ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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返信でお漏らしを危惧したので、コメント返信は後々行います。メンゴ☆


42話:会議は踊る。されど進まず

 翌日。治療院のカウンターでこっそり回復薬(ポーション)の陳列をしていたことがバレ、『勉強してこい』というもっともな意見を頂戴しながら追い出されたアクス。今日も今日とて臨時神会(デナトゥス)が開かれているバベルの30階へと足を向けると、既に先客が居た。

 

「どうも。シャクティさん、イブリさん」

 

「アクスか。早いな」

 

「おー、アクスひっさしぶりだな!」

 

 おそらくガネーシャの付き添いと戦争遊戯(ウォーゲーム)についてのあれこれを聞くために来たであろうシャクティはともかく、喋る火炎魔法と自称するほど喧しい【火炎爆炎火炎】(ファイアー・インフェルノ・フレイム)イブリ・アチャーが居るのはなぜだろうか。

 そんなアクスの疑問にイブリは一頻り悩んだ末にシャクティへ視線を向けた。

 

「えーっと……。団長、なんだっけ!」

 

「まったく。予め色々分かってないと実況できないからとお前が言ってきたんだろう」

 

 すっかり目的を忘れていたイブリにシャクティは彼が言ってきたことを話し出す。イベントの実況としてよく壇上に居るイブリは、今回も戦争遊戯(ウォーゲーム)の実況として並々ならぬ熱意を燃やしていた。

 しかし、戦争遊戯(ウォーゲーム)の概要については分かっても種目に関しては神々程詳しくはないため、事前になんの種目になるのかを見物するためにガネーシャに頼み込んだら連れてきてくれたらしい。

 

 そのフットワークの軽さはさておき、3人は揃ってガネーシャの隣に陣取る。イブリも居るからか煩いのが玉に瑕だが、高レベル冒険者と都市の憲兵を担うファミリアの主神の近くならば危険はないと判断したアクスはメモの用意やついでに持ってきた戦盤(ハルヴァン)を机に置く。

 

「あら、珍しい物を持っているわね」

 

 すると、横から妖艶な声がアクスの耳を振わせる。思わず横を見るとフレイヤが微笑を浮かべながら王女(マリカ)の駒を持ち上げ、指先で弄ぶ。

 まさかフレイヤも遠い国の盤上遊戯を知っているとは思わず、アクスが『ご存知なのですか?』と聞くと彼女は懐かしそうな視線を南西の方角へ向けた。

 

「良いなと思った子と何度かね」

 

「ファミリアに誘わなかったんですか?」

 

「あなたと同じよ、アクス。私はそばに置く子供と遠くから楽しむ子供を分けているの」

 

 優し気な表情でアクスの頭を撫でるフレイヤ。そんな彼女の言動を近くで聞いていたロキは、かの女神が心変わりする前はアクスを迎え入れようとしていたと()()していた光景を見ていたことから『どの口が』と内心で毒を吐く。

 そんな彼女の視線に気づいたフレイヤがチラリとロキを見るが、下手な口笛を吹いて誤魔化す彼女にすぐさま興味を失ったのか視線を戻し、アクスの対面の横の席へと座って駒を並べ出した。

 

「どうせ、今日もヘスティアは来ないでしょうね。だから……ね?」

 

 蠱惑的に微笑むフレイヤの『ね?』にその場に居た多くの男神が雄たけびを上げるが、アクスはかなり嫌そうな表情を浮かべる。

 基本的にアクスは数手先を読むといったことが苦手だ。出来ないわけではないが、それはイレギュラーが発生すると即座に瓦解するような稚拙な読みで、そこから巻き返そうとしてもどんどんドツボに嵌っていく。

 

 無論、先だってシルと行った数局も全戦全敗。貸してくれたは良いものの、アクスはすっかりこのゲームに苦手意識が出ていた。

 すると、フレイヤは薄く笑いながら王女(マリカ)の駒を手に取り、王帝(マレタ)の駒を盤外へ弾き飛ばした。

 

「はい、これで3手余裕が出来るわ。それと、王を生贄にしたことで生み出される駒は使わないでいてあげる」

 

