ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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グランド・デイどうしよ…。


22話:フレイヤファミリア2

 神会(デナトゥス)から何日か経った頃。本日も冒険者相手に回復薬(ポーション)の販売や入院の手続きに忙しい治療院の裏手では、アクスと3人の冒険者が集まっていた。

 彼らはモルド・ラトロー、ガイル・インディア、スコット・オールズという冒険者で、それぞれがLV.2の第3級冒険者たちである。

 そんな彼らがなぜこんなところでアクスと話しているかと言うと、彼らが今回リヴィラの街に往診へ向かう際の護衛として数多くのライバルを蹴落とした末にボールスから冒険者依頼(クエスト)を受注したからだ。

 

「そうかい。じゃあ、もうちっとかかるのか」

 

「はい。申し訳ありませんが、銀の腕(アガートラム)が全て完成するまでは出発を延期してもらうことになります。あ、治療しますね」

 

「おう、悪いな。ほれ、こっちへ来るときに拾った魔石だ」

 

 魔石をもらったアクスは彼らに治癒魔法をかける。魔石払いはダンジョンのみだが、ここは裏口なのでやりたい放題である。

 

 話は変わるが、本来はモルドたちが迎えに来た段階でアクスはリヴィラの街に往診に向かっていたはずである。

 ただ、既にリヴィラの街に出発したボールスと連携がされていないのか、それとも行程が順調すぎたのかは分からないが、彼らは銀の腕(アガートラム)の完成よりも早くこちらへ到着してしまった。

 銀の腕(アガートラム)はいくら低品質な物でも失った腕や足の代わりとなる非常に繊細な物。慎重に慎重を重ねてようやく1つ作り上げることが出来るため、十数人という患者の分を作るとなるとやはり時間がかかるのは仕方がないことである。

 

 せめて後1週間はかかるというアクスの言葉にモルドは快く快諾。曰く、リヴィラの街へ仕入れをする関係で自分たちの本拠(ホーム)へ戻りたかったようだ。

 話は終わりと思いきや、モルドの横で話を聞いていたスコットが話しかけてくる。

 

「ところで、【リトル・ルーキー】ってあれ何なの?」

 

「何とはなんでしょ?」

 

「ミノタウロスをLV.1で倒したとか色々噂が立ってるんだ。お前なら往診で色々話聞いてると思ってな。何か知らないか?」

 

「ギルドで知れる以外のことは知りませんね。本拠(ホーム)に担ぎこみましたが、それっきりです」

 

 ガイルも口を挟みながらベルのことに対してアクスに聞くが、彼は咄嗟に嘘をつく。

 こういった妬み嫉みで情報を聞いて来る手合いは根掘り葉掘り聞いて来るだけでこちらに何のメリットがない。そう団員たちから口酸っぱく教育されているため、アクスは護身目的ではぐらかしていると彼らも納得したのか帰っていった。

 

 やはり、ベルのランクアップのことは時期尚早だったかもしれない。だが、他人にとやかく口を挟むのも同じファミリアでもあるまいしやり過ぎかとアクスは頭を悩ませていた。

 そんな時だった。

 

「アクスー、お得意様から冒険者依頼(クエスト)だぞー」

 

「【ロキ・ファミリア】は遠征中でしょ?」

 

「違う違う。間隔が短くて団長も焦ってるんだけど、報酬が良くてさ。ちょうどこっちに出てたディアンケヒト様が即OK出したんだよ」

 

 まるで次産間隔(インターバル)が終わった階層主が冒険者依頼(クエスト)に来たような物言い。お得意様の【ロキ・ファミリア】ではなく、依頼にインターバルが必要なファミリア等あっただろうかと不審に思ったアクスがエントランスに戻ると──。

 

冒険者依頼(クエスト)だ。付いて来てもらおう」

 

 数日前に腕試しさせてもらったばかりのオッタルが居た。

 

***

 

 人は1度楽を覚えたらズルズルと引き摺る生き物である。その楽という蜜は普段が激務であればあるほど甘露であり、再び口にしたいと願う欲も高まる。

 

 まぁ、何が言いたいかと言うと──。アクスは【フレイヤ・ファミリア】に再度出荷された。

 

「ねぇ、ヘイズ師匠」

 

「なーに、バカ弟子」

 

