ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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49話:タッチング

 翌朝──というにはかなり早い時間。黄昏の館にある物置きでアクスが目覚めた。

 豪奢な個室が落ち着かないという理由で紆余曲折の末に物置きを借り受けたわけだが、流石は【ロキ・ファミリア】と言うだけあってかなり快適な一夜を過ごせた。

 

 しかし、時間が時間なので未だアクスは寝ぼけ気味だった。それでも習慣というものはなかなか抜けないらしく、2度寝と言う選択肢を早々に捨てた彼は緩慢とした動きで支度を済ませた後にブリューナクを持って物置を出ていく。

 未だ寝ている団員も多そうな時間帯ゆえに廊下を慎重に歩きながら外に出ると、一頻り槍を振り回し始める。『回復だけで満足するな』と言ったベートや『治療師(ヒーラー)は最後まで立っていなければならない』と言ったヘイズの言葉の通り、治療師(ヒーラー)には相手を積極的に屠る戦闘能力は必要ないが自衛は必要だ。

 既に『日課』となったそれをひたすら行っていると、玄関から1人のヒューマンが姿を現す。

 

「あれ、アクス君。早いっすね」

 

「あ、ラウルさん。おはようございまーす」

 

 短い挨拶を交わすが、彼らはそのまま何も話すことなく己の訓練へと没頭し出す。朝早くにここに来た理由など1つしかなく、立ち話でその時間を失うのは双方にとってデメリットにしかならないからだ。

 それでも、剣や斧など多種多様な武器を事も無さげに扱うラウルの姿を間近で見たアクスはいつしか彼の見学に回っていた。

 

 【超凡夫】(ハイ・ノービス)と言う二つ名の通り、ラウルには突出した能力が無い。どこかの神が汎用な存在のことを揶揄するに用いる『特徴が無いのが特徴』という言葉がぴったりハマる男だ。

 しかし、彼は決して凡夫ではない。そんな人間がLV.4という上澄みになれるわけがない。おそらくこうした努力が幾度もラウルや仲間を助け、彼もまたこの力を信じて上り詰めて行ったのだろう。

 

 そんなひたむきな努力に心底感嘆しながらも、なにやら集中しきれていないようなぎこちない動きにアクスは首を傾げた。

 

「アクス君、そんなに見られると恥ずかしいんっすが」

 

「あっ、ごめんなさい。肩でも痛いんですか?」

 

 視線に気づいたラウルの言葉にアクスは疑問を口にすると、彼は驚きを露わにした。

 しかし、アクスはこれでも治療師(ヒーラー)の端くれ。軽度の不調は見抜けないが、ここまで大事そうな症状を見抜けないはずがない。

 数日後には闇派閥(イヴィルス)のアジトに乗り込むため、身体の不調は治しておかないと命取りになる。そう伝えると、ラウルは申し訳なさそうに『肩こり』と告げた。

 

「別に肩こりは恥じる必要はないと思いますが?」

 

「いやー、自己管理が出来てない証拠っすから……」

 

「良ければマッサージでもします?」

 

 以前もアイズやレフィーヤに説明したが、マッサージは治療院でも()()()()()はよくやっている施術だ。多少の肩こりであれば多少時間をかけて解してあげればかなり緩和される。

 それに、ラウルの抱える不調は()()()()ではないように思う。フィンほどの直感ではないものの、なぜかそう思ったアクスはラウルの部屋に移動した。

 

「お、アクス。おはよう」

 

「おはようございます」

 

 ラウルと同室のクルスに挨拶をしたアクスは、さっそく施術を開始する。うつ伏せになったラウルの背中を触っていき、特に痛みを感じるポイントをゆっくりを擦っていく。

 こういう時はとにかく強い力で揉むと思いがちだが、コツは最初は弱く擦っていって徐々に強くするイメージ。こうすることで常時緊張状態にある筋肉をある程度弛緩させることが出来る。

 

「ふわぁぁ……」

 

