頑張っていきますので、引き続きご愛読よろしくお願いします。
次の日。アクスは機能回復訓練の一環として外出の許可をもらったフィンを連れて久方ぶりの往診を行っていた。名目上は最近物騒ということで道中の護衛と【ヘファイストス・ファミリア】に壊れたブリューナクの再依頼をすることなのだが、フィンはそこに『駄目で元々』とクノッソスの鍵についての情報収集を追加する。
流石に
そんな具合にテキパキと治療や治癒魔法を掛けていくアクスの横で、フィンは手持無沙汰な神や冒険者を相手にひたすら情報収集も行っていた。
だが、残念なことに空振り。話を聞いた全員に『見たことがない』と言われてしまう。
「見つかりませんでしたね」
「既に僕たちがクノッソスに押し入ったことは相手にバレてる。あれを持っている時点で
「じゃあ、なんで情報収集するんですか」
「そこは君の人徳でポロッと出ないかなってね」
紙のように薄っぺらいお世辞を言いながらフィンが笑う。ただ、彼の頭は先ほどまで往診に向かった先、全ての反応について精査を行っていた。
明らかに動揺している者は居ないか。少しでも反応が変わった者は居ないか。具体的に『何に使うのか』を聞いてくる者は居なかったか等々。
しかし、元々往診のリストに入るようなファミリアは比較的善良なところだからか、いくら条件を変えようとも往診に向かったところの神や冒険者は当てはまらない。そうなると【ソーマ・ファミリア】や【イシュタル・ファミリア】のようなアングラ系ファミリアにも網を張る必要はあるが、今のフィンは療養中の身だ。
もし、治療院を抜け出して派手に動くとしよう。目の前で歩いているアクスや彼の姉が絶対に許さないだろう。
最悪、アミッドがティオネに密告して黄昏の館の1室で監禁されるかもしれない。ティオネにとっては希望の未来。フィンにとっては絶望の未来へレディ・ゴーな展開を想像して人知れず身震いしたフィンだが、気を取り直して【ヘファイストス・ファミリア】の
「お、なんだ。
「やぁ、椿。今日は工房に籠ってないのかい?」
「飯も食わずに3日ほど籠っただけで主神様から引きずり出された。……で、アクスの坊も連れてどうした?」
「強い力で引き裂かれたようだな。モンスターではない……ドワーフか?」
「あぁ、ガレスさんが千切ったみたいですよ」
まさか知り合いに壊されるとは思ってなかったのか、アクスの言葉に椿は盛大なため息をつく。
当たり前だが、ブリューナクは彼女が適当に作ったわけじゃない。技術の転用1つを取っても試行錯誤し、研鑽し、時間をかけて積み重ねてきた傑作の1つである。
それを半年も経たずに他人が壊したとあれば、報復の1つも考えるのは必然だろう。
「……で、壊した本人はどうした?」
「あぁ、別件を頼んで今は居ない。"すまんと伝えて欲しい"ってさ」
「分かった、今度会ったら魔剣の実験台にしてやろう。それで手打ちだ」
しかし、この場にガレスが居ないのに怒るのもバカバカしいと思ったのか、椿は盛大に息を吐くとフィンたちをヘファイストスの執務室へ連れて行く。
「あら、珍しい取り合わせね。どうしたの?」
「手前の作ったブリューナクが壊れたらしくてな。新しく頼みに来た」
「もう壊れた!? なんで?」
ブリューナクの出来栄えについてはヘファイストスも納得していたため、それが半年も経たずに壊れたとあっては己の節穴具合に絶望して天界に帰るべき案件だった。しかし、詳しく話を聞くとガレスが仲間の命を助けるためという理由で致し方なくやったということでとりあえずは納得してくれる。
「でも、壊したのは
「もちろん。うちもアクスには命を助けられてる。そういうわけでこのぐらいで足りるだろうか?」
証文と共にフィンは覚悟を見せる。しかし、ブリューナクはフロスヴィルトの技術を転用したお高い装備なため、生半可な値段ではヘファイストスと椿は納得しない姿勢を見せた。『減額やローンなんて期待しないことね』と言いながら証文の額を見たヘファイストスであったが──。
