眠ったアクスを正面から抱き上げる形で保持したアミッド。その横ではディアンケヒトが自らの指に針を突き刺し、彼の背中へと血を擦り付けた。
主神の
「むっ。……まさか
「ディアンケヒト様?」
「偉業的に見ればもう少し……。いくつか治療するぐらいでランクアップは可能だろう」
「ふぁっ!?」
意図しない発表にロキは驚くが、アクスのこれまでの戦歴を鑑みれば無理もないことだ。
1年もの間、ダンジョン内外問わず往診に向かって居合わせたゴライアス討伐にもヒーラーとして参加し、さらにはたまに【フレイヤ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】という格上との訓練。そして、ベルと出会ってからはあの黒いゴライアスの上半身や足を吹き飛ばし、グランド・デイにてベヒーモス・オルタナティブと交戦。純粋な戦闘職であれば即座にランクアップしてもおかしくはない偉業ともいえる。
しかし、これだけの偉業であってもギリギリランクアップできないのは、やはりアクスが
致し方ないと思う反面、それでもあと少し。ロキたちが期待するような目でアクスを見ていると、ディアンケヒトは羊皮紙を摘まみ上げて尋ねた。
「
「あぁ、僕は
慣れた手つきでステイタスを更新し終えたディアンケヒトは、アクスのステイタスを
「なんか、悪いことしとるっていうか……。アクスを物みたいに扱っとるみたいでごっつ後味悪いんやけど」
「奇遇だな、ロキ。私もだ」
ロキたちが罪悪感を抱きつつも、それぞれアクスのステイタスに目を落とした。
そうは言ってもアビリティは突出して高いというわけではない。往診で治癒魔法を多く使っているからか【魔力】がそろそろDに届くぐらいと高く、パルゥムなのになぜか【耐久】が少々高いといったことはあれど、それ以外はどこからどう見てもパルゥムのアビリティそのものだった。
「かぁーっ、もう少しでDやん! 魔法バンバン使わってバンバン回復させればすぐなんちゃう?」
「そうだな。もう少し、街中限定で往診を増やさせるか」
ディアンケヒトもLV.3という新たな可能性に少々舞い上がっているのか、ロキの話を真に受けて何やら検討しだす。
すると、先にスキルの方を見ていたリヴェリアとフィンの方から声が上がった。
「……なんだ、このスキルは」
「憧れや正義で補正が付く。あの馬鹿げた効果はこれらが影響してるわけか」
「お、ほんまや。良かったなぁ、アミッドたん。憧れやって……なぁ、そろそろ止めたり?」
スキルについてそれぞれ異なる反応を示す中、目の前でアミッドがやっていることにロキがついつい口を出してしまう。今の彼女はアクスの背中を一定のリズムで叩く、どこからどう見ても母親のようなことを延々としていたのだ。
「いえ、このままで。私はこの子の姉なので……。誰が何と言おうとこの子は弟なので……」
「お、おう。なんかあったんか?」
「フハハッ、儂が知るわけなかろう!」
「おい、こら主神!」
しかしながら彼女はアクスの背を叩くのを止めない。しきりに自身が『姉』であることを誇示する彼女にいったい何があったのだろうかとディアンケヒトに問うが、アミッドからなにも話を聞いていない彼は非常にサッパリとした返しをするのみであった。この主神、こういう時だけは全く使えないのである。
きっと……おそらくは……十中八九……絶対。早朝頃から治療院へ帰ってくるまでの某
だが、それはいつもは冷静沈着なヒーラーである彼女の平静を砕くには十分な威力を誇っていたのもまた事実。アミッドは未だ19歳。至って健康的な1人の乙女なのだから。
まぁ、そんな彼女の秘めたる内面は誰も気づかないのは致し方ないだろうが、そんな問答も飽きてきた。スキルよりも魔法の方を注目して欲しかったディアンケヒトが『早く読め』と急かしてくる。
「ちょっとぐらい現実逃避させてぇな! ……うわぁ」
「リヴェリア、この紙と同じことが書かれているという認識で良いかい?」
