竜巻がオラリオを襲って次の日。突如としてギルドから
本来は等級がÐ以上のファミリアにしか発生しない
だが、問題はそれだけではない。
この
そんなギルドの放送から行うべきことを推測したアミッドの行動は早かった。
「
制服のまま寝ていたことですぐさまテントから出ることが出来たアミッドは、【ディアンケヒト・ファミリア】の全団員を呼び集める。まずは1晩休んでしまったことの謝罪から始まり、続けてギルドの言う
「夜通し働いてくださった方は休んでください。今は怪我人の搬入も落ち着いているので、
「団長、現状では道具や素材が足りません。一旦、ファミリアまで戻ってもよろしいでしょうか?」
「倉庫にまだ薬が残ってないかもお願いします。ですが、荷物の運搬も含めて必ず5人以上で。後は【ガネーシャ・ファミリア】からも人を出してもらってください」
矢継ぎ早の指示が終わるや否や、アミッドはアクスを連れてバベルへ向かう。そこに居るギルド所属の
これから行うのは人海戦術による
「アミッドさん! 調合道具を持ってきました!」
「アクスの指示で並べていってください、準備が出来たら皆さんに入ってもらってください」
その間に【ディアンケヒト・ファミリア】に向かった団員たちが調合道具を持って帰ってくる。残念ながら
「おぉ、流石アコギなことをしてるファミリア。私の道具よりもすごい」
「褒めるか貶すか……いえ、黙って作業してください。エリスイス」
「はいはい。ところで、あの子はどうしたの?」
「よくよく考えればあの子が調合するとたまにポカをやらかすので、お使い中です」
ナァーザが周囲を見渡すが、手伝いと言われていた件の
アクス・フローレンス12歳。数年間、【ディアンケヒト・ファミリア】に勤務しておいて未だ1人で調合が出来ないお子ちゃまであった。
***
一方その頃。戦力外通知をアミッドから賜り、代わりにお使いを頼まれていたアクスはというと──。
「バカ弟子ぃ……。私たちの
「あばばばば」
アクスがなぜこのような事態になっているか。端的に言えばオッタルが誘ったせいであった。
今から
もちろん、治安がかなり悪化していることは重々承知している。そのため、周るファミリアは往診先に選んだ善良なところに限定させるが、どこもホームが崩れて備蓄が駄目になっていたり、先日の黒い竜巻と相対して使ってしまったりと全くといって良いほど集まらなかった。
それでも、冒険者が個人用として持っている物やガネーシャがポージングしながら渡してきた大量の
諦めて次の目的地である黄昏の館へ行こうとした時、ちょうどホームに帰ろうとしていたオッタルに出くわした。事情を話すと少し考えた彼は、『ついてこい』と短く話すとアクスを
「ヘイズ、一応はギルドからの
「お言葉ですが、オッタル様。先ほどの
「で、でででも、ヘイズ。アクスもこ、困ってるし……」
「そうですね、ヘグニ様。この子
何を言っても頑なに
「はい、バカ弟子」
そう言ってヘイズと彼女の周辺にいた
「確かに
なんという屁理屈だろうか。しかし、今まで長年世話になっている存在がせっかく頼ってきたのに追い返すという。美の女神に忠誠を誓った自分がそんな
治安の悪化に伴っていざという時にホルスターに差し込んでいた数本の
これが自分が今出来る最大限だが、たまに気遣われながらゆっくりと会話するぐらい親しい
「これぐらいしか出せないけど。【ロキ・ファミリア】が今回の指揮を執るみたいだ、だから。……俺たちは出られない……と、思う……から」
「ありがとうございます。皆で使わせていただきます」
いつもの挙動不審な行動はどこへやら。言葉に詰まりつつもしっかりとした眼差しで意思を伝えて来るヘグニに、アクスは丁寧な礼をした。
すると、後ろに控えていたオッタルがアクスのリュックにそっと何かを差し込む姿に、ヘイズは呆れたように肩をすくめた。
「オッタル様、流石に
「……無い」
「私たちが出来ることはこれぐらい。あとは、そうね……。
「誠に残念ではございますが、ご期待に添えない結果となりました。【フレイヤ・ファミリア】様のこれからのご活躍を心よりお祈り申し上げます」
「うぐぅ、意味は分からないけどその断り方は止めて! ほら、さっさと帰りなさいバカ弟子」
ポンポンと軽くアクスの頭を叩いたヘイズはしっしと追い払う仕草をして彼を
まさかの【猛者】襲来にホーム内は一時期大混乱となったが、アクスは無事にフィンたちが集まる執務室まで通された。
