ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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なんかするっと書けてしまった。
アクス・フローレンス(ロキ・ファミリアの姿)です。

※今回のアクス君はヒーラーではありません。
※完全にナイツ・オブ・フィアナを下地にした内容です。


【小要塞】(デミ・フォートレス)

 探索系ファミリアには『遠征』と呼ばれる義務がある。

 主に現在の到達深度を更新し、その周辺階層で採れるドロップアイテムや資材を回収するのが主な内容だが、未知に挑むダンジョン探索ということで潜れば潜るだけ必要経費が鰻登りに上がっていくために各探索系ファミリアはなんとか安く済ませつつも遠征を成功させようと日夜格闘していた。

 

 しかし、たった1派閥。オラリオで有数のファミリアである【ロキ・ファミリア】だけは、()()()()()()()()()()()()()で他の探索系ファミリアよりも安価で安定した成果を叩き出していた。

 今回はそんな【ロキ・ファミリア】の安住の地(ティル・ナ・ノーグ)のお話。

 

***

 

「よし、今日はここで野営しよう。各自、準備を始めてくれ」

 

 【ロキ・ファミリア】の団長であるフィンの指示に全員は野営の準備をすると、それぞれは一斉に行動を開始する。

 

 壁などを修復している間はモンスターを生み出せないというダンジョンの特性を利用して傷をつけていくラウルたち。

 荷車からテントを運び出して組み立てるクルスたち。

 周辺の探索がてら食べ物を探しに行くティオネたち。

 

 それぞれが自身に割り当てられた役割を完遂しようと頑張っている最中、リヴェリアと盾を背負ったパルゥムはつぶさに周囲の状況を観察しながら歩いていた。

 野営するためのキャンプや炊事場。後は荷車の待機場所を確認し、やがてそれぞれの場所の中心だと思うところに指を指し示す。

 

「アクス、ここから25Мほどだ。いけるか?」

 

「大丈夫です」

 

 リヴェリアのオーダーにパルゥム──アクスはすぐに詠唱を開始した。

 

 ──黄金の角よ。黄金の覆いよ。我が声に耳を傾けたまえ。

 

 ──我の周囲は災厄を拒絶する。

 ──災厄を呼ぶ者よ。忘れるな、3度吠える盾の叫びを。

 ──その叫びを聞いた同胞が必ず我らが敵を滅するであろう。

 

 ──焼け焦げた家々。壊された石畳。亡骸を抱く者。

 ──全てを過去の物とし、我の周囲に安寧を約束せよ。

 

 ──オハン

 

 魔法が行使されると共にアクスを起点に円蓋状の障壁が展開され始める。障壁はリヴェリアの指示通りに半径25М──直径50Мの場所で止まると、その障壁を覆うように少々大きめの障壁が展開される。

 そして、その大き目な障壁が展開されるとそれよりもさらに大きな障壁が──都合、3つの障壁が生み出された後にアクスは『完了しました』と告げた。

 

「ご苦労だった。その……毎度すまないな」

 

「皆が無事ならそれで良いです」

 

 ()()()()()()()()()()()()アクスが答えると、その笑顔に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたリヴェリアは『また来る』と彼の頭を撫でながら言い残して去っていく。周辺には何もなく、キャンプの方からテントを張ったり篝火の準備をしたりと作業音と団員たちの声が聞こえる中、1人暇なアクスは個人用のバックパックからリヴェリアからもらった魔法についての本を開いて時間を潰す。

 

 アクスの魔法である『オハン』は障壁魔法。それも陣地形成を重きに置いた魔法に位置づけされている。

 アクスが指定した形状と広さの防壁を3重張り、これまた指定した存在の攻撃や通過を防ぐ役割を果たす役割の他に防壁が破られた際は絶叫のような大音量をもって防壁を破った存在を一時停止させる。

 

 LV.1──それこそ神の恩恵(ファルナ)が刻まれた時に発現したこの魔法にロキどころかフィンも歓喜した。

 障壁魔法ということでホーム内で仕様の確認や習熟度の向上といった調整を行ったうえで遠征メンバーとして()()()()()。最初こそLV.1で年齢2桁に満たないパルゥムということで『再考して欲しい』と団員たちの間で問題になったが、遠征初日の野営から遠征メンバーの意識は180度変わった。

