ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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クノッソス調査編
48話:選択


 どういうことなのだろうか。主神はこのことを知っているのだろうか。一体、裏で何が進行中なのだろうか。

 ヘイズたちと別れたアミッドは、全く考えが纏まらないままアクスを連れて黄昏の館へ赴く。彼女たちの姿に門番は少々慌てながらフィンを呼び出すと、困った表情を浮かべた彼が『やっぱり行き違いだったか』と呟きつつも中へ招き入れてくれた。

 

冒険者依頼(クエスト)のことだね。すまない、ラウルが治療院に向かった時には既に君たちは外出した後みたいでね」

 

「それよりも説明をお願いします。そもそもですが、【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は犬猿の仲だったはずでは?」

 

「そんなことを言っとる場合や無くなった……っちゅーわけや」

 

 フィンの代わりに隣で事の成り行きを見守っていたロキが事情を話し出す。

 事の発端は数日前。【ロキ・ファミリア】が『バベルとは異なるダンジョンの入り口』を探すためにダイダロス通りを探索していた最中だった。

 

 メレンのニョルズがオラリオの地下水道で怪しげな男と会話したという情報から地下水道に降りていたフィンたちが謎の門を発見。いや、今まで何度も調査したにも拘わらず突如現れたと言っても良いぐらいあっさりと()()()()()()()のだろう。

 その場に居合わせた全員の見解から門は全てオリハルコン製。発見した経緯も怪しさ満点なことや人海戦術による捜査。そして扉の上がダイダロス通りときな臭い立地から、これまでの事件の裏に隠れていた闇派閥(イヴィルス)の残党が根城にしている場所であると断じることが出来た。

 

 そうなるといち早くかち込んで殲滅──と行きたいが、そんな暗黒期のようなノリで行くと大火傷どころでは済まない。なので入念な準備をする傍らで、ロキはバベルの最上階でフレイヤと色々頼みごとをしたらしい。

 

「よく頼みごとが出来ましたね」

 

「ずっと借りパク……ちょっと返すタイミング逃してた鷹の羽衣とやっすい酒持って行ってん」

 

 事も無さげにロキは言うが、無論それだけではないはずだ。しかし、彼女が語りたがらないということは()()()()()()()()のだろう。

 結局は条件付きで治療師(ヒーラー)としてヘイズが参戦。その護衛という名目でオッタルが選ばれた。

 

 本来であればこの戦力と【ロキ・ファミリア】が居れば、よほどのことがない限り制圧は可能だ。そうなるとアクスが居る意味はないのだが、ここでフレイヤの課した()()が響いてくる。

 

【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)の魔法は2回きり。2回目の行使が終わった瞬間に帰還してしまう。そして、【猛者】はあくまでも彼女の護衛ということになったらしい」

 

「え、しょぼい……」

 

「そんなこと言いなや! これでも十分頑張ってんで!」

 

 あんまりな条件に【フレイヤ・ファミリア】の戦力が一気に戦力()となってしまった。交渉の席に就けただけでも賞賛に値するようなことだとロキは叫ぶが、アクスとアミッドの内心は『居なくても良いのでは?』という思いに占拠されていた。

 

「では、次の質問です。なぜ、アクスを呼んだのですか?」

 

 しかし、そこでアクスを呼ぶという選択肢は未だに分からないアミッドは疑問を口にする。

 すっかり体の良い便利屋のポジションに収まっている彼だが、【ロキ・ファミリア】が今回攻略するのは事前調査もしていない闇派閥(イヴィルス)のアジト。中の地形や敵の配置、後は罠の有無といったことが全く分からない初見の存在に他派閥の重要な治療師(ヒーラー)を同行させるのは危険が高すぎるのではないか。

 

 ただ、アミッドの話にフィンは同意してきた。

 

「あぁ、僕もそれは思ってる。だけど、冒険者依頼(クエスト)の羊皮紙を見てくれ。神フレイヤもアクスを呼ぶのに納得している」

 

