ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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【小要塞】(デミ・フォートレス) 家出編

 子供は時にとんでもないことをやらかす。例を挙げるとすれば熱いと分かっていながらもヤカンに触って火傷をしたり、家の中に捕まえてきた大量の虫を放したり、どこからかランクアップの方法を聞きつけて黒いモンスター相手に死んでもおかしくない激闘の末にランクアップを果たしたり……。

 最後のはちょっと違うだろうが、子供の爆発力ともいえる行動力に大人が振り回されることは様式美と言う他ない。

 

 つまり、何が言いたいのかと言うと……。子供──アクスがそんな強行を仕出かしてしまったのである。

 

***

 

 朝。いつも全員で取る決まりになっていた朝食の場にアクスは現れなかった。

 いや、『現れなかった』と言うのは語弊がある。正しくは、()()()()()()()()()()()

 机の上には湯気が立っているスープが入った鍋や個人ごとの好みに合わせた卵料理。後はふかふかのパンやらと朝食の準備がされていることから、アクスが朝食の準備をしてくれたのは明白。それでも当の本人はいつまで経っても来ないことに、未だ子供ということで保護者という権限でもって同室となったロキに尋ねたところ──。

 

「あぁ、うちを起こしてから出ていったで」

 

「出て行った?」

 

「家出や、家出。ほれ、これ書いてな」

 

 主神のあっけらかんとした言葉に一同が騒然となる。当たり前だろう、未だ12歳の子供が朝早くに誰にも告げずに本拠(ホーム)を出たのだから。

 リヴェリアはエルフたちに他に手掛かりがないかを確認させ、アイズは()()()()からレフィーヤたちと共に黄昏の館中をくまなく探す。そんな中、フィンはロキから手渡されたアクスの置き手紙について疑問を口にした。

 

「ロキ、アクスの居場所は分かってるのかい?」

 

「分かっとるけど、まだ出ていった理由も分からん自分らには教えたくはないなぁ」

 

 椅子を揺らしながら面白げな視線を投げかけるロキ。もはや梃子でも喋らなさそうな雰囲気にフィンは彼女から聞き出すことを早々に諦め、アクスの置き手紙にあった『実家に帰らせていただきます』からとある場所に目星をつけた。

 

「アキ、ラウル。アクスの実家を見に行ってくれ」

 

「わ、分かったっす。行くっすよ、アキ」

 

「えぇ」

 

 アクスは両親の亡骸に隠れていたところをロキに拾われたが、その護衛に着いていたのがこの2人だ。ゆえに正確に場所を把握している彼らに捜索を命じながら、フィン自身も地図を広げて捜索の網を張ろうを画策する。

 しかし、数十分後に帰ってきた彼らの口から見つからなかったという報告が届き、館中を探し回ったアイズたちからも痕跡が見つからなかったという報告に三首領はようやく事の大きさを理解した。

 

「なぜだ、いきなり家出なんて……。それに菓子類は食事ではないと常々言っているだろうにっ!」

 

「うん、言ってくれればじゃが丸君を数日分持たせたのに」

 

「リヴェリア様、アイズさんも……。今はそんな場合ではないと思いますが、たしかにいきなりすぎますね」

 

「皆、アクスに何かしたという心当たりは?」

 

 アクスは子供ながら聡い子だ。リヴェリアがいつまでも子ども扱いして水浴びの護衛として誘ったりと、()()()()()()()()()()()()()()()()()こういった悪戯をするような子ではない。

 フィンの言葉に全員が今まで自分がアクスにしてきたことを思い返すが、()()()()()記憶にない。すると、いつまでも仏頂面で黙っていたベートがようやく口を開いた。

 

「おい、フィン。本当に気づかねぇのか?」

 

「どういうことだい?」

 

「ちっ、自覚無しか。あいつも苦労するな」

 

 一切気付かない様子のフィンにベートはさらに不機嫌になる。だが、当の本人やさらに『雑魚共』と罵ってきたベートの言葉に全員が納得いかない様子で睨んでいると、ロキがようやく助け舟を出した。

