未だ夜と言っても過言ではない時間帯。思わず出て来る欠伸を噛み殺しながらも、ティオネは脳内でとあることを想像していた。
「
「ティオネ?」
どうやら思わず口に出してしまっていたようだ。『何でもない』と言いつつも、彼女は少々羨まし気に目の前を見る。
そこには以前のような展開が広がっていたのだが、配役が少々異なっていた。
「絶対戻って来て」
「はい」
「どんなことがあっても絶対治すから。無茶でも良いから戻って来て。僕との約束」
「そうね、約束は守らないとね」
両膝をついたアミッドにアクスが抱き着きながら色々言っている。フィンと比べればダンディーさはないものの、あれほど真っすぐに思いを伝えられるのを見せられると気恥ずかしくなってくるのが乙女心である。
「大丈夫、私とティオネなら1日あればじゅぶ 「アイズ、そういうことじゃないから……」」
ただ、お隣の
すると、アクスは唐突にアミッドの顔を両手で挟んで視線を固定。自らも真剣な面持ちで彼女の目をしっかりと見る。
「コラ。ひ、人が見てます」
「お姉ちゃん、無茶は駄目だよ」
「な、何を言ってるの?」
「とぼけないで。元凶もついでに倒しにいく気でしょ?」
アクスの言ってきた『図星』に、少々胸が高鳴る気配を感じながらも話を聞いていたアミッドの顔色がさっと青くなる。
今回の騒動であるポイズン・ウェルミスは何の対策もない人間を容易く死に至らしめるほど強力な毒を持つモンスターだが、アミッドにとっては
唯一の武器である毒も彼女の治癒魔法で解毒できる。つまり、アミッドがこのイレギュラーを解決する『特効薬』に成りうるのだ。
目が泳いでいたアミッドの額にアクスは自分の額を当て、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「僕でもこのままじゃ問題は解決しないことは分かってる。解決にはお姉ちゃんの力は必要なのも分かってる。だけど、1人じゃ出来ないこともあるってお姉ちゃんや皆から教えてもらったよ?」
「……本当に、成長しましたね」
状況の理解とアミッドの重要性を正しく把握した上での助言に彼女は強くアクスをそのまま立ち上がり、ティオネたちに今回の最終目標が『元凶』を倒すことであることを告げる。
当然、これはクエストの範疇を逸脱する内容だ。たしかに元凶さえ始末することが出来れば事態も収束できるが、相応に危険性もある。
なにより、一介の
「なによそれ、LV.2の 「だからお願いします。私と……元凶を倒しに行ってください」」
てっきり『1人で元凶と相対する』と思い、多少叱りつけつつも自分たちも同行することを提案しようとしたティオネであったが、アミッドは彼女の言葉に被せる形で再び同行を頼んできたために呆気に取られてしまう。
続けて本格的なクエストになってしまうことの謝罪や金銭の支払いに関して言ってくるが、生真面目で強情なアミッドが他者を巻き込むというレアケースにティオネは笑いながらそれら一切を拒否した。
「良いのよ、私たちが助けたいって言ってんの。素直に甘えなさい? アイズも良い?」
「うん、アミッドにはいつも助けられてるから」
「すみません、よろしくお願いします」
話は決まった。わざと聞き耳を立てなかったが、アミッドが心変わりしたのは十中八九アクスのおかげだろうと聞こえてきた話の流れから察したティオネはアクスに近づき、彼の身体を持ち上げて視線を合わせた。
「そういう訳で、お姉ちゃんは任せておいて。ちゃちゃっと帰ってくるから」
「よろしくお願いしまーす」
そう言ってアクスは本日の予定である情報収集のため、地面に卸された彼は3人から離れていく。小さい体が距離によってさらに小さくなった頃合いになると、ようやく3人はダンジョンへ入っていった。
「あー、ティオナがあんな小さくて素直だったらな~。あいつ、アホだし……」
「あの子も少々至らない点はありますよ?」
「ティオナはいつも笑ってて良いと思う。アクスは……多分、優しい?」
