既に撤収準備に入ったキャンプ内。テントも後は荷物の保管用に数えるほどしかないが、それらも明日の朝1番になれば全て片付いて【ロキ・ファミリア】は地上へ向けて帰還する手はずだ。
そんなキャンプの隅っこでアクスは焚火の前に座り込み、自前で持ってきた小型のフライパンを火にかける。しばらく待つと持ち手の部分まで高温になってきたため、厚手の布を巻きながらフライパンに色々投入した。
まずは厚切りのベーコン。これは地上から持ってきた物で、元はディアンケヒトが晩酌用に隠し持っていた品である。
ただ、晩酌用と言っても冷暗所の奥に隠すように置かれており、覆っていた布に若干埃が掛かっていたので隠したは良いがすっかり忘れたのだろう。嫌な臭いもしなかったので、このまま腐らせるよりかはましだろうとアクスは無断で拝借した代物である。
そこに臨時治療院にて最低限の荷物を持って撤退してきたパーティから代金代わりにもらったチーズを放り込む。荷物を放り投げて撤退したようで魔石やドロップアイテムもなく、証文は診察内容から主神や団長に言いつけられていた階層を越えて探索したことがバレるということで半ば押し付けられる形とはなったが、これはこれで物々交換となる。多少料金としては物足りない報酬だが、使ったのは治癒魔法のみなので
それに、後で『美味しかった』と言っておけば、アミッドなら『そうですか』と納得してくれるだろう。……多分。
後は蓋をしてしばらく待つ。その間にアクスは飲み物を飲みながらベートから手渡された手紙の前半部分を詳しく読みだした。
どうやらグランド・デイを前にディアンケヒトが売り上げや治療院の注目度を上げようと色々しているらしい。1枚目の最後には大きく『早く帰ってきて』というアミッドの文字の周辺に様々な筆跡で帰還を強請る文字が綴られており、その必死さにアクスは段々怖くなってきた。おもむろに手紙を丸めて焚火の中に放り投げてしまう。
そんな時、蓋の振動が強くなってきた。そろそろ頃合いだと彼は蓋を開けていると──。
「美味しそうだねぇ……」
「美味しそうですぅ……」
急に湧いてきた1柱の女神と1人のパルゥム。彼女たちの目線はとろっとろに溶けたチーズがかかった肉厚なベーコンとアクスの顔を反復横跳びしているが、視線を無視したアクスはバックパックから乾燥した香草を砕いたものを先ほどのフライパンに振りかける。
先ほどまで肉の油とチーズというやや重そうな香りの中にふわりと香草の香りが混ざって究極で完璧な存在感を放ち出したため、ヘスティアたちの視線は完全に固定された。
そんな彼女たちを前にアクスはここで彼女たちに食料を提供して良いものかと悩む。
通常、携帯食などは探索パーティ全員で出し合った共有の財産で購入したりするのだが、よくよく考えたらベルたちは事故の際に荷物を落としている。ヘスティアも一緒に乗り込んできたパーティは居るには居るが、その中に彼女の眷属は居らず、見るからにダンジョンを舐めているような軽装だ。
かなり細かな性格をしているリリルカがこのようにしていることから、【ロキ・ファミリア】は撤退準備の片手間に各自で食事を取るということを失念していたのだろうことが伺える。
ただ、今から18階層の食べれる果物などを採集するにしても夜中はとにかく動きにくい。さらには先ほどベルとレフィーヤが遭難したばかりだ。エルフかつ、【ロキ・ファミリア】の彼女と行動を共にしていれば合流は可能だろうが、仮にここでアクスが突き放すとヘスティアたちはそのまま森に分け入り……な展開も十分にあり得る。
時間にして数秒。ダンジョン内ということで地上とは比べてやや思慮深くなったアクスが出した結論は──。
「肉……食べます?」
『食べ(ます)る!』
よほどの達人であっても見逃すほど高速の返事。アクスが取り出したフォークを奪い合いつつも、器用にベーコンを口の中に放り込んだヘスティアとリリルカを見ながら彼は新しい羊皮紙に『食事代』という項目と値段を書き出した。
「そういえば、ヘスティア様。ベルさんは探さなくて良いので?」
「んむ? あー、いや。
「リリも【ロキ・ファミリア】で捜索を行うとフィン様に言われたので仕方なく……」
分かりきっていたことだが、どうやらフィンに釘を刺された後みたいだ。
しかし、ヘスティアたちが全くベルを心配していなさそうにベーコンを頬張っていることについて、アクスは心の中で呆れた。
