ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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フレイヤ・ファミリアのĪF(【女神の小姓】(バナジウム))も先週に投稿しています。
見逃した方は設定集の下まで


64:ピンクの悪魔

 時はガレスの一掃した将兵たちをアクスが『えいやー』と、師匠譲りの掛け声で治療していた時まで遡る。

 

「退屈ね……」

 

「暇やなぁ……」

 

 戦場から少し離れた小高い山の上。そこでは今回の戦争で招集されたファミリアの主神たちが集まっていた。

 少しでも眷属の活躍が見たいという親バカ。主神が居れば士気が爆上がりする神輿。ただの暇つぶし等々──と様々な思惑があってここにいるわけだが、いかんせん一方的過ぎて面白みに欠ける状況に漏れなくうんざりしていた。

 

「あ、またレフィーヤの魔法や」

 

「あっちのはヘディンね」

 

 既に暇つぶし目的の神々の半分ほどがオラリオに戻って空席が目立つ待機所では、ロキとフレイヤがそれぞれの眷属が放った魔法を観測しては報告しあう。

 ただ、それに何の意味もない。それほどまでに彼女たちの中では『退屈』という病魔が侵攻していたのだ。

 

 それに、本来であればロキもクノッソスの鍵を探すという大事な用事がある。……が、【ロキ・ファミリア】が居なければラキアを調子付かせることになりうるし、なにより欠席したということでギルドから課される罰則が非常に面倒ということで渋々ここに座っている。

 そんなわけで、少しでも()()()()()()()()()()()()ために彼女は横に座っているフレイヤに話題を振った。

 

「そう言えばフレイヤ。自分ん所……特にレベル高いやつが新しく眷属に加わっとらんか?」

 

「なんのことかしら?」

 

「しらばっくれんなや。元【イシュタル・ファミリア】の副団長。そっちに居るんやないのか?」

 

「私が匿っているとでも?」

 

 ジャブにしては中々切れ味のある話題。側に居たヘルンが主神を困らせる(ロキ)に威嚇していると、それを制したフレイヤは『知らないわ』と告げる。

 ただ、それだけ聞いて『はい、そうですかー』と言えるほどロキは間抜けでもヘスティア(どチビ)のように聖人君子でもない。

 

「イシュタルん所と事を構えたのは自分やろうが。そこから筋道を立てていくのが普通やろ」

 

「そうね」

 

 フレイヤは納得したように頷いた後、両者の間でしばしの沈黙が流れる。まるで何かを考えているかのように目を伏せる彼女にロキはひたすら言葉を待った。

 すると、フレイヤは()()()()()()をしてくる。

 

「例えば……そうね。本当にその()()()()()()()がとある神の目に止まって……。例えば、その子が何者かに追われていると分かった場合……。ロキ、それがあなたならどうする?」

 

「……あぁ、十分や」

 

「あら、つまらない。でも、そうね。何かわかったらあなたに知らせる……かもしれないわ」

 

 ロキは『【イシュタル・ファミリア】の副団長』と言ったはずなのに、名前を把握している。それにその言い分だと、もう『自分が保護している』と言っているようではないか。

 加えて『曖昧には分かっているけど、知らせるつもりはあんまりない』と副音声が聞こえてきそうなフレイヤの言葉にロキはかなり腹を立てるが、【ロキ・ファミリア】の主神としての立場から必死に飲み込んだ。

 それでも、そんな彼女の葛藤を面白そうに見ているフレイヤの頭に数年前のような切れ味の鋭い手刀をうっかり落としてしまいたくなるのも事実。ただ、ここに居るのは洒落が通じない女神の侍女。あの時はオッタルたちも辟易していたから許されたことで、今回同じことをしたら()()()()()()ではないのは目に見えている。

 

「1番面倒な女のところに居る。それだけでも十分や……って、お? あーれーは?」

 