 王殺し。王帝(マレタ)王女(マリカ)以外の駒を全て1つ増やせる代わりに3回休みにするこの戦法は、シルの話ではこの盤上遊戯が生まれた国の歴史的背景や不敬ともとられる行動ゆえに禁じ手扱いになっているらしい。

 それをことも無さげに行うフレイヤは、やはり戦盤(ハルヴァン)に慣れているのだろう。

 

 だが、同時にここまでハンデをもらったのだ。もしかしたら勝てるかもしれないと思うのが自然であろう。

 

「お願いします」

 

「ふふ、良い暇つぶしになりそう」

 

 周囲の神々が囃し立てる中、アクスとフレイヤの対局が始まる。

 1局目はアクスの判断ミスに付け込んだフレイヤの怒涛の攻めを押し留めることが出来ず、ストレート負け。

 続けて2局目はフレイヤの誘いに乗ってしまい、そのまま多くの駒を失ってじり貧になって敗北。

 3局目はフレイヤの軍勢を取り囲むように大きく配置したが、局所的に攻撃されたことで包囲網を崩されて負ける。

 

 一見すると負け越しているようではあるものの、手を変え品を変えといった様子で攻め方を変えるアクスにすっかり神々は釘付けとなっていた。

 

(頭も回るし、視野は決して狭くない。それに、()()ちゃんと打ててるわね)

 

 頭を捻りながら必死に駒を動かすアクスに、フレイヤは彼の指揮能力は決して低くないと推測する。

 たしかに自身のファミリアに居るヘディンと比べるのはヘディンにとって侮辱も甚だしいほどお粗末な出来だが、複数の怪我人を同時に治療する現場などを幾度も経験しているためか視野が広く、対応が必要な場所を的確に探し出して補助しようとする頭もある。

 暇つぶしがてらの()()()()()()()()()と思っていたが、思いのほか下地は出来ている。どうやら余計なお世話だったようだ。

 

(それにしても、楽しいわね。これが教える喜びというものなのかしら。でも、あの眷属()たちには逆効果になりそう)

 

 1局1局ごとに強く光る魂。

 未だ幼さを残す未熟な存在に教え導く。言わば『教え甲斐』という新たな暇つぶしのジャンルを見出したフレイヤであったが、自分のファミリアの内情を鑑みて一気に沈静化する。

 彼女の擁する強靭な勇士(エインヘリヤル)は全員、精強で自身の鍛錬に余念がない戦士である。さらに言えば全員が女神の寵愛を受けたいと時にはダンジョンという極限下でも他者を食らわんとする貪欲な者たちでもある。

 

 そんな中に色々と教え甲斐のある──まさに今のアクスのような肉体的にも精神的にも未熟な存在を迎え入れればどうなるだろうか。いくら地上に居りて全知ではなくなったフレイヤでも、それぐらいは分かる。

 

(遠征失敗になるようなことは止めることから始めるべきかしら……。あら?)

 

 以前、まさかの仲間割れで遠征に失敗したことについてまだ尾を引いていたフレイヤが意識改革を脳裏に掠めたところで盤面を見る。そこには綱渡りながらも、あと数手正しい順番に打てばアクスが勝てるような盤面に仕上がっていた。

 

「お、これはフレイヤ様負けるんじゃね?」

 

「がんばえ~、アクス~」

 

「あー、アクス違う違う。そこは 「言わせねぇよ!?」」

 

 周りに居る神々も非常に面白がりながら盤面を見、時折口出しする神を別の神が殴ってそのまま強制連行の刑に処されている。

 たしかにフレイヤ側が劣勢だが、それでも綱渡りの状況には変わりない。1手でも間違えば──。

 

「はい、残念」

 

 猛将(ファイズ)という強力な戦力を潰そうと焦って動かした駒が妖精(ラウフ)に射貫かれ。

 

「あっ。じゃあ、こっち……」

 

「逃げようとしても無駄」

 

 壁がなくなったことで慌てて駒を退避させるが、その進行上にいた戦車(メルカーバ)に轢かれ。

 

「うぅ……」

 

「惜しかったわね」

 

 大勢の小兵(ジュヌド)に取り囲まれて身動きが取れなくなってしまった。

 

「あー、惜しい」

 

