ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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28話:ゴライアス

 木々が生い茂る中を掻き分けながらアスフィとアクスが進む。最初こそ認識の埒外である増速や空中でジャンプをすることで生じる『2段目』という、本来あり得ない現象に何度か転倒や滑落というアクシデントに見舞われたアクス。

 ただ、彼もまた1人の冒険者。リヴィラの街近辺にたどり着く頃にはアスフィの後ろをぴったりくっついていた。

 

 そのパルゥム特有の適応能力の高さ──器用さと言い換えれば良いだろうか。とにかく、そつなくこなす能力に舌を巻きながらも彼女はアクスに叫ぶ。

 

「時間がありません、広場まで飛びます!」

 

「はい!」

 

 短い返事と共に湖沼のギリギリから一気にジャンプする2人。アクスのステイタスでも容易にたどり着くことが出来ない高さであったが、空中で失速する前に()()()()踏み込むことでさらに高度を上げた。

 横を見るとアスフィも自身の履いているサンダルから左右合わせて4枚の翼を広げることで、アクスよりも早くリヴィラの街の崖際にあった広場に着陸した。

 

「ボールスッ! 居ますか!」

 

「うぉわ! なんだ、【万能者】(ペルセウス)!? 【小神父】(リトル・プリースト)も引き連れて、いったいどこから現れやがった」

 

「今はそんなことを言ってる場合ではないです! ボールス、街の冒険者と武器をありったけ集めなさい。あの階層主を討伐します」

 

 ただでさえモンスターが生まれない階層でまさかの階層主が生まれるというイレギュラーに見舞われたというのに、撤退ではなく戦闘をしようと呼びかけるアスフィにボールスは唾を飛ばしながら撤退すると叫ぶ。

 だが、彼女は極めて冷静に既に17階層へつながる洞窟はすでに崩落していることを告げた。

 

「くそっ、アクス! お前も戦う側か? この街にはお前たちの言う患者たちが居るんだぞ!」

 

闇派閥(イヴィルス)に襲われて治療院は無くなりましたか?」

 

「っ! そういうわけか! これだから聖女様率いる治療師(ヒーラー)たちは始末におけねぇ!」

 

 当時のことを思い出したボールスは自分の手を顔面に当ててため息をつく。

 暗黒期の最中でもオラリオ中の患者を癒した【ディアンケヒト・ファミリア】。冒険者や一般人を混乱や怪我から立ち直らせるそのファミリアは、闇派閥(イヴィルス)にとっては目障りなことこの上ない施設だったはずだ。

 当然ながら幾度となく襲撃を受け、幾度となく損害が出た。しかし、その度に()()()()()のように生まれ変わっている。それが、アクスの──患者の苦しみを取り除くために外敵の排除もいとわない【ディアンケヒト・ファミリア】の総意であった。

 

「すでに分かっているはずです。ここからでも分かるぐらいの崩落。開通するのに1日は要するでしょう。いくら精鋭をぶつけても、()()は普通の階層主ではない」

 

「あぁ、あんな黒いやつは初めてだ。当然、周囲のモンスターも相手にするとなれば……。やるしかねぇか」

 

 リヴィラの街という冒険者の集まりを束ねる顔役である以上、損得勘定以前に街を防衛するための戦略についても多少齧っていなければならない。アスフィの説明ですっかり逃げる気力が失せてしまったボールスは項垂れつつも、すぐさま気を張りなおしてから腕を振り上げた。

 

「話は聞いてたなぁ、てめぇらぁ! あの化け物と1戦やるぞぉ!」

 

『応っ!』

 

「冒険者を集めろ! 戦える奴で良い! 応じないやつは2度とこの街に入れねぇから覚悟しやがれ!」

 

 ある意味脅しに近い号令の下に冒険者たちが動き出す。それぞれは武器を持つと、入口を通って主戦場である大草原へと向かっていくが、そこにボールスの部下から報告が届く。

 

「ボールスさん、銀の腕(アガートラム)を付けたばかりの奴らも武器持ってゆっくり入口に向かって行ってますぜ!?」

 