「なんで僕は洗濯したパンツ干してるの?」

 

 【フレイヤ・ファミリア】の本拠(ホーム)である戦いの野(フォールクヴァング)。今日も今日とて剣戟の音や男女の雄たけびが聞こえるが、その傍で洗濯棒に団員の衣服や下着を吊るしていたアクスが単純な疑問を隣に居るヘイズに尋ねる。

 師匠呼びだったので機嫌良くバカ弟子と呼びつつ、団員の服を吊り下げていた彼女はなんてこと無さげに答えた。

 

「普段は立て込んでた回復作業に穴が開いたからよ。どこかのアのつく子が頑張り過ぎちゃったからねー」

 

「アイズさん?」

 

「なんでここで【剣姫(けんき)】が出てくるのよ。あんたよ、あ・ん・た!」

 

 関係ない人間の名前を挙げられたことで身体の力が抜けたヘイズであったが、唐突に鉄を打ち付け合う音がしている方向から悲鳴と治療師(ヒーラー)を呼ぶ声が聞こえてくる。すると、ヘイズはアクスを小脇に抱えると現場へ直行し、アクスが応急処置で自動治癒魔法(オート・ヒール)を掛ける傍らで自身も治癒魔法を掛けてから再び洗濯棒まで戻ってくる。

 

 この一連の流れから分かる通り、おそらくアクスが超短文詠唱の自動治癒魔法(オート・ヒール)を覚えたことで1番喜んだのはヘイズだろう。なにせ、30秒でも自動回復が出来るので手遅れになる可能性が極端に低い。

 さらにヘイズの自動治癒魔法(オート・ヒール)は広範囲に影響をもたらすが、如何せん長い詠唱をしなければならない。なので、倒れた端からアクスを連れて行って自動治癒魔法(オート・ヒール)を掛けて応急処置をもらい、後は自分の治癒魔法か満たす煤者達(アンドフリームニル)に対応させれば戦線に立てるほどに回復できるという寸法である。

 結論を言ってしまえば、いつもは暇がある人間が率先してやるはずの洗濯が出来るほどヘイズの負担が減ったのだ。

 

「結果的に私の負担が減ったし、私お勧めの魔法を覚えてくれたのはすっごく嬉しいんだけどね~。なんだろ、他派閥だから素直に喜べない。便利に使えないし」

 

「今日頼むのも、結構オッタル様に言いましたもんね」

 

「これはもう改宗(コンバージョン)させるしかないのでは?」

 

 口々に不平不満を言うヘイズ他満たす煤者達(アンドフリームニル)。ただ、この部隊は女性で構成されているのとは別に【フレイヤ・ファミリア】なので、女神であるフレイヤに絶対の忠誠を誓わなければならないという鉄の掟がある。

 アクスにとってフレイヤは正に自由奔放な印象だった。具体的に言えば、たまに護衛もつけずに1人でふらっと出掛けているのを見かけ、案の定バベル周辺でキョロキョロしていたオッタルやガリバー兄弟に通報するような……。端的に言えば『たまに迷子になっている神様』という印象である。

 そんな印象でアクスが入ったとしても、おそらく数日もすれば破門されるだろう。そんな自信が彼にはあった。

 

治療師(ヒーラー)!」

 

「ヘイズ様、今度は私が行ってきます」

 

「よろしく」

 

 再びのお呼びに今度は黒髪の治療師(ヒーラー)がアクスを抱えて走っていく。

 本当に楽になった。昼の心地よい風に揺れる洗濯物に、ヘイズは久方ぶりの安らぎを覚えていた。

 なお、アクスの酷使については一切無視する方向である。そのために冒険者依頼(クエスト)を申請しているのだから。

 

 そんなこんなで洗濯もあと少しといったところ。アクスの助力で宴の準備に人数を多めに振り分けているので、あちらの方も問題はないだろうとヘイズは次に何をしようか思考を巡らせる。そうしていると、アクスが女性物の下着を手に取りながら話を振ってきた。

 

「師匠、【フレイヤ・ファミリア】の皆さんって下着見えても関係なく戦ってますよね。下着どころか下着の下とか臓物出てる時ありますけど」

 

「当たり前でしょ。"きゃ~、えっち~"っていったら冒険者は攻撃を止めてくれるの?」

 

