その日は起きた瞬間からアクスはちょっと不幸だった。昨夜からアミッドの側で【アポロン・ファミリア】のあれこれを纏めている最中に寝てしまったことで起きた瞬間に椅子から転げ落ちたり、失くしたと思っていたお気に入りのゴライアスTシャツがいつの間にか調合室に備え付けられた雑巾に生まれ変わったりと色々不運が重なった。
「アクス、ベッドで寝てきなさい」
「お姉ちゃんもでしょ。それに、なんだか目が冴えちゃった」
「私は良いの」
どちらも似たような状況なのに、自分がしているよりも弟がしていることの方が悪いと言う『お姉ちゃん理論』はさておくとして。既に目が覚めてしまったアクスは、昨日書いていたルアンの傷や経緯といった矛盾点や疑問点を自分の推測を抜きにした資料と診断書をバックパックに詰め込むと自分の部屋へ向かった。
本日のアクスは休暇。団員から常々『制服で休みに出歩くな』と注意されているために着替えを行うのだが、彼もレフィーヤたちから誘われた際に調合用に特注した服を着ていくアミッドと同じ人種であった。
そのため、何を思ったのか『アンフィスバエナ』とプリントされたTシャツを手に取ると、おもむろにそれを着て丈夫なズボンを履いた。
そして、アミッドや女性団員たちが口々『寒い』と言っているため、念には念を入れてヨレヨレになった上着を着てフードを被る。
「完璧……」
どこが『完璧』なのだろうか。
しかし、当の本人は姿見に映った不審者丸出しの姿を見て満足げに頷いてから荷物を持って治療院から出ていく。早朝というだけあってか人がだいぶ少ないように見えるが、【ヘスティア・ファミリア】の
ただ、こういった荒くれ者はリヴィラの街では特に不思議ではない存在。アクスは特に気にすることなく慣れた調子で彼らを躱していく。
廃協会周辺は建物と建物の間にぽっかりと空いた路地が多数ある。早朝という時間帯もあってか、そう言ったところは闇夜の様に暗いことがざらだ。パルゥム由来の身体の小ささと物陰をを利用し、彼らの視界に入らないように見つけた端から関わらないように注意しながら進んでいく。
そんな具合で廃協会へ近づいていると、周囲から様々な話が聞こえてくる。
「あいつらとの連絡はどうなってる?」
「こっちのことを話したんだが、"そっちの目標を見つけたら連絡入れるから、適当に追い立てとけ"だとよ。バカにしやがって」
大抵はろくでもない話だが、その中に『
昔は神が送還されることが度々あったため、もしかするとヘスティアが送還されるかもしれないことを危惧したアクスは足を速める。
路地を曲がり、近くの物陰に潜んで冒険者をやり過ごし、迂回する。そういったことを幾度も続けていると、アクスの正面に廃協会が見えてくる。
周囲は依然として人がいる気配はあるが、誰も彼も姿すら見せようとしない。そんな彼らの正体をアクスの中で十中八九の答えは出ているのだが、ここで責任者を呼んで通してもらおうとしてもおそらくは無意味。逆に叫んで注意を逸らそうとしても火に油を注ぐだけだろうことは彼も分かっていた。
ゆえにアクスは考える。ここで踵を返せば、そのまま休暇に突入。色々なところを見て回って充実した休みが得られるだろう。
しかし、その決断は『逃げ』と変わらない。
顔が見えないように深くフードを被ったアクスが廃教会の扉の前に立ち、そのまま無断で中へ入っていく。まるで何度もここに足を運んだことがあるかのように自然な足取りだったため、礼拝堂まで歩いていくアクスの耳に多少の会話が聞こえてきた。
「おい、ありゃ誰だ? フードでよく見えん」
「近所の子供とか?」
「いや、ありゃガキというよりパルゥムじゃないか。小さいがバックパックもあるし、大方連れのサポーターだろ。【ソーマ・ファミリア】に伝えとけ」
話を聞くに、どうやらリリルカと間違われているようだ。あちらが勝手に間違えてくれたのなら、しめたものとアクスはそのまま何事もなく地下室の扉を控えめに幾度か叩く。
