ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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再びアミッドがキャラ崩壊しています。ご注意ください。


66:好き

 小人の隠れ家亭。扉も窓もヒューマンなどにとっては小さい作りのこの店は『パルゥム以外お断り』と看板に書かれている通り、他の種族の入店は固く禁じている。

 店自体が市壁の近くにあるほど辺鄙な場所にあることから、この憩いの場には今まで別種族が現れることは無かった。

 

 しかし、その平穏は今日で終わる。とある上級冒険者──ベル・クラネルが入店してきたのだ。

 

「お客さん、看板見えなかったんですか?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 謝罪しつつも店から出ずに店内をくまなく見渡したベルは、階上で様子を伺っていたリリルカを見つけるや否や急いで階段を上がっていく。そんな彼の登場から上がってくる一部始終を見ていたリリルカは驚きの表情を浮かべる一方、フィンはなにやら考え込むような姿勢で静観していた。

 そんな彼の表情と態度を階下から見ていたアクスは、『また変なことを考えてるよ、あの人』とすっかり慣れた調子で密かに店主へとフィンから渡されていた弁償用の証文を渡し、さらに荒事になる可能性を考えてそれとなく避難誘導をするように頼んでいると──。

 

「あっ……」

 

 窓から覗いていたレフィーヤと目が合った。

 即座に身体を動かして窓から居なくなったが、エルフとは清廉な存在ではなかったのだろうか。そんなことを考えていると、その窓から今度はティオナが顔を覗かせる。手を振ってきたのでアクスも手を振り返していると、その横からアイズが彼を見てくる。

 彼女たちこそが対ティオネの時間稼ぎ要員だとフィンから事情は聴いていたが、なにやら外からものすごい魔力を感じたアクスはこの店の未来が不安になってしまう。

 原型が残ればまだ良い方だが、この分だと更地一択の可能性しか見えない。思い返せばベルに対してレフィーヤが異様なほどに執着していたはずと、魔力の理由をある程度察したアクスはそれとなく避難誘導を真剣に検討するよう店主へと言い直した。

 

「さっきの見ましたか? 割と危ないので、避難してください」

 

「分かった。一応部屋の隅に集まるようにしておく」

 

 流石に第1級冒険者が次々と窓から中を見てくる様子に危機感を抱いたのか、店主はルアンと一緒に店にいた客をそれとなく角へと誘導していく。その行動について不審に思った客がたまに文句をつけたり聞いて来たりするが、そこは長年この店を守ってきた歴戦の猛者。口八丁で言いくるめていた。

 

 その一方でアクスも店主がそれとなく避難させている現状を伝えるべく階段を上っていく。途中でアイズたちを見ていたので聞こえていなかったが、フィンは『既に良い返事をもらったよ』と嘘をつき、その上でベルにリリルカに対してどう思っているのかを聞いていることが分かった。

 

「フィンさん、一応の避難は完了しています。既にアイズさんたちが店を固めているので大丈夫だと思いますが、リリルカさんを直に襲撃されたら危ないと思います」

 

「そうだね。でも、残念なことにベル・クラネルからより良い返事をもらえてないんだ」

 

「ファミリアの……家族の一員でも説得には弱いというんですか?」

 

「あぁ、弱いね。弱すぎるぐらいだ。特にうちのように規模が大きくなると団員への認識が違うものになってくる。今は小さなファミリアの団長である君が、ある一転から心変わりするのを僕は恐れている」

 

 ファミリアは人によってさまざまな呼び方がされる不思議な集まりだ。

 家族。組織。部隊。志を共にする集団。中には蹴落とすべき宿敵。多種多様だが、それらの言葉は時間と共に全く別の言葉に変化するほど移り変わりが激しく、その影響は特にファミリアを纏め上げる団長が受けやすい。

 最初は家族や仲間内での集まりが、有名になったことで外部から参入してきた人間が混ざっていく。次第に外から来た人数が多くなっていき、今まで通り仲間内で色々やっているとあっという間に溝が出来てファミリア崩壊──ということになりかねない。