「いち……じゅう……ひゃく……せん。おくぅ!?」
「主神様、口調が怪しくなっておるぞ。それよりも
数億ヴァリス。上を向けばリヴェリアのマグナ・アルヴスという値切っても3億越え。装着する魔法石の交換を加えればそれ以上という無法ともいえる装備もあるが、普通に椿の打つ武器が買えてしまうほどの金額に正気を疑う。
しかし、彼女の念押しともいえる問いにフィンは力強く頷いた。
これのほとんどはベートの口座にあった所持金だ。ベートの処遇が決まったあの話し合いの後、ロキたちが即座に酒場兼用の宿屋に入ろうとしたベートを捕捉。状況を察しているのか、『脱退の連絡か?』と諦めたように言ってきた彼にロキが話し合いで決まったことを告げた。
はじめこそ脱退ではなく罰金でベートの口座にあるヴァリスを押収するという情けを掛けられたような話に納得がいかなかったようだが、ロキが『いくらか残しとくから』とにやけ気味に言ってきたので不承不承といった感じで引き出す値段が書かれていないベートのサイン入り証文がロキの手に渡る。
その時、小さく『すまねぇ』という声が聞こえたが、その場に居た全員は何も言わずにベートの前から姿を消す。
その後、さっそくとばかりにロキはギルドでベートの資産を押収した。きっちり
こうしてかなりの金額がたかが治療師
「あ、追加でこの証文の金も使って欲しいんだ」
「こっちもこっちですっごいわね。なに? 【ロキ・ファミリア】は本気でアクスを引き抜くの?」
こちらの証文も先ほどの金額以下だが億は行っている。他派閥の子供相手に使うには法外過ぎる金額にヘファイストスはフィンを睨みつけるが、彼はただ『命を救われたからね』というだけであった。
ただ、フィンの言うとおりだ。この金はアクスが家族の命を救ったことに感謝する募金で構成されている。
まずはレミリアやクレアといった実際に蘇生された冒険者。彼女たちが私財の3分の1を持ってフィンに突撃したことでこの募金は開始される。そこからラウルやアキといった2軍メンバーが自分で考えた上で感謝の形として募金に参加し、アイズたち1軍メンバーも借金漬けのティオナ以外は
ちなみにアイズたちに混じって三首領が
かくして、集まったのは【ロキ・ファミリア】の遠征費用級。アクスが使ってくれなければファミリア内の信頼関係が瓦解するような金が用意されたわけである。
愛が重い? 彼らもまた、家族の蘇生に成功した存在によって頭がカリカリになっちゃったのだ。致し方ない。
「これぐらい用意できるのなら、もう
「そうね、いちいち壊されたら敵わないものね」
「うーん、僕としては"
「【ゴブニュ・ファミリア】がパルゥム限定で卸してる希少素材ではないか!」
素材の指定をしてくるフィンに椿が激怒する。どちらも【ゴブニュ・ファミリア】が採集場所を秘匿し、素材を仕入れようにも『パルゥムが自分の装備を打ってもらう時限定』というかなり面倒くさい購入制約があるので、仕入れ価格だけでもかなり高くなっている希少中の希少素材である。
いくら金があっても、そんな物を指定されたら【ゴブニュ・ファミリア】次第で青天井になる。椿と同じくヘファイストスも反論して却下しようとするが──。
「ヘファイストス様、これ」
「あら、アクス。壊したのは【ロキ・ファミリア】なんだし、あなたがお金を出す必要ないのよ? それにあなた、お小遣い……なにこれ」
お小遣い制のことを知っていたヘファイストスが笑いながら証文を見て絶句する。
こちらも数千万ヴァリスというどうやって集めたのか分からない金額。さらには【ガネーシャ・ファミリア】の証文なので、彼女の顔が宇宙の真理を理解した猫のような表情へと変わっていく。
「ちょっと、アクス! あなた変なことでお金稼いでるんじゃないでしょうね!」
「ヘルメス様がお勧めしたところで