 

「フィン。リヴェリアとガレスも……。自分ら、"随分キアンに目ぇかけてるなぁ"」

 

「っ!? リヴェリア、ガレス。君たちもかい!」

 

「リヴェリア、フィン! お主らもか!」

 

「お前たちもか!」

 

 それぞれが顔を見合わせ、まるで『自分は悪くないが他の2人が余計なことをした』といった具合にお互いを牽制している。

 

 なお、各個人の内訳については『教育』と『熱き戦い』と『その他』に分けられる。

 リヴェリアは最近の一般常識に疎いキアンを教え、そこから次々と出てくる質問や鋭い指摘に目を輝かせながら教育に熱が入ったこと。

 ガレスは修練の締めとしてキアンと一騎打ちをしており、最近はお互いの獲物すら放り投げての超近接戦闘にまで発展しているのだとか。

 フィンは……なんというか、様々だ。キアンが死ぬまでに経験した記憶──特にフィオナ騎士団関係の話を聞いたり、槍での演習や戦術についての考察を行ったりと多種多様に世話を焼いてもらっている。

 

 ただ、ここで勘違いしてはいけないのが『アクスを完全にないがしろにしていないこと』である。勉強時間の隙間時間などの絶妙な空き時間に彼らはキアンへの用を済ませているため、余計に性質が悪い。

 しかし、三首領()()は違った。

 

「おー、おー。古典的な反応ありがとさん。……んで、他にもおるっちゅーか。全員、漏れなくキアンの世話になっとるやろ。やり過ぎや」

 

 まるで昔に戻ったかのようないがみ合う3人に向かって懐かしそうな視線を送っていたロキだが、すぐさま視線を他の団員へと向ける。その目に耐え切れずに()()()()()()がぽつりぽつりとキアンの世話になったことを白状した出した。

 

*** 訓練の場合 ***

 

 【ロキ・ファミリア】2軍。幹部たちとは違って単一での突破力は低いが、隊伍を組んでのチームプレイには定評がある者たちである。

 ただ、彼らも決して今の状況に甘んじているわけではない。いつかランクアップを果たし、幹部の仲間入りする人夢見てひたすら修練に励んでいるのだ。

 

 そんな彼らが訓練に励む黄昏の館の中庭にて、キアンは冒険者たちに囲まれていた。地面には様々な武器が刺さっており、それらを引き抜きながら目の前の青年の攻撃を躱しては指導しながら1撃を加える姿はまさしく教育者のそれである。

 

「ラウル、剣は腕力のみで振り回すな。かと言って鎖は大ぶりに振ると……こうなる!」

 

「うわっ!」

 

 音を置き去りにした鎖の先端を()()()キアンは、そのまま引っ張ることでラウルを引き摺り倒す。通算5度目の転倒となるため、これで『5度の死』を迎えたことになる。

 元々備わったパルゥムの目の良さに加えて幾度となくモンスターや人間と鎬を削った戦闘技術という冒険者にとって1番大事なレベルやアビリティを抜きにした戦い方に2軍たちの目が釘付けになる中、ラウルに対する総評が下される。

 

「たしかに君の武器に対する熟練度は目を見張るものがある。……が、少々賢すぎるよ」

 

「賢い……っすか?」

 

「そう。例えば鎖なら……、おじさんならこうする」

 

 そういった瞬間、キアンの姿が掻き消える。遠くからラウルたちの様子を見ていたアキの目からはものすごい勢いで屈んだキアンがラウルの股下を潜り、背後を取った光景が映っていた。

 しかし、彼の目にはいきなりキアンが消えたぐらいしか分からず、慌てて右往左往していたところに首に鎖が巻き付いていく。首が完全に締まりきる前に腕を差し込んでことで何とか窒息せずに済んだが、そのまま為す術鳴く地面に転がされたラウルにキアンの声が鼓膜を揺らす。

 

