ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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2月中は週3。3月からは出来れば週1投稿になるかと。


26話:墓参り

 ベルを追ってきたと宣うヘスティアたちが18階層に着いた翌日。早朝からアクスは1人で森の中をうろついていた。

 

「昨日、リューさんがあのリューさんだって分かってから記憶がないんだよなぁ」

 

 リューの背中にあった【アストレア・ファミリア】のエンブレムを見ていくつか質問したぐらいで記憶がなく、気づいたらテントで寝ていたというなんとも不可思議な状態で起床したアクスは首を傾げながら森の中に生えた植物に目を通していく。

 

 もちろんだが、アクスに花を愛でるといった崇高な趣味はない。単純に彼が寝ていた横に紙にリューからのメモが置いていたからだ。

 メモには本日墓参りをする旨が綴られていたため、それを読んだアクスも花ぐらいは手向けようとこうして探しているが手ごろな物が見つからない。貴族御用達のお菓子である水晶飴(クリスタルドロップ)でもあれば良かったのだが、こんな階層でそんなレアなものが見つかるわけがない。

 

「こうなったらその辺の草とか……石もあった方が輝夜さんとか喜ぶかな」

 

 しまいには過去、ことあるごとに『あの祠に近づいたのか』と揶揄われた苦い理由でとある人物に向けて手頃な袋の中に草や石を詰め込み始めるアクス。そんな彼の姿に気づいた白い格好のエルフが小道の方から声をかけてきた。

 

「アクスじゃないか。どうした、こんなダンジョンで」

 

「あれ、フィルヴィスさん。おはようございます」

 

 【ディオニュソス・ファミリア】のフィルヴィス・シャリア。往診の都合でよく顔を合わせる彼女とは最初の頃は避けられがちであったが、安定の『うるせぇ、良いから診察させろ』を顔を合わせるごとに言った上で()()()をし、ようやく出会えば口を開いてくれるまでに関係が作れた間柄である。

 

「きょ、今日は消毒液は持ってないだろうな?」

 

「え、持ってますよ? フィルヴィス様が"あれ"を言ったら容赦なく浴びせるつもりです」

 

「わ、分かった! だからその瓶は仕舞ってくれ!」

 

 透明な液体が入った瓶に拒否反応を示すフィルヴィス。それは彼女がよく言っている()()()()()()が原因だった。

 

 過去に『27階層の悪夢』により自分を除いてパーティが全滅した彼女は、その後もパーティを組むたびに自身以外のメンバーが毎度の如く死亡。そんな経歴からフィルヴィスは神々から頂戴した【白巫女】(マイナデス)という二つ名よりも冒険者たちがやっかみで付けた【死妖精】(バンシー)という名が定着してしまう。

 しかし、その不名誉な名前をあろうことか肯定した彼女は、近づく存在に向かって『私は汚れている』などと言っては遠ざけようと努力の仕方を間違えた努力を続けていた。

 

 ただ、それに対して物理的に制裁を加える存在が居た。アクスだ。

 治療師(ヒーラー)にとって清潔と消毒と殺菌は最も重要視しなければならない事項。ゆえに『汚れてるんだったら消毒しないと』とフィルヴィスが汚れている発言をした瞬間に彼女に向かって消毒攻撃を実施した。

 最初こそフィルヴィスも怒ったが、消毒の完了を告げながら診察しようとする。ある意味で気が狂ったようなアクスの反応に、彼女は徐々に順応──というか恐怖した。

 

 アクスが消毒液を仕舞ったことで安堵の息をついたフィルヴィスは、周囲に誰も居ないことを確認しながらアクスを不思議そうに見つめた。

 

「誰も居ないようだが、何をしていた? 18階層でもモンスターが居ることは知っているだろう」

 

「お墓に供える花を探してるんです」

 

「墓? こんな場所に?」

 

「なにせ、暗黒期中にダンジョン内で亡くなった方なので」

 

