【ロキ・ファミリア】。オラリオで1番有名なファミリアと問われれば大半の人間がそのファミリアの名前を口にする最大手だ。LV.2以上の上級冒険者を2軍まで揃え、その上澄みである第1級冒険者が在籍しているその人材の豊富さは正に都市最大派閥といっても過言ではない。
そんな【ロキ・ファミリア】を三首領と呼ばれる3人の冒険者が統括している。彼らも現在の人類の最高峰であるLV.7に手を掛けている段階で、実力も人望も兼ね備えた傑物たちだ。
まぁ、なぜいまさらそんなことを言うのかと言うと──.
***リヴェリアの章***
「さぁ、かかってこい」
先日のガレスで火が付いたのだろう。次の日に当然のように兵士たちを手加減済みの魔法でなぎ倒したリヴェリアが勝負を仕掛けてきた。
まるで『目と目が合ったら勝負』というポケットに入りそうな怪物が居る世界の常識をインストールされたような彼女の姿勢に、リーネから怪我人を収容し終えた報告を受けたアクスは早々に帰りたそうにする。
「帰っても良いですか?」
「そうか……。お前は約束を破るパルゥムだったのか」
中々に心に来ることを言ってくるリヴェリアにアクスはひたすら首を傾げた。
おかしい。たしかあの時は『やれたらやる』的な消極的な同意だったはずが、いつも間にか約束になっている。
いつの間に上級冒険者は
「リーネさん、この人が上司で大丈夫ですか?」
「リヴェリア様にはリヴェリア様の御考えがあるんじゃないかなって」
考えも何も十中八九、『ガレスも絶賛していた若い者と力比べをしたい』という欲望丸出しの考えなのだろう。
現にいつも彼女が言っている『大木の心』はどこへやら。傍目から見て高揚した様子を隠せずにいる。
本来は断っても罰は当たらないし、難癖をつけてきてもはねのけられる材料はある。ただ、アクスもリヴェリアの心情がちょっとばかり分かる気がするのも確かだった。
彼も彼で色々力を入れて作った
先達から期待されている以上は受けないわけにはいかないだろう。気付けば強く断ろうとしていたのに
しかし、いつまでも他人のせいには出来ない。アクスは馬に飛び乗ってから何度か踏ん張ったり脱力したりを繰り返すことでアレスたちから送られた鞍の調子を確かめた後、リーネたちの方に視線を向けて指示を出す。
「じゃ、昨日の通りにお願いします」
「はーい」
「わ、分かりました」
慣れた様子で離れていくトレオたち。後ろの方では『
そもそも死んだら【ロキ・ファミリア】が文字通り
「なんですかそれは」
「大丈夫だ、
3つの六花を模した
口では大丈夫と言いながらもエルフが魔力を使っている時点でそれはもう
魔導士は近接攻撃に弱い。詠唱することで大きな火力を投射できるという特性上、それは覆しようがない真理だ。
それをある程度緩和するために並行詠唱はあるが、戦いの最中にそれが出来る魔導士──『魔法剣士』と呼ばれる存在はかなり限られている。
だが、リヴェリアも大抗争を生き抜いたエルフ。それも他のエルフとは違ってハイエルフだ。魔力やそれを操る術、それらと共に自衛をする心得は会得している。
それを知っているアクスがとりあえず接近戦を持ち込むのか。それとも何かしらパルゥムらしく策を弄するのか。半ば珍獣を見るような微笑ましさで彼の次の手を待っていた。
そして、そう長くもしない内に状況が動く。
手綱で馬を急停止させたアクスは、馬に取り付けられた大きめの袋の中に入っている武器や道具を放り出していく。
そのコミカルな姿にリヴェリアがちょっと笑ったのも束の間。高レベル冒険者の視力でアクスの取り出した武器を見たリヴェリアは、彼が使っているところを見たことが無い武器種に思わず言葉を漏らした。
「弓?」