「別に対人だけじゃないからね。ダンジョンでもそうよ?」

 

「そういうことよ、バカ弟子。フレイヤ様の前では下着なんて些細なことなのよ」

 

 アクスの率直な疑問に満たす煤者達(アンドフリームニル)が次々と噛みついてくる。

 たしかにそうだ。いくら下着が見えていても冒険者はともかく、モンスターは止まることはない。ダンジョンに潜る冒険者としてはヘイズたちの方が正しいと言える。

 しかし、満たす煤者達(アンドフリームニル)の中にはエルフやハーフエルフの治療師(ヒーラー)も居たため、エルフによくある肌の露出云々すらも無かったことにする美の女神についてアクスは些か恐怖心を持った。

 

「むしろ、下着すらもない真っ裸な状況でも戦えるわよ。私」

 

「いかなる状況があっても強靭な勇士(エインヘリヤル)を叩き起こして戦場へ送るのが私たちの誇りですものね!」

 

「ただし、日常生活は除く! ……です!」

 

 ヘイズがとんでもないことを豪語し、満たす煤者達(アンドフリームニル)もそれに乗っかる。最終的にはやはり現場改善について笑い合っているが、笑い合えるまでに回復出来た原因であるアクスは何やら考え込んでいた。

 ちなみにこのパルゥム。たまに空気を呼んで黙っていることはあるが、毎度のことながらいつもはポンのコツである。今回も神々から習った言葉を思い出し、彼女たちにあまり空気が読めないことを言ってしまう。

 

「僕知ってる。そういうのって"ヘンタイ"って言うんでしょ?」

 

 ピシリという氷に熱湯が掛かったような音に加え、空気が途端に重くなる。その場に居た全員が一斉にアクスのことを笑顔で見てくるが、彼の目には彼女たちが怒った時のアミッドのように見えていた。

 悪いことでも言ったのかと不安になるアクスに、ヘイズはゆっくりと近づいてきた。

 

「師匠、顔怖いです」

 

「目の前のおバカな弟子に怒ってるだけだから。もし、君が大人だったら杖で殴打からの理解()からせレベルよ?」

 

 一切目が笑っていないヘイズがアクスを高い高いの要領で空中に固定する。そのまま彼女の周囲を満たす煤者達(アンドフリームニル)が取り囲み、一斉に彼を見ながら口々に言いたいことをとやかく言ってくる。

 ここで彼女たちの地雷を踏み抜いたと薄々ながら感づいたアクスが小さく謝罪するが、もはや鎮火は叶わなかった。

 

「私たちが変態? アクス君、ちょっとそれは聞き捨てならないよ?」

 

「君が大人だったらちょっと本気で叩いてから、英雄橋からドボンだよ?」

 

「ダンジョンではなくて良かったですね」

 

 次々とマジ寄りな発言にアクスは『わァ……あ……』と涙を禁じ得ない状態になってしまう。

 仕方ないだろう。いくらアクスが失言したとはいえ、寄ってたかって憎悪の限りの言葉を浴びせかける女神の信奉者たちの圧力に12歳の子供が勝てるわけがないのだから。

 なお、偶然通りがかったヘグニがやり過ぎだと注意するが、ヘイズ含む数人の満たす煤者達(アンドフリームニル)に無言でにじり寄られた末に涙目敗走をするぐらいには彼女たちの目力は強かった。

 

 ただ、アクスがベソベソ泣いてしまったことで若干溜飲が下がったのだろう。満たす煤者達(アンドフリームニル)が謝りながら慰めてくる。神々がこの光景を見ると『DVかな?』という感想を持たれるような光景だが、神々の認識のはるか下を行く彼女たちによってアクスはひとまず落ち着きを取り戻した。

 

 このまま『さぁ、仕事しましょう』とヘイズが言ってしまえばこの問題はここで終わるのだが、そうは問屋は降ろさなかった。

 

「あ、そうだ。バカ弟子のおかげで時間に余裕もあるし、私たちも訓練しよっか」

 

「え、あの……。仕事……」

 

「大丈夫大丈夫、私たち満たす煤者達(アンドフリームニル)だから」

 

「そうそう。治すのは慣れてるから」

 

 有無を言わさず回復作業と並行して訓練の用意をする満たす煤者達(アンドフリームニル)

 

