30話:前夜祭
それは少し昔の物語。
それはもっとも新しい、偉大な伝説。
そんな言の葉から始まった開会の挨拶。続く言葉を今か今かと固唾をのんで見守るオラリオ中の視線に耐えながらも吟遊詩人のような恰好をしたエイナが最後にグランド・デイ前夜祭の開始を宣言すると、オラリオに居る人間の歓声で街が
その後はもう祭りだ。オラリオ最大の行事であるグランド・デイともあってか、メインストリートはもちろん路地にも所狭しと露店が出店している。並んでいる品物も食べ物から装飾品。中には【ゴブニュ・ファミリア】の主神が手慰みで作った装飾品までも置いている。……1個20万ヴァリスと書かれた立札がかなりの重圧を放っているが、見ないようにしよう。
そんなオラリオ全体が1つの巨大な炉になってしまったかと見紛うほどの熱気だが、そんな熱に浮かされて羽目を外す輩も1人や2人では利かない。そこかしこでトラブルが起こるのは祭りの必定ともいえるが、グランド・デイともあって規模や頻度が桁違い。街の治安を守っている【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちも、思わずため息をつきたくなるぐらいには絶え間ない出動を余儀なくされた。
そんなどったんばったん大騒ぎな屋台たちとは違い、とある屋台──【ディアンケヒト・ファミリア】が直営している屋台だけは他の騒動と毛色が違った。
「これ……、"グランド・デイ限定
「言葉の通り、"グランド・デイ限定の
静かに……だが、明らかに敵意を込めたナァーザの質問にアミッドは目を彼方の方に向け、さらには言葉の端々に『不承不承』という態度を漂わせながら答える。かの屋台の中央には『グランド・デイ』と書いた派手な紙を巻いた
「おい、アミッド……目をそらすな。普通の
「そ、粗品……も……ご用意しております。一応」
苦し紛れの言い訳をするアミッド。いつもはそろそろ割って入っては『ガルルー。ワンワンワン』と
しかし、ここで主神であるディアンケヒトのインターセプト。もはや、清々しいほどのアコギっぷりを披露した彼にナァーザは渋々撤退する。
ようやく小競り合いが終わったと見るや、団員たちはアミッドの様子を見ながら口数少なく気分を尋ねてくる。
「だ、団長。大丈夫ですか?」
「先日の精神的に地獄だった頃に比べれば大丈夫です。皆さんは先ほど私が言ったとおりに対応をお願いします」
若干遠い目をするアミッドに、特に
***
【ディアンケヒト・ファミリア】。都市最高の
聖女という二つ名に一切の虚飾がない高潔な奉仕精神は神々のみならず冒険者もファンが多いが、その主神であるディアンケヒトの神望は──お察しであった。
守銭奴。がめつい。高笑いがうざい。
ぐぅの音も出ない総評だが、それはそれとして……。
「アミッドォォ! グランド・デイの前に稼ぐぞぉ! 儂の言うとおりに営業をしろぉ!」
「はぁ……。承知しました」
そんな彼はアクスがリヴィラの街へ往診に行った日から治療院により金を集めるため、様々なことを計画しだしたのだ。
*** Case1.ガラス張り ***
飲食店には料理を作っている様子を売りにしている店がいくつかある。手際の良く料理を作り上げていく料理人はそれだけでも食欲を刺激し、購買力に繋がるわけだ。
「──と、いうわけだ。アミッドや
「特別……」
「調合室?」
『調合室を新しくした』というディアンケヒトの命で招集されたアミッドたちの前には透明なガラスで仕切られた調合室。場所はエントランスなので、客から中が丸見えなこの環境で
だが、主神の意見は通さねばならない。そうでなくとも、既に他の団員の手で元々の調合室にある道具や素材は全てガラス張りの空間に収められているので逃げ場がない。
「やりましょう」
「団長!?」