「あぁ、これだけ見れば死者蘇生と思っても仕方がないが……。なぜ分かった?」
我は冥府の領域を侵す者。されど、その対価を冥府に放り投げる者。
文言だけで見れば確かにそう認識せざるを得ない詠唱。しかし、魔法は使ってみなければ分からないのが通例である。
どこから死者を調達したのかの疑問などを投げかけると、ディアンケヒトは以前に起こった痛ましい事故を誤解が生まないように丁寧に解説する。
そこは幼い頃から友人同士の団長と副団長のみで構成されたファミリアだったこと。
とある日、ギルドの基準を大きく逸脱した階層で冒険をしていた際に副団長が大怪我を負い、運び込まれる間に意識を失ってそのまま帰らぬ人となったこと。
そこでアクスの魔法について思い出したディアンケヒトがアミッドを伴い、そこの主神と団長に許可を取ったこと。
そして──蘇生が成功したこと。
ここまでの解説を聞いたフィンがソファから思いきり立ち上がるが、リヴェリアは高レベル故の膂力で彼を押し留める。
「落ち着け……とはいうが、私も半信半疑だ。蘇生された者が居るのだったら話は早い。色々と聞きたいところだが……」
「言うたであろう。"全員"亡くなっていると」
「なんでや? 今度はダンジョンで2人纏めておっ死んだとかか?」
「いや、自殺だ。団長は故郷へ帰り、主神は自ら天界へ帰っていった」
まさかの結末に全員が息を吞む。そして、ここでようやく死者蘇生に関するリスクが説明された。
「フィンはうちと会ったんが14ぐらいやったな? 開口1番に"見つけた"とか、"貴方がいい"って言ってなぁ」
「ははっ、過去を穿り返すのは止めてくれるかい? だけど、僕が仮に蘇生が籠った治癒魔法を受けるとすると……。14歳以降の記憶がごっそり抜け、
「その冒険者はLV.2。もしかすると蘇生の代償は多岐に渡るかもしれんが、儂やアミッドの目が黒い内はアクスの治癒魔法による蘇生を検証させはせん。だが、実際にその冒険者"は"それが苦で自殺した」
「ちょい待ち。"は"ってなんや? 全部で4人って話やったけど、全員冒険者やないんか?」
聞き捨てならない単語にロキが嚙みつく。『冒険者なら』という話ではないが、身体が丈夫で自己責任が伴う分だけ文句は出ない。
だが、一般人に関しては流石に人道というべきかは定かではないが、ラインを越えてしまっているのではないか。
しかし、ロキの言葉に今度はアミッドがおずおずと手を挙げた。
「申し訳ありません、これは私の責任です。あの日、ディアンケヒト様に懇願しました」
申し訳なさそうに彼女は事情を話し出す。
昨年のちょうどこのぐらい。来るべきグランド・デイに備え、早くオラリオに向かおうとする旅行客などが後を絶たなかった。
【ディアンケヒト・ファミリア】も皆が忙しく働く中、夜中に起きた馬車の事故でとある一家が治療院に緊急搬送された。
外傷は酷く、全員もれなく意識不明。はっきり言って絶望的な状態ではあったものの、
そこでアクスの治癒魔法が上がってくる。デメリットは把握しているが、
普段はあまり我が儘を言わない団長が命を救うという一心で懇願してくる姿に、ディアンケヒトはその『願い』を聞き入れた。
だが、その結果が──灰だった。
「灰というと、モンスターを倒した時に出るような物かい?」
「たしかに死者蘇生なんてけったいな代物なんて、
「おそらくは……。3人全て灰となり、それを間近で見たのが……アクスでした」
「あぁ、それは辛いだろう。いや、そんな言葉だけでは言い表せないな。軽率だった」
「いえ、都合が良いと言っては不謹慎ですが、アクスはこのことを"忘れています"。おそらくはそうしないといけない程にショックを受けたのでしょう」
灰となった元人間。それを目の前にアクスはいきなり倒れ、昨年のグランド・デイ当日に目を覚ました時には何事もなかったかのように──現にアミッドが話を振っても『急患? 居たっけ?』と本当に忘れてしまったかのようにふるまっていた。