年長者にとって年下の身内というものは恰好の話の種である。アイズもアイズでティオナとアクスは顔見知りなので、話に付いていきながらも次々とモンスターを倒して下へ下へと潜っていく。
そうして会話をしながらも速やかに中層入り口までたどり着いた3人であったが、唐突にティオネが話題を振ってきた。
「それにしてもアクスの奴、随分と良い男になってきたわよね。こう……顔を手で挟み込むなんて。どう? さすがの聖女様もあの子の"男"な部分にときめいたんじゃない?」
「良い男……なのかは分かりかねますが、確かに成長しているのは感じます。喜ばしい限りです」
予めティオネが予想していた返答と同じような言葉に彼女は肩をすくめる。『ちょっと意識してしまいました』などといった浮ついた話を期待していたのだが、どこまで言っても堅物なアミッドのスタイルにおざなりに返そうとしたが──。
「あの時のアミッドの顔……。かなり赤かったけど、もしかして体調悪い?」
「っ!?」
まさかアイズに見られていたとは思わず、耳まで赤くしたアミッドは速足で歩いていく。
だが、LV.2の
「なによもー、早く言いなさいよ! そうよねー、あの聖女様でもいいお年頃だしねー!」
「ち、違います! あの子は弟なんです!」
「関係ないわよ、気に入った男はサックリ食べる。それがアマゾネスの常識なんだから。大丈夫よ、木の葉を数えている間にオわらせれば良いんだから。団長にもそう言って迫ってるんだけどねぇ……」
「ヒューマンなんですが!?」
良い雄を見たらまっしぐらなアマゾネスの一般常識は、その他全ての種族から見て非常識。それはオラリオの共通意識である。
アミッドもまた良い年ごろの娘である以上はティオネの言っていることがある程度理解できる分、彼女の言う非常識や時折見せるフィンへの愛情に四苦八苦する。
「そんなこと言ってると、ポッと出の奴に取られるわよ? ほら、あの子って【フレイヤ・ファミリア】の
「あの人もヒューマンですっ!いつの間にオラリオはそのような退廃的になったんですか!」
いつからアマゾネスは色ボケの代名詞になってしまったのか。いや、よくよく考えれば元々そういう種族だったと思う。
もはや自分では到底御しきることが出来ないティオネの猛攻に、やや感情的に返事をしながらもアミッドは頼れる仲間であるはずのアイズに目を向ける。ただ、彼女は分かっているのか分かっていないのかよく分からない表情でモンスターを鎧袖一触に蹴散らしているため、彼女は早々に戦力外を悟った。
こうして女が3人寄って姦しい……とはちょっと違う状況ながらも、パーティは特に何も躓くことなく中間目標の地であるリヴィラの街までたどり着いた。
***
一方その頃。アクスはアミッドの言いつけ通りに情報収集を行っていた。
主によく往診に向かっているファミリアを対象にしていたが、大抵の神は『ドラマ性が薄れる』というアクスの聞き馴染みのないことを話して教えてもらえなかった。
しかし、ヘファイストスやデメテルといった一部の神はかなり協力的で、【アポロン・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】のことを細かく教えてもらった。
「ありがとうございます。そういえば、今日はもうお仕事は終わりでしょうか? 人が少ないような……」
「えっ? ……えぇ、今日は終わりなの。ほら、そろそろ春でしょ? 明日から作付けに向けて土作りをしなきゃいけないから、早めに休むように……ね」
人が居ないことに対するちょっとした疑問について、少々饒舌に理由を話すデメテル。その様子とデメテルの神望からファミリア水入らずでパーティでもやっていたのだろうと思ったアクスは、『お時間を取らせました』と丁寧に礼をしながら去っていく。
「大丈夫……笑えてる。笑えてるから……。大丈夫だから……」
後ろで彼女がひたすら
【フレイヤ・ファミリア】は情報網としては弱いので除外するとして、後は【ロキ・ファミリア】も入れて数か所のみ。既に色々集まってはいるものの、直近以外の情報も欲しいと思ったアクスは少し前に
かのファミリアにはこれまた以前に
