに驚いた団員たちにベルがミノタウロスを倒したことを伏せてあらましを伝えると、『ミノタウロスってマジかよ』と一様に驚愕していた。

 無理もない。通常は中層に居るようなモンスターが上層にまで上がってきたのだ。そんなイレギュラーがあれば帰らせるのは至極真っ当な判断である。

 

 どういった事情であれ、ダンジョンから帰ってきたアクスを店仕舞いを終えた団員たちが取り囲んでいるとアミッドとディアンケヒトがやってくる。彼女たちもてっきり数日は戻ってこないだろうと思っていた存在がちゃっかり戻ってきたことに驚きつつも、理由を聞いて納得しながらアクスの手を取った。

 

「とりあえず、お説教です」

 

「なんで?」

 

「なんでじゃなかろう! あんな高級品をあっさりもらいおって! ヘファイストスの説明が無ければそのまま送還されるところだったぞ!」

 

 口角泡を飛ばしながらキレるディアンケヒト。彼の性分的に言えば仕方のないことなのだが、一応報告と連絡はしたはずのアクスは怒られる所以はないと首を傾げていた。

 そのままズルズルとディアンケヒトの私室まで引き摺られたアクスであったが、待っていたのはお説教ではなく状況報告の場であった。

 

「ダンジョンについてはさっき報告したよ?」

 

「クエストの報告はまだでしょ? 特にあの資料を【ロキ・ファミリア】が購入するってアクスの発案のはず。違う?」

 

「あのロキの所の眷属があれを目敏く見つけるとは思えんしな。ただ、他派閥のことをあまり他の団員にも聞かせるわけにもいかん。ゆえにこうして連れてきたわけだ、許せ」

 

 どうやらみだりに余計な話を聞かせたことで団員たちが危険な目に遭う可能性があると考えた措置らしい。相変わらず回りくどい眷属への愛情にアミッドは辟易しながらも、横で何から話そうか悩んでいるアクスに好きに話すよう促す。

 

 そうなると、出るわ出るわ。

 椿から渡されたブリューナクの主な性能。【ヘルメス・ファミリア】で4人の殉職者を出したこと。【ヘスティア・ファミリア】への往診のこと。そして、素材を一時的にファミリアで保管して製造をしてもらう『持ち込み』のこと。

 ディアンケヒトたちの中では特に目立ったことは資料を基にした勉強会程度だと思っていたのだが、蓋を開けてみたら待ってたのは情報の散弾。すぐに処理をしきれなかった2人はしばらく固まって後にようやくアクスに色々聞いては内容を咀嚼し始める。

 

「アクス。そのブリューナク……というのは治癒魔法を遠方に飛ばせるといったな? どうするのだ?」

 

「こう……投げて。刺さった場所に治癒魔法が発生します」

 

「【ヘルメス・ファミリア】ってアスフィ様の所? レベルはともかく、どこでお亡くなりに?」

 

「色んな人の話を総合すると、24階層。たしか、そこでもイレギュラーが出たってアイズさんとレフィーヤさんが言ってた。エリリーさんもそこだって」

 

「あんな深い刺し傷を作るモンスターが24階層に……?」

 

「【ヘスティア・ファミリア】? あぁ、あの穀潰し。とうとう追い出されたと聞いたが、ファミリアを作ったのか」

 

「最近、出来たみたい」

 

「特にこれといった問題は起こしてないみたいですし、私から許可を出しましょう。新興ファミリアは何かと怪我が付きものですから、アクスから色々教えてあげて」

 

 前半3つについて幾度となく質問を交わしたディアンケヒトたちは何とか飲み込むことに成功する。ただ、最後の持ち込みについてはディアンケヒトの嗅覚が新たな『商売』の匂いを感じ取ったのか、具体的な説明をアクスに求めてきた。

 

「うーん、例えばブルー・パピリオの(はね)かなぁ。結構品薄になるよね」

 

「そうね、比較的遭遇しやすいレアモンスターだけどかなり品薄になりやすい素材ね」

 

「なら、予めファミリアに素材を置いてもらって後から調合費をもらって代理制作すれば良いんじゃないかなって。探索系ファミリアでハーバリストって少ないし」

 

「なるほど。客は自分の所の素材で回復薬(ポーション)が安上がりで手に入る。こちらは調達した素材を使わずに手間賃を受け取れるわけか。中々冴えておるではないか、アクス」

 

 詳しい内容を把握したディアンケヒトが上機嫌で笑う。ただ、彼の頭の中では今の説明だけでは『不足』と訴えていた。

 例えばクレーム。安全に調合をする以上は清潔な調合室に篭らなければならない。そうなると客からは見えないため、『素材をすり替えられた』や『古くなった素材を使われた』と言われる可能性が出てくる。

