ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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モン●ンが楽しみ過ぎたので投稿


29話:英雄に寄り添う者

 18階層の南部。中央樹と補給拠点のちょうど中間にある草原では重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

「桜花っ……!」

 

「桜花殿っ!」

 

「クラネルさんっ! 返事を! 呻き声だけでも良いから、出しなさいっ!」

 

 涙を浮かべた千草と悲痛の表情を浮かべた命が静かに目を伏せる桜花の治療を行う。その横ではリューも彼女たちのように、目を閉じて一向に動く気配がないベルの腹などに包帯を巻いては滲んでくる血の量に眉をひそめていた。

 そんな絶望に染まった草原にヘスティアたちが踏み込んで来る。中でもアクスの存在に目を輝かせた命たちは彼の手を引っ張って桜花の傍に座らせるが、アクスは『ベル様も診なければなりません』と冷静にベルと桜花の間を陣取った。

 

「リューさん、ベル様たちが傷を負った経緯をお聞かせいただけますか?」

 

 桜花の身体を触診しながらアクスはこの中で1番冷静であろうリューに経緯を聞くと、彼女は頷いてから状況を話し出す。

 どうやらアクスが【英雄願望】(アルゴノウト)の籠ったファイアボルトをブリューナクで吸収している間、あの大炎雷による欠損から即座に立ち直ったゴライアスが咆哮(ハウル)を行ったらしい。その際に再生途中であった口で咆哮(ハウル)したことで脆くなった牙が弾け飛び、その欠片によってベルは全身をくまなく負傷。そのまま咆哮(ハウル)の勢いにあおられ、天高く打ち上げられた。

 そのままゴライアスが彼を殴りつけてトドメをさそうとするが、既のところで盾を持った桜花が割り込んだことで窮地を脱したらしい。

 しかし、LV.2ではゴライアスの膂力に歯が立たなかったのか、ここまで吹き飛ばされて今に至るのだとか。

 

 話を聞く限りでは、おそらく桜花が庇わなければベルは死んでいただろう。そのことを一応ヘスティアに伝えたアクスが治療の開始を告げると、ベルの傍に座っていたリューが立ち上がる。

 

「私はアスフィのところに向かいます」

 

「エルフ君、どうか時間を稼いでくれ。ベル君がきっとあのモンスターを倒してくれる」

 

「それは……」

 

 『不可能だ』と言いそうになる口を閉じる。現状を鑑みればヘスティアの言っていることは全て彼女の都合の良いように考えた妄想だ。

 しかし、リューは既にLV.2でありながらあのゴライアスの顔面を射抜いたベルの魔法を見ている。魔導士が万全に機能していない今だからこそ、前衛でありながらあのような1撃を放つことが出来たベルに彼女は一種の『希望』を見出していた。

 強く見据えるヘスティアの瞳という後押しによって希望に託すことを決めたリューは、『分かりました』と告げるとゴライアスに向けて走り出す。

 

「千草様、以前に桜花様のご依頼で配達した回復薬(ポーション)は持っていらっしゃるでしょうか?」

 

「えっ、うん。大事なものだから【ディアンケヒト・ファミリア】のは取っておけって桜花が……」

 

自動治癒魔法(オート・ヒール)後に飲ませてください。臓器が傷ついていると治癒魔法が掛かりにくいので」

 

 そう言いながらアクスは自動治癒魔法(オート・ヒール)を桜花とベルに行使する。30秒間で見る見るうちに裂傷などといった生傷は言えたものの、2人は一向に目を覚まさない。

 しかし、あの出血量や触診した結果から自動治癒魔法(オート・ヒール)だけでは治癒魔法を用いても不安が残るとアクスは判断。すかさず懐からナァーザからもらった二属性回復薬(デュアル・ポーション)を取り出した後にベルに飲ませ、千草もそれに倣って桜花に回復薬(ポーション)を飲ませる。

 すると、2人の青白い顔色が徐々に血の気を取り戻し、呼吸も安定しだした。

 

