ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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今回も我らが聖女様のイメージが崩れる可能性があります。お気を付けください。


69:見た目が普通だと判断が難しい

 アクスがラキア王国との契約を破棄した次の日。【ディアンケヒト・ファミリア】が運営する治療院では『ファミリア都合』という理由から臨時休業を行っていた。

 当然ながら少なからず文句は出たものの、在庫の中から製造日数が古い回復薬(ポーション)を在庫処分……もとい1人1本渡すという大盤振る舞いで何とかなった。これも当然ながら渡す前の品質チェックは済ませているため、クレームは来ないだろうというディアンケヒトの指示である。

 

 そんな具合に治療院に押しかけていた冒険者を全て追い返した団員たちは、エントランスに集まって団長であるアミッドから防災訓練の説明を聞く。ただ、闇派閥(イヴィルス)という単語が聞こえても『あー、先輩から聞いたことがある』程度の認識しかない団員たちは一様に口をポカンとさせていたが、それも織り込み済みだったアミッドは樹脂製のナイフを掲げながら『制限時間まで、危険から遠ざかってください』と曖昧な指示を出した。

 

「捕まえなくて良いんですか?」

 

「ここはオラリオですよ?」

 

 血気盛んな男性団員が質問するが、アミッドの放った1言だけで黙り込む。

 ここはオラリオ。冒険者が闊歩する街で、いくら総数の5割よりも少々多いぐらいがLV.1でも()()()()はざらに居る。いくらスキルで補正を盛ろうとも、LV.1が格上を倒す例は奇策がハマったなどの要因。つまりはレアケースだ。

 それを理解したのか、謝罪する男性団員に対して逆に『良い質問でした』と逆に感謝を述べたアミッドは説明を続ける。

 

「今回はレベルによるステイタスは関係ありません。全員がLV.1の状態です。致命傷と判断したならば、今から配る腕章を腕に。逆に魔法ならば助かる場合は行動を続行してください。逃げるも良し、戦って捕縛するのも良しなので、臨機応変にお願いします」

 

 アミッドがそう締めくくると、古参団員たちが手分けして赤い腕章を配っていく。全員に行き渡ったことを確認したアミッドは、エントランスの時計を見つめながら10分後に訓練を開始することを告げた。

 その指示を皮切りに、それぞれは思い思いのところへと散開。こうして防災訓練が始まりを告げる。

 

 宿舎。庭。倉庫。調合室。数人で大掛かりな荷物を持って行く者も居れば、1人で部屋に立てこもる者も居る。

 しかし、大半の団員の顔は余裕そうに笑みを浮かべていたため、ディアンケヒトの懸念は残念ながら当たってしまったことにアミッドは残念がりながら主神の私室へと向かった。

 

「ディアンケヒト様。もう5つぐらい作るから、紙ちょうだい」

 

「分かった、分かった。……しかし、これほど必要か?」

 

「でも、大抗争でかなり使われてたよ?」

 

 部屋の中ではディアンケヒトとアクスが何やら工作をしている。傍目から見れば孫と遊ぶ老人のようだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が何を意味しているのかを事前に聞いていたアミッドは頬を引き攣らせた。

 

 火炎石。44階層のフレイムロックが落とすドロップアイテムで、そのままでも危険だがオラリオでよく使われている魔石製品の撃鉄を組み合わせれば即座に爆発する()()に早変わりする品である。

 これの悪辣さはLV.1どころか一般市民でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と化すこと。これを開発した闇派閥(イヴィルス)は子供でさえも人間爆弾にし、数々の冒険者を葬ってきた忌むべき物体である。

 

 今回はそれも用いて訓練をしようというのだ。

 

「アクス、本当に使うのですか?」

 

「フィンさんもまだ使われるって聞いたから、危険性は皆には知っておいてもらわないと。自爆はしないけど」

 

 訓練なので『やり過ぎ』は存在しない。イレギュラーを想定すればこれほどの準備が必要になることはアミッドも十分に理解している。

 ただ、()()()()()がここまで人を傷つけることに対して入念な準備をしていることに、彼女は少々嫌悪感を覚えた。

 

「アクス、無理だと分かったらすぐに降参するのよ?」

 

「分かったー。行けるところまで行ってみる」

 

「訓練なんだから、無理はしないで。本当の本当よ?」

 