「むしろ、"回復の手が足りないならディアンケヒトの所に居る神父様について来てもらうのはどう? 報酬は折半で良いわよ? "って言ってきた口やからな」

 

 散々戦いの野(フォールクヴァング)への往診(という名目のこき使い)をしていたからか、フレイヤもすっかりアクスを便利屋ポジションと認識しているらしい。ただ、普通ならばオッタルやヘルンが冒険者依頼(クエスト)の羊皮紙の隅っこにしているサインを()()()()()()()が連名で目立つところにサインしていることから、今回の冒険者依頼(クエスト)における重要性は計り知れないことになっている。

 

「もちろん、これはかなりの危険を伴う。断ってくれても文句は言わないし、言わせない。元々君たちは同盟だけど後方支援だ。約束を違えたくない」

 

 もはやミッションではなく冒険者依頼(クエスト)のような圧を感じるものの、フィンは断った後のことは心配しないよう伝えてくる。

 そこまで話を聞いたうえで、今まで率先して疑問を彼に伝えていたアミッドがアクスの方を向く。何をするのかと思いきや、あろうことか『あなたが決めなさい』と告げてきた。

 その言葉にアクスが『これがいくじほーき!?』と言い、()()()()()が噴き出すと同時に横で聞いていたリヴェリアに頭を叩かれる。

 

「どこでそんな言葉を……いえ、()()()()()()。ですが、あなたはもう自分で色々考えられるはずです。そのために私たちはあなたに色々教えました。先ほどヘイズ様やヘルン様に仰られたことを念頭に、よく考えて……。ちゃんと自分で答えを決めなさい」

 

 少々早熟かもしれないが、ダンジョン内外問わない度重なる1人での往診によってアクスは既に自分で考える力が付いている。それに、そろそろ彼もLV.3間近──否、先だっての戦争遊戯(ウォーゲーム)などで条件が整っているかもしれない。

 そうなれば、アクスは【ディアンケヒト・ファミリア】の最高戦力と言っても過言ではない。そのネームバリューも【戦場の聖女】(デア・セイント)という隠れ蓑からはみ出してしまうほど大きなものとなってしまう。

 もしかすると、団長であるアミッド自身の与り知らないところで冒険者依頼(クエスト)の受諾に迫られるかもしれない。

 

 だから、これは1種の試練だ。自分の決断がどうなって、最終的にどんな結末になるのか。

 【ロキ・ファミリア】には悪いが、【ディアンケヒト・ファミリア】にも益が無ければ同盟足りえない。そんな思いから、アミッドはアクスをわざと突き放した。

 

──アクスはまだ12歳ですよ? 聖女が聞いて呆れますね

──うるさい。黙っていなさい、()()()()()()()()()()()

 

 嘲笑気味な表情を浮かべた自分が頭に過り、胸のあたりにとげが刺さったような鈍痛が響く。しかし、アミッドは唇を噛み締めながらそれに耐える。

 

 すると、思いのほか早くにアクスが答えを出す。

 

「やります。やらせてください」

 

「あぁ、君の"勇気"に感謝する。……本当に」

 

 アクスの選択に太陽を見るかのように目を細めたフィンは、続けて今回におけるアクスたちの方針を伝える。これはロキ曰く、フレイヤも『オッタルは【勇者】(ブレイバー)よりも作戦立案が出来るわけじゃないからお任せするわ』ということで一任されているらしい。

 本当に大丈夫なのか【フレイヤ・ファミリア】……と思わないで欲しい。適材適所というやつだ。

 

「今回はアクスと【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)を"臨時治療院"にしようと思う」

 

 治療師(ヒーラー)という同行して冒険者を癒す存在ではなく、あくまでも簡易拠点の治療設備として配置する。これならばアジト内を移動することはしないため、無駄に危険な目に合うことはない。

 

 それに今回の作戦にはロキも同行することになっている。そのため、後方火力のリヴェリアを中心とした部隊が入口を固めながら周囲を探索するという方向で決めているが、最悪に最悪を想定した『LV.6以上の化け物などが多数襲い掛かって来る』といった非常事態に陥ると不安が残る。

