ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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今年のゴールデンウィークが仕事になったので、50話記念は出来ません。
…ちゅらい。


50話:頼み

 アクスが【ロキ・ファミリア】に来て数日。アクスは毎日違う講師から色々学んで過ごしていた。

 

 まずはリヴェリアの授業。これは彼女から膨大な魔法知識を流し込まれ、知恵熱を出しながら隣で同じく知恵熱で年頃の淑女がしてはいけない表情を浮かべているレフィーヤ共々頑張った。

 しかし、12歳の子供に聞かせるにはリヴェリアの授業はレベルが高かった。そのため、アクスは質問という形で聞いていたのだが、逆にそれがいけなかったらしい。

 今までの生徒が、レフィーヤを除けば『ハイ・エルフという尊くて偉いお方のお話を邪魔するなんて恐れ多い』と思って何も言わないエルフか、エルフに比べて魔法の理解が劣る感覚派な団員たち。唯一の例外として問題児な『勉強嫌いなダンジョン狂い(アイズ・ヴァレンシュタイン)』しか見てこなかったためか、アクスがLV.2になった頃以来の疑問点について矢継ぎ早に質問をしてくる感覚に()()()()()()()

 いささか()()()が増したことで話が脱線し、それに比例して専門用語も多くなったのは言うまでもない。

 

 次にガレスだが、彼は彼でなんというか……組み手のみと肉体的に酷使してきた。【耐久】や【力】が軒並み高いドワーフやハーフドワーフ相手にパルゥムでもやれそうな戦い方と言った具合に限定的過ぎて判断に困る戦い方をみっちりとしつつも、『最近、どうだ?』と距離感を測り間違えた親戚に聞くようなことを聞いて来たりしていた。

 他にはブリューナクの研ぎ方を教えてもらう傍らで昔話といった具合に、どちらかと言うと教育というよりも親戚のおじさんの家に遊びに行ったかのようなの可愛がりをされたため、頭を酷使する類の地獄(リヴェリア)の後ということもあってアクスはそのギャップにひたすら首を傾げていた。

 

 最後にフィンだが、彼はリヴェリアやガレスとは違って自らが教師となって何かを教えることは少なかった。

 主にラウルが先生役となり、アクスが持ってきた戦盤(ハルヴァン)でモンスターや味方の配置などをイメージ。『この場合はどうするか』といった兵というより将の動きを重点的に学んだ。

 しかし、ラウルもそういった知識が少々足りないようだ。不足気味の説明も多々見られるため、そこはフィンが()()を生徒に講義を始める。

 正直なところ、治療師(ヒーラー)がそういった司令塔的な役割になるとは思えないのだが、フィン曰く『モンスターを相手に1000の知識は無力。知識を知恵に変えることでようやく使い物になる』らしい。言っている意味は半分ほども理解できなかったが、ラウルの『持てるものは何でも持つべきっす』という言葉に納得しながらアクスは勉強に励んだ。

 

 そして、そんな『史上最強の弟子でも育てとるんか?』とロキが疑問に思うほどの構われっぷりとは別に、アクスはアクスで()()()()にも手を付けていた。

 

 まずはフィンの言う臨時治療院を作るのに適切な場所があるかの選定である。

 あの後、フィンの指示で隠密行動やマッピングに長けた冒険者たちでパーティを編成。地下水路のマッピングや1番の候補地である扉前の地形を綿密に調べ上げ、フィンとアクスに伝えてきたのだ。

 結果として扉前は長身なヒューマンを寝かせるとギリギリの幅だが、奥行きは突入部隊の半分である20名弱を並べてもまだ足りるほど長いことが分かった。【ディアンケヒト・ファミリア】への距離も当日伝令を行う冒険者の足で計測すると、入り組んだ水路やダイダロス通りを通ることもあってか時間がかなりかかる。アミッドの護衛をしながら連れてくることを考えると、もう少しルートの精査や緊急時にベートの起用も視野に入れなければならないかもしれない。