 アミッドはアクスを抱きしめながら注意するものの、アクスは特に気にした様子もなく適当な返事をしながら部屋から出る。

 

 その数時間後。まさかあのような事態になるとは、神であるディアンケヒトの目でもってしても見抜けなかった。

 

 

***

 

 団長が心配してきた意味を考えつつ、アクスは手始めにマルタの部屋を訪れた。

 

「マルタさーん、開けてー」

 

「アクス君、訓練中よ? それにエントランスに来なかったでしょ、遊んでいないで真面目……に……?」

 

 文句を言いながら扉を開けたマルタだったが、胸の下あたりに何かが当たった感覚を覚えた。視線を下に向ければ『ごめんなさい』と謝罪しながら柔らかい刃先をした模造品のナイフを()()()()()()()()()()()()()()()()アクスが居る。

 冒険者は一般市民から繰り出されるナイフに刺されたぐらいでは簡単に死なないが、今のマルタはLV.1。相手が同業者だったと仮定すれば、骨を避けて深くまでナイフを突き刺されたことよってまともに動けない状態に陥っているのは明らかだ。

 ここからさらに差し込まれた刀身を骨に沿って横にスライドさせれば、そこら辺の治療師(ヒーラー)では簡単に治すことが出来ないだろう。

 

「この傷は……アミッド様なら助けられるかもだけど、やめておこっか。じゃあ、このまま待機してるね」

 

「はーい」

 

 周囲にバレないように声を落としたマルタが殺された証である紅い腕章を付けて部屋に戻ると、アクスは続けてベルナデットの部屋を訪れて彼女を無力化する。

 フィンが言うには『集団を狙う時は頭を狙う方が良い』らしい。その教えに従ってアクスは次々と宿舎に居る古参メンバーを手に賭けて行った。

 

「キャーッ! マルタさんがヤられてる!」

 

「おいおいおい、何の冗談だよ! タブザさんもヤられてんのかよ!」

 

「誰!? 誰が実行役なの!」

 

 そうしているとにわかに騒がしくなってくる。どうやらマルタたちの部屋を訪れた団員が赤い腕章を付けた彼女たちに気付いたようだ。

 すなわち、ここからは1人1人を狙うのはほぼ不可能。ここらへんで諦めればまだ良かったが、予想以上にうまくいったことによってクソガキ特有の全能感に浸っていた彼は『まだだ』と謎の向上心を見せる。

 

「全滅……目指そうかな」

 

 相変わらず妙なところで思考がカッ飛んでしまっているアクスは、その足で調合室へと向かった。扉を開けると数人の男女が談笑しており、アクスの姿に気付いた2人が慌てて駆け寄ってくる。

 

「あ、アクス君。無暗に出歩いちゃ駄目で……しょ?」

 

「そうだぞ、宿舎の方……で?」

 

 全てを言い終えることもなく屈んでアクスに声をかけてきた2人の首筋に赤い線が走る。最初こそ訳が分からないとお互いを見ていた2人だが、正面に居たはずのアクスが居ない。慌てて後ろを振り返ると談笑していた2人のうなじに赤い塗料が塗りたくられており、そこでようやく自分たちがナイフで強襲されて戦闘不能になったことを認識した。

 

「まさかアクスだったなんてな。油断した」

 

治療師(ヒーラー)が不審者ってやべぇんだな。傷の位置が地味に殺意高いのが怖ぇ」

 

 赤い腕章を付けながらそれぞれ感想を言っているが、その間にもアクスは調合室のそこら中にディアンケヒトの私室で作っていた火炎石もどきを設置し始めた。

 戸棚の奥やら机の下やらと地味に分かりにくい場所に紙屑を置いていく姿がまるっきり不審者のそれだったため、既に死亡判定ながらも気になった団員たちは思わず声をかけてしまう。

 

「アクス君、何してるの?」

 

「なんだ、あの紙屑」

 

「んー、内緒。あ、これ持っておいて欲しいです」

 

 仕上げに既に死亡判定となった団員たちに紙屑を託す。渡された奇妙な物体を訝しげに見ながら何の意味があるのかとそれぞれは問いかけるが、アクスは『神様が言ってた"ぶーびーとらっぷ"っていうやつ』とこれまた神々の使うようなよく分からない単語で団員たちを困惑させる。

 

「なんだそりゃ」

 

「しらなーい。だけど、知らない神様がこれだけは気を付けろってー」

 

