ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

81 / 135
5月22日の昼からダンまち最新情報公開ですってよ、奥さん。

あら、ネルネルネルネルネルナッティ発売ではないの? 奥さん


57話:なぜなにアクス

 【イシュタル・ファミリア】が壊滅した報は直ちにオラリオ中に知れ渡ることとなった。

 なにせ壊滅させた犯人は【フレイヤ・ファミリア】。主神同士がとにかく仲が悪く、神々の中にはこの衝突が必然だったと叫ぶ者まで居る。

 しかし、仮にも大手同士の抗争。そのため、オラリオのパワーバランスを担っている(と思っている)ギルドとしては見過ごすわけにはいかないらしい。一般人の避難や治療という功績で幾分かは軽くなったものの、【フレイヤ・ファミリア】に対して何らかの罰則を課すという発表がギルドから為された。

 

 そんな今回の騒動だが、裏ではとあるファミリアの団長が【イシュタル・ファミリア】に強制的に入団させられ、邪法の儀式で用いる供物になりかけていた少女を救ったという、ある意味おとぎ話のような展開があったことは()()()()()しか知ることが無かった。

 

 そんな大事件が勃発した少しした後、アクスは再び【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)へとやってきていた。なんでも以前のことについて改めてお礼がしたいということらしく、念のために秘薬作りでちょっとハイになっているアミッドと決算書に埋もれて呻き声をあげているディアンケヒトに許可をもらってからの来訪である。

 

「ごめんくださーい」

 

「はーい」

 

【ヘスティア・ファミリア】の誰でもない声色の返事。件の『春姫』という人だろうかと考えを巡らせながら待っていると、1人の女性が扉から姿を現した。

 

 極東特有の衣装──タケミカヅチが言っていた『ワフク』に身を包み、絹のようにしなやかな金髪を生やした女性。特に気になったのは頭のてっぺんに生えた狐の耳。オラリオでは珍しい狐人(ルナール)という種族にアクスは微動だに出来ずにいると、何も言ってこないアクスに彼女が疑問の声を投げかけてきた。

 

「あの……」

 

「あ、申し訳ありません。【ディアンケヒト・ファミリア】のアクス・フローレンスです。本日、団長であるベル・クラネル様にご招待をいただいておりますが、御在宅でしょうか?」

 

「コンッ!? あなたがアクス様ですか? 春姫が予想していた方とは……その……」

 

「すみませんね、()()なので。ハハハ」

 

 猫人(キャットピープル)の『ニャー』みたいに狐人(ルナール)特有の言語というものがあるのだろうか。そんな種族に関する興味を抱きつつも、アクスはすっかり慣れた調子で笑っていた。

 

 遠くの都市からオラリオに出店してくる新進気鋭の商会や到着したばかりで主神を決めていない()()()()()()などと、オラリオに来たばかりの存在の中にはアクスがパルゥムと知らない人間が少なからず居る。

 未だパルゥム蔑視の風が強い世の中。そのため、いざ有名な【小神父】(リトル・プリースト)に治療を頼もうとしたところにパルゥムが現れると、『なんだ、この薄汚いパルゥムは!』と追い返されたり、『パルゥムが治療に来たぞ』と【ディアンケヒト・ファミリア】にクレームを入れる輩も居たりする。

 しかし、先にもあったようにそんな反応もアクスにとってはすっかり慣れっこだ。春姫の心底申し訳なさそうに謝罪するのを聞き流した彼は、ヘラヘラしながら館へと入っていった。

 

 なお、余談だが先ほどの話には続きがある。

 実際の【小神父】(リトル・プリースト)の姿に肩透かしを食らってアクスを追い出したりといった商会やもどきを含めた冒険者だが、絶対に()()()()()と相場が決まっていた。商会の場合はどこからそれを聞いたのか分からないが、大手ファミリアの逆鱗に触れたという噂が1人歩きした末に客も融資も入らずに撤退を余儀なくされ、強者こそ全てで横の繋がりが強い冒険者は最悪の場合()()()()()

 ざっくりとした言い方をすれば、『村八分』というやつだ。ここ、オラリオでは冒険者のせいで年間の死亡者が鰻登りなものの、それに待ったをかける医者というのは得てして強いものなのだ。