「うわ、良いな。アクス、次は俺な」

 

「承知いたしました。それよりもラウル様、……不安ですか? 宜しければ、何かお話でもしましょうか」

 

「アクス君、いきなり敬語と図星突くのは止めて欲しいっす」

 

 マッサージは一種の治療行為。ゆえにすっかり治療モードに入ったアクスの言葉にラウルは肩を強張らせながら言い辛そうにそっぽを向く。すると、それに気づいたクルスは『飯でも食ってくる』と言い残して去っていった。

 

「これで僕とラウル様だけです。大丈夫です、ラウル様はラウル様なので」

 

「……他の皆には言わないで欲しいっす」

 

 気を遣わせたことに申し訳なく思いつつも、ラウルは再度念押ししながら心に留めていた堤防を()()()()()

 

 彼──ラウル・ノールドの心に救う病魔の正体は、圧倒的な才能を見続けたゆえの『劣等感』だった。

 全速力で走っても尚、追いつけない英雄(フィン)たち。先達があの大抗争でやられ、いつの間にか最古参になった自分を軽々と走り抜けている後輩(アイズ)たち。

 そんな彼らを見て走るのをやめた者、走り過ぎて壊れてしまった者。そんな彼らの気持ちは痛いほどよく分かる彼であったが、そんな状態の仲間に何も出来ずにただ走り続けた己の器量の小ささをどこにも吐き出すことが出来なかったようだ。

 

 すっかり心に救う膿を出し切ったラウルは、晴れ晴れとしたような顔でアクスに話しかけた。

 

「笑っちゃうっすよね。これがLV.4っすよ」

 

「ですが、LV.4です。そこに至れる人間はそう多くありません。では、ラウル様はフィン様と別方向に頑張ってみるのは如何でしょう」

 

「別方向?」

 

 人格面や統率力をはじめ、何もかもがフィンとは比べ物にならないと自覚するラウルは考えるが答えは出ない。すると、アクスはマッサージの手を止めて『しぶとさです』と言い出した。

 

「"冒険者は冒険してはいけない"とギルドは言いますが、逆に言えば冒険しても戻ってきたら良いんです。英雄は何かと前に出すぎるので、死にやすいですからね」

 

「しぶとさかぁ……。なんだか情けないっすね」

 

「情けなくて結構。捨て身で得られることなんてそんなにありませんよ、それに捨て身だと得た物を後ろに繋げられない。絶対に前後を繋げる"なにか"が必要不可欠なんです」

 

「その何かになれと?」

 

 ラウルの質問にアクスは活を入れるかの如く肩の筋肉を強く押し込む。突如走る肩の痛みにラウルは声を上げるものの、いささかすっきりした顔になった。しきりに『しぶとさかぁ』と同じような言葉を呟くものの、その声は先ほどのような胡乱だものとはまるっきり違う。

 肩も含め、これでラウルの不調も多少はマシになっただろうとアクスが施術の終了を宣言する。すっかり元気になったラウルが『よーし、やるぞー』と気合を入れて扉を開けたのも束の間。扉の前に居た冒険者たちにいつものような情けない悲鳴を上げた。

 

「アクス君がマッサージしてくれると聞いて!」

 

「俺もやってくれー、ちょっと背中が痛いんだ」

 

「今日、寝違えたのー」

 

「アクスたんのマッサージ……ウヘヘヘ」

 

「アクス、今度こそ私も。……おい、お前たち!」

 

 自身の肩を揉む者。背中を強く打ったのか腰を叩く者。首を変な方向に向けながら呻く者。中には鼻血を垂らしながら挙動不審になる神や意気揚々と発言した瞬間にエルフたちに連れ去られるハイ・エルフ。

 もしかすると安穏と暮らせないのかもしれない。そう思ったアクスであった。

 

***

 

「いやー、本当に助かったよ。うちにはこういう技術を持つ人間は居なくてね」

 

「儂らは冒険者。当たり前じゃろうが」

 