 なにせ、モンスターの見落としからの初動の遅れという悪魔のコンボを0にし、イレギュラーが発生した場合の緊急避難先になる。『連れてきてよかっただろ? 後は僕たちで"この家を"守ってあげればいい』と言うフィンの顔は誇らしげだったことは当時からの語り草である。

 

 そんなオハンだが、この魔法の真価はなにも周囲に展開するだけではない。障壁1枚1枚の堅さも折り紙つきだった。

 入団当初は範囲を広げればラウルの1撃で割れてしまう障壁だったが、半径5Мぐらいの広さまで縮小させることでベートの全力に()()()()()()()()()()ほどの硬度があった。LV.3になった今では魔力が上がっていることもあってか、現在展開している半径25М程ならLV.1の縮小状態と同じぐらいの堅さを有し、縮小させることでリヴェリアの魔法やガレスの全力攻撃に1撃ぐらいなら耐えられるほどに成長した。

 

 一見するとダンジョン内における拠点化の最適解を煮詰めたような魔法だが、メリットには必ずデメリットが存在する。素晴らしい利点を帳消しにするような欠点が2つあった。

 

 まずは術者であるアクスが一切動けないこと。彼を起点にして障壁が展開されているために当たり前のように感じるが、致命的ともいえる欠点である。

 以前にその欠点を解消しようとガレスを筆頭に力自慢のドワーフを集めてオハン発動状態のアクスを持ち上げて移動する『移動拠点計画(ロキ命名)』なる計画が遂行されるが、まるで根が深い巨木のように全くもって持ち上がらないという残念な結果に終わった。

 

 その結果にフィンはアクスの運用方法について定義した。

 イレギュラーのことも考え、アクスを真ん中に据えた状態で撤退ルートに宿泊用のテントや炊事場を建てる。いうなればアクスを『要石』にするような運用方法である。

 無論だが見回りルートにも入れるし、有事の際はフィンが指示と彼の回収のために動く手筈なのだが、ダンジョンにおいてイレギュラーはつきものなので決して万全ではない。

 アクスもそれを理解しているからこそフィンの論じた運用方法に頷くが、大人たちからしてみれば子供を1人置いておくことに等しい。かなりの罪悪感に身を潰されそうになるのは必定であった。

 

 次に精神力(マインド)の消費が挙げられる。

 オハンは展開する広さによって精神力(マインド)の消費量が異なる。LV.3となった今では半径25Мほどなら1晩中どころか2晩ぐらいならば耐えられるが、これが2倍──3倍になって来ると半日どころか1時間も保たなくなってしまう。

 これも以前、ゴライアス討伐の手が足りなくてリヴィラの町が破壊されそうになった際。偶然居合わせていたアクスが町を覆うオハンを展開し、ゴライアスが討伐されるまでの間はずっと負傷者や非戦闘員といった諸々を纏めて守ったことがある。

 この偉業をもってアクスはLV.3へと昇格を果たしたものの、たった1時間で精神力枯渇(マインドゼロ)に陥るという非常に危険な行為ということでリヴェリアから叱責されたことがあった。

 

 ただ、これについては年々改善の兆しが見られていた。

 オハンや()()()()()()()によって【魔力】アビリティの上りが凄まじく、その上り幅や現アビリティは数年前に入ってきたレフィーヤとほぼ互角。そのせいで『バカ魔力姉弟』という名誉なのか、不名誉なのかよく分からないあだ名を付けられるが、このまま成長を続ければ深層にて数日掛けた探索をするのに十分な拠点を作成するのも夢ではないとリヴェリアは太鼓判を押している。

 

 そんな()()()()()()()()()を見せ続けているアクスの鼻腔に良い匂いが漂ってくる。本から視線を外せばすでに夕食が並べられており、それぞれが食事の開始を待っている状況だった。

 

「あ、ごめんなさい」

 

「別に構いやしないよ。むしろ、僕たちだけで食事をしてすまない」

 

「おとっつぁん、それは言わないお約束やでー」

 

「……うん、ロキの真似は止めて欲しいな。後、ティオナとアイズ。ティオネを離さないで欲しい。……絶対に」

 

 おそらくロキに吹き込まれた言葉を告げた瞬間、ティオナとアイズの方から獣のような咆哮とモンスターと殴り合っているかのような衝撃音が聞こえてくる。やんわりとアクスに注意をしたフィンは背中を伝う汗の冷たさを感じながら咄嗟に対応してくれたティオナたちに感謝しながら立ち上がった。

