ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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一応ご注意
原作キャラ崩壊のようなシーンがあります。
お人形のようで清楚で美しいアミッドが好きな方はそこら辺ご留意ください。


55話:試薬

 新薬開発というのは金もそうだが、何より各工程に長い時間が必要となる。

 

 まずは検証。これはその症状がどのような物かを分析し、どこをゴールとするかを協議する工程だ。

 ここで明確なゴールを決めておかないと開発がだらだら伸び、結果的に時間をかけたにしては微妙な出来になってしまう。

 

 次に候補の選定。症状に効く素材や工程を吟味し、手頃な物がなければ新たな技法や素材。さらには化合物を生み出す必要がある工程だ。

 次に行われる本格的な調剤と並行して行われることも多々あるが、この段階で多くの引き出しを作っておかなければ手詰まりになることが往々にあるため、これも非常に大事な工程となって来る。

 

 そうしていよいよ調剤だ。先ほどの候補からいくつかを見繕い、実際に問題が解消できるかを試していく。非常に根気がいる作業だが、これをしなければ何も始まらないためにここは我慢しなければならない。

 しかし、解消できたからと言ってこの工程が終わるかと言えば、それは違う。コストや量産の手間を考え、より低コストで、より安易に解消できるかを模索する必要がある。

 

 そんなこんなで実験や調薬を何度も繰り返して新薬が完成するのだが、今回に至ってはそんな暇はないとアミッドはフィンに呪詛(カース)の解呪法を頼まれた時から人員整理を行っていた。

 

 なんといっても調剤と言うことで薬師(ハーバリスト)は必須である。そのため、在庫整理をしてしばらく在庫を追加しなくても良い物を把握してから担当者を追加タスクから一旦外し、征いた人員を次々と新薬開発に充てていく。

 それでも焼け石に水。アミッドはそれを分かっているからこそ、第2の矢として発展アビリティが無くとも多少調合をかじっている治療師(ヒーラー)も新薬開発のタスクに回すようにした。

 ただ、クノッソスの調査で少なくない【ロキ・ファミリア】の団員が病室に居るため、通常業務と看護業務をする人員は残しておかなければならない。休暇のことも考えないとならないため、流石に1人では厳しいと感じた彼女はディアンケヒトやベルナデットたちと相談することで無理のない人数を回すことが出来た。

 

 こうして集められた延べ十数人の集団。その分野のエキスパートも多数混ざっているため、【ディアンケヒト・ファミリア】ではこれ以上は望めない完璧な布陣である。

 ()()()()()()()()をなるべく見ないようにしたアミッドは、集まってくれた精鋭たちにさっそく新薬の概要から話し出した。

 

「皆さん、夜遅くにありがとうございます。今回はこちらの不治の呪詛(カース)に対応する新薬を開発したいと思っています」

 

「アミッド様、不治の呪詛(カース)とは何でしょうか?」

 

「はい。まずは概要からお話しします」

 

 マルタの疑問にアミッドはアクスを呼ぶ。彼は持っていた木箱から黒い短剣を取り出すと、その短剣を掲げるように持ち上げて全員に見せた。

 独特の──というよりも『禍々しい』と言った方がしっくりくるかもしれない。そんな雰囲気の短剣にすっかり気圧された団員たちだが、アミッドの説明を引き継いだアクスが説明を始める。

 

 傷つけられた部分は回復薬(ポーション)では癒えなかったこと。アクスの治癒魔法では効果を一時的に弱めるだけで、少ししたら再び傷が開いたこと。ヘイズの自動治癒魔法(オート・ヒール)で無理矢理傷口を開かないようするという力技が有効であること。上から傷を()()()しながら治癒することで血を漏れ出さないように出来たこと。

 

 そして──。現状はアミッドの治癒魔法しか解呪の方法がないこと。

 【ロキ・ファミリア】が担ぎ込まれて来ていたので大変なことになっていることは分かってはいたものの、そこまで深刻な呪詛(カース)があったなんて思ってもみなかった団員が息を呑んでいると、アミッドはさも平然と『これを完全に癒す薬を作成します』と宣言した。