「なんていうか、悪くないんだけどなぁ。焦って下手なところに駒動かす癖が結構あったな」

 

「まだ子供だし、仕方なくね?」

 

 対局が終わるや否や思い思いに駒を動かしながらアクスそっちのけの反省会のようなことをする神々を押しのけ、フレイヤはアクスの前に立つ。思いのほか楽しめたことと、教え甲斐という自分でも気づけなかった未知を体験したことで彼女の機嫌はかなり良かった。

 

「かなり楽しめたわ。なにかお礼をしたいのだけど、何が良いかしら?」

 

「あ、じゃあこの戦盤(ハルヴァン)のお手入れ方法が知りたいです」

 

 お礼の提案をするフレイヤに対して、アクスは即座に答える。てっきり【ロキ・ファミリア】からもらった魔導書(グリモア)のように何か自分の役に立つ高級な物でも強請られるかと思っていたフレイヤであったが、借りている戦盤(ハルヴァン)の手入れの方法というまさかの返答に周囲の神々共々黙りこくった。

 

「え、手入れ?」

 

「はい。酒場のお姉さんに貸してもらったんですけど、手入れはしないといけないので」

 

「……布で拭けば良いんじゃないかしら?」

 

「借り物ですので、それはちょっと不義理が過ぎるのでは? せめて、ちゃんと手入れをしてあげませんと」

 

 言われてみれば確かにそうだが、フレイヤが全能であったのは天界での話。今は大抵のことについて侍女(ヘルン)任せにしているために彼女にはそういった知識が一切なかった。

 まさか盤上遊戯の手入れ方法を聞いてくるとは思わなかったフレイヤは、どう言い繕えばこの場を切り抜けられるか迷った末に『うちの侍女に聞いてみるわ』と逃げの一手を放つ。多少、声が上ずったように聞こえたのはおそらく気のせいだろう。

 

「さーて、面白いもん見れたし帰るかー」

 

戦盤(ハルヴァン)ね。今度、商人に聞いてみようかな」

 

「ちょっ、ちょっと待ちたまえ! ヘスティアがまだ来ていないのだが!?」

 

 そんな神と下界の子供の対局という胸を躍らせるサプライズを見た神々が満足げに帰っていく後ろ姿にアポロンが叫ぶ。しかし、返ってきたのは『あ、アポロンまだ居たんだ』という冷ややかな言葉と視線で彼はかなり打ちのめされるが、へこたれずに元々この臨時神会(デナトゥス)は【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】で行われる戦争遊戯(ウォーゲーム)の種目やルールを決めることが目的だったことを散々説明する。

 

「いや、だってあのロリ巨乳休みじゃん」

 

「そーそー。誰かのファミリアが追いかけ回したせいでねー。忘れてるかもしれないけど、今の私たちってか弱いのよ?」

 

 相変わらずのアウェー感満載な場にアポロンは唇を嚙み締める。

 今更ながら先日、アクスたちをこの場に召集したのは失策かもしれない。ただ、あの機会で自分の非を含めた謝罪をしなければ後々ばれたら非常に面倒くさいことになりかねない。

 下手すれば『あいつ、黙ってたぜ』、『めちゃ許せんよなー!』とそれこそ派閥連合(イジメ)に発展するきっかけにもなりかねない。

 

 左右からの嘲笑に耐えながらも、アポロンは話題をこの場に居ないヘスティアに向ける。『必死だなww』と笑われているが、これも愛しのベル(きゅん)を手に入れるためだと彼は我慢しながらミアハやタケミカヅチの方を見る。

 

「ぐっ……。だが、このまま延々と時間稼ぎするのは私としても屈辱だ! 分かってるのか、ミアハッ!」

 

「分かっている。明日にでも無理矢理出席させよう。タケミカヅチもそれで異論はないか?」

 

 ミアハの問いかけにタケミカヅチは無言で頷く。

 結局、今日も今日とて会議は進まずに解散となったが、アクスが帰ろうとするとガネーシャがポージングをしながらやってきた。

 

「アクス! シャクティや子供たちから聞いたぞ! 愛しのアーデ 「ガネーシャ、その話は後にしろ」」

 