しばらく反応もなかったので既にダンジョンに行っているかと不安になったが、今度はしっかり扉を叩くとベルが出迎えてくれた。
「朝早くに申し訳ありません。ベル様」
「ごめんね、気付かなくて。それにしてもこんな時間に珍しいね」
「少々確認したことがありまして……。ベル様は本日、ダンジョンですか?」
「そのつもりだけど、まだ時間があるから良いよ」
一応は休暇だが、仕事の一環なのでまじめな対応を見せるアクスにベルは中へ入るように促してからソファを勧める。
すると、奥の方から『こんな朝っぱらに何か用かい?』とやや不機嫌そうなヘスティアが白湯が入ったティーカップを持ってきた。外の様子からして
「【アポロン・ファミリア】のルアン様……【ヘスティア・ファミリア】といざこざがあった方の診断書です」
「んなぁにぃ!? まさか、アポロンに言われて届けに来たんじゃないだろうね!」
「いえ、怪我の種類や経緯が明らかに証言と異なるのが気になりまして……。昨日、ヴェルフ様にもお伺いしたのですが、認識の齟齬があるらしく。なので、パーティの頭目を務めていらっしゃるベル様にも確認をと思ってお伺いした次第です」
怒り心頭といった様子のヘスティアを流しつつ、アクスは診断書をベルの前に滑らせる。それを見た彼は最初こそ記憶を思い出しながらゆっくり読んでいくが、次第に否定するかの如く首を左右に振り、しまいには診断書を机に勢い良く叩きつけた。
「やってない! ここまでやってない!」
「ですよね。そもそも、よく見てください。ほとんど"ダンジョンで転んだ"です。ちなみに、ルアン様と付き添いの方にも確認してもらい、拇印をいただいております」
「人騒がせな……。それで君はどうしたいんだい?」
「いえ、本当にそれを確認しに来ただけです。"診断書を虚飾なく書く"のがこちらのファミリアの規則なので」
微塵も疑っていない様子のアクスにベルは拍子抜けしたものの、彼は『やっぱり虚偽かぁ』と非常に面倒くさそうな様子で帰り支度を始める。
診断書の虚偽となると再び
それでもやらなければ主神や団長に迷惑がかかるため、手を抜いたりやらないわけにはいかない。新たに取り出した紙に今後の予定を記していると、アクスは唐突に顔を上げた。
「あ、周囲に【アポロン・ファミリア】の方が物々しい様子で集合してらっしゃいますよ?」
「神父君っ!? それを早く言ってくれよ!」
「とは言いましても……。僕、【ヘスティア・ファミリア】ではありませんし?」
まさに正論。むしろ、他派閥の癖にそこまで入れ込んだ情報を提供してくれたことに対して心配するのが普通ではあるものの、ファミリアを結成して間もないせいでそういった情勢や知識を全く持っていないヘスティアは机を叩きながら抗議する。
しかし、情報は情報だ。上手く立ち回らなければたちまち絡め捕られるだろう状況を前にヘスティアとベルが相談しだした。
「神様、どうします?」
「うーん、僕たちが出て行ったら狙い撃ちだし……。サポーター君たちが心配して呼びに来るのを待つ? ……いやいや、そんな暇もないだろうね」
「バイトをお休みするとかはいかがです?」
「今日はヘファイストスのところのバイトなんだ! 遅れでもしたら……恐ろしいっ!」
アクスの言葉にヘスティアは自らの身体を抱きしめながら身震いするが、長年オラリオで眷属たちと暮らしている彼女ならばこの状況を聞いてヘスティアに鞭打つとは思えない。
だが、救援を呼ぼうにも出入り口が抑えられている以上はどうしようもないだろう。
「一旦、正面から出て裏口を使いましょう。アクス君はどうするの?」
「この場に残りますよ? 幸い、ここの作りはしっかりしているので、ほとぼりが冷めたら勝手に出ていきます。【アポロン・ファミリア】に救助されるのも良いかもしれませんね。賠償金的な意味で」
「あー、すっかりディアンに毒されちゃって……」
地下にある割とちゃんとした部屋なため、リヴェリアクラスの魔法でもなければどうとでもなるだろう。