 なお、その話を神会(デナトゥス)で聞いた極東から出てきた神が『座敷童みたいだな』と言ったから、アクスの2つ名が【ザシキワラシ】や【コロポックル】になりかけたのは秘密だ。

 

 閑話休題。

 再び応接室に通されたアクスにベルが頭を下げてくる。詳しい事情はまだ聞いてはいないが、肉のお礼ではなく回復薬(ポーション)や治癒魔法についてのお礼なことや自分を『春姫』と呼んでいた女性がここに居ることを総合すると、【イシュタル・ファミリア】と1戦交えたことは明白だ。

 改めて考えると【ヘスティア・ファミリア】の戦歴が中々におかしいことに気づいたアクスは、ベルに向かって苦笑いを浮かべる。

 

「いえ、それよりも【ヘスティア・ファミリア】ってすごいですね。アポロンファミリアの次は【イシュタル・ファミリア】ですか。……あー、急用思い出したので帰ります」

 

「止めて、そんな物騒な集団みたいなこと言わないで! 違うからっ! 成り行きだから!」

 

「そうだぞ、アクス。うちは真っ当なファミリアだ。ただ、団長の成り行きで喧嘩を買っただけだ」

 

「そうですよ、それ以上暴れるなら……()しますよ?」

 

「サポーターくぅん!? 物騒なことを言うのは止めたまえ! ほ、ほら神父君。僕たち怖くないよー?」

 

 言い方が正にヤのつく自営業のそれであるリリルカはともかく、普通のファミリアは成り行きで歓楽街を牛耳っているファミリアの喧嘩を買わない。後からベルと命が拉致られた挙句、命とは旧知の仲という春姫がとある邪法の生贄とされかけていたという話を聞いて納得はしたものの、借金の額が多くて入団希望者が逃げたと話題のファミリアの行動としてはちぐはぐな印象をアクスは受けた。

 

「まぁ、攻め込んだのは【フレイヤ・ファミリア】になってますからね。ベル様たちのはあくまで()()()でしょう」

 

「春姫殿の役割的にはそのおまけが致命的だったと……あっ」

 

 命が失言をやらかすが、ファミリアの事情に安易に踏み込まないのが鉄則ゆえに聞かなかったことにしたアクスに改めて春姫が紹介される。その最中に以前は【イシュタル・ファミリア】の経営する娼館で娼婦をしていたと言い辛そうに話してくれた者の、アクスはその経歴が()ではないかと感じていた。

 

 中性的なベルはともかくとして、いかにも男の身体といったヴェルフからもちょっと距離を置いている。人間が行う繁殖行動的にその反応をした娼婦はあり得ないのではないかと、アクスの脳内に居るイマジナリーなディアンケヒトとアミッドが手を振って否定したのだ。

 

「そういえば、ベル様。【イシュタル・ファミリア】との戦闘で怪我とか負っていらっしゃいませんか?」

 

「あ、そうだ。回復薬(ポーション)で治したんだけど、背中が気になるかな。……ほら、ここ」

 

「申し訳ありません。見落としてました」

 

「コンッ!?」

 

 ゆえにアクスは一芝居打つ。

 往診の癖で他人が不快にならない程度に背中を見せるベル。確かにミミズ腫れのようなものが残っているため、リリルカが己の失態を謝罪する一方で春姫が尻尾の毛を逆立てて動きを止めたのだ。

 かといってそっぽを向くわけでもなくベルの顔に反して鍛えられた腹筋をガン見しているため、『これで娼婦は無理でしょ』とアクスは自分の考えを春姫に伝えようとして──やめた。

 

 流石に現状を鑑みてつらつら説明し、『【ディアンケヒト・ファミリア】に女性団員沢山いるので、調べてもらえばどうです?』と言ったが最後。即座にクレームに発展し、秘薬作り中で中々にフラストレーションの溜まっているアミッドに『()、やりましたね?』としばかれる未来が確定しているからだ。

 

「ともかく、君のおかげで春姫君が助け出せた。後、お肉もおいしくいただいたよ。ご馳走様」

 