おそらくはステイタスの差に遠距離戦を決めたのだろう。ただ、いくら高レベルの冒険者に近づきたくないからとぶっつけ本番で弓を選択する理由がリヴェリアには分からなかった。
すると、アクスが引き絞った弓を解放する。妙に堂に入った体勢から放たれた矢は一直線にリヴェリアの頭部目掛けて飛ぶが、既のところで彼女に躱されてしまう。
「なっ……はぁ?」
あまりにも衝撃的なことが起こったため、リヴェリアは訳が分からないと当惑する。
弓というものは修練が必要な武器だ。特に騎乗中の射撃は特に難しく、熟練した射手でも馬上ではまともに当たらないことすらある。
それがぶっつけ本番──しかも人体の急所であり顔面という胴体よりも小さな目標物に飛んでいくなど、血の滲むような修練でようやく会得できるような技である。
「まぐれ……か?」
たまたま。まぐれ。ビギナーズラック。考えがぐるぐるとリヴェリアの頭の中を巡るが、第2射が再び彼女の頭部に突き刺さろうと向かってきた。
これもそつなく回避するものの、これではっきりした。なぜだかは分からないが、アクスは馬上で弓を射掛ける心得がある。本当に何故かは見当もつかないが、教えた者はよほどの実力者だろう。
「まさか、あのドワーフじゃ……。いや、今は余計なことは考えるのはよそう」
一瞬だけ学区へ行ったもう1人の最強のいけ好かない顔が過ぎったリヴェリアだが、すかさず詠唱を開始する。それに呼応するかのようにアクスも馬を動かし、的にならないように逃げまわりながら弓を1射ずつ射かけていく。
本当にどこで覚えてきたのか油断も隙も無い正確な狙いだが、
(さて、十分驚かせてもらったしそろそろ……)
飛んでくる矢を避けるため、まるで舞を踊るように身体を動かしながら続けていた詠唱がそろそろ佳境となる。もはやアクス側の出し物も全て終わっただろうと判断したリヴェリアが決着を付けようと魔法名を告げ──。
「くっ、今度は武器か!」
リヴェリアの杖であるマグナ・アルヴスに命中した。杖の材質が勝ったようで突き刺さりはしなかったものの、格上相手に武器を狙うという行動にリヴェリアは今日何度目かも分からない驚きを見せる。
その驚きようは魔力にも表れ、
なお──。
「アクス、なぜ馬上だとあれほど正確だったのに地面だと弓の引き方も分からないんだ?」
「僕に言われても……」
1流の弓騎兵のような動きにすっかり興味を持ったリヴェリアは、フィンとの情報交換が終わるや否や『弓を見てやろう』とアクスを拉致。さっそく弓を持たせて引かせてみようとするが、彼は引くどころか
たしかにあの時、馬上から鋭い矢が飛んできた。決して幻覚やそういった類ではないとリヴェリアが試しに馬上にアクスを乗せると、何かの魔法でも使ったのか先ほどのような弓の冴えを見せる。
「なぜ馬に乗っていたら出来るんだ?」
「馬が賢いからじゃないですかね。僕、なーんにもしてませんし」
『そんなわけないだろう』と言いたくとも馬に乗ったら先ほどまでのノーコンぶりが解消されたので、実際にそうとしか言えないのが悔しいところ。下界の神秘にリヴェリアはもはやお手上げ状態で、間近で見ていたフィンとガレスも『スキルじゃないか?』と全く分からない姿勢を見せる。
ともあれ馬に乗っている時だけにはなるが、アクスが多少強くなるという新たな発見があったということで本日はお開きとなった。
***フィンの章***
リヴェリアと
なので、マリウスに回収の人手を増やしてもらうよう頼んだら二つ返事で許可がもらえた。なんでもあちらの捕虜となる兵士の数が日増しに増えているらしく、ここらへんで回収に力を入れないと早々に息切れするだろうと見越したらしい。
ここまで頭が回るのになぜオラリオに侵攻したのかは甚だ疑問だが、十中八九──どころか絶対横で笑っている