 事情を聴いたフィルヴィスは表情を暗くする。暗黒期はイヴィルスが活発に活動していた時期のため、高レベルの冒険者じゃないとミイラ取りがミイラになることを恐れて墓地に墓を作ることは難しかった。

 そんな事情をくみ取った彼女は周囲を歩き出し、やがて草むらの中から赤い花をいくつか取ってきた。

 

「おー、すごい」

 

「エルフは森の民だからな。だが、赤い花だから供えるには不適切だろうか?」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

 ふふんと自慢げなフィルヴィスから花を受け取ったアクス。謝礼を渡そうとするが断られてしまったので、せめてここに来た要件を手伝うというと【ロキ・ファミリア】のキャンプに行きたいと告げられる。

 どうやら地上に仕入れにやってきた冒険者や【ディアンケヒト・ファミリア】の慌ただしさでポイズン・ウェルミスの大量発生が地上まで伝わったらしく、レフィーヤが気になってここまで下りてきたらしい。

 

「レフィーヤさんなら今日も元気に怒られてましたよ?」

 

「元気ならよか……まて、ちょっとおかしくないか?」

 

 フィルヴィスの疑問にアクスは首を傾げる。今朝、アイズと一緒にリヴィラの街に買い物に行くとか何とかで慌てた彼女が、夜は底冷えして寒いと訴えた団員たちの声を聞いて何を勘違いしたのか炎属性の広域殲滅魔法(ヒュゼレイド・ファラーリカ)を打ちそうになったところをリヴェリアに怒られたばかりだ。

 

 そんなことを話していると、【ロキ・ファミリア】のキャンプが見えてきた。

 

「あ、クルスさん。この人、【ディオニュソス・ファミリア】所属のレフィーヤさんの知り合いです」

 

「お、そうか。じゃあ、伝えてくる」

 

 二つ名関係はフィルヴィスが嫌がるため、歩哨をしていたクルスに彼女の所属ファミリアを伝える。知り合いということで特に詮索せずにキャンプ内へ戻っていったため、アクスも彼女に別れを告げると自分のテントへと入っていった。

 

「たしか、こうしたら良いんだっけ?」

 

 丁寧に切り取られた茎の先端に水を含ませた柔らかい布を巻く。こうすることで花の鮮度が良くなるとリヴィラの街でカリーヤという加工花職人から聞いたことがある。

 後はリューからどのように呼び出しがあるのか分からないため、とりあえずはキャンプに居た方が良いと判断したアクスが外に出ると、何やら鍛冶師たちの前でヴェルフが土下座をしていた。

 

「無理を承知で頼む!」

 

「鍛冶道具を貸せって……。あぁ、お前のは無くしたんだっけか」

 

「ヴェルフ。お前、恥とかないのかよ」

 

 思いの丈をぶつけるヴェルフに対して団員たちの対応は冷たかった。

 ただでさえ仕事道具を失った半人前の加え、さらには自分の半身ともいえる道具を貸せというのだ。ヴェルフよりも鍛冶の腕が上の団員たちが憤るのも仕方ないだろう。

 だが、明らかに言い過ぎだと傍から見ていたアクスが口を出そうとすると、いつの間にか横に居た椿に止められる。その視線はヴェルフに固定されていた。

 

「あいつの命は専属鍛冶師である俺が預かってるんだ! 今、あいつの装備を整備してやらなきゃ、鍛冶師の名折れだ! その方が俺にとっては恥なんだ!」

 

 さらにヴェルフが吼える。自分のプライドよりも鍛冶師としての立ち位置をよく理解しているその叫びを聞いた団員たちは目を瞑りながらしばらく黙ると、それぞれバックパックを漁って砥石や槌といった整備するための道具を彼の前に置いた。

 

「持ってきな。恥とか言って悪かった、ちゃんと診てやるんだぞ」

 

「これで生半可な仕事しやがったら承知しねぇぞ。さっさと整備してこい」

 

「恩に着る」

 

 そう言い残したヴェルフがさっそく貸し与えられたテントへ向かって走っていく。その様子を見届けた椿は先ほど鍛冶道具を貸し与えた団員たちに手を上げる。どうやら『教育』をしていたようだ。