「そろそろお前、知らない神の言う事聞くの止めろよ」

 

 相変わらず余計な引き出しが多いことをツッコむ団員たちを他所に、アクスは『じゃっ』と事も無さげに部屋から出て行った。

 

 その後、アクスは宿舎を中心に回っていく。

 

「アクス、お前どこに行ってたんだ。団長の話すっぽかしただろ」

 

「寝てたー」

 

「仕方ないわね。ほら、こっち来なさい。団長のところに連れて行ってあげた方……が?」

 

 時には『寝坊して集まりに参加できていなかった』と嘘をつき、バリケードの中へ引き入れてくれた団員たちに『ごめんなさい』と謝罪しながら全員の目の下辺りをナイフで小突き──。

 

「アクス君、出歩いちゃ駄目でしょ。ほら、お姉さんと隠れ……あれ?」

 

 時には心配して出てきた女性団員の脇腹あたりを小突き、その衝撃に気付いた団員が意識を逸らした瞬間に首を一突き──。

 

 そんなことをしていれば死体の発見者が見つかって騒ぎが大きくなるが、残ったのは全団員の半分ほど。これ以上は無理だとアクスは次の手法に切り替えるべく近場を走っていた団員に声を掛けた。

 

「アクスッ! 無事か!」

 

「不審者を見なかったか!」

 

「見てない。でも、このまま手分けして探すのは駄目だと思う」

 

 アクスの言葉に団員たちはアクスの提案について真剣に検討し始める。

 

 たしかにこの状況は非常にマズい。不審者が誰かも分からなければ、バリケードを築いて立てこもった者もヤられていることからかなりの策士であることが伺える。

 そんなやつが手分けして探しても餌を与えるのみと、『どこか適当なところに集まろう』と結論付けた男性団員にアクスは少し考えるそぶりをしてから調合室を提案した。

 

「あそこか。結構広いしな」

 

「でも、不審者も入ってこないか?」

 

「そうなったら角にでも押し込んで、数で押そう。アクス、お前も……っておい!」

 

 移動を開始するためにアクスに呼びかけるが、彼は既に廊下を走っていた。『他の人に伝えて来るー』と言いながら走り去る姿に誰かが『あ、これ神様が言ってた"死亡フラグ"ってやつだ』と零したのは内緒である。

 

 こうしてアクスは次々と集団や立てこもっている団員に接触し、今残っている全員が調合室に集まっていることを伝えていく。あくまでも『集まっている』だけで『集まろう』とは言っていないのだが、それを聞いた団員たちは次々と調合室へと向かって行った。

 

 同調性バイアスというものがある。例えば台風などが起こった場合、周囲が避難していないと『別に避難しなくて良いんだ』と安心するといった具合に人間は集団の中で同じ行動をとることで安心感が生まれる生き物だ。

 今回はそれと同じ。【ディアンケヒト・ファミリア】の生き残った集団という中で『集まっている』のであれば、()()()()()()()()()()()()()でも正なのだ。

 無論、アクスはこんなことは知らない。成り行きに身を任せたらそうなっちゃっただけである。

 

 そんなライブ感の中で生きているクソガキことアクスは、今残っている全員が移動したことを確認してから調合室へと向かう。

 そこでは既に死亡扱いとなった団員たちと生き残っている団員たちが談笑をしているという気の抜けた空間があり、それを見たアクスは即座に懐から()()()()()を取り出した。

 

「そこまでにしておけ」

 

「あ、ディアンケヒト様」

 

 紙屑を投げ込もうとした瞬間、横から声がかかる。アクスが横を見るとマルタたち古参メンバーを引き連れたディアンケヒトが立っており、アクスから紙屑を受け取ってから調合室へと入っていった。

 扉を開ける音とともに入ってきたディアンケヒトとその周囲の状況に、生き残った団員たちは『主神は流石に反則』だと見当違いのことで騒ぎ出したため、ディアンケヒトや死亡者となった団員たちは彼らの疑惑は間違いだと論じた。

 

「アクス、あれを使ったのだろう。取ってこい」

 

「はーい」

 

 間延びした返事をしながらアクスは調合室の隅々から紙屑を取り出していく。1個ずつ確信をもって回収していく彼の姿に、不審者役の正体を知らなかった団員たちの表情が次第に青ざめていった。

 