「今から元通りにする時間はありません。やります」
人を癒すのに躊躇がない団長と
始めこそ彼女たちはその鋼鉄の精神をもって
そんな奇異の視線に耐え切れずに1人、また1人と顔を青くさせながら調合室から出ていく。やがて、数時間後にはアミッドただ1人となったが、彼女も彼女で普段とは全く違う系統のストレスに参っていた。
しかし、彼女は【ディアンケヒト・ファミリア】の団長。こんなところで挫けるわけにはいかない。
仮にここにアクスが居れば『実演販売すれば良くない?』と言われて終了するのだが、そんなことを考えられる心の余裕は彼女には無かった。
結局、数日掛けたこの施策だが、彼女たちの献身とは裏腹に売り上げは全くと言って良いほど伸びなかった。完全なる徒労に早くもアミッド含めた団員たちは一服の
*** Case2.RTA ***
「アミッド、分かったぞぉ! 今の時流は"RTA"じゃあ!」
数日後。精神的な傷を残したまま業務に入ろうとしたアミッドに、またもや受難が降りかかる。
RTA。ディアンケヒトが言うには作業時間の何かをする時間を測ることを言うらしく、どのように作業時間を縮めるかや縮めた末に出来上がった作品のクオリティによっては『見世物』になるらしい。
「また……、私を見世物にするんですか?」
「何を言うか! 儂の愛するアミッドの素晴らしい手裁きで
「神の倒錯した愛をいきなりぶつけるのは止めてほしいんですが!?」
すっかり聞いていない様子の主神に対し、
そんな具合で唐突に始まった『
しかし──。
「あっ」
肘が立てかけていた
「あぁ……」
予め入れておかねばならない素材を忘れ──。
「うぅっ」
割れてしまった
「うっ……ぐすっ……。アクスゥ……」
出来た
残念ながら当然ということで売り上げは伸びず、夜にディアンケヒトらしき悲鳴が治療院中を駆け巡ったことで入院患者が震え上がったとか、なんとか。
なお、この時のアクスは降って湧いた余暇に仕事を探して【ロキ・ファミリア】のキャンプ内を彷徨うというワーカーホリック1歩手前の行動をしていた。
*** Case3.ガチャ ***
「分かったぞ、アミッドぉ! 時代は"ガチャ"じゃぁ!」
「また変なことをするんですね」
「まだ反省したりないんですか?」
「今度は剣でめった刺しにされるのがお好みですか?」
「おぉっとお前たち、心配するな。前回で流石に懲りたわ!」
またしても新たな施策に乗り出そうとするディアンケヒトであったが、剣呑とした空気に必死で否定する。どうやら今回は見世物の類ではなく、売り方について変えたいらしい。
「特売とかでしょうか?」
「そもそもガチャとは何でしょうか?」
売り方については特価や特売といった大安売りの知識しかない団員たちに、ディアンケヒトは一抱えほどの箱にいくつかの紙片を入れてから団員たちに引かせる。
そんな大盤振る舞いに昨日の件でディアンケヒトがいよいよもって壊れたかとアミッドは心配するが、かの主神は『大当たりなんて1枚で十分。後はやっすい商品で景品をかさ増しすれば良い』と宣言。彼女の心配は全くの杞憂であった。
結論から言えばこの施策は当たった。それはもう当たりに当たった。
ギャンブルといった賭博系が好きな冒険者は当然ながら多く、大当たりは
ちなみに値段設定的に箱買いしても正規品の料金から数%安くなるだけで決してお得ではないものの、斬新な売り方という話題性は抜群で
しかし、売れたら売れたで在庫の補充をしなければならない。グランド・デイに供えて備蓄もしなくてはならないし、肝心の
深夜残業が待っているのは確定である。
「眠い……」
「あの爺さんめ。せめて手伝えよ」
「私から後で言っておきます。えぇ、言っておきますとも」
度重なるトンチキな施行により、既にアミッドたちの精神は限界に達していた。