何度も言うがここはダンジョン。冒険者の数よりもモンスターの数の方が多い魔の巣窟だ。
いくらこの階層にモンスターが生まれないとはいえ、17階層と19階層には普通に沸いていれば、生まれた階層から人知れず18階層に居を移す存在も居て少なからず犠牲者も出ている。
そのことから少しは心配する素振り。もしくは怪我をして帰ってきた時に供えて
しかし、一応は他派閥なので助言のし過ぎも悪いと思ったアクスはすっかり空になったフライパンを火にかけ、最後のベーコンを放り投げる。そうしていると、先ほどから金属を叩く音を響かせていたテントからヴェルフがのっそりと出てきた。
「あー、腹減ったなーって。ヘスティア様、リリ助も。何食ってんだ?」
「神父様からベーコンをいただきました」
「へぇー」
そう言いつつヴェルフの視線もアクスが再び焼いていたベーコンに固定される。
ヴェルフ・クロッゾ、お前もか──とは言わない。だって、この鍛冶師もベルたちと同じ境遇だからだ。
アクスはヘスティアたちの食事代について書いた請求書にヴェルフの分も付け加えると、リリルカから受け取ったフォークでベーコンを突き刺した。
「食べます?」
「良いのか!?」
言うが早いかベーコンの厚切りをパクリ。一切遠慮がない動きにリヴィラの街に居る冒険者と似たような厚かましさを覚えたアクスはさっそく羊皮紙に請求額を記載するのであった。
しかし、困った。ベーコンが猛獣たちに持っていかれてしまった。
後は残り少ないということで団員のマルタがくれた小魚のオイル漬けしかない。日持ちするオイル漬けなのでもったいないが、
「そういえば神父様。診察代のことなんですが」
「リリルカ様。代金については適正なので、諦めてください」
「神父君。君の性分には口を出したくはないんだけど、いきなり口調を変えるのは止めてくれないかい? それに、僕たちも特に懐が温かいわけじゃないから、出来るだけローンとか……。んなにぃ!?」
リリルカの言葉からてっきり代金が高いと思ったヘスティアが全員分の請求書を見て噴き出した。
たしかにベルのだけはちょっと高かったが、請求書に書かれた治療した日時を見ると以前のダンジョンから救助した際の費用などが含まれていることに納得すると共に、全体的に
これならばローンどころか、ヘファイストスに無理を言って自分の
「おいおい、
「いえ、今回は
「おい、じゃあ骨折とか裂傷はあっただろ。あれはどう治したって治癒魔法か!」
「ご察しの通りです。アミッド団長と共に使う治療院での治療なら別ですが、往診ということであれば僕の治癒魔法はかなり安い部類に入ります。なにせ、精神力を使うだけで素材費などは使いませんので。……このように」
「お、悪いな。ってちがぁーう!」
そう言って鍛冶仕事で疲れたであろうヴェルフを中心とした体力回復の詠唱を込めた治癒魔法を高速詠唱によって行使する。無論、アクスが言い出したことなのでタダにはなるが、魔道による範囲的な治癒魔法なんてものをポンと使う彼の行動にヘスティアは渋い顔をする。
「なんというか……。本当に君は
「リリもそう思います。正直、
「僕とミアハ様だったら早々にお店が潰れるかと。それに、僕がミアハ様のところに在籍していたら年がら年中
そう言いながらアクスはミアハに拾われた場合のことを妄想する。
たしか、【ミアハ・ファミリア】はナァーザが
……いや、アミッドの話を聞くにかなりひどい状態でダンジョンから救出されたようなので、一緒にダンジョンに居た場合は自分が生きている保証はないとすっかり某ファミリアのせいで自分がクソ雑魚ナメクジだと思っているアクスが想像した。
まぁ、どのみちアクスが【ミアハ・ファミリア】に居たとしても青の薬舗の財政がちょっと良くなるぐらいなことと、辻ヒール行為をすることには変わりない。結局はアミッドの役割がナァーザに代わり、『まいどあり……。ふふ、たくさん買ってくれる人は好きだよ。ベルさん』とダウナー気味な接客をする店員が増えるぐらいだ。
だが、現実は違う。
「まぁ、とりあえずはディアンケヒト様を主神と仰いで……」
今の自分は【ディアンケヒト・ファミリア】所属の
──グワッハッハ。アクス! 貴様はこの納品予定の
【ディアンケヒト・ファミリア】の──。
──アクスゥ! 【フレイヤ・ファミリア】に応援に行ってこぉい!