 

 フィンもそれが怖いために分け隔てなく接するように気を使っているものの、『家族』を大事にしているロキのサポートがあっても1軍と2軍という多少の隔たりを作ってしまった。目の前の15歳の少年がどれほどの器量を持つのかは計り知れないが、人間誰しも限界がある。

 今はいくら『家族だから』と言っても、仮に今後団員が増えた末に()()が訪れた時。真っ先に視界から消えるのは……これ以上はあまり想像したくないフィンは首を横に振った。

 

「では、どういえば納得してもらえるんですか?」

 

「それを僕に聞くのかい? ……そうだな、お手本を見せようか」

 

 やや失望したようなフィンがアクスの方を向いて軽く謝罪してくる。なにについて謝られたのかアクスは不思議に思っていると、唐突に『アミッドをうちに引き抜こうとしたらどうする?』とフィンが言う。

 その瞬間──アクスはテーブルに置いていたティーカップを持ってフィンへと殴りかかっていた。深い湖の底のような憎悪の籠った目にいつものアクスしか見ていなかったベルとリリルカはぎょっとしている。

 

「おい、【勇者】(ブレイバー)。何言ってんだ」

 

「いや、すまない。まさかそんなに怒るとは思ってなかった……。本当、すまなく思ってるから落ち着いてくれるかな」

 

 既で防御しながらも、()調()()()()()()()()()()()()()()()に改めて謝罪をするフィン。いつも小型犬のように屈託のない笑顔とポメポメした足取りで黄昏の館に来ているため、怒らせても子供らしくヘソを曲げるぐらいだろうとしか思ってなかったのだ。

 ヘルハウンドも尻尾を撒いて逃げ出す凶悪な表情で襲い掛かって来たことに驚きつつも、フィンの繰り返し何度も行った謝罪によってようやく瞬間湯沸かし器の状態から脱したアクス。ようやくとんでもないことをしてしまったことを自覚し、すぐさま治癒魔法を掛けて謝罪した。

 

「いや、僕が全面的に悪いよ。それよりも続けて聞きたいけど、君にとってアミッドはどんな存在か聞いても良いかい?」

 

「憧れであり、背中を追いかけている人であり、大好きな人です」

 

 憧れや背中を追いかける対象としてアイズを見ていた彼にとって別の人間に自分と同じ思いを胸に秘めて行動しているアクスに親近感を抱いたが、そこに純粋な好意も合わさっていることをあっけらかんというアクスの言葉にベルは目を丸くする。

 どうやら周囲もそんな彼の言葉を聞いていたらしく、ざわざわとした声──と店の外から少々大きな音が聞こえてきた。

 

 しかし、そんなことはお構いなしにアクスはアミッドについてを語り続ける。

 やれ『厳しい中にも自分をよく考えてくれる優しさがある』やら。

 やれ『必死で手本を見せてくれる背中が遠いけど、追いかけがいがある』やら。

 やれ『部屋で微笑みかけてくれるのが嬉しい』やら。

 やれ『ぎゅってしてもらった時の薬草の匂いが落ち着く』やら。

 

 店の外から『アミッド、しっかり!』と本人を呼ぶティオナの叫びが聞こえるが、おそらく気のせいだろう。気のせいでは無かったら……後はアクスに丸投げしておけばいい。

 呆然と考えつつも、いよいよアクスの語りを止めさせないといけないと親指の直感を信じたフィンは彼の口を片手で押さえながらもう片方の手を自分の額に当てる。

 

「うーん、流石にここまでは想定外かな。とりあえず、ベル・クラネルはここまでしろとは言ってないから、自分にとって彼女はどんなに大切な存在かを僕に聞かせてくれ」

 

「分かりました」

 