ここまで話されたことで、ようやくロキたちの頭の中に浮かんでいた点と点が線で繋がる。
それはたしかにアクスの前では話せないだろう。なにせ、自己の防衛本能で
それはたしかに下界の子供に負わせる責任ではないだろう。リスクありの死者蘇生など、神々の気まぐれでも早々に出来ないのだから。
それはたしかにここまで秘密裏にしなければならないだろう。アクスのような存在を世に放てば待っているのはオラリオだけではなく、世界中が大混乱になるのだから。
「それだけうちらのことを信頼してくれたんやろ? 重ね重ね、ありがとさん」
「ふんっ。オラリオ最大派閥の【ロキ・ファミリア】に睨まれれば、儂も首を縦に振らざるを得なかっただけじゃ。……こちらも重ねて言うが、くれぐれも情報統制や蘇生させた冒険者の管理をしっかりしておけ」
その強力過ぎる御業は人間であるアクスの身には余りある。好き勝手に使われると【ディアンケヒト・ファミリア】は当然として、世界中を巻き込んだ事件にまで発展するのは火を見るより明らかだ。
ゆえに『神々の気まぐれで仕方なく』というスタンスを取り、厳格な監視や情報統制の下で使用するようにディアンケヒトが再三の注意喚起をすると、『さっさと帰れ』と言いたげに追い払う仕草をする。
「そうやな。もう色々分かり過ぎて一杯一杯やし、そろそろ帰って酒飲みたいわ」
「有意義……というには少々重いが、重要なことを聞かせてもらった。感謝する」
「では、これで失礼する。詳細は追って書面でやり取りさせてもらうよ」
ロキたちがそれぞれ別れの言葉を言いながら応接室を出ていく。後に残されたディアンケヒトとアミッドは、寝ているアクスを見ながら何やら今後についての悪だくみを始めた。
「アミッドよ。実際のところはどうなのだ?」
「1番深刻なのは指揮官不足です。グランド・デイのように一丸となる分には良いですが、多方面では対処しきれません」
いくらロキなどから主に後方支援と言われても、少なからず戦闘に備えなければならない。いくら魔境のオラリオでも今年のグランド・デイのような総力戦はないだろうが、少なくとも一丸となって戦えるという希望的観測は早々に捨てなければ命取りになる。
そうなるとアミッドとは別の指揮官が必要となるが、医療系ファミリアにそんな特異な人材が転がっているはずもない。
無ければ作る。言うのは簡単だが、アミッド並の
「アクスにもそろそろ色々勉強させるべきだろう」
「この子はまだ子供ですよ?」
「だが、LV.3間近だ。念入りに育てておきたい。それに、お主を除いて他に全員の言うことを聞かせやすい奴もあまり居なかろう?」
年齢としてはまだまだ子供……そう、子供っ! そんな存在を今から指揮官に仕立てようとするのは先達としてみっともないのではないだろうか。
ただ、アクスは能力的に言えばピカイチである。今も腕の中ですやすや眠りこける彼にディアンケヒトは改めてアクスの指揮官化計画を強く提案する。
「分かりました。徐々に教育していきましょう」
アミッドはアクスを優しく微笑みかけつつも彼の育成計画についてプランを練り始めた。
***
翌日。話をすぐに持っていきたいからなのか、【ロキ・ファミリア】はすぐに現状で分かっていることや同盟に関するあれこれを書いた証書を治療院へと持ってきた。
彼らがいつ寝てるかという疑問は一旦おいておくとして、書かれている内容についてはそれらを持ってきたラウルに何度か確認を取った後に同盟の書類にディアンケヒトとアミッドがサインする。
「では、フィン様によろしくお伝えください」
「承ったっす」
そう言って治療院から出ていくラウルを見送り、ここから有事における戦闘に随伴できる
「やぁ、ディアンケヒト」
「ヘルメスか。何の用だ」
「俺はただのメッセンジャー……と言いたいけど、俺個人のクエストもあるんだ。それよりも、今からバベルに来てもらおう。早くしないと
