ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

60 / 135
ちょっと早めにできたので


36話:終幕

 この状況を神々が見ていたら『ギミック解決まで耐久とかクソゲー』と吐き捨てるだろう。フィンたちはそのぐらいの時間、持久戦を強いられていた。

 砂漠の中心地に居座った竜巻。超大型と同じく──否、それ以上の猛毒を纏った風は何の対策もしていない冒険者を数秒もしない内に防具ごと骨と変じさせ、近くで灰を被っている()()()()()の仲間入りをさせることだろう。

 例外があるとすれば先ほど竜巻の中に入っていったアイズ。彼女の魔法によって身体の周囲に纏わせた風が彼女自身を防護し、さらに()()な素材で作られた防具も着用している。

 

 そのため、普通の冒険者たちとは違って猛毒の風の影響を受けにくいと、フィンの指示でアイズにはベヒーモスが起こしている猛毒の風を無効化するべく単身乗り込んでもらっている。彼女が竜巻に入って優に数十分は経っているが、未だに収まらない状況から冒険者たちは不安の声を上げる。

 

 しかし、いくら不安の声を上げようともこの元凶を始末しなければどうにもならない。つまるところ、彼女が生きていようと死んでいようとこちらは死力を尽くして周囲のモンスターを狩るしか道はないのだ。

 オッタルもその例に漏れず、アクスを肩車しながら次々とモンスターを駆逐していく。その快調具合に周囲が若干引いていたものの、ふと動きを止めた彼は再び何かを確かめるように掌を開閉してからアクスに呼びかける。

 

「アクス」

 

「なんでしょう」

 

「治癒魔法はもういらん。邪魔だ」

 

 そう言ったオッタルがいきなりアクスを【ディアンケヒト・ファミリア】の側で下ろす。急に拉致され、急に不要と捨てられる理不尽さにアクスが『僕のことを何だと思ってるんですか!』と物申すが、彼は短く『治療師(ヒーラー)』と言ってから去っていく。

 ぐぅの音もでないほど正論だが、もうちょっと言い方というものがあるのではないか。子供ゆえにそういった反感を抱いてしまったアクスは、自身の出来ることに限定して何か彼に嫌がらせ出来ないかを模索し始めた。

 

「今度、報酬水増し要求しよ」

 

「【猛者】相手にそれ言えるのはお前か団長ぐらいだって。ほれ、精神力回復薬(マジック・ポーション)飲んだら前線見て来い」

 

 さらっと追加作業を押し付けられるものの、オッタルに肩車される前と大体は一緒だ。応急処置をし、戦線を安定化させる。後は冒険者が泣き言を言おうが、適当に元気づける言葉を言っておけば何とかなる。

 現にアミッドや美人な団員たちの言葉にやる気を出しているため、冒険者とはちょろい生き物だと自分のことを棚に上げながらもアクスが学習していると──。

 

 モンスターと思われる苦悶の咆哮が中央から響いてきた。

 

「見ろ!」

 

「風が膨張しています!」

 

 漆黒の風がどんどん膨らみ、その場に踏みとどまっていた冒険者たちのテリトリーをじわじわと蝕んでいく。浴びれば命はない絶死の気配にフィンが撤退を叫ぶが、持久戦で散らばっていた冒険者たちは即座に動ける状況ではなかった。

 このままでは甚大な被害が出る。そう彼が思ったが、不思議と親指の疼きが無い。

 

「これは……」

 

 フィンが続きを言う前に漆黒の風は清廉な風によって打ち消された。厄介な風の消失に範囲外へ逃げ出そうとしていた冒険者が目を見開く中、上空から何者かが着地する。

 風が消えたことで鬱蒼と広がっていた厚い雲が薄くなり、雲の切れ間から覗く細くも温かな太陽の光がその存在を──金髪を靡かせる女神さながらの美貌を持つ剣士を照らした。

 

『うおぉぉぉぉ!』

 

 毒の風がすっかり止んだことに冒険者たちは雄叫びを上げる。これで後は元凶を叩くのみなのだが、その元凶はあまりにもデカすぎることに全員が上げていた雄叫びの声量を徐々に下げていった。

 

「何食べたらあれだけ大きくなるんだろ」

 

「たくさん努力してきたからよ」

 

「アクスが本気にしたらどうする! それよりもアミッド様、あの大きさですからもう1度フィン様に確認を取ってはいかがでしょう?」

 

「分かりました。マルタとベルナデットは部隊の再編成をしてください。アクスは特に制限は付けません。そのまま好きに行動してください」

 