 ポージングを変えながら話すという器用なことをしながらアクスに暑苦しく語り掛けるガネーシャを押しのけたシャクティは用件を伝える。

 なんでも今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で以前に彼女から依頼があった繁華街のカジノエリアの治療テントに常勤していたギルド所属の治療師(ヒーラー)や職員たちまでも準備に駆り出されるらしい。現状は種目が決まっていないので何とかなっているが、興行ゆえに準備よりも大変な()()()まで行くとギルド職員を総動員させなくてはならないのだとか。

 

 そういった理由でロイマンから【ガネーシャ・ファミリア】に救援要請にも近い()()()を言ってきたことをシャクティは語る。

 

「忙しい中ですまないが、今からアミッドと話をしたい」

 

「構いませんよ。イブリさんはどうします?」

 

「暇だから俺も行くー」

 

 中々に軽い口調で同行の意思を示すイブリにシャクテイは『向こうに迷惑はかけるなよ?』と釘を刺しつつも、アクスとガネーシャを連れて治療院へと向かう。治療院に帰ってきたアクスが【ガネーシャ・ファミリア】との話し合いのために応接室の空きを確認するが、団員は首を左右に振って『今は無理だ』と告げられた。

 どうやらアミッドとディアンケヒトは新進気鋭の商会と商談をしているために応接室は使用されているらしい。いつも会議などで使う部屋とも考えたが、一応は他派閥のお客様。どこかに良い部屋はないかと思ったが、長く使われていない『本拠(ホーム)』の存在を思い出した。

 

本拠(ホーム)の応接室を使いましょう」

 

 そう言ってアクスは宿舎へ続く扉を開け、長い廊下を経て再び扉を開ける。その先にある綺麗に整頓されつつも物がぎっちり詰め込まれた棚の間を歩いて行った彼は、やがてたどり着いた豪奢な部屋の中へとガネーシャたちを通す。

 

本拠(ホーム)……倉庫じゃないのか?」

 

「一応、本拠(ホーム)です。いつもは治療院と増設した宿舎しか使いませんが」

 

 医療系ファミリアである【ディアンケヒト・ファミリア】には、本拠(ホーム)()()存在する。

 1つは治療院。アミッドやディアンケヒトがいつも張り付いている場所で、怪我をした患者の最後の砦。今まで幾度となく崩壊したが、不死鳥のごとく再建された不屈の城である。

 2つ目はファミリアにおける本拠(ホーム)。外見は豪邸だが、中はほとんど客を入れないために必要最低限の調度品が並んでいる張子の虎のような建物だ。中は本拠(ホーム)というだけあって部屋数は多いが、大抵の部屋にはアミッドが作った魔法具(マジックアイテム)回復薬(ポーション)などで使う原料。後はガラス瓶などといった備蓄が詰め込まれている有様である。

 

 増設された宿舎も含めて廊下で行き来できるためにアミッドたちはここを『倉庫』と呼称しているが、れっきとした本拠(ホーム)。かなりややこしいが、1つの大きな敷地に治療院と本拠(ホーム)と宿舎が納まっているという作りだ。

 

「すみません。こちらにはまともな物が無くて」

 

「いや、我々が押しかけて来たんだ。気にしなくて良い」

 

「アクス! 気にしていないぞ! そして、そんな俺がガネーシャだ!」

 

 やたらと自分を誇示するガネーシャはともかく、アクスは木の杯に入れた白湯を全員に配っていく。

 すると、騒々しい足音と共にディアンケヒトたちが入ってきた。見るからに機嫌が悪そうなので、おそらくは先の商談がうまくいかなかったのだろうとアクスは何も言わずに席を譲ると、彼は当然といった表情で座り込んでから不躾な視線をガネーシャたちにぶつける。

 

「いきなりだな、ガネーシャよ。そんなに重要な案件か?」

 

「突然の来訪! ガネーシャは強く、激しく! 謝罪しt 「神ディアンケヒト。突然の来訪は謝罪する。だが、こちらも火急の案件を頼みに来た」」

 

 本当に謝罪する気持ちはあるのか怪しいほどの騒々しい謝罪を見かねたシャクテイが自らの主神を押しのけ、アクスにしたようにカジノエリアの常勤治療師(ヒーラー)の説明を始める。