 ひとまず何のヒントもないままオラリオ内を探さずとも、ある程度の情報を得られたことに喜ぶロキの視線に騎馬の集団が見えた。

 ラキア軍の装いから強襲かと思いきや、馬が引いている荷車に【ディアンケヒト・ファミリア】の団旗がはためいているのと、その先頭で見知ったパルゥムが周囲を見渡しながら進行方向を指示している姿にロキは『おもろいことやっとんなぁ』と先ほどまでの鬱屈した気持ちはどこへやら。まるで、先が楽しみな映像作品を見るような笑みで椅子に再び座り直した。

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】の団旗。それに先頭の子はラキア軍の兜を被ってるけど、アクスね。あぁしてると騎士みたいね」

 

「うちのフィンが黙っとらんなぁ。……欲しいなぁ」

 

「あら、あげないわよ? 今の状態が面白いんだもの。それに、うちのヘイズのお気に入りだし」

 

 おそらくここにディアンケヒトが居たら『儂の! わーしーの!』と癇癪を起こすやり取りが2柱の間で交わされる中、噂のアクスは部隊を纏めて()()()()()()()()を走っていた。

 周囲にはオラリオに存在する各ファミリアの団旗がひしめく野営地が乱立しており、てっきり迂回すると思った兵士たちは冒険者たちの視線が突き刺さることに耐え切れずに声を大にして今の心境を曝け出している。

 

「アクス殿ー! ここっ! 思いっきりオラリオ陣営の野営地ですよー!」

 

「何のために出発する前に非武装をお願いしたと思ってるんですか。駆け抜けますよ!」

 

 この部隊は武装を一切していない。モンスターから最低限身を守るナイフぐらいは持っているが、長剣や魔剣の類といった人を殺傷するのに十分な威力を持つ武器は身に着けていない。

 武器と言えるものは精々、旗を括りつけている旗竿として役立てているブリューナクぐらいだろうか。

 

 それでも神の恩恵(ファルナ)を刻まれた人間が武器を持っていることは十分危険人物に値するのだが、ぶっちゃけこんな少数の部隊で突っ込んでも結果は見えているので冒険者たちもある程度の警戒はしていたが、よくよく見ると先頭のパルゥムが持っている槍に【ディアンケヒト・ファミリア】の団旗が括り付けてあることからそういった危険性は皆無だと断じた。

 

 そうして冒険者たちからの奇異な視線に晒され続けたアクスたちだが、いよいよレフィーヤが放っていると思われる魔法の爆発音に混じって人の悲鳴が聞こえる位置まで移動することが出来た。

 

「味方の脱出を最優先。後から僕とトレオさんとリーネさんのみで反転し、出来得る限りの負傷者を治療します」

 

「承知しました」

 

 扇状に広がっていた部隊は荷車を引いた馬を中心に鏃のような陣形に動く。そのまま広域殲滅魔法(ヒュゼレイド・ファラーリカ)を放っても尚、潰走する部隊を並行詠唱しながら追いかけていたレフィーヤの後ろを追いかけていく。

 出来れば彼女と話し合い、多少の捕虜を取ることを条件に怪我人を治療して撤退する暇を与えられないかと相談したかったが、ここでレフィーヤが色々ポカをやらかした。

 

 まずは周囲に味方が居なかったことである。1発目の魔法を着弾させた後に彼女は並行詠唱をしながら飛び出しており、監視のためにレフィーヤの側に居たエルフィたちも旗の存在から『危険はない』と判断して彼女を呼び戻さずにその場で待機していた。

 そのため、エルフィたちにはバッチリ見えていた【ディアンケヒト・ファミリア】の旗をうっかり見逃すという()()()()()()()()()()に見舞われてしまう。

 

 さらに、彼女はいつもの聡明さや論理的思考が圧倒的に欠いた状態でこの場に居たこともポカに直結してくる。

 以前のクノッソス調査において、彼女は自身の力不足を感じていた。周囲の反応はともかく、その改善に取り組もうと彼女はより一層訓練に力を入れ、少しでも纏まった時間があれば知識を求めて書庫に籠るといったことを毎日行っており、その熱量は師であるリヴェリアも感心するほどだ。