 ただ、得られた情報で構築できる対処はこのぐらいだ。心配に越したことはないが、対処を増やしても身動きが取れなくなっては本末転倒なので、よほどの異常事態以外ならば先ほど決めた対処法で行くことをフィンが決めて()()()()()()の目途はついた。

 

 次は端的に言えば治療である。

 【ロキ・ファミリア】には【フレイヤ・ファミリア】と同じように高レベルの冒険者がかなり居る。つまるところ、常軌を逸した訓練による怪我や先だっての身体の不調に対しての回復業務やマッサージといった施術。それがアクスの空き時間に容赦なく襲い掛かったのだ。

 ちなみにだが、三顧の礼どころか10回は頼み込んだ末に妖精部隊(フェアリー・フォース)監修でリヴェリアはようやく施術を受けるとことが出来、その心地よさに大変満足した彼女は『お前たちばかりずるいぞ』と文句を言いつつもアクスにヴァリス金貨を大量に積み上げたことは内緒である。

 

***

 

 そして、いよいよ作戦開始前日となる。オラリオ内の別派閥や闇派閥(イヴィルス)に悟られないため、外ではさも『遠征後で疲れてるし、軽くダンジョンで金策するか』と言った具合にダルそうな姿を見せていた団員たちだが、黄昏の館内では敵のアジト内で万全に動けるよう武器や防具の補修や【ディアンケヒト・ファミリア】から送られた回復薬(ポーション)をそれぞれが受領してバックパックやポーチに詰めるといった具合に忙しく動いていた。

 全員が収容可能な食堂でそんな準備が行われていると、先ほどまでお使いに行っていたリーネを筆頭とした治療師(ヒーラー)の集団が食堂に駆け込んでくる。

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】へ報告に行ってきました。それで……、またアミッドさんから支援物資をもらってきました」

 

「またか! うん? 試作品ってなんだ?」

 

 アクスが来た時を除くと、これで()()()。追加物資を送られてくるとは思わなかった団員たちは、内容を確認しようとリーネたちが運んでいた箱に群がっていく。

 おそらく黄昏の館に送った最中のやり取りからアクスが危険だと考え、そのことを手紙にでも書いたのだろう。ポイズン・ウェルミスほどではないが各状態異常を回復させる薬に、ステイタスを強制的に下げる異常魔法(アンチ・ステイタス)を解除する薬と搦め手に対応した回復薬(ポーション)の数々と相変わらずの連携を見せるアミッドに団員たちは苦笑する。

 

「あれ、これなんだろ。ラウルさーん」

 

「自分に聞いても分かるわけないじゃないっすか。えーっと……、魔道具(マジックアイテム)っぽいっすね」

 

「誰か、【ディアンケヒト・ファミリア】で似たような物を買った人はいる?」

 

 しかし、残る1箱に収められた木の杖は何なのかよくわからなかった。ラウルが答えあぐねているところを見かねたアキが周囲に聞くが、誰もこのような魔道具(マジックアイテム)は見たことはないと首を振る。

 すると、箱の底に置かれたメモに気づいたアリシアがそれを取り出し、結構長めに書かれている内容を読みだした。

 

「えーっと、"アクスから報告を聞き、以前に作ったままだった解呪の魔道具(マジックアイテム)を送ります。団員の方に協力していただきましたが、弱い呪詛(カース)であれば効果があります"と書かれてますね」

 

「あぁ、呪詛(カース)ってあのラウルさんのやつか」

 

「えっ、いや……確かに言ったっすけど。別に欲しいなんて言ってないっすよ!?」

 

「アクス君の判断でしょ。それにしても、頼まれてすぐに対応するなんて……」

 

 手の速さや在庫の豊富さもさることながらアクスの言いたいことをすぐに出力できる彼女の『姉力』に団員たちは驚愕しつつも、ラウルの指示で誰が持つかで話し合いを始める。

 

 そんなこんなで準備を進めていた団員たち。しかし、その中に三首領は居なかった。

 既に作戦からアクシデントが起こった際のサブプラン。後は後詰の配置や周囲警戒と多種多様な事態への対処法を考えて暇になっていたフィンたちは、残っている時間を休養とアクスへの()()()に使うことに決めていたのだ。