「君は冒険者だ。戦い方に綺麗や汚いを持ち込むものじゃないよ」

 

「そう……っすかね」

 

「そうさ。個人的に、君はもうそこら辺の武器を十全に使えている。後は、こういう使い方を咄嗟に出来れば戦いにくい冒険者の完成ってわけ。参考になったかな?」

 

 温和な笑みを浮かべてラウルを解放するキアン。すると、今度はクルスが槍を片手に突撃してきた。

 

「やぁ、次は槍か。得意分野だっ!」

 

 地面に突き刺さった槍を引き抜き、クルスの槍──ではなく柄を握る手に傷をつけていく。アクスのレベルではどんなに逆立ちしてもクルスには勝てないため、まずは武器を保持する手を狙ったのだ。

 案の定槍を握る力が幾分か削がれたクルスが痛そうに眉を顰めると、利き手とは逆の手に変えてから槍を振う。

 

「こうなることもあるから、利き手以外も鍛えると良い。ただ、盾を持っている子は防御の型自体が崩れる恐れがあるから気を付けてね!」

 

「金言、ありがたく!」

 

 利き手と反対の手のためか、クルスが繰り出す槍の速度が明らかに遅い。それでもアビリティの差は歴然なため、キアンはまともに打ち合うことをせずに足さばきだけで彼の攻撃を全て避けていた。

 右へ左へのらり、くらり。まるでそのキアンの生き様のように掴み処の無い動きに、クルスの体力がじわじわと消耗していく。

 

 やがて、『これも避けられる』と思ってしまったのだろう。彼が甘い攻撃を繰り出した瞬間、柄を短めに握ったキアンは槍の穂先をクルスの首筋にぴたりと押し付けた。

 

「油断は駄目だ。油断を突かれたら、どんなに鍛えていても意味がない。……って言っても、たしかに集中力は切れるもの。なので、常に全力じゃなくて"6割"。まだまだいけるから、もうちょっと頑張ってみよう~って感じで動けば良いかもしれない」

 

「ですが、俺たちは2軍で……。もっと頑張らないと、後ろから追いかけてくる奴が……」

 

「それはベル・クラネルってやつのことかい? おじさんもアクスの坊伝いでしか見聞きしてないけど、明らかにおかしい速度でレベルって言うのを上げている奴がいるみたいだね」

 

 キアンの質問にクルスが無言で頷く。【ロキ・ファミリア】の2軍にとって彼の出現は、まさに青天の霹靂だった。

 それも努力している自分をあざ笑うかのようにとんとん拍子でランクアップをしている現状や、行ってきた偉業の数々を調べては自信を無くすといった()()も出てきているため、彼らのメンタルはかなりガタガタになっている。

 しかし、そんなお通夜のような空気の中でキアンは『それがどうした』と笑いかけた。

 

「2軍? ベル・クラネル? それがどうした。君たちには"戦おう"とする覚悟がある。"前へ進む"という勇気がある。おじさんから見てこの場に居る誰も団長たち、【ロキ・ファミリア】の足手まといになんてならないよ、君たちよりも遥か昔の存在であるおじさんが保証する」

 

 そう締めくくると、時間切れらしくキアンからアクスへ戻っていく。男女問わず、キアンのファンが増えたことは言うまでもなかった。

 

***

 

「なぁ、フィン。今の話は自分が言うべきことちゃうん?」

 

「うん……。まさか、こんなことしてるなんて思わなかったよ」

 

 キャイキャイと沸き上がる団員たちに『さっそく乗っ取られとるやんか!』と言いたげなロキ。そして、まさか団員たちの訓練に付き合ったり、メンタル回復までしているとは思わなかったフィンはやや複雑そうな表情を浮かべる。

 

 しかし、キアンの行ったこと──もはや乗っ取り計画と言っても差支えがない程の行動は他にもあった。

 

「アリシア含むエルフ組。後はエルフィに諸々! レフィーヤ……は、別にえぇか。自分らもキアンに色々言うとったやろ」

 