ディアンケヒト──。
──アクス! アミッドが倒れおった、看病をして来い! お主ならばあやつは1日で復帰出来よう!
「そうだ、アスフィさんから
「すっごい悪い顔してるけど、今の一瞬で何を思いついたんだい!?」
徐々に嫌なことを思い出したアクスの顔に若干影が差したことをヘスティアは指摘するが、アクスにとってディアンケヒトはアミッドを困らせるたまにご褒美やお小遣いをくれる近所の老人みたいな存在である。
それでも、医神らしい治療などの知識や商売をする上での心構えだけは彼を尊敬して──。いや、やはりアミッドを困らせる存在なので懐いているかと問われると、懐いていないと言えるほどの好感度だ。
「ともかく、高位な治癒魔法を持っている
そんなアクスの裏事情はともかく、治癒魔法なんて希少性の高い魔法を持っているのだからもっと自分の価値を認識するように言うリリルカであったが、彼は聞く耳を持たずにヴェルフの腕にあった火傷に注目していた。
おそらく整備をする中で負ったのだろうが、傷であることに変わりはない。先ほどの治癒魔法では体力のみを回復させたため、2度手間にはなるがアクスは仕方なく
「お、悪いな。……って、俺知らねぇぞ。そんな魔法!」
「先日、発現しました。
「ふざけろっ、レアマジックじゃねぇか! 希少価値の塊か、お前は」
「しかも短文詠唱! さらに希少性上げるんじゃないですよ!」
我慢出来ずにリリルカはアクスを引っ叩く。しかし、往診ではこのぐらいの値段を取っていたために何が問題なのかもわからないアクスは不服そうに『魔法は持ってて嬉しいコレクションじゃぁないんですよ!』と反論する。
「まぁ、安いなら安いで良いじゃないか。ひとまず、サポーター君のは僕の方で払っておくよ」
「申し訳ありません、ヘスティア様」
「いや、良いんだ。そ・の・か・わ・り! ちゃんとベル君を見張っておくんだぞ! あの子はすぐにフラグを立てるからね!」
フラグとは何のことだろうか。相変わらず神々の言うことは分からないが、当人であるベルが現在居ないのでヘスティアとリリルカの言葉に異を唱える人間が存在しなかった。その後は未だ食べ足りないのか、魚に視線を向ける腹ペコモンスターたちを無視して食事を開始する。
「おい、いつまで嚙んでんだよ!」
「いえ、神父様の行動は正しいです。パルゥムは体が小さいので、必然的に一口が小さくて咀嚼が多いんです! それに、小骨が多い魚なんてよく噛まないとパルゥムにとっては危険なんですよ?」
「なんだとぉ! えぇい、この可愛さ全振りの小動物め! この子が女の子じゃなくて本当良かったぁ! 妹系小動物
「ヘスティア様! リリもパルゥムなんですけどぉ!」
いつまでも飲み込まずにもちゃもちゃ食べているアクスの横で色々物申している声が聞こえるが、突如として森の奥から一条の光が伸びた。
まるでリヴェリアのような高レベルの魔導士が魔法放ったようだと思ったのも束の間、いち早く事態を把握したリヴェリアがアクスを呼びに来る。
「アクス、レフィーヤからの合図だ! もしかしたら負傷しているかもしれない、付いてきてほしい」
「
「その前に口の中の物を……なんでもない」
彼の指示に口をもごつかせていたアクスはブリューナクを持ってリヴェリアと一緒にキャンプを出る。光の柱に向けて走る中、アクスは未だレフィーヤのアルクス・レイがブリューナクに蓄えられている現状をどうしようか考えていた。
何か危険が迫った際のお守りとして保持しているが、そろそろ魔法を出してあげないと壊れるかもしれない。そんな想像をしたアクスがフロスヴィルトの使用者であるベートを撤退準備をしている合間に捕まえて尋ねたが、『すぐに使うから知らねぇ』と一蹴される。
ならば、ブリューナクの制作者である椿に聞いてみようと彼女に聞こうとするが、あいにく彼女は忙しくて声を掛けれる状況ではなかった。
何かモンスターが居たら適当にぶっ放そうと思っていると、先行していたティオネたちの声で大きな水晶に囲まれた広場にたどり着く。そこにはかなりの深さの大穴があり、近くにはレフィーヤとベルがかなりぼろぼろの状態でへたり込んでいた。