「そうですか。では……このあたりで」

 

「あ、すみません。神父様」

 

 ベルに治癒魔法を掛けた後、用件は済んだと立ち上がるアクスにリリルカが手を上げる。治療のし忘れかとヴェルフや命を見るが、彼らは首を左右に振るばかり。半ば同盟関係である【タケミカヅチ・ファミリア】の方でなにか怪我人かと言われるとそうでもないらしい。

 言い辛そうにするリリルカに要件を問うと、彼女は『ダンジョンのこと』と控えめに言い出した。

 

「僕、【ディアンケヒト・ファミリア】所属なんですがねぇ」

 

「ですが、ギルドからの依頼で上層を単独で巡っていますよね。リヴィラの街への往診でも異なるパーティで向かわれているとお聞きしますし、立ち回りについて神父様はリリたちよりも上だと思っています」

 

 流石にそれはよいしょのし過ぎだ。アクスは後衛──それも攻撃力が皆無な治療師(ヒーラー)である。

 それに、上層での単独行動をして無事なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()といった諸々で培った判断能力。それとアクスを見て治療してもらえると冒険者に思ってもらえるほどの経歴があるからに過ぎない。

 しかし、それを謙遜と捉えたのか、リリルカは春姫がパーティに入った際に起こったいざこざのことを話し出した。

 

「魔剣の使いどころについて教えて欲しいのです。ヴェルフ様からポンポン使うなと仰られてるのですが、リリの判断でかなり使ってしまいまして」

 

「おいおい、リリスケ。それはアクスに相談することか?」

 

 目の前で舌戦と言い難いほどの口喧嘩が勃発しているが、アクスはリリルカの悩みと真摯に向き合う。

 

 魔剣。作れる者が限られ、お値段も高いが『魔法』を放てる武器。上層ではこれ1本だけで大抵は対処出来、中層ではいざという時の突破口をこじ開けることが出来る汎用性の高さから中堅に手が届くファミリアでは1本は必ず所有している。

 

 特にヴェルフの家名ともなっている『クロッゾの魔剣』の威力は絶大だ。最強の対軍武装にして、万の軍勢や神聖かつ不落なエルフの森を焦土と化す制圧兵器。そんなド級の威力を放てる魔剣が切り札と呼ばずに何と呼ぶのか、学の浅いアクスは知らない。

 そんな切り札の切り時と言えば緊急時。ただ、その()()()()()は人によって違うことが目の前で行われている喧嘩の発端とアクスは考える。

 

 そうなると意見のすり合わせこそが1番の近道だ。アクスはベルから適当な紙をもらい、自前のペンで歪んだマス目を書いていく。そうして『疑似戦盤(ハルヴァン)』というべきものを生み出した彼は、小さく破った紙片にそれぞれの名前と『モンスター』という文字を書いてリリルカに渡した。

 

「リリルカ様の言う"危険"とはなんでしょう?」

 

「そうですね。最悪が後衛が前衛と分断された時。特にまずいのが……、こんな具合にモンスターとの距離が詰まっている時です」

 

「では、立ち上がって危ないと感じる距離を教えていただけますか?」

 

 疑似戦盤(ハルヴァン)で状況を再確認したアクスが立つと同時にリリルカが立ち上がり、彼女が危ないと感じる距離を実際に測る。

 1歩──2歩──3歩。広い応接室の半分ほどだろう距離でリリルカが危険と判断したため、それを見たヴェルフが吼えた。

 

「リリスケ、ふざけろ! そんな距離、ダンジョンじゃ当たり前じゃねぇか!」

 

「はい! 極々ありふれた距離ですが、リリたち後衛にとっては生死を分けます!」

 

 ヴェルフが何かを言えばリリルカが反論し、その逆もまた起こる。そしてベルはと言うと、それぞれの主張が分かる分、どちらの味方も出来ないと慌てるばかり。

 しかし、そんな()()()()()光景を見ていたアクスはこう思った。

 

 あぁ、よく聞くやつか──と。

 