 そう、彼女たちはまだ怒っていた。本人たちも自覚はあったのだろうが、12歳の若造に図星を突かれたのは相当に腹が立っていたらしい。アクスが行ったことについて罪状を上げるとすれば、『事実陳列罪』と言う奴だ。

 人間というものは時に正論を言われると暴れる悲しき生き物でもあれば、時に理屈抜きで理不尽なことを仕出かしてくる化け物でもある。

 

 そんな彼女たちの訓練は今も横でやっている『洗礼』という殺し合いよりかはマイルドながらも、やはり【フレイヤ・ファミリア】仕様であった。

 並行詠唱は基本中の基本とばかりに模擬戦を行い、詠唱をいち早く完成させたものが勝者というシンプルなルール。ただ、いくら治癒魔法を後で掛けてくれるとはいえ、結構本気で殴りかかってくるのはアクスにとって恐怖だった。

 

 そして、これはアクスのみの話になるが、彼には別方向の訓練も課せられた。

 

「きゃっ」

 

「おっとっと。早く直してくdゴホォッ」

 

「バカ弟子は本当におバカねぇ。こんな見え透いたのなんて、隙を作るためのワザとに決まってるでしょ」

 

 『ば~か』と軽く罵りながらヘイズはわざとはだけさせた衣服を整える。

 これは別に彼女たちが露出趣味というわけではない。女性の冒険者が持つ『武器』を男の子であるアクスに教えているのだ。

 色恋や性に関してはポンコツになる人種は総じて異性に対して弱くなる。精神年齢や経験にも左右されるが、アクスのように純粋培養な男の子がそこを突かれると如何にLV.2だとしてもLV.1相手に簡単に負けてしまう。

 

 ──とまぁ。ここまで真面目な理由を語ったが、もちろんそれは全体で言うと3割ぐらいである。残った7割は当然、理解()からせ目的だ。

 

「あ、また引っかかってる。バカ弟子ー、その子のはさっき見たんだから引っかかり過ぎよー!」

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】でしっかり教育されてるって話ですから、仕方ないですよ。大方、人には優しくって教えられてるとかじゃないですか?」

 

「うちでは絶対引っかからないから新鮮よね。あ、また引っかかった」

 

「分かる。私もヘイズ様と同じ転向組だけど、あいつら気にせずに襲ってくるから……」

 

 口々に感想や野次を言い合うヘイズと満たす煤者達(アンドフリームニル)。回復作業以外の外でやる業務が終わっているためか、それぞれはすっかり観戦モードへ入っていた。

 もはやピュアボーイの純情を弄んで楽しむお姉様方と化した彼女たちであったが、わざわざ足を止めて衣服を元に戻すように促してくるアクスのピュアさにちょっとキュンとしつつも、先ほどの鬱憤を晴らすべく彼をバチボコにしていく。

 

 神から学んだ『ヘンタイ』という言葉は使ってはいけない。【フレイヤ・ファミリア】はどんなに仲良くなっても【フレイヤ・ファミリア】。アクスはまた2つほど賢くなった。

 

 ただ、失言だったことは反省する一方でやはりやり過ぎ感が否めなかったアクスは、後で報酬増加辺りをオッタルにチラつかせようと強く思った。

 

***

 

 そんな可愛がりの様子をバベルの頂上から見下ろす1柱と1人が居た。

 

「オッタル、あの子はどうだったかしら?」

 

治療師(ヒーラー)としては合格点。後は地力を付け……っ! フレイヤ様、どうして!」

 

 椅子にくつろいでいたフレイヤが吸い寄せられるほどの微笑で横に居るオッタルに尋ねると、彼は平然と答えながらも途中で狼狽え始める。

 アクスとの手合わせは想定外だったとはいえ、ダンジョンでのこと。いくらフレイヤが力のある女神だとしてもダンジョンの中までは見通せない。命令には『アクスと戦え』とは無かったため、命令の範疇を超えた行動をしてしまったことを恐れた彼はついつい黙ってしまっていたのだが、こうしてバレてしまったからには正直に話さなければならない。

 

 すると、先程驚きの余り口走ってしまったオッタルの疑問に対してフレイヤは笑いながら答える。

 

「あら、私はあなたの主神(ママ)よ? あなたが嬉しそうにしていること、気付かないと思って?」

 