 

「聞いてくれ。僕たち【ロキ・ファミリア】は到達深度の更新に成功した。既に十分な量のドロップアイテムも確保したし、なにより僕もふかふかのベッドで寝たい気分だ。なので、明日から地上に帰還する」

 

「酒が飲みたいのぉ」

 

「ロキがいつものところを予約してくれているだろう。それまでの辛抱だ」

 

「俺たちもアクスの料理が恋し……あ、嘘嘘。止めて」

 

 安定のジョーク交じりの発表にそれぞれは笑いながら了承し、『【小要塞】(デミ・フォートレス)に』という乾杯をしてから食事に手を付けていく。

 

 【小要塞】(デミ・フォートレス)というのはアクスの二つ名である。

 本当はフィンの魔法にちなんで【常若の楽園】(ティル・ナ・ノーグ)と名付けたかったようだが、当時からオハンの磐石な守りによって多くの団員を命の危機から救っていたことに目を付けた神々が『要塞じゃね?』と発言。

 他にも平時は黄昏の館の食事や掃除洗濯を一手に引き受けていることから【リトル・マム】。ランクアップしたことで発現した魔法の試し打ちを偶然見た神々から【宝物庫】(シソーラス)という候補をなぎ倒し、ロキでさえもつけ入る隙を見い出せないまま【小要塞】(デミ・フォートレス)へと決まった。

 

 ロキが不覚を取った話はともかく、食事を続ける団員たちだが食事の進みが遅い者もちらほら居た。

 

「毎度のことながら、私たちだけが食べてるのは心苦しいですね」

 

「アリシア、私も同じ気持ちだ。しかし、この魔法の性質上は仕方のないことなんだ」

 

 特に【ロキ・ファミリア】の団員たちの中では年長に入るアリシアがアクスの方をチラチラ見ながら心情を吐露するが、リヴェリアもそれについて同意するものの『仕方ない』と一蹴して食事を流し込んでいた。

 

 オハンの欠点。それはガレスたちドワーフを用いた実験で分かった通り、アクスはその場から動けないことにある。かといって、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 すなわち、アクスはお腹も空けば眠たくもなるのだ。

 しかし、何かを食べれば当然()()()()が出てくる。その度に障壁を解除し、用を足した後に張り直すことは致命的な隙となってしまう。

 さらに深い眠りによって魔法が解除されてしまうことはフィンたちと行った調整で既に分かっている。

 

 端的に言えば野営中のアクスは必要最低限の飲み物だけ渡され、他は食べることも眠ることも出来ない辛い状況下に置かれることになる。数年かけて行ってきた特訓によって今では普通に飲まず食わずの不眠状態で障壁を維持しているが、傍目から見て──というか、アクスの運用について小耳に挟んだギルドのアドバイザーであるローズから『虐待ファミリア』と罵られるほどに扱いが酷いことは否めなかった。

 

 ただ、三首領やロキとしては背に腹は代えられないのが正直な感想である。アクスが居なければここまで安定した遠征は出来ないし、彼の第2の魔法が無ければ武器の修繕で自転車操業となってしまう。ファミリアを預かる団長として、フィンは()()()アクスに苦行を課したのだ。

 そんな彼も天涯孤独となった際、ロキに拾われた経歴だからだろうか。『役に立たなければ追い出される』と自己評価がかなり低い。『捨てられたくない』という一心で食らいつき、その成長具合に三首領を含めた団員たちは『It's so good』状態となっているので【ロキ・ファミリア】としてはWIN-WINなのだろう。……多分。

 

***

 

 食事の時間が終わり、後は見張りを立てて就寝すれば良いだけの自由時間となる。疲れた者は先に就寝しているが、寝るにはいささか早いと思った多くの団員はアクスの周りに集まっていた。

 

「ふっふっふ、今日は"水と光のフルランド"を持ってきたよー」

 

「フルランドってオラリオの前身を作った人だっけ?」

 

「よく覚えているね、アクス。オラリオまでの道を作ったのがフィアナ騎士団で、この大穴を封じる要塞を作ったのがフルランドと言われている。ティオナ、よく手に入れられたね。人気だからあまり手に入れられない代物じゃないか」

 

「本当は"杖と剣の物語"って見たこともない本も気になったんだけどね~。いつ手に入るかも分からないならこっちかなって。じゃ、読むよ~」

 

