ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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59話:命名

 ラキアとの話し合いを終えた次の日。アクスは往診の最後に【ミアハ・ファミリア】へと足を運んでいた。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)で有名になった【ヘスティア・ファミリア】が商品の広告塔をしてくれたことに加え、新たにミアハの眷属になったダフネとカサンドラによって『ケヒトの湯』になる前の設計図を担保として持っていかれるほどの極貧生活から一転、借金があるものの暮らしていけるまでに経営が乗っているらしい。

 

 彼女たちが言うには『2億ヴァリスとかいう【ヘスティア・ファミリア】よりマシ』と言っていたが、内部事情をある程度知っているアクスは借金だけはすまいと強く心に刻み込んだのは内緒だ。

 

「アクスがぽろっと借金を忘れてくれれば私たちはより幸福に生きられるんだけど……」

 

「それをすると、今度はお姉ちゃんが来ますよ」

 

「……やっぱり、大人しく払うしかないか」

 

 どれだけアミッドが嫌なのだろうか。渋々といった形でヴァリスの詰まった袋をアクスのバックパックに入れるナァーザにダフネたちが『ちゃんと返しなよ』ともっともらしいことを言っていると、ミアハやなぜか全身打撲状態でここに居るタケミカヅチがアクスに手招きをしてきた。

 

「アクス、用が済んだらここに座りなさい」

 

「ちょっと聞きたいことがある」

 

 唐突のご指名にアクスが首を傾げながら近づいていく。ただ、その後ろではナァーザたちがものすごく嫌な予感を過らせていた。

 具体的に言えばとてつもなくバカな会話を展開し、結局は堂々巡りで終わるというしょうもない相談事を傍で聞かされて余計に疲れるといった具合だろうか。なんにせよ、あの男神2人とアクスという組み合わせは恋する乙女にとっては特効以外何物でもない。

 いざとなれば仲裁というか、助言というか……。なんにせよ、ダフネたちには荷が重いだろうとナァーザは何食わぬ顔ではあるものの、いつでも動けるよう耳を傾けた。

 

「先日ぶりです。タケミカヅチ様」

 

「あぁ。春姫の件だが、俺の方も礼を言わせてもらう。しかし、お前の治癒魔法はどんどん便利になっていくな。桜花たちが探索について来て欲しいと色めき立っていたぞ」

 

「ははは、その場合は冒険者依頼(クエスト)という形を取ってもらって、お姉ちゃんの許可を取っていただければなんとかですね」

 

「アミッドの説得は骨が折れそうだな」

 

 最初は世間話。ここまではナァーザは何も言う必要はないと空いたスペースに回復薬(ポーション)を並べ出す。

 それにしてもアクスの動きを制限するなんて、さすが聖女様はどす黒い愛に染まっている。とは思っていない。──多分。

 

 そんなことをしていると、話はいよいよ本題になってきた。

 どうやらタケミカヅチがボロボロになった状態でここまでやってきた原因は、最近【ヘスティア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)した命がいきなりホールケーキを顔面にぶつけ、そのまま勢い余って壁に激突したせいらしい。

 LV.2相手に()()()()()()()()のは流石武神だと感心するものの、なぜそうなったのかよく分かっていない様子にナァーザたちの心は『この朴念仁が』という不敬にも程がある罵詈雑言で満たされる。

 

「話を聞くに、最初はデメテル様の顔色が悪いと心配して熱を測って……」

 

「そうだな。なにやら元気がなさそうだったからな」

 

「次は神から言い寄られていた女性方から助けてもらった恩をもらって……」

 

「あれぐらいで大げさだと思ったが、せっかく持って来てもらったんだ。もらわないのは失礼だろう」

 

「最後に春姫さんが餡団子の試作を持って来て、命さんにケーキを叩き込まれたと……」

 

「うむ、さっぱり見当がつかないだろう?」

 