 

 しかし、同時に焦って気が漫ろになっていることもリヴェリアは気づいている。そして、逸る気持ちのままに焦れば傷つくのは頑張っているであることも彼女は既に身内(アイズ)を見て学んでいる。

 だが、今のレフィーヤを前に『頑張るな』や『根を詰めすぎるな』と注意するのは無体が過ぎる。どこか暇を見つけて徐々に肩の力を抜くように解していけば──と考えた矢先にラキア王国が攻めてきたため、レフィーヤは逸る気持ちのまま出陣。絶不調の状態でこの場に立っていた。

 

「後ろから新手!?」

 

 そのため、現在アクスたちが飛び道具などから身を守るためにアレスからラキア軍の装備を貸してもらっているという紛らわしい事情もあるが、()()()()()()()()()()()()()()()ということを把握できていなかったレフィーヤは少数のラキア軍の部隊が迂回して攻撃してきたと錯覚してしまったのだ。

 

「くっ、あっちはあくまで陽動。本命は魔導士(わたし)!」

 

 見事に釣りだされてしまったと誤解したレフィーヤは杖を前に速射性に富んだアルクス・レイを詠唱。その魔力の気配にまさか攻撃してくるとは思わなかったアクスは慌てて散開を指示した。

 間を置かずにレフィーヤの杖から光弾が弧を描きながら飛んで来るものの、指示が早かったおかげで()()()()()()()()()何とか無事に魔法を躱すことに成功した。

 ただ、着弾した際の瓦礫が1台の荷車に命中。その中に積み込んでいた回復薬(ポーション)を始めとした医療具が無残に宙を放り投げられた。

 

「あんのエルフがぁぁ!」

 

「すみません! ほんとすみません!!」

 

 同僚の狼藉にリーネがアクスへ平謝りしてくるものの、彼は既に激おこ状態であった。

 ただでさえ忙しいのに散らばった医療品の回収がタスクに加わる。いくら今のアクスがラキア軍の雇われであったとしても、これは明確な『治療の妨害』。アクス的に到底許される所業ではなかった。

 それに避けたことで医療品()()に被害が及んだが、あのまま突っ込んでいたらかなりの被害を追っていたのは自明の理。そこらへん諸々を加味すれば──『お話』しなければならないとアクスが思うのは仕方のないことであった。

 

「ちょっとあの悪魔を止めてきます。騎士の方々は逃げている味方の誘導をしてください。トレオさんたちはこの団旗に無事な回復薬(ポーション)とか医療器具を纏めて、周囲で倒れている負傷者の治療をお願いします」

 

「【ロキ・ファミリア】の人たちが来たらどうするの?」

 

「こちらの正当性を訴えてください。それでも捕虜とか云々云うのであったら、条件のすり合わせをお願いします」

 

 槍から【ディアンケヒト・ファミリア】の団旗を取り外し、風呂敷代わりとしてトレオに渡したアクスが【ロキ・ファミリア】が来た時に備えて具体的な指示を出す。

 こちらからは攻撃していないし、負傷者の治療を念頭に置いているというアピールのために必要最低限の武装しかしていない。さらには目印として【ディアンケヒト・ファミリア】の団旗を掲げているという配慮も欠かしていない。

 これで何かを言われるのであればアミッドに出張ってもらう案件だが、【ロキ・ファミリア】の三首領はそこまで短慮ではないだろうということは長年の付き合いからアクスはよく分かっていた。

 

 精々、治療した将兵をオラリオ側の捕虜にしようとし、ラキア軍で引き取る要求を却下するぐらいか。そこら辺は先ほど荷車を魔法でぶち壊したレフィーヤの責任もチラつかせれば良い条件を引っ張ってこれるだろう。