それにアクスがこの場に居ると分かれば、一般団員はうかつに手が出せなくなるのは確定的といえる。
なにせ、何度も言うがアクスは日に日に火力を増すオラリオの火薬庫のような子供である。いくら故意ではないとはいえ、穏便に済ませようと思うのが賢いやり方だ。
しかし、アクスにとってルアンから始まったこの流れについて多少怒りを見せている。いくらアクスの往診だからと言って言葉を二転三転させるのは、正式な診断書を記載しなければならないこちらの事情的には完全にアウトだ。
別に『ベル・クラネルを陥れたい』と正直に言う必要もないし、言葉を選んで誤魔化すのは別に良い。せめて『こんな傷だけど、事情があって派手に怪我したようにしてほしい』と傷口に対して真摯に答えて欲しかった
アクスの秘めた思いを他所にヘスティアとベルは着々と準備を終わらせ、完全に支度が出来たところでアクスにもう少し奥まった場所に行くように指示する。
「良いんですか?」
「別に君は物取りするような子じゃないしね。それに、怪我の1つでもさせたら僕たちも睨まれるんだぜ? だから、ちゃんと身を守ってから出て行って欲しいな」
ヘスティアはそう言いながらこの部屋の鍵を渡してくる。
いくら最後に出ていく存在がアクスだと言っても不用心過ぎないだろうか。そんな疑問を持つ前に彼女たちは部屋から出て行った。
その直後、耳をつんざくほどの轟音が地下室を襲う。爆炎をもたらす魔法を持った魔導士でも居たのか、地鳴りほどではないが地下室全体が揺れるが物が床に落ちたりといった被害はない。ひとまずは生き埋めになることを免れたとアクスは胸を撫でおろすと、襲撃者たちと思われる怒号や足跡があらかた消えるまで待ってから地下室の扉を開ける。
「うわー、酷っ」
地下室へと続く階段の上は瓦礫で完全に蓋をされてはいるものの、LV.2の膂力でなんとか突破したアクスは見た光景は正に酷いとしか形容することが出来なかった。
元々は祭壇があった礼拝堂のような場所が魔法によって床のタイルごと引き剥がされたせいで土が露出しており、壁際にも幾本の矢が突き刺さっている。教会の天井もすっかり崩れ、これでは廃教会というよりは『瓦礫の山』と形容した方がよさそうだ。
だが、【ヘスティア・ファミリア】如何によっては再びこの
「何者だ!」
口元を襟巻で隠したエルフの男性の声に、見つかったことを悟ったアクスがゆっくりと振り向く。この場に絶対居ない人物に【アポロン・ファミリア】の面々は慌てふためいたものの、流石は中堅ファミリアといったところだろうか。『ちょっと待ってろ』と言いながら駆け出していく。
そのまま近くに居た団員たちに『神様いる
「はぁ……。一応聞くけど、なんでこんなところに居んの? まさか、あんた……」
「診断書の話を当事者に聞くために来ました。【ヘスティア・ファミリア】は朝からダンジョンに潜るので、失礼かと思いましたが……。なんなら、近くの神様でも呼びます?」
ダフネの目を見ながらカラッとした返答をするアクスに、彼女は自身の頭に手を当てる。
医療のことに関しては相変わらず頑固で扱い辛い人間だとダフネが呆れていると、隣に長身のヒューマンが降りてきた。
「
「今日は休暇なんで、先だっての懸念点であった診断書について当事者とお話ししようとして、巻き込まれました。……ところで、今回の件は【ディアンケヒト・ファミリア】に向けた攻撃ではないですよね?」
「どういうことだ?」
美麗だが中々に凶悪な瞳でにらみつけるヒューマン──【アポロン・ファミリア】の団長であるヒュアキントスに、アクスは今まで起こったことを淡々と伝える。
この場合、1番やってはいけないことは憶測で語ることだ。憶測で語ればぼろが出るし、相手の心象も悪くなることはファミリアでさんざん言われてきたため、事実と証拠を込々で話していくうちにヒュアキントスは合点が行ったとばかりに『あいつらめ』と小さく呻く。