 酒場やギルド。たまに担ぎ込まれた治療院の中でさえも勃発している内容なので、アクスにとっては目の前のやり取りに新鮮さはなかった。

 それでも、この問題を解消するにはアクスでもかなり難しかった。今回の発端は各自の危険と思える距離の認識にずれがあることだが、それを指摘しても各自は『なぜ』と言って納得せずに結局は泥沼化してしまう。

 アクスもリヴィラの街へ往診に行くための護衛として決して少なくないパーティのお世話になったが、そういった前衛と後衛それぞれの認識に齟齬が起きて喧嘩。どちらも譲らずに道中で言い争いを行い、リヴィラの街で本格的に決裂してパーティ解散してしまったということを何度か見かけた。

 

 しかし、『あ、ここフィンゼミで出たところだ』と言ったところか。先だってのフィンによる詰込みでファミリアやパーティで良く陥る問題や解決策の一端もついでに学んでいたアクスにとってはかなりタイムリーな話題だった。

 

「……ダンジョンに、行きましょうか」

 

「え、いや……。今から?」

 

 突然ダンジョンに誘われたベルたちは呆気に取られるが、アクスは『明日でも良い』と言ってさっさと館から出て行ってしまう。

 こういう時は現地で実際に体験をしなければ分からず、そういったことは歴史のあるファミリアであれば先輩冒険者に連れられてある程度の知識を備えた上でパーティを組んで冒険するのだが、【ヘスティア・ファミリア】は作ってまだ1年も経っていない。

 加えて団長も続けざまにランクアップという偉業どころか()()な成長速度をしているが、冒険者になって日が浅い。他のメンバーと言えばベルと一緒になるまで冒険者とあまり長く接点を持たなかったサポーターか、一匹狼気質の鍛冶師。あとはオラリオに来るまで寝食を共にした家族と言うべき存在と潜っていたアタッカーだ。

 そりゃ、ファミリアの最大の武器である『常識(セオリー)の蓄積』が無ければリリルカとヴェルフのような軋轢を生むのは仕方のないことだ。

 

 それに、なんといってもヴェルフは椿たちと違って『魔剣を嫌う鍛冶師』だ。ヘファイストスから何か言われたみたいだが、未だにその思想は炉に残った鉄のように固くこびり付いている。

 

「ヴェルフさんについてはヘファイストス様任せかなぁ」

 

 助けを求められた協力者の立ち位置にあっても、どのみちアクスは()()()だ。適当に言うつもりはないが、答えの一端を見せるだけで関係が終わるので深追いはしないと心に決めている。

 結局は明日に実演しながら結論を述べ、後はファミリア内で話してもらう他ない。明日の予定について決めたアクスは、治療院へ帰って【ヘスティア・ファミリア】絡みで1日使いたいことをディアンケヒトとアミッドに報告する。

 

『現状を理解できていますか?』という社会人にとって胃に来る言葉を投げかけられたものの、近所の有力なファミリアと接点を持つことは回り回って【ディアンケヒト・ファミリア】のためになる。そう考えたディアンケヒトは、『貸しは出来るだけ作っておけ』と許可を出した。

 そんな放任主義みたいなことを言う主神にアミッドは食って掛かるが、対して彼はこう尋ねた。

 

 ──外に出たアクスを制御できる存在が居るか? 

 ──居ませんね。

 

 相手はそこら辺をウロチョロし、何か困ったことがあれば話を聞きながら治療して適当にお小遣いを強請って他所に行く治療師(ヒーラー)お化けである。悔しいが、その通りなので文句のつけようが無くなったアミッドも許可を出した。

 

***

 

 次の日。ダンジョンの12階層を歩きながらベルたちはアクスの質問に1人ずつ答えていた。

 

「皆さんって強いファミリアの特徴は何だと思います?」

 

「冒険者が強いとか?」

 

「パーティが充実していることだな」

 

「装備が充実しているとかでしょうか?」

 

「サポーターの有無も欠かせません」

 

「人の多さ……でしょうか?」

 

 それぞれが異なる意見を述べていくが、それらは()()()()()()()()()()()()()()。トンチのように聞こえるかもしれないが、どれも大事なことであり、強いファミリアにはたいてい備わっている物なのだ。現にゼウスやヘラのファミリアが記録した最高到達階層をもう少しで追い抜く勢いの【ロキ・ファミリア】ではその全てが高水準にあることは確かだ。