「"増えちゃった"ってそんな適当に……。まぁ、ビギナーズラックやつなのかしらね」
非合法などとんでもない。運を全振りしたような稼ぎ方にヘファイストスたちは呆気にとられる。
ただ、本当はアクスはただお金をヘルメスファミリアに渡したり、クソ雑魚ナメクジな賭博センスによってチップをちょっと浪費したのみ。全ては
「アクスのと合わせると……、もう私がゴブニュと打とうかしら。素材のこともあるし」
「主神様よ。手前の依頼だぞ?」
「椿、神2人が鍛冶なんてまともに成立するわけないでしょ? あなたは相槌で取り持って頂戴」
鍛冶は己と鋼のぶつかり合いだ。しかし、制作に介入する数が増えれば、そこに相手のエゴとのぶつかり合いも生じる。
天界で最高峰と知れた鍛冶神2柱はどちらも
天界でもさほど見ない強力無比な1振りとなるか、それともどっちつかずな半端物になるか……。全ては椿の手にかかっている。
「話が白熱してるところ悪いけど、神ゴブニュにも用事があるからこれから行くつもりなんだけどね」
かなり盛り上がっている中、フィンはこの話の唯一の問題を指摘する。ここまで盛り上がってはいるものの、彼女たちはゴブニュの承諾を一切得ていないのだ。
それを一切考慮に入れていなかったヘファイストスと椿が『あっ』と正気に返るものの、とりあえずは素材を集めて来なければ話にならないとアクスたちをヴァルカの紅房から追い出してしまう。
「ゴブニュ様、受けてくれますかね?」
「あの神は何故か知らないけどパルゥムにはかなり友好的だよ。多分、受けてくれるんじゃないかな」
「とりあえず、手土産でも持って行きましょうか」
何かを頼むときは手土産を持って行かねばならない。タケミカヅチから学んだことを反芻させつつ、アクスは市場を物色する。
鉱石、反物、ドロップアイテムと探していくが、どれもこれもアクスの琴線に触れるようなものはない。そうなると食料品……と思ったところでアクスは1匹の大きな鮭に出会った。
「あ、これにしよ」
「鮭か。良いんじゃないかな」
フィンも太鼓判を押してくれたことでさっそくお買い上げ。その足で【ゴブニュ・ファミリア】の
相変わらず商売っ気があまり感じられない質実剛健の店内に入って周囲を見渡していると、入店に気づいた団員がフィンとアクスというあまり見ない取り合わせについて疑問を投げかけた。
「お、
「神ゴブニュに会いに来た」
フィンの要件に団員は頷きながらも、アクスを連れてきた理由について言わなかったことに疑念を深める。彼が主神であるゴブニュを訪れるのは決まって彼の武装である槍の調整のためだが、アクスはこのファミリアの装備を持っていない。
新しい物を作ると言っても、
しかし、客の言うことは納期や値段の交渉以外は聞いてやるのが信条の団員は疑問を飲み込みながら主神を呼ぶと、既にフィンの声が聞こえていたのか『入ってこい』と返事を告げられた。
「失礼するよ。神ゴブニュ」
「あぁ。それよりもお前が連れを共にするなど珍しいな。今日はどうした」
「今回はあなたのファミリアに色々頼みごとをしたくてね。頼みに来た」
アクスがゴブニュに鮭を渡す傍ら、フィンは【ロキ・ファミリア】として依頼しておきたい要件を話す。
半ば死に体だったフィンだが、アクスやアミッドのおかげでかなり早くに意識を取り戻すことが出来た。動けない代わりに頭をフル回転させることが出来た彼は、クノッソスの扉という厄介なギミックに対処するための考えを十分な時間考えることが出来たのである。
そんな彼が導き出した対処法とは──。
「柱の補強? 何に使う」
「重く、頑丈な扉を下から支えるためさ。"事故"でいきなり閉じられては困るからね。なるべく柱は頑丈に……、かつ持ち運びが出来るようにして欲しい」
具体的な使用例を言うが、『どこで使用する』かは伝えないフィン。オラリオに
「良いんですか? 具体的に話さなくて」
「良いのさ。少なくとも神ゴブニュは分かっている」
