ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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23話:18階層へ

 13階層。中層最初の階層で、難易度が一気に上がることから上層を除いて最も事故率が高いといわれているこの階層の終盤──14階層へ下る階段の近くにある広場にて、ベートがアクスの回復を受けていた。周囲ではモルドたちが壁に傷をつけては新たにモンスターが出てくるのを抑制し、徘徊するモンスターへの警戒を続けている。

 

「ベート様。体力の回復、終わりました」

 

「お前が言ってきたんだ。礼は言わねぇぞ」

 

 そう言いながらさっさと立ち上がったベートが走っていく。その姿が見えなくなってしばらく経った頃、念を入れて獣人の耳でも聞こえないよう声を潜めながらモルドが悪態をついた。

 

「んだよ、あいつ。回復されておいてよ」

 

「良いじゃない。早く進みましょ」

 

「そうですね」

 

 アクスはLV.2ながらもダンジョンでの実戦経験が乏しい治療師(ヒーラー)。それを護衛しながらダンジョンを進むのは意外に神経を使うため、小悪党な反応をするモルドを宥めながらも一行はやや急いで下へと降りていく。

 

 回復中にベートと多少の情報共有をしたが、やはり【ロキ・ファミリア】は遠征を終えて帰ってきているらしい。

 しかし、戻ってくる最中にポイズン・ウェルミスの大量発生に鉢合わせしたことで大勢が耐異常の発展アビリティを貫通してくる激毒を食らってしまい、ベートが地上へ特効薬をパシ……失礼。取りに行っている間に本隊は18階層で待機しているのだとか。

 最初こそベートはアクスを連れて戻ろうとしたが、特効薬抜きでの解毒の成功例はアミッドの治癒魔法のみ。もしかしたらアクスの治癒魔法では完全な解毒は不可能かもしれない。

 そう説明すると、ベートは納得。彼の当初の予定通り、地上へ向けて先ほど走って行って今に至るというわけだ。

 

「モルド様、申し訳ありません。【ロキ・ファミリア】が心配なので、リヴィラの臨時治療院は少々後回しにしてもよろしいでしょうか?」

 

「あー、【ロキ・ファミリア】ぐらいの規模なら1本水晶の南側ぐらいしかねぇな。いつものように連れて来いっつー冒険者依頼(クエスト)だしな。上手くすればアクスを連れてきたって謝礼も期待できるし、別に構わねぇよ」

 

 18階層はモンスターが産まれない階層だが、モンスターが居ないわけではない。他の階層からモンスターが入ってくることは茶飯事なため、冒険者はここで1夜を過ごす際は必然的にリヴィラの街で宿を取るか、キャンプを張るかの2択に迫られる。

 ただ、そんなキャンプができるほどの()()な場所は限られており、【ロキ・ファミリア】ほどの規模がキャンプできるような開けた場所も1か所ぐらいしかない。即座に場所を推測したモルドは顔役であるボールスに伝えることを忘れないようにパーティメンバーに共有しながら進んでいると、ふとアクスに話題を振る。

 

「あー、【小神父】(リトル・プリースト)。お前、臨時治療院はどこでやるんだ?」

 

「一応、候補を複数用意しておりますが?」

 

 そう言ってツラツラと宿名を言うが、その度もモルドたちが『そこは一杯』だの『中層探索で店主がおっ死んで潰れた』だのと臨時治療院として使えないことを言ってくる。

 彼らの言っていることを100%信じてはいないものの、とりあえず望み薄だということは分かったアクスは適当に探してみることを伝えると、隣で倒したヘルハウンドのドロップアイテムを拾っていたスコットが『そういえば』と口を出してきた。

 

「ヴィリーの宿ってまだお客取ってたっけ?」

 

「おいおい、スコット。あの【小神父】(リトル・プリースト)を呪われた宿に泊めてみろ。【戦場の聖女(デア・セイント)】が黙ってねぇぞ?」

 