「ごめんくださーい」
「ホイホイ……って
「どうも。お加減如何ですか?」
縦に長い
直近の課題はやはりダンジョンでの戦闘に向けた体の動かし方やブランクの解消だという以前よりも遥かに前向きな姿勢にアクスは胸を撫でおろしていると、男は改めてここに来た用向きを尋ねてくる。
「
「あー、確かにうちの主神様が"
すっかり慣れた足取りで
「やぁ、アクス。うちのホプキンスを助けてくれてありがとう」
「いえ、この方が諦めずにいてくれたおかげです。心が壊れてしまった方々は流石に治せませんので」
社交辞令のようだが、事実だ。いくら強固な鎧を身に着けようとも心の弱さまでは守れない。それと同じでいかなる病も治る高位な治癒魔法があろうとも壊れてしまった心までは治せないのだ。
ホプキンスと呼ばれた冒険者がもしあの場で生きる希望を完全に失っていれば、いくら
しかし、そんな
「なんだよ、こいつ。天使かよ」
「俺、次の
「冒険者なのにこんなこと言う子、初めて見たよぉ!」
はっきり言って気まずい。それに患者優先のやり方は【ディアンケヒト・ファミリア】では当然のことなので、それも含めて非常に居心地が悪かった。
早めに情報をもらってお暇しようと思ったアクスは本題を切り出すと、神は咳ばらいをしながら
まずは【ソーマ・ファミリア】の主神であるソーマがギルドに警告を食らい、唯一の趣味をギルドに没収されたという情報。傷口に塩を塗り込むのが大好きな神々が非常に喜びそうなネタであるが、【ディアンケヒト・ファミリア】がどうこうという話ではないので次に行ってもらう。
ただ、次はそうはいかなかった。
「ラキア王国が攻め込む準備をしているらしい」
「え、その情報。私たちも聞いてないんですけど」
「普通の大事件じゃないっすか」
どうやら神々にとってこっちが『些細事』らしい。さらっという神に隣で聞いていたホプキンスたちもドン引きする中、アクスは先ほど情報を求めて【ヘルメス・ファミリア】にお邪魔した時にアスフィから『先日の誤投擲のお詫び』と渡された
「後はそうだな……。新種の気味の悪いモンスターが現れたってロキが言ってたな」
「それって極彩色のですか?」
「あぁ、ロキもそう言っていたな。見覚えがあるのか?」
逆に訪ねてきたので、アクスは手頃な紙に
「逆に情報を出してもらってすまない。こちらも注意しておこう。……後は、ガネーシャのところの眷属が1人殺されたらしいが……。まぁ、気になるならガネーシャに聞いてくれ」
「ありがとうございます。ところで、【アポロン・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】のことについて何か情報はありますか?」
「あぁ、そっちもか。ホプキンスのこともあるし、特別だからな」
そう言って紅茶を1口飲み込んだ神は、続けて神の宴についての話をしだす。
やはり、ルアンの怪我をベルのせいに仕立てたらしい。そして非を認めようとしないヘスティアにアポロンはベルを賞品とした
「あぁ、だから報復されたと」
「みたいだな。あいつのことだからそれが目的だったんだろう。俺が知ってるのはこれぐらいだ」
「ありがとうございます」
ため息をつきつきながら話を切り上げた神に、アクスは礼を言いながら席を立つ。
途中、ホプキンスから戦闘に耐えられるレベルの
「あぁ、今度寄らせてもらう」
「それでは、失礼します」
扉の前で一礼してからアクスはメインストリートまで戻ってくる。そろそろ昼になるのでいったん戻って情報を整理しようとしていると、後ろから声が掛けられた。
「アクス、道端で読み物は感心しないぞ」
「あ、リヴェリア様……と、ロキ様たちもお揃いで」
「おー、背ぇ伸びたかー?」
アクスも古い情報だとはわかってはいるものの、昨日までの【ディアンケヒト・ファミリア】はそれすら──特にラキア王国の情報さえも知らなかったことを告げると、ロキは『ディアンケヒト、あんま出てこんからなぁ』と呆れながら今の最新情報をいくつか教えようとするが……。