「お、おい。まさか……」

 

「そうよ、不審者役はアクス君なの」

 

 本当に思いもかけない人物が不審者役なことに未だ信じられない団員も居たが、死亡判定の団員たちが『いきなり後ろから』や『喉をスッて』と状況を言いながらうなじや喉に付いた塗料を見せてきたら反論できずに固まってしまう。

 そうしていると、全ての紙屑を回収したアクスがディアンケヒトの元へ戻る。おそらく治療院の要所要所で使っていると思いきや、ここに全力投入する過剰具合に呆れながらも彼は紙屑の1つを掲げながらネタ晴らしを始めた。

 

「これは火炎石を模した物だ。非常に取り扱いが難しいが、周囲に大爆発を起こすのはお前たちも知っていよう。アクスはこれを部屋に投げ込もうとした……後は分かるな?」

 

 アクスが集めた紙屑は全部で10個。それらが全て調合室全体に置かれていた。

 仮にそれが()()であったなら。仮に最後の1つがアクスの手で扉越しに投げ込まれたら。

 

 こうして──【ディアンケヒト・ファミリア】は全滅した。

 

***

 

「まさか、本当にアクスが……」

 

「にわかに信じられんな」

 

「だが、事実だ。アミッド、各自の死亡判定をしろ。【象神の杖】(アンクーシャ)は全員から状況を聞き取り、それらを纏めて総評してもらいたい」

 

 防災訓練の締めくくりである総評のために連れてこられたシャクティと連れてきたアミッドの目には、赤い腕章を付けた【ディアンケヒト・ファミリア】の全団員が映っていた。

 それが意味することは防災訓練における全滅判定。『たった1人の子供に……』という失望の心が彼女の胸中に宿るが、シャクティと共に傷の具合や当時の状況を話してもらう内に()()()()()へと変わっていった。

 

 ──私に今のアクスが抑えられるでしょうか? 

 

 心臓や喉、珍しい箇所だと眼窩を狙ったと思われる致命傷や即死に近い傷が多い。さらには素人が簡単に思いつくような急所だが、実のところ頑丈な骨のせいでナイフ程度だと致命傷にならないケースが起こる脳の部分を一切狙われていない。

 人体についてよく勉強していると褒めたいところだが、状況を照らし合わせると素直に喜べなかった。

 

「状況について聞きたい」

 

「1人で部屋に居たところをアクス君が訪ねてきて……叱ろうとしたら……」

 

「心臓……それも骨の合間を少しでも避けるために刃先を寝かせてますね。良くて致命傷。悪くてそのままショック死かと」

 

 マルタの傷を確認したアミッドは彼女の語ってきた状況を自分へと当てはめていく。

 いつも通り、『お姉ちゃーん』と駆け寄ってくるアクス。それをいつもの調子で構っていると、いきなり心臓にグサリからの即死。回避するためには駆け寄って来たところを避け、そのまま逃げだすしかない。

 

 さて、果たしてこの行動が出来るのは【ディアンケヒト・ファミリア】の中に居るのだろうか。少なくともアミッドは出来る気がしなかった。

 

「アミッドさん、この訓練の不審者役の選定。明らかに間違ってませんか?」

 

「すみません、てっきりすぐに捕まって泣いてるあの子を予想してました」

 

 団員の文句にアミッドはすぐに自身の認識不足を自覚しながら謝罪する。

 アクスは世間一般には普通の男の子。しかも、制圧しようとすれば割とすんなり捕まってくれる素直な子で、アミッドに並ぶ治療ガチ勢である。

 そんな闇派閥(イヴィルス)の真逆を行く存在を見て警戒する人が居れば、その人は()()()()()()()()()()()。そこまで彼のことを評したアミッドは、自分の中でアクスに対する嫌悪感が増していることに気付いた。

 

 ウキウキと防災訓練の準備をしていた際は『ちょっと嫌だな』程度であった。しかし、【ディアンケヒト・ファミリア】の全滅という結果をまるでお遊び感覚でやり遂げてしまい、その充足感に浸りながら喜んでいるアクスの姿にアミッドは『嫌だ』と明確な嫌悪を示した。

 

「アクス」

 

「お姉ちゃん! 僕頑張ったよ!」

 

「そう……ですね。ですが、あなたは不審者側なんですよ?」

 