だが、他の団員たちも頑張っている手前、安易に逃げることは敗北と同じ。団長として団員たちの見本にならないといけないとさらに気を張るが、周囲もそろそろ限界のようで──。
「アクスに肩もみしてもらいてぇ」
「私はぎゅってしたい。あの子、温かいの」
「俺はマッサージしてもらいたい。最近、座り作業で腰が痛ぇ」
「アクスの話はしないでください。私が保ちません」
『あ、はい』
有無を言わさぬ勢いに全員が黙ってしまった。
その後も『デミ・ヒューマン祭り』といってヒューマンに犬耳や際どい衣装を着せて宣伝効果を狙ったり、『執事、メイド風』ということで一味違った接客を試してみたものの、当たり前だがどの施策も鳴かず飛ばず。結局は『元の方が良いな、ブワッハッハッハ』というディアンケヒトの一声で全部戻った。
しかし、今回のディアンケヒトのやり方はアミッドや団員たちにとって我慢の限界だったらしい。そんなわけで、とりあえずディアンケヒトの私財を押収してそれぞれの給料を倍増というケアをアミッドが行って事なきを得た。
なお、アクスが居ないからという理由でアミッドは必死に己を律し、その姿に団員たちが涙したとか、しなかったとか。
***
そんな感じでようやくアクスがダンジョンから帰ってきた時は皆、まるでお参りのお使いに出ていた犬がお札を持って帰ってきたかのように頭をわしゃわしゃと撫で回しながら喜んだ。その中でアクスが『強化種みたいなゴライアスと戦ってきた』と報告すると、全員に例外なく頭を小突かれる。
本当はもう少し彼を問い詰めたかったが、残念ながら数日後にはグランド・デイが待っている。そのため、団員たちは早々にアクスを解放し、まともな息抜きも出来ずにそれはもう死に物狂いで働き続けた。
挙句の果てにはこうして店番までしているものの、団員たちはすでに悟った状態で業務をこなしている。
「私としては、皆さんの方が休まれた方が良いのでは?」
「ははっ、アミッドさん。その冗談、面白いですね。あなたを差し置いて休めるわけがないじゃないですか」
「階層主でもやってこいってやつですよ! ハハッ」
「アクスはゴライアスに挑んできたみたいだけどな! いや、あれはビビったわ」
「私、卒倒しかけたんだけど」
今にも黄金の闘気を身体中から噴出しそうな気配でアクスのことを話している団員たちに、普段は冷静なアミッドが珍しく引いていた。
彼/彼女たちがここまでやる気に満ちているのは、決して残業やオーバーワーク特有のハイテンションだからではない。……いや、全体の6割ぐらいはそうかもしれないが、全てではないのは確かだ。
***
話は先日、ダンジョンから帰ってきたアクスがゴライアスの討伐を手伝ったということで詳細を聞いた数人が卒倒し、アミッドが無言で鯖折りもどきをした後で久方ぶりにステイタス更新を強請ったところまで巻き戻る。
アビリティはまだまだでも、偉業だけで見れば半分といったところだろうか。
たった1年でそこまで至る速度にディアンケヒトも驚くが、それでも一介の
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アクス・フローレンス
レベル2
力 I 13 → 20
耐久 I 57 → 62
器用 F 312 → 335
俊敏 G 225 → 240
魔力 E 400 → 431
魔法
ケーリュケイオン
治療魔法
詠唱文で効果が可変
アスクラピア
スキル
鮭飛びの術
槍を装備している時の俊敏に高補正。
【魔力】アビリティに高補正
憧憬の強さにより効果上昇
対象:アミッド・テアサナーレ
自動発動。
【敏捷】【器用】アビリティへの補正
治癒魔法により、治癒対象に一定時間ステイタス加算
加算値は正義に基づいた善行に応じて補正
