ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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基本的にはこれからは日曜日の7時投稿となります。
それ以外の日に投稿されたら? まぁ、早くできたんだなと思っといてください。


本編 ~アポロン・ファミリアの章~
37話:謀略


 グランド・デイから幾日が経った。帰って来てから泥のように眠ったおかげか既に【ディアンケヒト・ファミリア】の面々は完全に回復し、朝から元気に営業を開始している。

 惜しむらくは帰って来てから改めて行われていたという祭りに参加できなかったということだが、そこはロキが『酒ぐらいなら』と酒を大量に手配してくれた。吞めないアクスが見てもピンとこなかったが、ディアンケヒトが感心するぐらいなのだからよほどの上物なのだろう。

 ただ、それをかの主神はかなりせしめようとしていたので、そこは流石にアミッドが主神含めて全員に分配していく。……ちゃっかり彼女も自身の分を確保して私室に置いていたのは、全員極力見ていないように努めた。

 

 そんな感じで今日も平常運転の治療院であったが、本日はカウンター付近にアクスの姿がない。

 

 それもそのはず、彼は午前中から【アポロン・ファミリア】へ往診に行っている。なんでも『緊急』ということで、わざわざ【月桂の遁走者】(ラウルス・フーガ)と呼ばれているLV.2。ダフネ・ラウロスが冒険者依頼(クエスト)を持ってきたのだ。

 最初こそ()()【アポロン・ファミリア】から冒険者依頼(クエスト)ということで訝しんだ団員であったが、ダフネからアポロンは昔ほどアクスに入れ込んでいないことを聞き、その話からアミッドが許可を出したことで連れ出されたアクスは【アポロン・ファミリア】の本拠(ホーム)である館に来ていた。

 

「おい、早くオイラの傷を治せよ」

 

「お待ちください。詳細な傷を記録するので」

 

 館にある中々設備が整った医務室でアクスはルアン・エスペルという冒険者の傷を見ながら記録を付けていると、見かねた彼が早く治療を始めるようにせっついてくる。

 しかしながら、【ディアンケヒト・ファミリア】では患者1人1人の来院理由や傷。後は処置内容といったことまで記録として残す慣習があるため、アクスは一切曲げることなく傷の情報をメモに残していく。

 

 骨折に打撲、打ち身と酷い裂傷といった類がないことからおそらくは人間同士。荒くれ者が多い冒険者という性質上、考えられる原因は喧嘩あたりだろうか。どちらが悪いのかは定かではないが、とりあえず『相手ファミリアを訴えますか?』と抗争に発展させたくないファミリアがよく取っている手法を告げると、ルアンはかなり驚いた表情を見せた。

 

「なっ、なんでそういう話になるんだよ!」

 

「それ、喧嘩ですよね? 一応、職員の方を交えて話し合いで終わらせる方々も居るので」

 

 ギルドは冒険者同士の諍いについてはノータッチだが、()()()()()()()()()()()()という建前からファミリア同士の抗争に発展する前にある程度は情報を掴んでいないといけない。その情報の中には【ディアンケヒト・ファミリア】で書かれている所謂『診断書』も該当し、それらを基にギルド職員という第三者を交えて話し合いが行われる。

 その結果、明らかに相手が悪ければオラリオを戦場にする前にギルドが介入して双方決着をつけることも……たまにある。

 大抵は相手より格上のファミリアが『ギルドなんて知るか』とおっぱじめるので役に立たないが、そういう道もあることを提示してもルアンは言葉を濁らせる。

 

「あっ、あー! そうだった! ダンジョンの怪我も混じってたんだ!」

 

「転んだりしたんですか?」

 

「そうっ! そうなんだよ!」

 

 途端に話の梯子を外し出すルアン。その反応に『おや?』と訝しんだものの、追及しても今の様にはぐらかされると非常に面倒である。

 なので、ひとまずルアンの言い分を信じて外傷の位置や経緯を詳しく記載。それを【アポロン・ファミリア】用、【ディアンケヒト・ファミリア】用、ギルド用と3枚用意してから本人と医務室の外で待機してくれているダフネにも一応確認してもらうと、彼女は一気に不機嫌な顔つきとなった。

