ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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すみません。予約投稿の時間をミスりました。


70:誘拐

 怒涛の結果に終わった防災訓練も終わった次の日。アクスは最近常連になりつつある猪人(オッタル)によって市壁の外まで連れられていった。

 なんでも今回は【フレイヤ・ファミリア】のみではなく、今回の戦争に参加しているファミリアとギルドの連名によるクエストらしい。有体に言えば『ラキアへの義理は果たしてるから、今度はこっちにも支援してくれよ』ということだ。

 なまじ【ディアンケヒト・ファミリア】は大手医療系ファミリアなため、こういった『どっちつかずの行動』は多少なりとも発生する。それでもどことなく蝙蝠のような感じがしたためか、アミッドやディアンケヒトも思うところがあったようで……。二つ返事でアクスの出動を許可した。

 

 しかし、()()()()()()()()団員たちが心配していることがあった。それはアクスが出掛けにアミッドの目を見ずに返事をし、『行ってきます』とも言わなかったことである。

 

「さっきの見たか?」

 

「絶対、昨日のことよね」

 

「昨日の夜は"お姉ちゃん怖い"つって俺のところに来たけどよ。そろそろ夏に入りかけだから暑いんだよな」

 

「はぁ!? なんであんたの所に来てんのよ! 変わりなさいよ、冷え性舐めんな!」

 

 女性にとって冷え性は天敵である。()()()()()特有の自慢にしか聞こえない言葉に一部の女性団員が怒り狂ったのは内緒である。

 

***

 

 アクスがオッタルに拉致られて数時間程。ギルドが建てた仮設テントの中では、ひっきりなしにやってくる怪我人をアクスが懸命に治療していた。

 最初の内は【ガネーシャ・ファミリア】やら【ロキ・ファミリア】やらがポツポツと治療や度重なる野営で体調を崩した者が診察に来たり──と小さな治療院のような様相を呈していたが、この頃になるとまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()のように【フレイヤ・ファミリア】の団員しか来なくなっていた。

 

「あのー、なんで【フレイヤ・ファミリア】の方ががかなりやってくるんですか?」

 

「ん? そりゃぁ……あれだ」

 

 治療を終えたヴァンがアクスの問いに応えるため、アクスをテントの外へ出してからとある方向を指差す。その先にあるのは【フレイヤ・ファミリア】の陣地のはずだが、今はそこかしこから土煙や爆発音が断続的に聞こえる戦場となっていた。

 

「うわぁ……。戦いの野(フォールクヴァング)になってるぅ」

 

「俺たちも長く本拠(ホーム)に帰ってないしな。ここに居ると鈍るんだよ」

 

 おそらくは弱兵であるラキア軍の相手にオッタルやその辺が我慢できなくなり、『幹部たちがやってるから俺たちも──』と続いたのだろう。だからといって戦争中に洗礼をしないで欲しい。そう言いたかったが、戦いの野(フォールクヴァング)での洗礼は【フレイヤ・ファミリア】にとってルーティンのようなものだ。致し方ない……のかもしれない。

 

「ちなみにヘイズから言伝を頼まれてる。"へるぷみー"だそうだ」

 

「聞かなかったことにしてください」

 

 ラキア側から受けた傷ならまだしも、()()()()()()を治療するなど馬鹿らしいにも程がある。そもそもこちらに【フレイヤ・ファミリア】の怪我人が流れ込んでいる時点で手伝っているようなものなので、わざわざ【フレイヤ・ファミリア】の陣地に行く必要性が感じられないとアクスは断った。

 しかし、ヴァンはその答えを待っていたかのように『だと思ったさ』と先ほどまで居たテントの中へ入っていく

 

 すると──。

 

「来ちゃった☆」

 

 そこにはヘイズが座っていた。おそらくヴァンが外の様子を見せるためにアクスをテントから出した隙に潜り込んだのだろうが、突然姿を現すのは心臓に悪すぎる。

 あやうく『ひえっ』と化け物を見た時のような悲鳴を出しそうになったが、何とか喉奥まで押し込んでいるとヘイズが席から立ち上がる。そのままアクスを流れるような動きで持ち上げてからアクスを膝に置いて座り直し、彼の頭部に顔をうずめた。

