ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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【小要塞】(デミ・フォートレス) メレン編 2/2』の投稿位置を修正完了。ご迷惑おかけしました。

また、要塞アクスとか小姓アクスはネタが拾えたら書く…かも。
個人的に5等分のアクスみたいなことがしたい。タケミカヅチ・ファミリア所属の剣豪アクス(輝夜の羽織を仕立て直したものを羽織っている感じ)とか良くね。と思いました まる


67:魔剣鍛冶師

 草木も眠る丑三つ時──にはかなり早い時間。十数人から成る集団が治療院の物置に集まっていた。

 

「定例始めるぞ。まず、誰から話す?」

 

「じゃあ、私から。さっきアクス君がエプロン着てオーブンで色々作ってました! エプロン姿っ!」

 

「あー、多分団長のツマミ作ってたんだろうな。しかし、近所に住み着いた子猫に負けてたあいつも立派になったもんだ」

 

「詳しくお願いします!」

 

「えー、昔の奴は知ってるんだけどなぁ。……まぁ、適当に話すわ」

 

 流石に話を盛り過ぎだと議長をしている男性団員──クライブの方を見やるラバナ。ただ、彼は至って真面目に『本気(ガチ)だぞ』と答え、今回の定例の趣旨に反していないが昔の話や既に知っている内容のために周囲から同意を得てから彼はアミッドがアクスを連れてきた時のことを語りだした。

 

 拾われた当時のアクスは両親を失ったショックでまともに受け答えも出来ず、かといって何もしないというわけではなく負傷者の治療で忙しい団員たちに代わってファミリア内のことをしていた。

 たしか、最初に手を付けたのが料理だろうか。元料理屋兼酒場の倅らしく拙いが暗黒期という冒険者の誰もが忙しくしていたあの頃にはなかなか手に入らなかった温かな料理と守るべき末弟(アクス)の存在に、誰しもが元気づけられたとクライブとマルタ、ベルナデットは懐かしそうに遠い目をする。

 

「……あれ、たしかに昔の話ですけど。猫の話はどうしたんですか?」

 

「庭に野良猫が迷い込んできて、住み着かれても困るからアクスが拾い上げたらこう……両前足が目に当たってな。そんぐらい?」

 

「そうそう、あの頃のアクス君は猫よりもか弱き存在だったわよね」

 

 ただ、そこで話が終わりそうに感じたラバナが猫の話を聞くものの、何の捻りもない日常風景を話される。

 てっきり猫人(キャットピープル)の子供辺りとの死闘を『猫』と言っていたのかと思いきや、ガチの子猫だったためにラバナが期待していた内容と著しく乖離していることについて不満げにしていると、その反応は織り込み済みだったクライブは『だから言っただろ』と自身は何も悪くないことをアピールする。

 

 そんな風に盛り上がっていると、唐突に魔石灯の明かりがついた。

 

「あれ、何してるのー?」

 

 アクスの登場に全員は『マズい』と誤魔化すプランを練り始める。

 この会合は『アミッドとアクスに綺麗なおべべを着せ隊』や『ディア/ミア会』などというように人種によって呼び方は違えど、()()()()()【ディアンケヒト・ファミリア】の団員は何かしらの集まりに属していたりする。アミッドでさえも自身も燃料になっていることも知らずにアクスのことに関する会合だけは出席しているために半ば『恒例行事』にはなっているものの、例外(アクス)だけはどこにも属していなかった。

 

『癖』のヘの字も知らない子供にこの会合は色々早すぎるし、ただでさえ神々から変な言葉を教え込まされているのにこれ以上変なことを覚えられるのも困るということで、このことはアクスには秘密だったのだ。

 そのため、各自は誤魔化すために行動を始める。

 

「ど、どうしたの? おトイレ?」

 

「違うー」

 

「おいおい、武器なんかもってどこ行くんだ?」

 

 対アクスを念頭に置いた誤魔化し方NO.3である『トイレに無理やり連れて行って有耶無耶にする』を実行したベルナデットだったが、彼女の問いに首を左右に振りながらアクスは物置きに立てかけていたブリューナクを手に取る。

 時間は既に夜中。武器を持ってどこに行くつもりかと問うと、アクスは先ほど怪しい存在を見つけたことを報告した。

 

「怪しい人? オラリオでは珍しくないでしょ」

 

「大方、どっかの酔っぱらいじゃないのか?」

 