 

「これでよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、それより早くしてくれよ」

 

「ダンジョンって……。はぁ……、それで良いよ」

 

 念のために2人の拇印を全てに押してもらってからアクスはルアンを治癒魔法で治そうとするが、彼とダフネが慌ててそれを止める。本来であれば『すぐに動き回れる』ということで冒険者、市民問わず喜ばれる治療ではあるが、まるでそれを望んでいないかのような彼らの反応にアクスは再び『おや?』となる。

 しかし、依頼主の指示は絶対ということで包帯や薬といった冒険者にとっては喜ばれない治療に切り替えていく。

 

「なぁ、もっと派手に包帯を巻いてくれるか?」

 

「その分料金が嵩みますが?」

 

「問題ないよ。ほら、もっとこう……ぐるぐる巻きにっ! こんな風にぃっ!」

 

「イダダダダ!」

 

 再び訳の分からない注文を付けられる。包帯はタダではないので料金がかかることを説明するが、ダフネはルアンの腕に包帯を幾重にも巻きながら問題ないことを伝えた。何重にもきつく巻きすぎて太いミイラみたいな様相の腕に少々やり過ぎだと言いたかったが、ルアンからも『これで』と言ってきたのでアクスは大人しく従う他なかった。

 【アポロン・ファミリア】は中堅ファミリアである。【ヘスティア・ファミリア】のような零細ファミリアがこんな注文をすればアクスもキレるだろうが、ここならば金払いは安心できるとルアンを重傷者の様に仕立て上げていく。

 

「よし、これでバッチリだ。ありがとな、アクス」

 

「では、お大事に」

 

「門まで送るよ。……まぁ、今は宴の準備忙しいだろうし、アポロン様たちは帰ってこないだろうけどね」

 

 ようやく納得してくれたため、アクスはダフネに連れられて【アポロン・ファミリア】の本拠(ホーム)へと出ていく。彼が入ってから出るまでの間、問題のアポロンや団長である【太陽の光寵童】(ポエブス・アポロ)ヒュアキントス・クリオの姿が見えなかったが、どうやら別の建物で宴の準備をしているようだ。

 

「あれ、宴? 招待状って来てましたっけ?」

 

「あんたとそっちのファミリアにどれだけ迷惑かけたか忘れたわけじゃないでしょ!? それに、誘ってもディアンケヒト様のことだから来ないだろうし」

 

「ごもっとも」

 

 思えば確かにあれは過激を通り越して抗争一歩手前だったとアクスは考える。

 回復薬(ポーション)の品質を弄っての文句。治癒魔法がない状態での拙い往診に言いがかり。過剰請求という訴えや手っ取り早い強硬手段等々。例を挙げるとキリはないが、『戦争遊戯(ウォーゲーム)してくれないかなー』とどこかのファミリアを筆頭に状況を見守っていたことだけは確かだ。

 しかし、【ディアンケヒト・ファミリア】で長く勤めている団員が言うには、()()()()らしい。『これで放火や殺人とかしたらまんま闇派閥(イヴィルス)だった』と笑っていたため、最近入ってきた新人がすっかり怯えていたことをアクスは思い出した。

 

「あ、それとこの前渡し忘れたやつです」

 

「ちょうど切らしてもらいに行こうとしてたのよ。ありがと、カサンドラにも渡しておくわ」

 

 そんなこんなで言いたいことを全て言い終えたダフネが本拠(ホーム)へ戻っていく前に、アクスは彼女が良く使っている胃薬や『とある魔法』を使った場合の保湿クリーム。後はカサンドラ用に調節した弱めの眠りの香を取り出した。

 私物なのでカサンドラの分の料金も払ったダフネは上機嫌で礼を言いながら本拠(ホーム)へと戻っていく。

 