 今まで頼りなかったベルの目に炎雷が灯る。そのまま彼はリリルカとの出会いを語り、最後に自分にとってリリルカは『最初に出会った大切なパートナー』ということを伝えた。

 しかし、それでも不満顔だったフィンに重ねて自分はまだリリルカと一緒に居たいことや離れたくはないことを伝えると、横に居た彼女はまんざらでもない笑みを零す。

 それを見逃さなかったフィンは、さらに一芝居打つことでベルに『覚悟』を問うことにした。

 

「君の熱意は分かった。ただ、困ったことにこちらも本気だ。そうなると、冒険者の流儀に任せるしかないね」

 

「冒険者の流儀……ですか?」

 

 冒険者になって1年未満のベルにはそういった流儀には疎い。そのせいでリヴィラの街で酷いことになったため、後学のために詳しく聞くとフィンは笑みを浮かべながら人差し指を立てた。

 

「あぁ、リリルカ・アーデを懸けて勝負をしよう。……そうだね、もし君が僕に1撃でも与えたら君の勝ちだ。僕が買ったら彼女をお嫁さんにする」

 

「ちょっ! フィン様はLV.6ですよ!?」

 

「もちろん、攻撃に関して僕は行わない。それにアクスはこの間、僕と戦って不意打ち気味に1撃入れることは出来た。もしかして、LV.2(アクス)の真似事は荷が重いかな? ベル・クラネル」

 

 挑発染みた提案。相手はLV.6だが、それでもベルには逃げるという選択肢は存在しなかった。

 

 ただ──。フィンの提案に始まり、ベルの承諾によって成立したこの勝負はその一部始終を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によってぶち壊されることになった。

 

「だんちょ~、面白い話が聞こえてきましたね。私も混ぜてくださ~い」

 

 唐突に奥の窓をぶち破ったティオネが獰猛な笑みを浮かべながらエントリーしてくる。部屋から出る時も音は出さなかったし、尾行も十分に気を付けた。それでも不安だったので、アイズたちも入り口前に待機してもらっている。

 どう考えてもバレようもなければここに入ってこれるはずもない。混乱の真っただ中にいたフィンだが、後学のティオネ対策のためにもどうやって追いかけてきたのか尋ねてみると──。

 

「お部屋の物音がしなかったので、ちょうど通りがかったラウルをパシ……嘘の用件を頼んで開けてもらったんですが、留守だったので。後は匂いを辿って追いかけました。後は入口にティオナが居たから、裏口からこっそり壁を昇って……」

 

 どこかの獣のような追いかけ方や爬虫類のような壁の昇り方。後、巻き込まれたラウルに黙とうをささげたフィンは目の前のアマゾネスを甘く見ていたことに深く反省した。

 しかし、すっかり怒髪天を突いていたティオネを前に待機させていたアイズたちを突入させるのは悪手。彼女の怒気に気圧されたベルやリリルカはもはや使い物にならないため、隙を見てティオネが空けた窓から出て行こうと両手を前に出しながら何とか宥めようと説得を始めた。

 

「ティオネ、落ち着いてくれ。話せば分かる」

 

「えぇ、お話ししましょう。ですが、その前に……」

 

 すっと怒気を薄れさせたティオネがアクスの前に来ると、屈んで彼の肩に手を置いた。まるでジェットコースターのような感情の起伏具合にアクスも怯えていると、彼女がすごく興奮したように言葉を捲し立ててくる。

 

「さっきのあんたの想い、良かったわよ! 久しぶりに痺れたわぁ! もちろん、アミッドにもこのことは()()()()()()伝えるのよね! ふふふ、先を越されちゃいそう」

 

「何を言ってるんですか?」

 

 親友の門出を祝うティオネであったが、特に何もわかってなさそうなアクスに対して次第に目が点のようになる。視界の隅ではジリジリと距離を離そうとするフィンが居たので視線のみで牽制しつつ、彼女はじわじわと胸中に湧き上がってくる不安な気持ちを払拭するように疑問を口にした。

 

「え、それほど異性として好きってことよね?」

 

「"家族"として大好きですよ」

 

「異性としては? 番になりたいとか、そういうのは?」

 