そうしてアクスが借り受けている馬に随伴できるように騎士数人が合流。最初から荷車に馬を連結させ、そこにリーネたちを乗せることで迅速な移動と撤退が可能となった。
これで作業効率は飛躍的に増した──が、それはラキア側の話。
「さぁ、やろうか。あ、馬に乗ってて欲しいな。ガレスやリヴェリアに見せた力もぜひ見たい」
槍を振り回して準備運動をするフィン。昨日から
それを見たリーネたちも、もはや慣れたものだと大して反応することなくざわつく騎士たちを宥めてから撤退していく。
そんな『つうと言えばかあと答える』ような意思の疎通具合に、フィンは感心したような口ぶりでアクスを褒めた。
「部隊の運用も様になってきたね。相変わらず覚えるのが早い」
「皆さんが察してくれているだけですよ。特にリーネさんですが」
少々買い被りが過ぎる物言いにアクスが
「良い勘をしてるけど、惜しいね。格上を相手にする場合は目を離さないことだ」
いかに鋭さや速度を増しても捉えられなければ何の意味もなさない。訓示と共に槍の切っ先をアクスの喉に突き付けたフィンは朗らかに笑うと、『今度は合図をしよう』と言いながら離れていく。
こうして改めて『よーい、どん』の形式で戦いが始まると、やはり馬に乗った状態のアクスの戦闘能力が上がっていることにフィンは実感した。
円を描くように馬を動かすことでフィンの目を追いかけさせ、太陽を背にした瞬間に馬を足場に飛び掛かるといった芸当をやってのけたかと思えば即座に馬に乗って距離を取るなどパルゥムらしい立ち回り。そしてLV.2なのに1撃1撃が重く、フィンの機先を制するような柔軟さで襲い掛かる槍捌き。なにより馬が速い。
もしかするとLV.1冒険者よりも速いかもしれないその機動力も合わさり、フィンにとっては非常に戦いにくい状況であった。
しかし、それらは
「捕まえ……っ!」
ブリューナクの切っ先を掴んだフィンがそのまま引っ張って落馬させようとするが、途端にアクスが
慌てて横に飛んだおかげで轢かれずに済んだが、そんなフィン目掛けて次々と矢が飛んできた。
「容赦が無いなぁ!」
「LV.6を相手取るにはまだまだ不足ですよ!」
違いない。その証拠に急所目掛けて飛んでくる矢をフィンは危なげなく弾いている。レベル差も当然あるが、やはりアクスも大抗争以降の冒険者のように対人の経験値が圧倒的に足りないのだ。
ただ、今はそんな時代では無ければ、戦闘行為など一介の
それらを加味すると、現状でここまで戦えるのであれば他の有力な冒険者が駆けつけるまでの時間稼ぎは十分できるだろう。
「どこかにダンジョン探索に耐えうる馬とか居ないかなぁ。……今度遠征の機会があれば、ベートに背負ってもらおうかな」
欲望を赤裸々に漏らしながらもフィンは勝負を決めるためにアクスへと突撃する。頻度は少ないがフィンの急所目掛けて飛んでくる正確無比な矢を打ち払いながら逃げる馬に追いつくと、槍の柄で馬上のアクスを叩き落した。
「ぐぇっ!」
「本当に楽しかったよ。さぁ、今日はこれでぇっ!?」
地面に転がったアクスの喉元にフィンは槍を向けて遊びの終了を宣言する──前に、アクスが地面の砂をフィン目掛けて放り投げた。
微小な石も混ざった砂粒による目潰しを目をつぶることでやり過ごしたフィンが改めて終了を伝え──る前に、彼の頬にアクスの拳が炸裂する。メキメキやらベキベキと嫌な音を聞きながらその場から仰け反ったフィンの耳に、アクスの絶叫が聞こえた。
「いったぁぁ! 指折れたぁ!」
「高レベル冒険者を殴ったらそうなるよ。
まさか目つぶしの後に殴りつけるという生き汚さを見せつけられたフィンが呆れながら
近接戦も出来る所謂『殴り