「なにやってんだ、あいつらぁ! 殴ってでも止めて、商人たちと同じところに押し込めとけ!!」

 

「流石第3級とか第2級の冒険者ですね。もう動けますか」

 

「付けたやつが感心してるんじゃねぇよ! あー、もう戦う前から混乱させやがって!」

 

 先日付けたばかりの義手や義足をゆっくりながらも使いこなしている様子に感心するアクスだが、こういった怪我人が場を乱す要因になるとボールスは、部下たちに銀の腕(アガートラム)を装着したばかりの冒険者を緊急避難用の場所に押し込むように伝えながら自分も駆け出した。

 

「ボールス! 俺たちも戦わせてくれ! お前らが戦ってるのに何もしないお荷物は嫌なんだよ!」

 

「良いから任せとけ。……な? 畜生、なんで俺がこんな優しい言葉をてめぇらにかけなきゃいけねぇんだよ!」

 

 周囲から『ごもっとも』と言われそうなセリフを吐きながらも銀の腕(アガートラム)を装着した冒険者たちを避難させるボールス。途中からアクスに任せれば良かったことを思いついて広場の方を見たが、アスフィ共々アクスも消え失せていた。

 

 彼らは今──ゴライアスの真正面に居た。

 

***

 

「アクス。手筈通りにお願いします」

 

「分かりました」

 

 アスフィから降ろされたアクスは周辺の確認から入る。横では彼女が戦場の中でもよく通る声で指示を出し、それぞれが退避や怪我人を集める中でアクスはブリューナクを掲げる。

 すっかりチャージされている状態が普通となってしまったが、この槍には【ロキ・ファミリア】の魔力バカ……もとい、レフィーヤの魔法が込められている。LV.3の彼女が放った魔法を突き刺し、内部から破裂できれば魔石を狙わずとも形勢は圧倒的有利となるだろう。

 

 未だ暴れているゴライアス。今は暴れ回らせることが危険だと判断したアクスは、奴の上半身に比べて短くも尚デカい足を狙うことにした。

 

 ──良ぇか、アクス。冒険者やったら必殺技は必要や。それを叫べば威力倍増は間違いなしやで! ……知らへんけど。

 ──うん、私も『リル・ラファーガ』って必殺技を持ってる。たしかに威力が上がってる。……気がする。

 

 脳裏に描くはとある神やとある先達からの若干怪しい助言。ただ、必殺技というものは子供にとってテンションが上がる存在である。アクスもその例外ではなく、話を聞いてから自分の中で考え続けたものの、結局案が出てこなかったことからディアンケヒトに呆れられながらも作ってもらった必殺技を今、放つ。

 

「トゥアハ・デ・ダナーン」

 

 そう言ってアクスはブリューナクを投げつける。何の変哲もない投槍ではあるものの、LV.2のステイタスでぶん投げられたブリューナクは矢のような速度で冒険者たちの頭上を飛び越え、強固な金属鎧よりも固いゴライアスの足のすね部分に深々と突き刺さると──爆ぜた。

 

「威力高過ぎやしませんか!?」

 

「レフィーヤ様の魔法なので……。ひとまず、怪我をした方の治療をしてきます」

 

 肉の焦げる臭いを周囲にまき散らしながら片足が爆散したゴライアスが転倒する。内部から爆発させたとはいえ、LV.2が出していい火力ではないと呟くアスフィにアクスはおざなりに答えながら怪我人の基へと走っていった。

 

 ただ、これらの多大ともいえる戦果には絡繰りがあった。言わずと知れたブリューナクと、そこに込められたレフィーヤの魔法(アルクス・レイ)だ。

 普通の槍ではおそらくダメージらしいダメージが与えられなかっただろうが、オラリオ最高の鍛冶師である椿がヘファイストスが呆れるほどに高価な材料を使って鍛え上げられたブリューナクはいくらイレギュラーであろうとも()()()()程度で通じないわけがなく、加えてそこに【魔力】アビリティを重点的に上げているレフィーヤの魔法が加わる。

 

 なお、余談だがレフィーヤと同室の親友であるエルフィはあの時の彼女についてこう語る。

 ──あの時のレフィーヤ? あれは危なかったねー、同じレベルの私でも分かるよ。あれは推定だけど、LV.5は行ってたね。

 