「そういうのは分からないです。幸せになってもらいたいってのもあります」

 

 違う、そうじゃない。ティオネは即座にそう言いたかったが、どんなに言葉を言っても目の前のパルゥムには響かないだろうことは分かっていた。

 彼はまだ12歳。アマゾネスの観点では『出来上がっている』お年頃だが、彼はパルゥムということはティオネもよく分かっている。

 

 しかし、それを抜きにしても異性にドキドキや好きや嫌いといった感情はあるのが普通ではないのだろうか。

 近くの対比対象がダンジョン狂い(アイズ)彼女が大好きなエルフ(レフィーヤ)しか居ないので決定打に欠けるが、それでも1番惜しい存在である『お前らとっととくっつけよ!』と言いたくなるラウルとアキという見本は居るのでティオネは自分の考えていることは正しいと思っていた。

 

 ただ、『幸せになってもらいたい』はティオネでさえも違うと断じれる。『お前が幸せにするんじゃい!』と胸中で叫ぶと同時に身体が勝手に動いてしまった。

 

「こンの……クソボケがぁーっ!」

 

 万感の思いや友人を同情する気持ちや久方ぶりの恋話が空回ったこと。後はフィンが中々手を出してこないフラストレーションを小指の先ほどブレンドした気持ちを発散するかのように、ティオネは叫びながらアクスの顎に1撃を加えた。

 相手がLV.2なので限りなくその攻撃は優しかったが、アクスも咄嗟に反応できずにモロに食らったことで即座に意識が刈り取られてしまう。

 

「ティオナー!」

 

「はぁっ!? えっ、ちょ……、なんで店内に居るのさー!」

 

「そんなことはどうでも良いの! このクソボケをアイズに担がれてるアミッドと一緒に連れて帰りなさい!」

 

 この惨状から非常にどうでも良くないのだが、2階から投げ渡されたアクスにぎょっとしたティオナは慌てて彼を抱き止めた。目立った外傷もないので彼女がほっとしたのも束の間、戦闘民族(アマゾネス)としての本能が『あ、これティオネ止められない』という考えが過ぎると同時に店の一画が轟音と共に崩れた。

 

「すまない、店主! 弁償と今日1日の売り上げ額はアクスが渡した証文に書いて欲しい。個人的に弁償させてもらう!」

 

「今度はちゃんと客として来いよ!」

 

「そうさせてもらう! アイズたちはアクスたちを治療院へ送って館へ帰還しろ!」

 

 言うが早いか、フィンは最初にティオネが空けた穴から出ていく。後にティオネも続き、『だんちょおぉぉ!』という地獄の鬼も真っ青な形相で裏路地へ消えて行った。

 

「ティオナ……、どうする?」

 

「うーん、帰ろっか」

 

「アイズさん、離してください! あのにっくき白兎を今日こそは!」

 

「とりあえず、レフィーヤも黙らせる?」

 

 ベルの姿にタガが外れたのか食って掛かろうとするレフィーヤを片手で押さえていたアイズに、元々頭が良くないティオナはもうどうでも良くなってきたのか随分と暴力的な発言をする。

 結局、ティオネに酷似した彼女の笑みに気圧されたレフィーヤが即座に沈静化。アクスと途中の啖呵に脳が茹で上がってしまったアミッドを連れてその場から離れて行った。

 

***

 

「あくしゅ! ちょっとここに座りなしゃい!」

 

 ティオネが店を1軒駄目にしたその日の夜。【ディアンケヒト・ファミリア】の団員が唯一心を休められる宿舎の奥まった部屋ではサバトが開かれていた。

 部屋の中にはグランド・デイに団長権限でちゃっかりもらってきたところまでは良かったが、その後のごたごたですっかり飲むタイミングを逃していた酒瓶が転がり、すっかり呂律の回らない状態のアミッドが宇宙の真理を理解した猫のような表情で近づいてきたアクスを膝に乗せて堪能している。

 