「【ロキ・ファミリア】の無理難題は言われ慣れとる。……分かった」
まさかの了承。そのまま柱の具体的な仕様や必要な数、期日や料金といったものを契約書として記載し、あらかじめ用意していたと思われる証文で支払われる運びとなった。
そんなフィンの高速詠唱ならぬ『高速交渉』にアクスは呆気に取られるが、契約書を見直して泣き叫ぶ団員を無視したゴブニュは『まだ何かあるだろう』とこちらのことを見透かしたように問いかけてくる。
「あぁ、アクスの槍を神ヘファイストスと打って欲しい」
「鍛冶神2柱か。相槌は居るんだろうな?」
「既に椿へ頼んでるよ」
錚々たる面子に先ほどまで納期や諸々について騒いでいた鍛冶師たちは生唾を飲み込む。だが、ゴブニュは一旦席を立つと隣の資材置き場に向かい、しばらくごそごそと何かを探した後に数本の芯材と大量の鉱石を持ってきた。
「すまないが、儂はやらん。誓樹のウォールナットと勇鉄ならくれてやる。あの神と
「神ゴブニュ。その2つの素材で作った武器は僕たちパルゥムにしか与えないという話ではなかったかな?」
「あの時か。だが、儂は"見定めてから"とも言ったぞ。こやつは……、防具の方が良さそうだ。安くしておくから後で証文を持って来い」
「それは神の気まぐれかい?」
勝手に注文されたにも拘らず、フィンはゴブニュに語り掛ける。しかし、彼は黙って勇鉄を鍛え始めてなにも返そうとはしない。
されど、その後ろ姿に『答え』を得たフィンは防具用の証文を持ってくることを約束して帰っていった。
「親方、良いんですかい?」
「構わん。それより柱の方は任せたぞ、儂はやることがある」
心配そうな団員を追い返し、念のために鍵すらも掛けたゴブニュは勇鉄を鍛え続け──目元を完全に覆うような形の防具を作り出した。
──残念だったな●●●。貴様もあの槍の継承者に十分な素養があるぞ。まぁ、もれなく瞳が紅くなって破壊衝動が納まらないが、些細事だろう。
──いらねぇよ、そんな物騒なもん。それより〇〇〇をちゃんと見てろよ。あいつ、すーぐ変な方向に行っちまうからな。あーあ、どっかに良い女とか居ねぇかなぁ。ほら、前に□□□□□が謡ってたけど、聖女とか良くね?
──はぁ!? ●●●、お前△△△△をそんな目で見てたのかよ!
──△△△△が聖女なわけないだろうが! 鼻たれ〇〇〇、いい加減現実見ろよ。後、話聞け。
思い返すのは遥か過去に行われた
***
「……で、これは何の騒ぎだい?」
「鍛冶師の暴走よ。後は察して……」
ヴァルカの紅房へ帰ってきたフィンたちの目の前では、壇上に登った椿の声に工房にいる全ての団員たちが様々な声色の返事をしている。隣ではヘファイストスが心底疲れた眼差しで自らの眷属たちの醜態を見ながら心の底から呆れたような息を吐き出しながら連勤記録更新中のOLのように項垂れている。
「はい、では次ぃ!」
「はいはいはい! アクスの身長が伸びることを信じて伸縮機能付きが良いと思いまぁす!」
「下手に構造に手を加えると脆くなる、却下だ! 後、後ろの団員たちについて手前は知らん! 勝手にやってろ」
白熱し過ぎて禁句を言ってしまった末にパルゥムの団員たちからリンチを食らっている団員はともかくとし、ヘファイストスが言うには『色々突っ込んでもバチは当たらなかろう』ということらしい。
いくら作るのが鍛冶神だからと言ってもはっちゃけ過ぎではないかとは思ってはいけない。彼らも鍛冶師──立派なクリエイターなのだ。
ただ、流石に
最終的に遠隔回復の要であるフロスヴィルトの魔法吸収能力は当然として、無難に
「うわぁ、なんだか凄いことになっちゃった」
なんだかリヴィラで時たまブームになる『盛り盛り』なことになっているため、使用者なのに他人事のような反応を見せるアクスを他所に、ゴブニュが居ないことで作れない──ということにならないかフィンは今更心配になってきた。
「随分勝手を許してるみたいだけど、出来るのかい?」