 閑話休題。

 火事場の馬鹿力とでも言おうか。あの覗き魔(ベル)を絶殺するために練り上げられた1撃を内部から食らえば、さしもの階層主でも一溜りもなかった。

 ただ、ゴライアスの足を吹き飛ばした際に得も知れない悪寒がベルを襲うが、おそらくは風邪だろう。

 

 アスフィから離れたアクスは、爆発したことで吹き飛んだブリューナクを回収しながら並行詠唱を開始する。

 

死と再生の象徴よ、我が声に耳を傾けたまえ。癒しを求める者よ、我が声に集まりたまえ。

我が癒し、万物(なんじ)を救う。万物(なんじ)は助け、我を救う。

 

 道中にバグ・ベアーなどと遭遇するものの、アクスは速度を緩めない。撫でられただけで命を刈り取るほど鋭利なモンスターの爪だが、その速さは手を抜いたヘイズたちよりも圧倒的に遅い。詠唱を止めぬまま穂先でバグ・ベアーの手を突き刺し、怯んだ隙にその脇を通り過ぎた。

 

誓いをここに。

我は侵された者の安寧を願う者。我は傷ついた者を癒す者。

 

 1番近い怪我人の集団まであと少し。しかし、牽制のみに留めていたことが仇となって現在アクスはバグ・ベアーを引き攣れていた。

 アンヴァルのおかげで悠々と逃げ切れているものの、いつまでも追いかけられていると回復が出来ない。そう思っていた矢先、彼とバグ・ベアーの間に大勢の冒険者が割って入ってきた。

 

【小神父】(リトル・プリースト)を守れ!」

 

「あっちで俺の仲間もヤられてんだ、頼む」

 

 首を縦に動かして了承の意を告げながら目的地である大木の根本に到着したアクスは、集団の中心めがけて詠唱を締めくくる。

 

この誓いに基づき、我が行使する。

ケーリュケイオン

 

 魔法円(マジック・サークル)から温かな緑の光が漏れ、それが晴れた瞬間に今まで倒れ伏していた冒険者たちが再びゴライアスへと挑みかかる。

 

 そんな彼らの後方。治癒魔法を掛けた場所から動かずにアクスは次の回復場所について悩んでいた。

 ゴライアス戦の常道で行くならば壁役と中衛の間にアクスは配置されているが、今はゴライアスを攻撃部隊や怪我人を纏めた場所で取り囲んでいるような異種的な布陣を展開している。このまま時計回りに回復しては時間がかかり過ぎるし、なにより前衛の回復が全くできない。

 そうなると、ゴライアスと戦っている冒険者たちを回復しながら中央を突っ切って回復させていった方が注意する存在をゴライアス1体に絞れるため、上手く移動できるのではないだろうか。

 ここにアスフィやボールスのような存在が居れば即座に止められるだろうが、残念なことにここにはいない。意を決してアクスは精神力回復薬(マジック・ポーション)を飲んでから高速詠唱に入った。

 

ケーリュケイオン

 

 ブリューナクに体力回復と傷の回復を込めた治癒魔法を充填させ、一気にゴライアスの周辺で戦っている冒険者たちに肉薄する。

 

「なっ! 【小神父】(リトル・プリースト)、なんで!」

 

治療せよ(アスクラピア)

 

 まずは1人。通りすがりかつ、傷が多いので自動治癒魔法(オート・ヒール)を行使。

 

【小神父】(リトル・プリースト)! 何をしているのですか!」

 

 爆炸薬(バースト・オイル)をゴライアスに投げながら着地したアスフィのそばにブリューナクを突き刺す。その範囲に居た冒険者ごと回復させたアクスは一気に走り去っていく。

 

「アクス、何をしてるんだ!」

 

「アクス殿、危険です!」

 

治療せよ(アスクラピア)

治療せよ(アスクラピア)

 

 それぞれすれ違うごとに桜花と命の身体に触れ、自動治癒魔法(オート・ヒール)を行使。そのままゴライアスの攻撃範囲から走り抜けたアクスは、怪我で倒れた冒険者の集団に近づくと治癒魔法を行使した。