 それだけならまだ良いが、受け取った回復薬(ポーション)を薄めていちゃもんを付けてくる客も居そう──というか、今の状況でも少数ながら居たりする。

 

 だが、それでも素材を使わずに手間賃を頂けるというのは魅力的だ。

 【ディアンケヒト・ファミリア】は何かと大きすぎるため、素材を大量に発注すれば情報が洩れて高騰化したことも1度や2度ではない。特に【ロキ・ファミリア】のような大手が率先して素材を保管し、遠征や細々とした際に逐一制作依頼を出してくれればウハウハとなる。

 

「だがな、アクス。お前は優しすぎる。ゆえに儂が色々完璧になるよう手を加えてやろう。気長に待て」

 

「えー、僕の考えなのにー!」

 

「アクス、あんまり悪いことを考えるとディアンケヒト様になるからやめなさい。ことあるごとに高笑いをする老人になりたくないでしょ?」

 

 己が右腕たるアミッドからの主神ディスをさらりと流しつつ、メリットとデメリットを正しく認識することが出来たディアンケヒトはアクスが考えたであろう荒削りの案を一旦保留にする。

 なにせ時間が唸るほどある。デメリットは最小限に、メリットは最大限にと推敲し出した彼の口からは下卑た笑いが止まらなかった。

 なお、制作するアミッドや薬師(ハーバリスト)たちの気苦労については……神ゆえに気付かなかった。

 

「なにはともあれ、ご苦労だった。下がって良いぞ」

 

「あ、ディアンケヒト様。そろそろ"アレ"をお願いします。限界なので」

 

「……何本だ?」

 

 アミッドの意味深な発言にディアンケヒトが訪ねると、彼女は片手の人差し指と中指を立てる。その仕草に明日のアミッドとついでにアクスの勤怠状況を調べた彼は、小さく『飲み過ぎるなよ』と形だけの忠告をした後に私室の奥から2本の瓶を取ってアミッドに渡した。

 

「ディアンケヒト様がもう少し私への無茶ぶりを止めてくれたらこうなる頻度は減ると思いますが?」

 

「ガハハッ、そりゃあ無理というものだ」

 

 皮肉を笑って返されたアミッドは、『3本にすれば良かった』と小さく呟きながらアクスを連れて出ていく。

 その後、夕食の席で彼女の発した『宣言』に全員の心は1つとなり、同時に目の前のアミッドに向けて憐憫な視線を送っていた。

 

***

 

「アクス~、私頑張ったよ? 頑張ったのに、し"ごと"へ"ら"な"いのぉ~。ディアンケヒト様がぁ~……知らない内に増やしぢゃうの"ぉ~」

 

 夜。誰も近づかないよう厳命された突き当りの部屋の中でアミッドらしき声が聞こえる。ただ、その声はいつもの凛としたものではなく、まるでこの世全てのブラック環境を憎むような泣き声であった。

 中を覗くとネグリジェ姿のアミッドがワイン片手に涙を流しながら如何に自分が仕事を頑張っているかを目の前のアクスに説いていた。

 

「そうだよね~。お姉ちゃん頑張ったもんね~。ちゃんとお水飲まないと駄目だよ~」

 

「流石、私の癒し! 治療師(ヒーラー)の中に治療師(ヒーラー)! うふふふ」

 

 すっかり出来上がっている状態のアミッドにアクスは炭酸水を注いだグラスを差し出す。

 これは酒神のディオニュソスからの知識だが、ワインを飲んだら炭酸水が最適らしい。酒を飲んだことが無いので『ほへ~』としか覚えてなかったが、こうして姉の役に立つのだからどんな知識でも無駄にならないと12歳という若さにも拘らず達観した考えを浮かべていると、1本目を空にしたアミッドは2本目の酒瓶を取り出した。

 

「じゃ~ん、高級ブランデー。わ~い」

 

「はいはい、その前におつまみ。明日お休みなんだから、頭痛くなるのは嫌でしょ?」

 

 ブランデーの瓶を取り上げながらアクスは小さな料理が盛られた小皿を2枚差し出す。

 1枚目には少々固くなったパンを1口で口に入れられる大きさに切り、その上にディアンケヒトが夜中こっそり食べていたお高そうなチーズの切れ端を乗せた物が盛られている。上には少量の岩塩を振りかけているため、酒飲みにはたまらない1品だ。

 2枚目には【デメテル・ファミリア】が丹精込めて作った野菜を細長く切った物が乗せられている。元は豊穣の女主人で出されているおつまみなのだが、本来は添えるべきソースを作る材料が無かったのでそのままというワイルドスタイルだ。