「治癒魔法を掛けます。集まってください」

 

 アクスの声に全員が集まる。やや早口ながらも正確に詠唱した治癒魔法によってベルと桜花の身体は見た目上は完璧に治療することが出来たが、時折身体が痙攣したかのように動くものの目を覚まさないことにヘスティアたちは徐々に狼狽え始める。

 

「し、神父君。本当に治療は終わったのかい!?」

 

「目を覚まさないのですが……」

 

「なんでぇ、どうして桜花が目を覚まさないの」

 

 口々に疑問の声が上がるが、アクスにはこれ以上手を施すことが出来なかった。

 目が覚めるのに十分なほど体力があれば、痛む原因であった傷も完全に塞がっている。桜花の身体を触れば固いしっかりとした感触が返ってきているので、骨折も完治はしているのだろう。

 そうなると、後に残るのは本人たちの努力次第ということになる。ベルの方は1つだけ懸念点はあるが、どちらも等しくアクスの裁量で出来る範囲の処置は出来たと自負している。

 

 しかし、彼女たちの中にはひねくれ者(リリルカ)の存在も居る。そんな彼女が現状のベルを見て思わず呟いてしまった。

 

「もしかして、治療に不手際が……あっ」

 

「リリルカ様。現状が現状なので、とりあえず"1回"です」

 

「うっ、ごめんなさい」

 

 リリルカも思わず言ってしまった言葉の()()()に気づくが、もう遅い。

 アクスにとって彼女が言ったことは【ディアンケヒト・ファミリア】。つまりは主神であるディアンケヒトやアミッド、団員たちが研鑽してきた技術を侮辱したことに等しい。

 ただ、階層主が暴れ散らかしているこの場でリリルカに対してキレ散らかすほどアクスの精神は幼くない。

 彼女も言ってから反省したらしく、諸々を含めて()()と警告したアクスは深く深呼吸をしながらベルたちが目覚めない要因を説明する。

 

「おそらく意識が肉体に紐づいていません」

 

「それっていうところの仮死状態ってことですか?」

 

「つまり死んでるって事かい!? うおぉぉん、ベェェルくぅん!」

 

「桜花"あ”ぁ"!」

 

 リリルカの言葉にすっかり気が動転したヘスティアと千草。時間がないので宥めるのはこの場に居る人たちで勝手にやってもらうようにしたアクスは続きを話す。

 

 風邪で寝込んだ時や本当に疲れた時など、身体が極限状態となった時に見る夢は意識が完全に夢の世界へと旅立つことがある。時折、身体が痙攣するかのように動いているのは良い証拠だろう。

 桜花の場合、おそらくその状態だ。彼は今、夢が現実と思って戦っているのだろう。

 しかし、そうなると起こすには細心の注意を払わなければならない。ディアンケヒトからの話でアクスも症状を見たことが無いのだが、気付け薬などで無理矢理起こすのは現実と夢の格差が生じて()()()恐れがあるようだ。

 そのため、特に呼吸が止まって危険……ということはなさそうなので、そのまま自力で目覚めるのを待った方が良いだろう。

 

 そのことを伝えると、彼女は必死になって桜花の名を呼び始める。桜花の診断についてはアクスは自信をもって正しいと自負する。

 しかし、ベルの症状については別だ。ヘスティアに視線を向けたアクスは、()()()を話し出す。

 

「ベル様は桜花様と同じ……ですが、精神力枯渇(マインドゼロ)。いえ、二属性回復薬(デュアル・ポーション)を飲ませたので重度の精神疲弊(マインドダウン)が考えられます」

 

 【英雄願望】(アルゴノウト)は精神力と体力を大幅に使うスキルだとあの時ベルが言っていた。魔法を一切使わずに重傷を負った桜花とベルの違いをあげるとするならば、やはり精神力が限界に来たのだろうというのがアクスが辿り着いた推測である。

 それならば追加で精神力回復薬(マジック・ポーション)を飲ませれば良いのだが、あいにく先ほどまでの回復行為でアクスが持っている精神力回復薬(マジック・ポーション)の類は全て使いきってしまった。