 そこで、【フレイヤ・ファミリア】には魔法を2発撃たなければ帰れないヘイズにオッタルという超ド級の護衛だ。いくら策を張り巡らせようとも力押しで解決する都市最強が居れば、少なくともアクスの周囲は磐石な物になるだろう。

 

 しかし、そうなると簡易拠点を作る場所が重要となって来る。アジトに1歩でも踏み入ってしまえば既に相手のフィールドなため、身の安全や襲撃などを考えると扉から離れた方が良い。

 かと言って離れすぎるのも悪手だ。怪我人や瀕死の仲間を連れて撤退する状況になれば、数分の移動も命取りになる。

 

 それにタイミングも大事だ。

 この作戦は長丁場になる。オラリオ側からの襲撃も絶対にないとは言えないため、アクスたちには悪いがゆったりとした拠点作成は出来ないだろう。

 

「扉ギリギリ。ロキも現場に居る分、そこが僕たちの最善だ。ここまでで質問はあるかな?」

 

冒険者依頼(クエスト)にはヘイズ様やオッタル様と共に待機し、神ロキの判断とありますが?」

 

「あぁ、ロキの判断でこれを打ってもらう」

 

 フィンが机の引き出しから信号弾を見せて来る。赤い線が入っていることから赤い光が灯るのだろうが、闇派閥(イヴィルス)にバレるのではないかと危惧したアクスにフィンは笑う。

 

「ロキの判断と言っただろう? その時には既に闇派閥(イヴィルス)にはバレているさ。それに、待機しているのはアクスたちだけじゃない。アジトに踏み込まない【ロキ・ファミリア】(うち)の2軍も周囲で待機させてる。この信号が打ちあがったら集合してくる手はずだよ」

 

「けど、赤は目立ちますね」

 

「まぁ、そうだね。……けど、()()()()()()()赤にしたかったんだ」

 

 そう言いながらフィンは後ろにあるレリーフを見やる。5人の武装した騎士の中心で髪を靡かせながら槍を持って立っている女性。

 女神フィアナ。神々が下界に降りた時、彼女の姿が無かったことから今まで勢いのあったフィアナ信仰が一気に廃れてしまい、そこからゆっくりとパルゥムの衰退がはじまった言ったとアクスは死んだ両親から聞いている。

 

「フィアナ信仰が何か?」

 

「あぁ、君は"歌い手のウィーシェ"の詩や"ルアーヌス"の書物とかは読んでないのか。フィアナは騎士団を率いていた騎士団長の名前だよ。今度、時間があれば授業をしてあげよう」

 

 懐から小さな本を取り出したフィンは、ページをめくりながら続けて語る。彼女──否、()()()()は『中央大陸の守護者』とも謳われた騎士の集団であり、パルゥムの誇りだと。

 

「騎士団ですか?」

 

「あぁ、特定の住居を持たずに東奔西走と馬を走らせ、様々な村や砦を救った勇敢な騎士たちと様々な文献に書かれている。与太と言う人間が多いけどね。そんな騎士団には誓約(ゲッシュ)という約束事があったんだ」

 

 曰く、かの騎士団には『赤い煙を目にした時、必ず駆け付けなければならない』という誓約(ゲッシュ)があった。

 フィオナを信奉するフィンらしい願掛けなのだろうが、そんな存在をアクスに照らし合わせても良いのかと問うと、彼は『パルゥム限定の人気は僕と同等の君がよく言うよ』と笑う。

 

「せやなぁ、ヘルメスん所の"パルゥムランキング"っちゅーけったいなランキングでも、フィンとトップ争いしとるもんな」

 

「ロキ、それはひとまず置いとこう。他に質問はないかい?」

 

「地形を把握しておきたいのですが」

 

「地下とはいえ、ダイダロス通りだからね。先行は許可できない。把握しておきたいことがあるなら、遠慮なくうちに頼ってほしい」

 