 アホな呟きにふざけた回答をする女性団員の頭部を叩いた男性団員は、アミッドに意見具申をする。

 確かにあの巨体では戦域が広がり過ぎるため、今までのように固まって回復作業は出来ない。少なくともいくつかの部隊に分けながらそれぞれの戦域に散らばる方が理に適っていると、彼女はアクスを自由にさせてからフィンの下へと向かった。

 

 アミッドからフリーパスをもらったアクスは縦横無尽に駆けては癒しを運んでいく。モルド、ルノア、千草、カサンドラ、ルルネと手当たり次第治癒魔法を行使していると、アイズを引き留めようとするベルたちに出くわした。

 

「ちょ、アイズさん! その状態で戦うんですか!?」

 

「そうですよ、無茶したら駄目です! ここはもう、私たちに任せて……」

 

 何やら戦ってきたばかりのアイズを労わる2人。しかし、アクスの姿を見つけた彼女が手招きをし、そのまま近づいてきたアクスを持ち上げる。

 

「大丈夫、アクスが来た」

 

「どうも、通りすがりの回復薬(ポーション)です」

 

 そのまま『回復、強化マシマシ』とじゃが丸君のトッピングのようなことを言うアイズに、『ヘイ!』と元気な声で治癒魔法を行使するアクス。相変わらずの仲良さげな雰囲気に少々レフィーヤがむくれたものの、すっかり元気になったアイズは愛剣であるデスペレートの切っ先を黒い巨獣へと向ける。

 

「私は心配いらない。みんなで一緒に……ね?」

 

「そうですね! 一緒に行きましょう!」

 

「ところでベル様、ナイフであれの相手は流石に無理では?」

 

「うっ、そうだよね。まいったな、リリが近くに居ないから武器が……」

 

 もはや傷も治り、強化も入ったアイズを止める懸念もない。レフィーヤの力強い返事に反比例し、ベルは手元のナイフとベヒーモスの亜種──新たに『ベヒーモス・オルタナティブ』と呼称された存在を見比べていた。

 あの巨体相手にナイフで挑んでも蚊に刺されたようなダメージしか与えられないだろう。せめて大剣でもと思ったが、武器などを持っているリリルカは遥か後方に居る。

 

 どうしたものかと悩んでいると、アクスはベヒーモス・オルタナティブの立っている方向を指差した。

 

「あれって大剣ですよね?」

 

「んんー? 辛うじて何かが刺さってるような……」

 

「え、レフィーヤさん。どこですか?」

 

「あぁ……。赤い布……団旗? が巻き付いてるけど……大剣だね」

 

 どうやらレベル補正で鮮明に見えたアイズの話によると、何かの団旗が巻き付けられた両刃の大剣が刺さっているらしい。

 フィンからの総攻撃の指示に周囲の冒険者が慌ただしくなる中、何かを決心したベルはあの剣を取りに行くことを告げた。

 

「馬鹿言わないでください! あっちに冒険者なんて行ってません。多分、昔に放置された武器なんですよ!?」

 

「いえ、レフィーヤさん。()()()()()()()()()です。少なくともリリに大剣をもらっても、あれに1撃を入れたら壊れます。なら、あの武器に僕は賭けます」

 

 そう言ってベルはベヒーモス・オルタナティブを大きく迂回しながら大剣の下を目指す。当然ながら道行くモンスターたちを蹴散らしながらだが、前衛1人だと捌ける量も限られていた。

 そんな姿を見かねてレフィーヤが最初に飛び出し、続けてアイズが飛び出す。アクスは彼女たちの走り去る姿に自身の周囲が一気に危険地帯に変わったこと察し、慌てて追いかけた。

 

「レフィーヤさん、魔法ください」

 

「え? あ、うん」

 

 アンヴァルのおかげで難なくレフィーヤに追いついたアクスは、ブリューナクを見せながら彼女に魔法を強請る。言われた時は何を言っているのか分からないといった様子の彼女だったが、以前にベートにやっていたことを思い出してアルクス・レイを並行詠唱。すかさずアクスのブリューナクへと充填させる。

 

 そのまま必殺技の名前を言いながらと共にブリューナクを投げつけるが、穂先に当たった瞬間に小さく爆発するのみで以前のような威力は出なかった。

 

「あれ、この前ゴライアスの片足吹き飛ばしたのに……」

 

「んんっ? アクス君、何をどうしてそうなったの!?」

 