 ヴィリーの宿。リヴィラの街の上層にある洞窟を利用した宿である。

 天然の洞窟を使っているためにビクともしない作りでその他は街のある普通の宿と大差ないのだが、ここ最近で『殺人事件が起きた宿』というありがたくもない()()が店主に与り知らない内にできてしまった。迷惑な話である。

 

 冒険者は夢見がちな職業ゆえにゲン担ぎをするものは多い。これは亡くなったヘルメスファミリアのホセから聞いた話だが、酒場で1番高い酒をボトルで買ってまずは半分を全員で飲むのだそうだ。これによって『あのボトルを全員で飲み干す』というゲン担ぎとなり、より一層探索に気合が入るのだとか。

 それを聞いたアクスは内心、アミッドに勧めることができなさそうと思ったのは内緒である。

 

 まぁ、そんな冒険者が多いことからヴィリーの宿屋は閑古鳥が鳴いているそうだ。

 

「まぁ、お前は治療が出来るならどこでも良い……。なんだ?」

 

「あいにく、お化けとか幽霊の類が怖いので」

 

「ガキか! ……悪い、ガキだったわ」

 

 泣く子も無理矢理黙らせて治療する医療キチと思われがちなアクスだが、もちろん苦手なものは多々ある。

 怒ったアミッドや団員たちは当然ながら、アミッドがよく連れていく身体に良い()()の薬膳料理に吠えてくる大きな犬など色々あるが、特に苦手なのが幽霊である。

 

 その昔、夜中にギルドから帰ろうとギルドの裏手にある路地からショートカットすると黒いローブを着た存在がどこかへスッと消えていくのを見て以来、アクスはそういった類が本当にいるとすっかり信じてしまっていた。

 殺人現場で被害者の霊と『こんばんは!』してしまった日には、軽いカース程度なら治せる治癒魔法を夜通し詠唱する別の意味で怖い宿屋が爆誕してしまうこと請け合いである。

 

「こりゃ良い。じゃあ、俺たちもそこに泊まるか」

 

「ついでにアクスも泊まらせれば噂も消えそうね」

 

「良いな、噂の検証代として吹っ掛けられそうだ」

 

 次から次へと押し寄せてくるモンスターを屠りながら話が決まっていく。もはやアクスの知らぬところで呪いの宿(仮定)に泊まることが決まってしまった。

 せめてもの抵抗に子供らしく『えー』というものの、話は決まったとばかりにモルドたちは先を進む。そうしてヘルハウンドやアルミラージを倒しながら階層を降りていき、ミノタウロス2匹という治療師(ヒーラー)が居なければ危うく死んでいそうな戦いを経たモルドたちは半泣きになりながらも18階層へたどり着く。

 

「モルド、やっぱ治療師(ヒーラー)必要だって」

 

「バカ野郎! どこにアクスみたいな冒険者が転がってんだよ!」

 

 先ほどの死闘で死にかけたガイルがパーティの構成について意見を言うが、モルドは腕の立つ治療師(ヒーラー)は下手なレアモンスターよりも希少という現実を突きつけながら18階層の南側へと歩いていく。大勢の人が長年歩いたことで土がむき出しになった小道を歩いていると、そこだけ森が削り取られたような広場にたどり着いた。

 

「お、ドンピシャだぜ」

 

 人の動きを阻害しないよぅに規則正しくに立ち並んだテントの群れ。その外周に道化師(ロキ・ファミリア)のエンブレムが刻まれた旗が自身の縄張りと言わんばかりに突き立っている。

 普段なら道を譲って脇を通り過ぎるような強大な相手だが、今回は彼らが現在欲している存在を連れてきたお客様だ。

 そんな小悪党臭がプンプンする考えから、まずはモルドだけが堂々と彼らのテントに近づく。すると、歩哨として立っていた冒険者が彼の前に立ちふさがった。

 

「ここはロキ・ファミリアの野営地だが?」

 

「三下じゃ話にならねぇ。【勇者】(ブレイバー)を連れてこい」

 