 はじめこそオラリオに風貌の怪しい存在は掃いて捨てるほど居るため、団員たちは特に真面目に聞かずにアクスを持ち上げて身長を伸ばそうとしたり、彼のお腹周りを吸って法悦に浸っていた。

 しかし、話が進むにつれて『割とまずいかも』という空気が部屋中に広がっていき、最終的にラキア軍の紋章が入った留め具を確認したことを伝えるや否や、それぞれは部屋の中に保管してあった備蓄の回復薬(ポーション)などを漁りだす。

 

回復薬(ポーション)は製造が古い順番から持って行くぞ」

 

「班はどうする?」

 

「俺とアクスとラバナが追いかける。マルタは治療院の防衛の指揮で、ベルナデットは数人率いて近くの【ガネーシャ・ファミリア】と【象神の杖】(アンクーシャ)を連れて来てくれ。アクス、団長は何本飲んだ?」

 

「3本」

 

「酔っぱらいはいらん、寝かせとこう」

 

 あんまりな言い方だが、決して間違ってはいない。

 

 1本なら飲んでいる内に入らないため、全くもって問題ない。

 2本ならアクスを近くにおいてやればなんとか機能するだろう。

 ただ、3本目は駄目だ。いくらアクスを付けてもどうしようもないし、アミッドの力以上にこちらの負担が大きい。

 

 元を正せばそこまで飲酒させるほど彼女に重責を課してしまったわけだが、今はそれを悔やむ時間ではない。反省もそこそこに十数人の内の半分は治療院の防衛に分かれ、そこからさらに半分が事情を伝えて造園を送ってもらうために【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)へ急ぎ、アクス含めた残り数名で件の不審者を追いかけ始めた。

 

「屋根に上って追いかけるぞ。アクス、先行しろ」

 

「うい」

 

「俺たちは中腰で進むぞ。弓兵も居るかもしれん、路地と高所に注意を向けておけ」

 

「はい」

 

 流石は大抗争を駆け抜けた治療師(ヒーラー)というべきか。見つけやすいように高所に昇る提案や隊列についての指示など淀みなく行うと、自身も軽やかな足取りで屋根まで上っていく。

 今宵は雲1つ無い夜空。月光がオラリオを明るく照らしているため、全員は地面に影が映らないように気を付けながら進んでいく。

 時折、路地や高い塔にも注意を向けるが伏兵の存在も無かったため、男性団員は本当にラキア所属の不審者だったのかと懐疑心を露わにしていたが──。

 

「見つけたみたいだな。ラバナ、魔石灯は持って来てるな?」

 

「はい、誘導しましょうか?」

 

「いや、もう少し待て。実際に確認してからだ」

 

 これが本当にただの不審者なら笑い話で済む。そうあって欲しいと願いながら戻ってきたアクスの先導でゆっくりと対象に近づくと、どうやら見間違いではなかったようだ。

 遠目からでもローブの隙間から鎧の金属部分が見え、何やら指示を飛ばしている不審者の履いている剣にはラキア王国の紋章が刻印されている。──当たりだ。

 

「【ガネーシャ・ファミリア】の応援を待つぞ。ラバナは……そうだな。あっちの屋根で魔石灯を付けて誘導を頼む」

 

「あっちより向こうの屋根の方が良いにゃ。さっき、【ガネーシャ・ファミリア】があっちから向かって来てるけど、あっちにも転がした奴が居るからもう少し時間がかかりそうだにゃ」

 

「おぉ、そうか。助かる……って」

 

「おっと、静かにしないとバレるよ」

 

 いきなり誰かに声を掛けられたことで男性団員が思わず声を上げそうになったが、再びかけられた別人の忠告で咄嗟に口元を抑えた。幸運にもラキアの兵士たちには聞こえていなかったようで安堵のため息が漏れたが、ふとこんな夜更けの屋根に上に誰が声をかけてきたのかと彼は視線を巡らせると──。

 

「クロエさーん」

 

「アクスー、最近手伝いに来てくれないからみゃーのサボりライフに傷がついたにゃ。謝罪と賠償を要求するにゃ」

 

「あ、豊穣の女主人の。うちの子がお世話になってます」

 

「いやー、意外にお世話されてるの私らなんだけどね。特に最近、お客が多くてさ」

 