 なんでも他の都市から誘致している関係上、別のファミリアをカジノエリアの業務に参画させるには許可が必要らしい。そのような時間がもったいないために今回は()()()を使うことをシャクティが伝えると、ディアンケヒトは『ギルドの怠慢』といった具合で断る姿勢を見せた。

 しかし、予めシャクティはギルドから強制任務(ミッション)という扱いで【ディアンケヒト・ファミリア】の税金の減額を約束しており、【ガネーシャ・ファミリア】からも冒険者依頼(クエスト)ということで多少の金銭や素材をいくらか出してくれるらしい。

 

「ふむ、繁華街ならばダンジョンと比べて危険はないだろう。【ガネーシャ・ファミリア】も居るしな」

 

「そうですね。では、戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わったらアクスを派遣します」

 

「助かる」

 

 ディアンケヒトの手の平が電磁モーターのごとく回り、何故かそういうことになった。なお、この間アクスはイブリのトレードマークであるゴーグルを貸してもらって遊んでいたため、何も口を挟んでいない。

 そんな、まるで自分の家の収穫作業が終わった後に他所の家の収穫作業に手伝わせる農家の子供のような気軽さで次の派遣先が決まったアクスであったが、ここで初めて不平を言う。

 

「これ終わったら休み欲しい」

 

「安心せい、ちゃんとアミッドと休みを取れるように手配してやる」

 

「やたー」

 

 両手を万歳しながら喜ぶアクス。戦争遊戯(ウォーゲーム)とカジノエリアという通常業務と比べてかなり大変な部類の職場に対し、その要求が姉との1日休暇というのはいささか不憫ではなかろうか。

 しかし、他派閥の決定に異を唱えるのはマナー違反なためにシャクティが黙っていると、唐突にアクスがメモ帳を取り出した。

 

「あ、シャクティさん。この際なので戦争遊戯(ウォーゲーム)における回復の基準について聞いておきたいです」

 

「あぁ、戦闘不可能かどうかについてか?」

 

 シャクティの返事にアクスは首を縦に振って自分の考えを話す。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)がどういった種目であろうとも、冒険者同士が戦うことは避けられない。治療師(ヒーラー)が常駐していても事故は起こるし、怪我人も当たり前に出るのが普通だ。

 しかし、そんな彼らを試合中に回復させるのは現場の判断力が非常に問われる。

 いくら審判の存在や中継という形で見張りの目があろうとも、バレなければそれはルール違反足りえない。まるでどこかのファミリアのように回復した途端に戦場へ舞い戻る可能性も考慮に入れる必要性があるのだ。

 なまじ、今のアクスの治癒魔法には強化も入っている。高レベルの者がステイタスの強化を受けて暴走──なんてことは想像したくないが、お互いのファミリアを潰そうと躍起になる戦争遊戯(ウォーゲーム)では十分にあり得る予想だ。

 

 そこまで話すと周囲が静かになる。ガネーシャでさえも黙っているため、何かまずいことでも言ったのだろうかと周囲をきょろきょろ見渡すアクスであったが。

 

「ガハハハ! よくそこまでたどり着いたな、アクス! アミッド、どうだ? 儂の判断は正しかったであろう?」

 

「そうですね。良い傾向です」

 

 最初の不機嫌な様子はどこへやら。子犬を褒めるようにアクスを撫でるディアンケヒトに笑みを浮かべるアミッド。そんな主神たちを他所にアクスはシャクティに再び問いかけた。

 今まで来る者を構わず回復していたアクスにとって癒すべきか否かの選択は初めてである。それも、この選択如何で戦局が大きく変わる失敗出来ない大舞台なのだ。万全は期したいという気持ちが高まるのは、何ら不思議ではない。

 

「そこまでやる気を見せてくれるのは嬉しいが、決闘の場合は審判は私になると思う。だから、指示した時に動いてくれると嬉しい」

 

 しかし、アクスのやる気にシャクティは冷水を被せた。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)は実況も含めて【ガネーシャ・ファミリア】もギルドに協力するためにシャクティも審判の1人として参加することが多い。なので、闘技場を借りきっての種目であるならばそういった指示は全てシャクティの目で判断することを伝えると、アクスは肩をガクリと落とした。

 