 開口1番モルドが切り込む。対応していた冒険者もリヴィラの街をたまに利用しているのでモルドの人と成りは分かっているつもりだが、そんな彼が最大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】の団長を呼ぶような案件を持ってきたとは思えなかった。

 ふざけていると思った冒険者が声を荒げるが、モルドは下卑た笑いを浮かべながら『ポイズン・ウェルミス』と呟くを顔色が変わる。

 

「お仲間が苦しんでるんだよなぁ? こちらにそれを解決するのがあるんだがなぁ?」

 

「う……ぐ……。ちょっと待ってろ!」

 

()()()()()()()だろぉ?」

 

 にちゃりと粘っこい笑みを浮かべるモルドに冒険者は『少々お待ちください』と言い直すと、中央のテントに向かって走っていく。周囲からはもはや殺意に変わる数分前のような敵意が向けられるが、そんな視線の中でもモルドは勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 そんな彼の後ろ。バレないよう手を引かれながら森の中へ隠れたアクスは、ドン引きしながら合図があるまで事態を見守るガイルたちの顔を見ながら一言。

 

「今後、モルド様のパーティの迎えは無しの方向でボールス様にお願いしても?」

 

「ちょっ、待ってくれ。俺もあそこまでやるとは思ってなかった!」

 

「そう! あれはモルドの独断だから! 本来はちょっと謝礼をもらおうと思ってただけ!」

 

 長年中層で燻っている平均的な第3級冒険者のためか、モルドの冒険者としての矜持はかなりねじ曲がっていた。そんな彼の経歴からしてみれば自分よりもはるか格上のファミリアに『お願い』されることなど天地がひっくり返ってもあり得ないため、ここぞとばかりに良い思いをしたいのだろう。

 

 ただ、なんというか……小物臭い。やりたいことは分かるが、極まり過ぎて可哀想になってくるほどの小物臭さだ。

 独断でパーティのイメージをマイナスまで振り切れさせたモルドに対して遠巻きから彼を罵倒するガイルたちをよそに、アクスは今後のパーティの護衛をどうするべきかと悩んでいた。

 すると、モルドの方で動きに変化があった。

 

「やぁ、【噛犬】(ルフィアン・ドッグ)。なにかな?」

 

「おう、ちょっとした商談に来た。おい!」

 

 フィンを前にモルドは笑みを崩さず後方に合図を送る。その合図を見たガイルたちは心底嫌そうに引きつった表情を浮かべながらも、一応はリーダー的存在の彼の顔を立てるためにアクスを連れてフィンの前に姿を現した。

 まるで願っていたものが眼前にぶら下げられたみたいに驚きを露わにするフィン。その()()()反応に、モルドは勝ち誇ったのように声を出した。

 

「仲間がポイズン・ウェルミスの毒にやられたんだろ? ついさっき、リヴィラの街に往診に来てくれるっつー神父様を連れてきたんだ」

 

「まったく、耳聡いね。分かった、いくら必要だい?」

 

「そうこなくっ…… 「じゃ、さっそく治療を行います」 あ、おい!」

 

 これ以上は見るに堪えないとアクスはそそくさと【ロキ・ファミリア】のキャンプへ入っていく。前の遠征で大まかな位置は把握しているため、案内もなくすいすいと移動していく彼をモルドは彼を引き留めようとする。

 しかし、彼が追いかける前にガイルがその手を止めた。

 

「モルド、ちょっとやり過ぎだ。【ロキ・ファミリア】に因縁付けられたくないだろ」

 

「うっ……すまねぇ。ちょっと舞い上がっちまってた」

 

「どうやら君は()()()()()みたいだね。冒険者ではよくあることさ」

 

「あぁ、どうやら()()()()()。迷惑をかけた」

 

 フィンが『これで手打ち』だと喧伝する。その声に周囲で敵意をまき散らしていた団員たちは元の作業へと戻っていった。

 改めて他者より上の立場という美酒に魅了されていたモルドが謝罪をすると、フィンは手で制しながら『ちょっと待っていてくれ』と近場のテントへと入っていく。

 やがて、戻ってきたフィンは黒光りする石がいくつか入ったケースを1つモルドに手渡した。

 