 

「じゃ、頼みましたよ」

 

 そう言い残してアクスは槍を構えながらレフィーヤの素へと向かう。ここで彼も団旗を振り回しながら『【ロキ・ファミリア】の皆さ〜ん、【ディアンケヒト・ファミリア】ですよ〜!!』と打ち上げ旅行で酔っ払った勢いで叫んだ主人公のように自己アピールでもすれば衝突は回避できたかもしれない。

 しかし、治療行為の妨害というアミッドでもブチ切れる行為をやってしまったからにはもう……ネ。今の彼の思考回路はショート寸前。今すぐかの傍若無人なエルフを除かねばならないと覚悟完了しているため、そのような考えには至らなかった。

 

 しかし、それはレフィーヤも同じである。

 

「アルクス・レイ!」

 

 向かってくる騎士の手に握られた槍に見覚えはあったものの、悠長に思い出す時間は無かった彼女は刻一刻と近づいて来る敵に向けて詠唱を終わらせていた魔法を投射。リヴェリアたちから口酸っぱく言われているため、命中しても死にはしないが軽い火傷を負わせるほどの威力を調整された光弾が空を駆けていく。

 ラキア軍の兵士の実力は総じて低い。おそらくはこの程度の魔法で戦闘不能になってくれるはずだろうと思っていたレフィーヤだったが、その時だった。

 

 突如として背中に大きな氷柱が付き立ったかのような悪寒。例えるならば自分より遥か高み──あり得ない話だが、リヴェリアが本気で魔法を放ってくる直前のような圧倒的な存在と相対したような命を取られかねない寒気が彼女の肌を撫でる。

 しかし、【ロキ・ファミリア】はフィンから常々『直感』の大切さを教え込まれている。魔導士らしからぬ行動だが、直感の赴くままレフィーヤがその場を全力で離れるために駆け出していると、騎士の方も光弾に向かっておもむろに槍を投げていた。

 

『はぁ!?』

 

 光弾と槍がぶつかった途端に吸収していた極大の雷で形成された砲弾が解放され、わざと魔力を少なく籠めていた光弾があっという間に消し飛ばされた光景にレフィーヤどころか待機していたエルフィたちも驚きの声を上げた。

 直感を信じて射点から離れたためにレフィーヤには特大の魔法現象は命中しなかったが、直感を信じずにあの場に居たならば少なくとも黒焦げになっていただろう。

 

「うあ……あ……」

 

 明らかにそこら辺の魔導士の放つ魔法とは一線を画した威力。レフィーヤの脳裏には『エルフが忌み嫌う(クロッゾの)魔剣』の存在がチラつき、その場にへたり込んでしまう。

 ラキア王国の者は全て砕けたという話は聞いたことはあるものの、オラリオにはヴェルフというクロッゾの血筋かつ魔剣を打てる存在が居る。ラキア王国側にそんな人材が居ても何ら不思議ではない。

 

「あの……」

 

 すると、レフィーヤの眼前に先ほどの騎士が声をかけて来る。声からして若そうだが、それでも自分以上の魔法を放つ槍を持つ()()()()()にすっかり戦意がくじけてしまった彼女だが、それでも【ロキ・ファミリア】という矜持が彼女の足を再び立ち上がらせた。

 

「き、来なさい! 私はレフィーヤ・ウィリディス! 神ロキと契りを交わしたこのオラリオで最も強く、誇り高い偉大な眷属の一員です!」

 

「え……。あ、はい。知ってますが?」

 

 己を奮い立たせるために前向上を語ったレフィーヤだが、対する騎士が『何言ってんだ、この人』といった口調で答えてしまったために微妙な空気が流れてしまう。

 騎士──アクス側は『え、なんで分からないの?』といった具合で、レフィーヤ側は『誰?』といった具合でお見合い状態が続くが──。

 

「あっ、兜外すの忘れてた」

 

「あれ……? あの槍って……」

 