「うちも全身軽ぅなったわ。今ならリヴェリアママにも……冗談やん」

 

「そうか、残念だ。……本当に」

 

 すっかり昼頃になった頃合い。執務室では上機嫌なフィン、ガレス、ロキ。それと不機嫌気味なリヴェリアが座っていた。

 あの後アクスはひたすらマッサージを続け、その中で毛色の異なる侵攻作戦や最近の事情に対して不安になっている団員たちを言葉で和らげたりと手を尽くしたりと様々なことをしていた。初めにラウルにマッサージを持ちかけたのはアクスだが、流石に数十人という膨大な人数をなし崩し的にやられると疲弊もする。

 

「もしかして、僕が何かしら仕事をするのではと期待していました?」

 

「うん、期待してたよ。アミッドと同じで君も人を癒すことに関してはじっとしていられないと思ってね。……まさか朝っぱらからやってくれるとは思わなかったけど」

 

 まぁ、当然だろう。いつの間にか施術先として空き部屋が割り当てられ、身体に塗りたくる用の花の香りがする香油が置かれるといったことをしでかしてくれたのだ。これで『知らなかった』と言われたら、アクスは即座に帰る自信があった。

 

「それより、アクスも流石やなぁ。女の子相手でも平然としとるなんて、うちやったら我慢出来んかったわ」

 

「ロキ様は【ディアンケヒト・ファミリア】を潰したいので?」

 

「ちょっ、なんでそんな話になるんや!」

 

 【ロキ・ファミリア】は女性比率が多いため、平然と施術を行っていたアクスにロキは感心するが、いきなりアクスが言葉のストレートを彼女に投げてきた。しかし、残念なことにアクスの言っていることは【ディアンケヒト・ファミリア】の中では極々当たり前の教育であった。

 【ディアンケヒト・ファミリア】は大手だが、大手ゆえに評判をかなり気にする。たった1人の治療師(ヒーラー)が施術中にいかがわしいことをした場合、その噂は飛ぶ鳥どころか飛んでいるドラゴンをも撃ち落とすほど強力なものとなってしまう。禁欲的にとは決して言わないが、仕事中はそこら辺を切り離してほしいというのがアミッドがよく言っていることである。

 

 そのため、()()()の行動にはなにも制限は設けられていない。いくら『いつか着させる用』として女物と子供用の服をバリバリ作っていようとも、数人で集会を開いて『ベスト姉弟』を決めて悦に浸ろうと、()()()は何も言えないのだ。

 

「それに辛くて治療師(ヒーラー)を頼って来てるのに、そういう目でみたりとか施術をしたりは駄目だと思います」

 

「ロキ、言われとるぞ」

 

「ロキ、子供に言われて恥ずかしくないのかい?」

 

「うっさいわ!」

 

 フィンとガレスからあんまりな言い方をされるロキ。ただ、治療院と言う『店』の視点から言えばロキが全面的に悪いため、ぐぅの音も出なくなったロキがせめてもの抵抗とキレていると、突如としてリヴェリアも憤慨した。

 

「ロキのことは良い! なぜ私にはマッサージを施術してくれないのだ! 私だって、最近肩が痛かったりするのだぞ!?」

 

「アリシアさんに聞いてください」

 

「レフィーヤにもな」

 

「他のエルフにも聞いて欲しいかな」

 

「自明の理じゃろ」

 

 リヴェリアの言葉に全員が似たようなことを口走る。

 残念ながら当然だ。いくら女性であろうとも分け隔てなく癒すアクスでも、ハイ・エルフは例外である。

 万が一、肌に触れてみたとしよう。この冒険者依頼(クエスト)が終わるまでに【ロキ・ファミリア】をはじめとしたエルフの集団の手によって英雄橋まで運ばれ、そのまま下の川に『ワッショイ』と放り捨てられる自信がある。