「【ロキ・ファミリア】からの謝礼だ。少ないけど、取っておいてくれ」

 

「オブシディアン・ソルジャーの体石! 深層のドロップアイテムじゃねぇか!」

 

「彼をリヴィラの街に送るのも、こちらで請け負わせてもらう」

 

「おう、ボールスに言っとく! じゃあな!」

 

 魔力を減殺させる特性を持つこの体石は防具素材として高値で取引されている。出現階層も深層なことから、数個のドロップアイテムだけでも軽く数百万ヴァリスはくだらないため、一気に表情を緩めたモルドはフィンからそのドロップアイテムをひったくるとパーティを連れてキャンプから離れていった。

 

 すると、後ろからリヴェリアが出てきてモルドたちの去った方を見ながらフィンに『良かったのか?』と問いかける。

 

「ちょうど良くアクスを護衛してきてくれたんだ。それに、あれは僕の裁量で動かせる()()()の贈り物だよ。……まぁ、贅沢を言えばアミッドだったら尚良かったけどね」

 

「本当に贅沢だな。あれは機動力の高いアミッドのようなものだぞ?」

 

「だけど、()()()()()()じゃない。もしかしたら、ポイズン・ウェルミスほど強力な毒の解毒は無理かもしれない。それに、たまには違う方向を見る存在も必要だろう?」

 

 現実を見ているのか、悲観的なのか。それに違う方向とは言うが、全くの見当違いの方を向いていないだろうか。フィンの言葉にリヴェリアは呆れる。

 何はともあれアクスが到着したことで状況は好転することは事実。監督者としてリヴェリアが負傷者を寝かせているテントの方向に赴くと、男性用のテントから緑色の光が漏れているのが見えた。

 既に治療を開始しているらしく、彼女が声をかけてからテントをめくって中に入ると先ほどまで死にそうな顔色をしていた冒険者たちがやや肌艶が良い状態でリヴェリアの方を見てくる。

 

「あぁ、リヴェリア様。アクスのおかげでちょっと良くなりました」

 

「全快ではないのか?」

 

「はい。激痛や吐き気などは無くなりましたが、軽い風邪のような状態です」

 

「自分も移動は出来そうですが、不安定な足場だとちょっと……」

 

「分かった。今はゆっくり休め」

 

 ポイズン・ウェルミスの毒を浴びた証拠である変色した肌もすっかり元の肌色に戻り、あれだけ毒で苦しんでいた症状がかなり緩和されたことにリヴェリアは内心驚く。

 【ロキ・ファミリア】にも自分を含めて解毒や治癒が出来る魔法の使い手は居るが、それら一切がポイズン・ウェルミスの毒の前では多少の苦しみを取り除くぐらいの効果しか持たなかった。

 たしかにアミッドの治癒魔法であればこの段階で全員が満足に動けていただろうが、それに近い成果をアクスは叩き出している。彼女の団長としての地位やそれを補佐するように動くアクスの立ち位置的に、やはりフィンの言っていることはかなりの贅沢なことだと後から入ってきた彼に状況報告がてら釘を刺した。

 

「まさかこんなに毒が弱まるとは思わなかったな。まいった……、今度はフィアナと一緒にアクスにも祈らないといけなくなる」

 

「その時は私も祈らせてくれ。とりあえず、別のテントにも向かわせよう」

 

 こちらが窮地に陥った時に都合良く差し伸べてくる手。今のフィンたちにとってアクスはどんな慈愛の女神よりも神々しく見えた。

 そのままリヴェリアの案内で女性側のテントへと入ったアクスは、ここでも治癒魔法を行使。瞬く間に土気色やそれよりも酷い顔色だった冒険者たちは自力で起き上がれるぐらいまでに回復した。

 

 見るからに状況が好転。これは礼を言わねばならないと、フィンはリヴェリアとガレスと呼んで天幕へとアクスを招き入れてから代表者としてフィンが頭を下げた。

 