 ようやく2人が今の状況を完全に理解する。アクスが兜を脱ぎ、先ほどの魔法がどこかから拾ってきた魔法であることを理解したレフィーヤが立ち上がる。

 両者はそのまま近づき、このはた迷惑な事態は一旦収束したかと思いきや──。

 

「逮捕ォー!」

 

「えっ!? あっ……いや、ご……ごめんなさい!」

 

 突然レフィーヤの手を掴んだアクスは、まるでガネーシャファミリアの団員が女性ものの下着を手に走っていたヒューマンをしょっ引こうとするように叫ぶ。その声量と重罪人扱いに驚いた彼女だが、よくよく考えればいくらアクスにも非があろうが彼が怒るのも仕方がないことを連続でやっていたことを思い出して謝罪する。

 しかし、彼の怒りは収まらない。『御免で済んだらガネーシャファミリアはいらないんですよ』とその謝罪を切り捨て、先ほどのブリューナクから発せられた魔法の威力に驚いて合流してきたアキたちにレフィーヤを託した。

 

「後で戻って来るんで!」

 

「あ、うん。分かった」

 

 どうやら相当腹に据えかねているらしい。何を言っても無駄だと察したアキは言葉短く承諾すると、アクスはようやく治療を終えて合流したリーネたちとラキア軍の本陣の方へ向かってしまった。

 虎の尾どころかドラゴンの尾を踏んでしまったことにレフィーヤの頑張りを身近で見ていたエルフィは彼女を慰めている横で、その他の面々はとりあえず今は所用でオラリオに帰っているフィンを除いた上司に報告することにきめていた。

 

***

 

 夕方。ラキア軍の負傷者を治癒魔法を連発するという荒業で治療したアクスたちは、何やら慌ただしそうな様子で騎士たちに指示をしていたマリウスの合間を縫う形で早退許可をもらう。

 ただ、許可を出しながらも何やら忙しそうに指示書を書いたり、外から装飾が華美な鎧を身に着けた騎士がひっきりなしに訪ねてきたりとマリウスのみではなくその周囲がかなり慌ただしかったため、明日以降の投入数が気になったアクスが遠慮がちに訪ねてみた。

 

「明日も大規模な侵攻を予定されてます?」

 

「いえ、明日から少々作戦を行いたいので数日間は開戦直後のように散発的にやらせてもらいます。なので、アクス殿には申し訳ありませんが、数日……3日か4日ぐらいラキア軍の陣に入らないでもらえないでしょうか?」

 

「入らないということは、そもそも今日までみたいな作業は全てなし。具体的に言えばお休みということでよろしいでしょうか?」

 

 契約で1番大切なのは意思の確認である。解釈違いで『やった、やらなかった』などの水掛け論には発展したくないと認識をすり合わせるアクスだが、どうやらマリウスも休みの方向で考えてくれているらしい。

 それほどまでに部外者を入れたくないのか。いや、そんなに極秘な作戦だとオラリオからの商人やアイシャたち娼婦も規制しないといけない。アミッドがたまにやっている『役員会議』なる行事のことを思い浮かべたアクスは、おそらくはアレスやマリウスと近しい存在のみで作戦を遂行しようとしているのだろうと考える。

 お堅い会議の中を近くでチョロチョロされるのはうっとおしいことこの上ない。そう判断した彼は、マリウスの提案をありがたく受けることにした。

 

「承知しました。それでは明日から5日間はオラリオで過ごそうと思います」

 

「あぁ、申し訳ない」

 

 こうして降って湧いた休み。『黙ってたら休みになるのではないか』という悪魔がちらつくが、それを見越してかトレオが『報告しようね』と先手を打ってきた。

 人生はそう上手くいかないことを12歳で理解させられた悲しきナマモノは、その足でラキア軍の陣幕から離れた【ロキ・ファミリア】の陣幕が設営されている場所にお邪魔する。

 