「申し訳ありません。アクス・フローレンスとの手合わせは予定には無かったもの。いかようにも処罰を」

 

「あら、もう慌ててくれないのね。つまらない……。それに、ザルドのように壁になってあげてたのでしょう? むしろ、優しい子と褒めてあげたいぐらい」

 

 どうやら主神には何もかもお見通しらしい。『仰る通りです』と肯定したオッタルだが、満たす煤者達(アンドフリームニル)から洗礼もどきを受けているアクスから一向に目をそらさないフレイヤに、彼は恐る恐る尋ねた。

 

「フレイヤ様、奴は未だ道半ばです。フレイヤ様のお目にかかるようなレベルでは……」

 

「そうね。でもオッタル、私はアクスのレベルを見ているわけじゃない。魂を見ているの」

 

「魂……ですか」

 

 一部の神は下界の子供の魂が見れる。だが、いくらオラリオ最強の武人であるオッタルも下界の子供に変わりはない。自分の考えが及ばない次元のことを言われて言い淀む彼に、フレイヤは何やら悩む素振りをしながら1つの質問をした。

 

「オッタル。あなた、まだ自分がザルドたちに遠く及ばないと思ってるでしょ」

 

「っ! ……お戯れを。奴は既にこの世に居りません」

 

「嘘。いくら下界の子が強がっても、魂の色が見えてしまう私には嘘はバレバレなの。今のあなたの魂、揺れに揺れてたわよ?」

 

 クスクスと笑うフレイヤであったが、あまり話の流れに付いて行けていないオッタルは唖然とする。

 しかし、その理解が及んでいなさそうな視線に気づいた彼女は気真面目過ぎて融通が利かない我が眷属(こ)に少々幻滅するようなため息を1つつきつつも、『あなたたちは鍛冶師なの』と告げる。

 

「鍛冶師……ですか?」

 

「そう、いくら下界の子供が強がっていても魂全てに嘘は付けない。だけど、その嘘は鍛えることで()()になる」

 

「鍛えるとは?」

 

「経験。技。知識。知恵。何でも良いの。ただ、自身の持てる全てを集めて嘘という不純物を叩いて鍛え上げる。私はその瞬間が最も美しいと思ってる」

 

 今もそうだ。アクスが槍を手放してから治療師(ヒーラー)の手を握り、そのまま捻り上げることで相手の武装を解除している。

 ただ、相手の治療師(ヒーラー)も最初こそ驚いたようだが、武装を解除してアクスが安心したところを反撃。拳がモロに入ったことで彼は洗礼中の団員の1人にぶつかるまで吹き飛ばされていったが、それを見たフレイヤは笑みを強くした。

 

 ──ほら、また輝いた。

 

 鍛冶師の槌が真っ赤な金属を叩いた時のようにアクスの『嘘』が1つ追い出され、魂が一際輝きを増す。美の女神が思わずうっとりするほどの光がそこにあった。

 

「吹き飛ばされてますが?」

 

「はぁ……。何度も言ってるけど強さの話じゃなくて、誰もが持っている魂が輝く瞬間が好きなの。今もあの子は退屈を嫌う私が()()()()()程に自分を研磨している。その姿と変化していく魂が尊いと言っているのよ」

 

「ご所望とあれば、如何様にもしますが」

 

 オッタルの目に決意が籠った炎が宿る。フレイヤ絶対主義の彼が実行に移した時、【ディアンケヒト・ファミリア】など鎧袖一触で滅ぼした上でアクスを持ち去るだろう。

 しかし、フレイヤはそれを拒否する。『尊い』と言わしめるほどの存在を手中に収めない理由が分からなかったオッタルだが、特に何も言うことなく出過ぎた提案をしてしまったことに謝罪した。

 

「良いのよ。それにしても……オッタルの言う通り、魂以外は見れるような戦い方ではないわね」

 

「まだLV.2ですから」

 

 ヘイズに吹き飛ばされるアクスを見たフレイヤの率直な感想に、オッタルはせめてもの情けを彼に送るのだった。

 

***

 

「前が見えない……」

 

「ちゃんと回復させたでしょ」

 

 ところ変わってヘイズの部屋。本日も()()()定時内に業務を終わらせた彼女は、アクスを部屋に招いていた。

 痛がるアクスに適当に合わせながらヘイズは紅茶を飲みながらお気に入りのお菓子を食べていたが、ふとその手を止めると彼を睨み付けた。

 