「すまない。ただ、そちらは万が一が起こった場合に備えて腕の良い治療師(ヒーラー)でパーティを組んで欲しい」

 

「承知しました」

 

「まぁ、大抵は決闘になるんすがね」

 

 イブリの言葉にガネーシャ以外の全員がそうであって欲しいことを願う。祭り好きの神々や冒険者たちが何と言おうとも、ギルドや【ガネーシャ・ファミリア】といった『運営側』と呼ばれる立場の人間にとって戦争遊戯(ウォーゲーム)()()()()()()()()()()に過ぎない。

 

 会場の設営や人通りが増えることを見越した交通整理を始めとしたこまごまなことで人員がジワジワと減らされ、当日は喧嘩などといったトラブルの対応や運営をしなければならない。

 さらにその中で通常業務も普段通りにやって来るので、残業は当たり前。日に日に増していくストレスは仮にギルド職員にも神の恩恵(ファルナ)を刻んだ冒険者もどきが在籍していた場合、彼/彼女らが戦争遊戯(ウォーゲーム)の参加者を()()()()張り倒してランクアップするだろうぐらいに積もっていくこと必至である。

 ただ、それは【ガネーシャ・ファミリア】にも言えることなのだが、彼らは冒険者なので休む間もなく壁からモンスターを生み出してくるダンジョンと比べると長時間の不眠不休といった事態には慣れている。

 

 そんなこんなで結局は『種目次第』というわけだが、やたら騒いで話を聞いていない風なガネーシャ以外は決闘になるだろうと予想していた。

 

「ところでカジノエリアへの派遣についてだが、そちらの報酬は期待しても良いのだろうな?」

 

「もちろんだ! アクスには色々期待しているからな!」

 

 唐突にガネーシャが訳の分からないことを叫んだが、シャクティを介した翻訳によると彼女がアクスのスキルについて話した時からかなりソワソワしていたらしい。それだけ彼はアーディのことは目にかけていたし、眷属として愛していたことが伺えたディアンケヒトがガネーシャを嘲笑するが、アミッドから夜な夜な彼も団員たちのステイタスを見てニヤニヤ笑っていることを指摘される。

 

「あ、あれはあやつらで新たな商売が出来ると思っておっただけじゃが!?」

 

「ディアンケヒト様、隠すなら隠すでもう少しマシな言い訳をしてください。商魂逞し過ぎて、冗談に聞こえません」

 

「筆頭の稼ぎ頭が何か言ってる」

 

「アクス、今度それを言ったら"これ"ですよ」

 

 どうやら地雷を踏んだらしい。笑みを浮かべながら握り拳を垂直に振り下ろすアミッドに、アクスは黙りこくる。だって……、怖いもん。

 

***

 

 そんなこんなで【ガネーシャ・ファミリア】とのやり取りが終わった翌日。アクスは迎えにきたシャクティたちと一緒にバベルへ向かった──が。

 

「1対1。ファミリアの代表者による決闘で勝負を付けようじゃないか」

 

 ──これなら計画を変更しないで済みそうだ。

 

 2日という休みを経て、やっとこさ神会(デナトゥス)へ出てきたヘスティアの提案にアクスは破顔する。このまま決まってくれれば万々歳なのだが、『1人の眷属を袋叩きするのはあまりにも白ける』という賛成意見の中でアポロンが反論する。

 

「ヘスティア、今まで眷属を積極的に集めようとしていなかった君の怠慢をこちらに押し付けないでもらいたい」

 

「うっ!」

 

 ──やはり、あの神は後で色々請求した方が良いのではなかろうか。

 

 あくまでも確実にベルを入手したいゆえの戦術なのだろうが、運営側のことをちっとも理解していない発言にアクスは若干むかっ腹が立つ。

 すると、あれよあれよという内に()()()()という手段が取られた。

 

「俺、神探し(ハイド・アンド・シーク)にするわ」

 

「私はダンジョン内のレース。もちろん、妨害ありのね」

 

「俺は~、無難に決闘にしようかね」

 

 ──頼むからおかしなものを書かないで欲しい。

 