 フィンの懇願にアクスは自身が考えた必要事項について話し出す。

 これまでアクスが往診で経験した中では、負傷者を立ったまま治療するのは稀だ。大抵の負傷者は寝かされた状態で治療が行われる。

 そのため、まずは患者を安全に寝かせられる状況が最優先となってくる。先ほどフィンが言っていたように悠長な拠点化が出来ないのであれば、余計に広い場所の目星は付けておいた方が良いだろう。

 贅沢を言えば場所が地下水路なため、破傷風などの原因となる不衛生さも取り除きたい。ただ、そんな悠長なことは難しいだろうというのがアクスでも容易に想像できる。ここはドワーフの火酒をさらに蒸留した物や治癒魔法を信じるしかないと彼は補足する。

 

 他には他者への応援だ。アクスやヘイズだけでは手の施しようのない──死の1歩手前の状況ならば、即座にこれ以上は悪くならないよう遅滞戦術に努めてアミッドを呼んで来なければならない。

 彼女には当日起きていてもらうとして、問題は現場から治療院までの所要時間となって来る。出来るならば当日、実際に報告へ向かう冒険者に走ってもらって検証してもらいたいところだ。

 

 アクスがそこまで話すと、対面で見ていたフィンが目を見開いていることに気づく。

 

「以上ですが、何か不備がありましたか?」

 

「いや……、よくそこまで考えれたものだなと」

 

 フィンは冒険者になる前は修行として知識や力を蓄えていた時期がある。その下地や様々な冒険によってここまでの領域にたどり着いたわけだが、アクスにはそういった物が無い。

 アミッドに時折補足してもらいながら色々言ってもらい、その光景に『若いなぁ』とほっこりしながら色々教えることを期待していたフィンだが、良い方向に当てが外れた。

 

「アミッド、これは君の教育かい?」

 

「半分は……。ですが、私は困ったことがあれば私に言うことを約束させたことだけです。大半はアクスの往診で培った経験かと」

 

「アミッドたん、そこらへんにしといてもろて良ぇか? フィンだけやなくて、うちも欲しくなってくる」

 

 アミッドの言葉をロキが制する。

 アクスは雨の後に出てくるタケノコのような──別の言い方をすれば『実っていく』と言っても過言ではない程に凄まじい成長して行っている。

 ただ、その成長内容は直近で最も勢いがある【リトル・ルーキー】とは似て非なるもの。彼はレベルという形で凄まじい成長をしているが、アクスは知識や技術といったアビリティに反映されない能力を着実に積み上げている。

 

 双方を安易に比べることはできないが、フィンからしてみれば後者の方が非常に厄介だ。

 いくら魔法でステイタスを下げられても、こういった積み重ねの内容は対象外。技や駆け引きが未熟だと先日のヒュアキントスのように格下に敗北することも大いにあり得る。

 

 それに、アクスは漠然と物事を体験とするのではなく、『経験』として自分の中に昇華できるタイプだ。

 ラウルと同じくじっくり育成していくことで、ここぞという場面で真価を発揮する大器晩成型。大抵はそのまま沈んでしまうが、未知を至高の楽しみと感じるロキたち神々にとってこういった存在が真価を発揮する瞬間が1番楽しかったりする。

 

 話が逸れたが、概要部分の説明が終わる。しかし、アミッドは最初から気になっていたことをようやく指摘した。

 

「お話はよく分かりました。ですが、この冒険者依頼(クエスト)の内容にある黄昏の館で生活は何でしょうか?」

 

闇派閥(イヴィルス)に悟られないためだよ」

 

 やや『お姉ちゃん』になったのか、少々過保護な質問をするアミッドにフィンは理由を話す。

 

 今回の敵は闇派閥(イヴィルス)の残党が大半だ。つまるところ()()()()なため、二つ名持ちの有名人でもない限りはオラリオに溶け込むことが出来る。既に【ロキ・ファミリア】が【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院へ頻繁に出入りしていることは他派閥の冒険者や一般人にも見られているため、察しの良い者は同盟関係まで推測することが出来るだろう。