 非常に申し訳なさそうなアリシアに森の奥へ案内されて優に十数分間。そこで彼は世にも恐ろしい拷問を行っていた。

 その犠牲者は可憐なエルフ。露出を嫌う種族である彼女は現在、素足を露出した状態で縛られるという屈辱的な恰好となっている。

 

「もう……止めてください」

 

「えーっと……。ぐへへ、そう言っても身体は正直やからなぁ。もっと……ロキ様、これなんて書いてあるんですか?」

 

「あー、急いで書いたから分かり辛いねんな。"可愛がったるさかいなぁ"や」

 

 夕日よりも赤い顔をさせながら息も絶え絶えなレフィーヤの目の前では、アクスが棒読みでロキに色々助言をもらっている。レフィーヤとアクスにこんなバカげたことをさせていることがリヴェリアの耳に入ったならば鉄拳制裁を食らって事態を収拾するはずだが、本人どころか周囲に居たギャラリーも静かに主神たちのやり取りを見守っていた。

 

 なにせベートの後に()()なので、【ロキ・ファミリア】の中では今回の事は部隊の連携を見直すための教訓として重く見られていた。

 別に『下手に庇ったら巻き込まれる』と思っているわけではない。……おそらく。

 

「じゃあ、続けていきます」

 

「嫌ぁ……。止めてくださいぃ」

 

 ロキからの指導の半分も分からなかったアクスは、エルフ対策に手袋をした状態で再び嫌がるレフィーヤの両足──左右の親指辺りを掴む。指の腹で気持ち強めに押し込んでいくと、その痛みに耐え切れずにレフィーヤは声を大に叫んだ。

 

「い"や"ぁぁ! 痛い、痛いですぅ!」

 

「アクス、ちなみにそこはどこが悪いんだ?」

 

「頭痛やストレスですね。さっきやった親指の付け根は首です。おそらく、同じ姿勢で本を長時間読んでいたのかと」

 

「うん、見てたー。それで首をトントンって叩いてたー」

 

 絹を裂くような乙女の悲鳴も聞こえないのか、親指をもみほぐしていたアクスにリヴェリアが興味津々といった様子で聞き、エルフィはレフィーヤの日常を赤裸々に語る。

 今回行っている拷問は『足つぼマッサージ』だ。これはアミッドが極東出身のとある神を招集して教えてもらった施術で、この施術の特徴は()調()()()()()()()()らしい。

 

 なんでも足のツボと呼ばれるところは臓器や器官に繋がっており、身体の不調がそこを刺激した時に痛みとして感じられるのだとか。話を聞いた時は半信半疑だったが、アミッド含めた数人を実験台にするとその疑惑は確信へと変わる。

 あの治療院に居る時は表情を崩さないアミッドが泣き叫びながら許しを請う姿に一部の団員が興奮し、一部の団員が涙し、アクスは『どんだけ身体悪いの!?』と彼女の身を案じた。

 しかし、これはあくまでマッサージ。全てを終えたアミッドたちは、非常にうっとりした面持ちで『これはすごいです』と大絶賛したことで【ディアンケヒト・ファミリア】の全員は漏れなく施術法やツボの位置などを知識として取り込んでいた。

 それが今は拷問として役立っているため、人生は何が役に立つか分からないものである。

 

 なお、時折熱視線を送って来るリヴェリアは気にしない。気にしたら最後なので、()()()()()()()()()()()()()()()()()の精神でアクスは説明をしながらレフィーヤを痛めつけ……もとい癒していく。

 

「い”や”あ”ぁ!」

 

「レフィーヤ……気の毒に……」

 

「うわぁ、レフィーヤ……。スカートなのに」

 

 足裏のツボ押しというものは先ほど言った身体の不調が痛みとして現れるのもそうだが、立っている間は自分の体重で地面に押さえつけられている場所なので筋肉が凝り固まっていることや、押さえつけられていることで血管が委縮して血流が乱れていることも挙げられる。