 

「アミッド様、魔道具(マジックアイテム)ではだめなのですか?」

 

「はい。まずは薬の類から始めてみようかと」

 

 マルタから鋭い指摘が飛ぶ。しかし、アミッドは手始めに薬の方向性から開発を始める理由を話し出した。

 

 今回相手にするのは何度も言うとおり、不治の呪詛(カース)。確かに魔道具(マジックアイテム)であれば何度も使える仕様にすればフィンの要望に応えられるかもしれないが、アミッドしか量産出来ないのがネックとなる。

 しかし、回復薬(ポーション)などの薬なら、調合難易度に目を瞑れば薬師(ハーバリスト)や調合作業を行っている治療師(ヒーラー)でも量産は可能だ。薬にすることで人を導入しやすくし、人員整理によるマンパワーで1人当たりの工数を減らす。それがアミッドが短時間で開発を終わらせる秘策であった。

 

「ですが、調合しきれない場合はどうするのですか?」

 

「……それが出ないように祈っておいてください」

 

 男性団員の質問に対し、痛いところを突かれたように額へ手をやるアミッド。

 

 何を隠そう、この秘策は実のところ穴だらけだった。

 いくら調合できても【調合】の発展アビリティの有無が解呪の明暗を分けるのであれば、【調合】の発展アビリティ持ちか【神秘】の発展アビリティを持つアミッドしか作れない。

 そこからさらに【調合】の発展アビリティをもってしても解呪できないとすれば最悪だ。アミッドが全て手作業で行わなければならないため、アミッドが通常行っている業務を全員で回さなければならない。

 

「仮に団長しか出来ないとなったら……」

 

「1人で1から開発でないだけ、楽な物ですよ。ふふ、ふふふ」

 

「アミッド様、我々が全力で手伝いますから。ねっ? ねっ?」

 

 よほど考えたくないのか不敵な笑みをこぼすアミッドに、全員の心が1つになったのは言うまでもない。

 

***

 

 なにはともあれ、まずは呪詛(カース)の症状から知ってもらうことになる。各自、手元に十分気を付けてもらいながら小さく傷をつけ、そろそろ消費期限が迫っている回復薬(ポーション)を垂らしたり、あるいは桶に貯めた回復薬(ポーション)に指を突っ込んだり、他にも解呪の効果を持つ魔法やアクスの治癒魔法といった様々な検証を行ったものの、やはりアミッドの治癒魔法しか解呪に至ることが出来なかった。

 

「駄目ですね。精神力(マインド)を増やしても効果がないです」

 

「そうなると、アミッド様だけ……というのが気になります」

 

「私には異常効果と精神汚染に耐性を持つスキルがあるので、おそらくそれも作用しているからかと」

 

 アミッドのステイタスは誰も見たことはない。アクスでも『弟権限』を発動させようとも今まで見せたためしがないため、本当に彼女が言うようにスキルによる効果で解呪出来ているのかが分からないし、分かっても『じゃあどういう方向で調査を続ける』と次の検証に繋げることが出来なかった。

 

 すると、いつの間にか姿を消していたアクスが戻ってくる。『どこに行っていたのか』と団員たちが問う前に、アクスは適当な調合器具を使って何やら調合を始めた。

 

「アクス、材料を無駄にしてはいけませんよ」

 

「つーか、何作ってんだ?」

 

「んー、秘密。お姉ちゃん、ちょっと屈んで」

 

 薬草にエルフがよく飲んでいる妖精(アルヴ)の清水。後は神聖っぽいものといった諸々を極々少量ずつ手あたり次第入れながら混ぜていたアクスは、屈んだアミッドの銀色の髪を1本抜く。『痛っ』という言葉と共に涙が出たアミッドだが、アクスの人差し指が彼女の目元を拭うことで涙を拭きとるや否や調合している液体に入れる。