 

 そんな状態でアクスを連れて行った数時間後にアミッドも連れて行く所を見られた場合、【ロキ・ファミリア】がピンチであることを吹聴することになる。ダイダロス通りという治安も見通しも最悪な場所から加味すると、回復手段を絶とうと暗殺──は流石に安直が過ぎるが、なりふり構わない状態ならば十分に考えられる話だ。

 

 その対抗策として、治療院から出ていく治療師(ヒーラー)の数はアミッド1人にしてもらう。これでも都市最高峰の治療師(ヒーラー)ということで狙われる危険性はあるが、少なくとも【ディアンケヒト・ファミリア】が【ロキ・ファミリア】の行う作戦を支援するために積極的に動いているという考えは浮かびにくい。

 

「アミッドを囮にするわけではないけど、相手に注意を向けられる可能性を極力落としたいんだ」

 

「事情は分かりました。それで、当日は如何なさるのですか?」

 

 作戦当日は当たり前だが、主神のロキを含めて【ロキ・ファミリア】のほとんどが出払っている。なのでアクスも一緒についていくのかと思いきや、フィンは首を左右に振って否定を示した。

 まさかノープランだとでもいうのだろうか。アミッドの胸中は一気に不安一色へと変じるが、その答えを言ったのはまさかのロキであった。

 

「安心しぃ。そこに書いてある通り、当日は【フレイヤ・ファミリア】が面倒見てくれるわ」

 

「よく受け入れてくださいましたね」

 

「アクスにはかーなーり世話になっとるって言うてたからなぁ。まぁ、うちもやけど」

 

 羊皮紙を指差しながらケラケラと笑うロキ。たしかにかのファミリアには色々便宜を図ったが、こんな形で返されるとは思っていなかったアミッドは『こちらの利になるような返し方をしてほしかった』と少々モニョった。

 しかし、フィンたちの情報からアクスを放置していると危険ということは分かった彼女は即座にアクスを【ロキ・ファミリア】に託すという決定をする。

 

「良いの?」

 

「以前に受けた長期冒険者依頼(クエスト)と考えることにします」

 

 冒険者依頼(クエスト)。つまりは仕事だ。良いも悪いもないという答えに、アクスはただ頷くしかなかった。

 

 結局、あまり詳しいことを話してくれなかったせいで若干消化不良に陥りながらもアミッドたちは一旦準備をするために治療院へと帰ってくる。手すきな団員たちにアクスの予定を伝えつつ、彼女たちは立ち止まることなくディアンケヒトの私室をノック。返事があるや否や、彼女は扉を開けて部屋へと入っていく。

 

「ディアンケヒト様」

 

「ロキとフレイヤ両名からの冒険者依頼(クエスト)のことであろう? そんなに慌てなくとも知っとるわ」

 

 フィンの言うとおり、本当に行き違いになったらしい。彼も最初こそロキ、フレイヤという一時には街中で抗争をおっ始めていたほどの仲がどういった風の吹き回しと思ったそうだが、冒険者依頼(クエスト)の内容も報酬も納得できるものであったために『アミッドとアクス次第』と告げたそうだ。

 

「そうか……、闇派閥(イヴィルス)の残党か。今度はどの神だ?」

 

「それは分かりませんが、フィン様の口ぶりからすると厳しい戦いになると予想されます」

 

 アクスが冒険者依頼(クエスト)を受けたことに加え、フィンたちからの情報を伝えたアミッドにディアンケヒトは渋い顔をする。

 娯楽に飢えた神々がそれを求めて地上へ来た。現にオラリオに住む神々はそう言ってはいるものの、神々によって『娯楽の感じ方』は違う。

 ロキのように家族(ファミリア)に愛着を持つ神。ディアンケヒトのように医療を嗜みながら金を稼ぐ神。ミアハやデメテルのように下界の子を純粋に想う神。その他諸々だが、下界の子供を故意に傷つけない分別は(おそらく)付いている。