「
ヘファイストスは自身の所有物である紅い槌を持ちながら笑みを作る。その自信たっぷりな様子にフィンは彼女に証文を手渡した。
ただ、証文の金額を見ながら虚空に視線をやるヘファイストス。『あれがこの値段で』とブツブツ言っていると、最後に『うちはこのぐらい』と別の羊皮紙にフィンが出した証文よりも安めの値段を書き出した。
「じゃあ、神ゴブニュのところにこれぐらいかな。余った分は【ディアンケヒト・ファミリア】の方に上乗せしておくよ」
「あら、ゴブニュが来ない理由ってそれ?」
「いや、防具を作りたいみたいだよ」
金勘定がいささか丼勘定なアクスに変わり、フィンが瞬く間に複数の証文を拵えてヘファイストスに渡す。
これで契約は成ったために工房から出ると そろそろ夕方である。『フィンの介助』という名目で外に出ているが、そろそろ戻らなければならないと断じたアクスはフィンを連れて治療院へと帰還。そのまま彼をベッドまで戻した。
「アクス、紙と書く物を大量に持って来てほしい。今のうちに考えうることを……なんだい、それは」
「アミッド団長より、フィン様が暴れたらこれをと」
「暴れてないよ!?」
鈍く輝く無骨な鎖を隣の棚から持ち出したアクスにフィンが力一杯叫ぶ。もちろん動き回る気は(あまり)ないし、外に出て根回しすることなど(今のところは)ない。拘束される謂れは(イレギュラーを思いつかない限りは)ないのだが、すっかりアミッドと同じ治療モードに切り替わったアクスの目からは逃げることが出来なかった。
「リヴェリア様やガレス様たちが例の
「うっ!」
「
「いやっ……その……」
図星を指摘されてすっかり弱った隙に鎖でフィンを縛ろうとするが、上級冒険者は伊達ではなかった。すぐさま防がれてしまう。
「いや、本気で……マジで止めてくれ。こんなところをティオネに見つかったらマズい。ひっじょーにマズい! 具体的には子供には見せられないことになる!」
「大丈夫です、人間の繁殖活動についての知識はディアンケヒト様たちから学んでいるので」
「もうちょっと言い方を考えてくれよ!?」
ああ言えばこう言う。全くもってわがままな患者である。ただ、ティオネが来ないことを祈って1日鎖でがんじがらめになるだけではないか。
なお、ティオネはそういう気配に敏感なのでおそらくはバレるだろうし、アクスが逆の立場ならごめんこうむりたいのだが、それはそれである。
そんな具合に押し問答を続けていると、騒ぎを聞きつけたアミッドが病室を訪れる。初めこそ騒がしいことへの注意をしてきた彼女だが、フィンへの対応についてアクスが報告し、逆にフィンがアクスがしようとした所業やついでに情操教育についてアミッドに抗議した。
「アクスには基本的な性知識は教えています。大丈夫です」
「僕が大丈夫じゃないんだけどなぁ」
フィンの尤もなツッコみが光る。いつの間にアミッドはこんなにポンコツになったのだろうかと疑問に思う彼であったが、彼女のポンコツ具合は前座だった。
すかさず真剣な面持ちになったアミッドは、アクスから鎖を奪い取りながらフィンの近くへにじり寄って来る。
「今はアクスのことはどうでも良いでしょう。状況から察するに、フィン様は異常事態が起こればご自身のお身体を顧みず動き回る……ということでよろしいでしょうか?」
「えっ、あっ……いや。違うんだ、アミッド」
「それが私たちにどれほど迷惑が掛かり、治療という行為の妨げになるかご存知でしょうか?」
『あっ、これ失敗した』とフィンが気付くも既に遅かった。身体には既に鎖が巻き付けられている事実に彼の目が驚愕に染まる。
話しながらというのになんという早業だろうか。明らかに縛り慣れているような動きに、アミッドが常日頃から患者たちと戦っている様子が簡単に想像できた。
しかし、感心したのも束の間。
「アミッド、頼む! 解いてくれ!」
「安心してください。扉は施錠して、後は見張りも立てておきましょう」