 

 やはり団長となると色々あるのだと考えていたアクスであったが、唐突に椿の不満そうな声が聞こえてきた。

 

「それよりもアクス。お前、昨日見たが旗を汚し過ぎだ。いくらおまけで付けたとはいえ、ちゃんと洗っておけ」

 

「はーい」

 

 たしかに所かまわず振り回しては地面に置いたりと乱雑に扱い過ぎた節がある。ちょうど近くに泉があるため、水洗いして木陰にでも干しておこうと思い立ったアクスは、早速テントに戻ってブリューナクとついでに花の水を良い物にしようと木の器に入れて出てくる。

 

 途中、炊事場で綺麗な寸胴鍋を借りたアクスは泉の前に立った。10Mほどの滝から落下する水が溜まったその泉は底が見えるぐらい澄んでおり、滝からまき散らされる極小の水の粒は天井の水晶が放つ光で小さな虹を作っている。

 ここにエルフが泉に足を漬けていれば物語の序章のような展開になっていたが、現在はアクス1人しかない。

 

「早くやっちゃうか」

 

 変に時間をかけて別の人間の邪魔をするわけにはいかないと、アクスはさっそく作業に取り掛かる。

 まずは寸胴鍋の中を泉の水で満たし、そこに色々汚れた旗を放り込む。そのまま入院患者の衣服を洗うようにざぶざぶと洗っていくと、旗の汚れが見る見るうちに水へと移っていく。

 

「うわぁ……」

 

 どうやら見た目以上に汚れていたようだ。真っ茶色になった水をちょっと離れた場所に捨て、再度水を入れて旗を濯ぐ。それを何度か繰り返していくうちに元の色味が戻ってきた──気がする。

 

 後は適当な木の枝に括り付けて乾かすのみなのだが、どこで干そうかとアクスが悩んでいると──。

 

「あれ、アクスじゃん。なにしてんの?」

 

「あ、ティオナさん。いや、旗干したいんですけど」

 

「私たち、これから水浴びなのよ。悪いけど、別のところに行ってくれない?」

 

 後ろにぞろぞろ引き連れた女衆を親指で刺しながらティオネが言う。

 ぶっちゃけアクスからしてみれば、いくら近くで水浴びされようと作業の邪魔にならないのであれば全く問題はない。ただ、それを言ったら満たす煤者達(アンドフリームニル)よろしく袋叩きにされる予感しかしないため、アクスは素直に従う。

 

「あ、この旗。適当なところに干しとくついでに目隠しにでも使ってください」

 

「これは忝い。良い生地ですね」

 

「ディアンケヒト様が気絶しかけるぐらい高額らしいですよ」

 

「あぁっ、命ちゃんの膝がっ!」

 

 高額なものをポンと渡された命の膝が生まれたての小鹿のように震えるというアクシデントはあったが、アクスは花を入れていた木の器に水を入れて泉からちょっと離れた木陰で花の手入れを始めた。彼の近くでは花の手入れに詳しいエルフィが見張りついでに着いており、彼女の指示で野生の花を切り花にしていく。

 

「そうそう。水の中で茎を斜めに切るの」

 

 切り花が萎れる原因は主に水不足らしい。そのために水の中で切ることで乾燥を防ぎ、斜めに切ることで水の吸い上げやすくするのだとか。

 どうしてこんな知識があるのかとアクスが問うと、エルフィは天井の水晶を悲しげに見つめながら『女子力……かな』と呟いた。

 どうやら彼女も彼女で冒険者特有の闇を抱えているらしい。そういう時はそっとしておくに限ることを酒を飲んだアミッドや諸々拗らせた団員たちを見てよく知っていた彼が何も言わずに居ると、堤を切ったようにエルフィが語り出す。

 

「他派閥の女の子にね、"【ロキ・ファミリア】の人ってかわいいし綺麗だけど男居ないよね"って笑われたの! 私だってモテたいのに! モテたいのにぃぃ!」

 