 

「はぁー、干し草の香り。アクスの身体って何か中毒性のある成分が出てると思うの」

 

「それは人ではない何かだと思うぞ。……それよりもヘイズ、俺はもう行くからな」

 

「はーい。しばらくしたら帰りまーす」

 

 すっかりリラックス状態のヘイズにヴァンはアクスへ一瞬だけ憐憫の視線を送るが、すぐさま『本日は終了しました』と書かれたプレートが揺れているテントから出て行ってしまった。

 後はもう度重なる心労を癒して(たすけて)もらうだけだったのだが……。アクスがあまりにも嫌がらないことに彼女は段々と不安になってくる。

 

「アクス、今日は大人しいけど何かあった? 本当に嫌だったら言ってね?」

 

「昨日、お姉ちゃんに怒られたから……。反省してる」

 

「へぇ、珍しいわね。何かしたの?」

 

 本当に珍しいことにヘイズは目を丸くする。

 巷では聖女と呼び声の高いアミッドだが、アクスにはめっぽう弱いというのがヘイズの見解である。そんな彼女がアクスに対して怒るということは、十中八九目の前のパルゥムがなにか禄でもないことを仕出かしたのだろうと容易に想像がつく。

 ただ、珍しく弱っているアクスにヘイズは何かを思いついたらしく、にやけた顔で彼に何をしたかを問いかけてきた。

 

「お姉ちゃんに言ってごらんなさい?」

 

「えー、師匠は別の派閥だし……」

 

「固いこと言わない。それとお 姉 ち ゃ ん」

 

 ここぞとばかりに姉呼びを強制する不審者1歩手前の師匠(ヘイズ)。近くで妙に音圧が強いカラスの声が聞こえてきた気がするが、いつまでもこのままというわけにはいかない。少し悩んだ末に『まぁ、極秘じゃないから良いか』とアクスは昨日のことを話し出した。

 

「昨日、暗黒期を想定した訓練をしたの。不審者が取り押さえられるか、時間一杯まで不審者から逃げるやつ」

 

「あー、今の人は暗黒期を知らないからねー。……で、誰が不審者役になったの?」

 

「僕」

 

 しょんぼりと落ち込んでいるアクスの言った言葉がよく分からなかったのか、ヘイズは目を閉じながらしばらく考え込む。

 ただ、いくら考えてもアクスが不審者役という()()()()()()()()()()()()()しか思いつかなかったため、彼女は逆にアクスが無理をして怪我でもしてないかと聞き返した。

 

「……すぐ捕まったんじゃないの?」

 

【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)。その逆だ」

 

 正解をアクスが言う前にテントにシャクティが入ってくる。せっかくの癒しタイムを邪魔されたことで嫌みの1つでも言いたかったヘイズであったが、彼女の言う『逆』の意味を理解できずにいた。

 捕まる逆……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時間一杯までアクスを不審者役だと全員が気付かなかった。なるほど、これならば訓練にならないとアミッドが怒るのも仕方がない。

 

 そこまで考えたヘイズがしたり顔で回答したものの、シャクティは首を振ってその答えは間違いであると否定する。

 

「それもある……が、アクスはアミッドと神ディアンケヒト以外の団員を全滅させたことで訓練を終わらせたんだ」

 

「はぁ!?」

 

 いきなり『全滅』というハードなワードを告げられたヘイズが信じられないと声を荒げると、シャクティはアクスの方を見て『話すぞ?』と聞いて来る。防災訓練に関しては特に機密もへったくれもないために彼は了承すると、シャクティはスラスラと団員たちとアクスから聞き取った状況を語っていった。

 

 的確な指示が下せる古参を最初に狙い、後は適当に襲って数を減らし、場が程よく混乱したところで全員を一か所に集めてから爆発物で一網打尽。やり口もそうだが、特にシャクティは今のヘイズのようにアクスを抱き上げたりした際に攻撃を加えられて死亡判定になった団員が多すぎることを危惧していた。

 

「あれは完全にやり過ぎだと私も思うぞ。アミッドが怒るのも仕方がないと思うほどにな」

 

「へ、へぇー」

 

 シャクティから詳しい話を聞いたヘイズは特に何も感じていない風を装っていたものの、内心は焦っていた。

 

(あれ、もしかしてこれ……。【フレイヤ・ファミリア】(うち)のせい?)