「あの技……なに? 教えてないんだけど」

 

「技?」

 

「手を捻って武装解除させたりとか、軌道を逸らせたりとか……。色々してたじゃない」

 

 可愛がりの最中、アクスもそれに甘んじていたわけではない。ラウルやアキ、その他【ロキ・ファミリア】の2軍や【ディアンケヒト・ファミリア】の自主訓練で培った技術や戦い方を格上相手にひたすらぶつけていたのだ。

 しかし、ヘイズからしてみたら可愛がっていたペットが知らない内に教えたことのない芸を披露して来たようなもの。その出所を聞くのは師匠として当然のことだと問いただすと、アクスは平然と答える。

 

「えーっと、【ロキ・ファミリア】のラウルさんとが主で、後はアナキティさんとか諸々」

 

「ラウルにアナキティって、【超凡夫】(ハイ・ノービス)【貴猫】(アルシャー)!? さらっと師匠増やしてっ! ……あ、フワフワしてる」

 

「イダダダ、毛根がぁ!」

 

 自分だけだと思った指導役が増えた事実に両手でアクスの頭をワシワシかき乱すヘイズ。若干フワフワな髪質に癒されたのか、彼女はアクスの鼻先に人差し指を突きつけながら『治療師(ヒーラー)の師匠は私だから』という謎の独占欲を発揮し出した。

 

「えー、お姉ちゃんのがよく教えてくれるし……」

 

「なんでも良いから師匠! 魔法の系統とかも教えたし!」

 

 妥協案に次ぐ妥協案。正直、そんな必死にならなくても部隊としての治療師(ヒーラー)の役割と心構えを教えてくれたヘイズはアクスの中で師匠としての位置が確立している。

 ただ、それを面と向かって言うと【フレイヤ・ファミリア】にいろんな理由をつけて呼び出される。その理由も謎理論を展開する面倒くさそうな気配がするので、彼は見るからに渋々といった様子で『は~い、師匠~』と生返事する。

 

「うむ、精進するのだよ。バカ弟子。ところで、今日の訓練で分かったことを教えてくれる?」

 

「【フレイヤ・ファミリア】は、仲良くなっても【フレイヤ・ファミリア】」

 

「はーい、残念。……いや、言いたいことは分かるし、やったことについては私たちもやり過ぎだって一応反省はしてるけどね? 教えたかったことは違うの。……ほんとよ?」

 

 微妙に合ってるけど外れているアクスの答えに、ヘイズは手を左右に振りながら本当に教えたかったことを説明する。

 

 今回の訓練中にアクスへ課した服装の乱れを前にした心構えの訓練でヘイズたちが言ったように、女性冒険者特有の武器や対人戦における心構えについてだ。男女間のナイーブな問題とはいえ、そういった()()()は数秒ごとに判断を迫られる戦いにおいては圧倒的な隙を生み出しかねない。

 なので、同性に対しても異性に対しても敵に対して平等に扱う心構えをヘイズはアクスに伝えたかったのだ。

 

「私たち【フレイヤ・ファミリア】は同じファミリアでも敵同士なの。だから、衣服が剥げようが何をされようが相手を倒せたらそれで良い。……まぁ、アクス君には刺激が強かったよね」

 

「いえ、服装が乱れるの嫌かなって思ってました。それに、治療で色々見えてる人を相手にするので何とも……」

 

「うーん、医療現場に居るからそうなるかぁ。しかもこの子、優しすぎるよ」

 

 この子供、思春期真っただ中なのに大丈夫なのだろうか。

 医療行為によって青少年特有の性に対するあれこれといった感覚がすっかりマヒしているアクスに、ヘイズは医療における【ディアンケヒト・ファミリア】の()()()に思わず引いた。

 だが、冒険者とは到底思えないような相手を気遣う発言をしたことについて、ちょっと言っておかなければ思わぬ落とし穴にはまることを危惧した彼女は少々口調を強めに話し出した。

 

「相手に構う必要はないの。誰だろうが、何をしてようが、自分が敵と思ったら躊躇しちゃダメ!」

 

「とはいっても……」

 

「私たちよりもよっぽど女の武器を使ってくるファミリアが居るんだから、注意しとかないと駄目よ?」

 