 悪魔崇拝者がよく行っている淫逸な雰囲気で行うそれとは違い、まさしく『安息日(サバト)』そのもの。今、この瞬間だけはアミッドは誰よりも癒され、誰の干渉も受けない()()()()となっていた。

 

「ふふ……。ふわふわで、あったかくて、美味しい。ふふふ、良い気分」

 

 本日のおつまみは丸茄子をくり抜いた中身とトマトソースを炒め合わせてから再度詰め、たっぷりのチーズを掛けてオーブンに入れた一品。もらったワインとの相乗効果(マリアージュ)は言わずもがなである。

 アツアツのチーズの中に眠るトマトソースと茄子を楽しみ、口の中がしつこくなれば赤いワインを飲んで後味を楽しむ。その間もアクスに構うことを忘れない。

 

 口元から垂れたチーズがアクスの頭に降りかかって来るものの、彼は特に何も言わずにアミッドのされるがままになっている。そんな具合にかなり()()な絡み具合となっていた彼女ではあったが、唐突にワイングラスを置いてフリーになった両手でアクスを強く抱きしめた。

 

「アクシュ、お姉ちゃんしゅき?」

 

「大好きだよ」

 

 ノータイムでの返答にアミッドが『んぅっ!』と呻くが、すぐに先だっての小人の隠れ家亭のやり取りを思い出して不安になってしまう。

 心臓が痛いほどに早鐘を打っているにも拘らず、今まで汗ばむほど熱かった体温が()()()()()()()()()()()()。同時に周囲が見えるぐらいまで落ち着いてしまったアミッドは、ティオネに言っていたことが本当なのかをアクスに問うた。

 

「家族として?」

 

「うん」

 

 やはり、ティオネに言ったことは間違いではなかったようだ。これまでのアミッドであれば笑顔で『家族、良いですね』と心にモヤモヤしたものを抱えながらも平静を保てていたのだが、今宵はいくら冷静になろうともアルコールによって()()になっている。ゆえに頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けたアミッドは、右手で自身の顔を撫で、左手で尻を撫で、アクスの枕にされている胸を見てから一言ぶっこんだ。

 

「私、そんなに魅力がない?」

 

「なんでそうなるの? 綺麗だよ?」

 

 論より証拠と『銀の髪が日に照らされたら綺麗』や『冷たさの中に時折見せる笑顔』や『人に尽くす治療師(ヒーラー)なのに、1本心が通っているところ』等々……。どこぞの男神たち譲りの褒め上手なところを余すことなく受け継いだアクスの前に、先ほどまで冷静な(ようで冷静ではなかった)態度を見せていたアミッドの精神が決壊した。

 すかさず残りの酒を一気に飲み干してリンゴどころか完熟したトマトのように顔を赤くしているが、この顔色は決して酒だけのせいではないだろう。

 

「しょれなら、なんで家族としてにゃの!」

 

「だってもう家族でしょ? それ以上の好きとかあるの?」

 

 相当酔っぱらっていることはアミッドも十分自覚していた。しかし、酒によって滑りに滑った口はティオネに指摘されたことで心に巣食っていたモヤつく気持ちをそのまま吐き出してしまう。

 だが、アミッドの気持ちすら全く分からないのか、アクスは()()()()()()()()()()ように尋ねてきた。

 

 もしこれが【ディアンケヒト・ファミリア】の一部女性団員であったなら、バチクソにキレながら即座に()()()()()ことは間違いないだろう。それほどまでに『家族』という一歩引いている感じが否めない質問をされたアミッドだが、彼女は【戦場の聖女】(デア・セイント)と呼ばれるほどに高潔な聖女。約1名ほどから『聖女(笑)』と呼ばれているが、自身でも二つ名に恥じない行動を日夜心掛けている女性である。

 このようなことで短慮を起こすほど彼女の思慮は浅くない。

 

「えっと、夫婦……とか?」

 

「お父さんとお母さんみたいな感じ?」

 

「そ、そうでしゅ!」

 