 

 だが、『どれか』という明確な答えが出ない会話ということで話は途切れてしまう。そんな中、ダンジョンに入ってから今まで一切のアイテムを使っていないリリルカが機嫌良さげに話を振ってきた。

 

「やはり治療師(ヒーラー)が居ると違いますね。神父様にはこのままパーティに居て欲しいですが」

 

「僕はあくまで【ディアンケヒト・ファミリア】なので……。それに今後、治療師(ヒーラー)の方が入られることも在りますよね? なら、僕が実際に治療師(ヒーラー)の主な動き方を皆さんに見せた方が後に繋がりやすいと思うんですよ」

 

「あ、先ほどからアクス殿が言わんとすることが分かりました。我々に足りないのは、"経験"ですね」

 

 アクスのヒントに命が正解を答える。ただ、経験というざっくりなことを言われてもベルや春姫にはさっぱりだったため、一旦13階層へ降りる階段手前の広場で小休止を取るついでに説明を始めた。

 

 先ほどの通り、経験と一口に言ってもアイテムを購入するテクニックだったりと準備の知恵の場合もあれば、階層で出てくるモンスターの情報や適した陣形の組み方などダンジョン内でやるべきことなど様々だ。

 それらはファミリアの財産であると同時にファミリア設立当初から連綿と続く歴史そのもの。ゆえに先達の失敗を取り込んだ上で新たな経験として記録されているわけなので、イレギュラーでもなければ上層や中層の初期程度では全く揺るがない磐石な常識(セオリー)が出来上がるわけだ。

 それさえ出来ればいくら後輩が出来たとしても、常識(セオリー)に従えばまずは生きて帰れる。そうして後輩も力を付ければ新たな階層に進出できる……ということも可能である。

 

「まぁ、常識に捉われて足元をすくわれることも在りますけどね。ようは時には常識に則って、時にはそれを破る柔軟さが大事ということで」

 

「んで、今回はその常識(セオリー)ってやつを学ぶ必要があると?」

 

「そうですね。実際にどのモンスターであればどの位置が危険なのか……と、リリルカ様。これを」

 

 今回の趣旨をようやく理解したヴェルフに頷いたアクスは、持って来ていたバックパックから妙にゴツい上着を取り出してリリルカに着せる。見た目通りに重く、その重さにリリルカは何事かとアクスに問いかけて脱ごうとするものの、彼は『念のため』と言って止める。

 

 これは階層主など、アミッドが【戦場の聖女】(デア・セイント)として戦場に出向く際に着る本気装備──のプロトタイプだ。お下がりとして半ば押し付けられたが、サイズがちょっと大きくて【ディアンケヒト・ファミリア】の中で洋服作りが趣味の裁縫が上手な団員に仕立て直しを依頼したら──いつの間にか全く別物になった代物である。

 

 曰く、『せっかくだから』と己の独創性を活かし。

 曰く、『これもつけないと危ない』と他の団員がサラマンダーウールなどの耐性を上げる素材を買い込み。

 曰く、『じゃあ、物理も上げないとな』と金属板を持ってくる。

 そういった魔改造を経て出来上がったそれを見たアクスは、ただただ固まるしかなかった。

 

「愛されてますねー。重いですが」

 

「愛されてますね。少々重そうですが」

 

「愛されてんなぁ。パルゥムにしては重すぎるだろ、これ!」

 

 法衣の説明を聞いた途端に放たれた感想に、アクスはただ笑うしかなかった。

 こうして総重量も()()で重すぎる装備ということで埃を被っていた特注法衣を着せたことで多少は進軍速度を落としつつも、彼らはいよいよ中層へと足を踏み入れる。

 

「では、今回のリリルカ様とヴェルフ様の諍いの原因の検証を行いましょうか」

 

「どうするんだ? まさか、わざとリリスケに攻撃を当てさせる気か?」

 

「その通りですよ?」

 