 

「えーっと、髪の毛と……涙。これぐらいかな」

 

 目の前のパルゥムが何をしているのかよく分からない。そんな空気が調合室に充満していると、1人の団員が何かに気づいたらしい。

 

「もしかしてアクス、ディアンケヒト様がこの前やってた温泉みたいなことしてるんじゃ……」

 

「うん、お姉ちゃんの出汁で色々効能が出てたから。お湯が抜かれてたから、代わりに髪の毛とか入れたの」

 

 ケヒトの湯。【ミアハ・ファミリア】の計画を奪う形で作られた温泉施設だが、とある冒険者(ベル・クラネル)のせいで全損した幻の存在である。

 地下にダンジョンがある以上は温泉なんぞ出るはずがないのだが、その秘密はアミッドが魔法で生み出した聖水に自ら浸かった所謂『残り湯』にあった。主神命令とはいえ、無理矢理計画の核に組み込まれたことを思い出したアミッドは『出汁って言わないで!』と反論するものの、その残り湯の効能を思い出した団員たちは一斉にアミッドを見つめる。

 

「あの……、皆さん? 顔が……怖いです」

 

「はい、集合! 団長をお風呂に沈めるわよ!」

 

「言い方ぁ!」

 

「大丈夫です。私たちがばっちり、しっかりサポートしますので」

 

「俺たちは風呂沸かしにいくぞ。あ、抜けた髪とか回収よろしくな」

 

 一緒に入れない男性団員が急いで風呂の支度をし、一緒に入れるマルタ含めた女性団員がアミッドを担ぎ上げて宿舎の方へと連れて行く。

 おそらく、これから彼女は少なくとも数十分は風呂に漬けられ、全身エステも裸足で逃げ出す至れり尽くせりなサービスを受けるだろう。抜けた髪と残り湯を回収されるという筆舌し難い恥辱もおまけで付いてくるが、それはそれ、これはこれである。

 

「カ〇オと昆〇のラブゲーム~♪」

 

「訳が分からないけど、それを絶対団長の前で言うんじゃないぞ」

 

 半泣きになりながら悲鳴を上げる彼女を残った男性団員が何とも言えない表情で見つめつつ、アクスの口ずさむ歌にツッコみを入れていた。

 

 そうしてたっぷり40分。アミッドの涙と髪の毛入りの何やら変な物体がすっかり液状化した時分にアミッドを連れた女性団員たちが帰ってきた。彼女たちはバケツや瓶を持っており、その中に髪の毛や残り湯。後は身体を洗う際に出た……出汁の素と形容した方が良さそうな物まで持って来ていた。

 

「あなた方は私を何だと思ってるのですかぁ……」

 

『今は素材です』

 

 謎の連帯感を見せた団員たちは、アクスの作ったアミッドの髪の毛と涙入りのおかしな物体に次から次へとアミッド由来の物などをぶち込み始める。当てはないが、呪詛(カース)である以上は神聖な物をぶつけてやれば消え去るというのがアクス含めた全員の認識だった。

 

 え、残り湯とか不浄に当たる?──素人は黙っとれ。

 

 そうして色々混ぜた末に……。

 

「出来たー」

 

「いやー、結構混ぜたな。……で、誰が使うんだ?」

 

 出来たのが薬というより暗黒物質と見紛う不思議な液体であった。呪武具(カースウェポン)である短剣よりも黒い液体に、『啜れよ』という空耳が聞こえてきそうなほどの圧が宿っている。

 見た目からして神聖と真逆の悪魔儀式の産物であるがゆえに全員が拒否するが、『自分の一部が入っている物を他人に飲ませられない』とアミッドが手を挙げた。

 

「アクス、これ大丈夫ですよね? 人体に害とかないですよね?」

 

「分かんない」

 

「分かんないかぁ……」

 