 ここまでの連続した治癒魔法や自動治癒魔法(オート・ヒール)によってすっかり精神疲弊(マインドダウン)の症状に陥っていたが、高等精神力回復薬(ハイマジック・ポーション)で無理矢理精神力を回復させたアクスは再びゴライアスの傍を通り過ぎる。

 

 そんな様子を少し離れた物資の集積所で見ていたヘスティアは、初めて見る治療師(ヒーラー)という役割の行動に疑問の声を上げていた。

 

「サポーター君、あれが治療師(ヒーラー)の普通なのかい?」

 

「馬鹿を言わないでください。あんなことが出来る治療師(ヒーラー)なんて数えるほどしか居ませんよ!」

 

 いくら治癒魔法が使えようとも治療師(ヒーラー)は分類としては後衛にあたる。こういった団体での戦闘に参加したことはないリリルカだが、戦場を俯瞰して見るとアクス以外の治療師(ヒーラー)が後方に下がってきた怪我人を手当てしている。

 つまり、階層主と戦っている最前線を回復させながら突っ切って移動すること自体が異常なのだ。

 

 しかし、そんな頭のおかしい行動が戦況を有利に進めていることは確かだ。脚部を失ったことで暴れ回って周辺ごと薙ぎ払うことが出来なくなったゴライアスは咆哮(ハウル)という1種の魔法をひたすら放っていた。

 それでもこの攻撃はゴライアスが手を振り回すよりも威力が弱く、口からしか射出することが出来ない。そのため、奴の口元さえ気を付ければ十分に回避は可能だ。

 さらにヴェルフの魔法である【ウィル・オ・ウィスプ】という魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を引き起こす魔法がたびたび挟み込まれることでゴライアスの口元が爆発し、その度に生じる大きな隙に冒険者たちが群がっていく。

 

 たまに引き際を誤って吹き飛ばされる間抜けは居るものの、既に動けなくなった階層主などリヴィラの街の冒険者にしてみればカモだ。その間にもアクスの回復はすべて完了し、文字通り前線力が一丸となって戦いに加わった。

 圧倒的有利なこの状況。このまま誰がトドメを刺して素材を手に入れるか……という皮算用を始める者まで居た。

 

 しかし、どうやら神々のいうところの()()()というものが実際にあるらしい。

 

 オぉおぉオおォぉ──! 

 

 耳をつんざく雄たけび。咆哮(ハウル)のような攻撃性はないものの、何かの合図のように叫んだゴライアスが──()()()

 

「はぁ!? 何が起こってやがるんだ! 足が……」

 

「自己再生!?」

 

 爆散したはずの足を起点に立ち上がったゴライアスは、今まで散々嬲ってきた冒険者たちに返礼をするかのように蹂躙を始める。その光景を後衛の魔導士を守る壁役となっていたボールスが苦い顔をしながら見ていると、後方から魔導士たちの詠唱が完了したことを壁役の冒険者たちから告げられる。

 

「よ、よし! 前衛、引けぇっ! でかいのをぶち込んで黙らせるぞ!」

 

 号令に合わせて前衛となっていた者たちがゴライアスから離れていく。数人かは倒れて動けなくなっていたところを桜花やベルに運ばれていくが、全員の退去が完了したと同時に魔導士たちはそれぞれの獲物を振り上げた。

 

 魔法による怒涛の一斉砲撃。多種多様な属性の魔法がゴライアスを貪っていく。

 火炎弾が表皮を破り、中の肉を雷の槍が突き刺す。氷柱の雨が鋭利な風の渦によって砕け散ることで殺傷力が増し、ゴライアスの一部を覆う。

 薄暗くなった18階層の一部が明るくなるほどの砲火の光。美しいと思えてしまうぐらいの光景を前に前衛は微動だに出来なかった。

 

 しかし、そんな大草原にアスフィの声が走る。

 

「前衛! 何か所かに分かれてください!」

 

 魔法の破裂音の中でも良く通る彼女の号令に前衛のそれぞれは何組かの集団に分かれる。そんな集団の中に突っ込む小さな存在が草原の中を駆け抜けた。

 