 アクスが状況を整理するためにタケミカヅチと話していっているが、いざ羅列していくと本当に酷い。ナァーザが横を向くと、ダフネとカサンドラが固まっていた。

 やはり新人には荷が重かったと嘆く一方、アクスが何やら考え込んでいる。人の心に寄り添えると定評の【小神父】(リトル・プリースト)ならビシッと言ってくれるに違いない。彼女たちの期待度は急上昇する中……。

 

「さっぱり分かりませんね。それほどタケミカヅチ様を大事に思っていることは分かりますが、【タケミカヅチ・ファミリア】は同じ社で過ごした間柄ですよね?」

 

「あぁ、別段おかしなことはないはずだ。命からは特に怒られることは多かったが……、本当に何が悪かったのか見当がつかないんだ」

 

「うぅむ、分からぬ」

 

「だろ?」

 

 駄目だ、この1人と2柱。早く何とかしないと。

 ズッコケるダフネとカサンドラは早々にタケミカヅチたちに見切りをつけるが、いつまでもここでそんな気が抜ける話をされたら商売あがったりである。ここは団長としてビシッと彼らに助け舟を出し、早く出て行ってもらおうとナァーザはため息交じりでタケミカヅチたちの会話に混ざった。

 

「そんなんだから、ヘスティア様たちに呆れられるんです」

 

「ナァーザ? どうした、いきなり」

 

「どうしたもこうしたもありませんよ。命が可哀想です、気付かないものを無理矢理気付いてくださいとは言いませんが……。せめてもう少し考えてあげてください」

 

「むぅ……。考えるか……」

 

 ナァーザの助け舟があったとしても雲を掴む難易度から【ロキ・ファミリア】に入団するぐらいの難易度まで下がったような感じであったため、未だに悩むタケミカヅチ。流石にこれ以上の助言は命の恋心を無暗にさらけ出すことになるので自重する彼女であったが、うんうんと唸っているタケミカヅチたちに『この朴念仁共が』と主神込みで罵っていたところ、アクスが何かを思いついたように手を叩いた。

 

「命さんってこうして1人で別のところに行くという経験はありますか?」

 

「無いな。いつも俺や桜花たちに……そうかっ!」

 

「あぁ、私でも分かったぞ」

 

【タケミカヅチ・ファミリア】(おれたち)から離れて寂しい!』

 

 違う、そうじゃない。

 今度はナァーザも巻き込んでズッコケる。先ほどよりは近くなったものの、ダンジョンで言えば地上から深層までの遠さが下層になったぐらいで依然として遠い。

 団長であるナァーザすらも眩暈がしてくる状況だが、これ以上の助言は野暮天なのでどうしようかと悩んでいると、話はいつの間にか命の送別会の話になっていた。

 

「贈り物とかどうでしょう?」

 

「ふむ、バイト代と借金で……なんとかするか」

 

「借金は褒められるものではないが、ヘスティアもベルに借金をしてまで武器を与えたと聞く。なにかしらの武器を贈ってみるのはどうだ?」

 

「なるほど、武器か。さっそく探してみよう」

 

 そう言いながらタケミカヅチは青の薬舗から出ていく。まさに()()()()()()のように呆然としたナァーザたちは等しくこう思った。

 

 疲れるから、あんまりタケミカヅチ様には来ないで欲しい──と。

 

***

 

 ナァーザたちから朴念仁扱いされたアクスは思うところがありながらも治療院へ帰っていると、ちょうどサポーター用のバックパックを片手で持ったリヴェリアが出てきた。

 なんでも秘薬の進捗具合や出来ている分の受け取りを行ったり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と色々用事をしに来たようだ。そのついでにアクスを【ヘファイストス・ファミリア】に連れて行こうとしたが、生憎留守だったので帰ろうとしていたところに出くわしたのだとか。

 

「ちょうど良い。アミッド、借りて行くぞ」

 

「はい、後で返していただければ」

 