残念ながらどこにも安心できるところが無かった。あの
「では、約束してください。本日だけは絶対に安静です。アクスが居なければ、もしかしたらまだ治療中だったかもしれないんですよ?」
「あぁ、本当に助かるよ。……本当に。後、これアクスの方で使ったあまりだよ。アミッドの方で管理してくれると助かる」
万感の思いで呟くフィン。これぐらい脅せばイレギュラーが起きても勝手に動き回らないはずと判断したアミッドは、フィンから証文を受け取ってからアクスを連れて病室の外に出る。
すると、タイミングよく
「あら、アミッド。街で団長を見かけたってやつが居たからお見舞いに来たんだけど」
「申し訳ありません。機能回復訓練を行っていたのですが、どうやらかなり無茶な距離を歩いたようで……。なので、本日は絶対安静と先ほどお伝えしたばかりです。明日、またお越しいただけるでしょうか?」
「ならちょうど良かったわ。訓練でお疲れな団長の身の回りのお世話をしてあげないと」
何がどうなってそんな結論に至ったのだろうか。相変わらずアマゾネスの考えは分からないとアミッドが首を傾げるが、ここでフィンを差し出すと約束を違えることになる。それにほかの患者の迷惑やアクスの情操教育にも悪いため、ひとまずは帰らせようと考えた。
しかし、ティオネに生半可な説得は通用しない。どうしようかとアミッドが考えていると、アクスが動いた。
「僕たちでお世話できるよ?」
「馬鹿ね、アクス。男は色々溜まるものなのよ。特に団長は死の淵を彷徨ったし、特に……」
「溜まる?」
「アミッドー、この子の教育どうなってるの? この頃の私ならもう"種馬"とか"子種"って言葉を普通に使ってたわよ?」
アマゾネスの常識を押し付けないでもらいたいとアミッドは心の中で毒づいた。しかし、意識が徐々にフィンから遠ざかってきた。後はこのままお帰り願おうと考えていると、ティオネの矛先はアミッドの方に向いた。
「私、これでもアミッドを応援してるのよ? 良いからパクっと食べちゃいなさいよ」
「僕、美味しくないよ?」
「美味しい美味しい。アクスは寝てるだけでオわらせてくれるから。それに、
それは人としてどうなのだろう。いや、人どころかダンジョンで生まれる魔物すら超越した何かだと思ったアミッドではあったものの、これ以上は本格的にアクスの教育に悪いとアミッドは無理矢理ティオネを治療院から追い出した。
文句を言われつつも案外大人しく退店してもらったために少々罪悪感を感じるものの、彼女については後でフィンが助け船を出してくれるだろうと一仕事を終えた充足感を覚えた彼女は『食べられるー』というアクスの言葉に『はいはい、がおー』と茶化しながら調合室へと向かう。
そこには、十数人から成る
次回
プロジェクトD(ディアンケヒト)〜挑戦者たち〜
~不治の
2代目ブリューナク
ベートの財産の半分とロキ・ファミリアの献金でかなりの高級装備になった。
名前? ブリューナク弐式で良いんじゃね?(ロボット感)
ゴブニュ
パルゥムの持つ勇気をよく知っている神。
彼の思いだしたやり取りには、1代目、2代目騎士団長と彼らの背中についていった騎士と胸板の薄さを指摘したら関節技を決める吟遊詩人の名前が入るよ!
なお、お土産の鮭はありがたくいただいた。
鎖
対上級冒険者拘束兵器。まだアダマンタイトやオリハルコンではないので、温情。(聞き分けがない冒険者には…わかるね)
史上最強のアマゾネスであり、殺し過ぎてテルスキュラから追い出されたエルミナその人。
発情した猫の甘々ラヴビームの波動を受けてディムを強襲した際に言い放った言葉。
なお、某騎士は扉前で警備をしていたが、暴力装置の接近にいち早く逃げだし、馬房で精霊と一緒に焼いた鮭を食いながら嗤っていた。
アクス
性知識はある程度知っているが、そこから1歩踏み込んだものは知らない。
※保健体育の教科書程度