 何やら必死過ぎる慟哭が聞こえるが、多分気のせいだろう。あの『誰とでも仲良くなれるエルフィちゃん』と自称する彼女がそんなこと言うはずない。アクスがそう思っていると、横からエルフィが肩を掴んで揺さぶってくる。

 

「アクス君、教えてよぉ! 男へのホスピタリティについて教えてよぉ! アサップでぇ!」

 

「言ってること分からないけど、エルフィさんだったら良い人見つかるよ」

 

「面倒くさい子を慰める常套句は止めてよぉ! しかも言い慣れてるっぽいぃ!」

 

 面倒くさい。酒を1瓶飲んだアミッドよりも面倒くさい。

 三半規管の限界を感じながら青白くなっていると、アクスたちのすぐ横を見慣れた白いナマモノ(ベル)が駆け抜けていく。彼が何でこんなところに居るのかという疑問がアクスと正気に戻ったエルフィの頭を駆け巡るが、エルフィと同じく水浴びの見張りをしていた冒険者の叫び声と呪詛が入り混じったようなレフィーヤの高速詠唱にぎょっとした。

 

「レフィーヤー! さすがに()()は駄目ー!」

 

「死ぬ! 死んじゃうから! あの子、蒸発するからー!」

 

 すかさずエルフィは見張りをしていた冒険者と2人がかりでレフィーヤを止めようとするが、もはやリヴェリアと見紛うような速度で紡がれる並行詠唱は止められなかった。

 

「アルクス・レイ☆」

 

 少々可愛げのある発音と同時に全く可愛げのない光弾がベル目掛けて飛翔する。命中すればLV.2であろうとも重傷は確実であろう。誰もが数秒後に訪れる焼き兎の姿を覚悟していたが、光弾の進行方向にアクスが立ち塞がる。

 

「えっ、ちょ……。アクス君!」

 

「レフィーヤ、早く消して!」

 

「あ、あわわわ」

 

 アルクス・レイは自動追尾魔法であるため、術者であるレフィーヤが操作をしているわけではない。あの距離では光弾がアクスを迂回せずに命中してしまうことを危惧したエルフィたちが叫ぶ中、レフィーヤは目を回しながら何も唱えられずにいた。

 ただ1言──『光散(アリオ)』という爆散鍵(スペルキー)を唱えれば良いのだが、展開がコロコロ変わったことですっかりパニックになっていたのだ。

 

 焼き兎のかわりに焼き神父が出来上がり、そこから【ディアンケヒト・ファミリア】との関係性もこれまで──と思われたところでアクスがブリューナクを突き出したことで事態は収束する。赤い宝玉に見る見るうちにアルクス・レイが吸い込まれ、やがて完全に魔法が吸収されたと宝玉がぼんやりと赤く光った。

 

「うあうあうあうあ……うあぁぁー!」

 

 レフィーヤから発せられた不思議な鳴き声が森中に響く。ベルを取り逃がしたことに対する落胆か、それともアクスに魔法が当たらなかったことへの安堵か。それを知るのは彼女本人のみであった。

 

***

 

 泉での出来事から少しした後。アクスがキャンプに戻っているとちょうどリューがベルを連れて森の奥から声をかけてきた。

 

「フローレンスさん」

 

「リューさん、お墓参りですか?」

 

「昔みたいにお姉ちゃんでも良いんですよ?」

 

「今のお姉ちゃんは1人しか居ないから。だけど、なんでベルさんも居るの?」

 

 件の墓参りかと思ったが、そうなるとベルが居ることがおかしい。一応、彼が居るので用件をはぐらかして問うと、どうやらこのアルミラージの擬人化(ベル・クラネル)がまたしてもやらかしたらしい。

 その場は誠心誠意謝って事なきを得たらしいが、何故か理不尽だと感じたアクスはモヤモヤした気分でリューについていく。

 

「まぁ、リヴェリア様じゃなくて良かったですね」

 

「ちなみに……その人のを見たら?」

 