 それは作成者として致命的ではなかろうか。ただ、1回で成功するとは思っていないアミッドは意を決して口にする──のは怖いため、呪武具(カースウェポン)で軽く指に傷をつけてから真黒い液体に指を突っ込んだ。

 えらくドロドロした感触に顔を顰めるものの、取り出した指の傷が徐々に小さくなっている。

 まさかの初回で今後の方向性を決定出来たことに思わず『噓でしょ……』と呟いた。

 

「え、あんなバカみたいな調合で治ってる」

 

「すげぇ、バカみたいに材料ぶち込んだのに」

 

「アクス君、すごいね。バカみたいなことしてたのに」

 

「バカじゃないもん!」

 

 あんまりにもバカバカしい切り口と適当を極めた調合内容を賞賛する団員たちだが、どこからどう聞こうがバカにしていることに気づいたアクスは怒りながら文句を言う。

 どうやらアミッドの出汁であれ、毛であれ、なにか一部を触媒とするケヒトの湯をオマージュした方針は正解のようだ。問題は山積みだが、後はこの方向性で──といったところで何やら頭を緩やかに揺らしたアミッドがそのまま寝てしまった。

 

「ちょっ、まさか別の呪詛(カース)!?」

 

「起こせ! 起こせ!」

 

 再び騒然となる調合室。いくら労働基準すらないこのオラリオで過労死1歩手前の激務をこなしている彼女であってもいきなり眠りこけるのはおかしいと団員たちは慌てふためくが、アミッドは特に苦しむこともなく寝ていたので徐々に混乱は収束していく。

 

「まぁ、特に苦しんでねぇから良いか。団長もここ最近は寝てないからなぁ」

 

「いざとなれば解呪を片っ端から試す方向で行きましょう。その間はこのアミッド汁とかで一通り試しましょうか。皆、無暗に呪武具(カースウェポン)でザクザクしちゃ駄目よ。アミッド起こさなきゃならないし」

 

 古株の女性団員の指示に夜中にも拘らず全員の元気な声が聞こえるが、アミッドはそれすらも気づかずに夢の中を謳歌──していなかった。

 

***

 

 これは夢ですね。私──アミッド・テアサナーレはそう確信する。

 先ほどまで調合室に居たはずが、いつの間にか暗い部屋の中央に座っているという状況に陥っていることももちろんですが、座っている私を取り囲むように扉が配置されている。

 魔法やスキルといった具合に神の恩恵(ファルナ)で発現したものはたまに神ですら把握できない神秘を秘めているとディアンケヒト様が仰っていましたが、この状況はそれらとは一切関係ないでしょう。

 

 さて、困りました。未だ呪詛(カース)の対抗策が出来ていないので、夢ならば早く覚めなければ開発する時間が無くなってしまいます。

 試しに頬を抓ったり、軽く歩いたりして見ましたが、特に覚めなければ感覚がない。やはり、夢であることは当たっているようですね。

 

 そうなると、今の私の身体はとてつもなく深い眠りについているのでしょうね。ディアンケヒト様の無茶ぶりや【ロキ・ファミリア】の皆さんの治療でかなり酷使していましたし、その反動も少なからず関係してそうです。

 そろそろお酒でも……ゴホン。アクスを……ゴホンゴホン。いけませんね、1人だとついつい気が緩んでしまいます。

 

 こちらからのショックで目覚めないとすれば、やはり自発的に目が覚めるまで待たなければなりません。……夢の中ですし、周囲の扉でも探索してみることにしましょうか。

 そう思って1枚の扉を開いて中へ入る。その瞬間、私はこの夢が『悪夢』の類だとすぐに分かりました。

 

 ──だって。

 

──────────

 

「ヘイズ()()()()()、治療終わったー」

 

「はい、よく出来ました」

 