「えっ……。僕、賢くないから色々話を聞いたとおりにしたんだけど……。間違ってた?」

 

 アミッドからの注意は予想外だったのか、明らかに落ち込むアクス。その姿に彼女は今すぐ彼を抱きしめながら頭を撫でて『よく頑張りました』と言ってやりたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢する。

 

 端的に言えば、アクスの行ったことは()()()()()()()()

 アクスはフィンのように賢くはない。だが、それを補おうとする『意欲』はある。知恵がない代わりに話を通して培った知識を巧みに組み合わせ、最大限の成果を発揮した。それは褒められることで、決して苦言を呈されるほどの愚かな行為ではない。

 

 しかし、彼は治療師(ヒーラー)だ。それもオラリオ全体の認知度で言えばヘイズやアミッドに並び立つほどに。LV.2の後衛職という括りでは間違いなくアミッドと双璧を成すほどの治療師(ヒーラー)である。

 そんな存在がここまでの惨劇を生み出して良いのか──否である。あの犬人(ナァーザ)には『お人形のような聖女様がお人形遊び』とバカにされそうだが、このような結果は決して認められない意識が彼女の胸中に巣食っていた。

 

 自身のポテンシャルを最大限発揮した最高効率のパフォーマンスを褒めたい気持ちと『治療師(ヒーラー)のアクス』という立場から乖離した振る舞いをしたことによる嫌悪感。2つの気持ちの間に放り込まれたアミッドの耳には、全ての聴取が終わったシャクティの総評が聞こえてくる。

 

「さて、みんな知っているだろうと思うが【ガネーシャ・ファミリア】。団長のシャクティだ。今回は防災訓練ということで微力ながら協力させてもらう。……総評だが、暗黒期では全滅していてもおかしくは無い」

 

 初っ端からきつい現実を突きつけて来るシャクティだが、言っていることは事実なので全員はその言葉を教訓として呑み込む。

 すると、シャクティはアクスを呼び出した。

 

「アクス、最初に古参の者を狙ったのはなぜだ?」

 

「フィンさんから"集団を相手にする時は頭を潰す"と教えられたので。【ディアンケヒト・ファミリア】で団長以外で頭になりそうなマルタさんたちを最初に狙いました」

 

 あれはたしかフィンが後方師匠面をしている中で、アクスがラウルの授業を受けていた時の話である。

 

 ──ラウルさん、ダンジョンのモンスターって集団で仕掛けてきますよね? 下に行くごとに強くなっていきますけど、遠征ではどうするんですか? 

 

 ──ケースによって違うっすね。1番手っ取り早いのがパーティを一時的に作って対処させることっす。

 

 ──いや、もっと簡単なものがあるよ。頭……つまりは群れで1番偉い奴を潰すんだ。そうすれば士気もガタ落ちで一時的に混乱状態になるからね。その隙に有利に動けるという訳さ。

 

【勇者】(ブレイバー)……。いや、ダンジョンの話を対人戦に転用したのはアクスか。聞いての通り、この手法は対人戦にも通用する。1から10まで警戒する必要はないが、治療師(ヒーラー)はただでさえ患者と近い位置に居る存在だ。"患者"と過信するのは危険だということは頭の片隅に入れておいてくれ。具体的には──」

 

 知識の供給先に何と言って良いのか分からない様子のシャクティだったが、指揮系統を潰すという手段は対人戦でも使われていることを話しながら治療師(ヒーラー)がどう警戒すべきかを解説していく。全滅という精神的に痛い目をあったからか各自は真剣に聞いており、中々に有意義な時間が流れた。

 

 そして、ひとしきりだが患者と接する前に治療師(ヒーラー)が警戒すべきことについて講釈を述べたシャクティは、次に多かった『アクスをあまり力のない子供だと認識したことによる事例』について解説を始める。

 

「うちの主神も日頃叫んでいるが、たしかに子供は宝だ。しかし、暗黒期……特に大抗争ではそこら辺の子供すらも冒険者を殺した事例が多数ある」

 

「そんなバカなっ! その子は……アクスのようなパルゥムの高レベル冒険者だったんですよね!? そうではないとあり得ない!」

 

 冒険者同士ならばあり得ない話ではない。格下の冒険者が闇派閥(イヴィルス)所属の格上冒険者に狩られただけ。

 そう思った団員が異を唱えるが、シャクティは首を横に振りながら答えた。

 