 【ミアハ・ファミリア】の借金が詰まった袋をアミッドに渡したアクスは、まるで物のようなやり取りと共にリヴェリアの手で連行されていく。

 当然ながらアクスからの答えは聞いていない。傍目から見れば完全な拉致ではあったものの、なんといっても相手は【九魔姫】(ナイン・ヘル)。冒険者は強い存在には無力なため、誰もそのことについては注意することは出来ずにどこかのスナギツネのように『無』を体現した表情を浮かべ続けるアクスに同情の視線を送っていた。

 

 そうしてアクスを連れたリヴェリアはヴァルカの工房にやって来ると、既に槍が台座に立てかけられていた。その前ではヘファイストスと椿の他に鍛冶師たちが出来上がった槍の出来栄えに惚れ惚れした様子で見入っている。

 

「おぉ、【九魔姫】(ナイン・ヘル)

 

「槍が出来たと報告を受けたが……これか?」

 

「えぇ、久しぶりに椿と打ったから浮かれてたのかしらね。かなり力を入れちゃったわ」

 

 鍛冶神がそこまでいうことはあるとリヴェリアは断じる。自身の装備よりも遥かに濃密な『神秘』の気配に彼女は思わずといった様子で槍を手に取った。

 随所にちりばめられた装飾は華美にならない程度に抑えることでより一層存在感を放ち、鍛え上げられた勇鉄の穂先は黄金のように輝いている。鍛冶神と最上級鍛冶師(マスター・スミス)が鍛え上げたこの穂先であれば、深層のモンスターであろうともただでは済まないだろう。

 そして握ってみて初めて気づいたが、魔力の通りがかなりスムーズだった。これならば杖として十二分に機能するし、魔法の吸収能力を持つ宝玉の周囲に開けられた3つの穴全てに魔宝石をはめ込めば、魔法の性能を格段に上げることが出来る。

 

「武器としては申し分ないけど、私も魔導士の武器は最近作ってなかったの。アルテナの武器を持っているあなたから見てどう?」

 

「あぁ、正直に言えば普段使いとして"私が"欲しいぐらいだ」

 

 魔導士としてはオラリオで3本の指に入るほどのリヴェリアが装備を変えたがるほどの出来栄え。その賛辞にヘファイストスは当然とばかりに口角を釣り上げた。

 しかし、この槍はまだ()()()()とヘファイストスは言う。最後の仕上げである『命名』は使用者であるアクスが行わなければならないと槍をアクスに手渡した彼女は新たな槍に授けられる名を期待するのだが──。

 

「ブリューナクMARKⅡ」

 

「……なんだ、そのみょうちくりんな名前は」

 

「同じものの2つ目にはこう名付けるって往診に行ったところの神様が言ってたんです。後、お姉ちゃんがセイント☆シスターなんとかって昔に……」

 

 誰だその神は。今すぐハンマーで頭を殴り飛ばしてやろうか。後、アミッドはそろそろディアンケヒトの言葉にNOを叩きつけることを覚えて欲しい。

 最も注目していた眷属(ヴェルフ)よりも酷いネーミングに鍛冶神は怒りを覚えたものの、アクスの意思は一切介在せずに名付けただけということで落ち着きを取り戻す。

 

「もっとこう……あるだろう」

 

「じゃあ、おぼろげながら浮かんできたトメノスケで」

 

「それもどうなんだ?」

 

 あぁ言えばこう言う。まったく我儘なハイエルフ様だ。

 ならば、どんな名前が良いのか逆に聞くと、彼女はしばらく考えた末に──。

 

「エクスカリバーとか……、キャメロットとか……」

 

 なにやら色々な思惑を孕んでいそうな命名を告げるリヴェリアだが、どれもが琴線に響かなかったのか最終的にアクスは名称上は『ブリューナク弐式』と決定する。ただ、次の瞬間()()()()()()()()をしていたため、おそらく彼の中では名前なぞどうでも良かったのだろう。

 

 こうして武器を受け取ったアクスたちは、そのままの足で北西のメインストリートの路地裏地下にある魔導士専用の店へと向かった。

 