 ……はっ、放心していました。

 ここは戦いの野(フォールクヴァング)ですね。昔、アクスに道を教えるためにオッタル様と一緒に向かった時に見かけた門構えなので、おそらくはそうでしょう。

 あの頃も思いましたが、皆さん喜んで切り刻んでますね。あぁ、血が流れ過ぎて動けない方もいらっしゃいますし。

 よくよく考えてみれば、この現場はアクスの教育に非常に良くないのではないでしょうか。今一度、ヘイズ様かオッタル様とお話しなければなりませんね。

 

「はーい、アクス君は早く宴の準備に入ろうねー」

 

「はーい、ロナお姉ちゃん」

 

 あの方はたしか、ヘイズ様の部下の方でしたか。

 もしかして、アクスは私の知らないところでお姉ちゃんと言っているのでしょうか? いえ、そしたらヘイズ様のことも姉扱いするはず。そう考えると……、まさに悪夢ですね。

 こういう時は退散するに限ります。奥の方で『ヘグニお兄ちゃん』と言っているアクスの声が聞こえますが、多分【フレイヤ・ファミリア】の皆さんのことをお兄ちゃんやお姉ちゃん呼びしているのでしょう。本当に悪夢です。

 

──────────

 

 ふぅ、なんとか無事に帰ってこれました。ちょっと閉め方が乱暴だった気がしますが、この際良いでしょう。

 この様子だとまだまだ夢から覚めそうにありませんし……、怖い気もしますが別の扉に入ってみましょう。

 

 どうやらここは黄昏の館のようですね。アクスが人と出会うごとにお兄ちゃんやお姉ちゃん呼びをしていますし、なにやらラウル様とアナキティ様がアクスの手を持って仲睦まじく歩いている様子も見受けられます。もはや夫婦なのでは? 

 しかし、特に変わったことはないですね。もしかしたら私ではなく、フィン様たちに拾われる運命も──。

 

「レフィーヤお姉ちゃん、ランクアップおめでとー」

 

「ありがとー、アクス君」

 

 悪夢の再来と言えば良いのでしょうか。えぇ、歳が私よりも近いのは分かります。分かりますよ? 

 ですがね、レフィーヤさん。エルフは肉体的接触を嫌うのではなかったのですか? アクスを抱き上げながら喜んで……。あぁ、頬ずりまでしてだらしない顔を浮かべてっ! エルフは実はエ()フという情報を流布してあげましょうか! 羨ましい! 

 

 オホンッ! もうここに居るのは耐えられません。私は元の場所に戻らせてもらいます。

 ……蹴って閉めたのはやり過ぎでしょうか? 

 

──────────

 

 その後も悪夢は続きました。

 以前にアクスが【ヘスティア・ファミリア】廃教会で、パルゥムの少女相手に『リリルカお姉ちゃん』と言ったり。

 【アポロン・ファミリア】にて『ダフ姉ちゃん』と変わったあだ名をつけて怒られるアクスの姿だったり。

 何故かギルドの制服を着て長蛇の列を捌いていたり。

 

 そして、なにより──。

 

「ナァーザお姉ちゃん、回復薬(ポーション)並べ終わったー」

 

「ふふっ、ご苦労様。アクス」

 

 今、あの子(アクス)は何と言いましたか? 

 それにナァーザ・エリスイスゥ!? 私のアクスを抱き上げてっ! おのれっ、夢であっても許しませんよ! 

 

「アクスはやっぱり可愛い。世間はお人形の聖女様が良いって言うけど、あんなの顔が良いだけだから。総合的に見てアクスの圧勝、アクスしか勝たん」

 

「くすぐったいよ、お姉ちゃん」

 

 姉の作法を教えてあげましょうか? 姉はそのように弟を玩具のようにべたべたと触れ……触れ……触れて……最近は忙しくて全然あんなことをしてないのにっ!