 さも『気にしてませんけど?』といった具合に提案するという早々に汚い大人のやり口を披露し、それに誘導されたアクスの言葉に心の中でガッツポーズをするアミッド。そのまま彼の本心を聞き出そうとしたものの──。

 

「僕、お父さんみたいに大きくないよ? それに大きくなるまで待ってたらお姉ちゃんが待ちくたびれちゃうよ。他にお父さんになれる人居るでしょ?」

 

「ガフゥッ!」

 

 12歳と19歳の隔たりという正論パンチにアミッドは肺の空気をすべて吐き出したような呻き声と共にアクスを強く抱きしめる。もはや先ほどまでカパカパ飲んでいたワインの味も忘れ、酔いもすっかり覚めてしまった彼女はどうしたら分かってもらえるかを考える。

 

 ここまでで分かる通り、アミッドも()()()()()()()()()に対して一定の関心を持っている。加えて以前から何度もティオネから指摘されたことで酒を飲んでようやく発露するほど心の奥底に封印しているが、アクスを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 12歳を相手に何をアウトなことを考えてるんだか──と主に【ミアハ・ファミリア】の方からカラスの鳴き真似と共に犬人(シアンスロープ)の嘲笑が聞こえた気がするが、アミッドは一切気にせず瓶に残った半分ほどのワインをラッパ飲みしてからアクスの目を見据えた。

 

「待ちましゅ。アクスが大人になりゅまで……ヒック。……うっ、うわぁぁぁ」

 

 もはや酒の勢いに任せるしかなかったアミッドは、いよいよもってぶちまけた。もはや野となれ山となれ状態の彼女に対し、アクスは返事をするでもなく泣き出した。

 突然泣き出した理由について覚えがないアミッドが狼狽えていると、アクスは小さく『そんなに錯乱するまで気を張ってたなんて……』と見当違いのことを言いだした。

 

「えっ、ちょ……ちがっ」

 

「うん、安心してお姉ちゃん。この前、ヘルメス様に教えてもらった"えーえすえむあーる"とか言うのをしてあげるから」

 

「話聞いてっ! それと今、ヘルメス様って言いました!?」

 

 今までのアミッドからは到底出てこない話題に、アクスはどうやら先ほどのことをひっくるめて()()()()()()()()()()()と思ったらしい。驚きのあまり、一時だけ正気に戻った彼女の制止も聞かずにアクスはアミッドの正面を向くように座り直す。

 先ほどまでの言動を踏まえて改めてみるアクスの顔に直視出来ずに俯く彼女の()()()()()()()()()()()()()()()()。そこに口を近づけたアクスは小さく囁いた。

 

「お姉ちゃんは頑張ってる。お姉ちゃんは偉い。お姉ちゃんはすごく良い子」

 

「耳元は止め……。あっ、あっ、あっ」

 

 自己肯定感を高める言葉のオンパレードが耳から直に脳を揺さぶり、酒に溺れていたこともあってかアミッドの精神を守る防壁が音を出して割れ始めた。そんな褒め殺しに加えてぎゅっと抱きしめてくるため、アクスの温かな体温も合わさってよりアミッドの心と脳を甘く、温かく蕩かしていく。

 

「いつも頑張ってくれてありがとう。僕も頑張るから、明日も一緒に頑張ろう?」

 

「はひぃ、がんばりましゅ……」

 

 極まった団員たちが見たら、その姿を絵に残そうと躍起になるほど色々と限界になっているアミッド。しかし、身体どころか心まで癒そうとする妖怪(アクス)はすっか腑抜けになった彼女が相手でも手を緩めない。

 ヘルメスから『こう言うと女の人はイチコロ……ゲフン。喜ぶんだよ。ホントダヨー』と軽薄な笑みを浮かべながら教えられたことを実践する。

 

「"アミッド"、大好きだよ」

 

「コッ"!」

 