 そして、ロキが教え込んだように『ウヘヘ、ここら辺のリンパがですねぇ』と言ったとしよう。『焼殺っ! 焼殺っ!』と詰め寄られること必至だろう。

 呪うのであれば自身の尊さを呪って欲しい。

 

 しかし、いつまでたっても納得しないリヴェリアに、フィンは近くで待機していた団員にアリシアやレフィーヤ。後はシフォンといったエルフたちを連れてくるように指示を出す。

 その後はもう……()()だった。いくらレベルが上がろうと肉体の疲労が蓄積されているためにガタが来ているかもしれないと言った彼女の言葉に、レフィーヤが『ハイ・エルフの方々はそんなものとは無関係です』と根拠のない説得をし……。

 シフォンたちエルフもほとんどアクスの施術の世話になっていることをがなり立てると、アリシアは『我々はハイ・エルフの方々とは違ってエルフなので』や、『肩が軽くなりました』と蕩けた表情を浮かべながら説得してきたことにリヴェリアがキレ……。

 

 もはや、癇癪を起こしたババ……失礼。年齢相応な怒り方をする彼女やそれを宥めているのか挑発しているのか分からない止め方をしているエルフたちを見ながら、アクスはフィンに勧められたフィアナ騎士団についての本を見ながら話をしていた。

 

「僕としても団員の悩みについて聞いておきたいんだけどね。どうしてもだめかい?」

 

「駄目ですね。業務外でも患者の方なので、具体的に誰が何と言ったかはお答えしかねます」

 

「かったいなぁ、アクスたんは」

 

「"最近お酒の量が" 「ちょいちょいちょい、分かった! うちが悪かった!」」

 

 ロキがポロッと零した愚痴を零したことで無理矢理黙らせたアクスは、頭の中でどう助言しようかと考える。

 人の悩みをペラペラ喋る舌はアクスには持ち合わせていないが、どういった悩みを感じているのか統括する頭とそれとなく伝える舌は持っている。

 

「では、折衷案で特に多かった内容だけお伝えしますが、よろしいでしょうか? 個人の名前は伏せさせていただきますが、ご容赦ください」

 

「あぁ、それで良い。頼むよ」

 

 誰が何を言ったのかは不和の素になるのはフィンもよく分かっているため、アクスの提案は非常にありがたいと彼はアクスに続きを促す。

 施術中にアクスが聞いたことは色恋や身体的特徴の悩みといった個人特有の悩みもあったが、大抵は先ほどの通り『数日後に行われる作戦への不安』。それと、『とある冒険者』についての悩みであった。

 

「やはり、数日後について不安を覚えている方が多いですね」

 

「そうか……」

 

 大抗争からもう数年。あの頃を知る者は【ロキ・ファミリア】の中では少ない。

 もし、今のメンバーの中に当時を知る先達……ノアールたちが居てくれたらと歯噛みするが、それは彼らの決死の行動を汚すことになると気づいたフィンは深く息をついた。

 

「仕方ないか。……他には?」

 

「ベル・クラネルのことについて少々……」

 

「ベル・クラネルゥ!?」

 

 フィンたちと団員たちの認識の際についてはどういっても埋められるものではない。他には目立った悩みはなかったかと問うた彼にアクスが次なる話題を振ると、先ほどまでリヴェリアを説得していたレフィーヤがアクスの方を向いて瞬間移動をしてきた。

 

「あンのLV.3になったばかりで調子に乗ってる白兎がなんかやりましたかぁ!?」

 

「レフィーヤ、ちょい落ち着き。そんで、どチビの子がどうしたんや?」

 

「フィンさんたちと同じように彼を見ている団員が居ます。今はシャロンさんが……あっ、名前は聞かなかったことにしてください。とある方が抑えてはいますが、フィン様たちと2軍の方の認識はかなり違うかと」

 