発展アビリティ
魔導 I
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いつものように詠唱文を消したディアンケヒトからステイタスを移した紙を渡されたものの、効果がよく分からないのかアクスはしきりに後ろでステイタス更新の様子を見ていたアミッドに問いかける。
「お姉ちゃん、憧憬の強さってなに? ……お姉ちゃん?」
しかし、彼女は黙ったまま顔を覆う。いつまでも黙った状態のアミッドに不思議に思いながらも、すぐに知りたいことを教えてくれないというもどかしさからアクスは唐突に部屋の外へと出ていく。
そして、ちょうど近くを通りかかっていた新人団員を発見した彼は、『教えてー』と無邪気に駆けていった。
「えー、私に分かるかなー」
ニコニコしながらもLV.2がどんな具合のアビリティなのか、ちょっと気になった新人がアクスから手渡された紙を見た途端──脳が強火で焼かれた。『はぁぁん!?』という嬌声とも悲鳴とも取れる怪音波を発し、こんな夜中に近所迷惑甚だしい声をだした存在を黙らせようと宿舎の方から人がなだれ込んでくる。
口々に夜中に変な声を出した新人に対して激怒するが、当の本人は震える手でアクスが持ってきたステイタスの写しを回してから『この子は尊い生き物です。保護しないといけないんですぅ!』と謎の言葉を呟きながらアクスを強く抱きしめた。
「なんだよ、アクスのステイタ……なんっだこれ! なんっっっだこれぇ!」
「こんなの……。こんなのぉぉ!」
「尊みよ! 尊みで溢れてるわ!」
「やばい、目が冴えてきた。もうちょっと作業してくるわ」
「私も! 新たな燃料にみなぎってきたわ!」
「お前、黙ってれば美人なのにな」
紙を回し読みしては語彙力をとろっとろに溶かし、続々と胸を押さえて悶える団員たち。不整脈だろうか。
しかし、団員たちは今までアクスがダンジョンに行っていたため、言うなれば『アクス断ち』をしていた状態である。そんな者たちがこのような『明らかにアミッド大好きだろお前』なスキルを見たら……それだけで胸がポカポカを通り越してインフェルノ間違いなしであった。
ただ、そんな集団不整脈もどきにのたうち回る団員たちの中で
「ねぇ、アクス君。団長のこと好き?」
「ちょっ、止め……」
一瞬、空気が張り詰める。
これ以上は保たない。そう思った何人かが、すかさずアクスの口を閉ざそうとするが──。
「うん、
『ほぎゃあああ!』
大噴火である☆
ちなみにここはディアンケヒトの部屋の近くなので、当然ながらアミッドにも被弾した。その後もアクスは『ファミリアの皆も大好き!』と隙を生じぬ2段構えにより、起きてきた【ディアンケヒト・ファミリア】の団員漏れなく尊さと愛らしさというバフが付与され、起きてこなかった団員たちにも『事後報告』という2次被害が着弾。全員にやる気バフが掛かることとなった。
***
「子供特有の無自覚ってすごいですね」
「えぇ、全く……。最初こそ気恥ずかしかったですが、憧憬として私を選んでくれたのは光栄ですね。今後もあの子に恥じない働きをしないと」
決意を新たに店番へ戻るアミッド。そんな彼女に
その違和感が気のせいだと思った彼女であったが、徐々に気が気でなってくる。次第に我慢が出来なくなったマルタが虚無の表情で店番をしているアミッドの横に立つと、仕事中だということで彼女が奇異な視線をマルタに向けてくる。
しかし、既に聞きたくてたまらなくなっていたマルタは小声で聞きたいことをぶちまけた。
「あの、団長ってアクス君のスキルどう思われてるのですか?」
「マルタ、あまりあの子のスキルは……といっても、誰も居ませんね。アクスの憧れの強さだけアビリティが上がると思っていますが? その対象がありがたいことに私。本当にあの子は、……しようがない子です」