 なにやらご近所さんと会話しているかのような空間が形成されていた。よくよく見れば冒険者風の恰好をしているが、アクスがたまに往診しに行っていたり、自分たちも暇な時間が出来たらたまのご褒美として利用している豊穣の女主人で働いているクロエとルノアだと分かった男性団員は、一気に警戒を解いた。

 

「なんだ、あんたたちか。こんなところで何してんだ?」

 

「んー、簡単に言えば慈善活動かな? ほら、あいつらみたいなのがうちの周辺でもうろついてたんだよ。最初は"怪しいなー"って思って見張ってたんだけど、魔石灯があるのにいきなり松明に火を付け出してさ。それでミア母さんがキレたってわけ」

 

「そーそー。そんで問い詰めたら付け火ってことをゲロったにゃ。それでミア母ちゃんが"見回ってきな"って言って今に至るわけだにゃ」

 

 ルノアたちから話を聞いた彼らの最初の感想は『自殺志願者が密入国してきた』だった。かの店の戦力はオラリオに住む者たちならばある程度は察せられるが、どうやらラキア王国はそういった()()()()()()()がオラリオのそこかしこに潜んでいるという情報はあまりないのだろう。

 敵ながら『なんでそこに行った』とツッコみたい気持ちを抑えながら今後の展望をどうしようかと男性団員が悩むが、ラキア軍の兵士が松明という放り投げて逃げ出せば後は勝手に燃えてくれる()()()()()()()()は便利な道具を取り出してきた。

 もはや一刻の猶予もないと男性団員は【ガネーシャ・ファミリア】の応援を待たずに自分たちで制圧することを提案し、速攻を仕掛けるために全員に合図を送った。

 

 その後はもう──蹂躙だった。ルノアが瞬く間に現場監督者であろう騎士をノし、指示が出来る頭を失ったと同時に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した兵士たちも路地を抜けた先に居た集団()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に取り囲まれたことで戦意を喪失する。

 蓋を開けてみれば呆気ない幕引きだったが、双方ともに死傷者は0で家屋にも被害が出ていない成果を見れば上々だろう。

 

 その後は耳を小刻みに揺らしたクロエが気まずそうにルノアを連れて早々に現場を離れ、アクスの顔に驚いた兵士たちが観念したのかポツポツと情報を喋っていると、ようやくベルナデットが【ガネーシャ・ファミリア】となぜか【ヘファイストス・ファミリア】の団員たちまで連れて合流してきた。

 その流れで尋問が開始されたが、この火付けはいわゆる『脅し』の類だったらしい。燃やそうとした家屋も事前にラキアの者と悟らせない上で『前の建造物は破壊すること』を条件に契約した建物で、建造物の中には延焼することに備えて水も大量に用意しているのが調査で分かった。

 そうなると経歴の詐称以外は近所に迷惑というだけであまり違法性はないが、仮にも戦争相手の密入国なので彼らは【ガネーシャ・ファミリア】の留置所で過ごすことが決まる。

 

「俺たちだってこんなことしたくなかったんだけどなぁ。主神の命令は逆らえないんだ」

 

「本当に何を考えてらっしゃるんですか、アレス様は」

 

 連れ立って歩く兵士たちの数や【ガネーシャ・ファミリア】どころか『目標』が所属している(とマリウス直々に説明されていた)【ヘファイストス・ファミリア】。後は拘留期間が『戦争が終了するまで』と見聞きした騎士は、もはやすっかりやる気をなくしたように事情をペラペラ話してくる。

 

 どうやらこの作戦はラキア王国上昇の立役者であるクロッゾの魔剣を再び製造できる存在を標的にしたものらしく、この突飛のない作戦の発案者は案の定アレスだった。無礼を承知で彼の頭の中を本気で心配したアクスだったが、目の前の騎士もため息交じりで同意していた。

 

「神の思惑なんて知るわけないだろ。あぁ、でもマリウス様が"クロッゾの一族が説得に失敗した時の駄目押し"と言ってたな」

 

「大方、"オラリオに火を放つ"って脅そうとしてるんでしょ。ここ最近で外部から入ってきた人物が不動産を買い占めてるって小耳に挟んだから、おかしいと思ってたのよ。延焼対策までして……」

 

「そこはマリウス様が口を酸っぱく仰ってましたから」

 