 

 いやいや待て待てとヘイズは導き出したばかりの推理を彼方へ放り投げ、新たに考えを巡らせる。

 たしかに【フレイヤ・ファミリア】のあれこれを手伝ってもらいつつ、様々な難癖……。もとい、理由を付けては教育という名の疑似洗礼を与えている自覚はあるが、まさかここまで闘争心が高い子に育つとは思っても見なかったヘイズは背中に冷たい感覚が走っていた。

 

 またしても同じく『【フレイヤ・ファミリア】でのあれこれにより、アクスの中に眠っていた凶暴性を育ててしまった』という結論に行き着いてしまったヘイズ。おそるおそるアクスにやり過ぎてしまった理由について聞くことにした。

 

「ねぇ、アクス。なんでそんなにやり過ぎちゃったの?」

 

「んー、訓練だからちゃんとやらないとだし……。後は上手くいってて楽しくなっちゃったから」

 

「そっかー、途中で楽しくなっちゃったかー。でも、不審者役なのは忘れるのはいけないと思うわよ」

 

「うん。そこは悪いと思ってるけど、お姉ちゃん怖かった」

 

「あぁ、あのアミッドは怖かった」

 

 なるほど、楽しかったのなら仕方がない。それに【フレイヤ・ファミリア】のフの字も出てこなかったため、ヘイズは具体的なアミッドの怒りようを話してきたため、『うちのヘルンよりはマイルドですよー』と話していると──。

 

「あ、あと師匠が"相手が誰でも敵なら容赦しちゃ駄目"って言ってた。それもあるかも」

 

「オホホホ、じゃあねー!」

 

 逃げた。それも座った状態から一気に態勢を整えてからトップスピードに乗るまでわずか数秒という、ヘイズの過去最速の逃走である。シャクティも彼女の逃げ足に反応できず、ようやく事態を把握できた頃には彼女の姿はどこにもなかった。

 

「あぁ、今までの経験がそうさせたことは理解出来たよ。ただ、アミッドも言っていたが治療師(ヒーラー)がそう簡単に人を傷つけるものじゃない。お前はオラリオにとってかけがえのない存在であることを理解するんだ」

 

「オラリオ1の治療師(ヒーラー)はお姉ちゃんだもん。他にもマルタさんとか居るもん。僕じゃなくても良いもん」

 

「……それでもだ」

 

 駄目だこのパルゥム。自己肯定感が低すぎる。

 このぐらいの歳ならばもう少し驕った振る舞いや勘違いをすることも許されるし、その姿が可愛らしくもある。

 ただ、これほどまでに自分が劣っていると卑下する子供を相手するのはシャクティも初めてだった。

 

 自分以外……それこそ今は亡き妹(アーディ)や【アストレア・ファミリア】の知り合いたちならばどうするか。

 

 ──人は皆、かけがえのない存在だよ! ガネーシャ様も子供は宝って言ってたよ! お姉ちゃん、ファイト! 

 

 ──シャクティ、子供なんてバーって可愛がってグッと良いこと言った風に言えばどうとでもなるわよ! 後は頑張ってね、バチコーン☆

 

 駄目だ、碌な奴らが居ない。ただ、せめて少しでも自己肯定感を上げてもらおうと『アクス自身も貴重な治療師(ヒーラー)枠の1人だから』ということで押し通したが、本人は分かっているのかいないのか……。おそらくは分かっていないだろう風に『分かったー』と言ってきたので、シャクティはもう諦めることにした。

 

「まぁ、分からないなら良い。それと、もう終わりだろう? 気を付けて帰るんだぞ」

 

「はーい」

 