 一方、アクスはというと、先ほどの彼女やルアンの言葉にかなりの不信感を持ったために一応知らせておこうとギルドへ診断書を持っていった。

 しかし、どうやら昼休みに入る直前だったらしい。気づいたエイナが快く窓口を開けてくれたものの、()()()()()()()()()()()()()に忌避感を持ったアクスの抵抗によって近くの店で食事をしながら報告という妥協案が取られた。

 

「うん、話はベル君から聞いてたよ。【アポロン・ファミリア】の団員と喧嘩したって」

 

「でも、この診断書。ほとんどの経緯がダンジョンになってるよね」

 

「はい。こちらの診断書を見てもらえれば分かりますが、傷に対してかなり過剰に包帯を巻いています」

 

 パスタを巻きながら診断書と証文を交互に見るエイナとミイシャ。おそらく、彼女たちの中ではアクスと同じ結論が出たのだろう。口々に『うわぁ』や『これは……』と言いつつも、空気を基に戻すためにエイナは咳払いを1つ。

 

「フローレンス氏……じゃなかった。アクス君には申し訳ないけど、ギルドは基本的にファミリアの問題には不介入だから、期待しないで欲しいな」

 

「大丈夫です。ギルドには中立として証拠として診断書と証文の写しをお渡しするだけなので」

 

 あくまで中立という立場なため、仮に今回のきな臭い件で【アポロン・ファミリア】から言いがかりをつけられた場合は【ディアンケヒト・ファミリア】とギルドに提出した2組の資料をもって正当性を主張するのがアクスの計画であった。

 

 これは昔に【アポロン・ファミリア】から営業妨害や言いがかり的なことを何度もやられた際、ディアンケヒトがアドバイザーとして天界きっての悪知恵が働くロキに加えてやたらと苛立たし気に足を踏みしめていたパルゥム仮面(フィン)を招集してガチガチに組み上げた対策だ。

 後はギルドからの証言があれば【アポロン・ファミリア】も制裁を恐れて【ディアンケヒト・ファミリア】を攻撃しないだろうが、喧嘩の相手である【ヘスティア・ファミリア】にその効力は及ばない。

 

「アクス君、休憩時間だから個人的に言うんだけどね? ベル君たちにこのことを伝えてもらえないかな?」

 

「ちょっと、エイナ。いくら休憩だからって、さすがにそれは……」

 

「あ、はい。良いですよ」

 

 『私的の方に寄り過ぎ』だと言おうとするミイシャであったが、2つ返事で了承するアクスに驚いた。何故か頼んできたエイナの方も驚いていたが、別におかしいことは言っていない。彼からしてみれば、『あまりにも不誠実な対応をしてきた患者の調査』をするだけなのだ。

 

 『あまり憶測で物を言ってはいけない』とディアンケヒトから言われているので()という言い方になるが、【ヘスティア・ファミリア】を陥れるためにアクスを──【ディアンケヒト・ファミリア】の往診を使ったというのであれば、()()()()許される。

 使えるものは全て使って目標を成し遂げる冒険者という聖人とは程遠い存在相手に『それは違うよ!』と不誠実さを注意しても、その場限りの反省だけで聞く耳など持たないからだ。

 

 ただ、対象以外がとばっちりを受けるのはいただけない。

 例えば、『【小神父】(リトル・プリースト)も怪我を認めた』と大々的に吹聴。最終的にそれが嘘だったちバレた時はアクスをスケープゴートにするなど、【ディアンケヒト・ファミリア】に飛び火しないような立ち回りを確約してもらわないとこちらが酷い目を見るだけだ。

 それにこういった抗争は時にオラリオの町中で行われる。冒険者以外──堅気の存在に怪我でもさせたら最後。【ガネーシャ・ファミリア】やギルドが出張る要因となり、いくら中堅ファミリアでもアクスの時以上の罰則を降すことは確定する。

 

「ず、随分アクス君ってドライなんだね。もっと"許さねー"って言うかと思ってた」

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】への害があればそう言いますよ?」

 

 明確な線引きを示しつつ、アクスは店員を呼んで品書きを両手にコソコソとやり取りをしてから結論を述べる。

 