「ロキ、これはメインストリートで話すことじゃないよ」
「どうせ我々も治療院に向かうところだ。詳しくはそこで話しても遅くないんじゃないか?」
「それもそうやな」
フィンやリヴェリアの言葉にロキは両手を頭の後ろに組み、口笛を吹きながらメインストリートを歩いていく。何のことか分からなかったアクスであったが、道中でフィンから【ロキ・ファミリア】が抱え込んでいる問題について主神やアミッドと話したいということを説明される。
しかし、アクスは早朝から情報収集に出ていたのでアミッドがダンジョンから戻ってきているのかよく分かっていない。
「あれ、お姉ちゃん帰って来てるんですか? たしか、アイズさんやティオネさんと一緒にダンジョンに行きましたけど」
「アイズたちが戻って報告してくれたよ。帰りは往診もなかったからアミッドを運んできたらしいけどね」
「元凶であるポイズン・ウェルミスの親玉も倒せたみたいだ。これで事態も徐々に収束するだろうな」
早朝に出て行って昼に戻って来るとは、流石は第1級冒険者2人の護衛付きといったところか。既に元凶を倒して帰還しているらしいという報告に、アクスは安堵する。
それを見ていたロキに茶化されながらも一行は治療院の入り口に差し掛かると、治療院に休憩中の看板を掛けていた団員と目が合った。
「あれ、神ロキ。皆さんとアクスを連れてどうなさいました?」
「ちょっとディアンケヒトとアミッドに話があるんや。すまんけど、1席設けてくれんか?」
昼休憩に入ろうとしたところにアポなし訪問。かなり嫌なことをされて少々顔をしかめるが、大事な上客なので団員はすぐさま中へと入ってアミッドたちに報告する。
そのまま時間にして10分ほど待っていると、今度はアミッドがロキたちを招き入れて応接室へと通す。
「アクスは同席させましょうか?」
「理解できるか分からんけど……。多分、アクスに結構世話になるからなぁ」
初めこそ子供ということで話を聞かせるべきか迷ったロキだが、十分な特記戦力であるがゆえにアクスも会話に同席を許可する。
こうしてロキ、フィン、リヴェリア、ディアンケヒト、アミッド。そしてアクスと6人による会合が始まった。
「で……だ。ロキよ、いきなり来てどういう話をするつもりだ?」
「あぁ、それはフィンから話させる」
ロキに促されたフィンはこれまで【ロキ・ファミリア】の周りで起こった事件を説明していく。
アクスと同行した際に遭遇した新種のモンスターから始まり、リヴィラの街での殺人事件や極彩色のモンスターの襲撃。そして、今の最新情報としてダンジョンの入り口がバベル以外にもあり、そこから件の極彩色のモンスターを運び出しているファミリアが居るということを説明してきた。
「なんじゃ、随分端折りおったの」
「申し訳ないが、全ては僕たちも整理しきれていない。具体的に知りたければ、後で書面にて説明させてもらう」
「いえ、結構です。【ロキ・ファミリア】が酔狂でこんな話をしないことは理解していますし、アクスも頷いていますので」
十把一絡げな説明ながらも、フィンから説明されたことをひとまずは飲み下したディアンケヒトたち。ただ、それを聞かせたうえでどのようなことを求めてくるのかがよく分かっていなかった。
すると、ロキがいきなり頭を下げる。都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】の主神が医療系ファミリアの最高峰とはいえ、戦力的に劣る【ディアンケヒト・ファミリア】の主神に頭を下げるなどあってはならないことだが、彼女と同じくフィンとリヴェリアも一緒に頭を下げてきたことにディアンケヒトは高笑いをする。
「ブワッハッハッハ。ロキよ、貴様何をしているのか分かっておるのかぁ?」
「ディアンケヒト様は黙っていてください。その……、頭を上げてください。それと、どういうことか説明を」
「あぁ、ちゃんと説明する」
珍しく慌てるアミッドにリヴェリアは理由を話し出す。
この未曽有の事態に関して、既に【ロキ・ファミリア】は【ヘルメス・ファミリア】と【ディオニュソス・ファミリア】と連携して対処しているが、彼らは一様に探索系ファミリア。後方支援の戦力が足りないらしい。