 『誠実の剣』『騎士の鑑』と称された騎士の物語を前に全員はすっかり拝聴の構えを取る。この読み聞かせもアクスが退屈しないようティオナが率先して実行に移したもので、最初こそ聞くに堪えない語りだったが数をこなしていくごとに上手くなっていく。

 『バーチェみたいになりたいな』とはにかむ彼女に姉であるティオネの心境は複雑だったものの、ティオナの語りはすっかり遠征中の唯一の安らぎとして団員たちの中では楽しみの1つとなっていた。

 

「ほへー、ウンディーネってすごいんだなぁ」

 

「ロログ湖とかもその名残って言われてるっすね。そんな精霊が居るなら見てみたいっすね」

 

「不勉強だぞ、ラウル。貸金庫や大図書館のノームが居るだろう。彼らも立派な精霊だ」

 

 物語を読み、感想を言い合い、知識を付ける。冒険者の成長に良いサイクルがアクスを中心に回っていることにフィンは笑みを浮かべていたが、親指が疼き始めた。

 何か良くないことが起こりそうな気がする。そんなことを思っていた矢先──。

 

「団長っ! 敵襲です!」

 

「敵の数は!」

 

「バーバリアンが数十! 下の階層の方向から来ています!」

 

「アクス、障壁は!」

 

「まだ1枚も割られていません」

 

 状況確認するフィンや団員たちの元にテントから出てきた冒険者たちが合流してくる。この人数であれば以下に深層のモンスターと言えども敵ではないが、親指の疼きが止まらないことにフィンは撤退の準備に入るよう指示を出した。

 

「ラウル、撤退準備に入れ! シャロンとクルスのパーティは補佐! ガレス、リヴェリアは迎撃の指揮を!」

 

「フィンはどうするんだ」

 

「親指の疼きが止まらない。おそらくだけど、"こちら"だけじゃない」

 

 未だ疼きが止まらない親指を見つめながらフィンが語っていると、撤退する方向から槍を持った冒険者が慌てた様子で走ってきた。彼──スタークの報告では撤退する方向からもリザードマンの上位種であるリザードマン・エリートが迫ってきているらしく、ダンジョンの悪辣さにフィンは『やっぱり』と呟いた。

 

 どう取り繕っても絶体絶命。しかし、未だ健在な障壁が彼らの精神的支柱になっていた。

 

「団長! 撤退準備、完了しました」

 

「荷車を中央に寄せてくれ。ガレスたちは作戦変更。中心で迎え撃つ」

 

 矢継ぎ早の指示ではあったが、全員は難なく対応してアクスの中心に集まってくる。すっかり袋のネズミとなったが団員たちは逆に闘志を燃え上がらせており、それを見たフィンは作戦を撤退から()()()()()()()へと変更した。

 しかし、いくら団員たちの士気が旺盛でも武器が無ければどうしようもない。今回の遠征もかなりの連戦で武器のダメージが深刻なため、これ以上の戦闘は避けたいのも事実だった。

 

「ガレス、ここから少し前に壁役を周囲に配置。リヴェリアと魔導士はここから魔法の準備をしろ。アクスは僕の言うタイミングで障壁を解除。すぐに"宝物庫"の準備に入れ」

 

「アクス、儂らに当てるんじゃないぞ」

 

 ゆえにフィンはアクスにオハンとは違う魔法を指示する。既に防御を固めているガレスから注文が届いて来るが、この魔法は制御が非常に難しい。『期待しないでください』といった後にフィンからの指示でアクスは障壁を解除した。

 今まで障壁によって団子状になっていたモンスターが解き放たれ、先ほどまでテントを張っていた場所や炊事場だった場所を踏み越えながら中央に殺到する。

 そこかしこで衝突音や怒号。そして魔導士の詠唱が聞こえる中、アクスは詠唱を開始する。

 

 ──誓いをここに。我が誓約(ゲッシュ)は民の笑顔を守ること。涙の敗走に価値は無し。

 ──ゆえに卿らの力を貸し願いたい。

 

 ──集え 英雄。集え 勇者。集え 騎士たち。

 ──数々の神話を作りし英傑の御霊よ。漂白の波を超えても尚輝くその気高き精神よ。

 ──我の声に覚えのある者は集いたまえ。

 