 くぅっ! 夢なら早く覚めてください。このままでは頭が……あぁ……頭が壊れる……。

 

***

 

 まるで魔法が着弾したかのような音に調合室に居た全員が寝ていたはずのアミッドを見る。いくらゆすっても起きなかった彼女は元気一杯……かは怪しいが、すっくと立ちあがるとともに周囲を見渡した。

 

「団長、血が出てますよ」

 

「驚かせてしまい、申し訳ありませんでした。あ、血……ですか」

 

 手近の布で頭をぶつけた際に出血した部分を抑えたアミッドだが、彼女は赤く染まった布をじっと見ながら突飛なことを言い出した。少なくとも、先ほど出汁とか髪を調合しようとして狼狽えていた彼女とはまるっきり反対の意見だったため、『悪い所にぶつけたか?』と心配する団員たち。

 そんな不安を他所にアミッドは特級呪物と化した代物を処分して調合器具を洗っていたアクスを捕獲すると、自らの膝に乗せて調合を始めた。

 

「お姉ちゃん、やり辛いでしょ? 調合するなら降りるよ」

 

「いいえ、このまま居てください。おねがい、ここに居て」

 

 大事なことは2回言って確認を取ることは多々あれど、なぜこの状態で2度も言ったのだろうか。アミッドの意図が分からずにアクスはただ、彼女が作っている薬の調合過程を見物する。

 基本はアクスが作った()()と何ら変わらない。ユニコーンの角などの解毒などにも効果があるドロップアイテムを次々と混ぜ入れ、薬効が高まる薬草を煎じる。

 このまま妖精(アルヴ)の浄水など清潔な水を入れながら混ぜ合わせ、ゴミを漉し取れば高い薬効で人々を癒す薬が出来上がるが、アミッドはここでひと手間を加える。

 

「髪でも残り湯でも微妙でしたが、これならおそらく……」

 

 そう言って妖精(アルヴ)の浄水を入れた内容物に呪武具(カースウェポン)で指を切ったアミッドは、指を逆さまにして呪いに晒された血を混ぜ入れる。

 

 一見すると髪や出汁から血に変わっただけという失敗する方が当然な実験だが、アクスの劇物によってアミッドの中には『呪詛(カース)()()』という1つの懸念点が生まれていた。

 彼女の一部か、数々の神聖な材料。または傷口を液体に入れたことで混ざった血。要因は数あれど、それらによって呪いは()()しているのではないだろうかというのがアミッドの考えである。

 それも不治の呪詛(カース)から悪夢を見るだけという悪戯程度の呪詛(カース)へと明らかに薄まっている。それによって呪武具(カースウェポン)で傷つけたアミッドの指から傷が消え、代わりに傷口から入ってきた悪夢を見る呪詛(カース)を受けた──と考えれば辻褄がいく。

 

 だが、残念なことにこれらは決して確証はない憶測だ。それでも、アクスが作った物はアミッドの一部を使うことを除けばお高い回復薬(ポーション)特有の高価な素材を無暗に突っ込んだだけなので、『違う』と言える根拠が薄い。

 ならば、呪いの浄化や変質に繋がるものは何だろうか。決まっている、()()()()()のどれか──それも血だと推測する。

 

 何故かと言われると説明できる自信はなく、汗などが混ざった湯でもそういった効能があるのは予想外ではあったものの、彼女の血には少なからず癒しの効果を上げる効能が含まれていることは分かっていた。

 なので以前、遠征に赴くアクスに渡した数本の高等回復薬(ハイ・ポーション)にはアミッドが僅かに血を混ぜていた。ひとえに弟を心配する姉としての気持ちの表れとしてあくまで『アクス用』として渡していたのだが、今更になって彼女はふと思う。

 

 今思えばかなり恥ずかしくて()()行動だったのではないだろうか──と。

 

「お姉ちゃん、顔赤いよ」

 

「お願いだから静かにして」

 

 『なら、膝に乗せなきゃ良いじゃん』というアクスの意見を無視しながらも、アミッドは『今までで1番』と自画自賛できるほどの手捌きでもって1本の薬を完成させる。

 しかし、問題は効能があるかどうか。誰か代表者をするかと話し合いをしようとしたが、そうしている間にアクスが短刀で自分の手を切って試してしまう。

 