「とりあえず、上着どうぞ」
「うん、貸してくれることはありがとうなんだけどね? 肌とかジロジロ見るのは止めようね」
「いえ、傷の具合とかちょっと気になったことがありまして」
致し方ないにせよ、エルフにしてはかなり際どい隠し方をしていたレフィーヤに小さいながらも上着を渡しつつ、アクスは文句を言う彼女やベルの外傷を細かく診断する。ベルに至っては途中で回復魔法でもかかったみたいで変に綺麗だったが、レフィーヤの肌や服が以前の遠征で出会った芋虫の放っていた腐食液と同じようなただれ具合だったことに気づいた。
「レフィーヤ様、これってこの前の遠征で特に被害にあった腐食液に近い傷だと思いますが。あの芋虫でも居ましたか?」
「うっ、アクス君こういうときだけ本当によく気づくね。だけど、教えないよ? ……そんな顔してもダメ!」
相変わらず医療関係限定の勘が鋭いアクスにレフィーヤは呻くが、穴の中で起こった出来事を他派閥に言うわけにはいかないと口を噤む。その反応から【ロキ・ファミリア】で処理する事柄だと察したリヴェリアがひとまず現場検証を行うことを宣言。レフィーヤ、アイズは回復後にベルとアクスをキャンプまで送ってフィンを連れてくるように指示を出した。
「アイズさん、下で何かあったの?」
「フィンに言うなって言われてるから秘密。……そんな顔しても教えない」
なんだか仲良さげにしているベルとレフィーヤの後ろでは何やら大きな騒動が水面下で起こっているような気配がしたアクスがやや天然が入っているアイズに詳しく聞こうとするが、空振りに終わってむくれていた。
***
そうして、やや慌ただしい夜が過ぎて翌朝。ガレスの指示でキャンプ地にあった全ての物資が片づけられる。後はフィンの号令を待つばかりの頃、ようやく調査から戻った彼とリヴェリアが帰ってきた。アクスに対して『そちらのファミリアに伝えることはない』と報告すると、彼らはそのまま17階層へと上がっていった。
「それじゃあ、アクスー。またグランド・デイの時にでも会おうねー」
「ロキ様によろしくですー」
ティオナの元気良い言葉に返事をし、彼らを見送ったアクスは持ってきた道具をまとめたリュックを担いでリヴィラの街を目指す。後は適当に宿でも借り、ベルのあれこれが終わるまで空いたリュックの隙間に詰めるだけ水晶でも採掘してようと思っていると、1本水晶の方が騒がしいことに気づく。
「あれは……」
「
目を凝らしてみていると、上空からアスフィがサンダルに生えた翼を仕舞いながら降りてくる。いきなり声を掛けられてアクスが固まったことを良いことに、アスフィがおもむろに彼を担ぐと再び空の住人と化した。
「おぉー、格好いい」
「あまり周目に晒したくはなかったのですが……。はしゃがれると反応に困りますね」
空を駆けるという未知の体験にすっかり少年心が爆発したアクスの様子を生暖かい目で見ていたアスフィは、やがて岩場の出っ張りに着地する。そのまま彼女はアクスを下すと、近くで片膝立ちになっていたヘルメスに『連れてきました』と短く告げると、その声に小さく驚いたヘルメスがアクスの方へ向き直った。
「おっと、夢中で気づかなかったよ。ようこそ、特等席へ」
「悪趣味ですね。それに相手が見えませんが、スキルですか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。それを君に教える必要はないかな」
いつも通り水を掴もうとしたかのようにアクスの質問を飄々と躱すヘルメス。彼らの視線の先では数十人の冒険者が円陣を作り、その中央でベルが何者か──姿が全くない存在からの攻撃で滅多打ちにされていた。
ボールスが言っていたベルへの可愛がり。ただ、先ほどのヘルメスの言葉に加えてアスフィに彼が後ろで話していた口ぶりから察するに、ヘルメスはモルドを
「もし、この行いで冒険者の側面を見てしまった【リトル・ルーキー】の牙が折れてしまったらどうするのです?」