 今まで長々と語ったが、逆を言えばそれさえきちんと守ってくれるのであればアクスとしても問題はない。いくらファミリア間を縦横無尽に往診しているアクスであっても、ファミリア同士のパワーバランスや抗争などについては理解があるつもりだ。

 もっと噛み砕いて神々の言う言葉に直すとするならば──『ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!』だろうか。吹っ掛けられた側としてはたまったものではないが、それがオラリオなので気にしないで欲しい。

 

 ただ、そこまで理解しているのに【フレイヤ・ファミリア】という女神信奉者たちの集まりにホイホイ付いていくのは……近所に住んでいるおじさん(オッタル)あまり懐いていない方の飼い主(ディアンケヒト)のせいにしておこう。

 

「とりあえず、【ヘスティア・ファミリア】には診断書が事実と間違っていないか確認と注意はしておきます。どうせ、土下座謝罪を強要されてヘスティア様がぐぬぬするだけじゃないですかね?」

 

「そこが落としどころよね。【ヘスティア・ファミリア】はお金や貴重なアイテムもないし」

 

「潰すは……流石にないよね~。ってやば! そろそろ戻らないと!」

 

 これ以上は考えが出ないので机に突っ伏していたミィシャが唐突に立ち上がる。時計を見ればもう少し余裕はあるが、のんびりも出来そうにない時間帯。慌てて財布を取り出そうとする2人にアクスはそれを制し、そのまま店を出るように伝えた。

 

「どういうこと?」

 

「もう支払ってます。……ですよね?」

 

「あぁ、ちゃんと代金はいただいてるよ」

 

 そう言いながら自らも立ち上がり、そのまま店を出ていくアクス。こうしておけば、エイナたちも彼の助けを求める声があれば無碍にはしないことは分かっていた。

 それにあまり物欲がないアクスにとってグランド・デイを遊ぶ用に渡されたお小遣いもあまり使っていないため、あまり懐が痛むという感覚がない。

 

 ただ、お子ちゃまのアクスがそこまで深く考えていない。精々は『助けてくれると良いな』程度で、どんな英雄譚よりもすごい大偉業である奢る行為をやりたかっただけである。

 後は強いて言うならば……。

 

 ──良いか、アクス。なにかを頼むときは食事に誘い、奢ると良い。私もナァーザに頼みごとをするときは……。

 ──アクス。親しい女人の食事代を払うのが気の使える益荒男というものだ。桜花も千草に……。

 

 ()()()()のせいだ。

 

 そんな具合に碌に考えもせずに男神の意見を鵜吞みにしたアクスは礼をしながら去っていく。

 当初は訳も分からずにアクスが雑多の中に姿を消すまで立ち竦んでいたエイナたちであったが、この店はギルドの近く。つまるところ、複数のギルド職員にバッチリ見られていた。

 

「そういえば、【小神父】(リトル・プリースト)の噂聞いたか?」

 

「ギルドの女性職員を食事に誘って奢ったんだろ? 誰に似たんだ?」

 

「ほら、あいつってあの男神とよくツルんでるだろ? それじゃね?」

 

 『冒険者とはいえ、子供に奢られた』という彼女たちにとって不名誉な噂もたったが、それ以上に『あいつ、あのまま大人になるとヤバくね?』というアクスの未来を不安視する噂が所々で乱立するが──些細なことである。

 

***

 

 ギルドがアクスに対して深刻かつどうでも良い二律背反な悩みが浮上していた頃。当の本人は【ヘファイストス・ファミリア】と交わした約束の前に一旦、【ディアンケヒト・ファミリア】に戻ってきていた。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。【アポロン・ファミリア】から宴の連絡って受けてないよね?」

 

「団長と言いなさい。……そのような連絡は来てないです。誰か、手紙を受け取った方はいらっしゃいますか?」

 

 アミッドが尋ねながら周囲を見ると、全員首を左右に振るか両腕を胸の前で交差させながら口々に報告を入れて来る。

 

「受け取ってないです」

 

「そもそもどの口がって感じですがね」

 

「逆に口にねじ込む自信があります」

 