 不良品を掴まされたような言動のアクスにレフィーヤが事情を聴くが、自分の失態を階層主の脚部破壊に使われたことを知り、さらに『あれぐらいの威力が欲しい』と強請られる。拒否しようとも、『あの時は出来た』というアクスに火事場の馬鹿力のようなものだと何度も説明することで何とか理解してもらい、攻撃はせずに回復に集中してもらうこと数分間。ようやくベルたちは件の場所までたどり着いた。

 

「すごい、本当にあった」

 

「たしかにかなり頑強そうな作りですが、傷だらけですよ? こんなのが役に立つとは……」

 

 レフィーヤの言うことは尤もだった。

 素材はかなり選りすぐり、かなり力のある鍛冶師。もしくは神が鍛えたと思われる1品のようだが、長年碌に手入れがされていなかった握りはすり減って刀身には無数の傷跡が痛々しく残っている。

 到底あの巨獣相手に通用するとは思えないと話し合っていた2人であったが、その一方でアクスとアイズは赤い布に刻まれたエンブレムに注目していた。

 

「アクス、どこのファミリアか分かる?」

 

「無茶言わないでください。ギルド職員じゃないんですよ?」

 

 二股の槍にギザギザの文様が幾本も並んだエンブレム。フィン辺りに聞けば分かるかもしれないが、冒険者やダンジョンについての知識はアイズ以下のアクスが分かるわけがなかった。

 とりあえず、ここまで来たのだからとベルが大剣を担ぐとその重さに目を剥く。

 

「ぐぅっ……おっも!」

 

「だから使えませんって。早く戻りましょう」

 

 動けない程ではないが、素早い移動が困難になるぐらいの重さにベルの口から苦し気な声が漏れる。見た目的にもTHE 無骨と言えるぐらい飾りっ気がないので予想はしていたが、ベヒーモス・オルタナティブの下へと戻っていくのも難儀そうな気配にレフィーヤが捨てるように言うも、ベルはそれを担ぎながら走っていく。

 彼らがそうしている間にも巨獣との戦闘は続いており、原種であるベヒーモスの膨大な体力の一端を引き継いでいるらしい一向に倒れない巨体相手に攻めあぐねていた。

 

 そんな冒険者たちの戦っている風景に、アクスはゴライアスの時を思い出す。たしか、あの時もベルが最大まで溜めた【英雄願望】(アルゴノウト)から繰り出した大剣の1撃がトドメとなったはず。ならば、今回もそんな威力を出せば倒せるのではなかろうか。

 そんな考えから彼がベルたちに提案すると、思いのほか乗ってくれた。ベルはまだしもあのゴライアスとの戦いを見ていない2人がどういう風の吹き回しかと問うと、単純に指揮下から勝手に離れたフィンやリヴェリアが怖いらしい。

 

「とりあえず……一太刀ぐらいは入れないと……怒られるから」

 

「えぇ、とりあえず大きな1撃ぐらいは……」

 

 最大派閥には最大派閥なりの振る舞いがあるのだろう。ここでせめて場を動かすような成果を上げようと奮起する2人を他所に、アクスはベルに治癒魔法と精神力回復薬(マジック・ポーション)を使う。

 体力と精神力を十分に回復させたベルは、さっそく【英雄願望】(アルゴノウト)をチャージ。その音に釣られて近くの冒険者がベルたちの存在に気づくが、それは周囲から押し寄せてきているモンスターたちにも同じことが言えた。

 

「させない! レフィーヤ!」

 

「はいっ!」

 

 ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、我先にモンスターが突っ込んでくる。

 しかし、前衛をアイズ1人で受け持ち、逐次レフィーヤとアクスが支援をすることでベルにたどり着かせることなく次々と灰に変えていく。

 

 やがて、弱弱しかった鐘の音が荘厳な大鐘楼の響きに変わり、あの武骨で傷だらけだった大剣の刀身を真っ白に塗り替えていく。そこまで行くと戦場全体に布陣する全ての冒険者の視線が一瞬だけベルへと集まった。

 ただ、1部の人間だけは彼の姿ではなく、その手に持っていた大剣──そこに巻き付けられているエンブレムが刻まれた赤い布を凝視していた。

 

「ゼウス……ファミリア……」

 

 かの最強派閥の団旗だと認識したフィンの呟き。しかし、それが周囲に聞こえるよりも早くベヒーモス・オルタナティブが啼く。獣の本能でベルを危険だと感じたのか、一直線にベルへ向かって突進する巨獣を前にフィンは側にいたアマゾネスに叫んだ。

 