 本当はもう少し早く帰るつもりだったが、癒しを求めに来た存在(ヘイズ)のせいですっかり遅くなってしまった。未だ日は高いが、次は様々なファミリアから預かった戦況報告をギルドの窓口に届けるというお使いを頼まれている。

 あまり待たせるのは悪いと急いで帰り支度をしてオラリオに帰還しようとするが、門の前では長蛇の列が形成されていた。

 

 ラキア軍の1件でさらに厳重な警備となってしまったことにやや不満げな表情でアクスは大人しく並ぶ。暇なこともあってか列の中央辺りでなにやら言い合いをしている集団が居るものの、この分だと数十分もすれば入れるだろう。

 

 ──そう思っていた。

 

「フハハハハァ、ゲットぉー!」

 

「総員、全速で撤退!」

 

 突如として中堅まで上ってきた派閥の主神がフードの男に突き飛ばされたかと思ったら、そのまま先日までよく顔を合わせていたアレスにお持ち帰り(テイクアウト)される。『じゃが丸君の屋台は店員も持ち帰りするんだなぁ』と過去に男性団員たちから聞いたことを思い返していると、騒ぎを聞きつけた【ガネーシャ・ファミリア】の守衛が何事かと駆けつけてくる。

 

「アレス様、お早く!」

 

「おうっ!」

 

 アレスに撤退を促しながら同じく旅装姿のラキアの騎士たちが剣を抜きながら【ガネーシャ・ファミリア】の団員を抑え、高レベルのマリウスが横合いから切りつけるという連携で最低限の戦力しか配置されていなかった数名の団員が瞬く間に倒される。

 

 そこで本格的にヤバいことを理解したアクスは、悲鳴が打ちあがった列から飛び出すとアレスの前に姿を見せた。

 

「アレス様、ヘスティア様をお放しください」

 

「アクスか。そこを……っ!」

 

 今まで余裕綽々と言った様子のアレスが咄嗟に持っていた長剣を片手で振り抜く。ガキンという硬質な音が彼の耳に届き、眼前には()()()()()()()()()のアクスが居る。

 攻撃してきたことを理解したアレスはその場で大きく叫んだ。

 

「誰か、殿を務めろぉ!」

 

「ガリュー、頼めるか?」

 

「お任せを」

 

 ここに居るのはLV.2以上の部隊長たちとLV.3の将軍。アレスの叫びから緊急性が高いと判断したマリウスは、この中で最高戦力である将軍に殿を託す。ガリューと呼ばれた者はすかさず佩いていた長剣を抜いてアクスへ襲い掛かった。

 

「アクス・フローレンスか」

 

「ヘスティア様を返していただければ、追いはしません」

 

「それは出来ん相談だ」

 

 ラキアが誇る最高水準の戦力と【ディアンケヒト・ファミリア】の特記戦力がぶつかり合う。一見するとレベル差で呆気なくアクスが吹き飛ばされ、ガリューが悠々と逃げおおせるかに見えた──が。

 

「中々に粘るな」

 

「僕ぐらいはごろごろいますよ」

 

 LV.3相手にアクスは善戦していた。これにはガリューも焦って苛烈な攻撃を見せるが、その悉くをアクスは対処して見せた。

 老練の騎士であるガリューはたしかに強い。アクスよりも1つレベルが高いこともそうだが、年齢に裏打ちされた技や戦いぶりは単純な力押しが多い冒険者の戦い方をよく見ていたアクスからすると脅威であった。

 

 しかし、ダンジョンの有無がレベルという覆しようのない間を少し埋めた。

 ダンジョンというモンスターの巣窟に何度も向かったことで、アビリティの総合はアクスの方が上。さらにはフィンやヘイズから学んだ『戦い方』というアビリティやレベルに表示されない項目によって、ガリューに勝利することは適わなくとも時間を稼ぐことが出来ていた。

 しかし、援軍目的の時間稼ぎでしていることはガリューもとっくに勘づいている。本当はこのまま押し切って逃げ出したいところだが、予想以上にしつこいアクスを相手にこれ以上は()()()()()()()()と彼は中々攻めきれずにいた。

 