「そ、そんな! 私たちはキアン様に相談を受けてもらっていただけです!」

 

「そうです、何もやましいことはしていません!」

 

「じゃかぁしぃ! 自分ら、アクスの部屋がうちの部屋なの忘れとるやろ! 数日に1回、うちが締め出されるんやで! もぅ怒った。試しにアリシアが相談してたこと言うたるわ!」

 

 未だに自分たちの非を認めない卑しい存在が数名。もはや堪忍袋の緒が切れたロキは、少し前にアリシアが部屋でキアンと話していた内容を語りだした。

 

*** 相談事の場合 ***

 

「申し訳ありません、お時間をいただいて」

 

「既にアクスの坊は眠っているから、気にしなくて良いさ。それで、今日はどのようなお話かな。お嬢さん?」

 

 温和な笑みで歯の浮くようなセリフを吐くキアン。他の冒険者や同僚であれば一笑に付す自身があったアリシアだが、その顔はかなり赤みを帯びていた。

 しかし、キアンになれる時間はかなり少ない。そのことから彼女は本題である悩み事を明かした。

 

「エルフの森を焼いたクロッゾの一族と会いました……。それで……激情に駆られて……酷いことを言いました」

 

「つまり、その人に謝罪したいんだね。立派だねぇ」

 

「そんな! 一時の感情に流されるなど恥ずべきことです!」

 

 リヴェリアが常々言っている大樹の心を守れなかったことを悔やむアリシア。しかし、キアンの『立派』という言葉についつい反発してて叫んでしまう。

 叫んでしまったと自覚した頃にはもう遅く、それでも申し訳ないと彼女は誠心誠意謝罪する。そんなアリシアにキアンは笑いながらさらに『立派だよ』といってから言葉を続けた。

 

「故郷を焼いた一族の末裔なんて、到底許せるはずがない。それを一族じゃなくて個人として扱うなんて、おじさんには到底出来ないよ」

 

「でも、同胞の森というだけで、私の故郷ではないんです」

 

「同じだよ。同胞の居る場所を焼くだけでおじさんとしては許せないかな。まぁ、おじさんの場合は"自分の故郷を焼かれたから復讐したんだけどね"」

 

 キアンの言葉にアリシアは目を丸くして驚きを露わにする。いつも『今を生きていない』と言っている彼が、未だ怨徹骨髄といった様子でどす黒い感情を表に出す姿が信じられなかった。

 しかし、アリシアが目の前に居ることを思い出したキアンは『お嬢さんには刺激が強かったね』と先ほどまでの怨嗟などなかったように振舞う。

 

 だが、逆にアリシアはその切り替えの早さに彼の在籍していた騎士団に未練はないのかと問いかけた。

 

「うーん、たしかに姐さんや鼻たれ。後は気の良い奴が居たけどねぇ……。正直、おじさんが死んだ後はどうなったとかはあんまり興味はないかな」

 

「そんなものですか」

 

「そんなものよ。多分、あの戦いでフィン……2代目の騎士団長のことね。そいつも死んだだろうし……。後釜なんかいないから自然消滅したんじゃないかなぁ。あっ、これはお嬢さんとおじさんとの秘密ね」

 

「ふふっ、分かりました。あっ、申し訳ありません。長々と……」

 

 この話をフィンにしたら、再び数時間ほど語り尽くす羽目になる。そのため、口元に指を添えながら茶目っ気を出すキアンにアリシアは少し笑いながら了承する。

 もはや彼女の胸の内にあった悩みの種はすっかり消え失せている。そろそろ魔法の制限時間も近いということでお暇しようとしたアリシアだったが、ふいにキアンが壁に飾っていたフィアナ騎士団が模られたレリーフのレプリカを触った。

 