 

「いやぁ、本当にここまでご苦労様。君のおかげで幾分かマシに準備が出来たよ」

 

「そう思うなら冒険者依頼(クエスト)の割り増し請求して良いですか?」

 

「あぁ、構わんで。むしろ、()()()はアクスに一任しとるからな。()()()()()になったらうちは何でも支払う覚悟はあるわ」

 

 ロキの言葉にアクスは反応する。都市最大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】の『何でも』など、冒険者にとってどんなお宝よりも価値が高い物品に等しい。

 ただ、同時に主神ともあろう存在がそんな軽はずみな言動はどうかと思ったアクスが苦言を呈すると、ロキは優し気に微笑みかけ──すぐに般若へと表情を変えた。

 

「ほんまにアクスは優しいなぁ。……やけど、うちは本気や。文字通り"なんでも"やる。その覚悟でうちはあの色ボケ……フレイヤから眷属を借りてきた」

 

「ロキが言わないから聞かなかったんだけど、逆に怖いね。一体、何をしてきたんだい?」

 

「ん? そうやな、フィンたちやアクスにだけは伝えとくか。うちの"本気"を」

 

 そう言ってロキが部屋から出ると、すぐに2本の酒瓶を持って帰って来る。

 見るからに彼女が喜びそうな上物の酒と上等だが1本目と比べるとはるかに見劣りする酒。だが、ロキは小さく『()()に比べると安物のこれをやったんや』と上物の方を前に出した。

 

「ロキ、酔っているのか? 値段はこちらの方が高いぞ」

 

「値段だけや。こっちのはな……()()()が遺した奴や。"一緒に飲もう"ってな」

 

 大抗争の際に散った眷属の名を呟いたロキは、安い方の酒をグラスに入れて飲み始めた。

 【ロキ・ファミリア】は決して無敵ではない。いかに高レベルな冒険者でも呆気なく死ぬこともある。そんな眷属たちをロキは今まで何度も見送ってきた。

 しかし、彼女にとって下界の子供の死とは『いずれ生まれ変わって来ることが約束されている存在』である。()()という長い長い間を待てるロキにとっては冒険者の死など容易く飲み込める内容であった。

 

 だが、違う──違うのだ。

 

 『テセウスの船』や『スワンプマン』という言葉がある。どちらも元の存在と同一かどうかの証明に用いられるお話だが、これは下界の子供にも当てはまる。

 魂は死した冒険者と同じだが、生まれ変わったそれは本当にその冒険者なのか。その答えについてロキは未だ持てずにいた。

 

「やからな。うちにとっては()()()のが価値が高いんや」

 

「ロキ、館の酒蔵が一杯なのはもしかして……」

 

「せやで、リヴェリア。ほとんどは、()()()()()()()()()()()()()()()や。勝手に処分したら、例えママでも許さんで」

 

 曰く、たまに舐めるようにして呑んでいるのは決まってそういう酒らしい。なので、自分が今買える最高級の酒とフレイヤから借りパクした鷹の羽衣を持参し、そんな眷属に対する思いをぶちまけたら──何とかなったみたいだ。

 

「何とかなったんですか?」

 

「まぁ、うちは天界やと結構やんちゃしとってな。あの色ボケも驚いてたわ、"変わったわね"ってな」

 

 アクスの疑問に豪快にと笑うロキ。しかし、その目線はダインが遺した酒に注がれており、小さく『一緒に飲みたかったわ』と呟く声をこの場に居た全員は聞かなかった振りをした。

 すると、小さな声で礼を言ったロキはアクスの方を見た。

 

「やから、頼むわ。記憶が消えても構わん、神の恩恵(ファルナ)が刻まれる前に戻ってもちゃんとフォローする。やから……やから……」

 

「ディアンケヒト様がお話しされたんですね」

 