特徴的な帽子を指先で弄びながら入店してきたヘルメスにディアンケヒトがうっとうし気に用件を尋ねると、彼は1枚の書状を差し出す。【アポロン・ファミリア】のエンブレムが模られた蜜蝋を切って中身を見ると、それはアポロンからの召喚状だった。
ヘルメス曰く、現在進行形で臨時
それだけであればディアンケヒトは『くだらん』と一蹴するところだが、追記に『
行かなければならない文面に彼は辟易しながらヘルメスに話を振った。
「なんじゃ、結局
「みたいだね。ギルドのこともあるし、アミッドちゃんたちも参加させた方が話が早いってね」
ギルド──特にギルドを纏めているロイマンはLV.2以降の上級冒険者が減ることを嫌っている。彼らから徴収する税収も減れば、積み重なるとオラリオ外への示威行為に影響が出ると考えているからだ。イレギュラーがたびたび起こって大惨事を引き起こすダンジョンであれば致し方ないが、
神々としてはそれを踏まえての
こうなってしまうと、仮に断ればファミリアの威厳に関わる。居留守を諦めたディアンケヒトは後ろに居るアミッドとアクスに声をかけた。
「アミッド、アクス、支度せい」
アミッドたちに出かける支度をさせ、自分も私室から長らく着ていなかった畏まった場にふさわしい外套を取りに戻る。外套を羽織り、いざ出発……といったところで彼の目にアミッドから渡された【アポロン・ファミリア】の証文が目に入る。
「ちょうど良い。神々の前で取り立てしてやろう」
アクスから事故のようなものと言っていたが、眷属を傷つけられて穏やかでいられるはずがなかった。特にアクスはオラリオではかなりの有名人であることから、吹っ掛けても他の神々が援護をしてくれるだろう。
そう思いながらもディアンケヒトはやや法外な値段を証文に書き殴り、アミッドたちと共にヘルメスの先導で治療院から出ていく。
途中、ヘルメスがアミッドに精力剤の作成を依頼し、『それってなーに』と安定のアクスが疑問を投げかけたことで少々いざこざがあったものの、昇降機でバベルの30階にある
「おー、
「アクスー、うちの
「オネショタコンビよ! 新鮮なオネショタよ!」
「おー、アクスにアミッドたん。昨日振りー」
そこらの席から主にアクスに声をかける神々。それらに答えながらディアンケヒトたちは呼び出した張本人であるアポロンの前に立つや否や、彼はディアンケヒトが口を開いた途端に勢い良く頭を下げて叫んだ。
「ディアンケヒト、すまない! 知らなかったとはいえ、
誠心誠意といった様子で謝るアポロンに周囲は騒然とするが、一部は『コスい真似しやがって』と不機嫌そうに彼らのやり取りを見つめる。
あぁして何かを言う前に謝ってしまえば被害者が強く出れず、『相手も反省している』という空気を周りに出してしまう。特に下界を楽しい遊び場と認識している神々は『その場のフィーリング』で善悪を決めるというはた迷惑な性質を持っているため、ディアンケヒトたちは大人しく謝罪を受け入れるしか道はなかった。
しかし、ここでアクスがおもむろにアポロンに近づくと、その顔を無理矢理上げさせる。
「あ、あぁぁぁくすきゅん!? ちっ、ち近っ!」
「アポロン様、あなたは
初めこそ大興奮といった様子のアポロンに真冬のごとき視線が突き刺さる。興奮による熱を強制冷却された彼は思わず『はっ?』といった後に、アクスの口撃が始まった。
「アポロン様が誰を好きになって、誰を手に入れようと結構。
「た、たしかにルアンに関しては報告は聞いている。厳重に注意もしたし、不義理なことをしたと彼も反省していた。だが、オラリオでの抗争はほかのファミリアもやっていることだろう?」
たしかに街中での抗争は他のファミリアもやっている。しかし、いくらオラリオが冒険者の街といっても
「魔法の1発でも一般人に当たれば致命傷なの分かってます!? 家を破壊されたらそこに住めなくなるの分かってますか!?」
「分かっている! 分かっているとも!」
「いいえ、分かっていません! ためしに、これからアポロン様のホームや所有する建物を今からぶっ壊しに行きましょうか!?」