 補給所の方もこの乱戦具合だ。回復薬(ポーション)の備蓄はすでに底をついているだろう。他の冒険者から分けてもらおうにも、どこも手一杯でそんなことをする暇があるとは思えない。

 

「このまま寝かせれば桜花様と一緒でじきに起きるでしょうが、ヘスティア様はまだベル様に戦ってもらいたいと?」

 

「……うん」

 

 ややきついアクスの物言いにヘスティアは小さく頷く。いくら希望を見せられたからと言っても今のベルをすぐにゴライアスの下へ向かわせるのは、彼の中に居る想像上のアミッドが許さなかった。

 仮にも治療院でこんなことを言う患者が居れば、アダマンタイト製の鎖やら拘束具。耐異常の発展アビリティがなければ体の自由を奪う麻痺薬を使ってでも安静にさせる治療師(ヒーラー)。それが彼女である。

 

 だが、ヘスティアの返答によってアクスの頭には想像上のヘイズが浮かび上がった。

 戦いの野(フォールクヴァング)を1人で支えた逸話を持つ魔女であり、血気盛んな強靭な勇士(エインヘリヤル)を叩き起こしては戦場へ向かわせることを生業にしている彼女が『早く叩き起こして戦場へ向かわせろ』とアクスに囁いてくる。

 

(傷を治すためにはこれ以上戦わせない方が良い。絶対安静ってお姉ちゃんは言うだろうなぁ)

 ──そうですよ、アクス。治療院ではお姉ちゃんも皆もしてるでしょ? 

 

(でも、現状はゴライアスを倒してもらわないといけないし……。師匠は絶対向かわせるって言うだろうなぁ)

 ──そうよ、バカ弟子。戦いの野(フォールクヴァング)じゃ満たす煤者達(アンドフリームニル)もやってたでしょ? 師匠の言うことが聞けないの? 

 

 あちらを立てればこちらが立たず。どちらの意見を取り入れたら良いかを真剣に脳内で話し合っていたアクスであったが、ゴライアスの大声を皮切りにバックパックの底部に収められた木箱を取り出した。

 

「なんだい、これは」

 

万能薬(エリクサー)です。これを使えば意識が回復するかと」

 

「エリクッ……【ディアンケヒト・ファミリア】製の物なら50万ヴァリスはしますよ!?」

 

「ごじゅっ!?」

 

 余りの値段に目を剝くヘスティア。しかし、これは往診で緊急に緊急を重ねるほど容体が酷く、アクスの治癒魔法を用いても回復しない患者にのみ使うことが許されている端材を使った廉価版である。

 そのため、逆算すると20万ヴァリスと半額以下の値段が妥当なのだが、それを言うと本人たちの覚悟が軽くなるのでやめておいた。

 

「どうしますか? 50万を支払ってベル様を戦いに行かせますか? いくら僕でも死の3歩手前や1歩手前から息を吹き返させるのは不可能ですよ?」

 

 アクスは究極の選択を突きつける。いくら【ヘスティア・ファミリア】が最近安定しているからと言っても、今回の出費を考えれば万能薬(エリクサー)代など到底出せないだろう。そうなるとローンでの支払いとなるが、【ミアハ・ファミリア】のように借金があるファミリアには団員が集まらない。探索系ファミリアにとって団員が増えないのはとてつもない痛手となる。

 

 しかし、その選択に対してヘスティアは『払う』と決断する。

 

「では、どうぞ」

 

「飲ませれば良いのかい?」

 

「お好きなように」

 

 箱の中に収められた高価そうな瓶をしっかりと持ったヘスティアが意を決するが──。

 

「もし、英雄と呼ばれる資格があるとするならば──」

 

 ヘスティアたちの後ろから、胡散臭そうな声が聞こえてきた。

 

***

 

 英雄に必要なものは何だろうか。

 剣を取って巨悪と戦うことだろうか。それとも盾をかざして力という時に理不尽な存在から民衆や仲間を守ることだろうか。奉仕の精神をもって傷ついた者たちを癒すことだろうか。