「あぁ……、だからか。まずは非礼とそちらの矜持を傷つけたことを謝罪させてもらう。本来はそちらにも事情を伝えたうえでやや有利な状況を作りたかったが、内々的に処理するよう方針を変更してな。ただ、ルアンにまで指示が飛んでいなかったらしい」
どうやら連絡が十分に回っていなかったらしい。【ディアンケヒト・ファミリア】でもそういったことは起こるし、100人を超えるファミリアなので仕方ないと言えるがもうちょっと風通しを良くした方が良いのではなかろうか。
そんなことをアクスが思っていると、団長という立場にも拘らずヒュアキントスが頭を下げて来る。
「今回の件はそちらのファミリアの評判を貶める気は一切ない。改めてその意志の宣言と謝罪をさせてもらう。必要であれば後で証文を渡すから、額を書いておいてくれ」
「分かりました。では、この抗争の被害者を治療する人員を貸していただけませんか?」
アクスがそう言った途端、ヒュアキントスの眉が吊り上がる……が、屋根から矢を射かけたり、魔法を景気よくぶっ放す団員たちに状況を察したらしい。短く『カサンドラ』と名を告げると、すぐ横の物陰から長髪の女性が歩み出てきた。
「
返事も聞かずにヒュアキントスは一足飛びで遠く離れた屋根まで飛び、そのまま走ってどこかへ行ってしまった。後に残されたダフネも縋りつくカサンドラの頭にゲンコツを落としてから周囲を纏めて路地へ消えてしまい、後にはアクスとカサンドラ2人になる。
「うぅ、だからあんまり来たくなかったの……。小さい子がうろちょろして兎を見えなくしてたから……」
「また夢ですか?」
カサンドラ・イリオン。
その夢の内容が具体的であるならばまだ予知夢として信じれるが、大抵は抽象的で曖昧な内容なのに危険そうなことをそのまま話してくる。
そのため、アクスも彼女の言葉をあまり鵜呑みせずに考察などをして接していたのだが、それでも普段は『妄想』という1言で片づけられていたカサンドラにとってはちょっと彼女側に踏み込んだ回答らしい。嬉しそうに何度も頷きながら終始、夢の内容に付き合わされることとなった。
「傷付いた兎さんがね……。月を飛び越えて、太陽を吞み込んじゃうの。それを防ごうと色んな手が兎に手を伸ばすんだけど、数人の人影がそれを守って……。最後に小さい子が兎さんの前を横切ったら……消えちゃった」
「兎はベル様でしょうね。太陽は【アポロン・ファミリア】? ですが……、同じファミリアの皆さんにはあまり言わない方が良いかもしれませんね」
「うん、ダフネちゃんにしか言ってない」
大方、以前に起こったアクスに関することを実際に見たか、当時に居た団員たちから聞いたりして悪い方向の夢でも見たのだろう。断片的にはベルと【アポロン・ファミリア】が関わっているのは分かったが、それでも大部分は相変わらずの意味不明さだ。
余りにも十把一絡げな予知夢様に、アクスは『それじゃあ、行きましょうか』と無理矢理話題を変えて逃げ遅れた一般人や冒険者を見つけるようと路地へ潜り込んでいった。
***
顛末として早朝という時間帯が功を奏した。襲撃に参加した大勢の冒険者と多少の一般人にも多少の怪我人は出ていたが、死に至るような重傷者は見えない。
だが、人とは別に建物の被害は深刻だった。中には魔法の余波で壁が吹き飛んだ家も多々あったため、アクスは抗争に対する忌避感を胸中に貯めながらもせっせと治療をしてはギルドに向かうように告げていく。
そうしていると、ヒュアキントスが戻ってくる。彼から金額を書いていない証文を渡されるついでにカサンドラだけではギルドへの説明に不十分と付き添いを頼まれたため、アクスはカサンドラをギルドまで送って窓口で十分な説明をしてから治療院へと帰った。
外から帰ってきた彼にアミッド以外は出掛けていることを知らなかった団員たちは戸惑いながらも抗争に巻き込まれなかったかを心配してくるが、今は絶賛勤務時間中である。『仕事をしてください』とアミッドに窘められた団員たちは、日中は気が気でない様子で作業をしていたのは言うまでもない。