「おっと、アクスかい。よく来たねぇ」

 

「レノアさん、お加減如何ですか?」

 

「最近は何ともないねぇ。何かあったらまた使い魔を寄こすから、その時はお願いするよ」

 

 おかしい。長年この店に杖の整備などを頼んでいたリヴェリアがレノアと呼ばれた老婆の対応に何とも言えない表情を浮かべる。

『魔女の隠れ家』を営んでいる彼女だが、大抵は脅し文句や仰々しい言い回しの所謂『魔女』を想起させる言葉を使って客を気味悪がらせる。だが、アクスの場合はまるで親戚の子供が遊びに来たように笑顔で対応していたのだ。

 

「おや、リヴェリア。あんたも来てたのかい」

 

「一応、客なんだがな。それより私と態度が違うだろう」

 

「そりゃそうさ。アクスには度々、腰とか肩とかの療養を頼んでるんだ。こんな老いぼれが治療院なんて遠くに行けるわけがないだろう。往診様々ってやつさ」

 

 年齢は分からないが、レノアも良い歳である。長年酷使して弱った足腰に遠出は酷なのだろう。こんなところでアクスがしている往診の成果を見るとは思わなかったリヴェリアだが、気を取り直してブリューナクをレノアに渡す。

 槍という魔導士が持つには武骨すぎる武器に難色を示したレノアだったが、材質から拵えなどを見て表情を変える。

 

「随分張り込んだね。【単眼の巨師】(キュクロプス)の作品かい?」

 

「神ヘファイストスと椿の作だ。これに魔宝石を3つ付けて欲しい。これが代金だ」

 

「マグナ・アルヴスもあるのにもう2本目かい。魔法大国(アルテナ)が黙っちゃいないよ」

 

「いや、これはアクスが使う"杖"だ。色々あってな、私たちが武器の面倒を見ている」

 

 既に3億以上する特級の杖を持っていることに嫌味を言うレノアにリヴェリアは事情を話す。

 すると、今まで碌な杖を持たずに魔法を行使していたことに彼女は呆れ半分で杖や魔宝石の知識をレクチャーしながら作業に入っていく。

 

 大まかな杖の概要は少し前にリヴェリアから教わったことと変わりなく、魔力を底上げすることで火力を上げたり、魔法で消耗する精神力(マインド)を抑えたりと魔導士にとって益になる効果を発揮する武器である。

 本来は魔力の通りやすい木で誂えたり、魔力が籠った鉱石や品物を核にして作るのだが、先ほどの核で1級品と呼ばれるのが『魔宝石』である。

 

魔術師(メイジ)』と呼ばれる特殊な者にしか作れないこの素材は希少なこともあって杖の核としては申し分なく、品質が高い魔宝石をリヴェリアのような第1級冒険者が手にすれば無類の強さを誇る。

 しかし、品質が高い分だけお値段も高くなるのでおいそれと付け外したり、交換などはもってのほか……なのだが。

 

「そこの王族様は遠征のたびに特製の魔宝石を駄目にして来てね。まぁ、私の懐は温かくなるから良いんだけね……っと、出来たよ」

 

「何を核にした?」

 

「アクスだからね。精神力(マインド)を抑えたり、範囲を広げたり……。とにかく、長く治癒魔法が使えるようにはしといたよ」

 

 翡翠色の宝石が3つ組み込まれたブリューナクを手にしたアクスだが、ここで振り回すような暴挙はしない。

 本当は新しい玩具に試したい衝動を必死で抑えつつ、レノアにお礼を言ってからリヴェリアと一緒に治療院への帰路についた。空模様が怪しいのでやや早足にしたものの、少し歩くとどんよりとした暗雲からぽつぽつと雨粒が降ってきた。

 

「降ってきたな」

 

「傘、ありますよ」

 