***
さて、開戦からしばらく過ぎたある日。散々な被害……もとい成果を上げているラキア軍だが、今日ばかりはいささか趣が違った。
「おはようございます」
「おぉ、アクス。それにリーネちゃんたちも」
鼻の下を伸ばす警備兵を通り過ぎたアクスたち。彼らもここ数日の活動ですっかり有名人だ。
地味目ながらも中々の物をお持ちの磨けば光り輝く系のリーネや神々すらも『可愛い』と評する整った容姿のトレオは言わずもがな。優しい
それこそリーネは【ロキ・ファミリア】から出向している人員なのだが、それを知っても彼ら曰く『それはそれ。これはこれ』といった
ただ、そんなアイドル的な2人とは別にアクスの有名度合いは
その理由は──。
「そんなこと出来るわけないだろ!」
「アレス様! マリウス様! 後生ですから!」
アレスたちから今日の予定を聞きに行く最中、豪奢な天幕から怒号が聞こえる。聞き馴染みのある声に『またか』とアクスたちが思っていると、天幕の中から複数人の騎士や兵士が飛び出していった。
全員が一様に非常に落ち込んでおり、小さく『家族に会いたい』と呟きながら非常に重い足取りで陣地へと戻っていく。その何とも寂しげな後姿を見ていると、アクスたちが来たことに気付いたマリウスが天幕の中へ彼らを招き入れてくれた。
「おい、
「む、パルゥム蔑視でしょうか? 出るとこ出ましょうか? そして勝ちますよ?」
アレスからの文句に対し、アクスは徹底抗戦の構えを取る。ただ、何度もある通りアクスも今の状況について心当たりがある過ぎるためにバレないかヒヤヒヤしていた。
先ほど出て言った兵士や騎士は俗に言う世帯者である。軍に籍を置く立場上は出兵とあれば家族と離れ離れとなり、下手をすると一生再会できない業を背負った悲しき公僕だ。
そんな彼らがアクスと出会い、必死に何かをする光景を目で追いかけていく内に彼らの脳裏にこんな光景がチラ着いてしまう。
──パパー、次はいつ帰ってくるの?
──お父さん、もう軍は止めてよ。
──父ちゃんー!
──お父様!
──そう。彼らは皆、悉くパルゥムに加えて未だ12歳と子供らしい歳というニッチだが、世帯者にとってはありふれた条件かつ
それこそ、1度故郷を思い起こさせてしまえば世帯者たちの足が鈍るほどの劇薬になるほど。アクスの有名度の次元が違うのも、ここら辺から来ている。
家族の会えない寂しさや今後の展望によって精神がすり減っていき、やがて我慢できなくなった陳情者のガス抜きのために先ほどの様にマリウスにお伺いを立てる。そして、軍事行動なので好き勝手出来ないという
しかし、アクスを見て小さい子──我が子を思い出すのは、兵士たちの勝手でありアクスの責任ではない。言葉を変えると不可抗力といえる。
つまるところアレスに非難される謂れは無いのだが、そんな彼の頭に鉄拳が降ってきた。
「いい加減にしてください! アクス殿が居なくなったら我々は即座に瓦解しますよ!」
「また殴ったな! おのれ、マリウス! そこになおれぇ!」
「あぁ、喧嘩は後にしてください。それよりも今後の予定について聞きたいです」
そのまま殴り合いの喧嘩に発展するアレスたちを何とか宥めたアクスが今後の予定を聞くと、どうやらここ数日のことは小手調べで多くても2か所の盤面しか侵攻していなかったようだ。
「アクス殿、今回から全軍で侵攻します。ただ、こちらとしてはなるべく捕虜を出したくはない。後はそちらの判断に任せます」
「分かりました。一旦回収はせずに現場で治癒魔法を掛けることにしましょうか」
「はい、基本的に身の安全を最優先で。ですが、見捨てるのはそれ相応の理由をお願いします」
マリウスから治療におけるフリーハンドを渡されたアクスは自らの意見を述べる