 

「だからぁ~、いつも買ってるからまけろなんて言われてもぉ。無理って言ったのにぃ、商品も駄目にするしぃ……ヒック。私も必死に頑張ってるのでぇ~。アクスからのぉ……ご褒美が必要だと思いまぁす」

 

「ご褒美は明日にしよっか」

 

 ワインを1本開けたからか、呂律どころか色々な部分が若干怪しいアミッド。しかし、アクスは禁断の4本飲みという地獄を生還した治療師(ヒーラー)。この程度の酔っぱらいの相手は慣れている。

 

 たしか、あの時は【ロキ・ファミリア】以外にもミッションで遠征に出るファミリアが2つあり、さらにはとある階層のイレギュラーで治療院のベッドが満員になっていた時期だ。

 残業に次ぐ残業──どころか、治療院に併設される形でファミリアの宿舎があるので文字通りの()退()()()()。扉を開けるとすぐ職場な環境のため、アクスを含めて全員の目が漏れなく死んでいたように思う。

 そうして約1か月のデスマーチを乗り越え、極度のストレスを抱えたアミッドは駆けつけ1杯どころか1瓶を雄々しくラッパ飲みし──後は想像にお任せする。

 

「アクス、美味しい?」

 

「おいひい」

 

「そっか~。ふわふわ~、モチモチ~」

 

 ふにゃふにゃした笑みでアクスを餌付けしながら撫で回しているアミッド。この記憶も漏れなく継承されるため、後で自己嫌悪に陥るのが約束されているが、ここでそのことを言及して無理矢理止めさせるとさらなるストレスが彼女にかかるので『毒を食らわば皿まで』精神でアクスは静観する。

 

「じゃあ、ブランデー行っちゃいましょう」

 

「ちょーい、ちょいちょいちょい」

 

 すると、いよいよもってアミッドが2本目の瓶に手をかけた。新たに用意したガラス杯の中にブランデーをそのまま入れるという剛毅な飲み方をしようとする彼女をアクスは慌てて止める。

 こちらは飲兵衛のロキからの知識だが、ブランデーはアルコール度数がかなり高いらしい。なので、ゆっくり飲む分には良いがベロンベロンに酔った場合など正常な判断が出来ない場合は飲み過ぎることがあるとか。

 

 なので、先程アミッドが飲み残した炭酸水を入れてやって柑橘の果汁を注ぐ。差し出したガラス杯を最初は訝しげに舐めるアミッドであったが、気に入ったのかコクコクと飲み始める。

 

「美味しい」

 

「豊穣の女主人で出されてる奴だよ。稼いでる女性冒険者に人気なんだって」

 

「本当は酒場の手伝いなんて、私は反対なんですからねぇ?」

 

 そう言いながらアミッドが再び絡んでくる。アクスを呼び寄せた彼女はその小さな身体を自らの膝に乗せ、彼の頭に顎を置いてすっかりリラックスした状態で一頻り戯れていたが、ふと消え入りそうな声を出した。

 

「私はアクスのお姉ちゃんを出来てるのでしょうか」

 

「お姉ちゃん?」

 

 アクスの問いかけにも気づかぬまま、アミッドは真面目な口調でポツポツと懺悔のようなことを口走っていく。

 

「アクスのやりたいことをちゃんとやらせて。独り立ち出来るように導いているのでしょうか。もしかしたら、私の我儘に付き合って……治療院も本当はやりたくないとか……。でも、そうしたら私は……」

 

 今までひた隠しにしてきたのだろう。禁断の4本飲酒でも溢さなかったアクスにとって今更な弱音がアミッドの口から次々と語られる。

 本当に今更だ。アクスが好きでなければ往診なんて提案しない。アクスがやりたいことだから治療院のことを手伝っている。姉であるアミッドの背中があるからアクスはそれを目標に追いかけることが出来る。

 どれもアミッドが率先してくれたからこそアクスがここまで成長できたのだ。無論、フィンやヘイズといった他の冒険者も彼の成長の一助に放ってくれているが、彼の原典(オリジン)はアミッド・テアサナーレである。

 

 いくら弱音を吐いているのが本人でも、情景を否定されたと思ったアクスはアミッドの膝から離れる。再び椅子に座り直した彼は、深く深呼吸をしてからアミッドを強く睨み付けた。

 

「馬鹿なこと言わないで。僕の目標はアミッド・テアサナーレ。あなただ。あなたを目指して僕は治療師(ヒーラー)になった。いくらお姉ちゃんでも、僕の憧れの人を貶めるのは本人であっても許さないよ」

 