 

 神々の使者が謡う。()()()()()()と。

 彼は続けてこう言った。己を賭した者こそが、英雄なのだと。

 

 矢継ぎ早に謡われる言の葉。1つの詠唱のように思えたそれらは、最後にこう締めくくられる。

 

「願いを貫き、思いを叫ぶのだ。さすれば──それが1番格好のいい英雄(おのこ)だ」

 

「良いこと言いますね、ヘルメス様」

 

「残念だけど俺の言葉じゃないんだよなぁ。誰のかは言えないけど。しかし、目覚めないねぇ」

 

 飄々としながらも顔じゅうから冷や汗を垂らすヘルメス。彼の心境を一言でいうならば、『キメたと思ったが、タイミングを盛大に外した』だろうか。

 彼の想像ではベルの原典(はじまり)を強く刺激する言葉にてっきり飛び起きると思っていたのだが、思いのほかダメージが大きかったらしい。内心では慌てながらも平静を取り繕っていると、ヘスティアが万能薬(エリクサー)を自らの口に含もうとしていた。

 

「ちょっ、何やろうとしてるんですか! ヘスティア様!」

 

「何を言ってるんだい! 勇者を目覚めさせるには乙女のキッスだって相場が決まってるだろ!」

 

「そんなことさせませんよ! ここはサポーターであるリ・リ・が!」

 

「サポーター君は部外者だろう! ぼ・く・が! ベル君の主神だぞ!」

 

 やはり、この2人に万能薬(エリクサー)を渡したのは間違いだっただろうか。まだ口を付けていないため、先ほどのやり取りを無かったことにしようとアクスが2人から万能薬(エリクサー)の瓶に手を伸ばすと──。

 

 鐘の音が高らかに響かせた腕が先にヘスティアの手を優しく取った。

 

「神……様……」

 

「ベル君」

 

「ベル様ぁ」

 

 眼が覚めたベルに微笑みながらヘスティアは手を握り返す。リリルカもそれに混ざろうとするが、ふとヘスティアの手からかすめ取った万能薬(エリクサー)の瓶が手の中にあることを自覚した彼女は、それを丁寧に箱に戻してからおっかなびっくりといった様子でアクスに返す。

 しかし、その間にすっかりタイミングを逸したらしい。既に立ち上がったベルを前にショックを受けながらも、彼女はバックパックから黒い大剣を取り出した。

 

「リリルカ様。それは補給所にありました?」

 

「はい、そうですが……。もしかして、どなたかの武器ですか? ここより深く……下層以上のドロップアイテムだとお見受けしますが」

 

「いえ、加工してるところは見たことあるのですが……。まぁ、補給所にあったのならその人の自己管理が出来てなかったということですね。僕からは何も言わないので、ご安心を」

 

 これで実際に損害を食らうのはボールス1人となるが、彼がもうちょっと自己管理が出来ていればこうなることはなかったはずなので諦めてもらう。それに、あのままゴライアスをリヴィラの街にいれたらそれこそ大剣が失われるため、どのみちあの武器はここで消費される定めだった……とアクスは勝手に思うことにした。

 こうしていざゴライアスへ、とベルが歩き出す──そんな時だった。何故かアクスが着いていこうとする姿を見たヘルメスが首を傾げる。

 

「うん、ちょっと待とうか? なんでアクス君まで付いていこうとするんだい?」

 

「え、このままベル様だけで行かせるとか正気ですか?」

 

 アクスの言っていることにヘルメスは唇をキュッと噛む。たしかにこのままゴライアスにベルをぶつけるとなっても距離があり過ぎれば、攻撃を受け止める壁役も居ない。

 しかし、パルゥムの子供にそんな大役が任せられるとは思えないのも事実。なので、他のところの回復作業をするようにヘルメスが言うと、アクスは首を左右に振った。

 

()()がどう見ても元凶ですよね? なら、早々に仕留めれば被害は減りますよね?」

 