 冒険者は少なからず野望を持っている。その野望の1番の近道はランクアップなのだが、人間は何かと比較する生き物だ。

 ベル・クラネルがLV.3になるのにかかった日数は1か月。弛まぬ努力()()では到達できるほど、神々の意思は決して安くはない。

 そんな滅茶苦茶なランクアップに裏付けされた戦い方──LV.2とLV.1の3人で18階層到達と言う1つの偉業のようなことを仕出かしたのを見ていた彼らの足が竦むのは無理もないことだった。

 

「そう……ですかね? アクス君の考え過ぎでは?」

 

「レフィーヤ様も同じことが言えるのでは?」

 

「うえぇっ!? いやいやいや、私なんてアイズさんやリヴェリア様の足下に及ばないから!」

 

「レフィーヤ様? アイズ様は前衛剣士。リヴェリア様は魔導士ですが、"オラリオ最強"の枕詞がつきますが?」

 

 アクスの反論にレフィーヤが両手を左右に振りながら否定するが、おそらくこの場に彼女のルームメイトであるエルフィや他の魔導士が居れば『どの口が』と言うだろう。現に未だマッサージについてとやかく物申しているリヴェリアを宥めつつ、同じエルフで魔導士のシフォンがレフィーヤを化け物を見たような目で見た後にアクスを『よく言ってくれた』とばかりに見ていた。

 

「まぁまぁ、今はそれは置いておこう。ただ、これと言って僕たちから何かできそうにないね。せっかく伝えてくれたのにすまない」

 

「いえ、ラウル様をはじめ、皆様には"何があっても生きて帰ってくること"と念を押しておきましたので」

 

「死ななきゃ安い……か。ほんまにそうやなぁ」

 

 ロキが万感の思いで心境を吐露し、フィンはそれに頷く。

 レフィーヤが入団して以降、【ロキ・ファミリア】では奇跡的に死者は出ていない。アクスの往診のおかげでもあるが、若手が着々と力を付けている現状に三首領はとても満足していた。

 だからこそ、()()()()()に若手の命を無駄に散らしたくはない。悪人を倒す【勇者】(ブレイバー)としての自分と家族(ファミリア)を大切にする自分という2つの気持ちを反復横跳びしているフィンを他所に、ガレスは昨日にアクスから聞いていたことを思い出していた。

 

「そういえばアクス。お主、LV.3になったと言っておったな。ありゃ本当か?」

 

「あー、そんな話しとったなぁ。今は止めとるんやっけ?」

 

「え、アクス君LV.3になったんですか!?」

 

 まだなっていないのだが、すっかりなった気でいるレフィーヤがまるで自分のことのように喜んでいる。LV.3というとベルと同じなのだが、どう見ても彼の反応とは全く違う様子にアクスは若干不思議に思う。

 

「まだ決めてる最中です。それよりレフィーヤ様、ベル様と反応が違うような……」

 

「そりゃぁ、1か月と1年ですよ? 1年でも早いですけど、街中やダンジョンでお医者様をしているのは見ていますし」

 

「そうやな。どチビんところはともかく、アクスはランクアップにふさわしいことをしとることは誰の目に見えても明らかや。もし、どチビの子に遠慮しとるんやったらすぐにランクアップした方が良ぇで」

 

 ロキの後押しに、いつの間にかマッサージ云々から解放されたリヴェリアたちが何度も頷く。

 かの【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)強靭な勇士(エインヘリヤル)という下地を経て転属したことを考えると、高レベルの純正治療師(ヒーラー)の希少性は推して知るべしだ。それも往診などでそこらのファミリアを渡り歩いている【小神父】(リトル・プリースト)となると、ランクアップにやっかみなど自殺行為も甚だしいために来るはずないと考えるのが自然だ。

 

 ゆえに発展アビリティや新たな魔法などの可能性を考えるとさっさとランクアップした方が良いのではないだろうか。そうロキは言うが、アクスは首を左右に振った。

 

「現状、僕のアビリティは【魔力】がランクアップ出来るギリギリです。なので、もう少しアビリティを育てた方が良いのではないかとディアンケヒト様が仰ってまして。宜しければ、判断材料と言うことでお話を聞けないかなと」