 だが、ここで戦況の潮目が変わる。高レベル特有の視野の広さが()()し、彼方のメインストリートに沿って【ロキ・ファミリア】の団旗が近づいて来るのを()()()()()()アクスの動きが鈍くなってしまう。

 戦いの最中によそ見をするという若者らしいミス。しかし、真剣勝負の間でそれは勝敗を決する決定的な隙であった。

 

「ガッ!」

 

 ガリューの見舞った蹴りをまともに食らったアクスは地面を幾度か跳ねながら吹き飛ばされる。距離を離されたためにアクスは慌てて立ち上がろうとするが、既に彼の眼前まで迫ったガリューの持つ剣がアクスの脛に突き刺さった。

 

「許せっ……」

 

 痛みで絶叫を上げるアクスを背にガリューは苦虫をかみつぶしたような表情でマリウスを追いかける……が、背中から伝ってくる濃密な死の気配にその場を飛び退く。

 

「えぇい! これだから治療師(ヒーラー)というものは!」

 

 見れば()()()()()()()()()()アクスが投擲ポーズをしていた。まるで『忘れ物ですよ』と言いたげなその表情に、ガリューは治療師(ヒーラー)の厄介さを噛み締めながらオラリオから離れていった。

 

***

 

「アクス、状況を整理したいから君の報告も頼む」

 

「ヘスティア様がアレス様に攫われました。その際に【ガネーシャ・ファミリア】の守衛の方が負傷。僕はガリュー将軍の足止めを食らって負傷しましたが、この通り。後、長剣を忘れていらしたのでちゃんと"投げて"返しておきました」

 

 上級冒険者とはいえ、12歳の子供が剣を刺された直後に回復して投擲など無茶苦茶にも程がある。しかし、フィンの脳裏には【フレイヤ・ファミリア】のお歴々(ごきんじょのかたがた)の姿がチラついたため、『治療師(ヒーラー)って何だっけ』と自分のことを棚上げした疑問が生じたのは秘密だ。

 

「モダーカさん、大丈夫ですか?」

 

「うぅ、アクス。お前だけだよ、ガネーシャ様に団員Aって言われるしさぁ」

 

「モダーカさんもオラリオを守る立派な方です。ちゃんと覚えてますよ」

 

「シ"ャ"クティさぁぁん! 俺、【ディアンケヒト・ファミリア】に移籍するぅ!」

 

 なにやら外傷だけではなく心の傷までこさえた団員も居たが、全員の治療が完了したところでアイズや他の神々。それと攫われたヘスティアの眷属であるベルが到着した。

 改めてフィンからヘスティアが攫われたことを説明され、そこから先日の報告を聞いたうえでのラキア王国側がしてくる要求の推測がすり合わせが行われた。

 

「特にレベルの高い将兵と魔剣とヴェルフ・クロッゾの身柄は絶対だろうね」

 

「アレスの眷属はまだしも、他の2つはアカンな。そーなると……あいつらが帰る前に追って奪還するしかないかぁ」

 

 タイムリミットは彼女を連れたラキア軍の本隊がラキア王国の領土に入るまで。ここからかなり距離はあるものの、ラキア軍は冒険者を撒こうと北、西、東にいくつも部隊を分けてかく乱している。その中で本命を見つけるのは以下に【ロキ・ファミリア】でも無理がある話だった。

 

 そんな難しい話をしている時、空気も読まずにアクスが手を挙げた。

 

「とりあえず、ベルさん以外の方に知らせてきますね」

 

「おぉ、アクス。お疲れさん。せやな、ついでに他のが外に出んように釘刺してんか? 少年だけならまだしも、全員がバラバラに動かれたら埒が明かんからな」

 

「私も同行しよう。神の言葉なら、多少の抑止力になるだろうしな」

 

「ミアハ院っ! ……って、今はそんな空気やないな。頼むわ」

 

 多少のボケが入ったものの、ロキの指示でアクスはミアハと共に【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)へ向かう。ちゃんと整備された前庭を抜け、以前まであった趣味の悪い(アポロン)像の形跡を見ながら『ごめんください』と扉を叩く。