 

 そういった善神のみなら良いが、完全に真逆を行く神も居る。

 ひたすらに混沌を望む神。下界の子が逃げ惑う姿を見たい神。『そうあれかし』と何故か悪を演じ始める神。下界に居る神は自分だけで良いと思う神。これも千差万別の理由だが、大抵はろくでもない思想や欲のために眷属で混乱を生み出す悪神。

 中には『必要悪』と言って当時伝説の存在だった2人の冒険者を連れてきた神も居るが……。それはもう数年前の話なので置いておく。

 

 ともかく、闇派閥(イヴィルス)はその性質上はダンジョンを根城にする場合もあるために裏で神がなにやらしていることは明白。そうなれば、アクスを危険から遠ざけるためにステイタスの更新をして送り出すのが最善だとディアンケヒトは準備を行った。

 

「ギリギリだが……ランクアップ出来るな」

 

「え、そんなに色々やった?」

 

 イコルを垂らして少しした後、ディアンケヒトは震える声でアクスのランクアップが可能であることを告げる。それを聞いて驚いたのは紛れもなく当の本人(アクス)だった。

 なにせ前のステイタス更新はアクスが眠っている間に行われたため、偉業が足りてステイタスもそろそろD判定になるという話は全く聞いていない。

 

 ただ、アクス以外はこのことは既に知っている。そのため、『戦争遊戯(あれ)かぁ』と決め手となったことを連想していた。

 

「ランクアップするか?」

 

「お姉ちゃん……」

 

「アクスが決めなさい」

 

 再びアミッドはアクスを突き放す。よくよく考えれば、LV.2の時は彼女がランクアップの許可を出す形でなった。たった1年だが、それでも庇護下にあった子供が物事や事情を考えて行動を決めるという『大人』になるには十分な時間だ。

 今のアクスはその()()()()。ならば、これぐらいの決定は自分でしなければこのオラリオでは生きてはいけないだろう。

 

 しかし、いきなり梯子を外されたアクスとしては困ってしまうのも仕方がないわけで……。

 

「ランクアップ……する……しない……」

 

「悩むならば保留で良かろう。今から【ロキ・ファミリア】に赴くのだ、そこで話を聞いてからでも遅くは無かろう」

 

 おかしい。この守銭奴(ディアンケヒト)様が至極全うなことを言って眷属を導いている。

 そうアミッドが思ったものの、大人の女性として言葉を飲み込みながら彼からアクスに手渡される最中であったステイタスの紙をお姉ちゃん権限で強奪する。

 

────────────────────

アクス・フローレンス

 レベル2

 力 I 53 → 58

 耐久 I 71 → 74

 器用 F 358 → 373

 俊敏 G 294 → F301

 魔力 E 497 → D517

────────────────────

 

「本当にギリギリですね」

 

「じゃからそう言うておろうが。儂個人としては、せめて【魔力】をCまで上げるべきと思うがな」

 

 ディアンケヒトの提案に、膝にアクスを乗せながらステイタスを見ていたアミッドは小さく頷く。

 ランクアップによる名声の上昇というのは計り知れないが、アクスは治療師(ヒーラー)だ。本人もそういった名声に固執するタイプでもなければ、逆にランクアップすることで厄介事が増える可能性も出てくる。

 ならば、治癒魔法を持っている治療師(ヒーラー)である以上は魔力が上がった方が何かと都合が良いという考えからランプアップは待った方が良いのではなかろうか。

 

 だが、既にアミッドはアクスに『自分で決めなさい』と言ったところだ。ここで提案や強制といった所業は嫌われるかもしれないと、彼女は唇を嚙んで必死に耐えた。

 

「フィンさんたちに聞いてから決めるー」

 

「それが良いだろうな。儂としても二つ名の命名式は面倒でかなわん」

 

 大方、それが理由なのだろう。アクスは最後にぶっちゃけたディアンケヒトを残念そうな目で見つつ、【ロキ・ファミリア】へ赴く準備をするために部屋を出た。

 あとに残されたアミッドとディアンケヒトだが、最初こそ何も言わなかったが時期に耐え切れなくなったのかアミッドが口を開く。

 