「おそらくオラリオ……いや、地上では生きられないかと。でも、安心してください。その時は私が直々に引導を渡します」

 

「ひぇっ」

 

 白い花を摘んでいたリューが射殺すような目でベルを見やる。エルフのポンコツ具合の一端を担うハイ・エルフへの絶対的な信頼を理解出来ていない彼は、突然豹変したリューの表情を見て恐怖した。

 しかし、アクスに至ってはハイ・エルフを前にしたエルフのことはさんざん見てきたため、リューのこの変貌はさもありなんと流していると、彼女の怖い顔に耐え切れなくなったベルが取り繕うように話題を変える。

 

「そ、そういえば、アクス君の槍ってなんで光ってるの?」

 

「あぁ、これは魔法を吸収してるんですよ。危なかったですね、ベルさん。危うく焼き兎になるところでしたよ?」

 

「なにそれ怖いっ!」

 

 ブリューナクを見せながらアクスがなんてことなく答えるが、自分が危うく死にかけた事実に驚いたベルがかすれた声を上げる。

 そんなこんなで狭い木々が折り重なってできたトンネルを抜け、そこでリューは足を止めた。目の前には狭いが木々が生えていない空間が広がっており、その空間を取り囲むように細い木々と水晶が疎らに生えている。

 静寂が支配するこの空間の中心。大きく盛り上がった土の山の所々には錆びた剣や斧、中にはブーメランといった様々な武器が突き刺さっている。

 

「ここって、お墓?」

 

 理解が追い付いていない様子のベルを他所に、リューとアクスはそれぞれ行動し始める。

 10以上ある突き刺さった武器を前にリューは先ほど積んだ白い花を1輪ずつ手向け、ポーチから取り出した瓶の液体を少量ずつ──一部の武器にだけはやや多めにかけていく。

 その間にアクスは先ほど切り花にした赤い花を赤いグリップのある特徴的な形をしている片手剣の前に手向ける。そのついでに先ほど摘んだ草と石を刀の方に供えようとするが、見かねたリューが『さすがの輝夜もそのイタズラは許さないでしょう』と注意されたが、『ファミリアに入るなら局部を切り取ると脅してきたもん。極東近くではそうするって言われたもん』と言いつつも広場の適当なところに捨てた。

 

「リューさん、アクス君も。これって……」

 

「【アストレア・ファミリア】。一時期、【ガネーシャ・ファミリア】と一緒にオラリオの巡回や犯罪者の摘発をしてくれた市民の味方。そんな人たちのお墓だよ。アリーゼさん、お久しぶりです」

 

「改めて他人にそう紹介されると恥ずかしいのですが、概ねあってます」

 

 そう言ってリューは【アストレア・ファミリア】で行ってきたことや壊滅したこと。そして、壊滅後に彼女が行った所業についてベルたちに告白する。

 最初こそそんな輝かしい経歴とは裏腹に私怨に駆られて暴れまわった彼女の行いにベルは目を丸くし、アクスは目を閉じて聞いていたが、自嘲気味に最後を締めくくった彼女の言葉にベルが反応した。

 

「リューさん、自分を貶めるような真似は止めてください。僕も怒ります」

 

 てっきり罵詈雑言を浴びせかけられると思っていたリューは、目を丸くしながらも先ほどベルに言った言葉をそっくりそのまま返されたことに笑みを作る。

 

 こうして墓参りが終わり、そろそろボールスから冒険者依頼(クエスト)が張り出されてないかを確認するためにアクスは何やら話し込んでいるリューたちを置いてリヴィラの街へと向かう。上の水晶から放たれていた光が鳴りを潜めだしたため、ちょっと急いでボールスの換金所に向かうと、彼が何かを作っている場面に遭遇する。

 

「ボールスさん」

 

「ん? おぉ、アクスか。ちょっと待ってな」

 

 そう言って黒い剣のような刀身に固定具をつけるボールス。しばらくすると、すべての作業が完了したのか満足そうにその武器を棚に戻した彼がアクスに座るよう促す。

 