人が変わったかのように──否、実際に変わった。非常に強い言葉をモロに受けたアポロンが目の前の子供が本当に過去、自身が手に入れようと画策していた存在なのかと目を丸くする。
それでも尚、口の端から涎を垂らしながら『良い……』と言っているのは置いとくとして、アクスの言い分はまだ続く。
「冒険者も市民も……神も関係ありません。オラリオに被害を出したら賠償するべきです。少なくとも、魔法を打たれた家については建て直さなきゃいけませんよ」
「そうだな。
「いやー、あの区画だろ? 結構痛んでたし、ちょうど良いから復興費ってことでカンパしね? 書記ー」
「ほいほい。あ、ついでに俺もカンパに参加するわ」
先ほどまでのアポロンにやや同情的だった空気は一気に変わり、アクスのペースとなった。基本的にこういったイベントが大好きな神々は次々と少額の金額を記録を司る神に持っていき、彼も別紙に『復興費カンパ』と書いて記録を付けていく。
中にはとある最大と最強を誇る2派閥の主神も参加したことでさらに盛り上がりを見せるが、ディアンケヒトがアポロンに証文を渡しながらとんでもない発言をしたことで神々の視線は一気にアポロンに向いた。
「たしかにケジメを付けねばならんなぁ、アポロン。そういうわけで、これを渡そう」
「い、いや。さすがにこれは多すぎないか?」
「何を言う。アクスに聞いた話では、【ヘスティア・ファミリア】のホームである廃教会の地下室で生き埋めになっておったみたいじゃぞ? これぐらいは安いものではないか?」
『生き埋め』。いくらはぐらかそうにも取り繕うことも出来ない事実に神々の視線が一気に強まる。そんな神々の中で実際の襲撃現場を見に行った物好きな神が数柱居たらしい。
口々に廃教会──今はもう瓦礫の山となっている様子や階段の様子を語っていくごとに聞いていた神の目力がさらに強まっていく。
「なぁ、これは【ヘスティア・ファミリア】に協力した方が良くないか?」
「ぶっちゃけ、俺はライン越えって思ってる。これ、下手したら死んでただろ?」
「んー、ほんまはうちもアポロンしばきたいところやけどなー。かといってどチビのファミリアはなぁ」
「そうね、私もあまりヘスティアのところと接点はないしね。でも、
逆を言えば『機会があれば潰す』と言っているかのような言動の2柱のおかげで何とか踏みとどまったものの、このままいけば数ファミリアからなる連合を組まれて【アポロン・ファミリア】が逆に壊滅してしまうという事態にアポロンは背中から嫌な汗が流れる。
すると、あろうことか被害者のアクスがアポロンへの糾弾を止めた。
「皆様、アポロン様のことをあまり怒らないでください。僕がそこに赴いたのは僕自身の責任で、本当にアポロン様は知らなかったみたいですから」
「あ、アクスきゅんっ!」
「ですが、ケジメはケジメ。復興費とか諸々に充てるので、アポロン様が多めに支払ってください。後、ルアン様の症状についてこれに書いて【ディアンケヒト・ファミリア】まで。今度は正確にお願いしますね?」
「あぁ、分かったとも!」
途端に元気になるアポロン。その様子を周囲で見ていた神々は内心、『あ、これ良い憲兵と悪い憲兵だ』とアクスの無自覚なやり口に戦々恐々とした。
よくある話だ。最初は罵詈雑言や圧力を踏まえた無茶苦茶な提案を出して相手を神経質にさせ、別人が優しく声をかけながらマシな提案をする。見えすいた構図ではあるものの、いくら神であっても心はあるためにアポロンはあっさりと引っかかってしまった。
こうして法外な賠償金が書かれた証文にアポロン自らがサイン。後はこれをギルドに持っていけば効力を発揮するため、賠償金の半額ほどを復興費用に充てて後はアクスと自分で山分けと考えていたディアンケヒトはほくそ笑みながらここに自分たちを呼んだ本題を聞く。
「こちらの要件は済んだが、