そこで医療系ファミリアとしては大手の【ディアンケヒト・ファミリア】に『同盟』という形で必要に応じて戦力や優先的なアイテムの買い付けなどを保証して欲しいのだそうだ。
「今も優先的に
「それは感謝しているよ。ただ、今回の相手は
「
「いや、既に
『
話を纏めると、オラリオ内で治療院に団員を寄こしたら緊急で駆けつけて治療をして欲しいという頼み。
「フィン様。我々のファミリアは実戦経験が乏しい団員がほとんどです。恐れ入りますが、全員を投入するのは非常に厳しいかと」
「左様。
「お姉ちゃん。この神様、僕のことバカにした」
「安心しなさい、アクス。私も同じ考えだから」
何故かディアンケヒトとアミッドから貶されたことにショックを受けるがさておくとして、同盟を行いたいことについては『頭出し』ということで後日にでも改めて本契約ということとなった。
だが、今の段階だからこそディアンケヒトは渋い顔をしながらロキに質問を投げかける。
「おぉ、なんでも聞き」
「とりあえず、これだけ聞かせろ。なぜ、うちなんだ?」
「さっき話したやろ? 大手の医療系ファミリアの後方支援が欲しいんやって」
「そうではない。"儂らが敵である可能性"を考えなかったのか?」
ディアンケヒトの質問は実に的を射ている。
今回の問題について、それこそ誰が味方で誰が敵なのかもわからなくなるぐらいには様々なファミリアが入り乱れている。もしかしたら【ロキ・ファミリア】が知らないだけで【ヘルメス・ファミリア】などが敵に回っていたり、今までうまく隠れていたファミリアが
そんな状況下で
すると、ロキはアミッドとアクスに向かって慈母のような視線を向けながら理由を語り出す。
「自分がそんなに言うとること自体が信用におけるんやけどなぁ……。まぁ、あえて言うならアミッドとアクスの人柄やな」
「人柄……ですか?」
未だに理解が及ばないような表情をするアミッドにロキは彼女とアクスを指差し、さらに言葉を続ける。
「せや。片や暗黒期から治療行為をしてLV,2まで至った聖女。片や往診って慈善事業を始めてダンジョン内外問わず、治療行為を続けてLV,2まで至った神父。そいつらが居る所の主神が裏で悪どいことをしとるなんて、うちには信じられへん」
「悪どいことしてるよね?」
「してますね。お金に関してはかなりガメついかと」
おかしい。途中まで良い話風だったはずなのに、いつの間にかディアンケヒトの印象が悪くなるような言葉が彼のファミリアに所属している2人から聞こえてくる。
このままでは『やっぱうちと同盟組むの止めません?』と【ディアンケヒト・ファミリア】側が言ってきそうな気配に、ロキは無理矢理にでも方向転換を敢行する。
「ともかくっ! 暗黒期に人を治療しとったやつらが、実は裏で
たしかに根拠としては十分だが、最後が投げやり過ぎやしないだろうか。
現にすっかり話についていけなくて飽き出したアクスに、『裏切りをバラす時は"楽しかったぜぇ! お前との友情ごっこぉ! "って煽るんやで』とまたしてもおかしなことを教えているロキがどこまで本気でどこまでが冗談なのかまったくもって分からない。
ただ、最後以外の言葉の端々にはアミッドとアクスへの信用が見え隠れしていたため、ディアンケヒトはしばらく目を瞑って考え込むと、ゆっくりと目を開ける。
「アミッド、うちは【ロキ・ファミリア】と同盟を組む。同時にロキにあやつの扱う治癒魔法の全てを話そうと思う。準備せい」
「承知しました。準備してまいります」
ディアンケヒトの指示にアミッドは中座する。何やら物々しい雰囲気を感じたロキたちがディアンケヒトの方を見ると、彼はいきなりフィンとリヴェリアに退席するよう命じた。
しかし、一応ここは別派閥の
「神ディアンケヒト。理由を尋ねてもいいかい? 僕はともかく、リヴェリアも居てはだめなのかい?」
「くどい。おぬしらには教えられんと言っておる」