違う。そうじゃない。
そんな言葉を言いそうになる喉を力を込めながらぐっと抑え、マルタはさらに踏み込んだ。
「つかぬことをお伺いするのですが、団長ってアクス君のことをどう思われていますか?」
「往診に行ったと思ったら階層主に挑んできたという手のかかる子ですね。ですが、自分の芯を持ってる子だと思っています。この間は自分の憧れが私だから自分を卑下するなって面と向かって怒られてしまいました。そうですね……、あの子の言葉で言うならだ、
「ふぐぅっ! あ、あ"り"がとうございます」
10人見れば10人振り返るようなほれぼれする笑みを見せながら最後の最後で照れるアミッド。そんな彼女と話せば話すだけ、マルタの脳裏に『このクソ●ケがぁー!』という罵倒の言葉が反響する。
少なくともアミッドより数年は長く生きている彼女にとってあのスキルは間違いなく愛情の表れ。それなのにスキルを得た本人も、憧憬の対象も等しく敬愛や家族愛として相手を見ている状況に非常にヤキモキとした状態に陥りながらも業務を戻っていった。
なお、店番を終えたマルタは先ほどのことを団員たちに流し、団員全ての脳を強火でこんがりさせることに成功する。
自分の知りえた尊い情報はファミリアの同志に共有。それが【ディアンケヒト・ファミリア】の掟である。
別の言い方をすれば死なば諸共なのだが、それはそれである。
***
一方そのころ。ギルドの中では救護所が開設されていた。
本来はバベルの医療施設があるのだが、グランド・デイでは怪我人の数も急病人の数もかなりのものである。その度にいちいちエレベータに乗って向かうなど愚の骨頂なため、いつもは冒険者が行きかうギルドの内部を展示場と救護所として分けるのが昔からの習わしであった。
そんな救護所では元々バベルで働いていた
「人が多くて気持ち悪くなった? 酔ったみたいですね。座って、この薬草を噛みながらしばらく休んでいてください」
「申し訳ありません。
「迷子は【ガネーシャ・ファミリア】の方までお願いします。はい、やたら騒々しい変な仮面被ってる神様を探せばすぐです」
中には治療とは別のことを聞いてくる人も居るが、その存在──アクスは次々と列をさばいては別のところの列をかっさらっていく。
【ディアンケヒト・ファミリア】ではこの程度のことが出来なければ朝の猛攻は抜けられない。そこからあえて付け加えるならば、ディアンケヒトとアミッドからは特別にお小遣いをもらっているので彼のやる気は天元突破していた。
そうしてしばらくすると、台風の目に入った時のような穏やかな時間がやってくる。そう遠くない未来に再び激務に追われるだろうが、アクスがここを手伝える契約時間は過ぎているため、責任者に惜しまれながらも彼は展示の確認をしていたロイマンに話しかけた。
「ロイマン様、次のご指示を賜りに参りました」
「アクスか」
アクスに気づいたロイマンがギルドの執務室に彼を呼ぶと、ソファにかけるように促す。
ロイマンにとってアクス・フローレンスは『良い広告塔』と同時に『非常に扱いやすい駒』であった。
なにせ、高レベル冒険者というものは総じて我が強いのと同時に戦力としては常軌を逸している。そんな『逸般人』たちを頼もしさ数割、その他全てが胃痛の種とロイマンが思っても仕方がないだろう。
だが、そんな連中と違ってアクスは動かしやすい。ディアンケヒトに金さえ積めば、こちらの指示に対して全面的に協力してくれるし、仕事に対しても忠実。さらにはギルドで働いている
なによりも、
長々と語ったが、ロイマンにとってアクスは医療系ファミリアの大手である【ディアンケヒト・ファミリア】をギルドが管理しているという偽りの実績をでっち上げ、グランド・デイにてギルドが本来やるべき救護所業務の一端を無条件に任せるぐらい都合の良い存在というわけだ。