 しばらくするとパタパタという足音と共に扉が開かれ、金髪の髪が美しいルナールの女性が現れた。

 

「あの、どちら様でしょうか?」

 

「そなたがタケミカヅチの言っていた春姫か。しがない医神をやっているミアハだ、よろしく頼む。……ふむ、少し手があかぎれしているな。アクス」

 

「こちらに」

 

 ミアハが名前を言うと同時にアクスはバックパックから軟膏を取り出す。そのツーカーぶりに春姫は『ミアハ様の眷属でしょうか?』と勝手に勘違いする横で、ミアハは彼女の手に軟膏を塗り広げていく。

 たった1回で劇的に変わるわけではないが水仕事で赤くささくれ立った部分が幾分かマシになったため、その効果に春姫が目を丸くしていると、その手に軟膏の入った容器を握らされる。

 

「神友のタケミカヅチが言うにはそなたの手は白魚らしい。その手が赤く染まるのは私としても不本意だ」

 

「えっ、あの……。でも、お金が……」

 

「試供品です。せっかくの綺麗な手を持ってらっしゃるんですから、それで手を守ってください」

 

「うつっ……美し……」

 

「はい、ストォーップ! それで、何をしに来たのかキリキリ話してください」

 

 ミアハとアクスの天然褒め殺し。もはや様式美であるが、後ろで聞いていて一向に話が進まない雰囲気を感じたリリルカが話を遮る。後ろでは命が『アクス殿も()()()()だったか』と言い、ヴェルフが『誰だよ、この2人を一緒にしたの』と言っているものの、何もおかしなことをしていないのに怒られたと不服そうにしながらアクスは要点を伝えた。

 

「ヘスティア様が攫われたぁー!?」

 

「は、早くラキア軍を追いかけねば」

 

「それを抑えるために来たんです」

 

 すぐさま館の中へ戻っていく命をアクスが制し、説明役を引き継いだミアハがフィンやロキが言っていたことを話す。

 オラリオの派閥は中々と市街に出れないため、周辺諸国の場所は分かっても()()には疎い。広大な山脈はどこのルートから入れば楽か。商人が使うような秘密の抜け道があるのか。休憩に適した場所はどこなのか。

 数えていたらキリがないほどの地形が冒険者の足を鈍らせるだろう。そこにLV.2が2名とLV.1が2名が行っても余計な迷惑をかけるのみだ。

 

 ただ、そこでリリルカたちも『はい、そうですか』と引き下がれないことも事実。そもそも、街の治安を守る【ガネーシャ・ファミリア】や主力の【ロキ・ファミリア】ではなくてアクスが来るのもおかしい話だ。

 どこかで情報が錯綜し、それをアクスに伝えてしまったのではないか。そう訝しんだリリルカに、アクスは笑いながら嘘ではないと証明し出す。

 

「あ、実際にヘスティア様を助けようとしましたが、返り討ちにあいました。これが本当の"脛に傷を持つ"ですね」

 

「ハハッ、上手いではないかアクス」

 

「なに平然と伝令請け負ってるんですかぁ! 早く治療師(ヒーラー)に診せてください!」

 

 ()()()()()()()()()を見せながら上手いことを言ったとミアハと笑い合うアクスに、リリルカが心配する。

 しかし、『治療師(ヒーラー)です』や『医神をやっている者だが?』といった具合にそれぞれが自分の顔に指を指し示したため、リリルカはそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

 すると、今度はヴェルフがアクスに尋ねてくる。

 

「アクス、俺が前に渡した"あれ"。ちゃんと親父たちに見せたのか?」

 

「はい、見せました。ですが、アレス様が戦争を続行したためにこうなってます」

 

「仕方あるまい。ラキア王国は【アレス・ファミリア】と言い換えても間違いではないからな。主神に従った結果なのだろう」

 

 あれとは、先だっての契約破棄の際にアクスが振るったクロッゾの魔剣である。『道具は道具として使ってこそ』というアクスの言葉通り、()()()()()()()()()()として1回きりの超火力を実現したヴェルフの怒りが籠った1級品ではあるが、アレスには彼の怒りが伝わらなかったようだ。