以前までは移動する距離もさほどなかったので全員回収してからの治療行為は出来たが、今日から本格的な侵攻が始まる。そうなるとおそらくは何度も陣地に戻って負傷者を置いて出ていくということをしなければならず、下手をすると運搬だけで1日が終わるかもしれない。
なので、アクスは
「つきましては逃げるかそれでも突っ込んで捕まるかを個人で選択してもらうことになるので、現地で説明の手間を省きたいです」
「分かりました。将兵たちには私から伝えておきます」
「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
戦場で悠長に説明して巻き込まれるなど笑えないため、こういう時こそ上役の使いどころだろう。
そうしてしばらく経ち、大きな銅鑼の音や角笛の音によって軍勢が動き出す。開戦当初からの勢いとは比べ物にならないほどの攻勢にすっかり圧倒されたアクスたちであったが、魔法や重量武器による1撃などのオラリオ側の迎撃に木っ端のごとく吹き飛ばされる兵士たちに『あー、やっぱりか』と肩を落とす。
「じゃ、手始めに1番近いあっち行きますか。……ってうわぁ」
「アクス君、あっちは止めときましょ? 【フレイヤ・ファミリア】だから」
次々と槍を模した雷が地面を耕すという思わず顔を背けたくなる現場にトレオはちょっと涙目で進路を変えるように頼み込む──が、アクスは『ちょっと行ってきます』と1人だけで突っ込んでしまう。
蛮勇と思われるかもしれないが、フィンやアミッド曰く『理由付け』は大切らしい。いくら強権を渡されようと、何かを為せないのであれば相応の理由が必要である。
マリウスも何もせずに見捨てるということは許容していないため、今回に至っては『【フレイヤ・ファミリア】の担当するところに行ったけど、やっぱ無理でした』という理由のためには実際にやろうとする姿勢をアクスたちに付いてきた騎士たちに見せねばならない。
なにかと長という立場は大変なことを噛み締めつつも、倒れている騎士や兵士。後は馬に治癒魔法を掛けていると……。恐れていたことが起こった。
「アクス、ここに入ってきたということは分かっているな。あの方も見ておられる。力を示せ」
まずはオッタルからそう言われて大剣片手に追いかけられる。
まさか、望んでもいないのに
それでも一向に諦めてくれないため、仕方なしに弓で彼の顔面に向かって矢を射掛ける。すると、矢を平然と掴んでから横にぽいっと捨てながら『これほどの弓の腕……』となにやら火が付いたようで追いかけてくる速度が上がった。
こころなしか大剣を高く振りかぶっているため、命の危険を感じたアクスは馬を放り捨てて逃げ出そうとしていた。
すると、そんな2人の追いかけっこに横合いから魔法が差し込まれる。水を差されたオッタルがつまらなさそうに引き下がると、今度はヘディンが良い笑顔でアクス目掛けて魔法を放ってきた。
「ほう、あの猪相手に中々の逃げ足だな。……それに、この状況でも兵への回復もこなすか。
魔法をジグザクに進むことで回避し、さらに倒れた味方への治癒魔法をこなすアクス。その姿勢に対してやや感心した様子のヘディンだが、この数日で格上相手に玩具にされてきたアクスとしてはとてつもなく面白くない。『あの鬼畜ホワイトエルフのスカした顔面を狙いなさい』とイマジナリーヘイズの叫びに従い、オッタルの時と同様に高速で弓を弾いた。
鷹の目にも勝るとも劣らないパルゥムの目。その双眸にて狙いを付けたヘディンの顔に向けて飛んでいく矢の軌道を読んだのか、高レベル冒険者にありがちな蔑むような目が一瞬だけだが驚愕に染まる。
「正確だな。だが、まだ足りん。あの方をもっと喜ばせてみろ」
矢が眉間に突き刺さる直前に武器によって切り払われ、お返しに『永伐せよ、不滅の雷将』という詠唱と共に特大の雷を放ってきた。