「あぁ、この目で見るまでは信じきれんが……。頼む、こんな過去の清算に新しく入ってきた者たちを付き合せたくはない。ましてや、命を使わせるなど論外だ」

 

 ダンジョンの最高到達深度を更新するならまだしも、闇派閥(イヴィルス)という過去の遺物に人員を割けるほど【ロキ・ファミリア】の戦力は十全ではなければ暇でもない。それでも、まるで水場に溜まったカビのようにしつこい彼らを放置すればオラリオが一気に暗黒期(あの時)へと戻ってしまう。

 そんな若者の命を助けられるものなら助けたいとリヴェリアが頭を下げると、アクスは快く応じた。

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】はオラリオに居る皆様を癒す存在です。僕もアミッド団長の背中を追う者として精一杯癒そうと思います」

 

「あかん、立派過ぎて涙が出るわ。なぁ、フィン……フィンッ!?」

 

「はっ! すまない、ロキ。ちょっと自分の中に入り過ぎていた」

 

 未だにボーっとしているフィン。そんな彼に『作戦前夜なのに大丈夫なのだろうか、この団長は』とアクスが思っていると、突如としてリヴェリアが死者蘇生について疑問をぶつけてきた。

 

「答え辛いのだったら答えなくても良いが、蘇生された"冒険者"のレベルはいくつだ?」

 

 ()()()()()()()()()()()を踏み抜かないよう、リヴェリアは慎重に彼の死者蘇生の背景を探り出す。ディアンケヒトやアミッドが再三実験しないように言ってきたが、これは人体実験ではなく()()。魔法に精通しているハイ・エルフだからこそ、彼女は持てる魔法の知識を総動員してその秘密を探り出そうとしていた。

 

「……インファントドラゴンにヤられたことと、アビリティがランクアップ間近と伝えられたので、LV.1かと。後は助けてくれる冒険者は皆無かつ遺体を運びながらだったので、脱出まで数日かかったと仰ってました」

 

「インファントドラゴンは上層の最強。状況から察するに、巻き込まれたか。いや、()()()()()()線もあるか」

 

 当時の記憶を呼び起こすアクス。残念ながらよくよくは覚えていないために朧げとなってしまうが、状況から見てLV.1であるとアクスは推測込みで説明する。その推測やフィンの状況分析を聞いたリヴェリアは、しばらく顎に手を添えながら様々な状況を鑑み──再び『なるほど』と言ってから話し出した。

 

「私なりに死者蘇生のリスクを考察してみたが、記憶やアビリティが神の恩恵(ファルナ)が刻まれる前に戻るというのは"レベルが足りなかった"のではないか?」

 

「なるほどなぁ。レベルが1やからって話もありそうやな」

 

 ロキの言葉にリヴェリアは頷きながら続ける。

 神々によって()()()と例えは違えど、レベルというものは冒険者に真新しい能力の皮を被せるようなイメージと例えられている。アクスの死者蘇生はその皮を剥がしていく行為と同義であると彼女は理論を説明する。

 

「魔法についてはあまり分からんが、つまりはあれじゃろ? 賭場で身包みを全部剝がされて、しまいには──」

 

「ガレス、下品な発言は止めろ。だが、例えとしてはあっている。アビリティ全てでは到底支払いきれず、冒険者自体を取り建てられた結果と思えば先ほど話してくれたアクスの状況的にしっくり来るはずだ」

 

「そうだね。でも、その仮定の問題は"どのレベルならば記憶を失わないか"になると思う」

 

 再び沈黙が場を支配する。死者蘇生という大仰な効果に見合う代償など、下界の子供にイメージできるはずもない。

 必然的にロキの方に視線が集まるが、その視線に気づいた彼女は『今のうちは全知全能やないで』と言いつつも思案顔をし出した。

 

「フィンが良ぇ例やけど、高いレベルになると肉体の全盛期が伸びる。つまりは"人とは別の存在に近づく"っちゅーことや。それを下げるっつーのは神でも安々と出来ひん。そう考えると代価は自ずと見当は付くで」

 