「でも、団長のドレス姿はすっごく見たいかも……」

 

『以下同文!』

 

 なにやら医療系ファミリアにあるまじき暴言の数々が出ているが、さもありなんとアミッドは納得しながらディアンケヒトに聞くために席を外す。

 昼食を食べてきたことを伝えるアクスに対して『予め言いなさい』と叱られている最中にアミッドが戻ってくると、やはりディアンケヒトも直々に招待はされていないと告げる。昔にしでかした所業から当たり前だが、今回ばかりはそれがアクスにとって気にかかった。

 

「アクス、往診で何かありましたか?」

 

「うーん、気になることがあったから」

 

 そう言ってカクカクシカジカ四角●キューブと事情を話すと、その場に居た全員──【ディアンケヒト・ファミリア】のみではなく聞き耳を立てていた別のファミリアの冒険者までも『怪しい』と口を揃えて言ってのけた。

 

「まぁ、【ヘスティア・ファミリア】ってところはご愁傷様だな」

 

「確かリトルルーキーのところだっけか。あれ、団員ってあいつ1人なんじゃ……」

 

「うわぁ、仮に賠償とかだったら払いきれるのかよ」

 

 口々に【ヘスティア・ファミリア】やベルの心配をするが、誰も彼も他人事だ。アクスみたいな格安で傷を見てくれる町医者的存在でもなければ、冒険者の反応などこんなものである。

 しかし、大体の事情やさらに怪しさが増したことが分かった。別に特別視するわけではないが、ゴライアスで一応共闘した仲なので暇を見て注意ぐらいはしておこうと脳内のスケジュールに認めたアクスは、そのまま【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)へと出かけていく。

 

 道中は特に何事もなかったが、【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)から近所迷惑必至な爆音やら破壊音やら風切り音やら様々な音が聞こえてきた時は、このまま帰ろうかと思ったのはアクスだけの秘密だ。

 しかし、約束してしまったことは仕方がない。嫌な予感が過りながらも扉を開けるが、思いのほか工房内はにぎわってはいなかった。

 

「あのー、デダインの村で約束したことを果たしに来ましたー」

 

「あー、あれか。悪いんだが、もうちょい待ってくれんか?」

 

 一応仕事ではないので気楽な呼びかけをすると、気づいた鍛冶師が『ほら』と工房の奥の方に向かって指を指し示す。そちらの方を向くと数人のパルゥムがやたら『最初よりは断然マシ!』と叫んでいた。

 詳しく話を聞くに、LV.1がまともに動かせる素材や構成を決定づける段階で躓いたらしい。もうちょっとかかりそうなので先にヴェルフの治療をして欲しいのだそうだ。

 

「ご病気とかですか?」

 

「いんや、【アポロン・ファミリア】と喧嘩したんだと。まったく……LV.2になったってのに何やってんだか」

 

 ランクアップもさることながら、まさかヴェルフも1枚噛んでるとは思わなかったアクスは内心しめたものだと、珍しく本拠(ホーム)の部屋に籠っていたヴェルフを訪ねる。いきなりの訪問で彼も驚いたものの、【アポロン・ファミリア】のいざこざについて聞くと『その話か』と中へ入れてくれる。

 

「あ、ランクアップおめでとうございます」

 

「おう、ありがとな。……で、なにが聞きたい?」

 

「その前に治療をします。薬を塗られてらっしゃいますが、念のため」

 

 ヴェルフの手を取りながら触診をし、その片手間で午前にあった出来事を話す。初めこそ『あいつらの差し金か!』と怒鳴られたが、アクス自身が感じた違和感を羅列していくと次第に彼は黙っていく。最後に異常がないことを告げながらアミッドに渡さず持ってきていた診断書を見せると、ヴェルフは『ふざけろっ!』とやりようのない怒りを発散させる。

 

「おかしい部分がありましたか?」

 

「何から何までおかしいぞ。俺があの野郎の顔を蹴ったんだ。そんで、奴が椅子から仰向けに転んで頭を打って気絶した。少なくともこんなに大怪我にはなってねぇ」

 