「なぜだ。治癒魔法であるならば、使うのはアクスでそう指示するのは我々だ。ロキには関係ないだろう」
魔法であるならば、冒険者──特に魔法を得手としているエルフの王族であるリヴェリアすらも退出させるのはあまりにも横暴ではないだろうか。ただ、ロキたちがそう言ったもののディアンケヒトは『下界の子である以上は話すことが出来ん』と首を縦に振らない。
「なんや、まるで
「"みたいな"ではない。神々なら話せるんだ。この魔法を使うことで生じる責任について、アクスは当然として下界の子が負うべきものではない」
もはやそこら辺の頑固ジジイとなっている彼に打つ手なしとフィンたちが退出しようとしたが、話が進まないことに本格的に飽き出したアクスが同席を認める。魔法の使用者に言われてしまえば強くは言えないのか、ディアンケヒトは『お主が最も気を付けねばならんのだぞ』と叱りつけながらも3つの条件を呑んだ上で同席を認める。
1つの条件は、無暗に話を口外しないこと。
2つの条件は、この話を聞いてアクスへの対応を露骨に変えないこと。
3つ目の条件は、今から言う治癒魔法の隠していた効果を用いる場合、必ずロキの判断で行うこと。また、責任や情報統制などはロキ、フィン、リヴェリアが全力で行うこと。
「分かったよ。だけど、この条件に見合う効果なんだろうね?」
「ほんまやで。それにアクスの治癒魔法ってあれやろ? フィンたちが
「そうだな。
「本当に治癒というのはそれだけか?」
勿体ぶった言い方にロキは徐々に苛立ちを隠せなくなってきた。アミッドが未だ帰って来ていないのは気になるが、これ以上の問答は時間の無駄だと感じた彼女は未だに心配そうな目でアクスを見ているディアンケヒトを睨みつけた。
「もったいぶんなや。うちらはこの前、強制的にランクアップする魔法を確認したばかりや。それに、治癒魔法はアミッドのやつが最高値やろ? それ以上の治癒なんてほんまに死者を蘇らせること……ぐらい……」
なまじ頭がキレてしまったばっかりに、ディアンケヒトの言おうとしていた答えへとたどり着いたロキが最後まで言い切ることなくソファにもたれかかる。いつも限界まで狭めていた目がこの時ばかりは大きく見開き、信じられないといった様子でアクスを見た。
「ほんまか?」
「……準備が出来たようだな」
質問に対する答えを言わぬまま、入って来たアミッドに頷くディアンケヒト。そのやり取りだけである程度のことを察した彼女は、屈みながら手招きしてアクスを呼び寄せる。
『なにー?』と無警戒にゆっくり歩いてくるアクスに少々心配しながらも、アミッドはアクスをしっかりと抱きしめた後に先ほど調合した『眠りの香』で眠らせる。
「ちょいちょいちょい、なにやっとんねん。自分」
「ロキ様、これが正解なんです。これからお話しする"一部"のことは……アクスが忘れていることですから」
「左様。"4人"も蘇生したにも関わらず、今も生きている存在が誰も居ないことなど忘れていた方が幸せだろうからな」
4人。決して少なくない人数にロキたちが驚く中、ようやく話が始まった。
蘇生させた冒険者が"1人"なだけです。
また、一般人を蘇生させようとしたらどうなるの?というアンサーは次回。
アミッド
某アマゾネスのせいで変に意識をしてしまう。
あの子は弟、あの子は弟、あの子は弟、あの子は弟(ry
アマゾネス
某馬「精霊の前で交尾をおっぱじめるとは、このド淫乱スケベェ人類め」
1度色ボケたら自力では這い上がれない。なお、メレンの一件で既に色ボケの聖地となっている国があるとか、ないとか。
ホプキンス
片足が欠損していて腐っていたところをアクスに救われたオリキャラ。
親切を代価に情報を得る。これもまた正義は巡るのである。
ディアンケヒト、アクスの情報喋り過ぎじゃない?
飲んだくれ状態や普通のロキなら門前払いしていた。
一切の誤魔化しなく理由を話してくれ、その理由の端々に自分の眷属への愛を感じ、なによりあのロキが『頭を下げた』。
彼にとってそれらは同盟を組むに値し、アクスの情報をすべて開示するぐらい信用に足りた行いだった。ただ、それだけのことである。