「ティオネェ! 魔法で止めろぉ!」

 

「お任せくださいっ!!」

 

 フィンからの命令によってやる気がすこぶる上がったティオネ。両手を前に出しながら彼女に唯一発現した魔法を詠唱する。

 普段は肉弾戦闘ばかりのために魔法の練習はしておらず、魔法の効き目については階層主相手に10回に1回成功するほどの頼りない魔法。ただ、()()()()()()()ということもあってか見る見る内に魔力が練り上げられていく。

 

「【リスト・イオルム】!」

 

 魔法名と共にティオネの掌から伸びた鞭がベヒーモス・オルタナティブの足を捕らえる。しかし、いくら高レベルの冒険者であっても1人で自分よりも数百倍も大きな巨体と渡り合うことは叶わなかった。

 

「ティオナァァ!」

 

「うん!」

 

 だが、それも()()であったらの話。

 ティオネのあらん限りの咆哮を聞きつけたティオナとガレス。他にもドワーフを中心とした冒険者たちが鎖に飛びつき、精一杯引っ張ることでようやく突進の速度が落ちていく。

 

 そんな綱引きを続けていると──。

 

「っしゃぁ! 強制停止!」

 

 突如としてベヒーモス・オルタナティブの動きが完全に止まったことで、ティオネは強く拳を握って喜びをあらわにする。

 この【リスト・イオルム】という魔法の分類は拘束魔法。その効果は【魔力】アビリティ依存だが、拘束した対象を一定確率で強制的に停止させることが出来るのだ。

 

「今じゃ、引けぇ!」

 

『おぉぉぉっ!』

 

 今回はその一定確率に当たったらしい。微動だにしない巨獣を前に絶好の機会を逃すまいと、ガレスの声で冒険者たちが鎖を引っ張っていく。

 すると、足の1本がくの字に曲がり、3本の脚では巨大な胴体を支えきれなくなったベヒーモス・オルタナティブが全体をぐらりと揺らして大地へと倒れ伏した。

 

 大地を大きく揺らしながら倒れた巨獣の位置。それは奇しくもベルの目の前だった。

 なんとも絶好なポジションに目を見開きながら驚くのも束の間。ベルは大剣を背後で溜めながら声を張り上げた。

 

「アイズさん!」

 

 たった1言。されど天性ともいえる勘で彼が言わんとしていることを理解したアイズは、彼が足に力を入れてその場から大きく飛び上がった瞬間にデスペレートの切っ先をベルの足元に向けて魔法を紡ぐ。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 デスペレートから吹き上がった強大な風がベルの靴底に当たり、彼を倒れたベヒーモス・オルタナティブよりも遥か高く押し上げる。

 そのままかなり高いところまで上がったベルだが、アイズの風の助力が消えたことで重力に従って真っ逆さまに落ちていく。

 

「いっ……けえぇぇっ!」

 

 だが、吹き付ける風圧にも負けずに体勢を整えた彼はベヒーモス・オルタナティブの無防備な首に向かって真っ白となった大剣を振り下ろした。

 重力すらも味方につけ、白き光を引き連れたその姿は正に天から降り注ぐ雷霆そのもの。そんな神のごとき1撃はたしかにかの巨獣の首に直撃する──が。

 

「駄目だ! 浅い!」

 

 フィンの叫びが轟く。強大な威力を誇った1撃を完璧なタイミングで振るったが、それでもベルはLV.2の冒険者。巨獣の首の3分の1ぐらいまで食い込ませたぐらいで止まってしまった。

 すっかり輝きを失った刀身にいくら力を籠めようとも、【英雄願望】(アルゴノウト)を使って疲労困憊の彼はもはや強く握りしめることも不可能な状況。そんなベルを頭を強く振ることで吹き飛ばしたベヒーモス・オルタナティブは、大剣を首から生やした状態で再び起き上がろうとしていた。

 

「【リスト・イオルム】!」

 

「また来るぞぉ! 引けぇっ!」

 

「うお……お、おぉぉぉ!」

 

「もう駄目だ! やってやれるか!」

 

 起き上がらせまいと魔法の鎖を今度は巨獣の首へと巻き付けたティオネ。今度の強制停止は不発に終わって舌打ちをするが、ガレスの指示で再び鎖が引かれる。

 ただ、先ほどの1撃を前にすっかり戦意が無くなってしまった冒険者の数人が我先にと逃げだしていく。明らかな敵前逃亡であるが、ガレスは内心『仕方ない』と諦めの心が先行していた。

 