ケーリュケイオン

 

 槍の反動を使った高速移動法にアンヴァルによる空中での方向転換により、瞬く間に前衛や周辺でモンスターを抑え込んでいる冒険者たちに体力の回復を含んだ治癒魔法を行使するアクス。時折、精神力回復薬(マジック・ポーション)を挟みながら全体の回復作業をしていると、いつの間にか魔法の砲撃が止んで冒険者たちがすっかり消耗している様子のゴライアスに向けて突撃を開始していた。

 

「自己再生する前に片を付けろ!」

 

「自己再生は化け物だけの特権じゃないことを教えてやれぇ!」

 

「行け、行け、行けぇ!」

 

「誰か武器、持って来い!」

 

 そこかしこからすっかり息を吹き返した冒険者たちの怒号が飛び交う。

 いくら自己再生が脅威であろうとも足1本を失った際の修復速度を鑑みれば削りきれると思ったのか、それぞれは自己再生できないほどダメージを与えようと必死になって武器を振り回す。固い外皮が破けた部分を突き刺し、抉り、魔剣で焼く。様々な手段でもってゴライアスを仕留めようとしていた冒険者たち。

 

 自己再生にはヒヤヒヤしたが、再び訪れる冒険者側に有利な展開。ボールスが笑みを浮かべたその時、周囲をタラリアで飛行していたアスフィと後方でベルと一緒にアクスの回復を受けていたリューが目を見開きながら叫んだ。

 

「再生が速すぎる!!」

 

「退避ーっ!」

 

 全くの同時の叫び。だが、どちらも数拍遅かった。

 既に天高く伸びたゴライアスの両腕が振り下ろされ、18階層が揺れる。震源地である大草原にはゴライアスを中心に放射状の亀裂が走り、すさまじい衝撃波が前衛を飲み込んだ。

 アクスも小さいパルゥムの身体が災いして遠くまで吹き飛ばされかけたが、多少の衝撃と共に勢いが止まる。

 

「アスフィ様、ありがとうございます」

 

「いえ。しかし、かなり状況が悪いですね」

 

 そう言ってアスフィがボールスに部隊の再編を叫ぶ。だが、すっかり再生したゴライアスが咆哮(ハウル)を放ちながら手当たり次第に暴れ回るためにすっかり戦意を喪失した者が我先に逃げ、仲間が負傷した者はいつ来るかも分からないアクスを待つよりも自分が治療をした方が速いと戦線離脱して治療を始め、後衛だった故に蹂躙の手が届かなかった魔導士はボールスの合図を待つことなくそれぞれのタイミングで詠唱を始める。

 あのそれぞれが好き勝手に行動しながらも嚙み合っていた連携はもはや見る影もなく、全員が等しく散兵。もしくは烏合の衆となり果てていた。

 もはや自分を脅かす存在が居なくなったかのようにゴライアスは口を頭上に向け──吠えた。

 

「頭上に咆哮(ハウル)……。いや、まずい!」

 

 ボールスが後衛に場所の移動を指示するのも束の間。ゴライアスの声に反応したモンスターが再び集まってくる。

 もはや階層主討伐どころではない。冒険者たちはそれぞれ眼前のモンスターを打ち倒すことに集中するという悪循環に入りかけていた。

 

 状況は最悪。しかし、脱出は不可能。出来る手立てと言えばひたすらアクスを連れて逃げ回るのみという考えがアスフィの脳裏を掠める中、彼はとある1点を指差した。

 

「アスフィさん、僕をあそこに」

 

「アクスっ! いえ、【小神父】(リトル・プリースト)。あなたはこの集団の中で1番死んではいけない人間なのは分かっていますか?」

 

 アクスの提案に彼女は冷たく言い放つ。失望したからではない。()()意識しなければアスフィが激情のままに彼を叱りつけていたからだ。

 

 彼女はこの場に居る冒険者──【疾風】という二つ名がついていたリューより、【万能者】であり稀代の魔道具作製者(アイテムメーカー)と称されている自分よりも腕の中に居る小さな治療師(ヒーラー)が何よりも大事だと認識していた。