「あの子はまだ12歳。甘えても許される歳のはずです。本当に良かったのでしょうか」

 

「アミッドよ、それならばお主が止めれば良かったではないか」

 

「ですが、あの子ならやり遂げられると……」

 

「先ほどと言っていることが違うぞ。もしやお主、同じような年ごろで暗黒期を駆け抜けた経験からアクスも出来ると勘違いしておるのではないか?」

 

 アミッドの気持ちを見透かしたような指摘が彼女の心を抉る。

 『自分が出来た』という経験は1つの呪いだ。()()()()()()からであって()()()()()()とは限らない。ましてや強要するなど言語道断だ。

 アミッドもそれはよくよく分かっているつもりだ。しかし、それでも自分の背を追いかけて来るアクスの必死な顔に彼女は出来る限りのことをしてあげたいと思っていた。

 これはそのために必要なのだと。これは巣立つための予行演習なのだと。心を納得させるために何度も言い聞かせつつも、自らの『姉』の部分がそれを拒否する。

 

「アクスもそうだが、お主もまだ19だ。冒険者としては折り返しだが、治療師(ヒーラー)のお主はこの先も続くであろう。しばらく頭を冷やせ」

 

「すみません」

 

「なに、可愛い稼ぎがし……。ドル箱……。商売道具のためだ」

 

「台無しです。ディアンケヒト様」

 

 もしやわざとなのだろうかと疑うほどの言い様にアミッドは少々ご立腹でディアンケヒトの部屋を出ると、団員たちに回復薬(ポーション)万能薬(エリクサー)といった回復アイテムの準備をしてもらう。闇派閥(イヴィルス)がどんな手を使ってくるのか分からないので、ひとまずは回復できる物を多めに持って行ってもらってから手紙経由で第2陣を送る手はずが1番確実だろう。

後々のスケジュールを考えながら連泊準備をしているアクスの手伝いをするために部屋を開けると、彼は相変わらず奇天烈なTシャツを鞄に詰め込んでいる最中だった。

 

「アクス、そのシャツは止めなさい」

 

「えー、ヘグニさんもたまに着てるよ?」

 

「余所は余所です」

 

 『アンフィスバエナ』という文字とデフォルメされた2つ頭がある竜が書かれたTシャツをポイっと投げ捨てたアミッドは、最近レフィーヤたちと遊んで育ち始めた自らの感性に従って服などを詰めていく。

 若干、機能性というか……洗いやすさというか……。まぁ、機能面が優れ過ぎて見た目が二の次になっているのは目を瞑ってもらおう。

 

 最後に【ディアンケヒト・ファミリア】の制服と制帽を詰め、後は『勉強もしておきなさい』と調合についての本などを勝手に詰め込まれていると──。

 

「あ、忘れてた」

 

「期限は決められていないのでしょ? 今度、返しに行きなさい」

 

 ヘイズたちと合ってから黄昏の館へ行ったので、ハルヴァンを返しそびれたことにようやく気づくアクス。

 ただ、シルも『●日まで』と期日を決めていないため、割かし暇になる作戦当日にでも返しに行こうと大きなリュックの1番上にハルヴァンを丁寧に置いて蓋をする。

 

「団長、回復薬(ポーション)の準備……。うわぁ、これ持って行けます?」

 

「何とかなるでしょう。最悪、貸金庫で受け渡しましょう」

 

 思いのほか衣類が嵩張ってしまったことで回復薬(ポーション)に割く余裕がない。それどころか回復薬(ポーション)類だけでもかなりの荷物となっているため、受け渡しはどこかの貸金庫に入れて鍵を渡すという手段も視野に入れるアミッド。

 しかし、どうやらフィンとロキが気を回してくれたようで、ラウルとアキを筆頭に【ロキ・ファミリア】の2軍メンバーであるレミリアやクレアなどが『裏口』からやってきた。

 