「待たせたな。……で、あいつらを地上に上げる冒険者依頼(クエスト)だよな。準備は出来てるが、今はちょっとタイミングが悪ぃ」

 

「タイミングとは?」

 

「【リトル・ルーキー】が居るだろ? なんでも奴が調子に乗ってるってんで、何人かの野郎が絞めに行くことにしたらしい」

 

 アクスにはピンとこない考えではあるが、冒険者はやたらメンツに拘る。ナメられたら落とし前は付けるし、年功序列やレベル。後は信用と信頼といったことをやたらと煩い。

 そんな彼らにとってベルは悪い意味で羨望の的だった。今は何故か自信満々なモルドが主軸になり、リヴィラの街で燻っている冒険者を集めているらしいとボールスは自分の部下に聞かされた情報をアクスに教える。

 

「では、【ロキ・ファミリア】がキャンプを引き払うまではそこに居て、次は街のどこかの宿屋でゆっくり過ごしてます」

 

「お前も【リトル・ルーキー】と縁があるんだろ? 加勢とかしないで良いのか?」

 

治療師(ヒーラー)と患者の間柄ですよ? 加勢なんてするはずないじゃないですか」

 

 なにやらボールスはアクスもベルの仲間だと思ったらしいが、彼にしてみれば風評被害も甚だしい。

 確かによく治療に行ったり往診に行ったりするが、あえて言うならば()()()()だ。それに冒険者側の言い分も分かると言えば分かるため、死者は流石に許容する道理はないが、別にベルがボコボコにされようがアクスにはどうでも良かった。

 

 それに、それはモルドを含めた()()()()()()()()にも言える。いくら言い分が分かると言ってもベルをボコボコにするのに加わるほど──【ディアンケヒト・ファミリア】の治療師(ヒーラー)としての矜持を捨てるほどアクスが不満を持ったわけでもないため、アクスは静観の構えを取った。

 

「まぁ、確かにお前は治療師(ヒーラー)だしな」

 

「そうですよ。人を撲殺できる治療師(ヒーラー)なんてヘイズ師匠ぐらいなもんですよ」

 

「そこで【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)が出てくるお前も大概だけどな」

 

 突拍子もない例を出されたボールスは唖然とした表情でアクスを見る。

 確かに治療師(ヒーラー)は戦闘能力が乏しいことは認める。ただ、治療師(ヒーラー)が肉弾戦の接近戦が出来ないという道理はないということは主に戦いの野(フォールクヴァング)で、主に薄紅色の髪をツインテールにした治療師(ヒーラー)の手でアクスは嫌というほど知っている。彼女も元々強靭な勇士(エインヘリヤル)なのだが、それは些細なことだろう。

 

「とりあえず、関わりたくねぇなら【リトル・ルーキー】と距離を置いておけ。俺たちも静観組だから、巻き込まれても助けに行けねぇぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 ここまでがリヴィラの顔役としてできる最大限の譲歩なのだろう。ボールスに礼を言ったアクスは注意深く【ロキ・ファミリア】のキャンプへ急ぐと、なにやらベートがフィンの肩を掴んで宙吊りにしながら揺らしていた。

 

「フィーン! 昼に言ってた色々ってなんだぁー! 色々ってぇー!」

 

「いやぁー、あっはっはっは。アッハッハッハ。そろそろやめてほしいなぁ?」

 

 見るからに愉快な様子になってる2人の邪魔をするのは悪いだろうと彼らの横を通り過ぎるアクスであったが、彼に気づいたベートが『おい、チビ』と呼び止めてきた。返事をすると舌打ちをしながらも彼は【ディアンケヒト・ファミリア】のエンブレムが捺印された封筒を取り出すと、それをアクスに渡す。

 

「お前の姉ちゃんからだ。それとお前の言ってた代理とかなんとかでうちの財布がかなり助かったんだってよ。ロキがお前に礼を言っとけって煩くてな」

 