「その時はその時じゃないかな。
まるで先ほどまで熱心に遊んでいた玩具を一時の心変わりで放り捨てようとする子供みたいに吐き捨てるヘルメスに、アクスの頭がカッと熱くなる。
余談だが、無茶ぶりを言ってくるディアンケヒトは除いて、アクスは神々の話をよく信じては変な言葉を覚えて帰ってくる。それほどまでに彼は神を尊敬し、素直に言うことを聞くほどピュアな心の持ち主のように見える。……が、神々が時たま行う
それは、責任を負うことである。
人の命を預かる治療院だからこそ、アクスはアミッドや団員たち。さらには主神であるディアンケヒトから治療における責任の重さを強めに教育されてきた。
そのため、治療時に邪魔をされたり治療を断ったらキレるし、注意をしても顧みない人には強硬手段を使うことも辞さない治療キチが出来上がったのだが、その意識が一部の神々がやっている『人類を玩具に見立てた振る舞い』が心底気に食わなかった。
散々人心をかき乱し、人を惑わす。その挙句が自分だけトンズラし、ほとぼりが済んだらひょっこり顔を出す。
なにせ、神には寿命はない。永く──それこそ悠久の時を使って幾人の人生を狂わせる。そんな極まった例が
閑話休題。
そんなアクスにとって大っ嫌いな神の片鱗を隠すつもりがないのか、相変わらず楽しそうにベルを見つめるヘルメス。
まったくもって気に入らない。そう彼が吐き捨てると同時にブリューナクの切っ先がヘルメスの眼前に止まり、彼の首筋にはアスフィの短刀の刃先が添えられた。
「アクス君、どういうつもりだい?」
「ベルさんの今後の責任を取ろうとしない神を痛めつける気ですが?」
「
「アスフィ!?」
まさかの団長に裏切られるとは思ってもみなかったヘルメスが叫んでいると、アクスはブリューナクを下ろす。先ほどの速攻でヘルメスを傷つけられなかった時点でレベル的にアクスの負けは確実。すっかりやる気を失っていたアクスを良いことに、ヘルメスは上機嫌で観戦に戻った。
「いやー、しかしわざわざダンジョンまで来た甲斐があった」
「そういえば、ダンジョンって神様は入っても良いんでしたっけ?」
「え、駄目だけど? ……あ、これ言っちゃマズいか。すまない、忘れてほしい」
ベルが砕いた水晶を用いて攻撃してくる存在を看破している最中、アクスの唐突な質問に当然なように答えたヘルメスがとんだ失言をする。
何度も言うが、ここはダンジョン。知らないのであれば仕方のないことだと言えるが、バリバリの違反行為を自覚しておきながら悪びれもなく話す神にアクスがついイラッとしてブリューナクに手を掛ける。
しかし、それに気づいたアスフィが慌ててそれを止めた。
「ほんと、すみません! ちゃんと反省させますから! こうっ! ちゃんとっ! 言ってっ! 聞かせますから!」
「ごべっ! ごべんなざいっ!」
ヘルメスの頭を掴んでごつごつした岩場にぶつけながらアスフィが謝罪するが、神がダンジョンに入ったらどうなるのか分からなかったアクスとしてはルール違反をしても悪びれもせずにいたことが許せなかっただけである。
ただ、ギルドに言ったらペナルティとして金銭を支払わなければならないのではないか。そう思ったアクスがそのことを告げると、アスフィとヘルメスは微動だにしなくなった。
「ア、アクス君。つかぬことを聞くけど、密告する気かい?」
「いや、しませんよ?」
「あ、あーっ! そういえばアクス君に贈り物がしたい気分だなー! アスフィ、何か良いマジックアイテムはないかい!?」
「はぁ……。
白々しいほど声を上げたヘルメスに、横からアスフィが銀の翼の意匠が入ったブーツをアクスに差し出す。彼らの反応から『口止め料』だということは察しが付くが、今回の件は既に様々なところに飛び火しているので1人に口止め料と言っても火消しは完全にできないだろう。
そうアクスが説得しようにも既にステイタスの暴力で靴を履き替えさせられる。彼女の言い分では、『内々的に処理するつもりだが、
たしかに言ったが最後みたいな節はあるが、話さないと言ったのに信頼されていないというような対応にちょっと不機嫌になった。