 特に冒険者は走ったり飛び跳ねたりと身体を酷使する職業なため、その痛みは想像するだけでも身の毛がよだつこと請け合いだ。

 

 アクスが片足だけを重点的にもみほぐしたため、自由になった片足を限界までぴんと伸ばしながら悲鳴を上げるレフィーヤ。もはやエルフとしてではなく、淑女としても失格な姿に近くで見ていたアリシアとナルヴィは『あんなことにはなりたくない』と口元を抑えて哀れんだ。

 

「あ、レフィーヤさん。そんなに足を延ばすと……」

 

「あ"ぅっ! ……うぅぅ」

 

 突如としてビクンッと痙攣したレフィーヤが呻き出す。何が起こったのか分からなかったリヴェリアがアクスに問うと、彼は『こむら返り』と言って説明し出す。

 

 こむら返りとは筋肉が急に収縮して硬くなる──もっとかみ砕けば、足がつった現象のことを言う。主に水分不足や同じ体勢を続けたせいで起こる現象のため、体験したことはないかとアクスは聞くと『寝てる時に』といった声がちらほら出てくる。

 今回は極限まで足を延ばしたことでつったのだろうと、アクスは自動治癒魔法(オート・ヒール)を掛けながらレフィーヤのふとももを優しく揉みこんでいく。ふと、鳥のもも肉が食べたくなったのは内緒だ。

 

「うぅ、さっきまで痛かったのに妙にすっきりしてる」

 

「本当は温まった状態が良いんですがね。それよりも、一応僕も怒ってるんですからね?」

 

「それは本当に悪いと……痛いです! 痛いですぅ!」

 

 すっかり許されたと思いきや、そうは問屋が卸さない。その後も時折優しくしつつもチクチク嫌みを言いながら強めに指圧することで、最終的にレフィーヤは『止めてください』と『許してください』しか言わなくなってしまった。

 その一部始終を見たロキは『ショタ逆転もの……いや、これは何になるんや?』とリヴェリアに聞くものの、彼女はロキの満足する答えの代わりに鉄拳を落とす。

 

 そんなこんなで一応は和解となったが、非があるのは明らかに【ロキ・ファミリア】な分だけ謝罪するリヴェリアの腰は低かった。

 

「じゃあ、今回はお互い反省ということで。今後はこういうことが起こらないように徹底するということでお願いします」

 

「あぁ、すまなかった。それよりもアルクス・レイを飲み込んだ魔法はどこから仕入れてきたんだ?」

 

 謝罪しながらも1つだけ気になったことを尋ねるリヴェリア。弱めに調整したとはいえ、バカ魔力の魔導士が放った魔法を容易く無効化。それどころか押し勝った魔法だ。後学のために使い手は知っておきたいと彼女が問うと、アクスはとある方向を指差した。

 おそらくリヴェリアも心当たりがあったのだろう。()()()()()()()に『そうか』とやるせなさそうな表情を浮かべた。

 

 こうして冒険者が絶不調の状態で戦うと碌なことにならないことを物理的に痛くして理解()からせたアクスは、トレオたちを連れて治療院へ戻っていく。早退したので随分早い帰還となってしまったが、事情を話せばおそらくは分かってくれるだろう。

 レフィーヤの今後についてはアクスが気にすることはないし、悪いのは勘違いした側なので冒険者の鉄則である『自己責任』とさせてもらう。

 

「ただいまー!」

 

「あ、アクス。おかえり」

 

 早退したおかげか通常の3割増しに元気な状態で裏口を開けて入ってきたアクスたち。そのままアミッドにマリウスから話された休みについてを報告し、自分も明日から休みなのかと問うた。

 

 ──が。

 

「駄目ですよ」

 

 どうやら駄目らしい。勤め人は上の立場に逆らえないため、アクスはただ頷くしかなかった。

 

***

 