 立ち上がられるとせっかくのチャンスが無駄になるが、そのチャンスを活かせるような手立てがない。力自慢たちの奮闘した甲斐もなくベヒーモス・オルタナティブがゆっくりと立ち上がり、その姿に絶望が周囲に伝播する。

 

「やはり芥か……」

 

 しかし、オッタルが幻滅したように冒険者たちを見渡すや否や、鎖の上を器用に走り出す。ガレスたちによってピンと張られた鎖をスイスイと渡り切った彼は巨体に取り付くと、首から生えた剣を握って渾身の力を込めた。

 

「オォォオォォ!」

 

 喉が張り裂けんばかりの絶叫を伴った都市最強の膂力は伊達じゃない。ゆっくりと──そして確実に首を両断していき……。巨獣の首が両断された。

 ドスンと落ちる醜悪な首。いかに伝説のモンスターと言えども首を断たれてしまえば生きることは適わない。

 

 ──少なくとも大半はそう思っていた。

 

「嘘だろ……」

 

「なんで首が無いのに生きてるんだよ!」

 

 首が無い状態のベヒーモス・オルタナティブがゆっくりと立ち上がる。漆黒の血液をダラダラと垂らす異様な姿に冒険者たちの足がすくみ上がるが、そこにフィンの号令が轟いた。

 

「【ロキ・ファミリア】! 続けぇぇ!」

 

 号令と共にフィンが我先に突撃する。波のごとく押し寄せるモンスターを蹴散らしながら巨体の所々を切り裂いていくその『勇気』に、【ロキ・ファミリア】の団員が続いていく。

 

「上がれ上がれ上がれ!」

 

「団長に続けぇぇっ!」

 

「壁役、集まれ!」

 

「魔導士は詠唱を準備しろ! リヴェリア様!」

 

 近接戦闘を得意とする者はフィンに続き、壁役は堅牢な壁を作り、魔導士は起死回生の1撃を準備する。それは自分のためではなく、ひたすら仲間のため。ひいては団長──そしてファミリア全体のために。

 そんな1つ1つの小さな勇気が寄り集まり、やがては大きな炎となる。『勇気』という煌々と灯った道標を見た冒険者たちはどうなるか──。

 

 分かりきった話だ。

 

「ラバナ、全隊を集めなさい! 【ロキ・ファミリア】の後衛に移動します!」

 

「魔剣準備! 【ロキ・ファミリア】の砲撃に合わせてあいつにぶち当てろ!」

 

「前衛は【勇者】(ブレイバー)に続け! 魔導士は【ロキ・ファミリア】の魔導士と合流しろぉ!」

 

 勇気が伝播することで、絶望が一気に希望へと塗り替わる。既に満身創痍だが、それでもなお勇気に突き動かされた冒険者は止まらない。囂々と燃え盛る冒険者たちの戦意が1つの大きなうねりとなって巨体に食らいついていく。

 前衛の集中攻撃にて4本ある内の2本の足を失ったベヒーモス・オルタナティブが、今度こそ完全に大地に伏せる。倒れたことで露わになった柔らかそうな腹に向け、リヴェリアの激と共に魔法や魔剣の集中攻撃が殺到。腹部に巨大な空洞が出来上がった。

 

 首も無く、胴体に巨大な穴が開いた状態でもなお生きているその生命力は大したものだが、既にかの獣には攻撃手段は残されていない。それに残念ながら『命運』は尽きていた。

 

「フィン」

 

 夥しい量の血に混ざる魔石特有の色。どのモンスターにも同様にある急所を見つけたフィンの前にオッタルが先だってベヒーモス・オルタナティブの首を立った大剣──【ゼウス・ファミリア】の遺した大剣を渡してくる。

 

「良いのかい?」

 

「指揮官には指揮官の務めがある。それに、1人で降すことが出来ない偉業などいらん」

 

 フィンは聞き返すが、オッタルは無言で去っていく。すっかり興味を失くしたようで、そんな彼の様子に『協調性が無いなぁ』と呆れながらも槍を近くのラウルに預けて大剣を装備する。

 

「使わせてもらうよ、()()()

 

 元の所有者と思われる名を口にしたフィンが砂漠を一直線に疾走する。迎撃手段を失ったベヒーモス・オルタナティブは何も出来ずにいる中、フィンは疾走した勢いのまま大剣を魔石に突き込んだ。熱したナイフをバターに当てた時のように刀身は何の抵抗もなく魔石に刺さり、刺さった部分から亀裂が増していく。