 あっけらかんと言うアクスに騒然となるパーティ。しかし、こうでもしないと前衛は後衛の危険な距離を把握しづらいし、後衛は前衛に守ってもらえる距離を把握できない。

 もちろんだが中層から徐々にレベルを上げるつもりだし、危険だと判断したらすぐに撤退する前提である。そのためにわざわざ重い法衣を持って来てリリルカに着せていることを言うと、ベルによる大きく頷きながらアクスの提案に乗った。

 

「ベル様!?」

 

「ここで気付かないと、下に行ったら取り返しがつかないと思うんだ。だから皆、やろう」

 

「そうだな、いつまでもリリスケと喧嘩ってわけにはいかねぇしな。怪我の心配がない内に確認しておいた方が良いか」

 

 治療師(ヒーラー)であるアクスが居るからというのが大半の理由であろうが、検証が始まった。

 まずはアルミラージを1体残し、前衛を()()()突破させる。後はアルミラージが後衛にたどり着くまでに反転した前衛が始末できるかを調べてみる。

 結果は成功。前衛が全員LV.2以上なので難なく後衛の前に立ちはだかって屠ることが出来た。

 

「まぁ、1体じゃこんなものか」

 

「では、もうちょっと奥に行きましょうか」

 

 あまり手ごたえが感じなかったのか、ヴェルフは軽口を叩く。

 しかし、あくまでアルミラージ1匹だ。これより早い存在は中層にごろごろいるし、ダンジョンギミックという予測が難しい事象も発生する。極度の心配性なリリルカの注意とベルの号令によってあくまでも慎重にダンジョンを進む一方で、様々なモンスターに出会いながら先ほどの検証を行っていく。

 

 アルミラージの集団や1匹にまで減らしたヘルハウンドではベルたちでも対処できたものの、大きな空間にたむろしてきたヘルハウンドやアルミラージの混成部隊に出くわした際に事故が起こる。リリルカの顔面に向けてアルミラージの持っていた石斧が飛んできたのだ。リリルカの側に居たアクスが寸でのところで借りていた槍を差し込んで弾いたものの、適切な距離感を未だに勘違いしていたヴェルフがその光景に顔を青くする。

 

「すまねぇ、リリスケ。()()を俺に言いたかったんだな。よく分かったよ」

 

「いえ、リリも迂闊でした。後衛だからと……離れていればいいと思ってました」

 

 ヴェルフが前衛と比べると防御が薄い後衛の危険性を再確認し、リリルカも前衛との距離が空いていると無駄に危険なことを理解する。双方の疑問が理解へと進んだところでアクスはこれ以上の探索はせず、一旦上層の安全な場所に戻って全員の認識を合わせるべきだと進言。ベルもそれに賛同してくれたため、一同は小休止した上層最後の広場まで戻ってくる。

 

「これで分かったと思いますが、全員が手一杯な乱戦であれです。仮にあれがヘルハウンドより上位のライガーファングだった場合や、ミノタウロスが後ろから出てきた場合などは対処が難しいと思います」

 

「あぁ、そうだよな。そのための……魔剣だもんな」

 

「はい。ヴェルフ様はご自身の魔剣は嫌いだと思いますが、ここはダンジョン。気を抜けば上級冒険者も容易く命を落とす穴の中です。魔剣がどうこうと言っていられる内にそのお考えは修正すべきです」

 

「くそっ、ヘファイストス様からの言葉を分かっていたつもりだったのにっ!」

 

 なにやら髪を掻き毟りながら悔しがるヴェルフ。元主神から何かを言われたのだろうが、アクスには関係ない。

 なので、今度は2人よりも()()()()()()()()()()()()()ベルに注意を促す。

 

「ベル様も団長なんですから、そういった知識をギルドで仕入れないといけないかと」

 

「うっ、うん」

 

「いえ、【ヘスティア・ファミリア】は結成して半年も経ってません。ですが、先だっての色々なことを踏まえて大きなファミリアになる話題性は十分にあると思ってます。……借金を返せばですが」

 

「ソウダヨネ」

 

 治療院や街中で管を巻く冒険者たちの話を聞くに、【ヘスティア・ファミリア】の借金は推定数億。深層のドロップアイテムをいくつか持って帰れば完済できる額だが、それを気安く出来るのはオラリオ最強(オッタル)ぐらいだろう。