 名指しに大好きという強力無比なコンボに、アミッドはそのまま仰向けに倒れる。本当は『〇〇、愛してるぜ』とキメ声で言うのが最高にCOOLで勝ち確らしいが、詳しいことはよく分かっていないアクスは現状の幸せそうなアミッドの寝顔に満足すると、毛布を彼女に掛けてから部屋から出て行った。

 

 ちなみに余談だが、アクスに色々教えて満足げなヘルメスに向かってアスフィが『子供に何教えてるんですか』と主神であることを全く構わずにヘルメスを吹っ飛ばしていた。

 おそらく度重なる無茶ぶりで虫の居所でも悪かったのだろう──知らんけど。

 

***

 

 汲んできた水ですっかり固まってしまったチーズの塊を頭から取っていたアクスは先ほどアミッドに伝えた『好き』について考えていた。

 彼女には『家族として大好き。異性として見るにも歳が離れてる』とふわっとした内容を伝えたが、正確には嘘である。

 家族として大好きなことは本当だが、彼の真の思いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが正解であった。

 

 アクスはアミッドに命を助けられ、しばらく彼女と過ごしたうえで彼女の持つ願いに強い共感を得て治療師(ヒーラー)の道を進んだ生粋の信奉者だ。

 

 アミッドの願いのため。

 アミッドが団長を務める家族(ファミリア)のため。

 アミッドのため。アミッドのため。アミッドのため。

 

 そこには恋愛感情といった浮ついたものはなく、むしろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とまでアクスは考えていた。

 全ては彼女の願いと幸せを想い、そのためならばその身すらも喜んで差し出すほどの狂気が彼の心に留まり、年を経るごとにゆっくりと凝縮されていった結果がこの有様である。

 

 仮にこのことを愛の戦士(ティオネ)やアクスやアミッドを推している団員たちに知られたら、『お前がアミッドを幸せにして家族化計画するんだよ!』とアマゾネス全開の思考と共にボッコボコにされることは確定しているが、不幸なことにこの考えはアクスでも朧げにしか実感していない。

 それに、どのみち彼の()()思いを解き解せるとしたら姉である聖女(アミッド)しか居ないだろう。

 

「好きってなんだろうなぁ」

 

 思春期特有の青臭い疑問を独り言ちつつ、アクスはようやく固まったチーズの破片をすべて取り除いて顔を上げる。すると、通りの奥の方に魔石灯の光がいくつか見えた。

 オラリオは夜も活発な街だが、ここら一帯は夜中はかなり静かで喧騒もない。それに光は次々と暗い裏路地の方に入っていくため、傍目から見れば非常に怪しい行動をとっているのは明らかだった。

 

 それに──。

 

「ラキアの紋章?」

 

 魔石灯に照らされた存在が羽織っていたローブ。その留め具に象られた紋章をLV.2の視力で捉えたアクスは、治療院へと戻っていった。




フヒヒ…通勤時間使って要塞アクスと本作のプロットの書くの楽しい。

ティオネ
 フィンが色々策を張り巡らせたが、原作よりも巧妙に侵入してきた愛に生きる戦士。
 アミッドとは友人であるため、『いよいよかぁ』と思っていたがはしごを外される。
 なお、本当は分厚い本で頭が凹むほど殴打をしたかったが、流石に死ぬのでマイルドにした。

アミッド
 好きなところを語られ、酒に溺れ、遠回しなお断りをされた挙句にASMRによって脳味噌を蕩かされて撃沈した聖女(笑)
 疲れてるからね。シカタナイネ。

アクス
 『誰かを(恋愛的に)好きになることなんて分からなくてさ』と言いたげなクソボケだが、元々の原因は暗黒期である。
 おそらくは両親のもとですくすく育っていたら純粋な恋心が育ち、アミッドの手を取ってゴールインしたかもしれない。
 つまるところ、闇派閥(イヴィルス)許すまじ。

丸茄子のオーブン焼き
 トマトソースだけも良いが、ひき肉を入れるとボリューム感が増す。タバスコをかけても美味いゾ!(顎デカ課長感)
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