「やはり、そうでしたか。ありがとうございます」

 

 ギルド経由で【ヘスティア・ファミリア】に訴訟しない。ケガをした経緯を突然変える。そして、金に糸目は付けない過剰なまでの処置。

 叩けばまだまだ余罪はありそうだが、軽く羅列すればこれだけでも役満レベルだ。【アポロン・ファミリア】の目論見がどうであれ、あちらにとって()()な状況が出来上がりつつある。

 それこそ、アクスがヘスティア辺りに注意喚起することを計画するほどだ。そんな具合にアクスが【アポロン・ファミリア】に対してきな臭さと感じていると、ヴェルフの部屋の扉が叩かれる。

 

「アクスー、もう良いか?」

 

「おっと、悪いな。わざわざ」

 

「いえいえ。こちらも有意義な情報が聞けました」

 

 どうやら試作品の準備が出来たらしい。ヴェルフに礼をしながら部屋から出ると、その瞬間に数人の鍛冶師によってアクスは瞬く間に拉致された。

 口々に『どこをこだわった』とか、『素材を縫う時の針が』などと聞き取れないほど大勢からやいのやいの言われるが、薬のことならまだしも鍛冶については門外漢なアクスに分かるわけがなかった。

 

「見た目相応の重さですね」

 

「そりゃそうだろ。最初こそLV.1の俺たちが潰れる重さだったんだぞ。もうちょっと考えてくれよ」

 

「わりぃ……。皆で意見出し過ぎて重さについて忘れてた」

 

 そのままあれよあれよという内に型紙にあった口元まで覆うフード付きの固定用金具塗れとなっているコートや同じく金具塗れの足甲を付けられていくアクスの横で、パルゥムの鍛冶師が同僚に文句を言っている。

 最初こそ『せっかくだから色々つけようぜ』と物作りを楽しむ者にとっての()が出ていたらしい。

 

 防御力が心もとないと誰かが言えば全身鎧のごとく金属板を張り付け、攻撃が魔剣のみなのはいただけないといえば誰かが試作で作った連射型の弩がくっついた手甲を取り付け、はたまたどこで聞き間違えたのか試作品を多少減らせると勘違いした団長が山ほど作ったは良いが使い手の居ない試作品の1つをそっと紛れ込まそうとし……、主神に見つかって現在は別室で神の宴に向かう準備をしているのだとか。

 

 まぁ、そんなこんなあって出来上がった試作品第1号はパルゥムにとっては非常に良くない物だった。

 例えるならば、軽快な足回りが売りの脚部なのに上半身は重装甲と重装備な存在だろうか。そんな『重量過多』に小柄なパルゥムが耐えきれるはずがない。

 そもそも、重みに耐え切れずに潰れた団員を抱き起そうとしたヒューマンの団員も危うく転倒仕掛けるほどの重量なこと自体に疑問を持つべきだろう。そんな当たり前のことについて小1時間ほど問い詰めた結果が、現在アクスが着ようとしている改良型だ。

 

「布と革にしたんですね」

 

「中層の物を中心に作ったんだ。普通の針じゃ通らなくてな。デッドリー・ホーネットの針を使ってやっとってところだ」

 

 鍛冶師が試しに服の端を摘まんでナイフを突き立てるが、全くと言って良いほど刃が通らない。防刃性能は有事の際に【ディアンケヒト・ファミリア】の制服の上から着込む法衣並だろうか。

 踏み抜き防止や全体の魔剣の数を減らしたくないといった理由で金属製のグリーブは外せないらしいが、素材を布や革に変えたことで全体の重量は大幅に削減。LV.1のパルゥムやアクスでもようやく着れるレベルとなった。

 

 しかし、着れただけだ。ちょっと動くだけでも問題は山ほど出てきた。

 

「あ、転んだ」

 

「次は膝の方か」

 

「はい、印付けるからジッとしてー」

 