 やがてパキリという気の抜けた音が幾重にも鳴り響いていき、しまいには山を思わせるぐらいの魔石が粉々に砕け散った。

 

 巨体の上部から徐々に灰へと変わっていく光景に、ようやく意識を取り戻したベルが信じられないといった面持ちで一言。

 

「勝ったん……ですか?」

 

「……倒した?」

 

「うん、倒したし……勝ったよ」

 

 先ほどまであった巨体はすっかり灰に還った瞬間、割れんばかりの歓声が黒の砂漠を駆け巡る。気づけば周囲に居たモンスターも灰になっており、澄み渡った青空を見てようやく全部が全部丸く収まったことに冒険者たちはそれぞれの武器を振り回しながら喜びを表現していた。

 

***

 

 ベヒーモス・オルタナティブの討伐が確認された後、全冒険者たち総出で膨大な灰の中から巨大な荷車でも余りあるほど巨大な心臓を発掘。売ればまさに一攫千金の代物だが、今回の騒動の原因なので全ファミリアの総意でギルドに丸投げすることが決まった。

 そうしてやることを片付けた面々はすっかり戦勝ムードでデダインの村に帰り、移動してきた神々たちに温かく迎え入れられるのも束の間。フィンの指示で荷造りなどを手早く終わらせたファミリアからオラリオへと帰還していく。

 

 そうして数日掛けたミッションは終わりを告げたが、まだグランド・デイは終わっていなかった。ようやく帰ってきた冒険者たちの目の前には、酒や料理が所狭しと並べられたテーブルが広がっていた。

 

「おっかえりぃぃぃ! アーンド、レッツカーニバルやぁ!」

 

「おいおい、ロキ。ようやく帰ってきたと思ったら……、どういうことだい?」

 

 久方ぶりのオラリオへの帰還ということでくたびれていたフィンの視線がロキに突き刺さるが、彼女はどこ吹く風とグランド・デイのやり直しを宣言する。その声にギルド代表としてエイナが、住民代表としてシルがそれぞれ勝利の祝いを中断された祭りのやり直しも兼ねて実施したいという方々に事情を説明し、ようやく事情を察した冒険者たちがそれぞれ思い思いに過ごし始める。

 

 しかし、そんな彼らの中でいまいち乗り切れない者たちが居る。言わずと知れた【ディアンケヒト・ファミリア】だ。

 

「んー? なんや、アミッドたんもアクスもノリ悪いでー?」

 

「いえ、本当に無理です」

 

「はい。申し訳ありませんが、お先に休ませていただきます」

 

「お、おう……」

 

 まるで毒が未だ残っているかのような顔色の悪さで続々と治療院に向かって歩いていく亡者の群れ。もとい、【ディアンケヒト・ファミリア】の団員たち。思えばディアンケヒトの思い付きに始まって治療や回復薬(ポーション)、ポイズン・ウェルミスに対する特効薬の量産等々とあまり眠っていない。具体的に言えば団員たちは須らく気力が尽きかけていた。

 

「では、皆さん休んでください。今日はもう起きなくていいんで……本当……無理……で……」

 

「アクス、団長を……って寝てやがる。俺も無理だ」

 

「私もー」

 

「もうここで寝るぞ。誰も起こすなよー」

 

「おまいう」

 

 治療院に敷かれたままの毛布に団員たちは次々と顔をうずめては寝息を立て始める。外で騒ぐ冒険者たちの声も全く意に介さずに眠る彼ら1人1人の姿を()()()()()が順番に確認していき、やがて満足そうに頷いてから扉の前で暇そうに座り込んだ。

 こうして、オラリオ随一の医療系ファミリアのとてつもなく忙しい日々は幕を閉じた。




これにてグランド・デイ編終了です。
長々とお付き合いくださり、ありがとうございました。

オッタルとのコンビ解散
 解散理由:(一方的な)音楽性の違い。

通りすがりの回復薬(ポーション)
 もはや、回復薬(ポーション)と強化薬のような存在だが、ノリで言ったので追及すると弱い。

ベルが見つけた大剣
 グランド・デイのPVで出ていた大剣。公式設定ではザルドの物で、小説化されたらベルに使わせたいということなので先に使わせていただいた。

ベヒーモス・オルタナティブの拘束
 ソード・オラトリアの先取り。総人数と迎撃がある分、向こうの方が多分厄介。

こんだけ偉業あったらランクアップするんじゃね?
 参加人数が参加人数なので、(アクスは)しません。
 ベルも原作的に本当にギリギリで偉業が足りないとしておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。