 しかし、ヴィルやガロン。それとマリウスはヴェルフの怒りが当然のことだと納得していたようなことを伝えると、今まで怒っていた彼の怒気が見る見るうちに消えていく。

 

「そうか、俺の気持ちを……。魔剣を打って良かったと思える日が来るなんてな。ありがとう、アクス」

 

「いいえ、それよりも報酬ください。今度こそ何度も使える湯冷ましが欲しいんです。雷とか駄目ですよ!」

 

「お前、そればっかりだな。良いぜ、日常生活とついでに命を守れる道具を拵えてやろうじゃねぇか」

 

 相変わらずだと笑うヴェルフ。しかし、それが逆に心地良いと二つ返事で承諾した彼であったが、一方のリリルカたちは未だ地図を物憂げに見ていた。

 

 ファミリアにとって主神は生命線だ。送還されればファルナは封印され、冒険者は一般人へとなり下がる。探索系ファミリアである【ヘスティア・ファミリア】ではそれは命と金儲けの手段を握られていることに等しく、仮にダンジョンの中でヘスティアが送還されればいくら有利な状況でも瞬く間に地獄へと変わる。

 かと言ってダンジョンに行かなければファミリアを存続させる金を入手出来ない。援助を受ける手段はあるが、【タケミカヅチ・ファミリア】も【ミアハ・ファミリア】も貧乏なので、確実性のある手段は【ヘファイストス・ファミリア】にヴェルフを戻して嫌な魔剣づくりに従事させるぐらいしかない。

 

「今はベルさんを信じましょう。きっとヘスティア様を連れて戻って来てくれます」

 

「そう……ですね。それを信じるしかありませんか」

 

 もどかしいのか自分の服の裾をしきりに引っ張っているリリルカにこれ以上何を言っても蛇足にしかならないと、ミアハはアクスを連れて【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)から出ていく。

 このまま解散しても良いが、ラキア軍は撤退しても最近はイヴィルスも水面下で活動している。念には念を入れたアクスがミアハを青の薬舗まで送った後、治療院へと帰還したアクスに団員が話しかけてきた。

 

「アクス、お前にどえらいお客さんだぞ」

 

「どえらい?」

 

 今日は来客の予定がない。それにアポなしで会いに来て拉致してくるオッタルという名前の非常識な存在は、今頃市壁の外に居る。

 いったい誰が訪ねてきたのだろうと応接室の扉を開けると──。

 

「あぁ、アクス。やっと帰ってきたか」

 

「ヘイズからもう終わったと聞いてるが、帰るのにいつまで掛かったんだ」

 

「どこで油を売っていたんだ?」

 

「とりあえず、俺たちの悩みを聞いてくれ」

 

 そう、非常識な存在は別に団長だけではない。テントに侵入してきたヘイズ含め、()()()()()()()()()()()()()()が対象であった。

 そこには最近あまりアクスの前に姿を見せていなかった『ガリバー兄弟』が優雅に茶を飲んでいた。




お、お盆休みが…ない!
なので、8月も週1。というか、半年ぐらい書きだめとなんやらで週1になるかと。
※外伝は除く

アクス
 なんでもポイポイ投げるお年頃。ほら、やけどの跡がある少年も刀拾っては投げてたし、そういうお年頃なんだよ。
 どっかの反逆の騎士も『勝ちゃ良いんだよ』って言ってたし

ヘイズ
 アクスの凶暴性が増したのは自分たちのせいと思うや否や逃走を図った姉を名乗る師匠。
 カァーッ!

ガリュー
 この後、アイズに一瞬でやられるLV.3の将軍。流石にアクスが相手するにはきついよ。

モダーカ
 よく名前を間違われる人。モモンガさんってどこかのガイコツですよ、シャクティさん

ミアハ院
 アクスと組み合わせるとヤバいやつ。
 裏話として春姫が狼狽えた際に鼻緒が切れ、アクスに肩を借り、ミアハの膝に足を乗せるというどこかのゲゲゲ的なことを考えてましたが…。春姫が耐え切れなさそうだったので断念。
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