「それは私の
「結構お高い物だと思いますが?」
「いえ、試作品なので。それと、間隔の管理が面倒くさいと前任者のルルネが嫌がりまして……、有体に言えば在庫処分です。それと、もう1度言いますが
「はははっ、アスフィ。そんなに俺が信用……ごめんなさい」
尋常じゃないほど強く睨みつけられたことにより、ヘルメスは一心不乱の土下座を敢行する。
その後、銘が無いのは寂しいと『アンヴァル』と名付けられたこの靴の使い方を確認していると、途端にヘルメスが『ヘスティアのやつ……』と呟いた。その声に釣られてベルたちの方を見ると、遠目からでも女神然としたヘスティアがモルドたちを撤退させ、そのまま満身創痍といったベルに抱き着いているのが見えた。
「ヘルメス様、これは?」
「神威を少し解放したんだ。しかも……、マズいぞ」
途端──18階層が揺れる。何事かと確認するまでもなく
空が急に暗くなる。未だ夜になる時間ではないので慌てるアスフィとアクスであったが、ヘルメスが黙って上を見上げた。
バキリ
硬質な──まるでダンジョンからモンスターが海出る前兆のような音が上から聞こえてくる。その音に気づいた2人も上を見上げると、太陽の役目を果たす水晶の中に
「アスフィ、アクス君も。リヴィラの街の冒険者に応援を呼びに行け」
「ヘルメス様! 今度は何をやらかしたんですか!」
「俺は何もやっちゃいない。……が、時間がない。急げ」
硬質な音を断続的にならしながら水晶の亀裂が深くなっていく。水を限界まで貯めた堤防を前にしたかのような焦燥感を覚えたアスフィは18階層からの脱出を視野に入れるが、その直後に17階層へ続く洞窟があった南端で地響きのような音が聞こえてきた。
「やっぱり、逃がすつもりはなさそうだ。ウラノス、祈祷はどうした?」
「この期に及んで何をそんなことを言ってるんですか! あー、もう! アクス、行きますよ!」
いつもの二つ名呼びでは無くなるほど余裕がなくなったアスフィは恨み言を叫びながらリヴィラの街へ向かって掛けていく。その後ろを慣れないアンヴァルで追従するアクスの後姿をヘルメスの怪しげな双眸が射貫く。
「確かにベル君は神にとって最高の娯楽なのには変わりはない。ただ、忘れるなよ? 人の子よ。
時折、木々の間を転びながらもアスフィに助けられるアクスの姿にヘルメスは笑みを強くした。
最近、ダンクロでアミッドさん引いたんですが…。体力ミリからでも一気に体力マックスまで持っていくのを何回もする彼女の行動を見て、『これの下位互換も思いっきりぶっ壊れだろうな』と思いました。
まぁ、これでもチートにならないのがダンまちなんですがね!
アクスのキャンプ飯
何がとは言わないけど、1週間切ったからね!
ヘスティア、リリルカ、ヴェルフ:攻撃力+2,お食事防御術【小】,お食事免疫術
実際にベーコンとスライスチーズとハーブソルトでやったけど、美味いっす
アクス:防御力+4
オイルサーディンにちょっと醤油がジャスティス
仮にアクスがミアハ・ファミリアだったら
ミアハ「ポーションを配りに行こうか、アクス」
アクス「お姉ちゃん、行ってきます」
ナァーザ「あ”あ"ぁあ”!」
アクスの好感度
アミッド:ごすずん!あこがれの人!(馬鹿犬感)
その他団員:ちゃんと出来たよ!褒めて!(アホ犬感)
ディアンケヒト:たまにチュールくれる爺ちゃん(辛辣猫感)
小骨的なあれ
タピオカとかも、モチャモチャ咀嚼してそう。(キュンッ
パルゥムって小骨が全般的に苦手そうだけど、住む場所小さくて済むし食事も最低限だからミニマリストにとっては天国だと思う。
なお、妹系
アンヴァル
前装備者のルルネはチャージの時間管理を間違えてモンスターの群れに突っ込んで死にかけたことからアスフィに泣きながら返品してきたために在庫となっていた代物。
なお、ヘルメスはどのマジックアイテムを渡すかはあらかじめアスフィと決めていた模様。
元ネタは太陽神ルーの馬。海神マナナーン・マク・リールからの借り物なので、海国の姫であるアスフィと絡めました。