 家屋から運び出された消火剤や大量の水を感心したように見つめるヘファイストスに騎士は苦笑いを浮かべる。

 アレスの明らかに脳味噌が筋肉で出来ている(オッタルのような)作戦を『なるべく穏便に済むような作戦』に仕立て直したのがマリウスだった。火付けはラキア王国でも重罪のため、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()物件を購入し、()()()()()()()()()()()()少人数での潜入と色々準備をしていたらしい。

 

 かなりの念の入れ具合だが、同時にあまりにも消極的な作戦に近くで聞いていたシャクティは『愚王と聞いていたが、あれだな。【万能者】(ペルセウス)のようだな』とマリウスを評する。

 そんな時、団員たちからの報告を聞き終わった椿がヘファイストスたちの方に向かって走ってきた。

 

「主神様、どうやらあっちにヴェルフとヴェルフの親父殿が居るらしい。疾く行くぞ、あやつの親の親を見ておきたい」

 

「はいはい。ついでだし、アクスも来る? どうせラキア王国の契約は切るつもりでしょ?」

 

「まぁ……そうです……ねぇ」

 

 なにやら早く向かいたげな椿を宥めたヘファイストスはアクスも同行するか尋ねる。

 たしかにこの状況を鑑みるに、これ以上ラキア王国の契約を続けるのは【ディアンケヒト・ファミリア】にとって痛手である。近くでこの話を聞いていたマルタたちも首を何度も縦に振っていたため、アクスは自分の中で決めていた判断は決して間違いではなかったと理解した。

 

 すると、ヘファイストスは1つの提案をしてきた。

 

「どう? 今から捕まえるクロッゾの一族を連れて、アレスを呼び出してから契約破棄を申し付けるの。面白そうじゃない?」

 

「ヘファイストス様も面白そうとかで判断するんですね」

 

「あら、私も神だもの。基本的には面白いことは大好きなのよ?」

 

 善神で通っているヘファイストスの意外な一面。それでも娯楽を求めて下界に降りてきた神であるがためにその判断は何ら間違いではないと納得したアクスは、しばらく考えた後に『血が流れませんからね』と治療師(ヒーラー)としての考えから彼女の提案を受け入れた。

 

「ふむ……。主神様、アクスが来るならついでにあの魔剣バカたちへ神々の打った至高の1品を見せるのはどうだ?」

 

「あら、良いわね。採用」

 

 親も親だが、子も子──と言えば良いのだろうか。落ちぶれたとはいえ、クロッゾの一族はラキア王国常勝の要で鍛冶貴族と呼ばれるほどの存在である。そんな者たちに向かって神とマスタースミスの合作を見せるなぞ、鍛冶師生命を自ら絶ちかねない程のショックを受けるのではなかろうか。

 

 そんな不安をアクスが漏らしていると、ヘファイストスと椿が揃って『命を取られないだけマシ』と答えた。

 たしかにそうだ。いくら実力が隔絶した一品を見せられて鍛冶師生命を絶っても、それは()()()()()に過ぎない。命が助かっただけでも儲けものなのだからこちらに何ら非はないし、そもそもオラリオに付け火未遂をしようとした時点で罰は覚悟しておくべきだ。

 

「納得したなら急ぐぞ。ヴェル吉が【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)を出たらしい」

 

「皆、急ぎましょう。だけど、見つからないように!」

 

 周囲からの返事を聞きながらヘファイストスは走る。アクスもそれについていき、やがて屋根の上に昇ると人気のない小さな広場を一望できる場所へ陣取った。

 少なくともラキア側は十数人といったところ。その中にヴェルフよりも薄いが同系色の髪をした中年男性が1人居る。

 

「あれが?」

 

「多分、ヴェルフの父親ね。確か……ヴィルって言ってたかしら」

 

「うだつの上がらない中間管理職のような顔をしとるな。あれで鍛冶仕事が出来るのか?」

 

 アクスの問いにヘファイストスは以前にヴェルフから聞いた父の名前を言い、椿はあまり覇気を感じない彼の顔を見てつまらなさそうに文句を言って周囲を小さく笑わせていた。

 そんなことをしていると、何度か【ヘファイストス・ファミリア】の団員がヴェルフの現在地を携えてヘファイストスに近づいてくる。まるでどこかの怪異のようにここへ向かって徐々に近づいているみたいだが、なぜかベル・クラネルが居るらしい。

 

「ヘスティアも良い眷属を持ったわね」

 