「アクス。本当に世話になった」

 

「私の力不足で1回で完全に解毒は出来ませんでした。申し訳ありません」

 

「いや、十分じゃろ。毒は士気にもかかわる。それが和らいだのは僥倖ともいえよう。重ねて礼を言う」

 

 謙遜するようなこと言うアクスに、ガレスはすっかり明るくなったキャンプ内の空気を肌で感じながら頭を下げる。

 特効薬しか解毒の方法がない毒は、遠征のように長期間移動して目的地を目指す者たちにとって悪夢のような存在だ。毒に侵された状態の仲間を連れて安全な場所まで行かねばならないために行程がめちゃくちゃとなり、当然ながら戦力も下がる。さらには毒に蝕まれた被害者の発する呻き声は看病する者の気力を下げ、徐々に全体の士気を下げていく。

 

 相変わらず治療に関しての【ディアンケヒト・ファミリア】は良い意味で色々やらかしてくれる。三首領がそれぞれ似たようなことを思っていると、アクスは今後の治療予定について話し出した。

 

「治癒魔法を1回かけてだいぶ解毒できましたので、皆様のお身体が十分に休まったところを見計らって再度治癒魔法を掛けます。おそらくですが、これで快癒は出来るかと」

 

「ちょっと待て、アクス。先ほど解毒出来ないと言ってなかったか?」

 

 思わずリヴェリアが聞き返す。しかしアクスは『()()で解毒出来なかった』と強調すると、詳しく説明を始めた。

 

 何度も言うが、治癒魔法は時間を巻き戻して傷などを塞ぐわけではない。いくら魔力で患者の治癒力を限界以上に強化しても、連続した使用は負担になるのではないか。というのがディアンケヒトの考えである。

 特に1回や2回ですぐに不調を訴えるほどではないが、負担というものは小さくなればなるだけ外観では見つけにくく、溜まりやすい。

 ある日を境に積み重なってバタリ……とはならないだろうが、治癒魔法は決して万能かつリスクが一切ないわけではない。そんな考えを基に【ディアンケヒト・ファミリア】では治癒魔法を掛ける際は時間を置いて実施するようにしている。

 

「戦闘中でもないので当治療院の治療予定に則って、夕方にもう1度治癒魔法を行います。希望的観測になりますが、自力で起き上がれますし、意識もはっきりしてらっしゃいますから次で解毒出来るかと」

 

 治癒魔法が発現してからアミッドとディアンケヒトに習った治癒魔法についてのあれこれや軽い診察で分かった解毒の状況をアクスが告げると、三首領が少し黙ってからなにやら相談を始めた。

 

「地上で集めてもらった素材を【ディアンケヒト・ファミリア】に持ち込むようベートに頼んだけど、無駄だったかな?」

 

「ポイズン・ウェルミスはまだ居座っておる。いざとなればリヴィラの街の連中に売り込めば、今回の赤字は多少補填できるじゃろうて」

 

「リヴィラの街価格以下の値で売れば恩も売れる。私も賛成だ」

 

「それ、僕が聞いてもよろしいのでしょうか?」

 

 明らかにアクスを向いて相談しているため、気になった彼が問うと3人一斉に首を縦に振る。

 どうやら、以前にアクスが提案した持ち込みについて彼らは実行に移したらしい。遠征に不参加の団員たちが市場などで細々と素材を買ってはファミリアの倉庫で保存しており、ベートに在庫状況を確認してもらってから【ディアンケヒト・ファミリア】に特効薬の代理作成と商品を抑えてもらう手はずとのことだ。

 

 まさかディアンケヒトに丸投げしてすぐに代理作成の案件が来るなんて夢にも思わなかったアクスだが、とりあえずは夕方に再び来るという約束をしてから臨時治療院を立てるべく席を立つ。

 そのままフィンの指示で状況説明をしなければならないという観点からアキが護衛につき、アクスはリヴィラの街でボールスと合流した。

 