「だ・か・ら! お前はいちいちアホなことするんじゃねぇよ、こんアホー!」

 

「時間も"った"いな"いも"ぉぉん!」

 

「まぁ、治ってるから……。完成ってことで良いですか?」

 

「はい、ひとまずはこれを3本用意します。1本はフィン様に確認していただきますが、2本は劣化速度の検証に回しましょう」

 

 世界を狙えるほど鋭い拳骨を食わらせた男性団員の前で()()()()()()()()()()()()()()()()を見せながらワンワン泣くアクス。そして、それを『アクスですから』といつもの調子で眺めながら追加を生産していくアミッド。

 現状はコストが高くて量産目途が立っていない超高級品だが、元々のアミッドが決めていた仕様である回復薬(ポーション)のように液体系の物に仕上がっている。

 明日から薬師(ハーバリスト)でも量産出来るかの検証と材料費をどれだけ抑えることが出来るかの実験を行っていかなければならないが、それでも実際に効果がある試作品をほんの僅かな期間で開発できたためか、アクス以外の表情は明るかった。

 

 なお──。

 

「非常に高価な材料を使いましたが、呪詛(カース)の除去が出来ました」

 

「ごめん。何を言ってるか分からない」

 

呪武具(カースウェポン)の呪いを解く秘薬が出来ました」

 

「スゥー。…………はぁ!? えっ、えぇっ? 1日経ってないよ!?」

 

 何かの冗談だと思って叫んでしまったフィンに『分かっていました』とアミッドが呪武具(カースウェポン)と薬を渡し、実際に効果を確認してもらう。綺麗さっぱり失くなった傷に彼はひたすら『マジか』と未だ信じられないような顔をしていた。

 しかし、それでも実際に効果がある実物を見せられたのはフィンにとってありがたい報告である。そのまま量産するように頼み込むが、彼の言わんとしていることを予想していたアミッドは課題点を列挙していく。

 

「なるほど、課題か。ちなみに1本当たりの製造費っていくら程だい? もし安価なら、材料費に関しては気にしなくて良いよ」

 

「こちらを」

 

 そう言ってアミッドは生産する片手間で記載しておいた原料と現在の相場を計算した1本当たりの製造費を見せる。流石に『アミッド・テアサナーレの血』とは書かなかったが、それでも希少素材のオンパレードにフィンの目が飛び出る勢いだった。

 

「え、この金額って……本気かい?」

 

「最初は効果があるものと念頭に入れて作ったので、本気です。それをこれから抑えていくので、しばらくお時間をいただきます。ご容赦を」

 

「分かった、本当に頼むよ」

 

 幾万の言葉よりも説得力のある『明細』にフィンは何度も首を縦に振る。

 なにせ、今回支払ったお金はアクスへの献金もあって膨大だ。オラリオ最大派閥の一角ともいわれる【ロキ・ファミリア】でも、お財布事情には勝てないのである。




アミッド、風呂に沈められるの巻

啜れよ…
 PAPUWAって漫画にモテない薬ってのがありましてね。啜ってくれよ…。

悪夢
 雷電タメエモン様の小ネタをいただき、アミッドの一部を使って呪詛(カース)の変質という作用に改変しました。ありがとうございます

秘薬のプロトタイプ
 実はアクスが遠征に向かう時から既に出来ていた。
 愛が重い? 自分の血を呑ませる変態? それはそう。

秘薬のレシピ判明するの速すぎない?
 逆にこれぐらい早くしないと色々間に合わないと思いましたので…。
 ソード・オラトリアでは秘薬が魔道具(マジックアイテム)扱いなのに対してアミッドが『我々の製薬作業』と書かれていたので、『最後の仕上げ』で魔道具(マジックアイテム)化するように改変します。
 お値段はプライスレス。
 ※少なくとも魔道具(マジックアイテム)って神秘持ちじゃないと作れないって設定だったはず…。
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