「……ん? あやつは()()()()()()()ではなかったのか?」

 

「ベル・クラネルです」

 

 初めてベルと会った時に間違えたまま記憶したらしい椿にアクスがやんわり指摘していると、大きな包みを背負ったヴェルフが姿を現した。

 そのまま父と息子の会話に入るが、『息子よ!』、『親父ぃ!』というような久方ぶりの再会を喜ぶ空気は感じられない。むしろ、長年の宿敵にあったかのような剣呑とした空気にアクスは首を傾げる。

 

「お父さんじゃないのでは?」

 

「親子にも色々あるのよ。特にあの子は"クロッゾ"という名前に随分苦しめられてきたから」

 

 家名を知られれば魔剣を作ることを強要され、エルフに知られれば恨み辛みを込めた魔法を放たれる。それこそ『ウィル・オ・ウィスプ』などという()()()()()の魔法を発露させるぐらいにヴェルフは家名と魔剣に振り回されていた。

 それでも家名を捨てずにいるのは己に刻んだ矜持を捨てたくない表れ。ヴィルの言葉をヴェルフが力強くはねのけている姿に、ヘファイストスは一層笑みを強くした。

 

「やれ! 捕まえろ!」

 

 すると、押し問答に飽きたのかヴィルが手に持った剣で合図を送りながら指示を出す。その声を聞いた周囲が即座に動き出し、ヴェルフとベルを取り囲んだ。

 

 実力行使。交渉が決裂した際によく冒険者がやる手口だが、()()()()()()()()()()()のは滑稽すぎる。

 たしかギルドの発表ではベルは既にLV.3。ヴェルフはLV.2になって鍛冶の発展アビリティを取得しているため、どんなに数を集めても鎧袖一触となるのは目に見えていた。

 

 だが、冒険者と戦う上で実力が劣っていることはヴィルも把握しているのか、手に持った剣をチラつかせた。

 

「余計な真似をしてみろ。同志たちに合図を出し、クロッゾの魔剣をもってこの街を灰燼に帰すぞ」

 

 小物感漂う姑息な手だが、善良なベルとヴェルフには効果は覿面だった。構えを解いた2人にヴィルは邪悪な笑みを浮かべながら手勢にヴェルフを捕まえるように指示するが──。

 

()()()駄目です」

 

 一陣の小さな風のように声が広場を通り抜ける。その声の主を見つけようと周囲を探るヴィルたちであったが、ベルたちを囲んでいた手勢が次々となぎ倒されていく様子に『は?』と信じられないものを見たような声を出した。

 

治療せよ(アスクラピア)

 

 小さな子供──否、パルゥムが何かを呟きながら1人の兵士を殴りつける。身体を『く』の字に曲げた兵士が近くの植え込みに突っ込み、そのまま動かなくなった。

 

治療せよ(アスクラピア)

 

 突然のことに硬直する周囲などお構いなしに次なる犠牲者が出た。今度は持っている旗を兵士の眼前ではためかせて幻惑させた瞬間に彼の足を払ったパルゥムは、再び何かを呟きながら体勢を崩した兵士の腹部を強く殴りつける。

 そのまま地面に強くぶつかったことでドゴンという痛々しい衝突音を奏でた楽器(へいし)は、気絶したのか何も言わなくなった。

 

「な、なぜ貴様が居る!」

 

「ここがどこなのかお忘れで?」

 

 ここでようやく横槍を入れてきたパルゥムがアクスだと気付いたヴィルが邪魔をしてきたことに対して怒りだすが、アクスの勢いは止まらない。ここがアクスたち、【ディアンケヒト・ファミリア】も居を構えているオラリオであることを伝えながらも3人──4人──5人と自動治癒魔法(オート・ヒール)を掛けながら攻撃を加えて無力化していく。

 

「な……な……」

 

「ハッハッハ、まさに鎧袖一触と言ったところか。手前どもの出る幕がないではないか」

 

「そうね。でも、あの子はここの生まれなのにあの言葉はねぇ……」

 

 もはや手勢も半数をきったことに目を見開くヴィルの耳にまたしても部外者の声が響く。思わず声がした方を見れば多数の冒険者が屋根の上で見張っており、その中に彼が驚くに値する1人と1柱の姿があった。

 

「神ヘファイストス……。【単眼の巨師】(キュクロプス)っ!」

 