「では、アクス。分かっているとは思うが、"大剣闘祭"の流れについて再度説明するぞ」
「承知しました」
まったくもって御しやすい。そう思いながらもロイマンはギルド主体で行われる大剣闘祭の流れについて再度説明を始めた。
大剣闘祭とは、グランド・デイ前夜祭のメインイベントである。
先だっての通り、ギルドが主体──というか、『ギルドが声を掛けたらオラリオの第1級冒険者が動きますよ』という街外へのアピールのために作られた催しで、そこにはフィンやオッタルといった錚々たるメンツが適当に戦っては外国にオラリオの武力を誇示し、これまた適当にお茶を濁してから最後に都市で最高峰の回復戦力としてアクスに回復させてから出ていくというのが例年から続く台本である。
「毎回言いますが、最高峰の回復戦力だったらアミッド団長や【フレイヤ・ファミリア】のヘイズ様がいらっしゃるのでは?」
「【
しれっと誤魔化しの言葉を入れるぐらいにはロイマンも思っているのだろう。
ただ、見目の麗しさや団長という立場的にもアミッドはアクスと比べると高額。ヘイズに至っては『貸して』と言ったとたんにロイマンがひき肉になる可能性が大いにある。
身の危険的にも、少しでも費用を押さえたい欲望的にも、ロイマンにとってはアクスが最適解であった。
「まぁ、僕もディアンケヒト様から言われてるだけなので良いんですがね。それよりも、
「それを言うな。胃がキリキリする」
嫌なことを思い出したロイマンが腹を押さえ始める。
ちなみにだが、この台本は今まで守られた試しがない。いつもいつも何かしらが原因で暴走し、招いた大使が第1級冒険者の
比較的マシだったのは一昨年だろうか。たまたまグランド・デイに居合わせた【ナイト・オブ・ナイト】レオン・ヴァーデンベルクがオッタルを押さえてなんとか体裁を整えたが、今頃彼は海上学術機関特区で教鞭を振っているはずだ。
また、闘技場が満員なことから大使とロイマンの座っている席に向かうには戦場の合間を縫っていかねばならない。そのため、大使が倒れた端から毎度気付けする身にもなって欲しいとアクスは言うが、ロイマンもロイマンで『そんなこと出来るならば初めからやってる』と逆切れしだす。
「とりあえず、頼んだぞ」
「入場し、客席に1礼。後は詠唱して回復ですね。大使の方が倒れられたら駆けつけるので、合図をください。あ、ところで最後の回復の際はパフォーマンスも致しましょうか?」
「パフォーマンス?」
「いえ、【ヘファイストス・ファミリア】から素敵なものをいただいたので……。宣伝になるかなと」
そう言ってアクスはブリューナクに取り付けられた旗を広げる。狭い執務室の中ながらもゆっくりと翻る存在感のある旗に、素早く金が動く量や友好国へのなんやかんやを計算したロイマンは目を輝かせた。
「冴えておるな、アクス! よし、それで行こう!」
「承知しました」
ロイマンの決定に深くお辞儀をするアクス。そんな姿にロイマンは『高レベル冒険者のほとんどはこいつ以下の聞かん坊なのか』と、再び襲い来る胃痛に顔をしかめていた。
グランド・デイ限定品
購入していただいた方には粗品も完備しております。
鯖折りもどき
聖女ブリーカー。派生技で高位治癒魔法を詠唱しながら行うこともある。
アミッドと全然会えない日々が幾度もあった、ヨシッ!でくっついたスキル。
早熟させるか否かで迷ったが、流石にやり過ぎなので除外。
現状でもベヒーモスの弱い毒(耐異常を貫く猛毒や装備を溶かすほどの激毒ではない)ぐらいならば除去可能。
自分の原典…思い出しちゃったねぇ。ということで生えたスキル。
次辺りにシャクティ号泣予定。
ロイマン
上級冒険者たちに比べてアクスの扱いやすさに涙が出そうになる。