 

「なるほどなぁ、ディアンケヒトも同じような考え持っとったっちゅーことか」

 

「同じような?」

 

 訳が分からないとアクスが聞き返すと、訳あり顔でロキがレフィーヤの方を見る。その視線に気づいた彼女がこくりと頷くと、ロキが言わんとしていた事情を話し出した。

 

 どうやらレフィーヤの方も先の遠征でランクアップの条件が整ったらしい。ただ、LV.2からLV.3にランクアップした際の【魔力】アビリティには程遠いため、今はランクアップを保留にして地力を上げてから改めて上げるのだとか。

 

 話を聞く限りではアクスと似たような境遇。しかも、役割的には同じ後衛。正直、ランプアップしようかしなかろうが個人ではよく分からず、アミッドたちの言うことをはいはいと聞いていたアクスにとって彼女は1つの指標であった。

 

「じゃあ、レフィーヤさんがランクアップしたらしようかな」

 

「ふふっ、じゃあ一緒にしちゃう?」

 

「レフィーヤ、ここは学区じゃないんだぞ」

 

 何やら徒競走で『一緒にゴールしようね』と約束するような展開が執り行われ、その光景にロキが『レフィーヤに新たな属性が生えてきたでー』と狂喜乱舞する最中、ようやくエルフたちを(力ずくで)宥めたリヴェリアが割って入ってきた。

 

 冒険者とは自己決定と自己責任が大半の稼業だ。仮にレフィーヤがランクアップしなかったせいでアクスが死んだ場合や、その逆があった場合は失った側も失わせた側も悲惨の一途を辿る。

 そのため、ちゃんと自分で考えた上でランクアップをして欲しいとリヴェリアは語るが、そうは言っても12歳の子供がそんな大事なことを決められるわけがない。

 

 すると、何故か頭に大きなたん瘤をこさえたアリシアが、それを擦りながら片手を上げた。

 

「リヴェリア様、アクス君に助言は許されますか?」

 

「そもそも、アクスは助言を望んできている。是非はともかく、私も聞かせてもらおう」

 

「では僭越ながら……。レフィーヤのバカ魔力ならまだしも、アクス君の治癒魔法は【魔力】アビリティを上げるメリットがあまりないと思います」

 

 『バカ魔力』と言われたことにレフィーヤが叫ぶと、今度はシフォンが手を上げてアリシアの言葉に被せるように話し出す。

 

「アリシアさんの言うとおりです。魔力バカのレフィーヤなら火力が上がるというメリットはありますが、アクス君の現状の治癒魔法は魔力を上げなくても十分通用すると思います」

 

「シフォンまで!?」

 

 ショックを受けるレフィーヤだが、彼女も彼女でシフォンに『魔法の制御がうまくて尊敬します』と本気で尊敬の念を抱いてくるという心を抉る所業をしている。

 無論だが、シフォンの操る魔力はレフィーヤに比べるとジョッキと樽のため、魔法における魔力操作の難易度はレフィーヤの方が高難易度である。これぐらいの意趣返しは許されるはずだ。

 

「お前たち、その辺りにしておけ。アクスの治癒魔法については私も同じ考えだ。一魔導士として言わせてもらうと、【魔力】を成長させる目的でそのままにするのは無駄になりかねん。私はすぐにランクアップするべきだと思う」

 

「僕は逆に反対かな。パルゥムは特に【器用】と【俊敏】が伸びやすい傾向だからね。低いままランクアップさせるのはもったいないと思う」

 

「儂もそう思う。アクスは【ディアンケヒト・ファミリア】。儂たちとは違って戦力の拡充はあまり必要なかろう」

 

 治癒魔法や自動治癒魔法(オート・ヒール)といった魔法関係が充実しているということでエルフたちは『早急にランクアップ派』に回り、それ以外は医療系ファミリアと言うこともあって逆に腰を据えてじっくり成長させた方が後々響いてくると『ランクアップは先延ばし派』に回ってしまう。