そうして数時間ほど後のこと。『本日閉店』の看板が扉の前に掛けられた瞬間に1番広い部屋の中心へとアクスを設置。その早業にアミッドは呆れつつも、彼女自身も気になっていたことを彼に尋ねた。
「それで、今日は何をしていたのですか?」
「【アポロン・ファミリア】が【ヘスティア・ファミリア】を襲撃した現場に居合わせたので、一般の人とか冒険者を治療していました」
そういって【アポロン・ファミリア】の証文をアミッドに手渡すが、あまりの出来事にアミッドはその証文をしっかり持てずに手落とした。周囲も『え、居合わせたって……』や『巻き込まれたぁ!?』といった声を上げる中、【ディアンケヒト・ファミリア】に入って間もない新人の団員たちがおずおずと手を挙げた。
「あの、皆さんどうしてそんなに怒ってるのですか?」
「アクスが抗争の場に居合わせただけですよね? 確かに危険ですが、それだけでは?」
そんな新人たちの疑問に思いっきり振り返る団員たちだが、相手が新人だと分かるや否や『仕方ない』と言いたげな表情で語り出す。数人による記憶を基にした話を聞いていく内に新人たちは烈火のように怒り出し、近くに居たアクスに『なんで近づいたの!?』と問い詰め出す。
人間、自分以上に怒っている存在が居ると急に状況が見え出す生き物だ。ゆえに『俺たちも同じ気持ちなんだがなぁ』というやるせない気持ちになりながらも、新人たちを止めた団員たちは改めてアクスに具体的な話を聞くことにした。
「私は理由を知っていますが、最初から理由込みで話してください。皆さんは自分と隣同士の人たちの監視を」
『はい』
話の腰を逐一折られては適わないため、アミッドは
「なるほど。賠償額を書けということですか」
「吹っ掛けてやりましょうよ!」
「そうよ! せっかくの休みに働かせるとか許されるわけないわ!」
『然り! 然り! 然り!』
何やら労働基準の闇に捕らわれている集団も居るが、たしかに半端な値段を書けば舐められる。そのため、そういった金銭のことに関しては信頼できるディアンケヒトに任せようと証文を仕舞い込んだアミッドは、全員に向けて今のオラリオの情勢を話し出した。
「グランド・デイを経て忘れている方もいらっしゃると思いますが、ダンジョンではポイズン・ウェルミスが大量発生しています」
「あぁ、そうだった。すっかり忘れてた」
「特効薬は倉庫にありませんでした。素材調達の充てもないんですよね?」
本日、在庫管理を任されていた団員たちが特効薬の在庫や素材についてを聞くが、アミッドは黙って首を左右に振る。つまりは
本日、ギルドからもたらされた情報によれば特効薬は地上どころかリヴィラの街でも在庫が尽きてしまったらしい。特にリヴィラの街では数少ない特効薬の値段を釣り上げたせいで中層以下に行けない冒険者が増加しているのだとか。
そのため、事態を重く見たギルドが【ディアンケヒト・ファミリア】に解毒薬の量産や出来るならばリヴィラの街への往診をしてもらいたいという内容でクエストを発行したらしい。
「じゃあ、僕が往診に行くの?」
「いえ、アクスはしばらくダンジョンへの往診は禁じます。ただ、この件に関しては私がティオネさんとアイズさんと一緒に向かいます」
「なんで? パーティが集まらないから?」
「アクス。お前、グランド・デイで何やったか忘れたのか? そんなやつをすぐさまダンジョンへ往診に行かせられねぇよ」
アクスの反論にアミッドが口を開く前に、色々察しがついた団員の1人が呆れながら彼女が往診を禁じたと思われる理由言う。死体の山を見て治癒魔法を掛けようとするほど
せめてアミッド。次点でディアンケヒトが『大丈夫』というぐらいには精神を落ち着かせる時間が必要である。そのことを話すと、口を尖らせながら渋々納得するアクスに団員は『本当に分かってんのか?』とアクスを小突いた。
「概ねはその通りです。それに安心してください、往診の代わりにあなたには明日一杯使って情報収集をしてもらいます」