「とりあえず、こっちの要件は以上。中層に行くパーティにはポイズン・ウェルミスのことは伝えておいた方が良いわよ」

 

「分かった。迎えは俺に声をかけるように【勇者】(ブレイバー)に伝えておいてくれ」

 

 特記事項であるポイズン・ウェルミスの大量発生のことを伝えたアキが手を振りながら去っていくと、ボールスはさっそくアクスに臨時治療院となる宿を決めさせる。

 

「ゴライアスの件で一杯じゃないんです?」

 

「あー、【ロキ・ファミリア】が居やがるからな。耳が早い連中はもう宿を引き払っちまったんだよ」

 

 そう言いながらボールスはリヴィラの地図を引っ張り出して部屋が空いたと小耳に挟んだ宿屋を1件ずつ指示していく。この分なら例の事故物件に泊まらなくても済みそうだと思ったアクスは、【ロキ・ファミリア】のキャンプに1番近い宿屋を選択。ボールスが『無理やりにでも泊めさせてやる』と言うので、共にその宿屋へと移動した。

 

「ちょうどモルドの奴らが入ったんだが、そういうことなら開けるよ。あいつら、【ロキ・ファミリア】から深層のドロップアイテムをせしめてきたとかなんとかでうるせえし、ちょうど良いや」

 

「どうせ、どこかで話を聞いてアクスを連れてきたとかぬかして吹っ掛けたんだろ。……あいつら用に色々準備しねぇとな」

 

「えー、あの人たちヴィリーさんの宿に泊まるって言ってたのに」

 

 ボールスは少ない情報からモルドのやり口や懐事情を推測し、少しでも自分のところに金が流れてくるように画策しだす。

 その後、当初の予定には無かったことをした彼らが【ロキ・ファミリア】からせしめてきたドロップアイテムを大声で話していると、宿の主から追い出されることとなった。宿から追い出された彼らは()()()()()()()出会ったボールスの紹介で宿を紹介されるが、()()()()()()()()()で色々値上げしていたらしい。

 

 悪銭身に付かず。冒険者は他者を出し抜く悪辣さも必要だが、誠実さはもっと大切な要素であった。

 

***

 

 臨時治療院が始まってすぐに様々な冒険者が運び込まれてきた。共通しているのは四肢のいずれか、もしくはいくつかの先が存在せず、皆一様に絶望に染まった顔をしていたことぐらいか。

 しかし、例え低品質な作りでも【ディアンケヒト・ファミリア】の銀の腕(アガートラム)はそんな彼らを元気づけるには十分な性能を誇っていた。

 

 簡素だが2度と立ち上がれないと絶望した冒険者には歩くための足を。

 簡素だが利き腕が無くなって食事をする気力すらなくなった冒険者には食器を握るための腕を。

 簡素だが両手両足が無くなってもはや生きる希望すら見出すことすら難しいと治療を拒否する冒険者には気付け代わりの張り手と一緒に生にしがみ付くための四肢を。

 

 装着された時は無表情だった冒険者たちも、しばらく介助込みで歩いたり何かを握ったりするうちに顔に生気が戻ってくる。

 ここはリヴィラの街。冒険者の街である。

 ここまでお膳立てされて腐っているような後ろ向きな冒険者がここまでたどり着けるわけがなく、礼を言いながら来る日に向けてのリハビリをするためにそれぞれ馴染みの存在の手を借りながら自分たちの宿へと戻っていった。

 

「はい、固定完了です。後は毎日少しでも歩いて調整をお願いします。ズレたら先ほど教えたように位置を調整して固定をお願いします」

 

「すまねぇ。本当に駄目だと思ってたんだ」

 

「これは最低品質ですが、品質を上げるとダンジョンでも十分に対応できるものが存在します。ローンについてもアミッド団長に申し付けいただければ良きように取り図ってくれるでしょう。冒険者は2本の足で立って帰った者が勝者と聞いたことがあります。ダンジョンに勝ちましょう」

 