 残念そうに空を眺めているリヴェリアの横で、アクスは背負っていたバックパックの奥の方から大きめの傘を取り出した。

 おそらくはアミッドが心配して入れたものを今の今まで取り出さずにいたのだろう。ちょっとだけくたびれているそれを開いたアクスがリヴェリアに傘を渡すが──。

 

「アクスが濡れるだろう」

 

「むぅ……」

 

 明らかに身長差があるため、リヴェリアが傘を持つとアクスに雨が直撃する。かと言ってアクスが持つと、それこそリヴェリアに雨がノーガードで当たってしまう。

 こうなれば片方が濡れるのを覚悟しなければならないが、アクスを濡らせばアミッドが怖く、リヴェリアを濡らせばオラリオ中のエルフが怖いといった具合に彼らの背後に居る存在が非常に厄介だ。

 

 これがリヴェリアではなくガレスであれば、アクスを肩車してそのまま治療院に行くという安易な方法が取れた。だが彼女の場合、それをすることはすなわち()()()()を甘んじて受けることになる。

 アクスがリヴェリアに傘を譲らなかったことで始まるパルゥム狩りか、それとも雨に濡れないようにくっついてもらうことで補強されるリヴェリアママ概念か。

 

 どちらをとってもろくでもないことになるのは事実だが、イヴィルスでゴタついているのにこれ以上厄介なことになるのだけはごめんだと、彼女はローブの端を上げてアクスを中へ入れる。この行動だけでも非常に『ママみ』は強いのだが、第1級冒険者である【九魔姫】(ナイン・ヘル)はめげなかった。

 

「とりあえず、急ごう……アクスッ!」

 

 なにを……とは言いきる前にアクスが雨の中を飛び出していった。走りながら彼はバックパックのホルスターから回復薬(ポーション)の瓶を抜き取ると、世界を狙えそうな理想的な投擲モーションを経て瓶を彼方へ投擲する。

 いきなりの暴挙にリヴェリアが目を丸くしながら瓶が飛んでいく先を見ると、『まずい!』と叫びながらすぐさまアクスを回収しながら走り出した。

 

 アクスたちが見ていた先にはとあるアマゾネスの少女が居り、彼女の後ろには短剣を構えた明らかにカタギではない存在がソロリソロリと近づいていたのだ。

 まるで都市伝説に出てくるような怪異染みた存在が少女の肩に短剣を突き刺そうとしたその時──アクスの投げた瓶が2人の周辺に落ちた。ガシャリというガラス特有の音を聞いた少女がつい後ろを向くと、そこには短剣を持った不審者。生命の危機を感じた彼女の対応は早く、叫び声を上げながら不審者の顔面目掛けて鮮やかな右フックを見舞っていた。

 

「このっ! このっ! このぉっ!」

 

 壁に激突した不審者をそのままストンピングするアマゾネス。どこからどう見てもオーバーキルなのだが、そんな彼女の胸にいきなり刃が生えた。

 突然のことに目を見開きながらも裏拳で()()()()()不審者を殴り倒したものの、口から血を吐き出した少女はそのまま膝から崩れ落ちる。徐々に冷たくなっていく身体と睡魔に彼女の瞼がゆっくりと下がっていく。

 

 ──が。

 

「アクス、やってくれ」

 

「ケーリュケイオン」

 

 彼女にとって幸運だったのは、偶然秘薬を受け取りに来た【ロキ・ファミリア】の幹部と死の数歩手前から復活させる治療師(ヒーラー)が近くに居たことであろう。出血多量で青白くなっていた顔色が一気に色艶が良くなり、突如として体力が沸き上がってきた少女は飛び起きてから血が噴き出していた胸部を弄る。

 ……もはや下着のような布切れすら取り払おうとしていたため、流石に教育に悪いとリヴェリアは少女を止めながら非常用としてフィンから渡されていた信号弾を上げる。空に青い光が走り、それから数分もしない内にアリシアたちが駆けつけてきた。

 

「リヴェリア様、あちこちで不審者がっ!」

 