「自己紹介をする手間が省けたわね。さっきあなたが言ってたこの街を灰燼に帰すって話なんだけど、既に入り込んだほとんどは捕縛されたわよ。魔剣ではなくて"松明"だけどね」

 

「はぁ……、そんなことだろうと思ったぜ。だが、俺を餌にしたな?」

 

「そう言うな、ヴェル吉。ギルド経由で【ロキ・ファミリア】が戦線が不可解だと伝えてきたのだ。しかし、元はと言えばお主の家名がまいた種。ヴェル吉がケリを付けるのが筋であろう」

 

 既にオラリオに入り込んだほとんどが捕縛されたという情報にすっかり及び腰なヴィルは、会話する余裕すら見せるヴェルフに向かって改めてラキアに来て魔剣を打つように命令した。

 しかも今回は別の脅迫付き。手に持った魔剣でせめてここら一帯を焼き払うという宣言までしたヴィルに、【ヘファイストス・ファミリア】の団員たちとヴィルの連れてきていた手勢を縛り上げていたアクスが反応するものの、椿はそれを目だけで制する。

 

「ラキアに戻る気も、あんたらのために魔剣を打つ気もない。早く投降しろ、これ以上の被害はあの神父様が許しちゃくれねぇぞ」

 

「このぉ……愚息がぁっ!」

 

 幾度による拒否にとうとう堪忍袋が切れたヴィルが魔剣を振り抜く。同時にヴェルフも手に持った『烈進』という魔剣を振い、双方の炎は彼らの間でせめぎ合った。

 周囲を昼間のように照らす炎が拮抗するが、その状態は束の間も保たない。ヴィルの魔剣から放たれた炎をかき消した炎はそのまま彼を食らおうと顎を大きく開ける──が。

 

「ヴェルフさん、"この被害も"許しません」

 

 唐突にヴィルの前にアクスが立ちはだかる。携えたブリューナクを前に掲げると、エルフの森を焼いたと噂されるほどの大火は見る見るうちに宝玉に封じられ、しまいには消失した。

 先ほどまでの威勢はすっかり萎えたのか、その場で腰を抜かすヴィルを一瞥した後にアクスは封じられた魔法をうっかり出さないように気を付けながらヴェルフの前に立つ。

 

「ヴェルフさん、魔剣を振るうなら回復薬(ポーション)を持っておいた方が良いです。あなたの矜持や魔剣は人に……親に向けるものではありません。それに、鍛冶師の打つ武器は本人の鏡といったのはあなたですよ。親を力で焼こうとしたあなたは今後、こんな素敵な魔剣やベルさんの鎧を打てると思っていますか?」

 

「っ!」

 

 アクスの言葉にヴェルフはとっさにヴィルを見る。すっかり動けなくなった父親の姿に彼の胸中にはとある疑問が犇めいていた。

 

 ──親父はこんなに小さかったか? 

 

 鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、槌に思いを乗せろ。

 クロッゾに生まれてから幾度となく聞いた言葉と共にヴェルフの脳裏にはラキアに居た頃のヴィルの大きな背中が過ぎっていた。

 決して背格好ではない。その在り方がとてつもなく大きく見えていたのが、今は()()()()()()()()()感じた。

 

「ヴィル……。いや、"親父"。投降してくれ。俺はこれ以上、あんたに魔剣は振りたくない!」

 

「貴様ぁ……」

 

「あぁ、ありがたく投降させてもらう」

 

 クロッゾに対する憎悪は一切ない、()()()()()()()に声を掛けたヴェルフ。それでもヴィルは頑なな態度でヴェルフを睨んだものの、背後から投降したいことを訴える声に思わず叫んだ。

 

「父上!」

 

「爺……」

 

「久しいな、ヴェルフ。お前の意思は熱された鉄ではなく、鍛え上げられた鋼そのものなのは分かった。そのような人物を無理やり連れて行っても我らに益はない。今一度、鍛冶師として我々は己の矜持と向き合うべきなのだ」

 

 訥々と語る老人の言葉がすべて図星だったのか、ヴィルは苦悶の表情を浮かべる。

 ヴィルも『魔剣に固執するべきではない』ということは分かっていたのだ。それでも周囲が無意識にクロッゾへ魔剣を求めるぐらいにはラキア王国は()()()()()。対軍、対拠点において無類の強さを誇る圧倒的な力が無くなったことへの失望は次第に彼の矜持を腐らせ、このように息子(ヴェルフ)を連れて帰るという安易な方法に走らせるまでに追い詰めていった。