 片足に銀の腕(アガートラム)が固定された冒険者が男泣きをしながら付き添いのアマゾネスの手を借りて出ていく。片足ぐらいならばLV.3の彼であればローンは十分に組めるだろう。他の冒険者も詳しいレベルなどを教えてもらったが、銀の腕(アガートラム)の品質を上げれるほどの財力や実力があることは確認している。

 この分だと料金をとりっぱぐれる心配はないと安心しながら後片付けを行っていると、ラウルとアキが訪ねてきた。

 

「アクス君、迎えに来たっすよ」

 

「こうして見ると、本当にお医者様よね。アクス君って」

 

 診察や銀の腕(アガートラム)の調整に使う道具を蒸留した酒で消毒しているアクスの姿をアキが感心したように見つめている。普段どういう風に見られているのか非常に気になったが、往診が先決なので彼女の言うことは真に受けずに準備を済ませると部屋から出てきた。

 

治療師(ヒーラー)なんですけど! 【ディアンケヒト・ファミリア】の……治療院で働いてるんですけど!」

 

「はいはい、ごめんごめん。あ、アクス君は今晩【ロキ・ファミリア】で泊まらせるから」

 

「分かった。扉もちゃんと施錠するから確認してくれ」

 

 アキはアクスの言葉をスルーしながら宿屋の店主にアクスの予定を伝える。店主も【ロキ・ファミリア】の情報がボールスやモルド経由で知っているからか、アクスの扉をマスターキーでしっかりと施錠して見せた。

 これで気兼ねなく往診と宿泊が出来るため、ラウルとアキはアクスの左右の手を取りながら【ロキ・ファミリア】のキャンプへと彼を連れていく。

 

 そうして本日2度目の治癒魔法。念のために軽く診断してみたが、体力的には問題はなさそうだと判断したアクスは詠唱を行ってから魔法を行使する。

 

「いかがでしょうか?」

 

「怠さや微熱もなくなってる、やった!」

 

「身体が硬いのは寝っぱなしだったからかな? それ以外はいつも通りだ」

 

 緑の光が収まった後でアクスが声をかけると、すっかり元気になった冒険者たちが体を動かしながら身体の具合を確かめていく。どうやら解毒には成功したらしいが、今回の毒が毒なだけに不安もある。

 暫定として身体に無理がないように徐々に慣らしていき、ベートが特効薬を持ってきてくれたら薬も服用して仮に残っていた毒を完全に消す。そんな計画を考えたアクスは、近くで様子を見ていたリヴェリアに提案してみた。

 

「如何でしょう?」

 

「もう必要ないとは思うが、ポイズン・ウェルミスだからな。念には念を入れておくに越したことはないだろう」

 

 彼女も賛成らしく、女性用のテントで同様の治療を行っている間にフィンから許可をもぎ取ったらしい。

 とりあえずはアキが宿屋の店主と話していた通り、今日はこのまま【ロキ・ファミリア】のテントに泊まって明日の早朝に定期健診を行ってほしいという要望にアクスは二つ返事で了承した。




モルドならやりそう…。やりそうじゃない?

解毒について
 現在の治癒魔法の性能はアミッド以下(のちに生える予定のスキルの使い込みを含めてようやく同等)なので、2回行使しなければ解毒は不可能。
 治癒魔法の連続使用については完全にオリジナル設定。細胞分裂とか諸々考えると連続使用とか怖いと思う。
 ※こうしてみると【ディアンケヒト・ファミリア】の回復戦力ヤバいな…といまさら思った。

黒いローブを着た存在
 あの人? よくオラリオの路地とかにも出没するよね

臨時治療院
 おかしいな。アクス君がちゃんとお医者さんしてる。
 いつもはアミッドとか団員とかオッタルのおじちゃんにキャンキャン言ってる犬なのに。

前回の聖女の御手(ジル・ド・レ)について
 やっぱ危なそうな名前なので、ネタプリーズ。(活動報告に場所置いときました)
 ※絶対に採用されるわけではありません。
  採用されなかったからと『田舎者』って石を投げないでください。
 https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=323223&uid=293848
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