「あぁ、こちらも今しがた遭遇したところだ」

 

 先ほどアマゾネスを襲っていた襲撃者を拘束し、慌ててやってきたガネーシャファミリアに引き渡したリヴェリアは1パーティほどを治療院の防衛へと向かわせる。

 回復の最後の砦であり、現在秘薬を作れる存在が居る治療院は【ロキ・ファミリア】にとっては弱点となり得る。リヴェリア本人が向かっても良いが、耳を済ませればオラリオのいたるところから悲鳴や怒号といった声が響いているため、今は秘薬を持っている自身とアクスが多少の護衛を伴って駆けずり回る必要があると考えたゆえの判断だった。

 

「残ったパーティは私に続け。全容を探りながらこの混乱を鎮めるぞ」

 

「はっ!」

 

「アクス、精神力(マインド)は大丈夫か?」

 

「前より消耗は少ないです」

 

 傘をアクスのバックパックにねじ込んだリヴェリアの指示で全員が動き出す。幸いなことに何かしら起こればすぐさま人だかりが出来るぐらいに大きい都市なため、彼女たちはすぐさま現場に急行できた。

 しかし、急行できたからと言って全員が救えるわけではない。自らの血の海に沈んですっかり冷たくなってしまった浅黒い肌をしたヒューマンの()。その凄惨な光景にアリシアたちがはたじろぐ一方でアクスは未だ息のあるアマゾネスを治療していた。

 

「しっかりしろ。何があった」

 

「わ、私はただアリィと話してただけなのに……。何で……この子は冒険者じゃないのに!」

 

「リヴェリア様、申し訳ありません!」

 

 治療されたばかりのアマゾネスに事情を聞き出そうとするも、泣きじゃくるばかりで話にならない。そんな時、アリシアが申し訳なさそうに下手人であろう黒衣の男──クノッソスでティオネが出会ったという暗殺者の覆面を取った。

 既に白目を剥き、口から血の泡と肉が焼き焦げたような異臭を伴う煙。おそらくは奥歯辺りに仕込んだ自決用の強酸を使ったのだろう。用意周到なことだとリヴェリアは顔を歪ませる。

 

 しかし、悲嘆に暮れる暇はどこにもない。敵の狙いは浅黒い肌をした者──アマゾネスと思われるが、憶測に固執すれば足元をすくわれる。

 今は助けられる者を助けながら考えを巡らせるべきである。上級冒険者ならば出来て当然だと結論付けたリヴェリアたちは、騒ぎが起こった場所に急行しては癒すといった作業を淡々と続けていた。

 

『リヴェリア様っ!?』

 

「レフィーヤと……【白巫女】(マイナデス)か。ここも酷いな。神ディオニュソス、場所を譲って欲しい」

 

「あ、あぁ」

 

 躯よりも多少少ない人数のアマゾネスを癒した後、リヴェリアはとある裏路地へとやって来ていた。そこには既にレフィーヤとフィルヴィスが座り込みながら唯一の生存者の首筋に回復薬(ポーション)をかけ続けている。

 状況から察するに背後からの暗殺で音もなく1人を殺し、2人目を──といったところで気付いたアマゾネスによって反撃を受けて仕損じたのだろう。

 

 だが、暗殺者が持っているのは呪武具(カースウェポン)。普通の治療では効果が無い──のだが。

 

「よし、アクス」

 

 首筋に秘薬を振りかけたリヴェリアが合図をした途端、緑色の光が周囲を明るく照らす。その光に充てられたアマゾネスは先ほどまで弱弱しかった呼吸が嘘のように回復し、一気に起き上がった。

 

「嘘……生きてる」

 

「すまないが、事情を聞かせてもらおう。お前たちは【イシュタル・ファミリア】か?」

 

「元……だけどな。狙われる謂れがないぞ……」

 

 ようやくまともな情報源にたどり着いたことでリヴェリアは自らの予想が当たってしまったことにため息をつく。これが【カーリー・ファミリア】であれば、ロキに頼んで尋問すればまだ何とかなる。