 それは主神であるヘルメスも()()()予定を開けてアクスと出会って遊んであげるぐらいの善性の子だからでも、オラリオで人気があるからでもない。単純に若い芽を摘みたくないからだ。

 

 若い芽と言ってもただ若い()()ならば、アスフィもここまではしない。それが巨木になると分かりきっているからこそ、ヘルメスがポカをしたように()()()()()装備を授けた。

 ……ヘルメスがダンジョンに入ったことについて【フレイヤ・ファミリア】に言って欲しくないというのは本当のことだが、それはそれである。

 

 しかし、そんなアスフィの事情などお構いなしにアクスは反論する。

 

治療師(ヒーラー)は最後まで立ってないといけないんです。まだ()()じゃない、あそこに立っている人が居ます」

 

 そう言って再度指差した先。そこにはリューとベルが立っていた。

 思わず『たった2人で……』と言おうとするが、続けてアクスは指で彼らの周りで倒れつつも立ち上がろうとする冒険者を指しながら声を張る。

 

「それに、2人で最後にはさせません! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが治療師(ヒーラー)という物でしょう!」

 

「まったく、どこの誰にそんなことを……。いえ、知っているので言わなくて良いです」

 

 片や怪我や病気などを嫌う銀の聖女。片や女神の信奉者にして強靭な勇士(エインヘリヤル)を支える黄金の魔女。そんな彼女たちを師として仰いでいればそうなることは分かりきっていた。

 説得するはずが説得されてしまった事実に頭を痛めながらも、アスフィはベルたちの下に降りてくる。上から人が現れたことにベルが驚く傍ら、リューはアスフィに近づいた。

 

「アスフィ、ゴライアスを足止めします。援護をお願いできるでしょうか?」

 

「はぁ……。そうですよね、そうだと思ってました。ヘルメス様ぁ……、絶対許さないからぁ……」

 

「回復、終わりました。ご武運を」

 

 まるで上司の無茶ぶりを幾度となく受け止めては心を疲弊させた部下のような泣き方をするアスフィに対して、憐憫の視線を向けたリューはアクスに礼を言いながら去っていく。そんな彼女の有無を言わさない突撃に覚悟が決まったのか、アスフィは『やってやりますよ、畜生』と半ば自棄になりながら追いかけていった。

 

「では、ベル様。周囲の方を起こしますので、護衛をお願いします」

 

「あ、うん。……アクス君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「回復させながらで良ければどうぞ」

 

 痛がる体力がある冒険者たちに自動治癒魔法(オート・ヒール)を掛けていきながら、アクスはブリューナクの魔法吸収能力について質問してくるベルに答えていく。

 今まで治癒魔法しか吸収してこなかったこと、レフィーヤの魔法(アルクス・レイ)は偶然吸収できていたこと、椿曰く魔剣の魔法も吸収して放出できること。他にも聞かれたが『分からない』と答えていると、アクスの耳に小さな鐘が聞こえる。

 

「ベル様、これは……」

 

【英雄願望】(アルゴノウト)。これを最大まで溜めて魔法を放つ。アクス君には避けられた時に、ファイアボルトを吸収して欲しい」

 

 体力と精神力を対価に攻撃の威力を上げる事が出来るスキルとベルが言った。武器や魔法問わず、その威力は上層のインファント・ドラゴンをも屠れるほどだとか。

 まさに起死回生の1撃。周囲の叫び声を聞いて徐々に顔色を曇らせるベルに、アクスは彼の腹を小突く。

 

治療師(ヒーラー)を攻撃に使おうとするなんて、ベル様は鬼畜ですね。分かりました」

 

「え、いや。あの……ごめんなさい」

 

「いえ、今は回復とか言ってる場合ではないことは確かです。承りました、回避された時はお任せください」

 

 そう言うとアクスはすぐさま行動を開始する。最後の高等精神力回復薬(ハイマジック・ポーション)を飲み、道行く冒険者を並行詠唱や自動治癒魔法(オート・ヒール)で回復しながらゴライアスの背後を取った彼は、周囲で戦っている冒険者に治癒魔法を施しながらその時を待つ。