 いくら神でも、そういった道具でもなければ他のファミリアの眷属のステイタスに干渉することも出来ない。それほどまでに神の恩恵(ファルナ)は強力無比な性質を持っているため、それを代価とするならば精々はレベル1つか2つ分。多くても3レベル分だろうとロキは語る。

 

 しかし、いくら神が語ろうとも全知全能に程遠い存在がわめいているだけだ。常に最悪を見る必要があることをアクスが言うと、フィンは『その通りだね』と肯定しながら執務室の机から紙束を取り出してくる。

 既にその布石は撒いているらしい。

 

「希望者に遺書……いや、自分のこれまでの振り返りを書かせたんだ。もし、記憶を失っても軌跡を辿れるようにね」

 

「死者蘇生のことを話したんですか?」

 

「いや、暗黒期に闇派閥(イヴィルス)の襲撃が原因で記憶喪失になった冒険者のことを話したんだよ。実際に居た人物だから、嘘は言っていない」

 

 ()()()()()。つまりは故人である。最古参のラウルやアキもその話は聞いたことがあることから一気に信ぴょう性が増したらしく、自分の記憶が無くなるのを危惧した2軍の団員たちは戦々恐々としながら書いていたのだとか。

 

 相変わらず本音を隠すために建て前を使うのが上手いと勉強になったアクスだが、紙束の中にアイズやヒリュテ姉妹やベートの名前が無いことに気づく。そのことを尋ねると、フィンは短く『書かなかった』と告げた。

 

「記憶を失ったらマズくないですか?」

 

「やけど、そこにない全員は書かんって言ったからなぁ。特にベートは【ヴィーザル・ファミリア】のこともあるし、どうなるかは分からん。やけど、アクスのことを正直にぶちまけるのも危ないやろ」

 

 レベルを過小評価するわけではないが、それでも万が一ということがある。全員に書いては欲しかったが、アクスの死者蘇生をみだりに外部に漏らさないという措置のためにこれ以上の保険をかけるのは不可能だとロキは告げる。

 

 しかし、アクスには他の懸念点もあった。三首領の内、フィンとガレスの遺書が紙束の中にないのだ。

 

「フィンさんとガレスさんは書かないのですか? 個人的にフィンさんが1番書いて欲しい人物なのですが」

 

「あぁ、僕とガレスは"いらない"。レベル関係なくすべて消えるという"最悪"を経験するぐらいなら、潔く天に昇る腹積もりさ」

 

「あぁ、我が身を屠るほどの強敵と熱き戦いをした後に蘇っては興ざめという物だろう。儂も辞退する」

 

「私は逆に絶対に蘇りたいな。これとは別に数枚にも及ぶ自分への手紙をまとめて部屋に置いている。流石にフィンも居なくなった後ならば立て直しに少々籍を置くが、それが終われば私は旅立つ予定だ。文字通り、"身命を賭した"んだ。流石のお前も引き止めないだろう、ロキ」

 

「せやなぁ。確かに寂しいけど、命を懸けて尽くしてくれたリヴェリアを縛り付けるのはうちも嫌やしな」

 

 それぞれのオーダーにアクスは目を丸くさせる。

 仮に──本当に仮の話だが、三首領が全員死亡すれば強制的に【ロキ・ファミリア】の世代交代が行われるのだ。彼らとはそれこそ遠征にまで付いていった間柄のため、【ロキ・ファミリア】の内情を推測するに次なる団長はラウルとなるだろう。

 それにフィンが居なくなると必然的にティオネも去るだろうし、ティオナも一緒に居なくなる可能性が高い。その他の団員も三首領の内の2人が居なくなることで去る人間もいるかもしれない。

 

 立ち行かなく可能性を即座に考えたアクス。しかし、その表情にフィンは『ラウルならば大丈夫さ』と謎の信頼感を発揮する。周囲も『ラウルなら』と一様に信頼しているため、あくまでも部外者のアクスはフィンとガレスの頼みを素直に聞くことにした。

 

「さて、じゃあこのぐらいにしようか。まだ日は高いけど、アクスはどうするんだい?」

 