 そう言ってヘイズは『あっち』と南東部の方を指差した。

 男の欲望が渦巻く歓楽街を仕切っている【イシュタル・ファミリア】は、探索系でありながら財政が安定している稀有な存在といえるファミリアだ。構成員の大半が戦闘娼婦(バーベラ)と呼ばれるアマゾネスたちが占めており、LV.3も多数在籍しているために主神であるイシュタルの存在感も相まってオラリオの一大勢力といっても過言ではない。

 

「万に一つもあり得ないけど、【ディアンケヒト・ファミリア】に攻め込まれてみなさい? 今日みたいな感じなら……死ぬわよ?」

 

「ごもっとも」

 

「せめて、着崩した私たちに攻撃できるようにはしておきなさい。少し前まで犯罪組織が攻め込んできていた街という認識を忘れないで」

 

 アマゾネスの服装はエルフとは対照的に開放的なので、今のアクスでは変に優しさで手心を加えて手痛い反撃を受けることが容易に想像できる。

 暗黒期でもあるまいし、対人戦が出来るというのはあまり重要視するべき項目ではない。それでも、叩けば叩くだけ湧いて出てくるイヴィルスという存在も居るので念には念を──ということでヘイズは今一度アクスに『男女平等拳』の考えを叩き込んだ。

 

「師匠、この考えってフレイヤ様にもこれは適応されるの?」

 

「バカ弟子はもうちょっと空気を読まないとね~。殺すぞ?」

 

 空気が凍るようなドスの利いた声がアクスを震え上がらせる。

 【フレイヤ・ファミリア】には冗談が通じない。『あまり満たす煤者達(アンドフリームニル)を怒らせないでくれ』と懇願するオッタルに手を引かれつつ、アクスはしみじみとヘイズの教えと教訓を体に染み込ませた。

 

***

 

 こうして約1週間。銀の腕(アガートラム)が着々と制作される中でアクスは往診などを積み重ねていく。

 特に今回はゴライアス討伐までリヴィラの町で臨時治療院を開く予定があるため、『往診を行えない』という連絡と共に大量の回復薬(ポーション)を担いで売り込むことが多々あった。

 

 そんなこんなでリヴィラの町に向かう日がやってきた。リリルカ経由で仕入れた巨大なバックパックには、銀の腕(アガートラム)や現地で細かいサイズ調整を行うための銀石英(トゥルーシルバー)が使われた砥石。後は臨時治療院やゴライアス討伐で用いる回復薬(ポーション)類を詰め込んでいる。

 

「じゃあ、行くか」

 

「わかりました」

 

 既にバベルの前で集合していたモルドたちに合流したアクスはそのまま順調に18階層へ向かて下へ降りていく──が。

 

「お、ちょうど良いやつがいるじゃねぇか!」

 

「あれ、ベートさん?」

 

 そろそろ14階層に差し掛かる頃合いで、なぜか遠征に向かったはずのベートと鉢合わせた。




モルド・ラトロー、ガイル・インディア、スコット・オールズ
 例の3人組。特にスコットはアニメやダンメモでお姉口調だったので、そっちに寄せました。

満たす煤者達の可愛がり
 派閥大戦で服焼失についての自分の見解を基に色々考えた末に実施。
 某海賊漫画のコックみたいに『女は蹴らねぇ』という主義は今のアクスにはないが、せめて『男女平等拳』ぐらいは習得しないとこの先生きのこれないために実施。

黒髪のヒーラー
 アニメでヘディンに吹き飛ばされた人

フレイヤ様の魂理論
 ちょっと中の人(某侍の霊を引き攣れたシャーマン)ネタ

師匠問題
 ???「私が師匠ですからー!」
 ???「どきなさい、私はお姉ちゃんですよ!」

グランド・デイやるなら、そろそろスキルの1つでも生やしとかないといけないと思ってレアスキルをでっちあげ。早熟しないし、へーきへーき
主にお姉ちゃん大好きが続く限り、回復能力の上昇。居なくなったら?そりゃ効果が消えるよ。
聖女の御手(ジル・ド・レ)
 魔力アビリティに高補正
 憧憬の強さにより効果上昇
 憧憬の対象が変わらない限り効果持続
  対象:アミッド・テアサナーレ
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