「まぁ……、今のおじさんからしてみれば【ロキ・ファミリア】がフィアナ騎士団なんだ。つまるところ、大将たちやあなたのためにこの力を振う。アクスの坊もそう思ってるはずだから、あまり思いつめないでよ。美人が台無しだ」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして晴れやかな気持ちで部屋を退室したアリシアだが……。数分後に自室のベッドで先ほどのやり取りを思い出しながら悶絶し、ルームメイトに文句を言われることとなる。

 なお、アリシアのような悩み事を数々解決し、最後に似たようなことで締めくくったことによってキアンの出動頻度が高まり、ますます『キュン勢』や『イケおじ勢』が増えたのは言うまでもない。

 

***

 

「あー。だからアリシアさん、顔真っ赤にしてたんですね」

 

「卑しエルフだ」

 

「エロいエルフだ」

 

「略してエロフ」

 

「エーローフ! エーローフ!」

 

「うわぁあ! 違うんです、違うんですぅ!」

 

 ロキの話を聞いた(主に男性からの)団員のコールに、アリシアは耳まで真っ赤にしながらその場に屈む。

 アリシア・フォレストライト。25歳とエルフとしては小娘だが、()()()適齢期である。紳士的なおじさんに相談に乗ってもらい、あまつさえ歯が浮くようなことを言葉を聞いてしまえばこうなることは当たり前だろう。

 

 他にもエルフは1度気を許せば一気にアクセルを全開にする傾向がある。

 例を挙げるとするならば……。

『意中の存在がキスをされた場合は唇が当たったか所の薄皮を削ぐ』

『直視したくない現実を突きつけられた瞬間に吹っ飛ぶ』

『他人に痴態を見られた解決法が"目撃者を消す"』

 

 正に理不尽の極み。非常に面倒くさ……げふん、大変難儀な種族がエルフなのだ。

 

「まぁ、アリシアがエロフなのは確定やけどな。他にも相談受け取る子、居るやろ。シフォンはどっかの誰かさんとの比較。ラクタはステイタスについて。リザとカロスは愚痴で、エルフィは……まぁ、えぇか」

 

 もはや『エロフ』で固定されたアリシアがさらに項垂れる光景を横目に、開口1番で『彼氏欲しいんですぅ!』とわめきながらキアンへ相談に行っていたエルフィが友人が呼ばれていないことに疑問を持つ。

 

「あの、私の奴は黙ってくれてありがとうなんだけど……。レフィーヤを呼んでないような……」

 

「んあ? レフィーヤはメレンに行く前にアクスに相談してたんや。"冒険者の先輩だから、アドバイス頑張った"って言うとったで」

 

 全員の脳裏に『むふー』と無駄にドヤ顔をしているアクスの姿を想像し、ほっこりする。ただ、実際に母親の友人の経営する喫茶店へ赴いたレフィーヤだけは頬にクリームを付けながらケーキを頬張るアクスの姿を想像して笑う。

 

 彼女の相談事は『ランクアップを保留にするか否か』という単純明快なもので、ロキやリヴェリアからは『【魔力】のアビリティが溜まるまで』と言われたものの、それでも自身が進む方向について迷っていた。

 ゆえに冒険者についてある程度把握しており、なおかつ頼みやすい人選としてレフィーヤはアクスを『ウィーシェ』という喫茶店に呼び出して相談したわけである。……お菓子で懐柔しやすいという裏もあったりするが、それはそれということで勘弁して欲しい。

 その結果としてレフィーヤはギリギリまでランクアップを待つように決心。帰り際に店主であるウェールから『流石にパルゥムの子供は、君の母親(ラフィー)が納得しないと思うけど』と言われたために軽い肘鉄を食らわせたが、キアンではなくアクスを頼った所が他の面々と違うところである。

 

「まぁ……、なんや。キアンがいつでもおもろい話してくれて、気が利いて、うち相手にも敬ってくれるイケメンなのは分かるけどな。本来はアクスなんや。今の自分らはアクスをないがしろにしとるってことは反省するべきやと思うで」

 