 だが、イシュタルは既に天界へと還っているため、暗殺者たちの目的がなんなのか微妙に分からなかったのだ。

 

「ひとまず、元【イシュタル・ファミリア】で集まって欲しい。だれか、旗頭になる者は居るか?」

 

「フリュネ……はないか。そうだっ!」

 

 何かを思い出したかのようにアマゾネスは駆けていく。後のことはレフィーヤたちに任せたリヴェリアは、アクスを小脇に抱えながら再びパーティを纏めてその場を脱する。

 いきなり後処理を任されたレフィーヤだが、とりあえず死体を何とかしなければという考えに至ったのかフィルヴィスと共に死体を回収するための布を探す。近くの民家で手頃な布を譲ってもらった彼女たちはさっそく運び出そうとした途端、ゴツリという何かが強くぶつかった音が聞こえた。

 

「ディオニュソス様!」

 

「な、何をやってるんですか!」

 

「あぁ、すまない。オラリオをこんなにした奴らが忌々しくてね。つい、やってしまった」

 

 壁を思いっきり殴りつけたらしく、ディオニュソスの手は真っ赤になっていた。顔から大量の汗を流している彼を心配したフィルヴィスが余った回復薬(ポーション)をかけて事なきを得たが、未だにディオニュソスの怒りは衰えないらしい。

 

「あぁ、本当に忌々しい!」

 

「ディオニュソス様もあんなに怒られることがあるんですね」

 

「それだけ我々を想っていらっしゃるのだ。それよりもレフィーヤ、彼女を早く運んであげよう」

 

 いつもの温厚で紳士的な姿から一変。苛立たしさを一切隠さずにおそらくは暗殺者やイヴィルスに怒りを向けるディオニュソスの姿を物珍しく眺めつつも、下界の子供を慈しむ気持ちに心を打たれたレフィーヤ。だが、すでに命を失ってはいるものの人には変わりないため、このような雨空に放置するのは忍びないというフィルヴィスの言葉に運搬を開始する。

 

 路地に居た野次馬たちも後は冒険者が何とかしてくれることを信じてそれぞれの仕事も戻っていく──そんな瞬間だった。

 誰も見ていない刹那的な瞬間。ディオニュソスはさも悔しそうにより一層醜悪に表情を歪めた。




10月に燃料投下だ、FOOOO!
ヘルメスFに入ったアクスってどうなるんだろう。
アスフィを手伝ったら神秘生えそうだし、魔導辺りも生やしてグリモア製造師…。アイシャ辺りに脅されて泣きながら書かされそうだ。
それか地味にメルヘン(オブラート数百枚)な人も居るし、人形師とか絵本作家とか良さそう。

タケミカヅチ、ミアハ、アクス
 天然朴念仁三銃士を連れてきたよ! 女心が致命的に分からないから安心してくれ!

ブリューナク弐式
 アミッドの黒歴史(セイントシスター・アミーゴ)を掠らせたり、1ターンに3機分の血を吸う斧になりかけたり、リヴェリアの中の人ネタになりかけたが、何とか落ち着いた代物。
 武器としての側面と杖としての側面を持つ複合武器。以前の魔法吸収能力をそのままに魔宝石3つという豪華仕様によって魔法の底上げを行う。
 お値段? 鍛冶神が関わった時点で高額商品になるのは目に見えている。

アマゾネス襲撃事件
 原作では結構死者も出たが、アクスの詠唱であまり猛威は振るわなかった。なに、この治療師(ヒーラー)
 悪の蛮行を完膚なきまで阻止する。この沸き上がる衝動…もしかして、愛!

ディオニュソスについて
 ディオニュソス:許さないよ…。よくもここまでコケにしてくれたね。
 タナトス:これはヤバいんじゃない、エニュオ?
 エニュオ(?):クッ!
 アクス:大変ね、おたくら。
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