 1柱1枚ずつ羊皮紙に種目を書いては用意された箱に入れていく。耳をすませればとんでもない種目がかなり聞こえてきたため、自重を促したかったが隣にいるロキが黙って首を左右に振る。娯楽に飢えた神々の厄介さを身に染みて分かった頃、全ての神の意志を封じた箱に誰が手を突っ込むか協議しだした。

 

「アクスにしねぇ? 下界の子だし」

 

「それなら俺は【象神の杖】(アンクーシャ)かな。【ガネーシャ・ファミリア】の団長だし」

 

「本人たちが決めるでしょ」

 

「僕はアポロンの息がかかった紙でなければそれで良い」

 

「それはこちらも同じこと。ミアハとタケミカヅチには自重願おう」

 

 最初こそ()()()()()という理由でアクスかシャクティが引くことになっていたが、1柱の女神の言葉に納得した神々は動向を見守る。

 されど、ヘスティアたちの言葉の応酬にまたしても神会(デナトゥス)は進まない。徐々に苛立っていく会場内に、ヘスティアとアポロンが誰か適当な存在が居ないかと周囲を探ると──。

 

『ヘルメス!』

 

「えーっと、本気(マジ)?」

 

 神々の間で中立を謳う男神の狼狽え声が耳に届くが、席が近くともあってかアクスはしきりに両手を合わせる。そんなまさしく()()()な姿に、ヘルメスは温和な笑みを浮かべながらアクスに近づいて肩を叩いた。

 

「ヘルメス様、どうか……どうか穏便なものに……」

 

「アクス君、安心しな、俺はクジ運は強い方だ」

 

 ここまで心強い言葉があっただろうか。今度、お礼としてお高い回復薬(ポーション)をアスフィたちに配ろうと決心したアクスはサムズアップしながら箱へ向かうヘルメスの背中を羨望の眼差しで見つめていた。

 

 そして──。

 

「……あっ」

 

 神々が固唾を呑んで見守るバベル30階にまるでポカをやらかしたようなヘルメスの声が響く。その手には1枚の羊皮紙があり、その中には──。

 

 ()()()という文字がデカデカと書かれていた。

 

「ヘスティア、アクス君。すまんっ」

 

「ヘルメス、テメェェェ!」

 

「り、【小神父】(リトル・プリースト)が乱心したぞー!」

 

「止めろ、止めろ! ……いや、力強いなこいつ!」

 

 どうやら『フラグ』というのは本当に存在するらしい。

 あれだけ『あり得ない』と思っていた種目に決まったことで、いつもはちみっこポメラニアンであるアクスの口からまるで命が【絶†影】と名付けられた時のタケミカヅチのような怒号が放たれた。

 なりふり構わないそんな暴言に、周囲が騒然となったことは言うまでもない。




これだから神ってやつは。
【あらすじ】に募集2つ書きました。時間ある方はなんかこう…良い感じにお願いします。

フレイヤ様
 極力、ズルをしないようにして打っていた。色々戦術を変えて来るので楽しかったらしい。
 なお、臨時神会(デナトゥス)から帰ったと同時に侍女頭であるヘルンに戦盤(ハルヴァン)の手入れ方法を聞き、彼女に驚かれたとか何とか。
 ちなみにアクスがフレイヤ様に拾われた場合、ヘイズルートかガリバー兄弟ルートになる模様。多分、アクスはイーブイの類なんだと思う。

ディアンケヒト・ファミリアの本拠(ホーム)
 本拠(ホーム)の描写が小説版トコミカライズ版で異なっていたため、治療院や宿舎と併設する形になりました。
 まぁ、ディアンケヒトだし金はあるでしょ。

ディアンケヒトが機嫌が悪かった理由
 融資の担保に『青の薬舗』が含まれていたためか、『他人の借金を横取りしようとする輩など信用できん』と一喝した。(ダンメモのアミッドふれあいストーリー『腐れ縁』より引用してるので、気になったら動画でも見てください)

カジノエリアへの常勤
 ファミリアクロニクル episode.リューの布石。例のスキルを持ったアクスが居るので、ちょっと原作と変える予定

今度それを言ったら"これ"
 比較的正しいと思われる使い方。なお、派生技としてぐりぐり攻撃もある。

ヘルメス
 この後、一点物の帽子にめちゃくちゃ折り目を付けられた。
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