「随分多いっすね」

 

「うわ、ポイズン・ウェルミスの特効薬もある」

 

「以前に受けた冒険者依頼(クエスト)の残りで作成いたしました。闇派閥(イヴィルス)の残党ということですから、念には念をというところです。ご武運を」

 

「何から何までありがとうございます」

 

 口々にお礼を言ってラウルたちは、『後で何往復かする』と伝えてからアクスを連れて裏口から離れていく。目立たないよう路地を進んでいき、時折アキやクレアに偵察を頼みながら進むというまるでダンジョンを進んでいるかのような念の入れようであったが、こんな大荷物を衆目に晒したら即座に『【ロキ・ファミリア】が何かをやろうとしている』ことが広まってしまう。

 

「レミリアさん。僕が遠征についていった時に出会った芋虫の腐植液みたいに、あまり聞いた覚えがない攻撃ってあります?」

 

「うーん、相手はモンスターじゃなくて人間だよね。だから……、やっぱり毒じゃない? ラウルさんはどう思います?」

 

「地味に嫌なのは呪詛(カース)っすね。魔法や付与された武器とか色々あるっすけど、食らってみるまで効果が分からないのが厄介っす」

 

 ガチガチの対人戦の経験など皆無に等しいアクスがレミリアにあり得そうな攻撃について聞くが、彼女も暗黒期以降に入団した団員なために詳しいことは知らなかった。ラウルに聞くと闇派閥(イヴィルス)と戦った経験から呪詛(カース)の話となるが、『呪詛(カース)などめったに飛んでくるものじゃない』と総スカンを食らってしまう。

 

 そんな面々は路地を何度も曲がり、大通りを全力で走り抜けた末にようやく黄昏の館へとたどり着く。時刻にしてもう夜中近くになるため、詳しい話は明日にでもしようとアクスをあらかじめ決めていた部屋に案内したが──。

 

 数分後に『落ち着かないから物置きで良いー!』というアクスの声や『そんなところに住まわせるわけないだろ!』というリヴェリアの怒号が聞こえたとか何とか。




ロキ・ファミリアの部屋って豪華そうだよね。だから物置きで寝るね!

なんか、ソードオラトリアコミカライズ版でも心なしかヘイズとアミッドがお互いを軽くライバル視してるので、前話のあれは間違いじゃなかったんや…と安堵しております。
ヘイズレベルで圧死寸前や全身串刺しを後遺症無しで完全治癒とかパネェ。アクスの回復能力どこまでにしようかマジで悩む。

臨時治療院
 ソード・オラトリア原作では脱出時にようやく高位治療師(ヒーラー)であるアミッドを呼びだすという流れだが、アクスというイレギュラーの登場でロキは最初からフルスロットルでフレイヤに救援を求めた。
 問題は呪詛(カース)だが、刺された部分の傷が治らないなら治らないなりにやり口はあるかなと。

ロキの対価
 対価としては明らかに安すぎるが、ロキの発した『眷属の思い』と『不変と思われた神の心変わり』にフレイヤが動く。
 ただ、あくまでも自身のファミリアの理に繋がるように少量の塩を送るだけ。抗争もしたことがある仲なため、どうせ来るであろうアクスとつながりのある最低限(?)な支援に留める。

フィアナ騎士団
 パルゥムがでっちあげた架空の存在とされている。
 特にアルゴノウトの外伝も掲載されている歌い手のウィーシェの断章は非公式扱いされている。(時を渡る道化師(ジェスター)より引用)

パルゥムランキング
 なお、『男性冒険者に《お姉ちゃん!》って言われたい』ランキングと『街角で評判のいい冒険者』ランキングはトップ独走中。
 ともに探索したい同業者ランキングは姉を抜いて4位。

ランクアップ
 多分まだまだ。

レミリアについて
 フレイヤ・ファミリアにも同じ名前の冒険者は居るが、全くの別人。(フレイヤ・ファミリアの方は金髪長髪)
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