「それで、アクス。何の用かな?」
「アミッド団長から編成に使うだろうと、参加可能な
「いや、なんでオッタル連れて来とってん」
「さっきまで【フレイヤ・ファミリア】で
アミッドから託された
最初こそ、『【フレイヤ・ファミリア】に
「わざわざ届けてもらったのにすまない。【ディアンケヒト・ファミリア】の編成はあらかじめ決めていた通りにするよ」
「差し支えなければ、編成を教えていただけないでしょうか」
『【ディアンケヒト・ファミリア】の配置が1番簡単だったからね』と言うフィンにアクスは当惑する。いくら先んじての予測や勘が優れた彼でもアミッドが選んだ人員を全て当てることは不可能である。
しかし、狼狽えるアクスを他所にガレスは横から地図を見せて来る。オラリオがある大陸の地図だが、東と南に謎の赤い丸が記されていた。
「小さな竜巻ももちろん潰していくが、中期目標は東と南。……印がある所で止まっている2本の大型竜巻でな。片方をうちが面倒を見ることになっとる」
「つまり、部隊を分けると?」
「話が早くて助かるよ。東のルートはさっきガレスも言っていたけど、【ロキ・ファミリア】で叩く。南のルートはその他の連合軍……いや、僕の予想が正しければオッタルが出てくる。彼に率いてもらうことにするよ」
「え、あの人って指揮できるんですか? てっきり、突っ込んで相手をボコって"勝ったぞ……"って言って戻ってくるタイプかと」
散々な言い様だが、長年【フレイヤ・ファミリア】のクエストを受けているせいか実に的を射ている発言。十分にあり得そうなのが頭に浮かんだのか、その場に居た全員は冷や汗を禁じえなかった。
ただ、彼もこの町最強の存在であり、【ロキ・ファミリア】と双璧を成すファミリアの団長。おそらくは大丈夫だろうが、仮に指揮を放棄した場合のサブプランや『率いる』のは言葉の綾で本質は勝手に突っ込んで勝手に敵を撃滅してくれる前衛だとフィンは笑いながら話す。……話し方が必死過ぎて、まるで自分たちに言い聞かせるように聞こえたのは多分アクスの気のせいであろう。
「あの人に関しては良いです。アミッド団長にお伝えするので、
「我々の方にはアクス。アミッド含めて他全員は連合軍の方を担当してもらう」
アクスの疑問に彼を見ながらリヴェリアは答える。
以前の遠征の時と同じような編成。しかしながら、現状の話から察するにアクスも似たような編成になるだろうとは思っていた。
【ロキ・ファミリア】は現在のファミリアの中で1番深く潜っているファミリアだ。ゆえに壁役、遊撃役、後方火力役、支援役と幅広い人材があり、三首領の他にラウルやアキなどといった分散する際も頭になる存在も多く居る。
しかし、連合軍は違う。ギルドの考えでは全ファミリアはギルドの下に連携出来ると思っているみたいだが、冒険者はさしずめ冒険者。それぞれが全く異なる考えで動くため、連係ミスによる事故も起こる。
そこで後方支援として
そうなれば後はアクスの配置である。
そこまでは考えが至らなかったのか、アミッドの方に行きたそうにしているアクスにフィンが改めて説明を始める。
「たしかにアクスも連合軍に行ってくれれば被害は格段に減る。だけど、こっちも足りない純正の
「だから、せめて僕だけですか?」
「そういうわけや。お姉ちゃんと離れ離れにさせて悪いな、アクス」
ケラケラ笑いながらロキが野次るが、ここで『嫌ー!』と叫ぶほどアクス
その後、バベルに戻ってきたアクスの報告を聞いたアミッドは、遠征の時のように何かを言うことなく『そうですか』と作業を続ける。そのまま昼が過ぎ、夕方が過ぎ、周囲が暗くなってきた時間。かがり火を持ったラウルたちから編成に関する詳細な情報が届いた。
まずは防衛側。これはギルドの決定だが、オラリオには冒険者の要である
いくら都市を丸裸にするわけにはいかないとしても、かの女神たちの確執は神々以外も良く知るところ。正直、ギルドは冒険者を甘く見ている節はあると話を聞いていたアクスは思ったが、どうせロイマンが決めたのだろうとそっぽを向く。
そして、攻勢を掛けるのは先ほどのファミリア以外すべて。そして、【フレイヤ・ファミリア】の中で例外的にオッタルが参戦する。
具体的な作戦は明日全ファミリアの前で話すらしく、【ディアンケヒト・ファミリア】や【ミアハ・ファミリア】といった医療系のファミリアは若干早く壁外に集合してギルドに