 ──神々よ。ご照覧あれ。これより先は英雄神話。その再現也。

 ──英雄たちよ。顔を上げろ。勇気を示せ。あの勇者の背を見るために。

 

 ──放浪騎士の記憶(ナイツ・オブ・メモリー)

 

 長文詠唱であるにもかかわらずあっという間に詠唱を終わらせたアクスが魔法を行使すると、ダンジョンの天井に夥しい数の魔法円(マジック・サークル)が現れる。真昼のように煌々と光る魔法円(マジック・サークル)にモンスターが思わず動きを止めたのも束の間、それぞれの魔法円(マジック・サークル)から武器が飛び出してきた。

 

 剣。槍。斧。槌。中にはブーメランといった珍しい武器も降り注ぎ、真下に居たモンスターたちを傷つけていく。

 やがて武器の射出が終わった魔法円(マジック・サークル)が順番閉じられ、後には地面に刺さった光輝く武器が残った。

 

 アクスの魔法はこれで終わり。しかし、【ロキ・ファミリア】の攻撃はまだ終わらない。率先して壁役を飛び越えたフィンは、自らの愛槍であるフォルテイア・スピアを背負うと()()()()()()()()()()()()を手に取った。

 

「アタッカー、上がれ!」

 

 手始めに近くのリザードマン・エリートを灰に変えたフィンの号令にアイズたちアタッカーは次々と壁役を飛び越えていく。彼らは自分たちが愛用している武器を一旦しまうと、先ほどの魔法で地面に刺さった武器を次々と手に取っていく。

 

「へっ、良い"爪"じゃねぇか」

 

「本当、誰の武器かしらね。中々趣味が良いわ」

 

 ベートが鉤爪がくっついた手甲を填めてからバーバリアン相手に大立ち回りをし、ティオネは大ぶりな2本のナイフを手に取ると瞬く間に数体のモンスターを解体してのける。

 

 アクスの第2の魔法である放浪騎士の記憶(ナイツ・オブ・メモリー)は分類上は召喚魔法に位置する。

 ただし、召喚するのは魔法や生物ではなく武器。さらには射出された武器は魔力で織られており、アクスが解除しなければその場に残り続ける特性を持っている。

 

 この魔法が発現した時、ロキはこの魔法に出て来る武器はアクスが過去に見た人間の持ち物を形だけ模倣していると定義したが、フィンの考えは違っていた。

 召喚された武器の中には【アストレア・ファミリア】の【紅の正花】(スカーレット・ハーネル)のクリムゾン・オーダーや【狡鼠】(スライル)が持っていた飛去来刃(カルニボア)もあったため、過去にアクスが見た人間の武器を魔力によって模倣しているのは間違いない。

 

 ただ、それ以外。フィンも冒険者の武器は全部覚えてはいないが、明らかに今の意匠と異なる武器についてはアクスが唱えたどこかフィン自身の持つ魔法(ティル・ナ・ノーグ)を思わせる詠唱から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()フィアナ騎士団の持っていた武器なのだろうという考えに至った。

 まるで子供が書き滑らせた色褪せない落書きのような効果の魔法にフィンは『可愛らしいなぁ』とロキや他の三首領共々笑ったとか。笑わなかったとか。

 

 閑話休題。

 他の冒険者たちも地面に刺さった武器を手に取りながらパーティ単位で奮戦しているが、ダンジョンの深層はそう簡単に冒険者たちを解放してくれないようだ。

 

「壁に亀裂確認! 追加が来るっすよ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()を振り回してラウルがダンジョンの壁に亀裂が入っていることを報告する。しかし、その報告にフィンは小さく笑うと前に出ていた者たちを再び壁役の後ろまで退避するように指示。壁からモンスターが産まれると同時にリヴェリアの名を叫んだ。

 

「レア・ラーヴァテイン」

 

 団長からの指示にリヴェリアは自分の魔法を放つ。それを合図にエルフを中心とした魔導士たちは次々と壁から生まれたモンスターを中心に魔法を放って行った。

 炎、冷気、雷と様々な魔法現象がモンスターに襲い掛かり、その悉くを打ち滅ぼす。魔法が地面をひっくり返す爆発音やモンスターの断末魔が鼓膜を振わせるが、それも一時のことで立ち上がった猛煙が晴れる頃には周囲はすっかり静寂を取り戻していた。

 

「周囲!」

 