 夢にまで思わなかったアクスの強い言葉。なにより、面と向かって『目標』と言われたことに目を丸くさせたアミッドはしばらく動けなかったが、しばらくすると満面の笑みで両手を前に出した。

 

「おいで」

 

「いや、なんか言ってよ。怖いよ」

 

「おいで」

 

 有無を言わさぬ様子にアクスはもう1度アミッドの膝に乗る。すると、彼女の両手がアクスの頭を掴んでそのまま乱暴に撫で始めた。

 最初こそ『良い子』と機嫌良く頭を撫で回していた彼女であったが、少しすると手の動きがどんどん鈍くなっていく。数分もする頃には完全に手が止まり、アクスの頭を枕にして寝息を立て始めた。

 

「やっと寝た」

 

 絡み酒に泣き上戸、そして再び絡み酒。絶対に外で酒は飲ませられないと思ったアクスはアミッドの拘束から脱すると床に寝させる準備を始める。

 本来はベッドに寝させるべきなのだが、いくらアミッドの身長が低いとはいえLV.2のパルゥムが彼女を起こすことなく移動させることは不可能だ。起こせば再び酒をかっ食らう可能性も高いということは経験則で知っているため、アクスは机の上に乗せていた皿や酒瓶を部屋の隅にあるアミッドがよく読み物や資料作成をするのに使う机の上へと避難させる。

 その後は椅子や机を移動させ、空白地帯となった場所に椅子に座っている彼女を足に麻痺が残る患者のように立ち上がらせてからゆっくりと寝かせ、ベッドから枕と布団を持ってきて各所に配置する。

 

 大抵はここで起きて2回戦か素直にベッドまで移動するかの2択となるのだが、今回は上手くいったことにアクスは胸を撫で下ろした。

 

「アクス……目標……お姉ちゃん頑張るから……」

 

 何やら寝言を言っているが、そんなに嬉しかったのだろうか。姉の考えていることが全く分からなかったアクスは部屋から出て行こうとするが、少し考えてから靴を脱いでアミッドの寝ている蒲団の中へ潜り込んだ。

 

「えへへ」

 

 最近はマシになったとはいえ、アクスはつい数年前まで1人寝が全く出来ない子供であった。団員たちが入れ替わりで横で寝かせていたが、やはり1番多く横で寝ていたのは団長であり拾ってきたアミッドである。

 すっかり懐かしい気持ちになったアクスは昔のようにアミッドにくっついて眠りにつく。

 昔のように薬草と消毒液と優しい匂い。久方ぶりに彼は本当に安らいだ笑みで意識を手放した。

 

***

 

 翌朝。開店準備に走り回る団員たちの足音でアミッドは朧気に目を覚ます。未だ意識が半分夢の中だが、残り半分の意識が社会人に与えられた特権である安息日であることを認識させる。

 

「もう少し……」

 

 休日限定の至福の行為。『二度寝』をしようとアミッドが寝ぼけ眼で横を見ると、アクスが眠っていた。

 あのまま疲れて眠ってしまったのだろうとアミッドはアクスをぎゅっと抱きしめる。子供特有のポカポカした体温が目覚めたばかりの冷えた身体に心地よく、天日干しされている干し草のような香ばしい匂いが薄らと鼻をくすぐる。

 そのあどけなさが残る寝顔にアミッドはついアクスの鼻先に人差し指を差し出すと、しばらく匂いを嗅いでいた彼がペロリと舐めてくる。そんなまるで小動物かのように反応に笑う彼女であったが、ふと昨日のアクスが言っていたことを思い返す。

 

 ──僕の憧れの人を貶めるのは本人であっても許さないよ。

 

 あの時、鋭い眼光と共に言われた決意の言葉。日々成長していく弟に自身の存在も密接に関わっていることに安堵しながらアミッドは再び眠りにつく。

 

 なお、その数十分後。完全に覚醒した彼女が昨日のことをすっかり思い出して激しい自己嫌悪に陥るのだが、既に様式美となっている団員たちは『あぁ、いつものか』といった調子で無視しながら業務に励むのであった。




そろそろアミッドとのゆるほわな描写が書きたい(発作)

ベル君の背中について
 この頃、公衆浴場とか行かなくてよかったね。

開錠薬
 対象の背中に垂らし、所属ファミリアなどを明らかにする。地上ではご禁制だが、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ!

ロウソク
 漫画版でステイタスの紙を燃やす描写があったため。

お酒について
 チェイサーとおつまみをちゃんと摂取すればチャンポンとか無茶な飲み方しなければなんとかなる…と思う

アクス君
 キメる時はキメる基本ポンコツなお人。鼻を押し付けると干し草、もしくは肉球のような香ばしいかほりがする。

アミッド
 おしゃけおいしい!
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