「やばい、この子腰が据わりきってる。アミッドちゃぁん、ヘルプぅッ!」

 

 説得も無駄。制御する方法も皆無。神の提案すら踏んづけて我が道を行くアクスにヘルメスは内心自ら試練に挑もうとする子供に驚喜しながらも、全然いうことを聞いてくれない様子に彼の飼い主(あね)に助けを求める。

 そのままベルと一緒にずんずんと大平原に出たアクスは、ブリューナクを彼に見せながら困った顔をしだした。

 

「ベル様。ベル様のファイアボルトがまだこの槍に入ってるんですが……」

 

「あ、そういえばそうだっけ。じゃあ、最初に投げてほしいかな。あの大きさだから魔石も相当だと思うし、アクス君が削ってくれたら僕が残りの部分目掛けて仕掛けるよ」

 

 ゴライアスを仕留めるためには魔石を狙った攻撃しかないという共通認識を持っていた2人はとんとん拍子に作戦を決めていく。

 そうしている間にもベルの手に纏わりついている白色の輝きが一際強くなる。リン、リンという弱弱しい鐘の音からゴォン、ゴォンと荘厳な大鐘楼の音へと変わり、その音にアクスはクスリと笑った。

 

「どうしたの?」

 

「いいえ、リヴァイアサンを倒した英雄のお話を思い出しただけです」

 

「リヴァイアサンって……、3大冒険者依頼(クエスト)の?」

 

 ベルの言葉にこくりと頷いたアクス。

 冒険者3大冒険者依頼(クエスト)の1つであるリヴァイアサンにトドメを刺すべく、【ヘラ・ファミリア】所属の【静寂】という二つ名が与えられた冒険者の放った魔法。残念ながら詳細は書物になかったが、巨大な『鐘』を顕現させ、咆哮に似た轟音がリヴァイアサンの魔石を破壊したらしい。

 

 どうやらオラリオの外ではあまり流布されていないらしい。ベルが『今度調べてみようかな』というと、持っていた大剣を強く握りしめた。

 

「なら、鐘繋がりで僕も頑張らないとね」

 

「はい、頑張ってください。僕は治療師(ヒーラー)なのでお供しかできません」

 

 長年冒険者をしている面々が聞いたら『お前のような治療師(ヒーラー)が居てたまるか』と言われそうだが、悲しいかな。この場には冒険者になって半年未満のベルしかいない。『治療師(ヒーラー)ってすごいんだなぁ』という初心者丸出しの感想を話していると、ゴライアスがいきなりベルたちに向かって走ってきた。

 ベルを排除すべき敵だと見定めたのだろう。ゴライアスは大声を上げながらモンスターを差し向けながらも、自身も大きな両足で疾走する。

 道中の冒険者やモンスターもお構いなしに突き進んで来るゴライアス。このままいけば【英雄願望】(アルゴノウト)の溜めが間に合わないとアクスが飛び出そうとするが、突如として奴が大きく転倒した。

 

「リュー様! アスフィ様!」

 

【小神父】(リトル・プリースト)は【リトル・ルーキー】の護衛を! 私たちが引き止めます!」

 

 アスフィの大声にアクスはその場に踏みとどまりつつも魔剣を抜く。森の奥から何匹かのモンスターがベルたちに敵意を向けて走り寄って来ているため、溜めの動作を邪魔されないようにアクスは近くまで来ていたバグ・ベアーに向けて椿からもらった魔剣を振りぬいた。

 紫電がバグ・ベアーの肉体を通り抜けると共に盛大な断末魔が聞こえる。そのままバチバチといった放電音が聞こえ、肉を焦がす臭いが鼻についた頃にモンスターは灰へと変じた。

 その調子で2匹目──3匹目と灰の山を積み重ねていくと、ゴライアスの方から絶え間ない破裂音がアクスの耳朶を叩く。音のする方を向くと緑風を纏った光弾が幾重にもゴライアスの身体を打ち据えながら後方に押し込んでいる光景が目に移った。