「情報収集?」
「なんでも良いんです。ディアンケヒト様が神会や宴に出席しない分、私たちは世間の情報にやや遅れてますから」
あまりダンジョン内についての情報交換を必要としない医療系ファミリアの特性上、ディアンケヒトは積極的に神会や宴には参加しない。そのため、オラリオ内外問わない情勢にダンジョンの様子。後は先ほど出たファミリア同士の抗争の話等々、【ディアンケヒト・ファミリア】は基本的に情報は売買に来る冒険者を通じて取得している。
なので、一般的なファミリアよりやや情報を取得するのが遅い傾向がある。
しかし、今回のような重大そうな情報に関してはギルドが知らせてくれるものの、やはり【アポロン・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の件で今一度、市井から情報を仕入れる必要性がある。
かというものの、金銭で誰かの話を聞いたりとした調査をすると金の動きから色々痛くもない腹を探られかねないし、なにより金にうるさいディアンケヒトが黙っていないだろう。
「金銭が発生しない程度に話を聞いて来てください」
「分かったー」
料金が発生しないとなると、本当に噂話程度しか集まらないだろう。しかし、現状を朧げに知るにはちょうど良いとアミッドが指示を下すと、アクスも答える。
その後は全員で現状の問題点やらアミッドを通さずに受けられたクエストの有無などを確認するが、今のところは件のポイズン・ウェルミスの体液を採集するクエストしかない。他には、以前から【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティから頼まれている『エルドラド・リゾート』における臨時的な医務室勤務というクエストもあることにはあるのだが、これはギルドの
「では、解散で」
話を締めくくったアミッドが全員に解散を告げる。それぞれが寝床を目指して部屋を出ていく中、アクスだけはアミッドが何やら思い詰めているように見えた。
その横顔には覚えが──具体的に言えばつい最近のことだったと思う。アクス自身も似たような表情を浮かべたことがあったと彼は自らの記憶の中に身を投じる。
あれは確か……。そうだ、グランド・デイの当日に死者を蘇生しようと決心した時に自分はあのように思い詰めていたように思う。
アミッドもアミッドで自分1人が何とかしなければならないと決心しているかのような表情で佇んでいる姿に、アクスは口を真一文字に結びながら何やら考え込みながら自室へ戻っていった。
報連相はちゃんとしよう!
なお、ヒュアキントスの内心は冷や汗だらだらな模様。連絡係の評価? そりゃストップ安よ。
(裏設定:『さすがにダフネたちにはだれか連絡してるだろ』という現場猫に加え、ルアンに関してはパルゥム蔑視でハブった結果……御覧の有様だよ!)
アンフィスバエナTシャツ
階層主シリーズの1つ。二面性を持つ人に最適…らしい。
アクスのファッションセンスがない? 仕方ないだろ、あのアミッドが姉ちゃんなんだぜ?
ちなみに某ダークエルフの剣士も愛用しているとか何とか。知らんけど。
アポロン・ファミリアたち。節穴過ぎない?
まだまだ暗い中、フードを深く被った子供の詳細を看破できる方がすごい。
※アクスがディアンケヒト・ファミリアの制服を着てた場合、即座に交流関係や好感度的に高いダフネとカサンドラが呼び出されて『はい、こちら~』とどこかのア●ルーよろしく誘導されていた。
カサンドラの予知夢
アクスはあまり信じていないが、幽霊とは違ってふわふわした内容を考察するのが楽しいらしい。
アクス、ダンジョンへの往診禁止だってよ
残当
エルドラド・リゾート
おそらくの展開
アクス「リューさ…貴族様。ルノアさんとクロエさんってご兄弟とか居ましたっけ?」
リュー…貴族「そんな話は聞いたことがありませんね」
アクス「同じ名前の人が同じような二つ名を持ってるんですよね」
リュー…貴族「は?」