「そうだ。ヘスティアはちゃんと同意してくれてね。だから今から詳しく色々決めたいところなのだが……おかしいな。ヘルメス、ちゃんと召喚状は渡したのかい?」
「あぁ、ヘスティアは熱だからと言って代理人のナァーザに渡したが……。そんなに執拗に狙ったのか?」
「あー、矢とか魔法を結構使ってましたよ。【アポロン・ファミリア】の人に"神殺しとかすごいですね"って言ったら青ざめてました。流れ弾とか気にしないんですね」
「嘘は言ってないわね。……え、それマジ? いや、嘘じゃないってわかるけど……マジ!?」
ヘルメスの疑問にアクスが答える。下界の子供の嘘は見破れるため、彼の言っていることが本当なのだと分かった神々はまたもや騒ぎ出す。
いくら魔力操作に長けたエルフの存在や自動追尾の魔法があると言っても『余波』はある。それと弓による攻撃は相手が動いていると格段に難易度が上がるため、魔法に比べると
下界に降りてきた神々は自らの権能以外は力を抑えられているため、冒険者と比べて人並みでしかない弱さの神に攻撃が当たれば大事になることはオラリオの常識だ。
しかし、傍から見ればそれを全然気にしていない様子だったことを伝えると、周囲はかなり呆れた様子でアポロンを見ていた。
「それはねぇわ」
「近接戦闘の奴らのみだったら情状酌量はあるけどよ。弓と魔法はねぇーべ」
「しかも、あそこの地理って路地が多かったし。そりゃ怪我人も出て来るわよ」
「アポロン、あなたの采配ミスね。書記、ヘスティアは病欠にしておいた方が良いんじゃない?」
自分よりも腕力や体力が上の存在に追いかけ回されることを想像した神々が口々にヘスティアの擁護に回り、もはや『
このままでは再び同盟の話になってしまうかもしれない。とことんまで墓穴を掘ったアポロンが今回の件で
すると、今度はアミッドが彼の前に立ちはだかった。
「申し訳ありません、アポロン様。今回の件は全権アクスに任せるつもりです」
「は?」
「へ?」
突然の責任放棄にアポロンのみならず、隣で聞いていたアクスすら目を丸くする。『お姉ちゃん、どういうこと?』と彼女の手を握って興味を引かせようと必死になる彼の姿に主に女神辺りがキュンとしたのも束の間。ディアンケヒトがアミッドの言葉を代弁するかのように話し出した。
「アクス、お主もうちに入って数年じゃろ。そろそろ部隊指揮を勉強しておいても損では無かろう」
まるで示し合わせたかのような言葉だが、12歳でそれは少々厳し過ぎやしないだろうか。しかしながら他派閥のことなので強くは言えない神々であったが、ロキだけはディアンケヒトが横目で彼女を見ていることに気づいて声を張り上げた。
「指揮の勉強やったら
「そういうことだ。分からぬなら学べばいい。
「一応、うちとヘスティアの真剣勝負なんだが? 訓練代わりにするのは止めて欲しい」
「何を言う! お前やヘスティアのファミリアよりもうちのアクスの勉強の方が何億倍も大事に決まっておろう!」
「あ、はい」
相変わらず倒錯した愛にアポロンは何も言えなくなってしまった。横ではアミッドも何度も首を縦に振って激しく同意していたため、こうして新たにアクスは指揮経験という研修を最重要タスクとして設定されたわけである。
ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!
アクスのランクアップ
条件が整うのはもうそろそろだが、まだ引き伸ばします。
一般人を蘇生させた場合
灰になる…というか、それが普通。
それだけ
指揮官不足
だから、アクス。頑張ろうね。
ネルナッティ
ハトホル・ファミリアの『永遠の16歳』。魔女の1撃を受けて療養なう
アポロンへの暴言の数々
アニメでボンガボンガと魔法や矢を射かけてたので気になってた。オラリオは冒険者の遊び場ちゃうぞ!
思った以上に前話の性欲についてのあれこれの反響が多い…。まだ12歳…っていってもその頃も結構多感だしなぁ。
まぁ、R-15にならないような軽いやつできるかなぁ