 これを着て戦闘をするという観点から飛んだり跳ねたりといったことを何度もさせられるが、その度に金具が布を噛んだり、金具同士が絡まったりでアクスが転倒する。最初こそ謝られたりしたものの、幾度も続けていくとすっかり慣れたのか緩衝する金具がついた部分に印をつけてから金具をずらす。

 

 そうして時には転び、時には倒れ、時には金具が絡まって動けなくなりを繰り返し、実際に魔剣のレプリカをくっつけた状態で動けるのかを確認した後にようやく試作品の2号が出来上がった。

 あとはこのまま着る人の大きさに合わせてサイズアップ。金具の調整など個人個人でブラッシュアップをするのみということでアクスはお役御免となったのだが、彼らは報酬の件をすっかり忘れていた。

 

「マズったなぁ。冒険者依頼(クエスト)は……お前のことだからファミリアに渡すだろ?」

 

「うん」

 

「即答すんなよ……。どうする? 椿さんみたいに装備作って渡すか?」

 

「お金でも良いよ」

 

「だから、お前の場合主神とか姉ちゃんに渡すだろうが!」

 

 切った張ったを得意とする冒険者であるならば武器や防具。困ったら金でも渡しておけば良いが、どこでもファミリア優先で自身にはあまり物欲もないアクスにとってそれは悪手である。

 しばらくはあぁでもない、こうでもないと言いつつも、結局は『鍛冶師の礼は作品だろ』ということで何かを作って渡すことが決まる。

 

「パルゥムでも扱える物ー!」

 

「このハンドル回すと連射する弩とか良くね? 手甲にくっつければ取り回しやすいし」

 

「先端を射出して巻き取るやつとかどうよ。壁とか上るのに便利だぞ」

 

「はぁ~、あんたらロマン分かってなさすぎ。全身鎧こそ至高よ」

 

 いつの間にかデザインコンテストが開幕されたため、すっかり蚊帳の外になったアクスは工房からこっそり抜け出した。明日は休みなので、【ヘスティア・ファミリア】で事情を聞くために色々資料を作っておこうと久方ぶりに夜更かしを考えながら治療院へと帰っていく。

 

 そうして次の日。()()から耳をつんざくほどの轟音を聞きながら、アクスの口から率直な言葉がまろび出た。

 

 町中でおっぱじめんなバカ野郎──と。




医者の問診に嘘つくの。ダメ、絶対。

ルアン
 アポロン・ファミリア所属のパルゥム。元々はアクスに診断書を書かせて『こいつが証人だー』をしたかったが、思いのほか事態が大事になりかねなかったのでヒヨった。
 なお、それでも敢行してたらヤバかった模様。(今でもアクスが勝手に動き回ったせいで十分マズい事態になったが)

診断書
 オリジナル設定だが、治療院ならあるでしょと言う考え。
 なお、仮病などの『そうしておきたい』という事情を話してくれたら、治療院に保管する者は特別な符号を用いて。患者には患者の願うとおりの診断書を書いてくれる。
 話さなかったら?わざわざ教える義務もないし、そりゃ怪しむよ。

どんだけ酷いことしたの、アポロン・ファミリア
 何歩か先を行ってたら闇派閥(イヴィルス)。ヘスティア・ファミリアのホームも、あそこが僻地なだけで十分破壊活動だし…。
 今のアクスの交友関係でアポロンが血迷って戦争遊戯《ウォーゲーム》になったら?
 そりゃ派閥連合不可避だし、その集団の中に居るよくヘルプを頼みに来るおじさん(オッタル)お姉ちゃん(ヘイズ)、後はお兄ちゃん(ヘグニ)とか4兄弟(ガリバーきょうだい)。後は北側のお屋敷に住んでるパルゥム仮面(フィン)たちがアクスの治癒魔法を挟みながら殴りかかって来るよ。怖いね!

昼食代を先払いしておく
 アクスとしては賄賂のつもり。つまり、とある男神たちが悪い。

アクスの装備
 リリルカの弩とか良いよねとおもったり、モンハンのスリンガーみたいなのも良いなって思ってる。
 何がちょうど良いのかと思ったら夜しか寝れない。とりあえず募集して決めようか、画策中。
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