 それはギャグで言っているのだろうか。他者には反省を促しつつ、自分もちゃっかりその恩恵にあずかっているというダブルスタンダードな言動に団員たちは非難囂々と言った様子でロキを口汚く罵る。

 しかし『神やからえーんや』という謎ルールでもって封殺した彼女は、『迎えに行ってくるから反省するんやで』と相変わらず自分勝手なことを言ってベートを伴って黄昏の館を出ていく。

 

「おい、なんで俺があいつの迎えなんかしなきゃならねぇんだ」

 

「ん? いや、ベートの装備の支払いまだやったやろ? もしかして、アクスのこと心配しとったん?」

 

「……椿のところか」

 

 万に一つもあり得ないことを挑発的に言ってきたロキにむかっ腹は立ったが、ベートは彼女の言い分からアクスの居るところが【ヘファイストス・ファミリア】のところだと当たりを付けた。

 現にファミリアの本拠(ホーム)がある道を通っているし、【ロキ・ファミリア】の装備は【ゴブニュ・ファミリア】製が多い。それを見越して家出したのだとすると、アクスの方が1枚上手だと朝の慌てようを思い出したベートは鼻で笑う。

 

「そういえばベート。自分、なんでアクスが寂しがっとるんが分かったん?」

 

「寂しがってたなんて言ってねぇ。俺はただ、あいつらが碌にあいつを見やしねぇからイラついただけだ」

 

「ほんまかぁ? なんか訳知り顔やったで~?」

 

 おそらくそれを聞き出すのが主目的なのだろう。話題を変える気が一切なさそうなロキを無視し、ベートは先を急ぐ。

 

 彼がアクスの変化に気付いたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()に起因する。あれはたしか、部族の間で執り行われる祭りの準備に追われて妹の世話を頼まれた時だった。

 当時は遊びたい盛り。そして初恋相手の居たベートにとって妹のルーナのお守りはそれはもう苦痛で──『少しぐらいなら……』と抜け出すことがあった。

 そして、1回成功するとまた次──今度は出ていく時間を延ばしてみよう──と、エスカレートするのはリスクマネジメントが出来ない子供にはよくあること。その結果がルーナの家出となったのも、何ら不思議ではない。

 結論からルーナは見つかり、ベートはそれはもうこっぴどく怒られた。しかし、彼女の放った『お兄ちゃんたちは私が居なくても良いんだから放っておいて!』という言葉に、幼いベートは初めて()を作ったのは言うまでもない。

 

「あいつとは……似ても似つかねぇな」

 

「お、なんや? 誰や? あいつったぁっ!? これでも主神やで!」

 

「うるせぇ」

 

 年齢も、性別も。さらには種族さえも妹と異なるアクス。ただ、弱いことを自覚し、牙を磨きながらも強い者の側に居るという()()()()()を弁えているところだけはベートも一目置いていた。

『弱いやつが居るなら、その分自分が強くなる』という最初の掟。『強さを背中に弱い奴に牙を与えてけん引する』という2つ目の掟。ベートが己に課した掟に、アクスは変化球ながらも時間を掛けて適合していった。

 ベートが戦う代わりにダンジョンという極限空間で一時の安らぎをもらい、さらには戦うための武器をもらう。一介の戦士ではないが、自然の摂理(じゃくにくきょうしょく)に抗おうとする彼にとってアクスはまさしく『安らげる巣穴』であった。

 

 そんなやつがただ、『戦う人格』が備わっただけで無視されるなどあってはならない。今回のことはそれが発露しただけだ。

 

「あーあ、ベートが教えてくれんからもう着いてもたわぁっておっと」

 

「ロキ様"~、助"け"てぇ!」

 

 【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)であるヴァルカの紅房に近づいてくると、唐突にアクスが飛び出してくる。それを慈愛の籠った眼差しで受け止めながら何が起こったのかとロキが開け放たれた扉を見つめると──。

 

「アクス、何を逃げておる。まだまだ手前の試作品の試し切りは済んでおらんぞ」

 

「やだぁ!」

 