「撤退経路、残敵無し!」

 

「下階層側、敵見当たらず!」

 

「壁からモンスターが産まれる気配はありません!」

 

「よし、このまま撤退を開始する!」

 

 勝って兜のなんとやら。長居は無用とフィンは明日に行う予定を繰り上げ、撤退することを宣言。戦闘を行ったことでお世辞にも本調子とは言えないが、ここに留まって再び襲われるよりはマシだとそれぞれはポーション片手に地上へ向かって帰還する。

 

 そんな中、アクスはと言うと──。

 

「アキ、団長から前方の偵察をして欲しいって」

 

「しっ。今は無理って団長に伝えて」

 

 ラウルの言伝を黙らせたアキが視線で後ろを見る。彼女の背中にはスヤスヤと眠り込んでいるアクスが居り、すっかり安心しきった寝顔にアキは笑みを浮かべながら『ね?』とラウルに聞き直した。

 

 中々に絶体絶命だった危機を乗り越えた後、アクスは即座に最低限の補給と排泄を済ませてからアキの背中にくっつくナマモノと化していた。

 ただでさえ10代前半という大事な時期に慣れてるとはいえ遠征というストレス過多の環境に放り込まれ、野営の度に不眠を強要され、挙句の果てには魔法を連発して精神力(マインド)を多く消費している。疲れないはずがない。

 

「分かったっす。それにしてもよく眠ってるっすね」

 

「突っついたら駄目よ、起こしちゃうでしょ」

 

 口元をもにゅもにゅしているアクスが気になったのか、ラウルはついつい彼に手を伸ばそうとするがアキが言葉でそれを制する。そんな光景を見せられた後ろの冒険者たちはまるで友達以上、恋人未満の一向に進展しない2人組を見ているかのような何とも言えない表情をしていた。

 その表情の裏では『クソボケ』だの、『あれで付き合ってないってマジかよ』だの、『熟年夫婦の貫録を感じる』だのと散々なことを言っていたが、残念ながらラウルたちがそれらに気付くことは無かった。

 

***

 

 撤退を開始してはや3日。『深層(こんなところ)に居られるか』とばかりに一気に下層まで上がってきた【ロキ・ファミリア】は、28階層の迷宮の花園(アンダーガーデン)にて1泊。続けて18階層のリヴィラの町で1泊。

 全てアクスの魔法によって拠点化した上での宿泊し、都合3日かけて地上へと戻ってきた。

 

「アクス君、地上着いたよ」

 

「レフィーヤお姉ちゃん、まだ眠い~」

 

「しょ、しょうがないですね! ホームまでおんぶしてあげます、お、お姉ちゃんですからっ!」

 

 眼をショボショボさせながら手に力を込めて離れないアクスに、神拳(ジャンケン)なる神々の間で流行っている厳正な審査の末に本日のおんぶ担当を勝ち取ったレフィーヤのテンションは上がる。それを見た団員たちは『瀟洒なエルフの姿か……あれが……』と不満気に呟いた。

 

 今のアクスの年齢は12歳だが、拾われた7歳の頃から冒険者になっている。そのためファミリア内ではすっかり末弟として扱われているアクスのおんぶは男女問わず人気だった。

 アクスを背負っている時に限って隊列はイレギュラーさえなければ1番安全なフィンの目がある中央。背中には『お兄ちゃん』や『お姉ちゃん』慕ってくれるあどけない子供を背負い、時折彼が寝言で『〇〇お兄(姉)ちゃん』などと言ってくれるサプライズ付き。滾らないはずがないだろう。

 

「アリシアさん、そろそろ泣き止んでください」

 

「そうですよ。俺たちもおんぶしたかったんですから」

 

「うぅ……」

 

 なお、その破壊力は肌の接触を嫌うエルフにも刺さっていた。それこそ今もにやけ面のレフィーヤはもちろん彼女と一騎打ちを行った末に破れたアリシアの慟哭は未だに団員たちの耳に残っている──というか、地上に帰った今でも悲しんでいるからそろそろやめて欲しいのが正直な気持ちであった。

 

 そうこうしている間に【ロキ・ファミリア】のホームである黄昏の館が見えてくる。威厳たっぷりな門の前では1人の女神が立っており、彼女は遠征に出ていたフィンたちを見るや否や彼らに走り寄ってくる。

 

「みぃんなぁ~、おっかえ……りぃっととと」

 