「いや、一般人だ。……闇派閥(イヴィルス)に属した親を持つ……な」

 

「では、どうやって?」

 

「これを使った」

 

 シャクティは強く唇を噛みながらアクスが持っていた黒い紙屑を見せる。

 ディアンケヒトの話では、あの紙屑は火炎石であったはず。それと冒険者を殺しうる子供と何の関係があるのだろうか──と考えていた団員たちの中に正解を導き出す者が現れた。

 トチ狂ったように頭を抱えながら『酷い』と連呼する女性団員を男性団員が肩を掴んで強く揺さぶる。

 

「嘘……。なんて酷いっ! なんでそんなことを思いつくの!」

 

「おい、何言ってるんだ。落ち着け!」

 

「落ち着いていられないわよ! "子供を爆弾にして冒険者に近づけた"のよ!」

 

「あぁ、正解だ。ちなみにだが、その被害者の中に私の妹が居た。逃げ遅れた子供を保護しようとしたが……その子供がな」

 

 目から一筋の涙を流すシャクティに暗黒期を抜けた頃にやってきた団員たちは何も言えなかった。それでも何かの間違いであるかのようにマルタたち古参に目を向けるが、彼女たちも無言で首を縦に振ることでシャクティの話は本当だと示した。

 胸糞が悪いという範疇を逸脱した所業に団員たちが吐き気を催していると、唐突にアミッドが手を叩く。

 

「アクス。もしかしてマルタやベルナデットたちを最初に狙ったのは、火炎石の危険性を注意されないようにするためですか?」

 

「うん。注意されたり指揮されたら僕に勝ち目はないもん。だから、指揮できるマルタさんたちを排除して、適当に倒して混乱させてから皆を集めたの」

 

 どうやら、『情報収集しながら計画する』というアクスを指揮官に据える計画の過程で行った訓練が底意地が悪い計画を考えるのに役立ったらしい。

 合算すると、的確な急所攻撃に関しては治療師(ヒーラー)になるうえで行う人体構造の授業のせい。指揮系統の混乱を図る手法は【勇者】(ブレイバー)のせい。その全てを計画に入れていたのは指揮官課程のせい。後は()()()()()()()()という訳の分からない言葉だが、アクスの記憶でも『エレンというモブみたいな神様が"気を付けなさい"って教えてくれた』と曖昧なので神のせいにしておく。

 

 すると、あら不思議。アクスが仕出かした原因の半分ほどは【ディアンケヒト・ファミリア】の教育の賜物ではないか。

 俗に言う『数字マジック』だが、それを指摘できるものはこの場には居なかった。

 

「私の教育が……間違っていた……。ふふ、ふふふ」

 

「アミッド?」

 

 不敵に笑うアミッド。彼女の頭の中ではすっかり、『命を奪う行為に対し、まるで遊戯に勝ったように反応するアクス』に対する怒りの矛先が自分の方へと向いてしまっていた。

 いつかアクスが言った製造者責任。あの時は羞恥のために『産んでいない』と拒否はしたが、今思えばそれは間違いだった。

 腹を痛めて産んではいないが、愛情を持って厳しく育てたのは間違いなく自分である。ならば、製造者の責任として調子に乗っている弟を理解()からせてあげるのが姉としての愛情だろう。

 不敵な笑いを浮かべるアミッドを心配げに見ていたシャクティの腰から短剣を抜き取った彼女は、シャクティの制止も聞かずにアクスへ近づいていく。

 

「アクス、まだ全滅していませんよ。私が居ます」

 

「え、でもお姉ちゃんは審査員でしょ?」

 

「いいえ、団長の私が居る限りは【ディアンケヒト・ファミリア】は無くなりません。なので……さぁ」

 

 なにが『さぁ』なのか。それを聞く暇もなくナイフを握らされたアクスに向かってアミッドは無遠慮に近づいていく。手をがっちり握られ、アビリティの暴力で無理矢理動かしても彼女を傷つけてしまう。

 アミッドを絶対傷つけたくないという意思からすっかり袋小路に追い詰められたアクスの耳に、彼女のくぐもった声が聞こえてきた。

 

「っ! あなたは治療師(ヒーラー)なの。いくら訓練でも人を死に至らしめたことを誇るべきじゃない。分かるでしょ?」

 

「あっ……あぁ……。ヤダ、やだ。止めてよ、お姉ちゃん」

 