 

 1分──2分と待機し、やがて今まで微動だにしなかったベルが動き出したのをゴライアスの股下から確認できたアクスは、彼の動きに合わせて動き出した。

 その場で高くジャンプしたアクスはブリューナクの穂先をゴライアスの外皮に突き立てる。ミスリルで出来た穂先は簡単に黒い外皮を貫くが、ゴライアスにとっては蚊が止まった程度のダメージしかなかったのか一向に気づく気配はない。

 

 ──それで良い。

 

 穂先を食い込ませた外皮を地面に見立てアクスは柄を限界まで撓らせて機を待つ。今もリューやアスフィ目掛けて腕を振っており、少しでも気を抜けば振り落とされかねない状況の中でアクスが耐えていると、唐突に動きが止まった。

 

「リオン、離れ……【小神父】(リトル・プリースト)!? なにをっ!」

 

 ここでようやくアスフィがゴライアスの背中にくっついているアクスの存在を確認するが、次の瞬間。今まで撓らせた柄を解放し、槍を持ったアクスが上へと射出される。

 グングンと高度を上げたアクスはやがてゴライアスの頭よりも高い場所に来たちょうどその時──。

 

「ファイアボルトォ!」

 

 白い稲光が瞬いた。凄まじい轟音が苦し紛れにはなったゴライアスの咆哮(ハウル)を正面から打ち消し、その先にあった奴の頭部を()()()

 

「うぇぇ!?」

 

 当然、避けられた際の保険として空中に居たアクスは叫ぶ。

 

(貫……! 速……避……無理!! 受け止める無事で!? 出来る!? 否、死)

 

 以前見たファイアボルトよりも頭のおかしいレベルで貫通性を有したファイアボルト。もはや別の魔法のような存在に完全に冷静さを欠いていたアクスだが、もはや装備を信じるしかないとブリューナクを眼前に掲げる。

 耐え切れなければ死。だが、今さら避けても重傷は避けられない。覚悟を決めたアクスが両手で柄をしっかりと握ると同時に大炎雷が衝突した。

 

 ゴライアスの表皮ごと肉をえぐり取る貫通力のためか、後方に吹き飛ばされつつも真っ白い稲光は次々と宝玉の中に吸い込まれていく。その様にふと『耐久値』や『許容限界』という文字がアクスの頭を過るが、幸運なことにブリューナクが壊れることはなかった。

 だが、ファイアボルトの威力が凄まじかったのもあってか、ゴライアスからかなり離れてしまう。

 

「神父君! ベル君が! ベル君がぁ!」

 

 アンヴァルで方向転換をしながらアクスが補給所として使われている広場に着地すると、ヘスティアが泣きながらアクスの手を引いて丘を降りていく。そろそろアクスの体力も限界なうえ、しきりに『ベル君』と要領を得ない報告に訝しみながらも一応神ということで付いて行ったアクスの目に明らかに重症なベルと桜花の姿が映った。




いかん、アミッドさんとのいちゃいちゃ(棒読み)が足りん

トゥアハ・デ・ダナーン
 ディアえもーん、必殺技考えてよ~。とアクスに言われたディアンケヒトが仕方なく考えた必殺技。
 端的に言えば、ただの投槍(ただし中身の魔法が極悪)
 元ネタはケルト神話のダーナ神族(ディアンケヒト、ミアハ、アミッド、ナァーザもここ)
 ※思ったらアクスじゃなくてキアンとかにした方が収まりが良かったかもしれん

あれが治療師(ヒーラー)の普通なのかい?
 Q:どう思いますか?
 A:某美の女神所属「普通じゃない? 少しでも近くで叩き起こせたら戦線に復帰しやすいでしょ」
  某医神所属「動けない患者に対してこちらから出向くのは間違いではありません」

全ての傷を癒して、何度でも立ち上がらせる
 聖女と魔女の夢の競演。
 これには教えた2人も笑顔でスタンディングオベーションをするであろう。

ブリューナク
 怨念満載の魔法をやっと吐き出せたと思ったら、ものすごい威力の魔法を再び吸収させられたでござる
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