 いつもの調子でフィンが避け、リヴェリアが避け、アイズ、ティオネ、シャロン、クルスと次から次へと主神からの抱擁を交わしていく団員たち。しまいには中央に居たレフィーヤに彼女の魔の手が迫って来るが、背中の『末っ子』の存在にかの女神──ロキは動きを止めた。

 

「んっ、お姉ちゃんしとったんやな。あんがとな、レフィーヤ」

 

 そう言ってレフィーヤの頭を撫でたロキは、彼女の背中に居たアクスを抱き上げる。『重くなったなぁ』としみじみ言いつつ、今度はアイズに近づいて腰に手を回す。

 『アクスと居る場合のロキは積極的にセクハラはしない』という不文律から大人しくしていたアイズに、ロキはまるで重さを確かめるように何度か持ち上げようとするが、やがて諦めたのか手を離す。

 

「アイズたんも重くなった。はぁ……、子供の成長ってのはいつ実感しても嬉しいもんやなぁ」

 

「私……重い?」

 

「ん? 出会ったころに比べて……や。それよりも早く入ろうや。フィン、冒険話はもちろんあるんやろな」

 

「あぁ、たっぷりあるよ」

 

 こうして【ロキ・ファミリア】の長い長い遠征は終わりを告げた。




ロキ・ファミリアはこの家族観が良いと思う侍です。

アクス・フローレンス(ロキ・ファミリアの姿)
 レベル:3(【魔力】がずば抜けている)
 役割;拠点(サポーター)
 二つ名:【小要塞】(デミ・フォートレス)
 由来:障壁魔法によって何度も分断されたファミリアの団員を保護。応援が来るまで遅滞戦闘を務めたことから。
   ※このことから原作よりもロキ・ファミリアの団員数は多くなっている。

 武器:盾
    防衛が主任務だが、たまにヒールレスラーよろしくぶん回すよ。

 スキル:
 赤枝の騎士(ナイツ・オブ・マクール)
  誓約(ゲッシュ)の数だけ全アビリティに大補正。
  誓約(ゲッシュ)の数だけ早熟する。
  誓約(ゲッシュ)を破った場合、全アビリティ低下 
   現状の誓約(ゲッシュ)
    ・9人以下にならない限り脱退しない
    ・団長を助ける
    ・夜中にお菓子を食べない。
    ・夜中にジュースも飲まない。
    ・屋根で昼寝をしない。
  主神の前で誓約(ゲッシュ)を刻むごとに強くなるスキル。しかし、破った数だけステイタスが低下し、元に戻るまでに時間を要する困ったちゃん。
  9人以下に至っては、おぼろげながら浮かんできた人数というセクシーさを見せる。
  ほかの誓いについては、見かねたリヴェリアに無理矢理約束させられた、(なので、たまにステイタスダウンしている日があるとか)

 施しの騎士(キュクレイン)
  馬と認識疎通可能
  馬系統のモンスターのテイム率に大補正
  乗馬した対象へのステイタス共有
  乗馬中に発展アビリティ『槍士』が一時的に発現する。補正効果はLv.に依存する。
  乗馬中に発展アビリティ『射手』が一時的に発現する。補正効果はLv.に依存する。
  乗馬中に発展アビリティ『破砕』が一時的に発現する。補正効果はLv.に依存する。

 死にスキルかと思いきや…。
 アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ、アミッドのパーティと共にユニコーンの角採取と捕獲のクエストに駆り出された際にリヴェリアの到着を待たずしてテイムとお願いによる角の採集に成功してしまう。
 この結果に生娘たちは納得いかない目でアクスを見るが、『群れに帰りたい』というユニコーンの願いからリヴェリアと共に群れへ返してあげた。 
 その後、とある異端児(ゼノス)と邂逅するのだが、それはまた本編で。

 魔法:
  オハン:障壁魔法。アクスが決めた範囲でアクスが決めた形の障壁を展開。障壁はアクスが決めた対象やその対象の攻撃だけすり抜けることが可能。
  ※ロキ・ファミリアを指定すれば団員は通すがモンスターは通さないかつ、障壁の向こうから一方的に攻撃が可能
  強度は魔力と範囲依存で、現在の最高硬度がリヴェリアの魔法やガレスの1撃を何とか耐える程度。
  デメリットはアクスがその場から動けないことだが、重力は別。竜の壺から飛び降りた際にオハンを唱え、質量攻撃した成功例がある。