食らえばまさしく致命傷。回避するにしても雷の範囲が広くて左右どちらに舵を切っても食らってしまう。
そうなれば残された手段は1つしかない。アクスは怯える馬を宥めながら反転させ、
「なんとかなれー!」
神々曰く『なんとかなる言葉』を吠えながらブリューナクを投げると、アクスを飲み込もうとした特大の雷は瞬く間に槍へと吸い込まれて消失。魔法が無効化──否、
その最中に出会ったアルフリッグたちに『災難だったな』と声を掛けられるものの、特に襲われることもなくトレオたちと合流したアクスは引き続いて別の戦地へと目指した。
次にやってきたのはガレスが1人で担当する戦場。既に全員が戦闘不能となっている現場だが、【フレイヤ・ファミリア】と違って手加減しているので治癒魔法を掛けまわるだけの簡単なお仕事だ。
「アクス殿。
「無視してください。今日はあと数か所周って治療していくので、そんな暇はありません」
治癒魔法を周囲にばらまきながらアクスは負傷者の救助を最優先で動くように指示する。
『時は金なり』という極東の言葉もある通り、今は1分1秒も惜しい。マリウスから現地で治療を行うよう指示されたので負傷者移送用の荷車には負傷者が入り込む隙間が無い程パンパンに
なので、先日のように三首領と遊んだりしているとあっという間に夜になってしまう。夜になってしまえば外のモンスターにも警戒しながら捜索作業をするという面倒が降りかかり、モンスターによって手遅れになってしまうことも大いにありうる。
ガレスであれば今の状況や向かってくる将兵の数で大体の事情は察してくれるだろうと信じ、アクスたちは必死に治療行為を続けた。
そうしてしばらく経った頃。ようやくこの場に居た負傷者の治療が終わる。
「ふー、これでここは一段落ですね」
「そのまま向かって行った騎士も居ますがね」
やり遂げたように顔を綻ばせていた騎士が少々軽蔑するような視線でオラリオの方へ視線を向けると、そこには数名ばかりの騎士が倒れている。彼らはアクスの治癒魔法の副次効果でステイタスが上がり、またもや『イケるんじゃね?』と思って突っ込んだが返り討ちにあった者。またの名をマリウスの連絡があったにもかかわらず突っ込んでいき、アクスが現場判断で見捨てることに決めた阿呆共である。
「あれらはこちらで回収しておくが、良いか?」
「あの、平然とこっちに混ざってこないでください。
「せっかく待ってやったんじゃ、固いことを言うでない。ほれ、それよりもあっちでレフィーヤが暴れておるぞ」
快活に笑うドワーフに毒気を抜かれたのも束の間。彼方から大規模な魔法の行使による盛大な爆発音が聞こえてきた。
あの規模の魔法は間違いない。ラキア軍でたびたび噂になっているピンクの悪魔。もとい、レフィーヤのバカ魔力を前面に押し出した
正直言えば行きたくはないが、レフィーヤのことだから【フレイヤ・ファミリア】のようにはならないはず。そう信じてアクスは部隊を纏めると、戦場を移動した。
──数十分後。その信頼が粉々にぶち壊されることも知らずに。
次回 ピンクの悪魔(ヘイズ見てるとレフィーヤは山吹の悪魔だと思うんですがね)
リヴェリア
そうかそうか、つまりお前はそういう奴だったんだなというムーブで戦わせようとする王族。
まさか弓騎兵の真似事までしてくるとは思わなかったためにテンションが上がっている。
なお、下馬中は弓の引き方も分からなかったためにテンションが下がった。
フィン
実っていく…。
ラキア軍からの印章
光るものがある巨乳地味っ子 リーネ。
神々からも噂になるぐらいの可愛さ トレオ。
待っている家族を思い出す アクス。
人呼んで、ポメラニアンズ! あ、こっちはテロリストにならないです。