「そうですね。……あ、明日って治療院には帰れないんですよね?」

 

「そうだね、【フレイヤ・ファミリア】からは【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)が当日一緒に居てくれるみたいだよ」

 

 明日、アクスが治療院に帰れば今までのことは全て水泡に帰してしまう。なので【フレイヤ・ファミリア】にはフィンの言ったように戦いの野フォールクヴァングでアクスを保護させるか、強靭な勇士(エインヘリヤル)を護衛としてアクスに同行させることを既に提案し、ヘイズが護衛としてアクスと一緒に居ることを確約してある。

 すると、何を思ったのかアクスは『なんだか師匠に申し訳ないですね』と宣った。

 

「なぜだい? これは冒険者依頼(クエスト)だから君は気にしなくて良いんだよ?」

 

「いえ、お仕事の邪魔をしてしまったので」

 

 彼女の仕事はあくまでも強靭な勇士(エインヘリヤル)の回復と身の回りの世話。結論から言えば()()()()()は業務外のはずであるとアクスは判断していた。

 【ディアンケヒト・ファミリア】でも業務外のことはアクスを含めた団員たちも毛嫌いしているため、『仕事の合間にこんなことを頼むのは忍びない』という思いが彼を委縮させていたりする。

 

 だが、ここで【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】での認識齟齬が発生する。

 当日、ヘイズはアンドフリームニルとは関係なく、あくまでも『【フレイヤ・ファミリア】のヘイズ・ベルベット』として冒険者依頼(クエスト)を受けている。そのため、本来の業務はこの日は存在しなかった。

 現にフレイヤ直々に事が起こるまで当日の休暇を認められたため、副官たちから若干怨嗟が籠った言葉の数々を彼女が受けては『かぁ~、師匠兼お姉ちゃんは辛いですねぇ~』と調子に乗っていたりする。

 

 しかし、そんなヘイズのタイムスケジュールなんぞ【ロキ・ファミリア】に渡すわけもなく──こうしてすれ違いが起こってしまったのだ。

 

「仕事の邪魔しちゃった……怒られる……」

 

「あかん、すっかり末っ子モードになっとる」

 

「どれだけ苛烈なことを課したんだ、【フレイヤ・ファミリア】は……」

 

 『仕事増やすなんて、ナメた真似してくれたわね、バカ弟子』と、脳内のヘイズが素振りをしながら迫ってくる幻想にすっかり怯えてしまったアクス。杖で殴られて『ア”ア"ア"~~ッ』と叫ぶところまで幻視した彼にロキとリヴェリアが首を傾げるが、後者も後者でアクス相手に色々やっているとフィンは指摘したかったが寸でで耐えた。

 

 ちょっと考えれば仕事との両立など出来るはずもない。フィンはすぐさま訂正しようとするが、その前にロキがなにやら悪い顔をしながらゴニョゴニョと耳打ちし──。

 

「そらなぁ……。相手の怒りを下げるしかないんちゃう?」

 

「どうやってですか?」

 

「例えば【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)をもてなすとかどうかな? ロキが呼び出すまでは暇なんだから、出来るだけ楽しんでもらえば、彼女の留飲も下がると思うよ」

 

 言うが早いか、オラリオの地図を机に広げるフィン。それを見ていたガレスとリヴェリアが『また変なことを』と後ろで聞こえないように陰口を叩く中、彼はアクスに色々吹き込む。

 こういう連れたって街を歩くという行為は何事も計画性が問われる。相手の歩行速度や機嫌。後は腹具合やら好きな物などの様々な要因に対処しなくてはならず、時にはその場の勢いや直感に頼ることもある超高度な駆け引きだ。

 

 言うなれば、これは計画性を育てる訓練と言っても過言ではない。……多分、きっと、メイビー。

 

「いやぁ、僕もロキやギルドから色々言われて外国から招かれた姫のお相手をしたなぁ。あ、ティオネには黙っておいてくれよ?」

 

「あ、はい」

 