「じゃあ、約束して。学んできたことは自分や人を癒すために使うって」

 

 制服が血に濡れても尚、笑顔で近づくのを止めないアミッド。その狂気染みた光景に誰も動くことが出来ず、アクスも彼女の底知れぬ笑みに恐怖する。

 

「ごめっ、ごめ"ん"なざい! 遊びみたいに考えて……ごめんなさい! ヴぁ"あ"ぁ"ぁ!」

 

「はい、良い子です。アクスは良い子です。そんなアクスが大好きですよ」

 

 そう言いながら大声で泣き出すアクスの頭を撫でたアミッドは自身の血に塗れたナイフを回収し、血を拭ってからシャクティに渡す。

 団員たちと同じく精神的に病んでしまったような一部始終を見てしまった彼女はようやく動けるようになると、顔を恐怖に歪ませながらしきりに『【ディアンケヒト・ファミリア】の教育はどうなっている』とディアンケヒトに問い詰めていた。

 かくいう主神も『なにあれ知らん。……怖』と恐怖を露わにしており、オラリオには再び『【戦場の聖女】(デア・セイント)ヤバい』という抽象的な噂が一瞬だけ流れたらしい。




ヤンデレ聖女に死ぬほど愛されて眠れない…これだ!

アクス
 ポンポンキルログを稼ぎ、ディアンケヒト・ファミリアを全滅させたクソガキ。アミッドの献身的(意味深)な説得によってギャン泣きで分からされた。

火炎石
 魔石製品の撃鉄を利用するとあら不思議。上級冒険者でも殺しきる爆弾に早変わり。
 アーディの死因である。

ブービートラップ
 死体を動かした瞬間に信管が作動してボカンする罠。
 ひったくりで食べ物が買えずに途方に暮れていたとある神にまかないを持って行った際、その神様から色々教えてもらって『気を付けろ』と警告をもらった。

エレン
 なんだか進撃しそうだが、見た目がモブみたいな神。だが、その正体は必要悪としてオラリオを終わらせようとした邪神。

アミッド
 製造責任者。この後、近づくたびにアクスが逃げていくのでショックを受ける。
 話変わるけど、血が呪いをけして、残り湯が天然温泉級になるならキスとか唾液交換したらどうなるんだろうか。気になって夜もぐっすりですわ。

お知らせ
 AI使って表紙とか諸々作りました。狙ったもの出すのむつかしいよ。
 これでもアクスの髪の毛が白かったり、ちょっと長めなのだけど…。雰囲気で楽しんでください


【挿絵表示】

とある1幕
「はーい、笑ってくださーい」

「アミッド、固いぞー」

「そう言われましても……」

 定休日。宿舎の食堂にてアミッドは数人の団員に囲まれていた。
 事の発端はいつものディアンケヒトで、『珍しい物をヘルメスの奴からもらったから、アミッドを客寄せにするぞ』ということらしい。毎度ながら酷い主神だが、いつもの無茶ぶりよりも楽なので、彼女は素直に応じたのは内緒である。

 『カメラ』と呼ばれる魔道具を持った女性団員が若干息を荒げながらアミッドの一挙手一投足を見逃すまいと構える横で、男性団員が自らの頬に手をやりながら『笑顔』と伝える。
 ただ、伊達にアミッドは商売敵であるナァーザから『鉄面皮』と呼ばれていない。疲労が蓄積された筋肉のようにガチガチの表情が中々変えられず、全員が『駄目だこりゃ』と諦めかけていたーーその時だった。

「なにしてるの?」

「お、ちょうど良かった。アクス、アミッドの前に立ってくれ。……そうそう、そんな感じで」

 通りがかったアクスに声を掛けられた団員が、そのまま彼をアミッドの前に立たせる。すると、アクスを軽く抱きしめたアミッドが彼の頭に顎を乗せて微笑を浮かべ出したのだ。
 もはや思考する前ーー反射の域に入っている振る舞いに、『キタコレー』と女性団員が鼻から忠誠心を垂らしながら高速でカメラのシャッターをきったのは言うまでもない。

 なお、この魔道具はとある悲しい事件から紛失してしまうことになる。当然ディアンケヒトから詰められるが、彼女は『ナ、ナンデカナー』と必死にはぐらかしたとかなんとか。

【挿絵表示】
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