「皆さん、長い時間お疲れさまでした。明日に響くので、今日はもう休んでください。私も休みます」
「分かりました。皆、割り振られたテントは分かってるわね?」
「アクス、団長が起きないように見張っとけよ」
「あーい」
決行は明日。作業時間を確保したいが、明日の行軍に支障が出るのは最も避けたいところだ。
既に良い時間になっていたこともあり、アミッドは全員を休ませる決断をする。それぞれが決められたテントに入っていき、数分後には静かな寝息やいびき、『うるせえ!』という怒号に暴れる騒音が聞こえる中、やや騒がしい夜は更けていった。
***
翌朝。市壁の外は大勢の冒険者でごった返していた。
性別や種族、ファミリアすらもごちゃまぜの『オラリオの縮図』だと自信を持って言える場所。そんな市壁の近くでは仮設のテントが建てられ、そこに数々のファミリアを代表する冒険者が集まって何かをやっている。
「【ハトホル・ファミリア】、記帳いたしました。こちらは地図と支給品となります」
「【モージ・ファミリア】、記帳いたしました。こちらは地図と支給品です」
「【マグニ・ファミリア】は……、既にマグニ様直々に記載されておりますね。地図と支給品はお渡ししたので、ファミリアの皆様と共有ください」
「【ヘスティア・ファミリア】。はい、記帳出来たよ。これは地図と支給品。ベル君、ちゃんと帰って来てね」
テントの中に居るギルド職員が冒険者のファミリアがこの
中には支給品の数がファミリアの団員数と合わないといちゃもんを付ける冒険者も居たが、周囲からの無言の圧力によって悉くが潰されていく。
そうした作業の末、ようやくギルド職員による確認と支給品の譲渡が完了する。
すると、作業の完了報告をミィシャから聞いたフィンが全員に注目を促した。
「今回の
そう宣言して全員に地図を広げさせる。人数の関係で見れない者も居るが、その辺りはファミリア全体でカバーして欲しいとフィンは無視して話を続けていく。
これから行うのは黒い竜巻との連戦。この2日で既に数えきれないほど黒い竜巻が散らばっているらしい。
アクスが昨日聞いていたように初めは東と南で部隊を分け、黒い竜巻を駆逐していきながら中期目標である大型の竜巻を撃破。その後は普通サイズの竜巻の駆逐で致し方なく分かれた別動隊と合流し、駐留拠点にする予定の『デダインの村』で東と南に分かれた部隊を統合するのだという。
そして、デダインの村で再び集まった総戦力をもって村の先にあるとされる『元凶』を叩くのが本作戦の最終目標となる。
しかし、改めて地図を見れば広い。広すぎる。いくら途中に村や町があろうとも、この広さは土地勘がなければ1人や2人遭難してもおかしくはない。
さらに言えば地形も一貫性がない。平原や森林に、場合によっては山間部も通らなければいけない部隊も出てくるはずだ。平原ならば特に問題はないが、山間部となっては安易に部隊間を移動して回復はできない。
そもそも、慎重に進まざるを得ないダンジョンの遠征とは違って地上はモンスターが新たに生まれなければ位置が丸分かりである。なので、【ロキ・ファミリア】の行軍速度がダンジョンの時よりも早いかもしれない。そう考えたらついていけるのか、アクスは段々不安になってきた。
そんな時、フィンの説明中にもかかわらずレフィーヤがアクスに向かって手招きする。
「なんですか?」
「団長がアクス君をかなり広域で使うから……って……その……」
なんだか言い辛そうにするレフィーヤを不審に思ったが、彼女の横にある存在。背板と底板が直角に取り付けた運搬具に薄々ながらフィンがやろうとしていることが分かった。
「とりあえず、フィン様をどついていいですか?」
「止めてくれ。一応、これでも善処したんだ」
暴力的解決を図ろうとするアクスを隣からリヴェリアが止める。なんでも
しかし、フィンの言う『広域で使う』がどの程度か知らないが、かなりの距離を走らされるのは事実だろう。
そうしていると、演説が終わったのかフィンが合流してくる。そして、アクスの姿を見るや否や背負子を指差してくるため、嫌な顔をするとフィンはきょとんとした顔をしながら『リヴェリアにおんぶの方が良かったかな?』と聞いてきた。
「フィン様、本当にやめてください。主にアリシア様たちが怖いので」
「なっ! アクス君、私はちゃんと反省しましたよ!?」
「私も!