 放浪騎士の記憶(ナイツ・オブ・メモリー)
  武器の召喚魔法。アクスと???の記憶する全ての武器を魔力で再現した物を射出。その場に残す魔法。
 魔力で編んでいるために魔剣などの能力はないが、アクスのバカ魔力依存なのでとにかく固い。特に武器の消耗を心配する帰還時などには重宝する魔法。
 ちなみに
 フィン;とある2代目騎士団長が単眼の王を打ち破った武器
 ベートの填めた手甲:アルゴノウト時代、『狼』の獣人部族の青年が使っていた武器
 ティオネ:闘国(テルスキュラ)を追放された暗殺者が使っていた武器
 ラウル:とある青年騎士が女王から託された剣

 ???:
  変身魔法。【魔力】アビリティを0にする代わりにそのほかのアビリティに振り分ける。
  姿が古代の騎士風となり、口調が完全におじさん化する。
  ロキ曰く、『永く、濃密な経験によって漂白しきれなかった英雄の残滓を纏っている』とのこと
  「さぁて…困った勇者様(はなたれディム)を助けに行くかい」
 
メンバーからの印象
 ロキ:フィンやアイズに並ぶお気に入りやな。いつも守ってくれてあんがとさん。
 フィン:え、普通に希望だけど? でも、ちょっと彼の前で遠征の愚痴を言い過ぎたかな。
 ガレス:ダンジョンでゆっくり寝られるのは奴のおかげじゃて。感謝しかなかろう。
 リヴェリア:あのじゃじゃ馬…ゴホン。アイズの後にアクスだからな、勉学意欲と素直さに涙が出そうになった。本当のあの頃のアイズは…(10分以上に及ぶ愚痴)
 アイズ:弟みたいなもの…かな。たまに後ろをついて来るのが可愛らしい。
 ティオネ:あー、アクスみたいな子供を団長との間にもうけたい…。団長ぉぉ!
 ティオナ:弟が居たらあんな感じかなーって。読み聞かせ楽しいし。
 ベート:あいつは雑魚じゃねぇ、敵から雑魚共を守る巣だ。巣は俺たちが守れば良い。違うか?
 レフィーヤ:エルフの慣習について積極的に学ぼうとしてくれるのは嬉しいですね。後、なんといってもレフィーヤお姉ちゃんって…。うへへ。
 ラウル:いやー、自分もかなり助けられたクチっすけどねぇ。改めると無茶させ過ぎかなと。
 アキ:最初に遠征についていかせるって団長に話された時には『何言ってるんですか』って叫んじゃったけど、今はもうあの子が居ないと回らないわよ。奇襲も防げて武器の召喚なんて反則よ。反則。

 その他2軍:今度の探索は俺がアクスと行くんじゃぁ!
       いえ、私のパーティとよ!
       いや、うちでしょ! 前から約束してたんだから!
       (大乱闘スマッシュファミリアに発展)

ソード・オラトリア時空:
 オハンのおかげであまり団員たちにはあまり被害がない状態で芋虫型を撃退。帰路に就く。

 ヘファイストス・ファミリア合同の遠征にて、51階層への侵攻にサポーターとして参加する。
 フィンの指示でレフィーヤの後を追って落下し、オハンを展開。彼の見立て通り、重力は例外のようでヴァルガング・ドラゴンの砲撃を凌いだ勢いのまま1匹を障壁で圧殺する。
 穢れた精霊戦では、初っ端から行使された2つの魔法を防ぎ切った末に精神力枯渇(マインドゼロ)で昏倒。以降は出番なし。

 メレンではガレスと共にレフィーヤの救助に従事。闘国(テルスキュラ)出身のアマゾネスたちの攻撃すらも防ぎ切るが、アマゾネス判定ではラウルと同じ扱いに落ち着く。

 クノッソス調査ではリーネの班に入ったため、極限まで固くした障壁で時間稼ぎしたことでリーネ側の損害を0にする。
 ただ、別の班であるレミリアたちは助けられなかった。

 その後、クノッソス侵攻では障壁によってヴァルカの怪物を包み込む荒技とアミッドの治癒魔法で無力化。脱出時に誓約(ゲッシュ)に基づいてフィンをレイに託して行方不明に。

 そして--しばしの眠りの後、再び現れる。
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