 

 結局、どちらが良いのか材料を聞いたが余計に混乱する結果となってしまい、もはや悩むのも馬鹿らしくなったアクスはひとまず何かきっかけが見つかるまで……。見つからなければレフィーヤがランクアップするまで保留することに決めた。

 

「あれ、それって私がすっごく頑張らないといけないんじゃ……」

 

「なんだ、今更気づいたのか? とりあえず、今から座学と魔法の練習でもするか。準備しろ」

 

 今更ながらとんでもない口約束をしてしまったような気がしたレフィーヤだが、もう遅い。未だにマッサージ云々を根に持っているのか不敵な笑みを浮かべるリヴェリアの姿に、彼女は数日後から始まる初めての闇派閥(イヴィルス)との戦いよりも明日から待ち受けているであろう()()()()に恐怖していた。

 

 そんな具合に約1名の地獄行きが確定する最中、この機を逃さずにフィンがぶっ込んできた。

 

「どうかな、アクス。ここにいる間は暇だろうから、僕やリヴェリアから色々学んでみないかい? もちろんだけど、これは報酬じゃない。むしろ、やらせてほしいかな」

 

「さらっと自分も混ぜおったぞ、このパルゥム」

 

「まぁ、フィンからしたら仕方ないか。色々言いたいことはあるんやけど、うちは邪魔せぇへんことにするわ」

 

 後ろで腕を組みながらソファにもたれかかるロキ。いかにも面倒くさそうに投げ槍気味な反応をする彼女の反応にアクスは戸惑った、フィンの言う通りここにいる間は何かしなければならないということはない。脳内在住のイマジナリーディアンケヒトも『受けとけ、受けとけ! 受講費が浮くぞ! ガッハッハ』と囁くどころか馬鹿笑いをしているため、アクスはフィンの提案に乗った。

 

「では、遠慮なく」

 

「あぁ、もしかしたら"最後"になるかもしれないけど……。楽しい数日になりそうだ」

 

「最後? それってどういう 「アクス、今からレフィーヤのついでに魔法について講義してやる!」」

 

 最後とはいったいどういうことだろうか。それを聞く前にレフィーヤとリヴェリアの手でアクスは部屋から拉致される。

 探索系ファミリアの最高峰というものは、ここまで押しが強くなければいけないのだろうか。そんな頓珍漢なことを想いながらも、先ほどフィンが言っていたことに対してアクスは首を傾げる。

 

 そんな彼の『最後かもしれない』と言った言葉の真意を知るのは──作戦開始前夜だった。




数日前、寝ぼけながら書いたっぽいネタ帳にジーク!アクス!って変なネタが書かれてた。なにこれ。今更ガン●ムハンマー使ったり、斧キャラになれと?

タッチング
 医療行為とは別に患者の手を握ったり背中を優しくさすったりする行為を看護用語のこと。患者へ安心と安楽を与えるための非言語的コミュニケーションでもある

マッサージ
 はーい、リンパがねー。ここにねー。溜まってねー。
 なお、↑をやるとディアンケヒト含めたアミッドたちにガチ説教される模様。(1敗)
 ※首謀者も巻き添え

ハイ・エルフさん、流石に諦めようよ
 プロのマッサージとか金摘んで頼むレベルの物だぞ!耐えられるのか!
 なお、エルフたちはちゃっかり堪能していたので始末におけない模様

レフィーヤ
 アルゴノウ…ゲフン。ベルにことになると暴れる狂犬。
 LV.2から3。LV.3から4両方の【魔力】最終値がSとかもうバカ魔力と言われても仕方ないんよ。

史上最強の弟子 アクス
 別段戦闘能力は上がりません。魔法に対する理解がちょっと深くなって、計画性とかそこらへんが上手くなるだけです。
 ヘイズ師匠と制空圏の取り合いみたいなことをさせたい今日この頃
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