 まずはその借金を返すこと。リリルカから借金の返済はヘスティアが行うと本人が言っていることを伝えられるが、【ロキ・ファミリア】の遠征のようにダンジョンは人手が居れば危険が分散される傾向が強い。

 さっさと返してバンバン人を呼び込み、彼らと先ほどのような【ヘスティア・ファミリア】だけの常識(セオリー)を作りながら攻略をする。それがファミリアを成長させる遠回りであり、近道なのだ。

 

「やけに詳しいですね」

 

「どっかのパルゥム仮面が教えてくれたんです。後、団長の大変さとか」

 

『厄介事が毎日やって来るんだ』と死んだ魚の目をしたパルゥムの旗頭筆頭(フィン・ディムナ)の姿が今でも鮮明にアクスの頭にあった。

 

 そんなこんなで問題も解決したところでダンジョンから引き上げようという話となった。道中、希少種であるインファント・ドラゴンと数匹のブルー・パピリオからそれぞれドロップアイテム出てくるという中々に()()なことが連続で起きた。

 

「じゃあ、僕はこれで」

 

「ちょちょちょ、何報酬受け取らずに帰ろうとしてるんですか!」

 

 ギルドに槍を返し、リリルカから法衣を返してもらったアクスは『あでゅー』と言いながらそそくさ帰ろうとするが、彼の腕をリリルカが掴む。

 しかし、既に全員分の魔石を換金して等分しているので報酬はもらっている。他に何かあるだろうかと首を傾げていると、リリルカはブルー・パピリオのドロップアイテムを差し出してきた。

 

「リリたちの問題を解決したわけですから、その分の報酬です!」

 

「いや、それはリリルカ様たちが気付いていらっしゃったので。いらないかなと」

 

「なぁ、ベル。こいつって冒険者だよな?」

 

「本人は治療師(ヒーラー)って言ってるけど……。多分」

 

 未だ押し問答を続けるパルゥム2人をベルとヴェルフは呆然と眺めている。

 そうしている間に彼女はアクスにブルー・パピリオのドロップアイテムを5枚手渡す。物欲が無さすぎるアクスにリリルカは半ばキレているのはご愛敬である。

 

「良いんですか? 9000ヴァリスぐらいしますよ?」

 

「良いんです。途中の治癒魔法とかでもらい過ぎてますし、なによりブルー・パピリオの翅が持つ鱗粉は傷口を治療する効能があるんですよね? そちらの聖女様ならうまく使ってくれますよね?」

 

 文句は受け付けないとベルたちを連れて本拠(ホーム)へ戻っていくリリルカ。思わぬ収穫を受け取ってしまったが、中々に良い冒険をしたと満足げにギルドを去ろうとしたアクスだったが──。

 

「あっ」

 

「げっ」

 

「あれ、たしか【小神父】(リトル・プリースト)だったよね?」

 

 はぐれ狼(ベート)と鉢合わせた。しかも、なぜかアマゾネスの女性を連れた状態で。




個人的にナイツ・オブ・フィアナの刊行がされたら、キアンねじ込みたい…。おじさんキャラ出したい。
この聖女(笑)、日増しにマクール団長に似てきてるなぁって言わせて殴り飛ばされたい

なぜなにアクス
 3、2、1、ドカーン!
 なお、全身火薬庫のМSに乗った無口キャラは付属しておりません。

アクスをバカにするとヤバい
 そりゃ、横の繋がりが強い冒険者が相手だと…ねぇ。
 まぁ、パルゥム蔑視なのは相変わらずですが。

魔剣使いすぎ問題
 ダンクロだかダンメモだかで見た気がするので。
 こういった相手との距離や駆け引きも蓄積され、ファミリアが強くなっていくのかなと思ったので、あくまで指揮のとっかかりとしてアクスを教師にしました。
 え、どっかの学区に居るLV.7のドワーフが見てる? 気のせい気のせい

こいつ報酬受け取らないな
 「魔石はもらってます! 取り過ぎは良くないと教えてもらいました!(フンスッ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。