 

 魔法を得手とするエルフらしい魔法。本来であればそれだけで階層主を完封出来そうな高威力のそれであったが、イレギュラーで生み出された存在は行動までイレギュラーだった。

 

「くっ、すみません!」

 

 自己再生頼りの突撃という力押しによって光弾の包囲網を辛くも打ち破ったゴライアスは、赤い粒子を身体中に纏わせながら正面に居たリューとアスフィに攻撃を仕掛けようとする。アスフィのレベルは自分と同じぐらいだったと記憶していたアクスが思わず叫ぶ──が。

 

 既に詠唱を完了した命が魔法を行使する。

 

「【フツノミタマ】!」

 

 魔法名を発したことにより、半径10Mの重力の檻がゴライアスを捕らえた。人の何十倍以上もある巨体が大地に膝を付けてしまうほどの超重圧魔法によってリューとアスフィが撤退することに成功するが、ゴライアスを完全に固定することは叶わなかった。

 

「まだっ……まだです!」

 

 非常に緩慢な動きだが、確実に重力の檻を破ろうとするゴライアス。そんな強大な敵にもかかわらず、術者である命は顔中に玉のような汗を垂らしながらも魔法の維持に全神経を投入する。

 

 そんな彼女の瞼の裏側には先ほどのエルフの戦士の戦いが映っていた。

 1度受ければ戦闘不能は免れない攻撃の嵐を掻い潜りながらも詠唱を続ける技のまな冴え。未だ至らぬ我が身に嘆くよりも、その高みへと自分も登りたいという渇望が既に精も根も尽きかけている彼女を支えていた。

 

 だが、そんな命の精神力もとうとう限界が来る。

 

「申し訳ありません! 破……られ……ます!」

 

「お前らぁ! 死にたくなかったら退けぇ!」

 

 命の宣言通り、重力の檻から解き放たれたゴライアスが咆哮を轟かせる横で別の存在が小さいながらも咆哮を上げる。声がする方向に目を向ければヴェルフが地獄もかくやという業火を引き連れながら草原を疾走しており、その手には飾りっ気のない長剣が握られていた。

 

「もう1度言う! すまねぇが、お前の命を俺に……あいつ(ベル)にくれ!」

 

 リューとアスフィを抜き去り、最前線へと躍り出たヴェルフは右手で握った長剣──クロッゾの魔剣を振りかぶる。

 砕かせてしまう確信と後悔。ちゃんとした武器として作り出すことが出来なかった懺悔。そして、鍛冶師として必ずや主と共にある武器として魔剣を作り出そうとする決意の表れとして、ヴェルフはこの1撃だけのために付けた魔剣の『真名』を叫ぶ。

 

「火月いいぃぃぃ!」

 

 大上段から放たれた魔剣から炎の奔流がゴライアスの黒い肌に殺到する。自己再生の証である赤い粒子すらも塗りつぶす勢いで全体を炎が侵食していく光景に冒険者たちが呆然とする中、アクスはブリューナクを片手で持ちながらベルに言葉を投げかけた。

 

「ベル様。先に行きます」

 

 そう言ってアクスは最後の詰めを実行するべく駆ける。ゴライアスに近づくごとに熱波が顔に当たるが、関係ない。パルゥムの英雄たちと同じように『前へ』進むのみだ。

 

 ──アクス、フィアナ騎士団を知ってるかい?

 

 炎を纏った巨人がアクスの方を向こうとする最中、少し昔にフィンから教えてもらったことが彼の頭に過る。

 フィアナ騎士団。3000年以上前に実在したとされるパルゥムのみで構成されたその騎士団は、ひたすら前へ進むことを勇気としていたと言う。

 

 ──ならば前へ。

 ──さらに前へ!

 ──そこからもう1歩前へ!!