 こうしてひょんなことからマリウスからお暇をもらったアクスは、次の日からオラリオ内を走り回ることとなった。

 まずは配達が滞っていることから頼まれていた回復薬(ポーション)や軟膏といった薬を各ファミリアや家庭に配達し、それが終わればアミッドの代役ということで作成した秘薬を【ロキ・ファミリア】に輸送するかなり重要な任務に就く。

 ラキア軍との戦争ということでロキは帰っていなかったが、前日からフィンが帰ってきたみたいで彼にダブルチェックをお願いしてもらう形で倉庫に秘薬の納品。現状で量産出来たすべての秘薬を移すことが出来た。

 

「そういえばアクス、明日も暇なのかい?」

 

「治療院で仕事ですね。なんでもマリウス殿下がしばらく来ないで欲しいと」

 

 職務に邁進する治療師(ヒーラー)によく『暇』と言えたものだが、それをフィンに言っても仕方ないためにアクスは経緯を話す。すると、彼は何やら考え込んだ後に『分かった、ありがとう』と伝えてきた。

 

 一体何が分かって、何についてお礼を言われたのだろうか。相変わらずアラフォーパルゥムの考えがさっぱりだったが他の仕事を片付けてから治療院に戻ってくると、団員たちが妙にソワソワしていた。変な客や患者でも現れたのかと問うとそうではないらしく、煮え切らない様子に徐々に疑問から不安に切り替わっていく。

 

「アクス、お帰りなさい」

 

「ただいまー。お姉ちゃん、なに持ってるの?」

 

 すると、アクスの帰還の報告を受けたのか調剤室からアミッドが出てくる。彼女の手には1枚の便せんが握られており、アクスがそれを見ると差出人が不明かつ宛先が自分であることが分かった。

 これだけでもゴミ箱にダンクするに足る怪しさだが、何かしらのメッセージかもしれないと中身を見る。

 

「明日の昼に南西にあるアモールの広場。あとは"どうしても来て欲しい"ぐらいしか書いてないよ?」

 

「悪戯でしょうか? でも、中々上等な便箋ですし、もしかしたらうっかりという可能性もありますね」

 

 時間と待ち合わせ場所しか書いていない手紙に警戒心が一気に上がるアクスとアミッド。ただ、周囲の──特に女性団員はそうではないらしい。

 アモールの広場はデートの待ち合わせでよく利用されている場所なため、もしかしたら具体的な思いを()()()書かなかった人物がこうして回りくどく誘っているのではないかという頭がお花畑の発想が飛び出てきた。

 

「なるほど。"いつもお前を遠くから見ているぞ、この臆病者め。貴様の心臓の鼓動を止めて楽にしてやる"ってわけだな。分かった、分かった」

 

「何一つ掠ってもないわよ!? この頭闇派閥(イヴィルス)!」

 

 頭が暗黒期に取り残された男性団員の頭を女性団員が強かに叩く一方、アクスはアクスでどうするべきかを考えた末──『どうせだから』と会いに行くことを決心した。




あかん、1日1000文字しか書けない。忙しい、予定が詰まってる、犬吸いたい、お酒飲みたい。

レフィーヤ
 ピタゴラスイッチ的にポカをやらかし、アクスを攻撃したピンクの悪魔。なお、彼の号も…施術を経て体調が元に戻りかけている。
 本当は近接戦闘もしたかったけど、格上のレフィーヤにボッコボコにされそうだからやめた。

足つぼマッサージ/こむら返り
 痛いゾ! 特に無茶な生活になって来ると格段に痛さが増すゾ!
 ベッドで伸びをしてる時にこむら返りしたら軽くパニックになる。

アリシアとナルヴィ
 レフィーヤのスカートにも拘らず足ピンしている光景に絶句していた2人。
 君たちも……。ネッ。

手紙
 タメエモンさんのネタを一部使わせていただきました。まぁ、見るからに怪しいのでキャイキャイはしてませんが…。
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