「アリシアたちはともかく、今回アクスにはやたら離れた部隊以外の面倒を見てもらうつもりだからね。甘んじて受け入れてもらうしかないよ」
後ろの方で『流された……』と泣くアリシアたちは放っておくことにしたアクスは渋々ながら背負子に座ると、エルフィが紐をアクスの腹に巻いて完全に彼を背負子に固定する。そのまま数人がかりでアクスごと背負子を持ち上げると、オルバという獣人の冒険者の背中に装着。後はいざという時のためにナイフとブリューナクを背負子の横に括り付ければ──。
「可愛い……」
「アイズさん!? あ、でもかわ……うーん、間抜けさがぬぐい切れない」
「団長、本当にこれで行くんですか?」
「いや、やってみれば案外使い勝手が良いかもしれない。……少なくともおんぶよりかは効率的だと思うな。……うん」
口々に団員が疑問の声を上げる中、フィンもだんだん不安になってくる。
獣人の背中に小さいな子供が背負われ、その横で旗が風になびいて揺れている光景。全員の頭の中に『ててーん』という安っぽい効果音が聞こえた気がしたが、多分気のせいだろう。
そうしていると南側に向かう冒険者たちが増えてくる。予定より少し早いが、連合軍側は主要なファミリアの団長たちが合議で色々決める手はずなので【ロキ・ファミリア】がとやかく言える場ではない。
後はラウルたちが持っていく荷物の最終確認をすれば行軍が開始出来るため、地図を広げながら今一度進路の確認を取っていたフィンの下に制服の上から各種の攻撃から身を守る特殊な法衣を纏ったアミッドたちがやってきた。
「アミッド、良いのかい? もう南側は動き始めてるよ?」
「我々は後衛なのでしばらく時間があります。それよりも、フィン団長。アクスのことをお願いします」
「あー、うん。えーっと、……任されたよ」
普段のフィンとは違って明瞭な返事をもらえなかったことにむっとしたアミッド。しかし、彼の見ている方向を見て合点が行くと共にフィンへと詰め寄った。
「フィン団長、どういうことでしょうか? アクスを玩具にでもしてるつもりですか?」
「いやいやいや、落ち着いてくれ。あれはちゃんと意図があるんだよ」
「良いから着なさい!」
「や”ー! それ重いし、もう固定してるから着れないもん!」
後ろでイヤイヤ期のような拒否り方をするアクスと倉庫で埃を被っていたアクス特注の肩あたりが異常に膨らんだ法衣を着せようと尽力する団員のやり取りを他所に、四角い●ューブとフィンの作戦とその上で起こりうるアクスの機動力不足についてフィンは語る。
特に動き回る際はとにかくスタミナがいる。そうなれば12歳の子供にはきついだろうということを力説すると、アミッドは納得する。
「2軍だが、オルバもLV.3だ。獣人だから俊敏アビリティも十分あるし、モンスターと出くわしても逃げるようには指示してある」
「そうですか。何卒よろしくお願いします」
たしかに獣人と比べられるとアクスのスタミナはないに等しい。ゆえにアクスを回復に専念させながら戦場を渡り歩くのであれば、フィンの言うことは尤もである。そう判断したアミッドは再度お辞儀をすると、アクスに手を振ってから南の部隊に合流していく。
「団長、荷物の確認が完了しました」
「よし、じゃあ出発しよう。アキは先んじて出発。逐次、黒い竜巻の方角と数を知らせてくれ」
「分かりました」
「クルスたちは中衛。魔導士は後衛に。ラウルはパーティを率いて挟まれないように最後衛へ」
次々と出される指示に従い、【ロキ・ファミリア】は1つの巨大な蛇となる。腹が極端に横に膨れた不格好な蛇は、そのまま黒い竜巻という獲物を目指して東へと向かっていった。
アニメを見て思いついた一幕
????「豚、"バカ弟子"という言葉を使い過ぎだ。あれはとっさに出すからこそ(云々)」
???「イラァッ…」
本日のアクス
たまに入れる量間違える程度のポカなので調合が一切できないわけではないが、素材にも限りがあるのでポーション調達やロキ・ファミリアに赴くなど奔走。
オッタル
いつもの【猛者】
(原文)そうか。……ついてこい。
(意訳)ポーションを探している?……うち、来るか?
ヘイズ
アニメの最後で『うぉぉぉん!』と言いそうな泣き顔で
アクスが去った後、彼からの断り方にちょっと凹んだ。
背負子
おんぶ紐や大きな籠という様々な案から選び抜かれたアクスの運搬方法。
アクス「ちゃ~ん!」
法衣
アミッドが着ている法衣より性能は下がるが、防御面が向上する。
なお、アクスの法衣は一般的なパルゥムよりも小さいながらも末っ子ということで防御力や抵抗力を上げるために盛り盛りした結果、某大冒険に出て来る『ミストバーン』の服みたいなものとなってしまった。
当然ながら重量はかなり増しているため、普段は倉庫で埃を被っている。