 

 それは古の伝説の再来。眼前からは赤い炎よりも紅い業火に片眼が醜く焼けただれた()()()単眼の巨人の片腕が迫る。

 力の差は歴然。矮小なパルゥムなど文字通り一捻りであろう巨腕を前に、そのパルゥムはひたすら前を見て-──美しく輝く槍を掲げた。

 

「トゥアハ・デ・ダナーン!」

 

 投げ放つは勇気を超えた真勇の1槍。己の身体を込めたその槍は、精霊の血によって魔法をはるかに凌ぐ火力の紅い業火を旗でかき消しながらも一直線に巨人の胸の中央を捉えた。

 その瞬間、極大の白い稲光が瞬く。以前は顔面に当たったために顔面の大部分を焼失させるぐらいにしかならなかったが、上半身のほぼど真ん中に当たった槍の穂先から発せられる滅却の光は巨人の両腕ごと胸から上を焼失させる。

 

 少なくとも魔石は胸より下。値千金の情報が白日のもとに晒されたことにアクスは万感の思いで叫ぶ。

 

「ベル様ぁ!」

 

 彼の叫びと同時にベルは白い光を帯びた黒い大剣を携えて疾走する。

 憧憬に臨むは強大な敵との一騎打ちを経て、万軍に立ち向かって勝利した古国の覇者。そして、アクスから聞いた【静寂】なる冒険者。

 より一層高く鳴り響く大鐘楼の音色を響かせ、ベルは着実にゴライアスとの距離を縮めていく。多くの冒険者の視線を一身に受けながら彼はゴライアスの目と鼻の先まで接近し、その無防備な胴体に向けて光剣を振り抜いた。

 

***

 

 黒いゴライアスの撃破。18階層という本来モンスターが生まれない階層にて階層主が生まれ落ちたという前代未聞のイレギュラーに対し、ギルドは神為的な事故と判断した。

 しかし、神というものは面白半分でとんでもないことをしでかす存在が多く居るため、ロイマンは余計な混乱を防ぐという名目でヘスティアとヘルメス両ファミリアに罰則として総資産の半分の没収を決定した。

 

 そんなゴライアスの事後処理にギルドが躍起になっていたが、冒険者は知ったことかとばかりに日々を過ごしていた。

 迷宮へ行く者。露店を覗く者。朝から仲間たちと酒宴に興じる者。様々な冒険者がメインストリートを賑わせているが、中央から北西のメインストリートに位置する白い石造りの建物。光玉と薬草のエンブレムが刻まれた看板が揺れるこの建物には余所の店舗と比べて多くの冒険者が出入りをしていた。

 

 清潔感のある広いエントランスでは白を基調とした制服を纏った男女がそこかしこで冒険者への対応を行っており、そんなカウンターの一角では1人のパルゥムと1人の身長が低いヒューマンが接客を行っていた。

 

「ようこそ、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院へ」

 

「本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】は今日も順調に営業中である。




これにてアニメ1期分終了です。この後、グランドデイが7話分あります。
内、2話分は明日と明後日に投稿予定で、以降は1週間に1話投稿の流れになります。


万能薬(エリクサー)
 一応、廉価版なので20万ヴァリスぐらい。非常用に持ってるよねということで。
 まんま某黒い医者みたいな感じだが、ヘスティアやリリルカのことを真に受ければ無理矢理戦わせてるんだし、さもありなん。

【静寂】
 煩いやつ大嫌いウーマン。必殺技はゴスペルパンチ。

フィアナ騎士団
 彼の前世?バロールの光線に焼かれた騎士団の一般騎士だったんじゃないですかね。(考えてないっす
 ゴライアスへの攻撃が過剰すぎる気もするけど、まぁフィンが見てたらベルの行動含めて失明するぐらいの光度だから平気平気。

こんだけ偉業あると連続ランクアップしそうじゃね?について
 槍を投げたのはアクスですが、中の魔法は別人の物なので偉業にならないのではないかなと。仮にこれが自前の魔法ならば確実に偉業だと思いますが…。
 他人のおこぼれでランクアップできるほど神々の偉業は安くないとロキも言ってますし。

なお、設定集に現状のステイタスあらかじめ乗せてたり…
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