「椿、あなたいい加減に……ってロキ。もう良いの?」

 

 見るからに禍々しい斧を担ぐ椿にヘファイストス。そして先ほど椿が言い放った言動から察するに、おそらく彼女の作品の試し切りとしてアクスの魔法が使われたのだろうとロキはアクスに同情する。

 いくら障壁という盾があろうとも、LV.5の鍛冶師に切りかかられては恐怖の方が勝るだろう。無駄にツヤツヤした顔色で『有意義だった』という椿に()()()()()()が掻き立てられるが、おそらくは前半に『血生臭い』という枕詞が付くのをロキは知っていた。

 

「話は付けたからな。ファイたん、世話になったわ」

 

「あら、お世話になったのはこっちの方よ。店番に品出しに皆のお昼。色々してくれて助かったからバイト代出そうとしたんだけど……ねぇ」

 

「手前が打とうとしたんだが、主神様に止められてな」

 

「あんたは気に入った子に色々渡すのを止めなさいって。【剣姫】には断ったくせに」

 

 出るわ出るわ、愚痴の数々が。それでも全く聞こうとしない椿にヘファイストスはため息をつきながらもロキに槍の穂先とくさびを渡してきた。どうやらこれが『バイト代』らしい。

 

「なんや、1週間に1回部品送ってくるやつやんか! ケチ臭いなー」

 

「文句言わない。これだけでも一財産なのよ?」

 

 たしかにそうだが、これでは投げるぐらいしか出来なさそうだ。そう思って別の物を要求するロキに、アクスは近くに抛られていたモップの柄を切りながらそれを拒否する。

 ちょうど良い長さまで切った柄を『口金』と呼ばれる部分に差し込んだアクスは、続いてくさびを近くに転がっていた石で小突いて打ち込んでいく。やがて完全に打ち込み終わると、そこには1本の槍が出来上がっていた。

 

「器用なことをすんなぁ」

 

「お金がない時の整備費用は部品で分けてたって団長に教えてもらったー」

 

 メイドインフィンの知識に『後継者か!』とツッコみたくなったものの、それをぐっと耐えたロキはフロスヴィルトの清算を見届けた後にさっそくアクスを連れて帰る。返った途端に全員から凄まじい謝罪の言葉を賜ったアクスが度肝を抜かれ、ついつい近くに居たレフィーヤの背中に隠れたことを除けば割かし無事に軟着陸できたのではなかろうか。

 

***

 

 だが、この騒動の後。

 たしかに団員たちはキアンに依存することは少なくなった。そして、同時に主人格はアクスということを団員全体が認識した。

 

 ここまでは良い。ただ──。

 

「アクス君、ご飯食べに行きましょ」

 

「アクス、お菓子食べるか?」

 

「アクス君、訓練どうっすか?」

 

「アクスー」

 

「アクスくーん」

 

 事あるごとにアクスを付きまとうストーカーと化した団員たちに、いよいよアクスは自室に引き籠ることになる。

 ロキからの『加減っちゅーもんが分からんのかー!』というお説教まで、数十分といったどころだろうか。




評価をいただいたので、頑張りました。
【女神の小姓】(バナジウム) 砂漠編はどうした? カロリー高いんで、書きやすそうな方に逃げました。すんません。
仕事したくないッピ。

ロキファミリアは1軍と2軍で溝がある家族と思うんすよ。それがキアンという橋のおかげで諸々の個人が抱える劣等感にスゥーッと効いて…。
後は御覧の有様だよ!
ヘクトールのおじさんが好きな人は一定数居るからね。シカタナイネ。
本当は数多の女性を沼に陥れた無残様もとい、土井先生ムーブさせたかったけど、エミュ難しいよ。

なお、この1件が後にフィンの命を救うことになるとは…。誰も知らない。
魔法の習熟度があるから、そろそろキアン時のアクスも意識がはっきりしていていいと思うの(どっかの悪霊とか都市伝説が出てくる漫画見たとは言わない)
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