 

「神ヘファイストス、投降します。責任はすべてこの老いぼれに。他の者には寛大な処置を願います。それと……この生意気な孫をよろしく頼みます」

 

「投降を受け入れます。だけど、ヴェルフはもう自分の中に鉄のように固い意思を持っているわ。私が出る幕はないと思うけど?」

 

「いえ、鉄は熱して鍛え上げるほど良い鋼になる。時折熱してやってください。その度に勝手に己を叩いて鍛え上げるでしょう」

 

「なっ! 爺!」

 

 なぜか顔を真っ赤にさせたヴェルフが祖父であるガロン・クロッゾに噛みつくが、彼は『老いぼれを舐めるな』と飄々と笑いながら率先してひっ捕らえられる。

 連れて行かれるクロッゾの一族とラキア軍の兵士たちを見送るヴェルフ。その背中はどこか寂しそうであったが、そんな彼は唐突にベルとアクスへ向き直って頭を下げた。

 

「ベル、信じてくれてありがとな。それとアクス、俺を親の血で手を汚した鍛冶師にさせないでくれてありがとな」

 

「うぅん、僕は信じてたから何も言わなかっただけだよ」

 

「報酬は魔剣で。いちいち火を起こすの大変なんで、入れるだけでお湯が沸くような物でよろしくお願いします」

 

「お前、そればっかだな」

 

 ベルはともかく、本当に魔剣を武器ではなく便利な道具扱いするアクスにヴェルフは小さく笑いながら呆れる。

 しかし、彼の反応にアクスはまるで当然と言わんばかりの態度で口を開いた。

 

「そうですよ? 魔剣、剣、包丁と名前は色々ありますが、全て道具なんですよ? 往診の時に神様から聞きましたけど、人間の側が間違いを起こさなきゃ道具も決して悪さはしないみたいです」

 

「確かにそうだな。相手を切ったり殲滅するのが魔剣や剣の役割だが、それで野菜や肉も切れよう。"包丁屋"としてはありがたい客ではないか。作ってやれ」

 

「言われるまでもねぇよ。こいつなら任せられる。……じゃあな」

 

 そう言ったヴェルフはふらりとその場を離れ、ベルもそれを追いかけて行った。

 

***

 

 こうして深夜の大捕り物が幕を閉じた──が。

 

「あれ、なんか忘れてる気がする」

 

 治療院の前まで帰ってきたアクスがそう独り言ちながら中へ入る。すると、血相を変えた団員たちが彼に詰め寄ってきた。

 

「アクス、団長が顔を真っ赤にして倒れてる! 風邪かもしれん!」

 

「あっ」

 

「今、"あっ"って言った?」

 

「はい、連行ー!」

 

 長年の生活からその反応だけでアクスが元凶だと判断した団員たちは、即座に事情聴取を開始。粗方事情を聞き終わった後、男性団員からは『この時期、風邪ひきやすいんだから布団被せてやれ』とお小言を頂戴し、女性団員から『クソボケがぁー!』とティオネのような罵倒が飛んできたのだった。




ラキア王国。毎回こんなことしてそう。

アクス(幼少期)
 近所の野良猫に負けるか弱き生き物。料理は一通りできたため、捨てられないように大抗争時のディアンケヒト・ファミリアの台所を守っていた。

火付け
 ヴィルが魔剣でオラリオを焼くというブラフの信ぴょう性を持たせるため、マリウスが胃の壁を削りながらアレスの脳筋作戦を添削した。(あの人、有能そうだからこれぐらいはするよねという信頼)
 『元の物件を壊す』条件の選定に日数や人員を費やし、実際に入り込みながら色々準備をするのにこれまた日数と人員を費やしたことで、侵攻スケジュールが遅れたとか何とか

人間の側が間違いを起こさなきゃ道具も決して悪さはしない
 多分、CV.阪脩。
 何もしてないのにパソコンが壊れたじゃねぇんだよぉ! なんもしてないのにインターネットが壊れるのはW.W.Wレベルの世紀の大事件なんだよぉ!

ヴィル、ガロン
 この後、契約破棄の証人として仮釈放。ヴィルの方はブリューナクを見て『こんなの作りたい』と目を輝かせる。

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