「安心しぃ、うちらと元々アクスが持っとるおもてなし力を使えばあのめんこい子もいちころやで。もしかしたら魔法の1発ぐらいサービス……フヒヒ」

 

「ロキ、願望が漏れてるから黙ってくれ」

 

 ロキの妄想はともかく、フィンもフィンで苦労しているようだ。やはり、団長という存在は大変な存在なのだとアクスは改めて認識した。

 

***

 

「やっっっばい!」

 

 朝。ヘイズの私室から雷鳴のごとき叫びが轟く。時計を見れば既に約束の時間が迫っており、今の自分の姿を見て絶望する。

 敬愛する女神から直々に今日1日のアクスの護衛と言う名目の『休み』を頂戴した彼女は、それを良いことに夜明けすら来ていない時間帯から二度寝(しゅくふく)を噛み締めていた。毎日が激務なため、ついつい『後1時間……』と思ってまどろんだ結果が──御覧の有様である。

 

「私の馬鹿ぁ!」

 

 今すぐにでも目玉を繰り抜いて五体投地で謝罪しなければならないほどの不祥事を起床早々にかましたわけだが、幸運なことにまだ頑張ればギリギリ行ける時間帯。なんとか挽回すべく、ヘイズはすぐさま行動を開始する。

 幸か不幸か、今回は冒険者依頼(クエスト)。そのため私服を選ぶというかなり時間を要する作業は必要ない。

 

「制服って便利ですねぇ」

 

 早々に女の武器(おはだ)の手入れを諦めた彼女は独り言ちつつ看護衣(ナース・ワンピース)に袖を通し、冒険者依頼(クエスト)に必要そうな回復薬(ポーション)やらなんやらを鞄に詰めて本拠(ホーム)を発った。LV.4の速度で急ぎながら人を跳ね飛ばさないように気を付けるという神業でもって移動していると、かなり間隔を空けているものの【ロキ・ファミリア】の団員たちがそこら中に居ることに気づいた。

 

「遅刻じゃないですかぁ」

 

 既に彼らが行動を開始していることに焦りを見せたヘイズは中央広場に滑り込むと、北側のメインストリート目掛けてラストスパートを決め込む──が。

 

「あ、ヘイズ師匠」

 

「ふぇあっ!?」

 

 アクスに呼び止められた。彼はなぜかカフェにて眼鏡をかけながら調合書を読み、優雅にお茶を嗜んでいる。

 いつもとは違って知性溢れる姿にヘイズは呆気にとられながらこう思った。

 

 ──なんですか、これ。




次回、アクスの全力全開。

史上最強の弟子アクス
 リヴェリア:適度に質問してくる、楽しい! もっと教えよ。
  レフィーヤ(+1):ぐわぁぁぁ!

 ガレス:=>どうかな、最近。
  アクス:爺ちゃん…

 フィン:某クラピカ顔
  ラウル(+1):ぐわぁぁぁ!

試作品の魔道具(マジックアイテム)
 アクスの要請を受けてアミッドが在庫を放出。
 弱い呪いならば解呪できる。弱いものならば!

ロキの内心
 眷属思いの神であることは原作でもかなり出てたし、眷属も眷属でウザがりつつもその愛に応えてたのかなと思って作りました。
 一緒に買った酒を飲んだ次の日にポックリ逝って曇らせ…なんでもないです。

死者蘇生と記憶
 状況について肉付けとロキの推測。
 当たってるか外れてるかについては…、死と転生を司るタナトスさんが分かるんじゃないっすかね

三首領の蘇生に対するオーダー
 生き返った状況と歳を考えれば聡明なフィンは絶望するだろうし、熱き戦いを求めたのにニューゲームされたらガレスは白けるだろうと考えました。
 リヴェリアについては他の2人とは違う願望を持っているので、おそらくこうするかなと。

ヘイズ師匠
 次回の被害者枠。
 アクスからは仕事の合間に護衛というくっそどうで良いことをやらされてご立腹という想像を持たれている。
 それもこれもあの団長が人員整理とタイムスケジュール管理をしていないからである。
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