「まぁ、アクスのおかげでポイズン・ウェルミスの毒は何とかなったんだけどね。明日、念のために特効薬を飲ませてから後発のリヴェリアたちに余った特効薬をリヴィラに卸させることにするよ。ゴライアスの魔石も合わせると、あくせく金策に走らなくても良さそうだ」

 

 フィンの話を聞きつつ、アクスはベートから渡された封筒から手紙を取り出す。前半はちょっと()()だったので後で読むとして、後半の現状報告はベートとフィンが言った通りの内容だった。

 ポイズン・ウェルミスの大量発生が既に伝わったことで特効薬に用いるかのモンスターのドロップアイテムである体液が地上の市場から姿を消した。【ディアンケヒト・ファミリア】もその煽りを受けたが、【ロキ・ファミリア】が備蓄してくれていた素材を代理制作の報酬としてもらうことで特に困らない量の特効薬は出来たのだそうだ。

 

 その備蓄が尽きるのも時間の問題だが、そろそろ『グランド・デイ』が始まる。その準備やディアンケヒトの思い付きに付き合って疲れ果てたアミッド含めた団員の心労のため、アクスにはなるべく早めに帰ってきてほしい旨が綴られていた。

 

「そういえば、グランド・デイってそろそろでしたね」

 

「そうだね。今回も前夜祭(イブ)は頼むよ、アクス」

 

 グランド・デイ。かの【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が3大冒険者依頼(クエスト)の1つである陸の王者(ベヒーモス)を倒したことを祝うオラリオ最大級の祭りである。

 【ディアンケヒト・ファミリア】もそんなイベントに目をつけて限定回復薬(ポーション)(という名の普通の回復薬(ポーション))を売ったりと忙しいらしいが、アクスはアクスで前日からギルドから呼び出しを食らっているのでファミリアの方はノータッチとなっている。

 

 そんな大規模な祭りのことを思い浮かべつつも、ベルの件が早く片付かないかと対岸の火事のごとくヤキモキしていたアクスであったが──。

 

「団長ー、レフィーヤ見ませんでした?」

 

「見てないけど、居ないのかい?」

 

「あー、神父君。ベル君を見なかったかい?」

 

「いいえ、見てませんが?」

 

 フィンはティオネから。アクスはヘスティアから1名ずつの行方を聞かれる。

 

 夜はモンスターも活発化するし、闇夜に紛れて後ろ暗い存在が活動する時間。特に制限しているつもりはなかったが、誰にも告げないで姿を見せないレフィーヤ。ベルに至っては全く初めての18階層の夜ということで、第1級冒険者を主軸とした捜索隊が急遽編成された。




(どっかの黒髪美人のせいで)お化け怖い

フィルヴィス
 アクスの『消毒! 清潔! 殺菌!』によって無自覚にやや漂白(物理)されたダンメモでは結構弄られてる子。
 ちょっと強引? まだベッド投げつけないからセーフ、セーフ。

お供え
 某紅の正花「うんうん、赤い花なんて分かってるわね~。さすが私!愛されてる!」
 某大和竜胆「草って…石って…」
 某狡鼠「いや、お前が悪い」

エルフィ
 ロキ・ファミリアに人ってかわいいし綺麗だけど男居ないよね~。プークスクス。
  某カース本騒動より引用。
 いい人、見つかるよ。多分、きっと、メイビー。…知らんけど。

ブリューナク
 なんかすっごい怨念籠った魔法を吸収してしまった可哀想な武器。なお、ぶつける相手は決まっている模様。

輝夜の所業
 アクスが何かするごとに『あの祠に近づいたのか』と言って来ては、極東由来の怪談話で怖がらせて面白がる。
 アストレア・ファミリアに入りたいという子供ながらの願望に全員がほっこりしている中、小太刀を抜いて『そんなら、切り落とさないといけないところがありますなぁ』とガチめに言う。

グランド・デイ
 ダンメモのストーリー。時系列的に黒ゴラ君とアポロン・ファミリアの間というタイトすぎるスケジュールなため、今後は日付の整合性はないに等しいです!

某正義は巡る系スキル:原典、意識しちゃったねぇ
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